Core Strength Training for Rugby Union [English Abstract] The core stabilization training in sports has become more and more popular in recent years. The importance of proper contraction of the Transverses abdominal muscle (TrA) for core stabilization has been demonstrated by Hodges.PW. It is well known that TrA is the first construction muscle during any movement of human body. Therefore, the control of TrA is quite important for improving sports performances, even in rugby union as well. However, many Japanese rugby coaches do not know about core strength training very much. Thus, the main purpose of this article is to illustrate the basic and the latest knowledge of core strength training, the example of general core strength training programs and rugby union specific core strength training programs for Japanese rugby coaches. Ⅰ.緒言 日本のラグビー界においても近年、Core Strength Training(以下;CST)の重要性が認 知され浸透し始めて、多くのチームで工夫を凝らした CST を実施しているようである。例 えば、日本代表においてもフィットネス・ストレングスコンサルタントの Martin Hulme のアドバイスによって、2007Rugby World Cup(以下;RWC)前のトレーニングキャンプ でヨガが行われたという話は、財団法人日本ラグビーフットボール協会の HP から知るこ とが出来る[1]。 オーストラリア Super14 NSW Waratahs では週に 1~2 回のヨガまたはピラティスが CST として行われている。また、私が現在働いているオーストラリア Super14 QLD Reds でも Weight Session 時の CST と Skill Session 時にフィールドでラグビーに特化した CST が Strength & Conditioning Coach(以下;S&C コーチ)の管理の下行われている。 多くの最新の Exercise(以下;Ex)や理論が次々と日本に入ってきているが、そもそも CST は身体の何処を、何を意図して行わなければいけないのかという基本が欠落している ように思えてならない。 2007RWC を見て印象的なように、日本人選手と外国人選手の体幹筋力(Core Strength) の差を明確に感じる。Super14 の Top 選手と日本人選手の Core Strength の比較測定が行 われている訳ではないので明確な事を言えないが、試合時の映像上の印象や外見上明らか な差を感じる。 本論文は Core の機能と CST のラグビーにおける重要性を明確化し、さらに一般的な CST と現在ニュージーランド・オーストラリアのトップチームで行われている、ラグビーのた めの CST を紹介する。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Ⅱ.基礎知識 Ⅱ‐1コアとは 近年、CST・コアスタビライゼーション・コアコンディショニング・コアリラクゼーショ ンなど「コア」とつく言葉をよく聞くようになってきた。「コア」という言葉を初めて使用 したのはおそらく『トータル・ボディ・トレーニング』の記述の中であり、そこには「身 体の中心部の筋肉に対して私たちが名付けた名称である。[2]」と記されている。しかし、 「コ ア」とは何処を指すのかが明確に定義されていない。「コア」=体幹、「コア」=腹筋・背 筋、 「コア」=身体の中心など簡潔に定義することもできるが、それは同時にこの単語の多 様性につながるため不適切である。私は「コア」とは「脊椎(脊柱)をサポートする筋、 及び脊椎骨と接する関節(特に肩甲帯と骨盤帯)に関与する筋の総称である。 」と定義した い。この考え方は日暮氏[3]の考え方と類似している。なぜこのように定義するかと言うと、 人間は脊椎動物であり、脊柱をまず中心に考える必要がある。また、動作において力発揮 の源は体幹部にある。これは Hodges と Richardson の研究で腹横筋( Transverses Abdominal M.;以下 TrA)の筋収縮は上肢の運動開始において 0.03 秒前、下肢の運動開 始において 0.11 秒前に起こると言うことによる[4]。このように全ての動作は TrA の筋収縮 から始まる事により動作を円滑に行うことが出来、スポーツにおいても同様の事が言える。 スポーツにおいて動作をパフォーマンスとして表現するためには、上肢・下肢をスムーズ に動かす必要性が生じる。上肢・下肢のスムーズな運動のためには、肩甲帯及び骨盤帯の 柔軟性が必要不可欠であり、体幹部、肩甲帯及び骨盤帯の運動連鎖(Kinetics Chain)が重 要だからである。 また、スポーツ動作において体幹部の筋は上肢と下肢との連動や下肢において生み出され た力を上肢に伝えるために重要な役割を果たしているため、 「コア」のトレーニングを無視 する事は出来ない。 Ⅱ-2Core Strength Training の重要性 CST を行うことによって以下のような多岐に渡るスポーツパフォーマンスに好影響を得 る事が出来る。 ・ 姿勢の改善 ・ 傷害の減少 ・ アジリティー能力の改善(方向転換能力など) ・ バランスとコーディネーション能力(協調性)の改善 ・ パワーとスピード能力の改善 これらの好影響はスポーツパフォーマンスを構成する要素の根幹であり、CST がスポー ツパフォーマンスの向上に直結することを示唆している[5]。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Ⅱ‐3体幹の構造 Ⅱ‐3‐ⅰ脊柱の静的安定化機構 26 個の脊椎骨が連なっている脊柱を安定化させることは二足歩行を行うに当たり必要不 可欠である。とりわけ椎骨間を結びつける、椎間板と靭帯の行っている静的な安定化の役 割は大きい。 脊柱に存在する靭帯や関節包には上肢や下肢の靭帯や関節包などと同様に関節の位置や 運動などの固有感覚の受容器が存在し、関節の細かな動きや動きの加速度を受容し、筋に よる関節運動に重要な情報を伝えている。それらの固有受容器は主に Golgi 型終末、Pacini 状小体、Ruffini 小体、自由神経終末があり、神経生理学的にも脊柱を安定化している[6]。 これらの固有受容器が姿勢維持において重要な役割を果たしていることは言うまでもない。 Ⅱ‐3‐ⅱ脊柱の動的安定化機構 脊柱の動的安定化機構として筋の果たしている役割は大きい。 体幹部の筋は機能だけではなく、体幹の構造にも考慮した考え方で、深層(deep layer) 、 中間層(middle layer)、外層(out layer)の 3 層に分類されて考えられている。 深層は脊椎の動き(滑走と過度な屈曲)を制限する働きを持ち、25 個の脊椎のそれぞれの 間にある椎間板や靭帯、それに付随している小さな筋によって構成されている。具体的な 筋の名称を上げていくと半棘筋、回旋筋、棘間筋、横突間筋などが挙げられる。これらの 筋の役割は個々の椎骨をつなぎ、脊柱を安定化させ、姿勢を保つことである[7]。また、他の 筋に比べ固有受容器が数多く存在し、関節の細かな動きや動きの加速度を受容し、他の筋 に関節運動に重要な情報を伝える役割を果たしている。 中間層の筋は筋収縮する事で腹腔内圧を高め、脊柱を一体化させて円滑に効果的に安定化 させる重要な働きを行っている。これらの作用が分かってきたのは近年の事で、Cresswell らの研究による所が大きい[9]。腹部では内腹斜筋(Internal Oblique M.;以下 OI)と TrA、 背部では多裂筋と腰方形筋で、これら 4 つの筋群によって構成されている。これらのほと んどの筋の触診は不可能である。 外層は皮膚のすぐ下にある層で厚く大きな筋群から構成されており大きな力を出すこと が可能である。腹部では外腹斜筋(External Oblique M.;以下 OE)と腹直筋、背部では 腸肋筋、最長筋、棘筋によって構成される脊柱起立筋で、これらの 3 つの大きな筋群によ って構成されている。これらの筋は表層にあり触診することも出来る。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved 図1 体幹水平面断層の筋構造(文献[8]より引用) Ⅱ‐4体幹部インナーユニット 体幹部インナーユニットは横隔膜、骨盤底筋群(肛門挙筋など)、多裂筋、TrA によって 構成されている。TrA の筋収縮は胸腰筋膜を介して多裂筋の筋収縮を誘発し、また科学的 根拠は証明されていないが骨盤底筋群の一つである恥骨尾骨筋の筋収縮が誘発されると言 われている[9]。このようにこれらの筋群が相互に働き、これらの筋に囲まれた空間を腹腔と 言い、その腹腔内圧を高める事で、脊柱が安定化し体軸を正中位に修正する能力を果たし ている。その中で脊柱の安定化において TrA の果たしている役割は大きい[10]。インナーユ ニットが機能して初めて、上肢または下肢で生み出された力が骨盤帯を経由して他の部位 に効率よく分散され、スムーズな動作が可能となるのである。しかし、インナーユニット の機能が不十分な場合、姿勢維持の能力は低下し力の分散がうまく行われず、スムーズな 動作は不可能となる。 このようにインナーユニットは重要な役割を果たしているため、Hodges や Richardson を はじめ多くの方がインナーユニットの事を「コア」と定義している[8]。 Ⅱ‐5腹横筋(TrA)とは ここで脊柱の動的安定性として大きな要素であり、CST における一番の要素である筋は TrA と OI である。TrA の重要性は、Hodges と Richardson[4]の研究によって TrA が他の体 幹部の筋に先立って筋収縮することからもわかる。TrA の中枢神経系は他の体幹部の筋と は独立した制御を受けており、すべての状況において同じ反応時間を示し、体動を起こす 事がわかると TrA はすぐに筋収縮を起こし始めるのである[11]。 また、TrA の筋繊維の一部の停止部は横断的に内側に走行し、正中線で交差し白線と交わ る。このように正中線における白線との交差のため、反対側の TrA あるいは OI のどちらか に付着する二腹筋であるとも考えられ[11] 、TrA と OI の筋収縮の影響を相互に受けること が予想され、OI もまた、CST において重要である事が示唆される。 TrA の機能としては両側が収縮することで、腹壁を引き込む作用があり、結果として腹腔 内圧が増加し、胸腰筋膜の緊張が増加する。これらの結果、支持およびトルクの産生に TrA は関与するとされ、TrA は腹部内容物の制御、呼吸への関与、体幹伸展、脊椎屈曲を引き 起こす外力に抗しての脊椎安定性の維持、及び体幹回旋に関与する[11]。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Ⅱ‐6Core Strength Training(CST)とスポーツ CST の起源を規定する事は難しいが、近年の注目は Hodges と Richardson の研究による ところが大きい[4]。この注目を集める以前の日本では陸上競技の投擲や十種種目の分野にお いて体幹の特異的なトレーニングが補強運動として行われていた。近年、アメリカなどで CST の講習会などで取り上げられている Ex.は真新しい物は少なく、科学的な根拠がない 中で利に適ったトレーニングを行っていたことが言える[12]。 今日、CST として行われている Ex.の多くは道具を使用して行う。その代表例としては腹 腔内圧を測定しながら Ex.を行う STABILIZER、COM-PRESSOR などや不安定な環境を 作り出し、固有受容器やバランス能力の向上に働きかけるコアボード、Swissball、バラン スディスク、ストレッチポールなどのバランス系道具が挙げられる。その他自体重を活用 した Ex.も多く行われている。また、ヨガやピラティスと言った呼吸法に着目し、かなり遅 い動きを不安定な肢位で繰り返し行うこれらも CST と言うことが出来る。 このように一言に CST と言っても多様である。 Ⅱ-7Core Strength Training と年齢 Ⅱ-7-ⅰ小学生(Fundamental Group(6-8 歳)と Learning to train Group(9-11 歳)) この年代の子供たちには Core Strength に焦点を当てたトレーニングをさせるべきでは ない。この年代(特に低学年の子供たち)はスキャモンの発達成長曲線からも見てわかる ように、神経系の発達が著しいため、色々な種類のスポーツをやらせるべきである。例え ば、柔道や体操競技、レスリングなどはバランス感覚や身体制御能力を身に付けるのに適 しており、Core Strength の向上を間接的に助ける[13]。また、色々なスポーツ種目を行うこ とで協調性能力(Coordination Ability)を高める事が出来る。 Ⅱ-7-ⅱ中学生(Training to train Group(12-14 歳)) 自体重のみを使用した CST をこの年代の子供たちに処方しても良い。しかし、正しいフ ォームを身に付けさせ、過負荷にならないように十分な指導をする事が重要である[13]。 Ⅱ-7-ⅲ高校生以上(Training to compete Group(15-17 歳)と Learning to win and training to win Group(18 歳以上)) 各選手の身体発達、身体能力に合わせて CST が処方され、実施されるべきである[13]。 オーストラリアにおいては、15 歳-17 歳(High School Student)の将来を有望視される 選手は ARU が管理するタレント育成スコッドの NTS (National Talent Squad)に選ばれ、 選手育成を専門とする Skill Coach と S&C コーチの下で指導を行っている。CST と Weight Training、Running の正しいフォームの習得はこの年代において重要であり、多くの時間 が費やされている。基本的にはこのプログラムにおいて、高負荷な Weight Training は行 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved われていない。17 歳の高校卒業後は各 Super14 の Academy または、Super14 のチームと 契約するため、それぞれの身体能力に合わせたトレーニングが処方されている。 Ⅲ.General Core Strength Training 体幹の筋力トレーニングというと一般的にクランチを中心とした腹直筋 Ex.をイメージ しがちである。6つに割れた腹直筋は、男らしさやスポーツマンの象徴でもある。しかし ながら、腹直筋 Ex.をたくさん行っても、Core Strength を身に付ける事は出来ない。むし ろ、過度の腹直筋 Ex.は骨盤の後傾位を誘発させ腰痛の原因になるばかりでなく、運動効率 の低下や上半身と下半身の協調性の低下をまねいてしまう。バランスの取れた Ex.処方が重 要なのである。 上記の基礎知識で述べたように、CST において重要な事は深層と中間層の筋の活性化と 意図的な筋収縮を身に付けることである。General Core Strength Training は静的(Static) と動的(Dynamic)の 2 種類の Ex.に分ける事が出来る。静的 Ex.で基本となる TrA を意 図的に収縮させる感覚を掴み、動的 Ex.に発展(Step up)していく。動的 Ex.では静的 Ex. で身に付けた TrA の意図的筋収縮の感覚をスポーツ動作に近い動きの中で実践し、その感 覚を身に付ける事が目的である。また、他の腹筋群や体幹部の筋の協調性を高める事も重 要な要素である。 Ⅲ-1Static Core Strength Training Ⅲ-1-ⅰTrA Setting CST の基本となる Ex.で、TrA の筋収縮の感覚と多裂筋の活性化を主な目的とした Ex. である。TrA Setting は背臥膝立て位にて、骨盤中間位を保持したまま下腹部をゆっくり 引き込ませ、呼吸を継続しておこないながらその状態を一定時間保つ。血圧測定用のカ フや STABILIZER があれば、30~40mmhg に膨らませて脊椎の下にいれる。腹部を引 き込みながら、この数値を維持する脊椎の湾曲が TrA と多裂筋を活性化させる[14]。初期 は TrA 筋収縮の感覚を身に付けるために、測定を行いながら Ex.することを強くオスス メする。 図 2:TrA Setting Ⅲ-1-ⅱProne Bridge Prone Bridge は、体幹全体の Stability Training を主な目的とした Ex.である。両肘ま Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved たは両手および両足の 4 点支持を開始姿勢とし、その姿勢を一定時間保つ。下腹部をゆ っくり引き込ませ、TrA の筋収縮を意図的に行うことで体幹部はより安定感を増し、長 時間その姿勢を維持する事が出来る。 両肘支持は難易度が低く、Training 開始初期は両肘支持の姿勢にて Ex.を行い、モデ ルプログラムが容易に出来るようになった後に、両手支持の姿勢に移行する。 図 3:Prone Bridge Ⅲ-1-ⅲSide Bridge Side Bridge は体幹全体の Stability Training を主な目的とした Ex.である。とりわけ、 体幹側部に位置する筋の活性化に効果的である。肘または手および足の 2 点支持を開始 姿勢とし、その姿勢を一定時間保つ。下腹部をゆっくり引き込ませ、TrA の筋収縮を意 図的に行うことで体幹部はより安定感を増し、長時間その姿勢を維持する事が出来る。 左右交互に Ex.を行う。 Prone Bridge 同様に肘支持は難易度が低く、Training 開始初期は肘支持の姿勢にて Ex.を行い、モデルプログラムが容易に出来るようになった後に、手支持の姿勢に移行す る。 図 4:Side Bridge Ⅲ-1-ⅳモデルプログラム Static Core Strength Training は CST の基本であり、正しいフォームで適切に Ex.が行 われなければいけない。基本をおろそかにすると、その先に身に付けるべき競技特有の Core Strength の習得が非効率的になる。以下のように、Static Core Strength Training を行う と効果的である。 Static Core Strength Training Model Program Ex. TrA Setting Instruction Rep Set Rest 30Sec 8~10 30sec Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Prone Bridge 頭から踵まで一直線 30Sec 3 30Sec Side Bridge 頭から踵まで一直線 30Sec 2each 30Sec 表1:Static Core Strength Training Model Program Ⅲ-2Dynamic Core Strength Training Ⅲ-2-ⅰKneeling Arm & Leg Raise Kneeling Arm & Leg Raise は TrA を意識的に収縮しながら上肢と下肢を動かし、身体の 連動性、協調性を掴むための CST である。Kneeling Arm & Leg Raise の開始姿勢は四つ んばい位で、その姿勢で腹部を引き込み、TrA を意識的に収縮させる。自然な呼吸を続け ながら、左右の上肢と下肢を持ち上げ膝・肘を伸展させ、伸展位で 5 秒間静止し、開始姿 勢にゆっくりと戻り、これを左右交互に繰り返すエクササイズである。 図 5:Arm & Leg Raise Ⅲ-2-ⅱDiagonal Raise Diagonal Raise は OI・OE・TrA・脊柱起立筋及び多裂筋の活性化を主な目的とした Ex. である。この Ex.は他とは異なり回旋系の Ex.のため、スポーツ動作に不可欠な身体を捻る 動きの協調性の向上にもかなり有効である。 Diagonal Raise は軽度スクワット位にて Weight Plate またはメディシンボールを持ち、 身体を捻りながら完全伸展させる。その状態を 1 秒間保つ。その際、より TrA の筋収縮を 意識するために腹部を引き込む事が重要である。この Ex.は立位で行うため、よりスポーツ 活動時の状況に近い。また、ラグビーにおいては Line Out のジャンパー・リフターの動作 に類似している側面もある。 図 6:Diagonal Raise(文献[13]より引用) Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Ⅲ-2-ⅲHanging Leg Raise (Hanging Leg Raise and Twist) Hanging Leg Raise はスプリント動作に不可欠な Hip Flexors(腸腰筋群)と TrA 及びそ の他体幹の安定性に関与する筋の協調性を高める事を目的とした Ex.である。懸垂用の鉄棒 にぶら下がり、腕と脚は完全伸展位からはじめ、腹部を引き込み TrA の筋収縮を意識しな がら、膝を曲げながら脚を胸に近づける。その状態を 1 秒間保ち、その後開始姿勢に戻る。 上下の動作が容易に出来るようになったら、脚を回旋さながら胸に近づけると体幹部の j 回旋系筋群と Hip Flexors の協調性の向上にも効果的である。 図 7:Hanging Leg Raise(文献[13]より引用) Ⅲ-2-ⅳモデルプログラム Dynamic Core Strength Training の Ex.姿勢は、より実際のスポーツ活動時の姿勢に近 くなり、よりパフォーマンス向上に直結する。しかし、基本である体幹深部の筋を意識的 に収縮させる感覚をおろそかにすると効果的な結果が得られない。Static Core Strength Training で得たその感覚を立位や他の Open Kinetic Chain の姿勢になっても、引き続き行 えるようになることが目的となる。以下のように、Static Core Strength Training を行う と効果的である。 Dynamic Core Strength Training Model Program Ex. Instruction Kneeling Arm & Leg Raise 伸展位で 5 秒静止 Weight は 10~15kg Diagonal Raise 伸展位で 1 秒静止 Hanging Leg Raise 必要に応じて重りを脚に挟む 屈曲位で 1 秒静止 Rep Set Rest 20 3 60~90Sec 12 3 60~90Sec 12 3 60~90Sec 表 2:Dynamic Core Strength Training Model Program Ⅲ-3General Core Strength Test トレーニングを効率的に行うために、選手の能力を客観的に測定する必要がある。以下の General Core Strength Test はオーストラリアの多くのスポーツで採用されている。Static Core Strength Training の評価基準である。 もちろんラグビーにおいても採用されている。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved 高校生までは肘支持の Prone/Side Bridge、 それ以上の年代では手支持の Prone/Side Bridge で測定を行う。正しい姿勢が崩れた時点で終了(頭から踵までが一直線) 。例えば、腰が上 がる・背中が丸まる・腰が低くなるなど。正しい評価を行うために、テストは厳正に実施 されなければならない。 General Core Strength Test Ex. Desirable Above Average Average Below Average Poor Prone Bridge >120 Sec 90-119Sec 60-89Sec 30-59Sec 30Sec< Side Bridge >120 Sec 90-119Sec 60-89Sec 30-59Sec 30Sec< 表 3:General Core Strength Test(文献[15]より引用) Ⅳ.Core Strength Training for Rugby スクラム・ラインアウト・ブレイクダウンの 3 要素がラグビー(Rugby Union)の競技特 性としてあげられる。これらの 3 要素はすべて Core Strength との関係性が強く、全ての 年代において日本代表が、外国チームと比較する劣勢に強いられる事が多い側面でもある。 ここから、ラグビーに焦点を当てた、CST を紹介する。 Ⅳ-1Scrum Strength Ⅳ-1-ⅰCrouching Isolation Crouching Isolation はスクラムを組む際の Crouching 姿勢時の体幹の安定性を得る事を 主な目的とする。また、足幅が少し違うがこの姿勢はラインアウトのリフターの待機時の 姿勢でもあり、この姿勢はラグビーにおける基礎的な姿勢のひとつである言える。また、 2007 年以降スクラムの Call が変更されたことにより、フロントローは以前よりもこの姿勢 を維持しなければいけない時間が長くなっている。 Ex.はスクラムの開始時の姿勢(クラウチの姿勢)になり、パートナーに背中や肩などを あらゆる方向に押される。この際、腹部を深部の筋の収縮を意識し引き込み、さらに臀部 に特に力が入っている事を意識する。 図 8:Crouching Isolation Ⅳ-1-ⅱKneeling Isolation Kneeling Isolation は次に紹介する Unstable Scrum Isolation の導入として行う。この Ex.の主な目的は体幹の安定性の向上と肩の Stability Training である。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Ex は膝立ちでパートナーと向かい合い、肩幅より少し腕を広げて手を握り合う。その際、 身体を先方に約 45°に傾けるのが理想的である。膝から頭までが一直線にし、お互いに押 し合う。このときに絶対に肘を伸ばしておく。何度も言うが、腹部深部の筋を意識的に収 縮させながら、臀部に特に力が入っている事を意識する。 図 9:Kneeling Isolation Ⅳ-1-ⅲUnstable Scrum Isolation Unstable Scrum Isolation は従来のスクラム姿勢練習(通称:姿勢またはカメ)をさらに 不安定にし、より実際のスクラムの状態に近づけたものである。身体は不安定なパートナ ーの手でしか支えられておらず、姿勢の維持には強力な Core Strength が必要となる。 このドリルはパートナーと向かい合い、片方は膝立ち・もう片方はスクラムの姿勢になり、 手を握り合う。スクラムの姿勢は過度に背中が反ったり・丸まったりしないよう(ニュー トラルポジション)にする。また、膝を出来る限り地面に近づけ、上半身は地面と平行に する。スクラムの姿勢の方の肘は曲げてはいけない。この姿勢でお互いに押し合う。 図 10:Unstable Scrum Isolation Ⅳ-1-ⅳ1 on 1 Scrum 1 対1のスクラム。四つんばいから、スクラムの姿勢まで膝を浮かします。もちろん手も 地面から離す。その際、膝と股関節の屈曲角度が 90 度になるようにする。また、背中が丸 まったり、過度に反り返ったりしてはいけない。お尻から肩まで一直線(ニュートラルポ ジション)になるように、腹部・臀部に特に力が入っている事を意識する。 Ⅳ-1-ⅴUnstable Scrumming Walk Unstable Scrum Isolation の状態で前進する。実際のスクラム以上に Core Strength が容 共される。また、この Ex.は後ほど紹介する Rugby Specific Core Strength Test のテスト 種目である。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Ⅳ-1-ⅵモデルプログラム 今まで紹介した Scrum Strength Ex.はスクラム・トレーニングのウォーミングアップと して最適である。以下のような Program で実施されると、より効果的である。 Scrum Strength Training Model Program Ex. Instruction Crouching Isolation Kneeling Isolation 頭から膝まで一直線 Unstable Scrum Isolation 1 on 1 Scrum 2 秒で UP、5 秒静止、2 秒で Down Unstable Scrum Walk Rep Set 30Sec 2 60Sec 30Sec 3 60Sec 30Sec 3 60Sec 5 2 60Sec max 2 90Sec 表4:Scrum Strength Training Model Program Ⅳ-2Break Down Strength Ⅳ-2-ⅰレスリング(仰向けから) ボールキャリアーがツイストして絡んでくる相手を引き剥がす Play やジャッカルなどの Break Down 時のパワー・プレイで日本人選手は外国人選手と大きな差が見られるのが現 状である。レスリングは上半身の使い方を身に付け、さらに Core Strength も鍛えられる 非常に効率的で効果的なトレーニングである。多くの外国のプロラグビークラブはウエイ ト場にレスリングマットを敷いている。 パートナーは仰向けに寝て、胸にボールを抱え込む。それを奪われないように死守する。 もう片方はそれを奪うよう最善を尽くす。 時間は 60 秒。 もしボールを奪われてしまったら、 その時点で終了。 図 11:レスリング(文献[13]より引用) Ⅳ-2-ⅱレスリング(うつ伏せから) 上記とスタート姿勢が仰向け寝からうつ伏せ寝に変化しただけのもの。ボールがパートナ ーの身体で隠されているため、相手を持ち上げたり、ひっくり返したりしなければならず、 仰向けスタートよりもより難易度は上昇する。Ex.時間は同じ。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Rest Ⅳ-3Line Out Strength Core Strength の有無でラインアウトの成功率は大きく変わってくる。なぜなら、ジャン パーの空中での姿勢、リフターのジャンパーを支える姿勢は Core Strength と密接な関わ りがあるからである。 スイスボール(バランスボール)を活用した Line Out に特化した CST を紹介する。普 通のスイスボール使う訳ではない。スイスボールの中に水を 25~35L 入れるのである(筋 力やスキルレベルによって水の量は調節する) 。中に水が入ることで、その分スイスボール は重くなる。また水は液であるため、一連の動作がスムースに行われないとスイスボール はかなり不安定になる。ただ、スイスボールを持ち上げているだけ全身のバランスを維持 しなければならず、CST になるのである。さらにスイスボールには取っ手などの掴む場所 はなく、自分の握力のみを頼りにするしかない。従って、より Line Out の実際の状況に近 い Lifting Training が行えるのである。 Ⅳ-3-ⅰSwiss Ball Lift Swiss Ball Lift は Core Strength の獲得、リフティング技術の向上を目的とした Ex.であ る。 水の入ったスイスボールを持ち、一連の動作(スムース)で頭上まで持ち上げる。その状 態を 5 秒間維持。そしてゆっくりと地面にスイスボールを下ろす。これを 5-10 回繰り返し ます。 なお、スイスボール乱暴に扱うとすぐに破裂してしまうので注意。 図 12:Swiss Ball Lift Ⅳ-3-ⅱTwo men Swiss Ball Lift Two men Swiss Ball Lift は Core Strength、及びコミュニケーションを伴うリフティン グ技術の向上を目的にした Ex.である。 スイスボール持ち向かい合い、コミュニケーションを撮りながら一連の動作(スムース) で頭上までスイスボールを持ち上げる。その状態を 5 秒間維持。そしてゆっくりと地面に スイスボールを下ろす。これを 5-10 回繰り返す。 Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved 図 13:Two men Swiss Ball Lift Ⅳ-3-ⅲThree men Swiss Ball Lift Three men Swiss Ball Lift は主にジャンパーの CST を目的とした Ex.である。 ジャンパー頭上で水の入ったスイスボール持ち上げリフティングされる。地面に足が付い ていない状態で水の入ったスイスボールを挙上し、身体を安定した状態で保つ事は容易で はない。また、スイスボールに入った水の量だけ重くなり、リフターの Training にもなる。 ジャンパーは空中で 5 秒間静止し、これを 5 回繰り返す。 図 14:Three men Swiss Ball Lift Ⅳ-3-ⅳBall Catching on Swiss Ball スイスボール上での膝立ちは、ジャンパーがリフティングされている状態に類似する。む しろ実際の状況より不安定だと推測されるが、その姿勢が出来るようになるには十分な CST が必要である。この Ex.は Core Strength、及びハンドリング技術の向上を主な目的と する。 スイスボール上で膝立ちになり、まずその姿勢を 30 秒間維持出来る様にする。その後、 スイスボール上膝立ちでキャッチアンドパスを繰り返す。10 球連続で出来るようになるこ とを目標とする。 図 15:Ball Catching on Swiss Ball Ⅳ-4Rugby Specific Core Strength Test Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved ラグビーに特化した Core Strength の評価のためのテストとその評価基準は以下のとおり である。きちんとした Scrumming Position が維持出来なくなった時点で終了である(腰の 位置の上昇・膝の位置の上昇など) 。テストが厳正に行われなければならない。 Rugby Specific Core Strength Test Ex. Unstable Scrum Walk Desirable Above Average Average Below Average Poor >15m 12-14m 8-11m 3-7m 2m< 表 4:Rugby Specific Core Strength Test Ⅴ.総括 CST はスポーツパフォーマンスの向上に不可欠であり、外国人選手に比べると日本人選 手はかなり不足している。まずは、基本となる TrA を意図的に収縮させる感覚を身に付け、 それから身体全体の協調性を身に付けながら、体幹筋力の向上をはかる事が重要である。 基礎となる TrA を意図的に収縮させること、そして他の体幹筋群の筋力が身についてから こそ、効率的かつ効果的なラグビーに特化した CST が可能となる。 Level Menu High Intensity Scrum Strength Line Out Strength Break Down Strength Scrumming Posture(カメなど) Dynamic Core Strength Training Prone/Side Bridge Low Intensity TrA Setting 表 5:Core Strength Training の流れ Copyright(C) by Satoru Otsuka 2008 All Rights Reserved Ⅵ.参考・引用文献 [1] 日本ラグビー協会 . 日本ラグビー協会ホームページ . 2007 [cited; Available from: http://www.rugby-japan.jp/japan/japan/2007/id3537.html [2] Dominguez RH, Gajde RS. トータル・ボディ・トレーニング. 東京: ブッ クハウス HD 1986. [3] 日暮清. コアの構造と役割および活性化のポイント. Coaching Clinic. 2003;10:6-9. [4] Hodges PW, Richardson CA. 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