グラウンドの違いによる傷害調査と 人工芝グラウンドを使用した選手の

グラウンドの違いによる傷害調査と
人工芝グラウンドを使用した選手の使用感に関する調査
ラグビーフットボール専門部
山形県立山形中央高等学校
佐
藤
大
志
1
1 はじめに
今年度、ラグビーワールドカップがイングランドで開催され、そこで日本代表が南アフリカ代表に勝利す
る快挙を成し遂げ、ラグビーが注目されるようになった。2019 年にワールドカップが日本で開催される。ま
た、2020 年東京オリンピックで 7 人制のラグビーが行われる。これらのことを踏まえ日本全体でラグビー
の競技力を向上させ、また、普及させていくことが急務とされている。平成 27 年度の県内ラグビーチーム
の登録数は、社会人 3、大学 1、高専 1、高校 5、中学 1、スクール 1 であるが、来年度から高校が 1 校減る
こととなっている。県内においても競技人口をいかに保持し、競技力を向上させていくのかが課題となる。
県内においては、ラグビーグラウンドは通常の練習では土のグラウンドを、公式戦では天然芝のグラウン
ドを主として使用してきた。全国的にも、県内と同じ状況が一般的であったが、人工芝グラウンドの品質が
向上したこの10年程で、広く人工芝グラウンドが導入されてきている。練習グラウンドとしてだけではな
く、公式戦でも使えるグラウンドが増えている。山形県では今年度、県内初となるラグビー公式戦が可能な
球技場が山形市にオープンした。グラウンドを利用する際に、ゴールポストを立てる手間は従来とさほど変
わらないが、芝生の養成期間がない点やラインを引く手間がかからない点などの利点があり、今後頻繁に試
合が行われていくことが考えられる。今回の研究では、グラウンドの違いによる傷害調査と人工芝グラウン
ド利用をした選手の使用感について調査した。
2 研究の方法
(1)調査方法
アンケート(自由記述)
(2)調査対象
県内高校ラグビー部に所属している生徒
(3)調査対象大会
全国高校 7 人制ラグビー大会山形県予選大会(4 月山形市球技場)
県高等学校総合体育大会(6 月酒田市光ヶ丘球技場)
東北高校ラグビー大会(6 月新青森県総合運動公園球技場)
(4)調査内容
以下記述の設問による。
2
3 結果と考察
アンケート結果より
(1) 大会ごとの傷害調査について
① 第 2 回全国高校 7 人制ラグビー大会山形県予選会(人工芝グラウンド)
ア 参加人数
44 名 1 年 2 名、2 年 15 名、3 年 27 名
イ 試合出場時間
平均 19.5 分 最大 35 分 最小 0 分
ウ 本大会における怪我
2名
Ⅰ怪我の箇所
Ⅱ怪我の状態
Ⅲ怪我の発生状況
1
手の甲
打撲
パスをする時に体を掴まれ地面に打った。
2
足首
捻挫
タックル時に巻き込まれた。
負傷者は2例だけであった。また、軽度の傷害に留まった。7人制の大会のため、参加人数と試合出場時
間が少なかったことが、負傷者が少なく、軽度の怪我で済んだということが考えられる。アンケートに怪我
として記述はなかったが、数名からやけどをした話を聞いた。
② 第 66 回山形県高等学校総合体育大会(天然芝グラウンド)
ア 調査人数
97 名 1 年 19 名、2 年 33 名、3 年 44 名
イ 試合出場時間
平均 78.0 分 最大 180 分 最小 0 分
ウ 本大会における怪我
9名
Ⅰ怪我の箇所
Ⅱ怪我の状態
Ⅲ怪我の発生状況
1
肩
打撲
不明
2
頸椎
捻挫
コンタクト時に頭がぶつかった
3
大腿
打撲
不明
4
足首
捻挫
タックルされた
5
足
骨折
スパイクで踏まれた
6
ハムストリングス
肉離れ
不明
7
足
不明
不明
8
頭
不明
不明
9
腰
腰椎分離症
不明
3
参加者の約1割に負傷者がでたことになる。試合時間が(1)の大会に比べて平均で約4倍、最大で約 150
分違うことが、負傷者が多く出たことに繋がったと考えられる。部位別にみると、下肢の怪我が半数を占め
た。
③ 東北高校ラグビー大会(天然芝グラウンド)
ア 調査人数 48 名 1 年 6 名、2 年 20 名、22 名
イ 試合出場時間 平均 73.6 分 最大 120 分 最小 0 分
ウ 本大会での負傷 1 名
1
Ⅰ怪我の箇所
Ⅱ怪我の状態
Ⅲ怪我の発生状況
肩甲骨
打撲
不明
本大会では 1 例のみとなった。試合出場時間は県総体と比べ、平均はほぼ同等で、最大は 1 試合分少なく
っている。また、試合の日程は 1 日置いて 2 試合行われている。選手への負担は県総体に比べて少ないこと
が考えられる。
(2) 選手個人の傷害予防への取り組みと人工芝グラウンドに関するアンケートについて
① 試合で怪我を予防するために取り組んでいること
ストレッチをする
53
首のトレーニング
1
オフの日に体を動かす
1
クーリングダウンをする
6
頭を下げてプレーしない
1
アイシングする
3
危険なプレーをしない
1
水分補給
2
食事をしっかりする
4
テーピング
2
ウエイトトレーニングで筋肉つける
1
可動域を広げる
1
アップで体を動きやすくする
4
特になし
17
計 97
傷害を予防するために取り組んでいることで最も多かったのは「ストレッチをする」ことであった。その
他にも怪我を予防するために、様々な取り組みを選手自身がしていることがわかった。
4
怪我の予防をするためにストレッチは有効なことではあるが、どのような内容のストレッチをどのような
タイミングで行っているのかということが重要になる。また、大多数の人が回答していたことから、ストレ
ッチさえすれば怪我を予防できるという考えが根付いていることが考えられる。ストレッチをすることは大
切であるが、
コンタクトスポーツという競技特性上、
体をしっかり作るのも怪我を予防するのに大切である。
パフォーマンスを上げるためにも、筋肉を付けたり、しっかりとした食事をとるといったことが認識されて
いくことが必要である。
② 人工芝グラウンド利用しての感想
ポジティブ
ネガティブ
走りやすい
3
グリップがきく
1
やりやすかった
3
きれいでデコボコしていなかった
1
違う雰囲気で新鮮だった
1
天然芝より汚れにくい
1
土よりやりやすい
2
楽しくプレーできた
2
タックルしやすい
1
地面が柔らかくてよかった
1
良かった
1
足が熱くなる
7
ボールの弾みが強かった
1
気温の上昇が著しい
1
やけどした
3
滑って走りにくい
2
やりづらかった
3
疲労感が残る
2
19
無回答
8
8
17
計 44
「走りやすい」
「やりやすい」といったプレーについてポジティブな回答があった。一方で「足が熱くなる」
「やけどした」
「疲労感が残る」といった身体に影響を与えるネガティブな回答があった。
「走りやすい」と
いうのに対し「滑って走りにくい」といった回答があった。走りやすさの違いには、スパイクの違いが関係
している可能性がある。
5
③ 天然芝グラウンドと人工芝グラウンドの違いについて感じたこと
ポジティブ
ネガティブ
すべらない
1
転んでも痛くない
1
整備されていてやりやすい
2
走りやすい
2
摩擦でやけどする
6
照り返しが暑い
その他
27
11
すべる
5
疲労が溜まりやすい
3
天然芝より固い
1
ゴムチップが靴の中に入って厄介
1
ボールのバウンドが違う
1
特になし
6
13
12
計 46
天然芝グラウンドとの比較については「整備されていてやりやすい」
「走りやすい」といったポジティブな
回答はわずか 6 名であった。一方で「照り返しが暑い」
「摩擦でやけどする」
「すべる」といったネガティブ
な回答が多数となった。
④ 人工芝グラウンドを使用する際に気をつけていきたいこと。
やけどに気をつける
11
滑らないようにする
2
ゴムチップを食べないようにする
1
足に疲労が溜まらないようにする。
3
暑さに気をつける
2
スパイクが引っかからないようにする
1
水をまく
1
水分補給をする
2
芝生になれる
1
ボールのはね方に気をつける
2
ストレッチを十分にする
1
肉離れなどに気をつける
1
危険なプレーに気をつける
1
特になし
15
計 44
「やけどに気をつける」が最も多かった。他に「暑さに気をつける」
「足に疲労が溜まらないようにする」
「水分補給をする」
といった身体に影響することに気をつけたいという回答があった。
「滑らないようにする」
「スパイクが引っかからないようにする」
「ボールのはねかたに気をつける」というプレーに直結して影響す
ることに気をつけたいという回答があった。身体に影響することに気をつけたいという回答が多かったが、
選手が 100%のパフォーマンスを発揮することの妨げになるのではないかと考える。
6
4 まとめ
大会ごとの傷害調査については、今年度の調査だけでは人工芝グラウンドと天然芝グラウンドとの傷害の
違いを示すことはできなかった。15 人制と 7 人制での競技時間の違いもあるので、条件をより揃えた調査を
今後も引き続きしていく必要がある。
怪我を予防する意識は、選手それぞれが持っていたが、個人差があった。競技レベルが上がるにつれて、
コンタクト強度も高まり体への負荷も大きくなることから、体づくりから技能習得まで含めた総合的な怪我
の予防策が求められる。日頃から、選手のレベルに合わせた怪我の予防策を指導者側が考えていく必要があ
る。
人工芝グラウンドについての使用感についての調査では、天然芝グラウンドと比較するとネガティブな回
答が多くなる結果となった。初めて人工芝グラウンドで試合をする選手もおり、環境の違いに過敏になって
いた点もあると考えられる。天然芝グラウンドの欠点を補ったのが人工芝グラウンドとなるので、それぞれ
のメリットをいかしたグラウンド利用をしていくべきである。逆に、デメリットとなる部分を最小にして選
手が最高のパフォーマンスを整えていくことが運営側に求められる。今後も人工芝グラウンドの利用は増え
ていくことが考えられるので、今回の結果も踏まえてより安全に運営できる体制を築いていく必要がある。
ラグビーの魅力の一つは、体と体をぶつけあうコンタクトスポーツであるという点である。この魅力を守
るためにも安全であるという前提を壊してはならない。そのために、指導者としてできる努力を今後もして
いきたい。最後に、今回研究をするにあたってご協力頂きました関係者の皆様に感謝申し上げます。