衣 錦 尚 絅

い
きん
衣
錦
図書館通信
2003年度第9号
しょう
尚
2003.9.24.
けい
絅
発行:麻布学園図書館部
*「衣錦尚絅」については、図書館入り口のギャラリーに掛けられている額の解説を見てください。
バングラデシュ
松元宏(英語科)
この夏バングラデシュへ行ってきた。日本は夏らしい天気に恵まれず、台風に襲われた頃
である。8月のバングラデシュは雨季、ところがひどく暑く乾いていた。そこはガンジス川
などいくつもの河が流れ込むデルタ地帯で、大雨にでもなれば国土の大部分が冠水すること
もあるという。むしろ真夏の天候で幸いだったかもしれない。
さて、その国に関わる本を紹介してみたい。とは言ったものの、実を言うと紹介したくて
もそのような本がそうそう見つからないのだ。旅行前に、渋谷でいくつかの書店に当たって
「バングラ、バングラ」と探し歩いてみたが、この国に関するものがとにかくないことに気
づいた。バングラデシュに関心のある日本人はいるのか、と疑りたくなるほどである。我が
校の図書館に「もっと知りたい バングラデシュ」(弘文堂)がある。が、学術的な本は、
ぼくにはどうもピンとこない。
たとえば、堀田善衛著「インドで考えたこと」、本多勝一著「アメリカ合州国」、開高健著
「ベトナム戦記」、梅棹忠夫著「東南アジア紀行」、藤原新也著「印度放浪」等など、その道
の達意の文章は望むべくもないかもしれないが、何かないか。と思いつつ、とりあえず本屋
のガイドブックのコーナーに行き 、「地球の歩き方」がずらりと並べてある棚を眺めてみる
と、これがない。ベトナム、タイは勿論あったし、アンコールワット遺跡のあるカンボジア、
バガン遺跡のミャンマーそしてインドはあるのに、ミャンマーとインドに挟まれた小国バン
グラデシュだけは飛ばされている。昔、お金はないが世界を見たい好奇心旺盛の若者に人気
のあったこのガイドブックさえこの国を無視しているのか。外国のバックパッカー連中が携
帯する世界旅行ガイド「lonely planet」を購入するしかないか。
いやはや、バングラデシュはそれほどまでに魅力のない国なのだろうか。アジアを旅行し
た作家たちでさえ、その紀行文を見ると、インドシナ半島を横断して、なぜかぽーんと跳ん
でインドへ着地している。沢木耕太郎の「深夜特急」では、マレー半島を回り、そしてイン
ドのカルカッタへ飛んでいる。バングラデシュが訪れる価値のない国なら、大枚をはたいて
航空券を買った意味がない。こりゃー、参ったな。
いや、待てよ。そういえば、若い頃ぼくはアメリカ合衆国のすべてに魅せられて、そこを
旅した。なぜ魅せられたのか。よく考えると、子どもの時分アメリカ合衆国からの情報がや
たらに溢れ、アメリカ合衆国漬けになったことに思い至る。白黒テレビが普及し始めた頃、
西部劇がよく放映され、インディアンが白人を襲撃するのを観て、正義は白人にありと思い
込んでいたのだから、まったくもって事実を知らなかったといえる。ところで昨今、旅行社
や出版社が商業主義に走るあまり、一部の国々のみを美化し過ぎてはいないだろうか。そん
なことから、偏見が生まれてこないだろうか。ある国々は旅行するに値しないとか・・・。
それはとにかく、そろそろ本題へ話を進めなければならない。ぼくは何年か前に辺見庸の
「もの食う人びと」(角川文庫)を読んだことがあった。著者は、何でも食ってやろう、と
意気込んで、飽食の日本を飛び出す。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ロシアなどの国々を
訪問する。しかも行く場所ときたら、人が普通見向きもしないような所、たとえば貧困地帯、
3等列車、刑務所、炭鉱地、修道院、地図にない奥地、放射能汚染地域等などである。しか
も、その訪問先のトップはバングラデシュであった。これを読んで、ぼくは現在のバングラ
デシュのことを具体的に知った。いかに貧しい国であるか、難民問題をかかえていることを。
薄暮のダッカ駅周辺をさまよい歩いていた、と著者は「残飯を食らう」の章の冒頭に書い
ている。ぼくもある夕方、知り合ったばかりのバングラデシュ青年とリキシャ(自転車の人
力車)に乗ってその駅に行った。ダッカの街はどこも人と車が汚い空気の中で激しく交錯し
て、新宿や池袋の地下道の雑踏などその比ではない。その後駅近くの食堂に入り、腰をすえ
て語り合うことになった。彼の話はバングラデシュのあらゆる面に渡り、実に興味深いもの
がある。
「ジョイヌル・オベディンの絵はどうだった?あの一連のスケッチは、1943年ベンガ
ルの人々が餓死していくところをすばやく描いたんだ。当時、日本の軍隊がビルマ(ミャン
マー)を占領して、さらにインドを侵略しようとしていた。それを阻止しようとイギリスの
軍隊が食糧を隠した。それでこの地の人々には食料がなくなり、飢え死にしていった。あれ
は artificial famine(人為的な飢饉)であって、決して自然災害のせいではなかった。日本も
間接的には責任があるんだ・・・。あなたにはちょっときつい言い方でしたか?」と、彼は
流暢な英語で言った。ちょうど博物館でこの国の代表的な画家ジョイヌル・オベディンの作
品を見た後のことだった。ぼくはそのことを聞いて、後日ダッカから遠くはなれた町へさら
にオベディンの絵を見に行くことにした。
次に、辺見庸は南端の町コックスバザールの難民キャンプへ行き、その実態を「食いもの
の恨み」の章で述べている。ミャンマー軍事政権から逃れてきた人たちの数は20万人、国
境近辺におり、配給食料でどうにか食いつないでいたという。この国にはおよそ山といえる
ほどのものはない。どこを見ても田んぼが果てしなく広がっている国土、ぼくは丘陵地帯を
見たくなり、ミャンマー国境近くの寒村バンドルボンへ行った。その辺りに反政府ゲリラが
いるということがあるのか、軍の検問所を通ってこの寒村に投宿する。そこからその後、ベ
ンガル湾が見たくて丘陵を南方へ下ると、コックスバザールに着いた。そこで、ぼくは難民
キャンプに出くわすことはなかった。それよりも、波の荒いベンガルの海に惹きつけられた。
濁りはここの河の色と同じだが、やっぱり海はいい。
ところで、今頃ガイドブックのことに戻るのも何だが、思いもかけず旅行直前に見つかっ
たのだ。「旅行人、ウルトラガイド」である。この社は、チベット、アフリカの国々なども
意欲的に案内している。お陰で、ぼくは安心してバングラデシュに旅立つことができた。
そしてその後、バングラデシュに関する本も見つけたが、ここで紹介するにはもう紙幅が
ない。そもそも、ぼくはある時からこの国を旅したいと思い始め、このバングラデシュ行き
は決して偶然なことではない。昔ぼくの親父は「パキスタンの自然と生活」(光風出版社)
という本を著した。当時、バングラデシュはパキスタンであった。この国がパキスタンから
独立したのは1971年である。海外に行ったことのない親父は、資料を漁ってパキスタン
の姿をまとめ上げた。その本のあるページにはダッカの街の写真もあった。そして、その地
へぼくが実際に足を踏み入れた。ある意味で、長年の夢を果たした、とつくづく思う。
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③延期となってしまった生徒製作の映画「脳みその川」の上映について。
・プロジェクターの不調のため、映画「脳みその川」(小畑洋平君(高 3 − 3)率いる「恐
い映画展」スタッフ製作)が上映延期となり、申し訳ありませんでした。
つきましては、9月26日(金)、3時より、大視聴覚教室にて上映することになり
ましたので、奮って観に来てください。
新着資料紹介
* 9/6 以降 9/18 までに登録、配架した資料を紹介します。紙面の都合で紹介できなかった
資料も少しあります。(マークの説明:「*」→全集・シリーズもの、「※」→寄贈図書)
・スタイルシート辞典 Internet Explorer 6.0 & Netscape 6.2 /アンク/翔泳社/ 007-A
・Visual Basic によるはじめてのアルゴリズム入門/河西朝雄/技術評論社/ 007-Ka
・アフガニスタンの秘宝たち カーブル国立博物館 1988 /土本典昭/石風社/ 069-Ts
*岩波ブックレット/ 081-I・604 ネット上に学びの場を創る/新井紀子
・605 「イラク」後の世界と日本/姜尚中
・女の子どうしって、ややこしい!/ Rachel Simmons /草思社/ 143-S
・大和朝廷と天皇家/武光誠/平凡社新書/ 210.3-Ta
・中世奇人列伝/今谷明/草思社/ 210.4-I
・鳥島漂着物語 18 世紀庶民の無人島体験/小林郁/成山堂書店/ 210.5-Ko
・馬琴一家の江戸暮らし/高牧實(高牧実)/中公新書/ 210.5-Ta
・女たちの幕末京都/辻ミチ子/中公新書/ 210.5-Ts
・アメリカの中のヒロシマ 上・下/ Robert Jay.Lifton /岩波書店/ 210.7-Ge-01,02
・真珠湾への道 開戦・避戦 9 つの選択肢/大杉一雄/講談社/ 210.7-O
・昭和天皇と戦争 皇室の伝統と戦時下の政治・軍事戦略/ Peter Wetzler /原書房/ 210.7-W
・万里の長城攻防三千年史/来村多加史/講談社現代新書/ 222-Ki
・(新書)ヨーロッパ史 中世篇/堀越孝一/講談社現代新書/ 230.4-Ho
・千年王国の惨劇 ミュンスター再洗礼派王国目撃録/ Heinrich Gresbeck /平凡社/ 234-G
・神聖ローマ帝国/菊池良生/講談社現代新書/ 234-Ki
・ソ連=党が所有した国家 1917-1991 /下斗米伸夫/講談社/ 238-Sh
・中国反逆者列伝/荒井利明/平凡社新書/ 282.2-A
・浮気な国王フェリペ四世の宮廷生活/佐竹謙一/岩波書店/ 288.4-F
・最後の宦官秘聞 ラストエンペラー溥儀に仕えて/賈英華/日本放送出版協会/ 288.4-Ka
・ニッポン人異国漂流記/小林茂文/小学館/ 290.9-Ko
・漂流記の魅力/吉村昭/新潮新書/ 290.9-Yo
*歩く地図 Nippon /山と渓谷社/ 291-A・1 北海道
・3 日光・那須・尾瀬
・4 東京
・5 横浜・鎌倉 ・6 伊豆・箱根・富士
・7 軽井沢・長野
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・9 金沢・能登・越前
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・13 奈良・大和路
・14 大阪・神戸
・16 四国
・18 沖縄・南西諸島
・日本川紀行 流域に生きる人と自然/向一陽/中公新書/ 291-Mu
・バタン漂流記 神力丸巴丹漂流記を追って/臼井洋輔/叢文社/ 292.8-U
・ロビンソン・クルーソーを探して/高橋大輔/新潮社/ 296.6-Ta
・極北 フラム号北極漂流記/ Fridtjof Nansen /中公文庫/ 297.8-N
・(最新)北朝鮮データブック/重村智計/講談社現代新書/ 302.2-K
・養老孟司の<逆さメガネ>/養老孟司/ PHP 新書/ 304.1-Yo
・北朝鮮利権の真相 「コメ支援」「戦後補償」から「媚朝派報道」まで!/野村旗守/宝島社/ 319.1-No
・イラク戦争 検証と展望/寺島実郎/岩波書店/ 319.5-Te
・グローバル化した中国はどうなるか/国分良成/新書館/ 333.6-Ko
・いのちを守る地震防災学/林春男/岩波書店/ 369.3-Ha
・(よくわかる)学びの技法/田中共子/ミネルヴァ書房/ 377.9-Ta
・失敗の本質 日本軍の組織論的研究/戸部良一/中公文庫/ 391.2-To
*ポピュラー・サイエンス/裳華房/ 408-P-256,257
・地球の化学像と環境問題/北野康
・きのこ アラカルト/福岡久雄
・幾何学の起源 定礎の書/ Michel Serres /法政大学出版局/ 414-S
・21 世紀、物理はどう変わるか/日本物理学会/裳華房/ 420-Ni
・時間について アインシュタインが残した謎とパラドックス/ Paul Davis /早川書房/ 421-D
・生命と地球の進化アトラス volume1 / Richard T.J.Moody /朝倉書店/ 450-Se-01
・地球科学の新展開 1 地球ダイナミクスとトモグラフィー/東京大学地震研究所/朝倉書店/ 450.8-Ch-01
・東海地震がわかる本/名古屋大学災害対策室/東京新聞出版局/ 453.2-Na
・海のなかの炎 サントリーニ火山の自然史とアトランティス伝説/ Walter L. Friedrich /古今書院/ 453.8-F
・火山に強くなる本 見る見るわかる噴火と災害/火山防災用語研究会/山と渓谷社/ 453.8-Ka
・富士を知る/小山真人/集英社/ 453.8-Ko
・超火山「槍・穂高」 地質探偵ハラヤマ/北アルプス誕生の謎を解く/原山智/山と渓谷社/ 455.1-Ha
・ふしぎの植物学 身近な緑の知恵と仕事/田中修/中公新書/ 471-Ta
・海の生き物 100 不思議/東京大学海洋研究所/東京書籍/ 481.7-To
・冬眠する哺乳類/川道武男/東京大学出版会/ 489-Ka
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・日本の医療 統制とバランス感覚/池上直己/中公新書/ 498-I
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・メガロドン/ Steve Alten /角川文庫/ 933-A
・フェルマータ/ Nicholson Baker /白水社/ 933-B
・“It”(それ)と呼ばれた子 完結編/ Dave Pelzer /ソニー・マガジンズ/ 936-P-03
・エンデュアランス号漂流記/ Ernest Henry Shackleton /中公文庫/ 936-S
・(学研の大図鑑)日本産アリ類全種図鑑/日本産アリ類データベースグループ/学習研究社/ R486-Ni
・歌枕歌ことば辞典/片桐洋一/笠間書院/ R-911.1-Ka
・ボウリング・フォー・コロンバイン/ Michael Moore /タキコーポレーション/ D-洋-ボ
・在りし日のカーブル博物館 1988 年/土本典昭/シネ・アソシエ/ V-教-あ
・もうひとつのアフガニスタン カーブル日記 1985 年/土本典昭/シネ・アソシエ/ V-教-も
・よみがえれカレーズ/土本典昭/記録社・シグロ/ V-教-よ