「平成 19 年度敦賀原子力夏の大学」 海外研修参加学生の感想 平成 20 年 3 月 福井大学 フランス研究報告書 2008 年 2 月 2 日 ∼2 月 10 日 東京工業大学大学院 理工学研究科 原子核工学専攻 関本研究室 井村寛治 INSTN 研修 研修内容 1 日目 炉物理講義(反応度,遅発中性子) 2 日目 臨界近接実験,制御棒校正,実験炉見学(ISIS REACTOR) 3 日目 PWR シミュレーション 臨界状態からの出力上昇 研修内容は, 臨界近接,制御棒校正とほぼ京都大学 KUCA での実験と同様であった. PWR シミュレーションでは,様々な運転条件が設定されており,設定条件からの出力変 動や,周辺機器の操作といった実践運転向きのものだった. 感想 INSTN での講義は非常に丁寧に教えて下さり,分かりやすかった.また,実験施設も, 実験目的に対してシンプルでよかった.実験内容は,京大炉で1週間かけて行うことを半 日でさらっと流した感じであったが,講義準備が非常によく,十分なデータも揃ってい たため理解しやすかった.PWR シミュレーションでは,出力上昇に対して,炉心周辺の 熱交換器なども制御しなければならず,今まで炉内だけを見ていたため,新しい感覚で あった. INSTN での講義全体を通して,全て英語での講義であったため,言語理解という点で 苦しんだ.やはり,今後の国際社会の中では,知識と同じくらい英語力が必要だと感じ た.国際社会へ出て,英語の理解力が乏しければ,いくら知識を持っていても,そこから の伸びが少ないだろう.今回の講義でそれを痛感した. 1 Phenix 等施設見学 0.1 Phenix 見学施設 Phenix: 制御室,炉心上部,熱交換器,タービン室 Melox: MOX 製造ライン 0.2 感想 Phenix 自体は想像していたより小さかったが,高速炉として照射試験など最先端の研 究がされているところへ見学に行けたことは非常に有意義であった.また,展示室では, Phenix 施設全体の模型などを見ることができ,燃料交換メカニズム,軽水炉などとの燃 料形状の違いなどが分かり勉強になった.事前講義では,スーパーフェニックスの停止理 由の政治的な理由をしり,やはり原子力分野の発展にはまだまだ,技術力以外の力が及ぶ ことが非常に悔しく,惜しく感じた. Melox は実際に行くことはできなかったが,MOX 製造ラインの見学ということで,日 本の燃料会社とほぼ同様であったということであった.しかし,やはり,MOX という ことで,製造が非常にシビアになるのではないかと思う.また,Melox では,全世界の MOX 燃料加工を受けもっている.よって,ライン数も仕様によって増えてしまうらし い.その話を聞いてやはり,日本での再処理施設,および燃料加工施設の運転が今後早急 に必要であると感じた. 3 今回の研修を通して 今回の研修を通し,世界一の原子力大国フランスの原子力分野の教育施設,研究施設を 訪れることができ,非常に良い経験ができたと思う.私自身が感じたことは,フランスの 国家を挙げての原子力に対する教育,取り組みの熱心さである.今回講義をして頂いた INSTN はヨーロッパ全土の原子力エンジニアを集め,育成するという目標をしっかりと 持ち,将来を見据えている.こういった国の体制からフランスは今後の原子力大国であり 続けるであろうと感じた. 一方,日本は,原子力分野において世界有数の技術大国ではあるが,決して原子力に対 して積極的ではないと私は思う. この環境の違いをみると,将来の差は歴然であると思う.今後,必ず原子力の時代がく る.日本にとって,原子力分野で技術力を高めることは国際社会のなかで大きな力を持つ ためのチャンスだと思う.中でも,高速増殖技術の開発は,資源の乏しい日本にとって, エネルギー資源確保のチャンスである.よって,日本は更なる原子力教育,研究施設の充 実を計るべきだと思う. また,個人的な面で今回の研修を通して,自分の力を測ることができよかったと思う. 語学力,基礎知識どれをとってもまだまだであったように思う.しかし,今回の経験で自 分が今何をすべきなのかが分かった気がする.今後,今回の経験を元に,着実にレベル アップできるように勉学に励んで来たいと思う. 5 2008 年 2 月 18 日 フランス研修レポート 武蔵工業大学 博士後期課程 1 年 羽倉尚人 平成19年の夏,「敦賀「原子力」夏の大学」という研修に参加してみないか,と誘われ てから半年, 「海外研修学生」として渡仏する機会を得た.海外での研修などこれまでに全 く経験がなく,研修内容に対する期待とともに,「英語」への大きな不安を抱えたまま,フ ランスに出かけることとなった. 研修の前半,INSTN での講義は,3日間という短期間に,実に多くのことを学べるカリ キュラムであった.初日は,Safieh 先生の炉物理の講義であった.基本的にこの日の内容 は,大学院の講義で学んだことであった.しかし,それが英語で行われると,なかなか難 しかった.講義の間ほとんど先生のお話を聞くだけになってしまっており,「いつでもいい から質問してください」という先生の言葉が胸に刺さった.日本語であれば,いくつか質 問しようと思えばできたのだが,質問しようにも英語がでてこない.休憩の間に,何とか 質問を搾り出した.先生はつたない英語を熱心に聴いてくださり,丁寧に回答してくださ った.自らの英語力を恥じるばかりの一日となった. 2日目は,Foulon 先生による臨界近接および制御棒校正の講義と研究用原子炉 ISIS を 使っての実習であった.ここでの内容も京都大学の KUCA での院生実験の際に学んだこと であったため,「英語で」ということを除いては,理解しやすかった.今回初めて海外の原 子炉施設に入る機会を得たが,管理区域に入る際に,靴を履き替えなくてよいことに驚い た.日本では,炉室は管理のレベルが高い場所であり,靴を履き替えずにはいるというこ とは考えられないと思う.実験は実にテンポよく進んでいった.ISIS 自体は古い炉という ことであったが,制御卓は最新のものであるように思われた.非常によく教育用に整備さ れており,あたかもシミュレータのように,本物を扱っている点が印象的であった.遅発 中性子の影響を見る実験と温度係数に関する実験が特に興味深かった.前者は,出力一定 運転時に15秒かけて制御棒をある長さ挿入し,同じく15秒かけて元の位置まで引き抜 いたときに,出力はどのように変動するかを考察するというものであった.実験の前に, 変動の様子を予想した.ほとんど皆,出力は下がり,下がったところで一定になると予測 した.実際にやってみると,制御棒を再度挿入し始めるとわずかに出力が上がった.これ は,遅発中性子の減衰には時間遅れが生じるためであるという.遅発中性子を「感じる」 ことのできる優れた実験であると思った.後者の温度係数に関する実験は,50kW まで出力 を上昇し,制御棒だけで臨界を維持しようとすると,温度上昇による負のフィードバック がかかるために出力が低下するというものであった.この実験はある程度出力を高くでき る原子炉だからこそできるものである.この日は,ISIS と同じ建屋にあるオリジスという 炉も見学することができた.オリジスは ISIS よりも規模が大きく,70MW で運転されてい た.70MW 運転時のチェレンコフ光は実に印象的であった. サクレーでの最終日は,Grard 先生による PWR の講義とシミュレータを使った実習であ った.シミュレータは 2 人に 1 セットずつ用意されており,自由に操作することができた. しかし実際には,1 セットのシミュレータを見ながら,皆で講義を受けるという形態で進行 され,多くのマシンが活用されていなかった.できれば何か演習の課題を与えられ,2 人な いし 3 人で相談しながら問題を解いていくという演習ができればよかったと思う.内容的 には,出力を変化させるに当たり,反応度変化と 2 次系ループがどのように関係するかを よく理解することができた. アヴィニオンへの移動と観光を挟んで,研修最終日には,高速原型炉 Phenix と AREVA 社の MOX 燃料加工工場(Melox)を見学した.日本では,高速実験炉「常陽」と高速原型 炉「もんじゅ」を見学した経験があったが,高速炉が発電する姿を目の当たりにできたこ とは非常に印象的であった.Phenix では,炉頂部の見学ギャラリーが整備されており,見 学者を迎える体制が整っていることに驚いた.MOX 燃料加工工場は,現在の研究テーマが MOX 燃料に関するものであることからも,非常に興味を持っていた.日本では,GNFJ や 原子燃料工業の工場を見学したことがあった.MOX 燃料はウラン燃料に比べ,放出される ガンマ線量が高いので加工工程における遮へいが厳しいのではないかと思っていたが,意 外にもウラン燃料の場合と大きな違いはないと感じた.最終工程の集合体にくみ上げたと ころでは,ウラン燃料の場合には見られなかった大きな生体遮へいが設置してあった. 今回の研修を通して,最も印象深かったことは,指導してくださった先生方や Phenix, Melox を案内してくださった方々対応である.つたない英語での質問に対して,言わんと することを汲み取ってやろう,という気持ちが強く伝わってきた.語学力が低いために上 手く質問できないことを恥ずかしいと思っていたが,それ以上に,発言してみたことが上 手く伝わらなかったことを恥ずかしいと思い,発言や質問をあきらめてしまっていたこと の方が,より一層恥ずかしいことであると悟った.今回は「お客さん」として訪問したた め,相手も粘り強く対応してくださったと思うが,もし今後,自分の研究で海外に行くこ とがあったときに,同じような姿勢でいては,全く相手にされなくなるだろうと危機感を 覚えた.もちろんある程度以上の語学力は必要だと思うが,それ以上に,コミュニケーシ ョンに対する意識も改めなければならないと感じた. 今回の研修は,短期間に実に多くのことを勉強できました.改めて,本研修の企画・運 営に関わられた皆様に感謝申し上げます. TGV の車窓から見えた冷却塔 ピザを食べる人々 敦賀「原子力」夏の大学 海外原子力研修(仏国)を終えて 福井大学大学院 原子力・エネルギー安全工学専攻 M1 犬飼裕介 まず、今回の海外原子力研修で関わっていただいた関係者の皆様に深く感謝いたします。 皆様のおかげでこの研修を非常に有意義に過ごすことが出来ました。もちろん勉強だけで はなく、パリ、アヴィニョン観光や、同じ原子力技術者を目指す方々と知り合えたことは、 今後の良い経験になると思います。 勉強、見学、観光などで印象に残った事を簡単にですが以下にまとめました。 ・INSTN サクレーセンターにおける研修 3日間の研修では、原子炉物理の基礎の講義、教育用原子炉を用いた原子炉実習、PWR シミュレータを用いた実習を行いました。基礎の講義では、日本で学んだ内容も多く含ま れていましたが、一つ一つのロジックがしっかりしていて、何が重要かを学生自身で理解 させるように話されたので非常に面白く多くの再発見が出来ました。これは3日間通して 言えることなのですが、どの先生方の講義も学生が理解できるまで説明して頂きとても熱 心に指導してもらえたことが印象的でした。 原子炉実習では、自分自身で原子炉の操作が出来ると期待していたのですが、実際には INSTN の方が操作をされて学生はパラメータの推移を画面上で見ているだけだったのが少 し残念でした。しかし、原子炉実習は初めてで原子炉の即発中性子の役割、制御棒の働き、 軽水炉の自己制御性の確認などがリアルタイムに知ることが出来て、今まで教科書や講義 でしか知らなかったことを実際の目で見ることが出来てとても勉強になりました。また、 研究用原子炉も見学できたのですが、そこで初めてチェレンコフ光を見た時は感動しまし た。 PWR シミュレーション実習では、一次系と二次系の関連性が非常に印象に残りました。 今までは原子炉の出力を上昇させる為の初動の操作は、単純に制御棒を抜けば良いと考え ていたのですが、今回の実習で二次系の流量を増やす事が適切な操作であったのは驚きで した。また、キセノンの発生による出力変動が考えていたよりも影響度が大きいこと、キ セノンの影響をホウ素濃度でコントロールすることで低く抑えることが出来ることを知り ました。実習の前に、今回の研修に同行者の畠中さんに PWR の運転方法の基礎を教えて頂 いたおかげで、シミュレーション実習の理解を深めることが出来ました。 ・高速炉フェニックス、MELOX の見学 日本の高速炉「常陽」、「もんじゅ」の見学に行った事があり、フランスの高速炉「フェニッ クス」の見学は非常に楽しみにしていました。見学をして驚いたことは、フェニックスの敷 地内に入るまでは身元確認などのチェックは厳しいのですが、建物に入ってから管理区域 内の原子炉上部まで行くのに、見学者の細かいチェックが無かったことです。原子炉上部 には見学者用のスペースもあり、閉じているのではなく開かれている雰囲気を感じました。 対してもんじゅでは、何度もチェックを受ける必要があるために多少なりとも閉じている と感じ、日本とフランスの国民性の違いや、フランスでは原子力が広く普及していると改 めて考えることが出来ました。また、2009 年に停止予定の高速炉が運転しているのを見学 できたのは幸運でした。 MELOX では MOX 燃料の製造過程を見学したのですが、ウラン燃料とは違い MOX 燃料 はプルトニウムを含んでいるため扱いの大変さを感じ、1つの燃料集合体が完成するまで の過程を見ることができたことは良い勉強になりました。 ・フランス観光 この研修で初めてヨーロッパを訪れることができました。パリではルーブル美術館、オ ルセー美術館などに行きまして、美術作品に多く触れました。私は美術作品に疎くあまり 詳しくないのですが、ミロのビーナス、モナリザなど世界中の多くの人が知っている作品 を間近に見ることが出来たのは感慨深かったです。特に、フランスに滞在をして感じたこ とは、日本との食文化の違いです。フランスでは食事をする時間が長く、友人や家族など と楽しみながら食事をすることを学びました。セーヌ川でのクルーズディナーでは美味し い料理と楽しい時間を過ごすことができ、主催して頂いた INSTN の方々に感謝いたします。 私は将来原子力に関わる仕事に就きたいと考えています。望むような仕事に就くことが 出来ても、フェニックス見学や INSTN での原子力実習といった経験は貴重で、この研修で 非常に良い体験をすることが出来ました。この経験を今後の自分自身の成長に、そして日 本の原子力の発展に役立てるように努力していきたいと思います。
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