P o i n t P Of V o f V i e w 太陽光発電の今後の可能性を探る oint iew 太陽光発電の今後の可能性を探る 太陽光発電の普及の現状 図2 世界の太陽光発電システムの年間生産量と年間導入量 年間導入量 全世界 3,733.0MW 図2に示すように、2007年、世界で 東京大学生産技術研究所特任教授 荻本 和彦 は373万kWの太陽光電池が生産さ れ、その内訳は日本の92万kWに対 太陽光発電の二酸化炭素 排出抑制の効果 二酸化炭素排出量で算定され、電 し、 ドイツ78万kW、中国82万kW、 力系統全体の発電所の運用の変化 台湾37万kW、アメリカ27万kWであ 気候変動に関する政府間パネル 日本および海外の国々の今後の経 に基づく使用燃料の減少量から算 り、日本の生産量が停滞する中、 ドイ (IPCC) の報告により地球温暖化問 済発展などを視野に入れると、低炭 出するのが原則である。しかし、この ツ、中国、台湾が生産量を伸ばし、 題と人類の社会経済活動との関係 素社会の実現には、省エネルギー技 計算は簡単には実施できないため、 従来世界第一位であった日本のシェ がほぼ共通の理解となり、2008年ま 術の導入・普及に加えて再生可能エ 各電力会社は自社の電力(使用量 アは急速に低下しつつある。また同 での石油に代表される資源価格の ネルギーの導入が不可欠と考えられ ベース) での二酸化炭素排出原単位 年の年間導入を比較すると、フィード 9.9万円) であり、 この場合の発電コスト 太陽電池モジュールについては、現 高騰・供給懸念などの顕在化は、化 ている。昨年上期には、国内では経 を発表しており、これを用いて代替さ インタリフ (FIT・固定価格買い取り) は46円/kWh程度と算定されている。 在量産化が実現している、あるいは 石資源の有限性とエネルギー供給の 済産業省から 「長期エネルギー需給 れる発電所で減少する二酸化炭素 制度の導入による欧州市場の拡大 安定性の課題を世界に再認識させ 見通し」 と 「Cool Earthエネルギー革 排出量を算出するのが原則である によりドイツ、スペインの導入量が群 た。また、昨年6月には福田首相 (当 新技術計画」が国外では国際エネル が、簡易な方法として電気事業者が を抜いているほか、米国、イタリアな 時) による演説「 『低炭素社会・日本』 ギー機関 (IEA) から 「エネルギー技 発表する排出係数 (2007年全電力 ども導入量を伸ばす中、日本国内の 技術研究開発の各国政府の研究 向上、寿命延長、高純度シリコンなど をめざして」 において、地球環境問題 術見通し (ETP2008) 」 などが相次い 平均で0.453kgCO 2 /kWh) に発電 導入量はその生産量が輸出に回っ 開発投資を比較すると、日本は米国 の原料供給技術開発を行う必要が とエネルギー安定供給の視点から で発表され、地球環境問題の解決 量を乗じて算出することができる。 ちな たこともあり、21万kWという前年を や欧州諸国と比較して、オイルショック ある。また、電力系統との連系を行う 「2050年までに二酸化炭素排出量を に太陽光発電技術の果たす役割が みに、設備利用率を12%、インバータ 大きく割り込む結果となった。 の後、継続的に大きな研究開発投資 パワーコンディショナーについても耐久 60∼80%削減する」 という日本の長期 具体的に示された。これらによれば、 の損失や設置条件などを含めた出 全世界的に見て、太陽光発電シス を行っている。この点では、日本は、 性向上、高効率化、低コスト化などを 目標が発表され、続く昨年7月のG8に 再生可能エネルギー、原子力発電、 力減少の係数を0.8、排出係数として テムの年間生産量は、近年、年率 世界のどの国よりも、地球の将来を救 実現する必要がある。さらに、多接合 おいて 「2050年世界で半減」 という目 化石燃料発電、次世代製鉄、次世 0.453kgCO2/kWhを使用すると、太 30%以上の伸びを示し、製造企業数 う鍵となるエネルギー技術の開発に 型太陽電池、量子ナノ構造太陽電池 標が先進国間で共有されたことによ 代自動車、ヒートポンプなど、エネル 陽光発電1kWあたりの年間の二酸 も100社を超える企業が結晶シリコン、 力を入れている国とも言え、このような など、超高効率太陽電池の実現に り、低炭素社会への具体的な取り組 ギー供給、産業、運輸、利用という人 化炭素排出削減効果は、1kW × 薄膜シリコン、化合物薄膜など各種の 技術開発への取り組みの大きな柱と 向けた研究も加速する必要がある。 みが我が国および世界の現実の課題 間のあらゆる活動分野での長期の技 8,760時間 × 0.12 × 0.8 × 0.453 = 太陽電池を生産し、太陽光発電シス して太陽光発電技術がある。太陽 なお、導入普及の鍵となる発電コ となった。さらに、2008年秋のリーマン 術研究開発は地球環境問題の解決 0.38tCO2/年・kWとなる。 テムの製造は大きな拡大が可能な段 光電池の技術開発の歴史は、1954 ストの低減に関しては、先に述べた ショックに端を発する世界同時不況へ の鍵を握ることになる。この中で、太 階に入っていると言える。 年の米国ベル研究所による世界初の 2007年の太陽光発電の発電コスト の対応策として、米国のグリーンニュー 陽光発電は、他のエネルギー資源に 世界各国が地球環境問題の対策 太陽電池の発表の後、1950年代に 46円/kWhの内訳を、機器の工場出 ディールに代表される地球温暖化問 比較して、日本を含め世界で偏りなく 1)過去、高純度シリコンなど原料製造を含め、太陽光発電システ ム製造時のエネルギー投入とその結果としてのCO2発生量が大 きいことが問題にされた時期もあったが、現在の技術レベルで は、この投入量に発電量が到達するのに要する期間(エネル ギーペイバックタイム) は2年前後と算定され、その期間後の発電 量は正味のエネルギー発生量となる。 として太陽光発電の導入を政策的に は企業を含めた取り組みが国内で開 荷価格と、販売管理費、架台・工事 題解決と持続可能社会実現を目指す 存在する、 カーボンフリー 進めたことで、太陽光発電のコストは、 始され、オイルショック後のサンシャイン 費に分けると、前者が発電コストの はじめに 政策が、世界各国で実施されている。 これらの流れの中で、今年6月には 1) な発電技術 として、大 図1 世界のCO2半減への各技術の寄与度 きな期待がかけられて その他 1,484.1MW (中国821MW、台湾368MW) ヨーロッパ 1,062.8MW (ドイツ780.0MW) 日本 920.0MW 年間生産量 アメリカ 266.1MW 出典:NEDO 太陽光発電ロードマップ(PV2030+) 量産化目前の結晶シリコン、薄膜シ 太陽光電池の技術開発 リコン、化合物薄膜の各モジュール に関する製造コスト低減、発電効率 太陽光発電モジュール (パネル) 、およ 計画の中で国家プロジェクトとしての 35∼40%を占めるのに対し、後者は 高効率火力発電・OCS びこれにインバータ、架台、設置費など 取り組みとなった。太陽光発電技術 30∼45%(販売管理費25∼35%、 先進的原子力発電 を含めたシステムとも、継続的に低減さ の適用は、当初の灯台、宇宙、電卓 架台・工事費5∼10%) を占めている。 れてきた。代表的な用途である住宅 といった技術特性を有利に発揮でき 従って、導入普及のためには、パネル 用系統連系型太陽光発電システムの る分野から始まり、1990年代に一般 やインバータなどの機器のコストダウ 国内価格は67万円/kW程度 (内訳 住宅の屋根に乗せる太陽光発電シ ンだけではなく、流通、販売、設置と 例:モジュール43.5万円、 インバータ8.5万 ステムが実用化された。 いった要素のコストダウンも重要で 12% 「2020年までに二酸化炭素排出量を いる (図1) 。 2005年と比べて15%削減する」 とい 太陽光発電の二酸 う日本の中期目標が発表され、この目 化炭素排出抑制効果 標達成の大きな手段として、2020年 は、太 陽 光 発 電の導 までに太陽光発電導入量を現状比 入により減少するその 20倍に拡大する目標が掲げられた。 他の発電方式に係る 12% 既存技術の普及等 40% 7% 革新的太陽光発電 8% 11% 次世代自動車 (燃料電池、電気自動車、バイオマス等) 11% 産業部門 (水素還元製鉄・革新的材料等) 民生部門の省エネ機器 (ヒートポンプ、燃料電池、IT機器等) 円、その他材料5万円、架台・工事費 太陽光発電システムの中心部分の あることがわかる。 出典:経済産業省 クールアースエネルギー革新技術プログラム 4 `09.9 `09.9 5 P Of V P o i n t oint o f V i e w 太陽光発電の今後の可能性を探る iew は、2030年段階では600万∼1,200 の適用のための個別の計画・設計を に、随時の変動の電力需給バランス 加え、エネルギー需給全体としては、 日本の電力需給の一翼を担うために 万kW/年程度に拡大していると想定 行い、戸建住宅、集合住宅、業務用 の確保のために、電力系統側の発 化石燃料、原子力発電、各種の再 は、技術開発だけではなく、太陽光 されている。 ビルや集中型の発電所に設置し、そ 電所、変電所の機能を最大活用す 生可能エネルギーがそれぞれの特 発電と太陽熱利用の組み合わせや エネルギー問題の解決には、対策 の後、設備を耐用年数間管理する、 ることも考えられる。そしてこれらを実 性を発揮しつつ、需要側との協調を 将来必要になる可能性のある発電 シナリオ を示す。このロードマップ 技術を社会に大規模に導入すること トータルの体制が求められる。また、 現するためには、個別の技術の開発 含めてエネルギーの安定供給を実現 抑制機能などさまざまな導入普及の では、今後約10年間における量産 が必要であり、そのためには、要素技 戸建ての屋根の上ばかりではなく、集 のみではなく、既存システムとの協調 する状況を示している。 ニーズに対応できる製品開発、これ 体制の整った各種太陽光発電の性 術の確立のみではなく、社会システム 合住宅や業務用ビルなどに積極的に を含めた技術、工夫が必要となろう。 能の向上と製造技術の改善、2020 全体への展開が必要となる。太陽光 展開するために、さまざまな用途の建 図5は、これを実現する可能性として 年から2030年にかけての新材料投 発電の場合は太陽エネルギーが広く 物にデザインにも留意して組み込みを の分散と集中のエネルギーマネジメン 入など高性能化に向けた技術革新 薄く存在するという特性から、その導 行う建物一体型太陽光発電 (BIPV) トの協調を示したもので、需要や分 欧州では、フィードインタリフ制度 重要であり、これらにより太陽光発電 により、太陽光発電の発電コストを 入は多数のシステムの分散設置とな も注目されており、次のステップへのヒ 散電源の調節、バッテリーや貯湯槽 などにより、太陽光発電をはじめと 導入・普及の目標を達成する条件が 2010年代前半までに家庭用電力並 り、現在、政府の目指している2020年 ントになると考えられる。 付きヒートポンプ給湯器の活用による する再生可能エネルギーの導入が 整うことが期待される。 みの23円/kWhに、2020年までに業 において現状の20倍、2,800万kWと 2)NEDO 太陽光発電ロードマップ(PV2030+)報告書, 2009.4 需要シフトなどを新たに調整要素に 加速している。今後、太陽光発電が 務用電力並みの14円/kWhにする いう導入目標に向けては、現在最大 ことなどを目指している。 30万kW/年程度の導入実績に対し、 太陽光発電の今後の展望 図3に太陽光発電の今後の発展 に対するロードマップ (PV2030+) の 2) 数百万kW/年、一カ所あたりの容量 当面は、戸建住宅、公共施設など 大規模導入と電力システム 図4 日本全国で2020年に2,800万kW、 を3kW程度とすれば年100万カ所規 けて、経済性、設置性の改善・改良 模の設置が今後必要となる。この大 2030年に5,300万kWなど、大量の太 に伴い、集合住宅や事務所、商業 規模設置にあたっては、核となる太陽 陽光発電が導入される段階では、発 施設などの業務用建物などに順次 電池を資材、建材などとして供給し、 電と消費の需給バランスを常に確保 導入が進むと考えられる。また、現在 インバータなどと組み合わせて発電シ する必要のある電力システムにおいて 年産100万kW程度の国内生産量 ステムとし、既存および新築の建物へ は、新しく加わる太陽光発電の天気 2002 2007 2010 2017 2020 2025 2030 日(7月∼9月) 結晶シリコン、薄膜シリ コン、CIS系などの量 産体制の確立と性能 の向上 BOS 長寿命化 システム大型化 蓄電池付システム 技術の世代交代によ る高性能化、低コスト 化の実現 る (図4) 。 新しい原理、構造によ る超高効率(40%)太 陽電池の投入 超薄型/多接 合化、ヘテロ接 合化などによる 14円/kWh 高性能化 従来型太陽電池ととも に多様な用途に対応 7円/kWh 新材料投入など 高 性 能 化に向 けた技術革新 新材料・新構造太陽電池 7円/kWh以下 原子力 系統需要低減のイメージ:日間(中間) 分散と集中のエネルギーマネジメントの協調 500/275kV 6.6kV 気象台 送電変電所 配電用 変電所 荻本 和彦(おぎもと・かずひこ) 東京大学生産技術研究所特任教授。1979年、 東京大学工学部電気電子工学科を卒業し、電 風力発電 源開発株式会社に入社。交直変換所、水力発 装置などと連携して活用することが 2050年 発電コスト 家庭用電力並 (23円/kWh) 業務用電力並 (14円/kWh) 業務用電力並 (7円/kWh) 汎用電源として利用 (7円/kWh以下) 必要となると考えられる。また、この モジュール変換効率 (研究レベル) 実用モジュール16% (研究セル20%) 実用モジュール20% (研究セル25%) 実用モジュール25% (研究セル30%) 超高効率モジュール40% ような電力需要の増加で余剰を解 国内向生産量(GW/年) 0.5∼1 ∼1 2∼3 ∼3 6∼12 30∼35 25∼35 ∼300 住宅(戸建、集合) 、公共 民生用途全般、産業用、 施設、民生業務用、 運輸用、農業他、 電気自動車など充電 独立電源 154-66kV 火力/原子力/揚水発電所 まな需要機器や、将来は蓄電・蓄熱 2030年(2025年) 住宅(戸建、集合) 、 公共施設、事務所など 図5 る場合は、住宅あるいはビルのさまざ 2020年(2017年) 戸建住宅、公共施設 PVの出力変動(夏季90日) が大きく、供給量に余剰が予想され 2010∼2020年 主な用途 PV 具体的には、太陽光発電の出力 実現時期(開発完了) 海外市場向け (GW/年) 需要-PV 1日の時間推移 備対応、運用対応などが必要とな 電力系統に負担をかけな いHEMS、BEMS地域シス テム、電気自動車など新し い利用展開へ 23円/kWh 火力 需要 テム設置側、電力システム側での設 量産化連用期間を想定し た技術開発の前倒し 系統連系から蓄電機 能を付帯した自律型シ ステム展開へ 揚水 水力 題解決のために、太陽光発電シス 2050 ∼50円/kWh 30円/kWh 電 源 の 供 給 力 、 需 要 、 P V 出 力 (MW) 太 陽 光 発 電 出 力 (MW) 力需要が極めて少ない休日などに発 生する可能性のある余剰電力の課 ●低コスト化シナリオと太陽光発電の展開 将来を見通した施策、事業展開が 太陽光発電の出力変動と需給バランスに与える影響 や時刻などによる変動を吸収し、電 太陽光発電の今後の発展に対するロードマップ(PV2030+)のシナリオ 度の整備など、より裾野の広い、より おわりに 太陽光発電出力 から主に導入が始まり、2030年に向 図3 らを最大活用することのできる諸制 電所運転保守、電力系統・計画、解析ツール 開発、海外電力計画、技術開発、国内電力需 PVソーラー システム 給分析、送電線計画・設計などに携り、2007年 から現職。経済産業省、資源エネルギー庁の 消できないような場合には太陽光発 電システムのインバータを制御して出 EV用電池 蓄湯槽 (給湯器) 住宅用/ビル用エネルギーマネジメントシステム (HEMS/BEMS) 地域エネルギーマネジメントシステム 気象情報 委員会委員を歴任。専門分野はエネルギー需 給システム。エネルギー・環境問題の同時解決 による持続的な産業・社会基盤の確立をテーマ としている。 力を抑制することが考えられる。さら 出典:NEDO 太陽光発電ロードマップ(PV2030+) 6 `09.9 `09.9 7
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