恐怖回避と 恐怖回避と運動器痛 心理的因子、とくに痛みに関する非機能的信念や痛みへの恐れが、慢性の運動器痛(筋・骨格系の痛み) の進展に鍵となる役割を果たしている。痛みへの恐れは、すでに身体的に回復した後も、その患者にとって 痛みの発生や悪化を連想させるような(身体的、社会的および職業的な)活動の回避へと繋がっている。こ の反応は急性期には(安静が回復を促進するというかたちで)適応的である一方、傷害が癒えた後でも回避 的な行動が継続する場合には、障害や悩みへと誘導してしまう。 疫学と 疫学と経済 痛みへの恐れの「臨床的レベル」についてのカットオフ値の確立が困難であるため、臨床的に痛みへの恐れ がどの程度広がっているかについては、はっきりとした数はわかっていない。痛みへの恐れは適応的である 。つまり、それによって潜在的に有害な活動から我々を守ることになり、有害な活動を避けることを学ぶ際 には有益である。危害や傷害の実際のリスクに比して恐れが過剰な場合に、恐れが非機能的となる。 痛みへの恐れが過剰であることにより、かなりの経済的な費用がかかっている。急性期には、痛みに直接 関連した活動のみが回避されている。しかしながら、どんな活動も(再)傷害や痛みに導くかもしれないと いう恐れに特徴づけられて、回避のパターンは活動を超えて徐々に広がり、ほとんど体を動かさないライフ スタイルへ陥っていくことになる。痛みへの恐れは障害や欠勤、医療機関の利用を長引かせ、または増大さ せ、運動器痛に対する社会的および経済的損失を生む。 診断 ・ 恐れ回避信念は、以下を使用することにより、評価可能である: ・ 臨床的な集団では、恐れ回避信念質問紙(Fear Avoidance Beliefs Questionnaire: FABQ) ・ 痛み不安症状スケール(Pain Anxiety Symptoms Scale: PASS) ・ 非臨床サンプルにおいては、痛み恐怖質問紙 (Fear of Pain Questionnaire) ・ 身体的活動についての非機能的信念は、タンパ運動恐怖症スケール(Tampa Scale for Kinesiophobia:TSK)(Miller RP、 Kori SH、 Todd DD、 未発表報告)で評価される。 ・ 加えて、慢性後背部痛をもつ患者において、日常活動での有害さの認知を測り、恐れを抱いている活動 の階層を構成するために、日常活動の写真シリーズ(Photograph Series of Daily Activities: PHODA)が最近開発されている。 治療 ・ 段階的活動は体力と認知的因子についての肯定的な相互効果を再獲得するために、効率的な戦略である 。認知的な因子に直接的に焦点を当てると、より強力な効果が期待できる。 ・ 患者が極度な恐れを感じる活動の中から、ある活動について監督をし、その活動を患者が予測するよう な破局がなく運動が可能であると患者自身で確信するまで従事してもらう。「安全な行動」から離脱し ても破局的な結果に繋がらないことを経験したとき、患者らは自身が持っていた破局的な誤った認識を 修正し、誤りであったと確信し、恐れの予期を正すことができる。 ・ これらの治療形式は「回避する人」により近い患者に限り適切であり、恐れ回避信念が少ないタイプの患 者にとっては生産的ではないため、痛み関連恐怖の評価をすることが推奨される。 参考文献 1. Asmundson GJG, Vlaeyen JWS, Crombez G. Understanding and treating fear of pain. Oxford University Press; 2004. 2. Leeuw M, Goossens MEJB, Linton SJ, Crombez G, Boersma K, Vlaeyen JWS. The fear-avoidance model of musculoskeletal pain: current state of scientific evidence. J Behav Med 2007;30:77–94. 3. Leeuw M, Goossens ME, van Breukelen GJ, Boersma K, Vlaeyen JW. Measuring perceived harmfulness of physical activities in patients with chronic low back pain: the Photograph Series of Daily Activities—short electronic version. J Pain 2007;8:840–9. 4. McCracken LM, Dhingra L. A short version of the Pain Anxiety Symptoms Scale (PASS-20): preliminary development and validity. Pain Res Manag 2002;7:45–50. 5. McNeil DW, Rainwater AJ 3rd. Development of the Fear of Pain Questionnaire—III. J Behav Med 1998;21:389–410. 6. Roelofs J, Sluiter JK, Frings-Dresen MH, Goossens M, Thibault P, Boersma K, Vlaeyen JW. Fear of movement and (re)injury in chronic musculoskeletal pain: evidence for an invariant two-factor model of the Tampa Scale for Kinesiophobia across pain diagnoses and Dutch, Swedish, and Canadian samples.Pain 2007;131:181–190. 7. Vlaeyen JW, Linton SJ. Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain: a state of the art. Pain 2000;85:317–32. 8. Waddell G, Newton M, Henderson I, Somerville D, Main CJ. A Fear-Avoidance Beliefs Questionnaire (FABQ) and the role of fear-avoidance beliefs in chronic low back pain and disability. Pain 1993;52:157–68. (訳 細井昌子:日本疼痛学会 / 日本運動器疼痛研究会) © 2010 International Association for the Study of Pain®
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