一般固有値問題から学ぶ線形代数

一般固有値問題から学ぶ線形代数
線形代数学において、線形空間、基底、行列の固有値問題から、さらに一般固有値問題、
ジョルダンの標準形まで講義をすすめることは難しく、理科系教養の講義でも線形代数の
一部の紹介で終わってしまうことが多い。そこで、逆に一般固有空間、ジョルダンの標準
形を学び、その特別な場合として、エルミート行列、ユニタリー行列、対称行列、直交行
列などのスペクトル分解へという方法も考えられる。一般固有空間とその上の適当な基底
での表現行列としてジョルダン標準形を修得すると、上記の行列の固有値問題がその特殊
な場合として見通しよく理解できる。以上のような試みとして、笠原皓司著「線形代数と
固有値問題」
(現代数学社)を参考テキストとして、上記のような流れで線形代数学の内容
を再構成してみたものである。ただし線形空間、基底などの基礎的事項は付録を参照して
いただきたい。
目
次
§1.一般固有値問題
§2.最小多項式
§3.行列との対応、ジョルダン標準形
§4.ジョルダン標準形の例
§5. (λI − ϕ ) の構造
−1
§6.正規変換、エルミート変換、ユニタリー変換
§7.線形変換の正則関数
付録A:線形写像・基底・座標変換・表現行列
付録B:射影作用素
付録C:対称変換・直交変換
付録D:応用(1)線形微分方程式、(2)線形差分方程式
§1.一般固有値問題
E 上の線形変換: ϕ
ϕ ( x) = λx ( x ≠ 0) を満たす x を固有ベクトル、 λ を固有値という。
λ が固有値 ⇔ λ は det( A − λI ) = 0 (固有方程式)の解である。
ϕ の異なる固有値: λ1 , λ 2 ,...., λ r
(係数体:複素数体)
*固有空間
Fi = {x; (ϕ − λi I ) x = 0}
*一般固有空間
Gi = {x ; ある非負整数 k があって (ϕ − λi I ) k x = 0} i = 1,2,..., r
i = 1,2,..., r
1
Gi は線形部分空間で Gi ⊇ Fi
定理1.任意の線形変換 ϕ
E = G1 ⊕ G 2 ⊕ L ⊕ G r (直和);各 Gi に対しある自然数 k i が定まって
Gi = {x ; (ϕ − λi I ) ki ( x) = 0} かつ
(ϕ − λi I ) ki −1 x ≠ 0 となる x が Gi に存在する。
k i を固有値 λi の標数という。
<証明>
①
ϕ − λi I = ϕ i (i = 1,2,.., r ) とする。 E ⊇ ϕ i ( E ) ⊇ ϕ i 2 ( E ) ⊇ ϕ i 3 ( E ) ⊇ L
ϕ i k −1 ( E ) ⊃ ϕ i k ( E ) = ϕ i k +1 ( E ) = L となる k が存在する。
Eは有限次元なので
このようなkの最小値を k i とし、固有値 λi の標数という。 ϕ i i ( E ) = Ri とおく。
k
Ri = ϕ i i ( E ) = ϕ i
k
②
ki +1
( E ) = L より部分空間 Ri 上では ϕ i i は全単射である。
k
Ker (ϕ i i ) = Gi
k
;
Gi = {x ; あるk があって ϕ i ( x) = 0} = {x ; ϕ i i ( x) = 0}
k
k
明らかに Gi ⊇ {x ; ϕ i i ( x) = 0} 。逆にあるkがあって ϕ i ( x ) = 0 のとき、k ≤ k i ならば明ら
k
かに ϕ i i ( x ) = ϕ i
k
ki − k
k
(ϕ i ( x)) = 0 。k > k i ならば y = ϕ i
k
よって ϕ i ( y ) = ϕ i ( x ) = 0 、①より y = ϕ i
k
k −1
k −1
( x) とすると k −1 ≥ k i より y ∈ Ri
( x) = 0 すなわちkの値を1つ減らせる。これ
を繰り返すと ϕ i i ( x ) = 0 、すなわち x ∈ (ϕ i i ) (0) 。
k
③
−1
k
E = Gi ⊕ Ri
Gi = Ker (ϕ i i ), Ri = Im(ϕ i i ) より dim E = dim Gi + dim Ri 。故に Gi I Ri = {0} を示せば
k
k
よい。 x ∈ Gi I Ri ならば ϕ i i ( x ) = 0 。一方 x ∈ Ri よりある y ∈ E によって x = ϕ i i ( y ) 、
k
これより ϕ i
④
2 ki
k
( y ) = 0 、すなわち y ∈ Gi 。これより x = ϕ i i ( y ) = 0 。
k
Gi , Ri は ϕ − 不変な線形部分空間。
ϕ i = ϕ − λi I と ϕ は可換なので、
x ∈ Gi のとき、 ϕ i i (ϕ ( x)) = ϕ (ϕ i i ( x)) = ϕ (0) = 0 、よって ϕ ( x) ∈ Gi 。
k
k
2
x ∈ Ri のとき、 x = ϕ i i ( y ), ( y ∈ E ) 、よって ϕ ( x) = ϕ (ϕ i i ( y )) = ϕ i i (ϕ ( x)) ∈ Ri 。
k
k
⑤
k
ϕ の Gi 上の固有値は λi のみ。 Ri 上の固有値は λi を除く全ての λ1 ,L λ r 。
Gi が λ j ( j ≠ i ) を固有値に持つとする。それに対応する固有ベクトルを x ∈ Gi とすると
ϕ ( x) = λ j x ( x ≠ 0), これより 0 = ϕ i k ( x) = (ϕ − λi I ) k ( x) = (λ j − λi ) k x ≠ 0 となり矛盾。
i
i
i
x ∈ Ri のとき、①より ϕ i ( x) = 0 なら x = 0 。よって λi は Ri の固有値ではない。
Gi , Ri の基底をそれぞれ {e1 ,L eμ }, { f1 ,L fν } とすると、これら μ + ν 個のベクトルは E の
基底になる。この基底による ϕ の行列表示は
⎡A 0⎤
(ϕ (e1 ),Lϕ (eμ ), ϕ ( f1 ),L , ϕ ( fν )) = (e1 ,L, eμ , f1 ,L, fν ) ⎢
⎥ 、
⎣ 0 B⎦
A, B はそれぞれ ϕ の Gi 上、 Ri 上の表現行列。 ϕ の固有多項式は
det( M − λI ) = det( A − λI ) det( B − λI ),
⎡A 0⎤
M =⎢
⎥
⎣ 0 B⎦
det( M − λI ) = (λ1 − λ ) mi L (λ r − λ ) mr
かつ det( A − λI ) = 0 は λ = λi のみを解に持つので det( A − λI ) = (λ1 − λ ) i ,
m
r
det( B − λI ) = ∏ (λ j − λ )
mj
。これより dim Gi = mi 。
j =1
j ≠i
⑥
E = G1 ⊕ G2 ⊕ L ⊕ Gr
(直和)
まず③より E = G1 ⊕ R1 、部分空間 G1 , R1 は線形変換 ϕ , ϕ j について不変である。部分空間
R1 に①~⑤の議論を繰り返し使うことにより E = G1 ⊕ G2 ⊕ L ⊕ Gr ⊕ R を得る。 R は ϕ
不変で固有値を全く含まない。dim R ≥ 1 ならばこのようなことは起こらないので R = {0} 。
系 1-1. dim Gi = mi
(λiの代数的重複度miは一般固有空間の次元に等しい)
系 1-2. k i ≤ mi
k i は E ⊇ ϕ i ( E ) ⊇ ϕ i ( E ) ⊇ ϕ i ( E ) ⊇ L において次元が減少する回数を表わすが、次元
2
3
の減少は部分空間 Gi のみで起こるので、その次元数 mi を超えない。
§2.最小多項式
定義1.
ϕ の最小多項式: Ψ (λ ) = (λ − λ1 ) k ....(λ − λr ) k
1
定理2.
3
r
( k j は固有値 λ j の標数)
(1) Ψ (ϕ ) = 0
(2) ϕ の固有多項式 Φ (λ ) は最小多項式 Ψ (λ ) で割り切れる。故に Φ (ϕ ) = 0
Hamilton-Cayley の定理
(3)最小多項式 Ψ (λ ) は Q(ϕ ) = 0 を満たす多項式 Q(λ ) を全て割り切る。
<証明>
(1) 任意の x = x1 + L x r ( xi ∈ Gi ) について
r
r
r
Ψ (ϕ )( x) = ∑ Ψ (ϕ )( xi ) = ∑ (∏ (ϕ − λ j I ) j )( xi ) = 0
i =1
i =1
(2) Φ (λ ) = (−1) (λ − λ1 )
n
m1
k
なぜなら (ϕ − λi I ) i ( xi ) = 0 。
k
j =1
L (λ − λ r ) mr , k i ≤ mi (i = 1,.., r ) より明らか。
(3) Q (λ ) を Q (ϕ ) = 0 を満たす多項式とする。 λ = λi を中心としたティラー展開により
Q ( λ ) = Q (λ i ) +
x ∈ Gi , ϕ i
ki −1
Q ' (λ i )
Q ( p ) (λi )
(λ − λi ) p 。
(λ − λi ) + L
p!
1!
( x) ≠ 0 とすると、
0 = Q(ϕ )( x) = Q(λi ) x +
Q ' (λ i )
Q ( p ) (λi ) p
ϕ i ( x) + L
ϕ i ( x) 。
p!
1!
p ≥ k i なら ϕ i ( x) = 0 より
p
次の補題1より x, ϕ i ( x ), L , ϕ i
0 = Q (λ i ) x +
ki −1
Q ' (λ i )
Q ( ki −1) (λi ) ki −1
ϕ i ( x) + L
ϕ i ( x) 。
1!
(k i − 1)!
( x) は一次独立なので、
Q(λi ) = Q ' (λi ) = L = Q ( ki −1) (λi ) = 0 。これは多項式 Q(λ ) が λ = λi を少なくとも k i
重根として持っていることを意味する。よって Q (λ ) は (λ − λi ) i で割り切れる。
k
従って Q(λ ) は Ψ (λ ) = (λ − λ1 ) 1 L (λ − λ r ) r で割り切れる。
k
補題1.線形変換 ϕ に対し ϕ ( x) = 0,
k
k
ϕ k −1 ( x) ≠ 0 なら、 x, ϕ ( x),...., ϕ k −1 ( x)
は線形独立である。
<証明>
c1 x + c 2ϕ ( x) + c k ϕ k −1 ( x) = 0 とする。両辺に ϕ k −1 を施すと ϕ k ( x) = 0 より
c1ϕ k −1 ( x) = 0 、 ϕ k −1 ( x) ≠ 0 なので c1 = 0 。同様に ϕ k − 2 , ϕ k −3 ,.... を施すと順に
c 2 = .... = c k = 0 。
4
定義2.線形変換 ϕ がべき零 ⇔ ϕ = 0 、
k
k ≥ 1 自然数
このような k の最小の数を ϕ の零化指数という。
べき零変換 ϕ の固有値は0のみ。逆に固有値が全て0なら ϕ はべき零。
定理3
<証明>
固有値をλとすると ϕ ( x) = λx, ( x ≠ 0)
よって ϕ ( x) = λ x = 0 より λ = 0 。
k
k
固有値が0だけとすると、ϕ の固有方程式は Φ (λ ) = λ 。よって定理2(2)より ϕ = 0 。
n
n
系 3-1 べき零変換 ϕ の零化指数は固有値0の標数に等しい。
(定理1より明らか)
定義3.線形変換 ϕ が半単純 ⇔ ϕ = λ1 p1 + L + λ r p r ,
p1 ,..., p r は射影作用素
系 3-2 べき零で半単純な変換は0に限る。
ϕ = λ1 p1 + L + λ r p r とすると λ1 = L λ r = 0 より ϕ = 0 。
定理4. 二つの半単純変換 ϕ1 , ϕ 2 が可換、 ϕ1 o ϕ 2 = ϕ 2 o ϕ1 が成り立つための必要十分条
件は共通な射影作用素の組 p1 ,..., p m があって同時に
ϕ1 = λ1 p1 + L λ m p m , ϕ 2 = μ1 p1 + L μ m p m と表わされることである。
ただし、 λ1 ,..., λ m や μ1 ,..., μ m は必ずしも異ならない。
<証明>
十分性は明らかなので、必要性を示す。 ϕ1 , ϕ 2 の射影分解を
ϕ1 = λ1 p1 + L λm p m , ϕ 2 = μ1 q1 + L μ n q n とする。ϕ1 , ϕ 2 が可換なので、その多項式
。そこで
も可換、よって pi と q j も可換である(射影作用素の表現参照)
ϕ1 = λ1 p1 o (q1 + L + q n ) + L + λm p m o (q1 + L + q n ),
と書くと、これは pi o q j の
ϕ 2 = μ1 q1 o ( p1 + L + p m ) + L + μ n q n o ( p1 + L + p m )
線形結合である。そして { pi o q j ; i = 1,.., m, j = 1,.., n} は射影作用素の条件
⎞
⎛ m
⎞ ⎛ n
⎟
⎜
p
o
q
p
=
⎜
∑∑
∑
i
j
i ⎟ o ⎜∑q j ⎟ = I,
i =1 j =1
⎝ i =1 ⎠ ⎝ j =1 ⎠
m
(p
n
i
o q j ) o ( p k o q l ) = δ i , k δ j ,l ( p i o q j )
を満たしている。
系 4.1
二つの半単純変換 ϕ1 , ϕ 2 が可換なら線形結合 aϕ1 + bϕ 2 および ϕ1 o ϕ 2 もまた
半単純である。
<証明>
定理4より ϕ1 = λ1 p1 + L + λ m p m ,
ϕ 2 = μ1 p1 + L + μ m p m 、よって
aϕ1 + bϕ 2 = (aλ1 + bμ1 ) p1 + L + (aλ m + bμ m ) p m 、 ϕ1 o ϕ 2 = λ1 μ1 p1 + L + λ m μ m p m 。
5
定理5.2つのべき零変換 ϕ1 , ϕ 2 が可換なら、 ϕ1 + ϕ 2 ,
ϕ1 o ϕ 2 もべき零である。
<証明>
ϕ1 m = 0, ϕ 2 n = 0 、 m ≤ n とする。可換なので (ϕ1 o ϕ 2 ) m = ϕ1 m o ϕ 2 m = 0 。
m+ n m + n
⎛
⎞ j
⎟⎟ϕ1 o ϕ 2 m + n − j = 0 。なぜなら、 j ≤ m のとき、 m + n − j ≥ n 。
(ϕ1 + ϕ 2 ) m + n = ∑ ⎜⎜
j ⎠
j =0 ⎝
○一般固有空間への射影作用素の表現
分解 E = G1 ⊕ G 2 ⊕ L ⊕ G r の一般固有空間 Gi への射影作用素を pi とする。
I = p1 + L + pr , pi = pi , pi o p j = 0 (i ≠ j ),
2
r
ϕ の最小多項式を Ψ (λ ) = ∏ (λ − λ j ) とする。
kj
j =1
h1 (λ )
hr ( λ )
1
、
=
+L+
k1
Ψ (λ ) (λ − λ1 )
(λ − λ r ) k r
1 = h1 (λ )
pi ( E ) = Gi
1
を部分分数分解して
Ψ (λ )
h j (λ ) は高々 k j − 1 次の多項式。これより、
Ψ (λ )
Ψ (λ )
+ L + hr (λ )
,
k1
(λ − λ1 )
(λ − λ r ) k r
g i (λ ) = hi (λ )
Ψ (λ )
(i = 1,2,.., r ) とすると 1 = g1 (λ ) + L + g r (λ ) 。
(λ − λ i ) k i
I = g1 (ϕ ) + L + g r (ϕ ) より
x = g1 (ϕ )( x) + L + g r (ϕ )( x) 。
ϕ i k (g i (ϕ )( x) ) = (ϕ − λi I ) k o g i (ϕ )( x) = hi (ϕ )(Ψ (ϕ )( x)) = 0 より g i (ϕ )( x) ∈ Gi
i
i
よって pi = g i (ϕ ),
r
g i (λ ) = hi (λ )∏ (λ − λ j ) j 。
k
j =1
j ≠i
定理6.
任意の線形変換 ϕ は互いに可換な半単純変換とべき零変換の和として一意に表せる。
<証明>
分解の存在:
定理1より ϕ の一般固有空間によって直和分解: E = G1 ⊕ G 2 ⊕ L ⊕ G r 。
これに対する射影 p1 ,..., p r が決まり、 I = p1 + L + p r 、 ϕ = ϕ o I = ϕ o p1 + Lϕ o p r 。
ϕ = (ϕ − λi I ) + λi I = ϕ i + λi I とすると、
(2.1) ϕ = (ϕ1 + λ1 I ) o p1 + L + (ϕ r + λr I ) o p r = (λ1 p1 + L λr p r ) + (ϕ1 o p1 + L + ϕ r o p r )
=ψ + θ
(2.2) ψ = λ1 p1 + L + λ r p r ,
θ = ϕ1 o p1 + L + ϕ r o p r
6
ψ は明らかに半単純なので、 θ がべき零であることを示す。 ϕ i , p j は ϕ の多項式で表わさ
れるので可換、よって θ
k
= ϕ1 o p1 + L + ϕ r o p r 。 k = max(k1 ,..., k r ) とすると任意の
k
k
x ∈ E について pi ( x) ∈ Gi より
(2.3) θ k ( x) = ϕ1 ( p1 ( x)) + L + ϕ r ( p r ( x)) = 0 、よって θ k = 0 。
k
k
分解の一意性:
ϕ = ψ 1 + θ1 があるとすると、ψ + θ = ψ 1 + θ1 よりψ − ψ 1 = θ1 − θ 。
ψ 1 と θ1 は可換なのでψ 1 はψ 1 + θ1 = ϕ と可換である。半単純変換ψ は ϕ の多項式で表わさ
れるのでψ 1 とψ も可換、同様に θ1 と θ も可換である。故に系 4.1 よりψ − ψ 1 は単純、
定理5より θ 1 − θ はべき零である。系 3.2 よりψ − ψ 1 = θ 1 − θ = 0 である。
別の表現
系 6-1
θ の零化指数は k 0 = max(k1 ,..., k r ) である。
<証明>式(2.3)より k ≥ max(k1 ,..., k r ) なら θ
k
= 0 。 k < max(k1 ,..., k r ) なら
x ∈ Gi = pi (E ) で ϕ i ( x) ≠ 0 となるものが存在する。 p j ( x) = 0 ( j ≠ i ) なので
k
θ k ( x) = 0 + L + ϕ i k ( x) + L + 0 ≠ 0 、よって k 0 = max(k1 ,..., k r ) である。
線形変換 ϕ が半単純であるための必要十分条件は ϕ の固有値の標数がすべて
系 6-2
1であることである。すなわち、 ϕ の最小多項式が重根を持たないことである。
ϕ が半単純 ⇔ θ = 0 ⇔ k 0 = max(k1 ,..., k r ) = 1 ⇔ k1 = L k r = 1 。
<証明>
§3.行列との対応、ジョルダン標準形
ϕ の一般固有空間 G1 , G2 ,..., Gr
基底:
、
E = G1 ⊕ G2 ⊕ L ⊕ Gr 。
e11 ,.........e1m1 (∈ G1 ); .......... ...; e r1 ,....., e rmr (∈ G r )
上の基底を取ったときの表現行列は
⎡ A1
⎢0
(ϕ (e11 ),...., ϕ (er mr )) = (e11 ,...., er mr ) ⎢
⎢0
⎢
⎣0
ϕ =ψ +θ
0⎤
0 0 ⎥⎥
、 Ai は部分空間 Gi での表現行列
O M⎥
⎥
L Ar ⎦
L
0
A2
0
0
(半単純変換+べき零変換)とすると、 ϕ (eij ) = ψ (eij ) + θ (eij ),
7
ψ は単純なので、ψ (eij ) = λi eij ( j = 1,.., mi ; i = 1,.., r ) 。よってψ の表現行列は
⎡λ1 0 0 L L L 0 ⎤
⎢0 O 0
0 M ⎥⎥
⎢
⎢ 0 0 λ1
M⎥
⎢
⎥
(ψ (e11 ),...,ψ (ermr )) = (e11 ,..., ermr ) ⎢ M
O
M⎥
⎢M
λr 0 0 ⎥
⎢
⎥
0 O 0⎥
⎢M 0
⎢0 L L L 0 0 λ ⎥
r⎦
⎣
べき零変換 θ の表現行列は
⎡ B1
⎢0
(θ (e11 ),...,θ (ermr )) = (e11 ,..., ermr ) ⎢
⎢M
⎢
⎣0
0 L 0⎤
B2 0 M ⎥⎥
、
0 O 0⎥
⎥
L 0 Br ⎦
Bi = Ai − λi I : Gi 上で考えたべき零線形変換 θ の表現行列
Bi i = 0, Bi
k
ki −1
≠0
零化指数 k i は固有値 λi の標数に等しい
○ θ の零化指数がEの次元nに等しいとき、ある x ∈ E が存在して θ
線形独立系 {θ
n −1
( x),θ
n −1
n −1
( x),......,θ ( x), x} を基底に取る。
⎡0 1 0 L
⎢0 0 1
⎢
θ (θ n−1 ( x), θ n−2 ( x),..., x) = (θ n−1 ( x), θ n−2 ( x),..., x) ⎢ M
O O
⎢
0
⎢M
⎢⎣0 L L L
= (θ n−1 ( x), θ n−2 ( x),..., x) N
○ 零化指数 k (< n) のとき
定理7.
零化指数 k (< n) のべき零変換 θ の表現行列は
8
0⎤
M ⎥⎥
M⎥
⎥
1⎥
0⎥⎦
( x) ≠ 0
⎡ N1
⎢
N =⎢
⎢
⎢
⎣
N2
⎡0 1 0 L
⎢0 0 1
⎢
ただし N i = ⎢ M
O O
⎢
0
⎢M
⎢⎣0 L L L
⎤
⎥
⎥,
⎥
O
⎥
Ns ⎦
0⎤
M ⎥⎥
M ⎥ の形のものが選べる。
⎥
1⎥
0⎥⎦
零化指数 k (< n) は N 1 ,..., N s の最大次数に等しい。
<証明>
① Wi = {x; θ i ( x ) = 0} i = 1,2,..., k とおく。各 Wi は線形部分空間で Wk = E ,
W1 は θ の固
有値0の固有空間である。{0} ⊂ W1 ⊂ W2 ⊂ L ⊂ Wk −1 ⊂ Wk = E 。Wk − Wk −1 から線形独立
なベクトル x1 ,..., xr1 をとる。 E = Wk −1 ⊕ [ x1 , x2 ,...., xr1 ] (直和)。
θ k −1 ( x1 ), θ k −2 ( x1 ), L , θ ( x1 ), x1
(3.1) θ k −1 ( x2 ), θ k −2 ( x2 ), L , θ ( x2 ), x2
とすると、これらの k × r1 個のベクトルは線形独立。
......................................
θ k −1 ( xr ), θ k −2 ( xr ), L , θ ( xr ), xr
1
1
r1
r1
i =1
i =1
1
1
r1
r1
i =1
i =1
∑ c1iθ k −1 ( xi ) + ∑ c2iθ k −2 ( xi ) + L + ∑ ck −1,iθ ( xi ) + ∑ cki xi = 0 とする。両辺に θ k −1 を作用
させると、θ k ( xi ) = 0 より
r1
r1
r1
i =1
i =1
i =1
∑ ckiθ k −1 ( xi ) = 0 。すなわち ∑ cki xi ∈ Wk −1 、よって ∑ cki xi = 0 。
x1 ,..., xr1 の線形独立性より cki = 0 (i = 1,.., r1 ) 。同様に両辺に θ k −2 を作用させると
r1
∑c
i =1
θ k −1 ( xi ) = 0 。従って同様にして ck −1,i = 0 (i = 1,.., r1 ) 。これを繰り返せばよい。
k −1, i
(3.1)のベクトルで E 全体が張られているときは、これらのベクトルを基底とする θ の表現
行列は
⎡Nk
⎢
N=⎢
⎢
⎢
⎣
Nk
⎤
⎥
⎥,
⎥
O
⎥
Nk ⎦
⎡0 1
⎤
⎢ 0 1
⎥
⎢
⎥ (k × k行列)
Nk =
⎢
O 1⎥
⎢
⎥
0⎦
⎣
N k はk個の基底 {θ k −1 ( xi ), θ k − 2 ( xi ),..., xi } で張られる部分空間での表現行列である。
② θ ( x1 ),..., θ ( xr1 ) ∈ Wk −1 − Wk −2 であるが、それに加えてさらに線形独立なベクトル
9
y1 ,..., y r2 ∈ Wk −1 − Wk −2 を取ってくる、Wk −1 = Wk −2 ⊕ [θ ( x1 ),..., θ ( xr1 ), y1 ,..., y r2 ] 。(3.1)と同
様に次のベクトルの系列を考えると、この ( k − 1) × r2 個のベクトルは線形独立である。
θ k −2 ( y1 ), θ k −3 ( y1 ), L , θ ( y1 ), y1
(3.2) θ k −2 ( y 2 ), θ k −3 ( y 2 ), L , θ ( y 2 ), y 2
この操作を、E を張るまで繰り返す。
......................................
θ k −2 ( y r ), θ k −2 ( y r ), L , θ ( y r ), y r
2
2
2
2
W1 ⊂ W2 ⊂ L ⊂ Wk −2 ⊂ Wk −1 ⊂ Wk
最終的に
θ k −1 ( x1 ), θ k −2 ( x1 ), L , θ 2 ( x1 ), θ ( x1 ),
(3.3)
x1
.....................................................
θ k −1 ( xr ), θ k −2 ( xr ), L , θ 2 ( xr ), θ ( xr ), xr
1
1
1
1
θ k −2 ( y1 ), θ k −3 ( y1 ), L , θ ( y1 ),
1
y1
......................................
θ
k −2
( y r2 ), θ k −3 ( y r2 ), L , θ ( y r2 ), y r2
LLLLLLLLLLL
LLLLLLLLLLL
z1
M
zs
k × r1 + (k − 1) × r2 + L + 1 × s 個のベクトルが E の基底になっている。この基底を取ったと
きの θ の表現行列は
⎡Nk
⎢
⎢
⎢
⎢
⎢
⎢
⎢
⎢
⎢
⎣
O
Nk
N k −1
⎤
⎥
⎥
⎥
⎥
⎥,
⎥
O
⎥
O
⎥
N1 ⎥⎦
⎡0 1
⎤
⎢ 0 1
⎥
⎢
⎥
Nj = ⎢
O O ⎥ ( j × j行列)
⎢
⎥
0 1⎥
⎢
⎢⎣
0⎥⎦
N j をこの標準形のジョルダン細胞という。
定理8. ジョルダン標準形
10
任意の線形変換 ϕ に対し適当にEの基底を選ぶと、その表現行列が
⎡ A1
⎢0
⎢
⎢0
⎢
⎣0
0
A2
0
0
0⎤
⎡λ i
⎢0
⎥
0 0⎥
、 ただし Ai = ⎢
⎢M
O M⎥
⎢
⎥
L Ar ⎦
⎣0
L
0⎤
λi
0 ⎥⎥
O 1⎥
⎥
L L λi ⎦
1
0
O
の形にできる。
小行列 Ai の並べ方を別にすれば一意である。(3.3)の横一列に並んだベクトルの列をこの標
準形に対応するジョルダン鎖という。
§4
ジョルダン標準形の例
例1.
⎡2 − 1 − 1⎤
A = ⎢⎢0 3 1 ⎥⎥
⎢⎣0 − 1 1 ⎥⎦
固有方程式 det( A − λI ) = (2 − λ ) = 0 より λ = 2 (三重解)。
3
E=固有値 (λ = 2) の一般固有空間。 ( A − 2 I ) = 0 より最小多項式は Ψ (λ ) = (λ − 2) ,
2
2
⎡2 1 0⎤
⎢
⎥
標数=2、Aは単純でない。標数2よりAのジョルダン標準形は 0 2 0 。
⎢
⎥
⎢⎣0 0 2⎥⎦
( A − 2 I ) x ≠ 0 となる x を求めれば、 ( A − 2 I ) x, x が1つのジョルダン鎖である。例えば、
x = t (0,0,1) とすると、 ( A − 2 I ) x = t (−1,1,−1) ≠ 0 なので、 t (−1,1,−1), t (0,0,1) は1つのジ
t
ョ ル ダ ン 鎖 。 ( A − 2 I ) y = 0 を 満 た す y ≠ 0 を (−1,1,−1) と 線 形 独 立 に 取 る 。 例 え ば
y = t (0,1,−1) とする。この3つのベクトルを並べた行列を
⎡− 1 0 0 ⎤
⎡2 1 0⎤
⎡ − 1 0 0⎤
⎢
⎢
⎥
⎥
−1
−1
T = ⎢ 1 0 1 ⎥ としてAを変換すると T AT = ⎢0 2 0⎥ 、ただし T = ⎢⎢ 0 1 1⎥⎥ 。
⎢⎣− 1 1 − 1⎥⎦
⎢⎣0 0 2⎥⎦
⎢⎣ 1 1 0⎥⎦
⎡2 0 0⎤ ⎡0 − 1 − 1⎤
⎢
⎥ ⎢
なお、Aのスペクトル分解は A = 2 I + ( A − 2 I ) = 0 2 0 + 0 1
1 ⎥⎥ であって、
⎢
⎥ ⎢
⎢⎣0 0 2⎥⎦ ⎢⎣0 − 1 − 1⎥⎦
11
⎡0 1 0 ⎤
⎢
⎥
この第2項をTで変換して T ( A − 2 I )T = 0 0 0 を得る。
⎢
⎥
⎢⎣0 0 0⎥⎦
−1
例2.
0 − 1⎤
⎡− 1 2
⎢1
2 − 1 − 2⎥⎥
⎢
A=
⎢− 1 − 1 0
1 ⎥
⎥
⎢
⎣ 2 6 − 2 − 5⎦
固有方程式 det( A − λI ) = (1 + λ ) = 0 より λ = −1 。
4
( A + I ) ≠ O, ( A + I ) 2 = O より λ = −1 の零化指数(=固有値 λ = −1 の標数)は2である。
ジョルダン鎖は {( A + I ) x1 , x1 ; ( A + I ) x2 , x2 } または {( A + I ) x1 , x1 ; y1 , y 2 } のタイプ、すなわ
ちAのジョルダン標準形は
⎤
⎡− 1 1
⎤
⎡− 1 1
⎥
⎢
⎥
⎢
−1
−1
⎥ のいづれかの形になる。
⎥ , または ⎢
⎢
⎥
⎢
⎢
−1
−1 1 ⎥
⎥
⎢
⎥
⎢
− 1⎦
− 1⎦
⎣
⎣
W1 = {x; ( A + I ) x = 0} の次元が2なら第1のタイプ、3次元なら第2のタイプとなる。
0
0 − 1⎤
2
0 − 1⎤
⎡0
⎡0
⎢
⎥
⎢1
1 − 1 − 1 − 2⎥⎥
3 − 1 − 2⎥
⎢
⎢
=2
= Rank
Rank ( A + I ) = Rank
⎢− 1 1
⎢− 1 − 1 1
1
1 ⎥
1 ⎥
⎥
⎢
⎥
⎢
⎣ 2 − 2 − 2 − 4⎦
⎣ 2 6 −2 4 ⎦
よって dim(W1 ) = Ker ( A + I ) = 4 − Rank ( A + I ) = 2 。Aの標準形は第1の形である。
各ジョルダン細胞のジョルダン鎖を求める。 ( A + I ) x ≠ 0 である線形独立な二つのベクト
ル x1 , x2 を取ると、 {( A + I ) x1 , x1}, (( A + I ) x2 , x2 } が二つのジョルダン鎖になる。
例えば x1 = (0,1,1,1), x2 = (0,1,0,1) と取ることができるので、 ( A + I ) x1 = (1,0,1,0)
t
t
t
( A + I ) x2 = t (1,1,0,2) 。従って標準化行列Tは
1
0 − 1⎤
0
0⎤
⎡1
⎡− 1 1
⎡1 0 1 0⎤
⎥
⎢− 1 − 1 1
⎢
⎢0 1 1 1 ⎥
1 ⎥
0 −1 0
0 ⎥⎥
−1
−1
⎢
⎢
⎥
⎢
T=
、これより T AT =
。
, T =
⎢ 0 −1 0
⎢ 0 0 −1 1 ⎥
⎢1 1 0 0⎥
1 ⎥
⎥
⎥
⎢
⎢
⎥
⎢
3 − 1 − 2⎦
⎣1
⎣ 0 0 0 − 1⎦
⎣0 1 2 1 ⎦
例3
12
⎡1 − 1 0
⎢0 0 0
A=⎢
⎢0 − 1 1
⎢
⎣0 0 0
1⎤
1⎥⎥
, 固有方程式 det( A − λI ) = λ2 (λ − 1) 2 = 0 より λ = 0, 1 。
1⎥
⎥
0⎦
A − I , ( A − I ) 2 ; A, A2 の階数の低下を調べる。
⎡0 1 0 − 2 ⎤
⎡0 − 1 0 1 ⎤
⎢0 1 0 − 2 ⎥
⎢0 − 1 0 1 ⎥
2
⎥ よりいずれも Rank は2である。
⎥
⎢
A− I =
, (A − I) = ⎢
⎢0 1 0 − 2 ⎥
⎢0 − 1 0 1 ⎥
⎥
⎢
⎥
⎢
⎣0 0 0 1 ⎦
⎣0 0 0 − 1⎦
( A − I )( E ) = ( A − I ) 2 ( E ) より固有値 λ = 1 の標数は1で一般固有空間はこの固有値の固有
t
空間に等しい。この部分については対角化可能で固有ベクトルとして例えば x1 = (1.0.0.0)
x2 = t (0,0,1,0) とする。次にAの階数は3であるが、
⎡1 − 1 0 0⎤
⎢0 0 0 0 ⎥
2
⎥ より Rank ( A2 ) = 2 、故に A( E ) ⊃ A2 ( E ) となり固有値0の標数は
A =⎢
⎢0 − 1 1 0 ⎥
⎥
⎢
⎣0 0 0 0 ⎦
k ≥ 2 である。他方 λ = 0 の重複度は m = 2 である。 k ≤ m = 2 より k = 2 となる。
従って、固有値 λ = 0 の固有空間は1次元で、一般固有空間は2次元である。Aの最小多項
2
式は Ψ (λ ) = λ (λ − 1) となる。またAのジョルダン標準形は
⎤
⎡0 1
⎥
⎢ 0
⎥ であり、固有値 λ = 0 に対するジョルダン鎖は A2 x = 0, Ax ≠ 0 となる
⎢
J=
⎢
1 ⎥
⎥
⎢
1⎦
⎣
x を一般固有空間から取って { Ax, x} を作ればよい。例えば x = t (0,0,0,1), Ax = t (1,1,1,0)
と取ると、標準化行列Tは最初の固有ベクトル x1 , x2 と共に並べて
⎡1 0 1 0⎤
⎢1 0 0 0⎥
⎥ となる。行列Aの一般スペクトル分解は最小多項式を用いて直接一般固
T =⎢
⎢1 0 0 1⎥
⎥
⎢
⎣0 1 0 0 ⎦
有空間への射影を計算する方が早い。
1
λ (λ − 1)
2
=−
1+ λ
λ
2
+
1
2
2
2
より 1 = (1 − λ )(1 + λ ) + λ 。g1 (λ ) = 1 − λ , g 2 (λ ) = λ とする。
λ −1
⎡0
⎢0
2
これより、 P1 = I − A = ⎢
⎢0
⎢
⎣0
1
1
1
0
0
0
0
0
0⎤
0⎥⎥
,
0⎥
⎥
1⎦
⎡1 − 1 0
⎢0 0 0
2
P2 = A = ⎢
⎢0 − 1 1
⎢
⎣0 0 0
13
0⎤
0⎥⎥
0⎥
⎥
0⎦
A = {0 ⋅ P1 + 1 ⋅ P2 } + { AP1 + ( A − I ) P2 } = P2 + AP1
⎡1 − 1 0
⎢0 0 0
=⎢
⎢0 − 1 1
⎢
⎣0 0 0
0⎤ ⎡0
0⎥⎥ ⎢⎢0
+
0 ⎥ ⎢0
⎥ ⎢
0 ⎦ ⎣0
0 0 1⎤
0 0 1⎥⎥
0 0 1⎥
⎥
0 0 0⎦
例4.
1 −1 1 ⎤
1 0 0 ⎥⎥
, 固有方程式 det( A − λI ) = λ (λ − 1) 3 = 0 より λ = 0, 1
0 1 − 1⎥
⎥
1 −1 1 ⎦
t
固有値 λ = 0 は単根で固有ベクトルとしては z = (0,0,1,1) が取れる。
⎡0 0 0 0 ⎤
⎡ 0 0 0 0⎤
⎡− 1 1 − 1 1 ⎤
⎢0 0 0 0 ⎥
⎥
⎢
⎥
⎢0 0 0
0 0 0 0⎥
0⎥
2
3
⎥
⎢
⎢
A− I =
,(A − I) = ⎢
,(A − I) =
⎢1 0 0 − 1⎥
⎢ − 1 0 0 1⎥
⎢ 1 0 0 − 1⎥
⎥
⎢
⎥
⎢
⎥
⎢
⎣1 0 0 − 1⎦
⎣ − 1 0 0 1⎦
⎣ 0 1 −1 0 ⎦
階数はそれぞれ、2、1、1である。従って λ = 1 の標数は2である。 λ = 1 の一般固有空間
⎡0
⎢0
A=⎢
⎢1
⎢
⎣0
⎡1 1 0 ⎤
⎢
⎥
は3次元なので、そのジョルダン細胞は 0 1 0 の形となる。ジョルダン鎖は
⎢
⎥
⎢⎣0 0 1⎥⎦
( A − I ) x ≠ 0 なる x を取って {( A − I ) x, x} 、および ( A − I ) y = 0 で ( A − I ) x と一次独立な
ベクトル {y} を取ればよい。例えば、 {( A − I ) x = (1,0,0,1), x = (0,1,0,0)} および
t
t
{ y = t (0,1,1,0)} が取れる。従って、標準化行列 T は
0⎤
⎡1 0 0
⎡1 1 0 0⎤
⎡1 0 0 0⎤
⎢− 1 1 − 1 1 ⎥
⎢0 1 0 0 ⎥
⎢0 1 1 0 ⎥
−1
−1
⎥
⎥。
⎢
⎥
⎢
T=
このとき T AT = ⎢
,T =
⎢ 1 0 1 − 1⎥
⎢0 0 1 0 ⎥
⎢0 0 1 1 ⎥
⎥
⎥
⎢
⎢
⎥
⎢
⎣− 1 0 0 1 ⎦
⎣0 0 0 0 ⎦
⎣1 0 0 1 ⎦
2
最小多項式は Ψ (λ ) = λ (λ − 1) である。
1
2−λ
1
=
+ , 1 = λ (2 − λ ) + (λ − 1) 2 より g1 (λ ) = λ (2 − λ ), g 2 (λ ) = (λ − 1) 2 。
2
2
(λ − 1)
λ
λ (λ − 1)
⎡0
⎢0
2
従って、 P2 = ( A − I ) = ⎢
⎢− 1
⎢
⎣− 1
0
0
0
0
0
0
0
0
0⎤
⎡1
⎢0
⎥
0⎥
, P1 = I − P2 = ⎢
⎢1
1⎥
⎢
⎥
1⎦
⎣1
14
0
1
0
0
0 0⎤
0 0 ⎥⎥
である。そして、
1 − 1⎥
⎥
0 0⎦
A = {1 ⋅ P1 + 0 ⋅ P2 } + {( A − I ) P1 + AP2 } = P1 + ( A − P1 )
⎡1
⎢0
=⎢
⎢1
⎢
⎣1
0 ⎤ ⎡− 1
1 0 0 ⎥⎥ ⎢⎢ 0
+
0 1 − 1⎥ ⎢ 0
⎥ ⎢
0 0 0 ⎦ ⎣− 1
0 0
1 − 1 1⎤
0 0 0⎥⎥
0 0 0⎥
⎥
1 − 1 1⎦
(λI − ϕ ) −1 の構造
§5
定理9.
線形変換 ϕ の異なる固有値を全部で λ1 , L λ r とする。固有値 λ i に対応する一般固有空間を
G i 、 G i への射影作用素を p i 、また λ i の標数を k i とするとき、 (λ I − ϕ ) −1 は λ の有理関数
でその部分分数展開は次式で与えられる。
r ⎛ kj
(ϕ − λ i I ) j −1 ⎞
⎟o pj
(5.1) (λ I − ϕ ) −1 = ∑ ⎜⎜ ∑
j ⎟
i =1 ⎝ j =1 ( λ − λ i )
⎠
<証明>
r
r
i =1
i =1
I = ∑ p i より ϕ − λI = ∑ (ϕ − λI ) o p i
⎛
ϕ − λi I ⎞
⎟ o pi
(5.2) (ϕ − λI ) o p i = (ϕ − λi I ) o p i + (λi − λ ) p i = (λi − λ )⎜⎜ I −
λ − λi ⎟⎠
⎝
k i −1
⎛ ϕ − λi I ⎞ ⎫⎪
1 ⎧⎪ ⎛ ϕ − λi I ⎞
⎟ + L + ⎜⎜
⎟ ⎬ o p i として、 q i を(5.2)に掛けると
ここで q i =
⎨I + ⎜
λi − λ ⎪ ⎜⎝ λ − λi ⎟⎠
λ − λi ⎟⎠ ⎪
⎝
⎭
⎩
q i は ϕ の多項式なので可換、よって Gi = p i (E ) 上では (ϕ − λi I ) ki = 0 に注意すると
⎧⎪ ⎛ ϕ − λ I ⎞ ki ⎫⎪
i
⎟⎟ ⎬ o p i = p i 。
(ϕ − λI ) o p i o q i = ⎨ I − ⎜⎜
⎪⎩ ⎝ λ − λi ⎠ ⎪⎭
r
r
i =1
i =1
i について加えると (ϕ − λI ) o (∑ p i o q i ) = ∑ p i = I 。
従って
(λI − ϕ )
−1
⎧ 1
ϕ − λi I
(ϕ − λi I ) ki −1 ⎫
= −∑ p i o qi = ∑ ⎨
+
+L+
⎬ o pi
(λ − λi ) 2
(λ − λ i ) ki ⎭
i =1
i =1 ⎩ λ − λ i
r
r
固有値 λi の標数 k i は (λI − ϕ ) という有理関数の特異点 λi の極としての位数を表わす。
−1
15
系 9.1
(λI − ϕ ) −1 =
D (λ )
, ここで Ψ (λ ) は ϕ の最小多項式、 D (λ ) は線形変換を係数とする λ の
Ψ (λ )
多項式で、それらの係数は全て ϕ の多項式である。そして D (λ ) と Ψ (λ ) は既約である。
<証明>
式(5.1)の右辺を通分すると
D (λ )
の形で D (λ ) は ϕ の多項式を係数とする λ の多項式にな
Ψ (λ )
る。従って D (λ ) と Ψ (λ ) がλの多項式として既約であることを示す。
Ψ (λ )(λI − ϕ ) −1 = D (λ ), Ψ (λ ) = (λ − λ1 ) k1 L (λ − λ r ) k r よ り D (λi ) ≠ 0 (i = 1,..., r ) を 言
えばよい。(5.1)の両辺に Ψ (λ ) を掛けると D (λ ) =
⎞
⎛ ki
⎜ ∑ (λ − λi ) ki −1 (ϕ − λi I ) j −1 ⎟ o p i 、
∑
⎟
⎜
i =1 ⎝ j =1
⎠
r
Gi 上で (ϕ − λi I ) ki −1 ( x ) ≠ 0 となる x ∈ Gi が存在するので D (λi ) = (ϕ − λi I ) ki −1 o p i ≠ 0 。
系 9.1 を行列で言うと次の定理を得る。
定理10
n 次正方行列 A の固有方程式を Φ (λ ) 、 A − λI のすべての n − 1 次小行列式の、λの多項
式としての最大公約数を d (λ ) 、A の最小多項式を Ψ (λ ) とすると
Ψ (λ ) =
Φ (λ )
。
d (λ )
<証明>
n
Φ (λ ) = det( A − λI ) を第1行について余因子展開すると Φ (λ ) = ∑ a1 j (λ ) Δ 1i (λ ) 。 Δ 1i (λ )
i =1
は余因子で n − 1 次小行列式なので d (λ ) を共通因子として持つ。従って Φ (λ ) は
d (λ ) で割り切れる。 A − λI の逆行列は
( A − λI ) −1 =
D (λ )
( A − λI )の余因子行列 d (λ ) D (λ )
=
=
det( A − λI )
Φ (λ )
Φ (λ ) d ( λ )
分子の行列の各要素は共通因子を持たないので、どのような λ の値についても0行列には
ならない。よって系 9.1 より Ψ (λ ) =
Φ (λ )
。
d (λ )
例5.
16
2
3⎤
⎡0 2 3 ⎤
⎡λ − 2
⎢
⎢
⎥
A = ⎢0 − 1 0⎥ について、 A − λI の余因子行列は B (λ ) = (λ + 1) ⎢ 0
λ − 3 0 ⎥⎥ 。
⎢⎣1 2 2⎥⎦
⎢⎣ 1
2
λ ⎥⎦
(λ + 1) 2 (λ − 3)
det( A − λI ) = −(λ + 1) (λ − 3) より最小多項式は Ψ (λ ) =
= (λ + 1)(λ − 3) 。
(λ + 1)
2
§6.正規変換、エルミート変換、ユニタリー変換
6.1
複素線形空間における内積、エルミート変換、ユニタリー変換
内積 < x, y > ; x, y ∈ E は次の3つの条件を満たす
① < x1 + x 2 , y >=< x1 , y > + < x 2 , y >,
② < y , x >= < x, y >
< λx, y >= λ < x, y >
(複素共役)
③ < x, x > ≥ 0, かつ < x, x >= 0 は x = 0 のときのみ成立する。
ベクトル x ∈ E の長さを x =
< x, x > で定義する。
定義4
複素線形空間Eの線形変換 ϕ がエルミート変換 ⇔ < ϕ ( x ), y >=< x, ϕ ( y ) >
複素線形空間Eの線形変換 ϕ がユニタリー変換 ⇔ < ϕ ( x ), ϕ ( y ) >=< x, y >
定理11 複素線形空間Eにおいて
(1) ϕ がエルミート変換 ⇔ 任意の x ∈ Eについて < x, ϕ ( x ) > が実数
(2) ϕ がユニタリー変換 ⇔ 任意の x ∈ Eについて ϕ ( x ) = x 。
<証明>
必要性:(1) < ϕ ( x ), x >=< x, ϕ ( x ) > 、他方 < ϕ ( x), x >= < x, ϕ ( x ) > なので < x, ϕ ( x ) >
は実数。
(2) < ϕ ( x ), ϕ ( x ) >=< x, x > より ϕ ( x ) = x
十分性:(1)任意の x, y ∈ E について < x + y , ϕ ( x + y ) > が実数ならば
< x + y , ϕ ( x + y ) >= < x + y, ϕ ( x + y ) > =< ϕ ( x + y ), x + y >
これより
< x + y , ϕ ( x ) + ϕ ( y ) >=< ϕ ( x ) + ϕ ( y ), x + y > 。 < x, ϕ ( x ) >=< ϕ ( x), x > などより
17
< y , ϕ ( x ) > + < x, ϕ ( y ) >=< ϕ ( x ), y > + < ϕ ( y ), x > 。 < y, ϕ ( x ) >= < ϕ ( x ), y > を用いて
< ϕ ( x ), y > −< ϕ ( x ), y > =< x, ϕ ( y ) > −< x, ϕ ( y ) > 。複素数zについて
整頓すると
z − z = 2 Im( z ) なので
2 Im < ϕ ( x ), y >= 2 Im < x, ϕ ( y ) > 。
今までの計算をベクトル ix と y について行うと
i < ϕ ( x ), y > +i < ϕ ( x ), y > = i < x, ϕ ( y ) > +i < x, ϕ ( y ) > 、 i で割ると
< ϕ ( x), y > + < ϕ ( x), y > =< x, ϕ ( y ) > + < x, ϕ ( y ) > 、これより複素数の実数部の等式
2 Re < ϕ ( x), y >= 2 Re < x, ϕ ( y ) > が成り立ち、以上より < ϕ ( x ), y >=< x, ϕ ( y ) > 。
(2) < ϕ ( x + y ), ϕ ( x + y ) >=< x + y , x + y > より展開して整理すると
< ϕ ( x ), ϕ ( y ) > + < ϕ ( y ), ϕ ( x ) >=< x, y > + < y , x > 。
これから
Re < ϕ ( x ), ϕ ( y ) >= Re < x, y > 。同じことを ix と y について行うと
i{< ϕ ( x ), ϕ ( y ) > − < ϕ ( y ), ϕ ( x ) >} = i{< x, y > − < y, x >} 、これより
Im < ϕ ( x ), ϕ ( y ) >= Im < x, y > 、以上より < ϕ ( x ), ϕ ( y ) >=< x, y > 。
6.2
共役変換
ϕ : ϕ の共役変換 ⇔ < ϕ ( x), y >=< x, ϕ * ( y ) >
*
定理12 共役変換は次の性質を持つ。
(1) (ϕ1 + ϕ 2 ) * = ϕ1 + ϕ 2
*
(2) (λϕ ) * = λϕ *
*
(3) (ϕ1 o ϕ 2 )* = ϕ 2 o ϕ1
*
(4) (ϕ ) = ϕ
*
* *
(5) (ϕ ) = (ϕ )
−1 *
* −1
<証明>
(1)(2)
(4)は明らか。
(3) < x, (ϕ1 o ϕ 2 )* ( y ) >=< ϕ1 o ϕ 2 ( x ), y >=< ϕ 2 ( x ), ϕ1 ( y ) >=< x, ϕ 2 o ϕ1 ( y ) >
*
*
*
(5)任意の x, y について < x, (ϕ ) ( y ) >=< x, (ϕ ) ( y ) > を言えばよい。 ϕ ( x) = z と
−1 *
−1
* −1
すると x = ϕ (z ) 。よって < x, (ϕ ) ( y ) >=< ϕ ( z ), (ϕ ) ( y ) >=< ϕ
o ϕ ( z ), y >=< z , y > 。
他方 < x, (ϕ ) ( y ) >=< ϕ ( z ), (ϕ ) ( y ) >=< z , ϕ o (ϕ ) ( y ) >=< z , y > となり証明された。
−1 *
* −1
−1 *
* −1
*
定理13 (1) ϕ がエルミート変換 ⇔ ϕ = ϕ
*
18
−1
* −1
; ϕ がユニタリー変換 ⇔ ϕ = ϕ
*
−1
(2)1つの正規直交基底による ϕ の表現行列が A のとき、ϕ の表現行列は A 。
*
t
<証明>(1)は定義より明らか。
(2) 正規直交基底を取ると内積は < x, y >= x ⋅ y と表わせる。
t
従って、 < ϕ ( x), y >=< x, ϕ ( y ) > より
*
t
ϕ , ϕ * の表現行列を A, A* とすると
( Ax) ⋅ y = t x ⋅ A* y 、すなわち t x t Ay = t x A* y 。これより t A = A* , A* = t A となる。
エルミート行列は A = A,
t
6.3
−1
ユニタリー行列は A = A を満たす行列である。
t
エルミート変換の固有値問題
定理14 Eを複素ユークリッド線形空間、 ϕ をその上のエルミート変換とする。
(1) ϕ の固有値はすべて実数である。
(2)異なる固有値に対応する固有ベクトルは互いに直交する。
<証明>(1) ϕ ( x) = λx, ( x ≠ 0) とすると
λ x =< λx, x >=< ϕ ( x), x >=< x, ϕ ( x) >=< x, λx >= λ x よって λ は実数。
2
2
(2) ϕ ( x) = λx,
ϕ ( y ) = μ y (λ ≠ μ ) とする。
λ < x, y >=< λx, y >=< ϕ ( x), y >=< x, ϕ ( y ) >=< x, μ y >= μ < x, y >= μ < x, y >
(λ − μ ) < x, y >= 0, λ ≠ μ より < x, y >= 0 。
定理15
ϕ をエルミート変換とするとき、ある線形部分空間Fが ϕ − 不変なら F ⊥ も
ϕ − 不変である。
<証明>任意の元 y ∈ F を取る。Fの任意の元 x につき ϕ ( x) ∈ F なので
⊥
< x, ϕ ( y ) >=< ϕ ( x), y >= 0 、従って ϕ ( y) ∈ F ⊥ 。
定理16
エルミート変換 ϕ の異なる固有値を全部で λ1 ,..., λr とし、各 λi に対応する固有
空間を Fi (i = 1, L , r ) とすると E = F1 ⊕ L ⊕ Fr
<証明>
(直和)。
定理1の特別な場合になる。
系 16.1 エルミート変換 ϕ に対し、互いに直交する正射影の組 p1 , L p r が一意に決まり
ϕ = λ1 p1 + L + λr pr ,
I = p1 + L + p r が成り立つ。
<証明> 各固有空間 Fi への正射影を pi と置けば良く、この決め方は一意である。
系 16.2
逆に直交する正射影の組 p1 , L p r があって、 I = p1 + L + p r が成り立つとき、
任意の実数 λ1 , L , λr をとって ϕ = λ1 p1 + L + λr p r と置くと ϕ はエルミート変換で
19
ある。 λi は固有値で、 pi ( E ) は λi に対応する固有空間である。
定義5
r
∑λ
エルミート変換 ϕ が半正定値 ⇔< x, ϕ ( x ) >=
i =1
i
pi ( x ) ≥ 0 が全ての x について成り立つ。
⇔ 全ての固有値 λi ≥ 0
⇔ 全ての固有値 λi > 0
エルミート変換 ϕ が正定値
定理17
任意の線形変換 ϕ に対し、 ϕ o ϕ 及び ϕ o ϕ は半正定値エルミート変換である。
*
*
これらが正定値となるための必要十分条件は ϕ が正則であることである。
<証明>
任意のベクトル x に対し < x, ϕ o ϕ ( x) >=< ϕ ( x), ϕ ( x) > ≥ 0 なので定理
*
より
半正定値エルミート変換である。ϕ o ϕ が正定値になるためには ϕ ( x) = 0 から x = 0 が従
*
うことが必要十分である。すなわち、 ϕ が全単射であることが必要十分である。
6.4
正規変換、ユニタリー変換の固有値問題
線形変換 ϕ が正規変換である ⇔ ϕ o ϕ = ϕ o ϕ
*
定義6
*
(例:エルミート変換、ユニタリー変換)
正規変換 ϕ の1つの固有値をλ、対応する固有ベクトルの1つを x ( ≠ 0) と
定理18
すると ϕ ( x ) = λ x
*
<証明>正規変換 ϕ について
ϕ ( x ) =< ϕ ( x ), ϕ ( x ) >=< x, ϕ * o ϕ ( x ) >=< x, ϕ o ϕ * ( x) >=< ϕ * ( x ), ϕ * ( x) >= ϕ * ( x)
2
ϕ が正規のとき ϕ − λI も正規変換である。なぜなら
(ϕ − λI )* o (ϕ − λI ) = (ϕ * − λ I ) o (ϕ − λI ) = ϕ * o ϕ − λϕ * − λ ϕ + λλ I
= ϕ o ϕ * − λϕ * − λ ϕ + λλ I = (ϕ − λI ) o (ϕ * − λ I ) = (ϕ − λI ) o (ϕ − λI )*
従って (ϕ − λI ) x
定理19
2
2
= (ϕ * − λ I ) x = 0 。
正規変換 ϕ の異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交する。
<証明> ϕ ( x ) = λx, ϕ ( y ) = μ y (λ ≠ μ ) とする。
λ < x, y ) =< λx, y >=< ϕ ( x ), y >=< x, ϕ * ( y ) >=< x, μ y >= μ < x, y >
ゆえに (λ − μ ) < x, y >= 0 、よって < x, y >= 0
20
2
定理20
正規変換 ϕ の1つの固有空間をFとするとき、 F は ϕ − 不変である。
⊥
<証明>任意の x ∈ F ⊥ , y ∈ F に対し、 < x, y >= 0 なので
< ϕ ( x ), y >=< x, ϕ * ( y ) >=< x, λ y >= λ < x, y >= 0 となる。すなわち ϕ ( x) ∈ F ⊥ で
F ⊥ は ϕ − 不変である。
定理21
正規変換 ϕ の異なる固有値を全部で λ1 ,..., λr とし、各 λi に対応する固有空間を
Fi (i = 1, L , r ) とすると E = F1 ⊕ L ⊕ Fr
(直和)。
<証明>定理1の特別な場合になる。
以上をまとめると次の定理となる。
定理22
線形変換 ϕ について次の3つの条件は互いに同値である。
(1) ϕ は正規である。 ϕ o ϕ = ϕ o ϕ
*
(2) ϕ ( x ) = λx なら
*
ϕ * ( x) = λ x 。
(3)互いに直交する正射影の組 p1 , L , p r が存在して、 ϕ = λ1 p1 + L + λr p r 、
I = p1 + L + p r と表わせる。すなわち ϕ はスペクトル分解できる。
定理23
線形変換 ϕ がユニタリー変換であるための必要十分条件は、 ϕ が正規であっ
て、 ϕ の固有値の絶対値が全て1であることである。
<証明> ϕ がユニタリーなら正規は自明、固有値の絶対値が全て1であることを示す。
ϕ ( x ) = λx なら λ < x, x >= λλ < x, x >=< λx, λx >=< ϕ ( x ), ϕ ( x ) >=< x, x >
2
従って、< x, x >≠ 0 より λ = 1 である。逆に ϕ が正規で固有値の絶対値が全て1であれば、
定理22より ϕ = λ1 p1 + L + λr p r , λi = 1 (i = 1,.., r ),
I = p1 + L + p r と表わせる。
従って任意のベクトル x, y について
r
r
i =1
j =1
< ϕ ( x ), ϕ ( y ) >=< ∑ λi pi ( x ), ∑ λ j p j ( y ) > =
r
r
i =1
i =1
r
r
i , j =1
i =1
∑ λi λ j < x, pi o p j ( y ) >= ∑ λi < x, pi ( y ) >
2
= ∑ < x, pi ( y ) >=< x, ∑ pi ( y ) >=< x, y > より ユニタリー変換 。
定理24
(正規変換の極表示)
正則な正規変換 ϕ は、互いに可換な正定値エルミート
変換とユニタリー変換の積として一意に表わせる。逆にそのような変換は正則な正
規変換に限る。
<証明>
21
定理22より ϕ = λ1 p1 + L + λr p r と表わせる。各 λ j を λ j = λ j exp(iθ j ) , i =
す。 ϕ は正則なので λ j ≠ 0 。従って h = λ1 p1 + L + λr p r , u = e
iθ1
− 1 と表わ
p1 + L + e iθ r p r と置く
と、 hとu は可換、 h は正定値エルミート変換で u はユニタリー変換である。そして
⎛ r
⎞ ⎛ r
⎞
h o u = ⎜⎜ ∑ λ j p j ⎟⎟ o ⎜ ∑ e iθ k p k ⎟ =
⎠
⎝ j =1
⎠ ⎝ k =1
r
r
∑ λ j e iθ p j o p k = ∑ λ j e p j = ϕ 。
iθ j
k
j , k =1
j =1
逆に、h を正定値エルミート変換、u をユニタリー変換で hとu は可換とすると ϕ = h o u は
ϕ * o ϕ = (h o u )* o (h o u ) = u * o h * o h o u = (u * o u ) o h 2 = h 2
ϕ o ϕ * = (h o u ) o (h o u )* = h o u o u * o h * = h 2
∴ϕ * o ϕ = ϕ o ϕ *
分解の一意性:二通りの分解 ϕ = h1 o u1 = h2 o u 2 があったとすると、 ϕ o ϕ * = h1 = h2 。
2
2
h1 , h2 のスペクトル分解を h1 = μ1 p1 + L + μ r pr , h2 = ν 1q1 + L + ν 2 q s ( μ i > 0,ν i > 0)
とすると h1 = h2 より μ1 p1 + L + μ r p r = ν 1 q1 + L + ν s q s 、スペクトル分解の一意性か
2
2
2
2
2
2
ら r = s 、かつ適当に順番を読み替えると pi = qi , μ i = ν i 。故に h1 = h2 、従って u1 = u 2 。
6.5
正規変換の関数
λの多項式 f (λ ) = a0 λn + a1λn −1 + L a n に対して、 f (ϕ ) = a0ϕ n + a1ϕ n −1 + L + a n I
とする。 ϕ が正規変換でそのスペクトル分解が ϕ = λ1 p1 + L + λr p r であるとき、
射影の性質より ϕ 2 = λ1 p1 + L + λr p r ,..., ϕ n = λ1 p1 + L + λr p r である。
2
2
n
n
これより f (ϕ ) = f (λ1 ) p1 + L + f (λr ) p r となる。任意の連続関数 g (λ ) についても
g (ϕ ) = g (λ1 ) p1 + L + g (λr ) pr と定義する。ただし、関数 g (λ ) の定義域に固有値 λi が全て
含まれるとする。例えば λ = 0 を固有値に持たない ϕ について、ϕ −1 =
1
λ1
p1 + L +
1
λr
pr 。
実は g (ϕ ) は ϕ の多項式で表わすことができる。すなわち f (λi ) = g (λi ) (i = 1,2,.., r ) が成
り立つ多項式 f (λ ) を取ってくると g (ϕ ) =
r
∑ f (λ ) p
i
i =1
i
= f (ϕ ) が成り立つ。このような多項
r
式 f (λ ) として、例えば f (λ ) =
r
∑ g (λ )
i =1
i
∏ (λ − λ )
j
j =1,( j ≠ i )
r
∏ (λ
j =1,( j ≠ i )
22
と取ればよい。
i
− λj)
6.6
ケーリー変換
関数 z =
1 − it
;t
( は実数)において、常に z = 1 である。tが − ∞ から + ∞ まで変わると
1 + it
きzは z = −1 を除く単位円周上を正の方向に一周する。逆関数は t =
1 1− z
である。
×
i 1+ z
この対応に相当することがエルミート変換とユニタリー変換の間に成り立つ。
定義7
(6.1)
任意のエルミート変換 τ に対し、
u = ( I − iτ )( I + iτ ) −1 を τ のケーリー変換という。
定理25
(1) τ のケーリー変換 u はユニタリーであって、 − 1 は u の固有値でない。そして
(6.2)
1
i
τ = ( I − u )( I + u ) −1
が成立する。
(2)逆に − 1 を固有値に持たない任意のユニタリー変換 u に対し(6.2)で τ を定義すると τ
はエルミート変換で、 τ のケーリー変換は u に等しい。
<証明>(1) τ のスペクトル分解を τ = λ1 p1 + L + λr p r とすると
u=
1 − iλ j
1 − iλ1
1 − iλ r
p r で、
= 1 ( j = 1, L , r ) だから、 u はユニタリーであ
p1 + L +
1 + iλ 2
1 + iλ r
1 + iλ j
る。また
1 − iλ j
1 + iλ j
≠ −1 だから − 1 は u の固有値でない。(6.1)から τ を解くと(6.2)を得る。
逆に、 u = α 1 p1 + L + α r p r ( α j = 1, α j ≠ −1, j = 1, L , r ) とすると、
1 1 − α1
1 1− αr
1 1−α j
が全て実数だからエル
p1 + L + ⋅
p r はその係数(固有値) ⋅
i 1+α j
i 1 + α1
i 1+ αr
τ= ⋅
ミート変換である。(6.2)を逆に解くと(6.1)を得るので τ のケーリー変換は u である。
定理24で正規変換の極表示 ϕ = h o u が得られたが、 h と u の可換性を期待しなければ、
一般の線形変換についても同様な表示が得られる。
定理26 (線形変換の極表示)
任意の線形変換 ϕ は ϕ = u o h = k o v
と表わすことができる。ただし、 h, k は半正定値エ
ルミート変換、 u , v はユニタリー変換である。
<証明> ϕ が正則の場合:
定理17より ϕ o ϕ は正定値エルミート変換なので、スペク
*
23
トル分解できて ϕ o ϕ = λ1 p1 + L + λr p r , I = p1 + L p r (ただし λi > 0 )と書ける。
*
そこで h =
λ1 p1 + L + λr p r と置くと h は正定値エルミート変換で h 2 = ϕ * o ϕ を満た
す。そこで u = ϕ o h はユニタリー変換であることを示す。実際、
−1
u * o u = (ϕ o h −1 )* o (ϕ o h −1 ) = (h * ) −1 o ϕ * o ϕ o h −1 = h −1 o h 2 o h −1 = I となる。
これより ϕ = u o h が成り立つ。同様に ϕ に以上の議論を当てはめると ϕ = v o k
*
*
(vはユニタリー、 kはエルミート) 、よって ϕ = (ϕ * )* = (v o k )* = k * o v * = k o v *
v * もユニタリーなので第2の式も得られた。
ϕ が正則でない場合: ϕ * o ϕ は半正定値エルミートなので、 h = ϕ * o ϕ も半正定値。
−1
⊥
よって h が作れないので次のような工夫をする。 h( E ) = F とおき、 E = F ⊕ F と直和
分解しておく。任意の y ∈ F は y = h(x) の形にかける。 x は一意ではないが、そのような
どんな x についても ϕ (x) は一意にきまる。なぜなら、 y = h( x1 ) = h( x2 ) とすると
h( x) =< h( x), h( x) >=< x, h 2 ( x) >=< x, ϕ * o ϕ ( x) >=< ϕ ( x), ϕ ( x) >= ϕ ( x) より
2
2
h( x1 − x2 ) = 0 なので h( x1 − x2 ) = ϕ ( x1 − x2 ) = 0 。すなわち ϕ ( x1 ) = ϕ ( x2 ) が成り立つ。
そこで u ( y ) = ϕ ( x) (ただし、 x は y = h(x) を満たす元)と定義する。これは ϕ が正則のと
き ϕ o h に相当する写像である。 u は h( E ) = F から ϕ (E ) への線形写像であって、
−1
u ( y ) = ϕ ( x) = h( x) = y なので長さを変えない。従って u ( y ) = 0 なら y = 0 、すなわち
u は単射である。また任意の z ∈ ϕ (E ) は z = ϕ ( x), x ∈ E と書けるので、 y = h(x) と置くと
z = u ( y ) すなわち、 u は全射である。よって h( E ) = F と ϕ (E ) は線形部分空間として同型
である(注意:同一ではない)。そこで、残りの h(E ) と ϕ (E ) (これらも同型)を適当な
⊥
⊥
方法で1対1、等長に対応させてやる。方法は無数にあるのでその内の1つを取ればよい。
⊥
それを u とする。任意の y ∈ E に対して y = y1 + y 2 ( y1 ∈ h( E ), y 2 ∈ h( E ) ) と分解して
u ( y ) = u ( y1 ) + u ( y 2 ) と置けば、 u ( y ) = u ( y1 ) + u ( y 2 ) = y1 + y 2 = y より u はユ
2
2
2
2
2
2
ニタリー変換である。最後に、任意のベクトル x に対し、 u o h( x) = u ( y ) = ϕ ( x) となり
ϕ = u o h が成立している。 ϕ = k o v の形の分解は正則な場合と同様に示せる。
定理27 (同時対角化)
ϕ1 , L , ϕ m を正規変換とする。互いに直交する正射影 p1 , L , p r によって、同時に
ϕ j = λ j 1 p1 + L + λ j r p r ( j = 1, L , m) と表されるための必要十分条件は ϕ i o ϕ j = ϕ j o ϕ i
24
(i, j = 1, L , m)
<証明>必要性は明らかなので十分性を示す。 m = 2 の場合を考える。 ϕ1 o ϕ 2 = ϕ 2 o ϕ1 と
する。スペクトル分解を ϕ1 = λ1 p1 + L + λr p r , ϕ 2 = μ1q1 + L + μ s q s とする。
pi , q j はそれぞれ ϕ1 , ϕ 2 の多項式で表されるので、また互いに可換である。従って、 pi o q j
も正射影となる。そして ϕ1 = λ1 p1 o ( q1 + L + q s ) + L + λr p r o ( q1 + L + q s ),
ϕ 2 = μ1q1 o ( p1 + L + pr ) + L + μ s q s o ( p1 + L + p r ) は正射影 { pi o q j ; i = 1,.., r ,
j = 1,.., s} による表示式である。 pi o q j ( i = 1,.., r , j = 1,.., s ) は互いに直交しており、
s
r
∑∑ p
j =1 i =1
i
⎞
⎛ r
⎞ ⎛ s
o q j = ⎜ ∑ pi ⎟ o ⎜⎜ ∑ q j ⎟⎟ = I o I = I となっている。故に m = 2 のとき成り立つ。
⎝ i =1 ⎠ ⎝ j =1 ⎠
一般の場合は数学的帰納法を用いる。ここで ϕ j = λ j 1 p1 + L + λ j r p r ( j = 1, L , m) と表さ
れるとき、ここに現れる λ jk はすべて異なるとは限らない。
§7.線形変換の正則関数
複素平面のある領域Ωで一価正則な複素関数 f (λ ) (λは複素数)
) を考える。
f ( z) =
1
f (λ )
dλ ,
∫
2πi C λ − z
f
(k )
( z) =
k!
f (λ )
dλ 、Cはzを囲むΩ内の単一閉曲線。
∫
2πi C (λ − z ) k +1
定義8.
線形空間E上の線形変換 ϕ 、および ϕ のすべての固有値を含む複素数平面上の領域Ωで
一価正則な複素関数 f (λ ) が与えられたとき ϕ の関数 f (ϕ ) を次式で定義する。
f (ϕ ) =
1
(λI − ϕ ) −1 f (λ ) dλ
2πi ∫C
、Cは ϕ の全ての固有値を含むΩ内の閉曲線。
定理9より (λI − ϕ ) −1 の表現を使うと
(7.1) f (ϕ ) =
r ⎛ ki
⎞
f (λ )
1
1
−1
⎜∑
−
=
I
f
d
λ
ϕ
λ
λ
dλ × (ϕ − λi I ) j −1 ⎟⎟ o pi
(
)
(
)
∑
j
∫
∫
⎜
C
C
( λ − λi )
2πi
i =1 ⎝ j =1 2πi
⎠
r ⎛ ki
⎞
f ( j −1) (λi )
= ∑ ⎜⎜ ∑
(ϕ − λi I ) j −1 ⎟⎟ o pi
i =1 ⎝ j =1 ( j − 1)!
⎠
例6
f (λ ) ≡ 1 のとき、
25
r ⎛ ki
⎞
1
1
−1
⎜∑
λ
I
ϕ
d
λ
dλ × (ϕ − λi I ) j −1 ⎟⎟ o pi
−
=
(
)
∑
j
∫
∫
⎜
C
C
(λ − λi )
2π i
i =1 ⎝ j =1 2π i
⎠
1
j = 1 以外の項はすべて0なので
r
= ∑ pi = I 。
i =1
f (λ ) ≡ λ のとき
例7
r ⎛ ki
⎞
1
λ
j −1
−1
⎜∑
⎟ o pi
λ
I
ϕ
λ
d
λ
d
λ
(
ϕ
λ
I
)
−
=
×
−
(
)
∑
i
j
∫
∫
⎜
⎟
C (λ − λ )
2π i C
i =1 ⎝ j =1 2π i
i
⎠
1
j = 1, 2 以外はすべて0となり
すなわち ϕ =
1
2π i ∫
C
r
r
i =1
i =1
= ∑ (λi I + (ϕ − λi I ) ) o pi = ∑ ϕ o pi = ϕ 。
(λI − ϕ ) −1λdλ 。
f (λ ) ≡ λm のとき
例8.
r ⎛ ki
⎞
1
λm
−1 m
⎜
λ
I
ϕ
λ
d
λ
dλ × (ϕ − λi I ) j −1 ⎟⎟ o pi
−
=
(
)
∑
∑
j
∫
∫
⎜
C
C
(λ − λi )
2π i
i =1 ⎝ j =1 2π i
⎠
1
⎧⎛ m ⎞
f ( j −1) (λi ) ⎪⎜⎜
λm
⎟⎟λi m− j +1 (1 ≤ j ≤ m + 1)
=
=
d
λ
留数の定理より
⎨⎝ j − 1⎠
2π i ∫C (λ − λi ) j
( j − 1)!
⎪
1
( j > m + 1)
⎩ 0
r ⎛ m +1
⎞
⎛ m ⎞ m− j +1
−1 m
⎜ ∑ ⎜⎜
⎟⎟λi
(
−
)
=
(ϕ − λi I ) j −1 ⎟⎟ o pi
λ
ϕ
λ
λ
I
d
∑
∫
⎜
2π i C
i =1 ⎝ j =1 ⎝ j − 1⎠
⎠
1
よって
r
r
i =1
i =1
= ∑ (λi I + (ϕ − λi I )) m o pi = ∑ ϕ m o pi = ϕ m
f (λ ) ≡
例9.
1
2π i ∫C
1
λ
のとき
(λI − ϕ ) −1
r ⎛ ki
⎞
1
1
dλ = ∑ ⎜⎜ ∑
dλ × (ϕ − λi I ) j −1 ⎟⎟ o pi
j
∫
C
λ
(λ − λi ) λ
i =1 ⎝ j =1 2π i
⎠
1
留数の定理より
f ( j −1) (λi ) ⎛ − 1 ⎞ − j
⎟⎟λi = (−1) j −1 λi − j ( j = 1,2,...) 。
= ⎜⎜
dλ =
j
∫
C
2π i (λ − λi ) λ
( j − 1)!
⎝ j − 1⎠
1
1
26
⎛ ki 1 ⎛ ϕ − λ I ⎞ j −1 ⎞
i
⎟⎟ ⎟ o pi
(λ I − ϕ )
dλ = ∑ ⎜ ∑ ⎜⎜
⎜
λ
2π i ∫C
λ
λ
−
i =1
i
⎠ ⎟⎠
⎝ j =1 i ⎝
r
r
ϕ − λi I −1
1
= ∑ (I +
) o pi = ∑ ϕ −1 o pi = ϕ −1
1
−1
r
1
i =1
λi
λi
i =1
定理28
ϕ の異なる固有値を λ1 ,L λ r とし、それらの標数を k i (i = 1,L r ) とする。正則関数 f (λ )
に対しある多項式 g (λ ) が f
( j −1)
(λi ) = g ( j −1) (λi ) ; j = 1,.., k i
i = 1, L, r を満たすならば
f (ϕ ) = g (ϕ ) である。
<証明>
十分性は上の表現定理より明らかである。必要性すなわち f (ϕ ) = g (ϕ ) (gは多項式)な
らば f
( j −1)
(λi ) = g ( j −1) (λi ) ; j = 1,.., k i
多項式であり、 f
( j −1)
i = 1, L, r であることを示す。式(7.1)で pi は ϕ の
(λ j ) は 数 な の で (7.1) の 右 辺 は ϕ の 多 項 式 で あ る 。 従 っ て 、
f (ϕ ) = P(ϕ ) となる λ の多項式 P(λ ) が存在する。n次の多項式 g (λ ) を λ = λi の周りにテ
g ( j −1) (λi )
ーラー展開すると g (λ ) = ∑
(λ − λ j ) j −1 。(7.1)より x ∈ Gi のとき
j =1 ( j − 1)!
n +1
g ( j −1) (λi )
g (ϕ )( x) = ∑
(ϕ − λi I ) j −1 ( x) 。故に f (ϕ ) = g (ϕ ) ならば x ∈ Gi について
j =1 ( j − 1)!
ki
f (ϕ )( x) = g (ϕ )( x) が成り立つ。 (ϕ − λi I ) ki −1 ( x) ≠ 0 となる x ∈ Gi が存在し
x, (ϕ − λi I )( x),L, (ϕ − λi I ) ki −1 ( x) は一次独立。よって f ( j −1) (λi ) = g ( j −1) (λi ) が j = 1,.., k i
について成り立つ。 i は任意なので i = 1,2,..., r について成り立つ。
系 28-1
(1) f (ϕ ) の固有値は重複度も含めて f (λ1 ), L , f (λ r ) である。
(2) f (λi ) に対応する一般固有空間は λi に対応する一般固有空間に等しい。
<証明>
(1) ϕ ( x) = λi x ならば f (ϕ )( x) = f (λi ) x より f (λ1 ),L , f (λ r ) は f (ϕ ) の固有値。
(7.1)より
27
ki
r ⎛ ki
r ⎡
⎞
⎤
f ( j −1) (λi )
f ( j −1) (λi )
f (ϕ ) = ∑ ⎜⎜ ∑
(ϕ − λi I ) j −1 ⎟⎟ o pi = ∑ ⎢ f (λi ) + ∑
(ϕ − λi I ) j −1 ⎥ o pi
i =1 ⎝ j =1 ( j − 1)!
i =1 ⎣
j = 2 ( j − 1)!
⎠
⎦
r
f (ϕ )( x) = λx ならば x = ∑ xi ∈ G1 ⊕ L ⊕ Gr とすると pi ( xi ) = xi なので上式より
i =1
ki
r
⎡
⎤
f ( j −1) (λi )
j −1
f
(
λ
)
x
+
(
ϕ
−
λ
I
)
(
x
)
=
λxi 、これより全ての i について
⎢
∑
∑
∑
i
i
i
i ⎥
=
1
i =1 ⎣
j = 2 ( j − 1)!
i
⎦
r
ki
f ( λi ) x i + ∑
j =2
r
f ( j −1) (λi )
(ϕ − λi ) j −1 ( xi ) = ∑ λxi 。 (ϕ − λi I ) p −1 ( xi ) ≠ 0, (ϕ − λi I ) p ( x) = 0
( j − 1)!
i =1
(ただし p ≤ ki )とすると xi , (ϕ − λi I )( xi ),...., (ϕ − λi I )
または、 xi ≠ 0 かつ f (λi ) = λ , f
( j −1)
p −1
( xi ) は一次独立なので xi = 0
(λi )(ϕ − λi ) j −1 ( xi ) = 0 ( j ≥ 2) 。従って f (λ ) が定数
関数でなければ固有値は重複度まで含めて {λ = f (λi ); i = 1,.., r} である。
(2) λi に対する ϕ の一般固有空間を Gi 、 f (λi ) に対応する f (ϕ ) の一般固有空間を H i
(i = 1,2,..., r ) とすると
ki
⎧n
⎫
m
( f (ϕ ) − f (λi ) I ) ( x) = ( g (ϕ ) − g (λi ) I ) ( x) = ⎨∑ am (ϕ m − λi I )⎬ ( x)
⎩ m=1
⎭
ki
ki
ki
⎫⎪
⎧⎪ n
⎛ m−1 j
⎞
= ⎨∑ am ⎜⎜ ∑ λi ϕ m− j −1 ⎟⎟ o (ϕ − λi I )⎬ ( x)
⎪⎭
⎪⎩ m=1 ⎝ j =0
⎠
ki
⎧⎪ n
⎛ m−1 j
⎞⎫⎪
= ⎨∑ am ⎜⎜ ∑ λi ϕ m− j −1 ⎟⎟⎬ o (ϕ − λi I ) ki ( x) = 0
⎪⎩ m=1 ⎝ j =0
⎠⎪⎭
従って、 Gi ⊆ H i 。ところが E = G1 ⊕ L ⊕ Gr ⊆ H 1 ⊕ L ⊕ H r = E なので
すべての i について Gi = H i が成り立つ。
系 28-2
(1) f (ϕ ) の固有値 f (λi ) の標数は λi の標数と一致しない。
(2) f (λ ) が ϕ にとって可逆変換、すなわち g ( f (ϕ )) = ϕ を満たす正則関数 g (λ ) が存在
するならば λi の標数と f (λi ) の標数は一致する。
<証明>(1)例えば f (λ ) ≡ 1 とすると、、どんな線形変換 ϕ を取っても f (λi ) = 1 で H i の
区別がなく、Eの全ての元が固有ベクトルとなる。
(2) 系 28-1(2)の証明から分かるように、 f (λi ) の標数は λi の標数を越えない。
28
f (λi ) = μi , g ( μ i ) = λi なので、 λi = g ( μ i )の標数 ≤ μ i = f (λi )の標数 ≤ λiの標数 より
μ i = f (λi )の標数 = λiの標数 。
例10.
ϕ が正則なら、 log ϕ が定義できて、 exp(log ϕ ) = ϕ となる。ただし
1
1
(λI − ϕ ) −1 log λ dλ 。
(λI − ψ ) −1 e λ dλ , log ϕ =
∫
∫
C
C
2πi 2
2πi 1
C1 はψ の全ての固有値を含む閉曲線、 C 2 は ϕ の全ての固有値を含む閉曲線である。
exp(ψ ) =
f (λ ) が λ = 0 の周りで正則のとき、整級数展開を f (λ ) = a0 + a1 x + a2 x 2 + L + an x n + L
とし、収束半径を ρ とする。
定理29
線形変換 ϕ の全ての固有値の絶対値が ρ より小さいとき、
f (ϕ ) = a0 I + a1ϕ + a2ϕ 2 + L + anϕ n + L が成立する。また、 ϕ の固有値のうち1つでも
絶対値が ρ を超えるときは上式は意味を持たない。
(意味:どのようなベクトル x に対しても n → ∞ のとき
f (ϕ )( x) − {a0 x + a1ϕ ( x) + L anϕ n ( x)} → 0 が成立することである。)
<証明>
ϕ の全ての固有値の絶対値が ρ より小さいときは、収束円 λ < ρ の内部に ϕ の
固有値を全て囲む単一閉曲線Cが取れる。よって
f (ϕ ) =
∞
⎞
1
1
−1
−1 ⎛
λ
I
−
ϕ
f
λ
d
λ
=
λ
I
−
ϕ
ak λk ⎟dλ
(
)
(
)
(
)
⎜
∑
∫
∫
2πi C
2πi C
⎝ k =0
⎠
∞
= ∑ ak
k =0
系 29-1
∞
1
−1 k
(
λ
I
−
ϕ
)
λ
d
λ
=
ak ϕ k
∑
∫
C
2πi
k =0
f (λ ) の λ = λ0 の周りの整級数展開を
∞
f (λ ) = ∑ ak (λ − λ0 ) k (収束半径ρ)
k =0
とする。線形変換 ϕ の全ての固有値が収束円の内部に入るならば f (ϕ ) =
∞
∑a
k =0
が成立する。固有値が1つでも収束円の外にあると成り立たない。
定理30
(射影と留数の関係)
29
k
(ϕ − λ0 I ) k
ϕ の一つの固有値を λν とすると、 Re s(λI − ϕ ) −1 f (λ ) = f (ϕ ) o pν
λ =λν
(ν = 1,2,.., r )
ϕ の固有値のうち λν だけを囲む閉曲線 Cν を取ると
<証明>
r
ki
i =1
j =1
Re s(λI − ϕ ) −1 f (λ ) = ∑ (∑
λ =λν
kν
= (∑
j =1
f (λ )
1
dλ × (ϕ − λi I ) j −1 ) o pi
∫
2πi Cν (λ − λi ) j
f (λ )
1
dλ × (ϕ − λν I ) j −1 ) o pν
j
∫
C
ν
2πi
(λ − λν )
他方 f (ϕ ) の定義式(7.1)の両辺に pν を作用させると
kν
f (ϕ ) o pν = (∑
j =1
系 30-1
f (λ )
1
dλ × (ϕ − λν I ) j −1 ) o pν 。
∫
2πi Cν (λ − λν ) j
ϕ の固有値 λν のみを囲む単一閉曲線 Cν を取ると定理9式(5.1)より
1
2π i ∫
Cν
(λI − ϕ ) −1 dλ = pν (ν = 1,2,.., r ) なので留数公式より
1
(λ I − ϕ )
2π i ∫
C
これは例
付録A
定理A
−1
dλ =
1
2π i ∫
C1
(λI − ϕ ) −1 dλ + L
1
2π i ∫
Cr
(λI − ϕ ) −1 dλ
より ϕ のスペクトル分解の射影の和の式 I = p1 + L + pr を意味する。
線形写像・基底・座標変換・表現行列
(線形写像の次元定理)
線形写像 ϕ :線形空間 E → F
dim E = dim ϕ −1 (0) + dim ϕ ( E ) 。
のとき
<証明> dim ϕ (0) = k とし、部分空間 ϕ (0) の基底を e1 , L , ek とする。
−1
−1
それに付け加えてE全体の基底となるように ek +1 , L , en を選ぶ。ただし n = dim E 。
このとき ϕ (ek +1 ), L , ϕ (en ) は線形独立である。なぜなら ck +1ϕ (ek +1 ) + L + cnϕ (en ) = 0
とすると ϕ (ck +1ek +1 + L + cn en ) = 0 。よって ck +1ek +1 + L + cn en ∈ ϕ −1 (0) 、これより
ck +1 = L = cn = 0 となる。任意の x = x1e1 + L + xn en ∈ E について
ϕ ( x) = xk +1ϕ (ek +1 ) + L + xnϕ (en ) なので dim ϕ ( E ) = n − k = dim E − dim ϕ −1 (0) 。
線形写像 ϕ : E
m
→ En
(ユークリッド線形空間)
E m の基底を {e1 , L , em } 、 E n の基底を { f1 , L , f n } とする。
30
n
ϕ (ei ) = ∑ a ji f j (i = 1,.., m) とすると
j =1
⎡ a11
⎢a
(ϕ (e1 ), L , ϕ (em )) = ( f1 , L , f n ) ⎢ 21
⎢L
⎢
⎣am1
a12
a22
L
am 2
L a1n ⎤
L a2 n ⎥⎥
= ( f1 , L , f n ) A 。
L L⎥
⎥
L amn ⎦
(A.1)
⎛ x1 ⎞
⎛ y1 ⎞
⎜ ⎟
⎜ ⎟
x = (e1 , L , em )⎜ M ⎟ ∈ Em に対して ϕ ( x) = y = ( f1 , L , f n )⎜ M ⎟ とすると
⎜x ⎟
⎜y ⎟
⎝ m⎠
⎝ n⎠
⎛ y1 ⎞
⎛ x1 ⎞
⎛ x1 ⎞
⎜ ⎟
⎜ ⎟
⎜ ⎟
( f1 , L , f n )⎜ M ⎟ = ϕ ( x) = (ϕ (e1 ), L , ϕ (em ))⎜ M ⎟ = ( f1 , L , f n ) A⎜ M ⎟
⎜y ⎟
⎜x ⎟
⎜x ⎟
⎝ n⎠
⎝ m⎠
⎝ m⎠
⎛ y1 ⎞
⎜ ⎟
これより ⎜ M ⎟ =
⎜y ⎟
⎝ n⎠
(A.2)
⎛ x1 ⎞
⎜ ⎟
A⎜ M ⎟ 、 ϕ の表現行列は A である。
⎜x ⎟
⎝ m⎠
~
~
~ ,L, ~
別の E の基底を {e
em } 、 E の基底を { f1 , L , f n } 、 ϕ の表現行列を B とする。
1
m
n
基底の変換行列をそれぞれ P , Q とする。すなわち
~
~
(e1 , L , em ) = (e~1 , L , e~m ) P , ( f1 , L , f n ) = ( f1 , L , f n )Q
(A.3)
とする。 P は m × m 、 Q は n × n 行列である。
x1 ⎞
y1 ⎞
⎛~
⎛~
⎜
⎟
~
~ ⎜ ⎟
~
~
x = (e1 , L , em )⎜ M ⎟ ∈ Em に対して ϕ ( x) = y = ( f1 , L , f n )⎜ M ⎟ とすると、 ϕ の表現行列が
⎜~
⎟
⎜~
⎟
⎝ xm ⎠
⎝ yn ⎠
y1 ⎞
x1 ⎞
x1 ⎞
⎛~
⎛~
⎛~
⎜
⎟
⎜
⎟
~
~
~
~ ⎜ ⎟
~
~
B なので、 ( f1 , L , f n )⎜ M ⎟ = ϕ ( x) = (ϕ (e1 ), L , ϕ (em ))⎜ M ⎟ = ( f1 , L , f n ) B⎜ M ⎟ 。(A.4)
⎜~
⎟
⎜~
⎟
⎜~
⎟
⎝ yn ⎠
⎝ xm ⎠
⎝ xm ⎠
基底の変換より (e1 , L , em ) P
−1
~
~
= (e~1 , L , ~
em ) 、 ( f1 , L , f n )Q −1 = ( f1 , L , f n ) なので
31
y1 ⎞
x ⎞
⎛~
⎛~
⎜ ⎟
⎜ 1⎟
−1
−1
( f1 , L , f n )Q ⎜ M ⎟ = ( f1 , L , f n )Q B⎜ M ⎟
⎜~
⎟
⎜~
⎟
⎝ yn ⎠
⎝ xm ⎠
(A.5)
また座標変換については
x ⎞
⎛ x1 ⎞
⎛ x1 ⎞
⎛~
⎜ ⎟ ~
⎜
⎟
⎜ 1⎟
~
~
~
x = (e1 , L , em )⎜ M ⎟ = (e1 , L , em ) P⎜ M ⎟ = (e1 , L , en )⎜ M ⎟ ∈ E m より
⎜x ⎟
⎜x ⎟
⎜~
⎟
⎝ m⎠
⎝ m⎠
⎝ xm ⎠
x ⎞
y ⎞
⎛~
⎛ x1 ⎞
⎛~
⎛ y1 ⎞
⎜ 1⎟
⎜ ⎟
⎜ 1⎟
⎜ ⎟
⎜ M ⎟ = P⎜ M ⎟ ,同様に ⎜ M ⎟ = Q⎜ M ⎟ 。
⎜~
⎟
⎜x ⎟
⎜~
⎟
⎜y ⎟
⎝ xm ⎠
⎝ m⎠
⎝ yn ⎠
⎝ n⎠
(A.6)
⎛ y1 ⎞
⎛ x1 ⎞
⎜ ⎟
⎜ ⎟
−1
(A.5)に以上の座標変換(A.6)を代入すると ( f1 , L , f n )⎜ M ⎟ = ( f1 , L , f n )Q BP⎜ M ⎟
⎜y ⎟
⎜x ⎟
⎝ n⎠
⎝ m⎠
−1
これを(A.2)と比較すると A = Q BP
付録B
−1
(逆に B = QAP )という関係式を得る。
射影作用素
直和分解 E = F1 ⊕ L ⊕ Fr に付随する射影作用素
任意の x ∈ E は x = x1 + L + xr ( xi ∈ Fi ) と一意に表わされる。 xi = pi (x)
p1 , L , pr を直和分解 E = F1 ⊕ L ⊕ Fr に付随する射影作用素と言う。
(1) pi ( E ) = Fi (i = 1, L , r ) 、 I = p1 + L + pr
(2) pi o pi = pi (i = 1, L , r ) 、
定理B:
pi o p j = 0 (i ≠ j )
E上の線形変換 p がEのある直和分解に付随する射影の一員であるための必要
−1
十分条件は p o p = p が成り立つことである。このとき E = p ( E ) ⊕ p (0) がその直和
分解である。
付録C
対称変換・直交変換
E:実ユークリッド線形空間
○ 内積:実数 < x, y >, x, y ∈ E
① < x1 + x2 , y >=< x1 , y > + < x2 , y > ,
② < x, y >=< y, x >
③ < x, x > ≥ 0,
< λx, y >= λ < x, y >
(可換性)
< x, x >= 0 ⇔ x = 0
(正値性)
32
(線形性)
x ⊥ y ⇔ < x, y >= 0
;
x = < x, x >
ベクトル x の長さ
○Eの正規直交系 {e1 , L , em } ⇔ E = [e1 , L , en ] , < ei , e j >= δ i j
dim E = n
ℑϕ = { A; A はEの正規直交基底によって ϕ に対応している行列}
定義(対称変換)
: E上の線形変換 ϕ が対称である ⇔ < ϕ ( x), y >=< x, ϕ ( y ) >
定理 C-1:
<証明>
x, y ∈ E
対称変換 ϕ に対する ℑϕ の元は全て対称行列 A = A である。
t
正規直交基底を取ると
< ϕ ( x), y >= t ( Ax) y = t x t Ay, < x, ϕ ( y ) >= t xAy 、よって t A = A
定理 C-2:
対称変換の固有値はすべて実数である。
<証明>固有方程式の解の1つを λ0 , 対応する固有ベクトルを x とする。ただし、 λ0 , x は
一般に複素数である。 Ax = λ0 x より
t
x Ax = λ0 x x = λ0 x 。両辺の転置複素共役を取る
2
と A = A なので λ0 x = t x t A x = t x Ax = λ0 x 、よって λ = λ すなわち実数である。
t
定義(直交変換):
2
2
E上の線形変換 ϕ が回転(直交変換)である
⇔ < ϕ ( x), ϕ ( y ) >=< x, y >
x, y ∈ E
定理 C-3: 回転 ϕ に対する ℑϕ の元は、全て直交行列である。
<証明>1つの正規直交系 {e1 , L , em } を取り、これに対する ϕ の表現行列を
⎡ a11 L a1m ⎤
A = ⎢⎢ L L L ⎥⎥ とすると、 (ϕ (e1 ), L , ϕ (em )) = (e1 , L , em ) A 。任意の i, j について
⎢⎣am1 L amm ⎥⎦
< ϕ (ei ), ϕ (e j ) >=< ei , e j >= δ i j 、これより
m
m
m
p =1
q =1
p =1
δ i j =< ϕ (ei ), ϕ (e j ) >=< ∑ a pi e p , ∑ aqi eq >= ∑ a pi a pj 、すなわち t AA = I であり
行列 A は直交行列である。
注意:正規直交系では対称変換の表現行列は対称行列となるが、一般の基底では対称性は
33
保障されない。正規直交系 {e1 , L , em } での表現行列を A 、直交行列でない正則行列Pで
変換した基底を ( f1 , L , f n ) = (e1 , L , en ) P とし、この基底に付随する表現行列をBとす
−1
−1
−1 t
−1
ると B = PAP 、このとき B = ( PAP ) = ( P ) ( A)( P ) = ( P ) A( P ) ≠ B である。
t
t
t
t
t
t
−1
一般にBが対称になるのは P = P 、すなわち直交行列のときである。
t
付録D
応用1:線形微分方程式
x1 (t ), x2 (t ), L , xn (t )
連立線形定数係数微分方程式
(D-1)
d
xk (t ) = ak1 x1 + L + ak n xn
dt
(k = 1,2, L , n) , 初期条件
xi (0) = xi
0
(i = 1, L , n) 。
x(t ) = t ( x1 (t ), L , xn (t )), x0 = t ( x1 , L , xn ), A = (ak j ) とすると
0
(D-2)
d
x = Ax, x(0) = x 0
dt
0
解は
ただし
x(t ) = exp[ At ]x0
exp[ At ] = I +
t
t2
tn
A + A2 + L + An + L 。
n!
1!
2!
しかし、実際には exp[At ] は§7の線形変換の指数関数によって
r
⎧
⎫
t
t2
t ki −1
exp[ At ] = ∑ exp(λi t )⎨ I + ( A − λi I ) + ( A − λi I ) 2 + L +
( A − λi I ) ki −1 ⎬ Pi
2!
(k i − 1)!
i =1
⎩ 1!
⎭
と表現できる。
(例) x = ( x, y, z ),
t
dx
= Ax,
dt
det( A − λI ) = −(λ − 1)(λ − 2) 2 ,
⎡ 4 − 1 − 2⎤
x(0) = x0 = ( x0 , y0 , z 0 ) , A = ⎢⎢ 9 − 2 − 7 ⎥⎥ 。
⎢⎣− 3 1
3 ⎥⎦
t
固有値
λ = 1, 2
⎡ 3 − 1 − 2⎤
⎡ 2 − 1 − 2⎤
⎡1 0 1 ⎤
⎢
⎥
⎢
⎥
2
A − I = ⎢ 9 − 3 − 7⎥ , A − 2 I = ⎢ 9 − 4 − 7⎥ , ( A − 2 I ) = ⎢⎢3 0 3⎥⎥
⎢⎣− 3 1
⎢⎣− 3 1
⎢⎣0 0 0⎥⎦
2 ⎥⎦
1 ⎥⎦
従って λ = 1 の標数は1、 λ = 2 の標数は2である。最小多項式は Ψ (λ ) = (λ − 1)(λ − 2)
よって
1
1
3−λ
2
=
+
より 1 = (λ − 2) + (3 − λ )(λ − 1) 。
2
2
(λ − 1)(λ − 2)
λ − 1 (λ − 2)
34
2
⎡1 0 1⎤
P1 = ( A − 2 I ) = ⎢⎢3 0 3⎥⎥ ,
⎢⎣0 0 0⎥⎦
2
⎡ 0 0 − 1⎤
P2 = (3I − A)( A − I ) = ⎢⎢− 3 1 − 3⎥⎥ 。従って、
⎢⎣ 0 0 1 ⎥⎦
t
⎧
⎫
exp[ At ] = e t P1 + e 2t ⎨ I + ( A − 2 I )⎬ P2
⎩ 1!
⎭
⎡ 3 − 1 − 1⎤
⎡ 0 0 − 1⎤
⎡1 0 1 ⎤
⎥
⎥
t⎢
2t ⎢
2t ⎢
= e ⎢3 0 3⎥ + e ⎢− 3 1 − 3⎥ + te ⎢ 12 − 4 − 4⎥⎥
⎢⎣− 3 1
⎢⎣ 0 0 1 ⎥⎦
⎢⎣0 0 0⎥⎦
1 ⎥⎦
応用2:線形差分方程式
漸化式 xn+ k = a1 xn + a2 xn+1 + L + ak xn+ k −1 , ただし ( x0 , x1 , L , xk −1 ) は初期条件
として与える。
xn( 0 ) = xn とし、以下 xn(1) , xn( 2) , L , xn( k −1) を帰納的に次の様に定義する。
xn(1) = xn+1 = xn( 0+)1 , xn( 2 ) = xn+ 2 = xn(1+)1 , xn(3) = xn+3 = xn( 2+1) , L , xn( k −1) = xn+ k −1 = xn( k+1−2)
最後に漸化式より
xn( k ) = xn+ k = a1 xn + a2 xn+1 + L + ak xn+ k −1 = a1 xn( 0) + a2 xn(1) + L + ak xn( k −1)
そこで k 次元ベクトル
r
y n+1
r
yn = t ( xn( 0) , xn(1) , L , xn( k −1) ), n = 0,1,2,... とすると
⎛ xn( 0+1) ⎞ ⎛ xn(1) ⎞ ⎛ 0
⎜ (1) ⎟ ⎜ ( 2 ) ⎟ ⎜
⎜ xn+1 ⎟ ⎜ xn ⎟ ⎜ 0
=⎜ M ⎟=⎜ M ⎟=⎜ M
⎜
⎟ ⎜
⎟ ⎜
⎜ xn( k+1−2 ) ⎟ ⎜ xn( k −1) ⎟ ⎜ 0
⎜ ( k −1) ⎟ ⎜ ( k ) ⎟ ⎜
⎝ xn+1 ⎠ ⎝ xn ⎠ ⎝ a1
r
r
r
1
0
0
1
M
0
M
0
a2
a3
⎞⎛ xn( 0) ⎞
⎟⎜ (1) ⎟
⎟⎜ xn ⎟
r
M
M ⎟⎜ M ⎟ = Ay n と表わされる。
⎟
⎟⎜
L 1 ⎟⎜ xn( k −2 ) ⎟
⎟
⎟⎜
L ak ⎠⎝ xn( k −1) ⎠
L
L
すなわち、 y n +1 = Ay n , y0 = ( x0 , L , xk −1 )
r
t
0
0
⎡0
⎢0
⎢
ただし A = ⎢ M
⎢
⎢0
⎢⎣a1
r
1
0
0
1
M
M
0
0
a2
a3
0⎤
0 ⎥⎥
⎥、
M
⎥
L 1⎥
L ak ⎥⎦
L
L
これより、 y n = A y0 。従って行列Aの n 上の計算に帰着される。 A を計算するには行列
n
n
35
Aを一般スペクトル分解して
r
r
i =1
i =1
A = S + N = ∑ λi Pi + ∑ ( A − λi I ) Pi 、
(S は半単純、 N はベキ零)とすると二項定理より
n
n −1
n
⎛ r
⎞ ⎛ n ⎞⎛ r
⎞ ⎛ r
⎞
⎛ r
⎞
A = ⎜ ∑ λi Pi ⎟ + ⎜⎜ ⎟⎟⎜ ∑ λi Pi ⎟ ⎜ ∑ ( A − λi I ) Pi ⎟ + L + ⎜ ∑ ( A − λi I ) Pi ⎟
⎝ i =1
⎠ ⎝ 1 ⎠⎝ i =1
⎠ ⎝ i =1
⎠
⎝ i =1
⎠
r
⎛ n ⎞ r n−1
⎛ n ⎞ r n−m+1
n
⎟⎟∑ λi
= ∑ λi Pi + ⎜⎜ ⎟⎟∑ λi ( A − λi I ) Pi + L + ⎜⎜
( A − λi I ) m−1 Pi
i =1
⎝ 1 ⎠ i =1
⎝ m − 1⎠ i =1
n
ただし、 m = max(k1 , k 2 , L , k r ) は固有値の標数の最大値。
36