東洋大学社会福祉学会 第 7 回大会 大会報告 開催日:2011 年 10 月

東洋大学社会福祉学会 第 7 回大会 大会報告
開催日:2011 年 10 月 16 日(日)
会場:東洋大学 白山キャンパス
大会テーマ「包摂と排除―国際的視点からの考察」
報告::板橋史宣(大学院博士後期課程2年)
大会開催にあたり、佐藤豊道先生から、東日本大震災による節電対策により、例年の開催時期から 10 月に行
うことになった旨の説明後、大学院研究報告では、松宮透高さんより「メンタルヘルス問題のある親による児童虐
待に関する研究―支援者の問題認識を焦点として―」と題し、報告が行われた。
松宮さんは、「児童虐待と親のメンタルヘルス問題の接点」を支援者の問題認識からみたその実態と課題につ
いて報告された。松宮さんは大学院において、メンタルヘルス問題のある親による児童虐待に関して、支援者の
問題認識を焦点として研究されている。研究課題として、児童福祉施設入所児童における親のメンタルヘルス問
題の接点、児童養護施設の家庭支援専門員等の問題意識とその背景、児童相談所・児童家庭支援センター、
児童福祉施設、精神科医療機関の相談援助職者における当該事例に対する問題認識の比較検討を行い、支
援環境整備及び連携上の課題をあげた。先進的支援活動例の調査を北海道浦河町を抽出することによって、精
神障害者の地域活動における同管内の児童虐待防止ネットワークに着眼された。松宮さんは研究を通して、児
童虐待問題は同時にメンタルヘルス問題の側面を持つとし、児童福祉施設の対応機能の拡充が不可欠であると
した。また、調査により、児童虐待に関する知識、支援経験、問題認識等において、精神保健福祉士の有意差は
低く、他職種連携上の認識共有の課題はあるが、他職種が緊密に連携することによって、当事者も同様に自らの
問題を取り組むことにより、スタッフと利用者に同心円的にみられるパラレルプロセスの確認が、その背景にあると
一定の研究の成果を報告されていた。
学会総会後、「包摂と排除―国際的視点からの考察」と題して、小林良二先生をコーデイネーターとし、4 人の
社会福祉学科の先生方からそれぞれ報告が行われた。
第一報告、岩瀬由佳先生「排除される女たち―絵画と文学から読み解く女性の身体表現とコロニアリズム(カリブ
会地域を中心に)」
岩瀬先生は文学研究を通して、文学が時代の社会的現象を表しているとし、特に先生が研究されている、西
洋絵画と文学から読み解く女性の身体表現とコロニアリズムをカリブ会地域を中心とした女性作家を例に挙げた。
その時代背景として、大英帝国が植民地化したカリブ海地域を中心に、男性優位社会により、女性が差別化され、
文学と絵画の作品表現により「西洋の有意義的ではあるものの、女性の立場においては否定された文化を再構
築する」ことが、女性は男性の天使であるべきという「女性」、「土地」、「国民国家」という統率的な思想を、植民地
化の手段としたとのことであった。植民地の奴隷解放を契機として、「西洋の有意義的に否定された文化と伝統を
再構築する」必要があったようである。特に現代のアフリカ系カリブ系女性作家の自然な身体表現をとコロニアリ
ズムを通して、文学、絵画の表出的な身体表現が、西洋文化を通してカリブ地域の女性が排除され続け、歴史的
経緯とその重みについて表現されたことは、文学や絵画が時代の社会的現象を表しているという、新たな視点か
らの問題を発見させられた。
第二報告、鈴木規子先生「フランスにおけるシテイズンシップと排除される人々」
鈴木先生はフランスにおけるシテイズンシップの諸理論を整理し、複雑化するフランスのシテイズンシップを理
解することにより、現代フランス社会で排除されている、女性や非EU市民について、本研究において考察されて
いる。シテイズンシップの諸理論は「市民的」、「政治的」。「社会的」要素から成り立ち、、政治的、経済・社会的に
おいて国民国家を形成してきたが、定住外国人や多重市民権の問題からポスト国民的市民権の必要性が重要
であり、近年ではEU市民権がそれに代わるものとされつつある。フランスにおける国民的市民権は、「血統主義」、
「出生地主義」「申請主義(結婚や仏での出生、居住、帰化等)」によるが、近年のEU市民権が、時代の社会的
現象を表しているとし、国民的市民権に影響されつつ、その中で排除される人々が、女性であり、北アフリカ、西
アフリカ諸国、トルコ系のムスリム移民、あるいはロマと呼ばれる不定住者(推計 12 万から 13 万人)であったりする。
フランスのシテイズンシップから排除される人々の課題は問題が多く、国民と市民権の結びつきは不変であり、特
にフランス人女性はパリテ法により政治的平等を目指している。国民と市民権の分離については、ムスリムやロマ
はフランス国籍があっても、治安を理由に排除され、ムスリム女性はさらに排除されている。今後として、文化的・
民族的な差異に基づいた排除が強化されている。先生の報告から、それらの諸問題がフランスやEU諸国、日本
においても新たな国民的市民権の課題であると感じた。
第三報告、姜英淑先生「韓国の企業福祉の現状―排除される非正規労働者」
姜英淑先生の発表によると、韓国では 1997 年の金融危機を経験した後から、多くの企業が企業福祉を縮小す
る傾向にあるという。その反面、急速な少子高齢化が進み、雇用形態等による企業福祉のあり方について再検討
が行われているようである。先生の研究は、労働社会のなかで、これからの企業福祉の目的や役割について考え、
雇用形態の変化による正規労働者と非正規労働者の企業福祉の格差を検討することで、企業福祉の展望が検
証されている。先生が研究されている韓国の労働社会の現状では、韓国企業は整理解雇や名誉退職などによる
雇用調整を行い、さらに就業形態の多様化といわれている数量的柔軟性と年俸制における賃金の柔軟性を確保
することを重視している。一方で日本の労働社会の現状は、高度経済成長期に日本型雇用を確立し、福利厚生
を労働者に提供してきた。日本の企業福祉は、勤労者のための多様なプログラムを持ち合わせているが、全ての
企業の勤労者が同水準のサービスを提供されているわけではなく、大企業と中小企業の福利厚生の格差は資本
の二重構造として雇用形態に反映された。日本においても、韓国での 1997 年からの労働市場の変化と同時期に、
労働者派遣法改正があるなど、それ以降韓国と同様の企業福祉の課題が提起されている。先生の発表から、韓
国と日本の企業福祉の現状と将来の展望、企業が社会的責任を重視した非正規労働者の雇用を検討しなけれ
ばならないことを深く考えさせられた。
第四報告、志村健一先生「排除とグラウンデッド・セオリー:ネイテイヴ・アメリカンの事例」
志村先生の報告から、先生は、アメリカ合州国国勢調査等にみるネイテイヴ・アメリカンの現状について、排除
対象となりやすい現状を明らかにすること、ナバホ族を対象としたグラウンデット・セオリーによる研究により、ソー
シャルワークとグラウンデット・セオリーの親和性について紹介された。研究方法を既存統計資料の分析と文献検
討で行い、2010 年アメリカ合州国国勢調査の質問項目6について「当人の人種は何ですか?複数回答可」から、
質問項目6の集計を行った結果、2000 年と 2010 年国勢調査の比較から、AmerikanIndianandAlaskaNative が共
に全体の 0.9%を維持していることは、ネイネイヴ・アメリカンの人々が貧困ライン以下の生活を維持、排除されつ
つも、民族の調和とつながりを維持していることを明らかにされた。特にナバホ族の言語と文化について、調査と
先行研究から調査されている。先生は特にグランデッド・セオリー調査に基づき、理論的サンプリングをデータ収
集し、先住民の生活感や理論を整理することによって、直接的・ミクロシステム的実践援助が、ネイテイヴ・アメリカ
ンの事例対象者への直接援助の必要性を、よりアメリカ社会から彼らが排除されていることが理論的に整理され
たことが調査結果から伺えた。また、先生はグランデット・セオリーの調査手法が、ひとつの事例においても十分
研究の対象になるということを話され、先生の研究においても実践されていることはグランデット・セオリー調査の
奥深さをあらためて知る機会を得たことは大きな発見となった。
最後に、4 人の先生方々からの報告を終え、それぞれ言葉をいただいた。また、コーデイネーターの小林先生
から各先生方へのまとめとして、それぞれの国の文化事情によって包摂と排除の視点があり、市民権や個人の権
利等を考えるうえで、意味深い報告となった等、コメントをいただき閉会となった。最後の小林先生のコメントは、
「包摂と排除」という今回のテーマが、それぞれ異文化であるものの、その概念は世界共通認識であることを、あら
ためて考えさせられた貴重な時間となった。