1分子蛍光イメージングに最適なカメラとは

このページは浜松ホトニクス株式会社によるPR記事です。 1分子蛍光イメージングに最適なカメラとは
伊東克秀 (浜松ホトニクス株式会社 システム事業部)
1.はじめに
先日ある会議に参加した時に EM-CCD、sCMOS から
3.カメラによる1分子観察のおさらい
(1)1分子の画像例
II+EB-CCD まで、さまざまなカメラでの1分子観察の発表が
蛍光サンプルは「EGFP」をガラススライドに固定したもの
あった。1分子は観察できる総光子数に限りがあるため「単位
を使用した(図1)
。1分子はある一定の輝度で光りその後に退
時間の光子数」と「観察時間」とがトレードオフにある。観察
色する。1分子であり多分子でないことは退色の回数と輝度か
時間が短くても良ければ励起光強度を上げることで大抵のカメ
ら判別した(図2)
。
ラで観察できることは容易に想像できる。しかし観察時間を長
TIRF 照明
くしたい場合に、1分子および背景光の光子数や退色時間など、
励起光:45.0 W/cm2
最適なカメラを選択するのに必要となる具体的データや知見が
対物:油浸 100x NA1.5
カメラ:ORCA-Flash4.0
無い。
露光時間:33ms
本稿では「1分子蛍光イメージングに最適なカメラとは?」
スケール:1μm
という観点でカメラメーカーの技術者である筆者が実際に実験
を行いそこで得た知見を筆者の視線で書かせてもらうことにし
図1.EGFP の1分子の画像例(60x60 画素)
た。
紙面、
期限の関係から詳細についてはかなり省かせて戴く。
これらの実験は大阪大学産業科学研究所永井研究室の全反射
画像取得開始後、約 0.5 秒
蛍光顕微鏡をお借りし、新井由之先生のご協力を戴いたのでこ
後から励起光を照射。
こで感謝の意を表したい。尚、この内容は 2013 年 8 月の「少
数性生物学のトレーニングコース」の実習内容の一部ともなっ
ている。
2.実験装置(画素サイズとレンズ倍率)
図2.1分子の退色例(励起光:45.0 W/cm2)
実験は科学計測用 CMOS カメラ Flash4.0、
EM-CCD カメラ
ImagEM、II+Flash4.0 の 3 種類の代表的なカメラで行った。
(2)1分子の光子数と時間的変化
1分子観察の中でも最も良く行われる輝点のトラッキングにお
1分子観察において異なる励起光強度に対するカメラへの入
いては、フィッティングを用いて光学限界以下の位置精度での
射光子数を測定した(表2)
。励起光強度 45.0 W/cm2 の時に1
検出が行われることが多い。この実験においてもフィッティン
分子の光子数は約 330 フォトン/33ms となる。これらの光子が
グを考慮して、あえて1分子が数画素に広がるように、そして
直径 4~5 画素の円状に分布するため、最も光子数の多い画素
各カメラの対物上での画素サイズが揃うようにリレーレンズを
においても約 27 フォトン/33ms と暗い。この時の背景光は1
選択した(表1)
。
画素あたり約 3 フォトン/33ms から時間的に徐々に減っていく。
表2.励起光強度と1分子の光子数
表1.カメラとレンズ倍率
(3)1分子の退色時間
個々の1分子により退色時間がそれぞれ違うこともおさらい
しておく必要がある。数百個の分子に対する退色時間の平均、
すなわち平均退色時間を、異なる励起光強度に対して測定した
(図3)
。励起光が強ければ平均退色時間は速くなる。
PR記事 精度、扱い易さ、コスト等の指標を含めて総合的に判断すべき
である。
今回の実験から観察時間を長くするという指標のみに着目し
た場合には II+Flash4.0 が良いことが判った。
観察時間を短くしたい例としては、超解像顕微鏡の PALM、
STORM がある。これらは強い励起光を使いフィッティングも
行うが、その場合は EXCESS ノイズの無い Flash4.0 が
EM-CCD よりも良いと言われている(文献:リンク)
。また別
図3.励起光強度による平均退色時間の例
の例としては、1分子方式の DNA シーケンサがあるが、この
方式ではフィッティングを行わず1画素以内に1分子を結像さ
4.カメラによる S/N 測定実験
せるため、こちらも Flash4.0 が適していると考えられる。
1分子がどのくらい認識できるかという指標をS/N で定義し
て各カメラの比較を行った(図4)
。S/N は数ピクセルに広がっ
6.新製品の紹介
た1分子の輝度分布の輝度積分値から、近傍の背景光部分の同
(1)科学計測用 CMOS カメラ ORCA-Flash4.0 V2
じ面積の輝度積分値を除き、背景光部分の標準偏差で割った値
科学計測用 CMOS カメラ ORCA-Flash4.0 において V2 モ
とした。148.3 W/cm2 では退色がわずか数フレームであり1分
デルが発売された。
V2 モデルの特徴はスロースキャンモードの
子か多分子かの判別が困難なためデータから除外した。1分子
搭載による更なる低ノイズ(0.9 electrons)が実現されたこと
トラッキングではその退色時間および画像の見え方から、45.0
である。扱い易さやコストも含めほとんどの蛍光イメージング
W/cm2 前後での励起光での観察が行われていると予想される。
に最適なカメラと考えている。
ImagEM には 1 分子観察に適したフォトンイメージングモー
(2)EM-CCD カメラ ImagEM X2
ドという機能もあるが今回は使用していない。
EM-CCD カメラ ImagEM シリーズにおいても X2 モデルが発
今回の結果から、II+Flash4.0 が他のカメラに比べ励起光が
売された。X2 の特徴は従来の 2 倍の 70 Hz の高フレームレー
弱い場合でも S/N の良いこと、すなわち観察時間をより長くで
トと更なる CIC ノイズの低減にある。ORCA-Flash4.0 で感度
きることが判った。しかし、この結果はあくまでも観察時間を
が足りない場合にはこちらがお勧めとなる。
長くできるという指標に対するものだけであり、カメラの選択
にはそれ以外に位置精度、扱い易さ、コストなどの指標も必要
になる。
ORCA-Flash4.0 V2
ImagEM X2
図5.新製品の紹介
(3)エジュケーションサイト
超解像顕微鏡やライトシート顕微鏡などのアプリケーション
に関するテクニックや文献等をまとめたエジュケーションサイ
図4.各カメラにおける励起光強度と S/N
ト(英語)を新たに開設したのでぜひご覧いただきたい。
5.まとめ
「1分子蛍光イメージングに最適なカメラとは?」という質
問に対しては、
「何を測定したかによって変わる。
」という答え
になる。さらに観察時間の長さ、フィティングを行うか、位置
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