ボルネオオランウータン人工哺育個体の母親への再導入の試み

ボルネオオランウータン人工哺育個体の母親への再導入の試み
○小林智男
(横浜市立よこはま動物園)
2012 年 6 月 21 日に,ボルネオオランウータン Pongo pygmaeus のメスのバレンタインがブリー
ディングローンにより来園した.
開園当初から飼育しているオスのロビンとのペアリングを実施し,
2014 年 11 月 19 日に当園で初となるボルネオオランウータンの繁殖に成功した.母親は子をしっ
かり抱いていたが,授乳行動が観察されず,また子が乳首に触れると母親が攻撃的な態度を示した
こともあり,やむを得ず母親から取り上げ,人工哺育を開始した.現在,子は順調に生育しており,
母親へ戻すことを試みている.上記経過より母親からの授乳が困難であると判断し,子が自力で担
当者のところまで近寄り,フェンス越しで担当者が哺乳できることが母親への再導入のために必要
なため,これを初期の目標とした.
子を取り上げて1週間ほど母親の元気消失,食欲減退が続いていたため,子との対面は控えた.
母親の体調の回復に伴い,生後 11 日齢にフェンス越しで初めて対面やスキンシップ(補助あり)
をさせ,それ以降,毎日継続している.生後 18 日齢から母親の前で哺乳を開始した.これは,子
を母親の元へ戻した際,哺乳が円滑にできるよう,子にとってミルクが必要であることを母親に理
解させるためである.生後 50 日齢頃から手足で支えて全身を宙に浮かしたり座ったりするなど,
徐々に行動域が増し,生後 58 日齢には寝室のフェンスにつかまる練習を開始し,生後 134 日齢で
自力でフェンスを登るようになるが,担当者が少しでも離れると鳴き叫び,落ちそうになった.生
後 137 日齢からフェンス越しでの哺乳馴致を開始した.生後 224 日齢からは子を自由にフェンスに
しがみつかせ母親とスキンシップさせた.
まだ母親と子の同居を実施していないため,本発表ではその途中経過を報告する.