産業技術連携推進会議 知的基盤部会第46回分析分科会年会 特別講演 「恐竜の足跡化石が語ること」 福井県立恐竜博物館 総括学芸員 東 洋一 日 場 時 所 平成15年11月27日(木) 福井ワシントンホテル(福井市) 現在の中国とモンゴル国の国境地帯には、ゴビ(戈壁)砂漠が広がっています。ここ は荒涼とした自然環境で、生物が生活するには過酷な条件といえるでしょう。しかし、 一億年ほど前には南から温暖で湿潤な空気が流れ込み、河が流れ、湖沼が散在し、 緑豊かな森林も存在していたのです。そして、そのような環境のなかで恐竜をはじめと した動物たちの営みが続けられていました。このような太古における動物たちの活動 の記録を、私たちは化石の発掘調査をとおして読みとろうとしています。 アジア地域では本格的な恐竜化石研究は、1920 年代初頭におけるアメリカ自然史 博物館の調査から始まりました。ロイ・チャプマン・アンドリュースを隊長とするこの調査 隊は、ゴビ砂漠一帯で活動し、恐竜の卵や骨格を発見しました。それ以降、ソビエトや ポーランドなどの調査隊もゴビ砂漠で多数の恐竜化石を発掘しました。これらの発掘 調査で、アジアの恐竜化石は世界の恐竜研究者にその重要性が認識されるようにな っていきました。近年もカナダ、ベルギー、アメリカ、日本などと中国・モンゴル国との共 同調査が相次いで実施され多数の恐竜骨格化石の発見と共に恐竜についての新知 見がもたらされました。 このような恐竜発掘の成果として、中国やモンゴル国からの恐竜化石は、ジュラ紀初 めの時代から白亜紀後期の恐竜絶滅期まで、長期間で多様な恐竜の存在が明らかに なり、世界でも有数な恐竜化石産地として認知されるようになりました。ジュラ紀前期の ルーフェンゴサウルス(古竜脚類:草食)やディロフォサウルス(獣脚類:肉食)、ジュラ 紀後期で二十㍍以上ある巨大な竜脚類マメンチサウルス(肉食)、アジアのティラノサ ウルス類である大型肉食恐竜タルボサウルスなど数多くの貴重な恐竜化石がアジア地 域から知られています。 最近でも恐竜研究の上でとても重要な発見が中国からもたらされました。中国東北 地方の遼寧省の白亜紀層から、「羽毛」をもった肉食恐竜や多量の鳥類化石の発見 が続いています。一連の発見は、羽毛を獲得した小型肉食恐竜が次第に鳥類へと進 化する過程を示していました。そして、鳥類の祖先は肉食恐竜であると考えられるよう になりました。 今回は、恐竜化石研究でも恐竜足跡化石に焦点をしぼって、足跡化石から恐竜 のどのような行動が理解できるかについてお 話をしてみたいと思います。中国の甘粛 省では、2000 年から大がかりな恐竜足跡化石発掘調査がおこなわれています。ここで は、多くの肉食恐竜や草食恐竜が移動した痕跡が残されています 。当時の環境を足 跡化石から考えてみましょう。
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