ラオス北部山村の住民による焼畑をめぐる生業活動 ―空間認識と植物利用からのアプローチ― ○ 落合雪野 (鹿児島大学総合研究博物館)・横山 智(熊本大学文学部) A23 本発表では、住民による空間認識と植物利用を関連させて把握する「有用植物村落地図」の手 法をもとに、ラオス北部山村で焼畑を営む住民の生業活動の実態について報告する。 調査村の概要 現地調査はポンサーリー県コア郡フエイペー村で実施した。この村ではアカ・ニ ャウー(Akha Nyaheu)住民の 43 世帯 53 家族 290 人が、2003 年 2 月の移住以来、焼畑耕作をおもな 生業に、家畜飼育や野生動植物の利用を組み合わせて生活している。調査時現在、村の伝統的な 取り決めに従って、1 年間耕作したあと約 10 年間休閑する焼畑のサイクルが続いており、行政に よる土地森林分配事業は適応されていない。 調査の方法 2004 年 8 月の第 1 回調査では、村の概況を把握した。2005 年 8 月の第2回調査では、 集落の周辺に広がる耕地、休閑地、二次林などを住民の一人とともに歩きながら、利用されてい る植物について情報とサンプルを収集し、生育位置を GPS で記録した。2006 年 12 月から 2007 年1月の第 3 回調査では、全 43 世帯の代表者1名ずつに、野生植物利用と採集場所に関する聞取 りをおこなったうえ、2005 年と同様に植物のサンプル収集と生育位置のデータを収集した。3 回 の調査による総延長 34.1km の調査ルートと有用植物の生育位置を図 1 にまとめた。 結果と考察 住民は村の領域を 9 つの空間に区分して認識していた(表 1)。そのうち、6 つは焼畑 に関連してできた区分である。それぞれの空間区分では、特徴ある植物が得られ、日常的な衣服 の製作、食生活、住居の建設や道具の製作、病気やけがの治療、儀礼のために利用され、あるい は現金収入源となっていた。耕地では陸稲などの栽培植物を栽培しつつ、同時に生えてくる草本 や萌芽再生した樹木の枝や葉、キノコなどを採集する。耕作終了後の休閑地では、休閑期間の初 期にだけ利用する植物、休閑年数が経過し二次林が成立した頃に利用する植物、生長段階に応じ て別の部位を用いる植物などが識別され、その利用が実践されている。山道や車道周辺の開けた 空間や、河川沿いの湿地や水中に生育する植物も採集される。 このような結果から、焼畑にともなって空間区分の生態環境が変化し続ける中、村の領域全体 に生育する植物によって住民の生活が支えられていることが明らかになった。したがって、焼畑 の村においては、時間軸を含んだ視 点から土地利用を理解すること、住 民の生業を複合的にとらえることが 必要である。 表1 40 1 住民による村の空間区分 アカ・ニャウー語 空間区分 の名称 耕地 ヤー 2 3 4 5 6 7 8 9 休閑 1 年目 休閑 2~4 年目 休閑 5~6 年目 休閑 7~20 年目 休閑 20 年以上 車道 山道 河川 ヤプチュ イエッササーベイ イエククピオラ サーカー サーカーカマー ロガマ ガマ ウチュドペ
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