挑戦企画 - 福岡県臨床衛生検査技師会

挑戦企画
Reversed Clinicopathological Conference (R-CPC)
~検査値から臨床病態を読み取るために~
松尾 収二(天理医療大学 臨床検査学科 教授)
廣瀬 英治(熊本保健科学大学 医学検査学科)
R-CPC は検査データの読み方を勉強するものであり,決して病名の当てものではありません。病態をどのよ
うに把握するかが大切なことです。頭を鍛えるために,色んなことを考えながら読んでみましょう。
【症例1】 腹部大動脈瘤の手術を受けた80 歳代男性(提示:宮崎 岳大(飯塚病院 総合診療科)
)
術後9日目
末梢血液検査
WBC
RBC
Hb
HCT
MCV
MCH
MCHC
RDW
5130
410
12.2
37.1
90.4
29.7
32.9
16.1
HDW
2.7
PLT
好中球(%)
リンパ球(%)
単球(%)
好酸球(%)
好塩基球(%)
大型非染色細胞
好中球の実数
単位
/μ l
万/μ l
g/dl
%
fl
pg
%
%
基準範囲
3506-9545
403-547
12.7-17.1
38.0-50.9
85.1-101.7
28.1-34.4
31.4-35.2
11.8-15.5*
% 1.88-2.80*
37.2 万/μ l 13.8-33.5
55.4
% 39.5-74.5
17.6
% 20.9-54.1
6.2
%
3.6-9.8
18.5
%
0.0-8.1
0.5
%
0.0-1.7
1.8
%
―
2680
/μ l
*:メーカー推奨値
術後9日目
尿一般検査
色調
淡黄色
混濁
(-)
比重
1.011
PH
7.5
蛋白
(-)
糖
(-)
ケトン体
(-)
潜血
(+-)
ウロビリノーゲン
正常
ビリルビン
(-)
白血球
(-)
亜硝酸
(-)
【症例2】 嘔吐、意識障害にて緊急入院となった10 歳代女性
pH
PaCO2
PaO2
BE
HCO3
CO2
SaO2
O2ct
Hb
Na
K
CL
A. gap
尿素窒素
血糖
総蛋白
Room air
(7.35~7.45) 7.074
(35~45torr)
28.9
(80~90torr)
31.6
(0±2mmol/l) -19.3
(21~30mmol/l)
8.3
(22~31mmol/l)
9.2
(96~97%)
37.3
8.3
(16~23mlO2/dl)
(11.5~14.5g/dl)
15.8
(139~147mmol/l)
127
(3.5~4.8mmol/l)
4.7
(101~111mmol/l)
85
(9~18mmol/l)
39
(7~19mg/dl)
51.0
(65~110mg/dl) 1,302
(6.7~8.1g/dl)
10.4
(提示:松尾 収二)
術後9日目
尿検査
単位 基準範囲
尿Na
163 mmol/l
尿K
11.2 mmol/l
尿Cl
153 mmol/l
尿UN
195 mg/dl
尿Cr
31.5 mg/dl
尿Cr定性
10 mg/dl
蛋白/Cr比定性 0.3 g/g・Cr
尿浸透圧
426 mOsm/l 80-1300
尿種
自然尿
術後16日目
凝固・生化学検査
PT%
49
PT-INR
1.52
PT比
1.52
ALT
17
ALP
241
UA
2.8
UN
16
Cr
0.9
eGFR
61.0
Na
K
Cl
Glu
総蛋白
Alb
115
5.1
83
93
5.8
2.9
単位 基準範囲
% 86.7-130.8
0.85-1.11
0.89-1.07
U/l
6-30
U/l
115-359
mg/dl
3.6-7
mg/dl
8-22
mg/dl
0.6-1.1
mL
―
/min/1.73
㎡
mmol/l
138-146
mmol/l
3.6-4.9
mmol/l
99-109
mg/dl
69-109
g/dl
6.7-8.3
g/dl
4-5
特別講演
脂質異常症の病態と臨床検査測定項目
松永 彰(福岡大学医学部 臨床検査医学講座 教授)
脂質異常症は、糖尿病、高血圧症とならんで冠動脈疾
は LDL の指標、アポ C-Ⅱ、C-Ⅲ、E はカイロミクロン、
患など動脈硬化の危険因子です。コレステロールやト
VLDL、レムナントの指標になります。アポ A-I、A-Ⅱ
リグリセライド(TG)などの脂質は水に不溶性であるた
は、VLDL などにも存在しますが、HDL を構成する主要
め血中では蛋白と結合して粒子を形成しリポ蛋白
なアポ蛋白であり、HDL-C が異常低値である場合に
(lipoprotein)として運搬されます。カイロミクロン、 LCAT(Lecithin—cholesterol acyltransferase)ととも
超低比重リポ蛋白(VLDL), 中間型リポ蛋白(IDL), 低
に測定意義があります。アポ B は、カイロミクロン、
比重リポ蛋白(LDL), 高比重リポ蛋白(HDL)といったリ
VLDL, IDL, LDL のリポ蛋白粒子に1対1で存在します。
ポ蛋白は、それぞれ脂質とアポ蛋白により構成されて
空腹時採血でカイロミクロンが血中に存在しない場合
います。血清リポ蛋白を解析する場合には、リポ蛋白
には、LDL 中のアポ B が大多数を占めます。そこで、
粒子の解析、脂質の解析、アポ蛋白の解析という3つ
アポ B 高値は家族性複合型高脂血症の診断基準の一つ
の解析方法が可能です。リポ蛋白粒子は、アガロース
となっています。アポ C-Ⅱはリポ蛋白リパーゼ(LPL)
ゲルやポリアクリルアミドゲル電気泳動で解析を行い
活性を高め,アポ C-Ⅲは逆に阻害します。TG が上昇し
ます。しかし、日常臨床では主に血清脂質の測定と、
て LPL の障害などが疑われるときやアポ E との比較の
リポ蛋白粒子を界面活性剤などで特定のリポ蛋白質を
ためにアポ C-Ⅱ, C-Ⅲを測定します。LPL 欠損症、C-II
破壊するなどして分離し、その中のコレステロールを
欠損症は小児期より発症する稀な疾患ですがカイロミ
LDL コレステロール(LDL-C)、HDL コレステロール
クロン高値となる I 型高脂血症を発症します。成人で
(HDL-C)として測定する直接定量法(ホモジニアス法)
発症しカイロミクロン高値となる原発性 V 型高脂血症
が用いられています。総コレステロール(TC), TG,
については、アポ C-Ⅱ, C-Ⅲ高値となりますが原因遺
HDL-C, LDL-C を測定するだけで、ある程度の脂質異常
伝子は特定されていません。アポ E はアポ C-Ⅱ, C-Ⅲ
症病態を把握できます。例えば、家族性高コレステロ
とともにトリグリセライドリッチリポ蛋白上に多く存
ール血症(FH)は、若年で冠動脈疾患を発症するため重
在しますが、細胞膜上の LDL 受容体ファミリーの種々
要な疾患ですが、LDL-C≥180mg/dl、アキレス腱肥厚(黄
の受容体と結合するリガンドとしての働きがあります。
色腫)
、FH または早発性冠動脈疾患の家族歴のみで診
LDL 受容体と結合できにくいアイソフォームであるア
断します。また、HDL-C 直接定量法は比較的標準化さ
ポ E2/E2 は家族性Ⅲ型高脂血症の原因であり、アポ E
れていますが、LDL-C 直接定量法は、本来の LDL-C の
高値は診断基準の一つになっています。
特異性を完全には反映しておらず、またメーカーによ
る差もあり、LDL-C 値には Friedewald 式(F 式)による
計算法が推奨されています。2012 年に改定された動脈
硬化性疾患予防ガイドラインでは、脂質異常症の管理
は、糖尿病、高血圧、喫煙、肥満などを含めた包括的
なコントロールが必要であることが提唱されており、
また、LDL-C 直接定量法についての記載はなく、代わ
りに non HDL コレステロール値(TC – HDL-C)の基準が
導入されています。一方、臨床検査としては、small
dense LDL, 酸化 LDL(MDA-LDL), RLP コレステロール、
RemL-C、脂肪酸4分画など新しい項目も測定可能とな
っています。
臨床検査で測定できるアポリポ蛋白にはアポ A-I、AⅡ、 B、 C-Ⅱ、 C-Ⅲ、E の6種類があります。大き
なくくりで言うとアポ A-I、A-Ⅱは HDL の指標、アポ B
学会長企画Ⅰ
臨床検査技師の役割と将来の展望
基調講演・臨床検査技師の教育体制
杉島 節夫(九州大学大学院医学研究院保健学部門)
【はじめに】
大学の教育も、厚生労働省の指定する臨床検査技師課
古くから、病気の診断は視診、触診、聴診と言った
程の指定規則の 93 単位を取り入れて教育を行ってお
経験に基づいた患者さんの情報をもとに、理学的所見
り、臨床検査の知識・技術については 3 年制の専門学
による診断法が行われてきた。わが国の臨床検査が飛
校と同様であろうと思われるが、大学教育が専門学校
躍的な発展を遂げたのは、1945 年に第二次世界大戦
の教育内容と違うところは、教養教育の充実と臨床検
が終結した戦後の事であるとされる。現在では、様々
査の研究手法を学ぶところではないかと考える。われ
な検査法が行われており、検体検査から生体検査と膨
われの大学においても 4 年生になると臨地実習とと
大なデータのもとに病気の診断がなされているのが
もに各研究室に卒業研究のために配属される。研究室
現状である。
では、4 月から 12 月の 8 カ月間を卒業発表と卒業論
【臨床検査技師の変遷】
文の作成にあてている。卒業研究では、その分野の研
われわれの世代が、この臨床の現場を預かっている
究領域ではどのような研究が行われてるのかを学び、
現役での最年長組であるが、われわれが病院の検査室
毎週輪番で自分の卒業研究にあったテーマの英語論
勤務を始めた頃は、検査試薬の作成から検査項目の測
文を用いて抄読会を行い国際的な研究に触れると共
定までの全てが用手法であった。しかしながら、現在
に専門分野の英語力の向上にも努めている。
の臨床検査室は、まさにオートメションの機械工場を
【臨床検査の現状と将来】
思わせるかのような最先端の医療機器で埋め尽くさ
臨床検査技師の多くが大小はあれ病院の臨床検査
れている。この様な最新の自動分析装置や医療機器に
室に勤務している。現場では、日々の業務の中に研究
より非常に高度な医療が行われているのである。
マインドを見いだし常に向上心を磨いていく。と言う
この医療技術の進歩により、近代医学の高度医療を
のが理想ではあるが、業務も非常に忙しいのが現状で
支える医療技術職の養成が変革し、医療技術職は、医
あり、忙しさに忙殺されかねない。しかしながら、日々
師の補助者(パラメディカル)から医師と協力(コメ
の業務の中で専門領域の臨床検査について様々な問
ディカル)してチーム医療を支えてきており、現在で
題点に遭遇すると思われる。それらの問題点を解決す
は、医療専門職(メディカルスタッフ)として高度医
ることが医療の進歩に繋がって行くと思われる。臨床
療に無くてはならない医療技術者としての臨床現場が
検査領域も専門性が高くなり、臨床検査技師にしか出
存在している。
来ない検査領域もたくさんある。やり方次第では、臨
臨床検査技師の教育においても、これらの時代の変
床検査技師は技術者であると共に研究者でもある。若
革に対応した形で、多くの臨床検査技師養成校が、三
い臨床検査技師の諸君も日々の努力が大きな前進に
年制の専門学校・短期大学から、厚生労働省の指定す
繋がる事を信じて、希望を持って頑張って頂きたい。
る臨床検査技師課程の指定規則の 93 単位を遵守しつ
【最後に】
つ、
4 年制大学の学部教育へ移行し、
更には修士課程、
臨床検査技師の教育制度は、専門学校、学部教育、
博士課程の大学院教育も行われるまでに至っている。 大学院修士課程、博士課程と様々である。それぞれの
【臨床検査教育の現状】
日本臨床検査教育協議会に加盟している教育施設
は、76 施設で大学 46 校(国立大学 20 校)
、短期大
教育を受けた臨床検査技師が一緒になって活躍をし
ている。まだまだ、進歩していく領域であり、臨床検
査技師の更なる活躍が期待される。
学 5 校、専門学校 25 校である。第 59 回(平成 25
年)臨床検査技師国家試験の合格者は 3,162 名で、大
学卒業者は 1,947 名(61.6%)と多くの臨床検査技師
を 4 年制大学卒業者が占めるようになってきている。 連絡先:九州大学大学院医学研究院保健学部門
私も大学で臨床検査技師教育に携わっている。
TEL 092-642-6745
学会長企画Ⅰ
臨床検査技師の役割と将来の展望
一般病院における臨床検査技師の役割
永田 雅博(国立病院機構熊本医療センター 臨床検査科)
【はじめに】
一般病院に勤務する臨床検査技師は,他の分野で働く
【結語】
技師に比べ直接患者に検査を行う機会が多いと思われ
疾患と臨床検査には非常に密接な係わりがあります.
ます.採血や生理機能検査が代表的な業務になります
私たちの仕事は検体を処理,あるいは生体検査を実施
が,疾患に特化した施設を除けば検体業務に携わる技
し,医師が求める結果を報告することです.診療部門
師のほうがまだまだ多いのが現状です.しかし検査の
との信頼関係を築くには“検査は迅速で結果は正確な
自動化や病院のニーズに伴い,検体検査から生理機能
ものでありいずれをも欠いてはならない”との諸先輩
検査へと人員をシフトする施設が増加しており,今後
方々の教えを守りながら職務についていますが,それ
はさらに加速することが予測されます.このことから
は最終的には患者貢献にも繋がっていると言えます.
臨床検査技師も一医療人として,接遇に対してはこれ
一般病院における臨床検査技師の役割として特徴的な
まで以上に,積極的な姿勢で取り組まなくてはなりま
ことは,患者さんを直接検査する生理機能検査を実施
せん.今回は技術的な視点との両側面からその役割に
していることです.そのため検査技術以外に接遇など
ついて述べたいと思います.
も学ぶ必要不可欠なのです.検査なしでは診断ができ
ないといっても過言ではない時代です.つまりそれだ
【ジェネラリストとスペシャリスト】
け私たちの出す検査結果には,重みがあると考えなく
患者への貢献には直接的なものと間接的なものがあり
てはなりません.実際にはこうした考えがどのような
ます.直接的なものとは,患者対応であり接遇そのも
形で臨床の現場にて役立っているのか当日紹介したい
のです.一方,間接的なものとは,医師や看護師に対
と思います.
し適切な助言や,信頼できる情報提供を含めた広報活
動を行うことです.即ち,臨床サイドより良質な医療
が提供されることで,最終的には患者に貢献ができる
という考え方です.日頃から自己研鑚を怠らず,専門
性を磨くよう切磋琢磨するというのが,我々臨床検査
技師の今日の姿勢でなければならないのです.私たち
一般病院に勤務する技師はどちらかといえば,ジェネ
ラリストやオールラウンドプレーヤーが多く存在する
職場です.しかし,ジェネラリストはその先のスペシ
ャリストを目指す足がかりとすべきなのです.当院は
一般病院だからこそなし得ることのできる,2 部門以
上のスペシャリストになることを推奨しています.い
わゆる複数認定資格の取得です.このような資格はか
なり以前より存在していましたが,10 年程前からさら
に認定技師と呼ばれる制度が登場してきました.認定
技師に望まれていることは,コンサルテーション能力
です.技術的なことは然ることながら,専門的な知識
と患者情報を基に,検査における異常反応への対処を
迅速に判断し,精査結果を報告する.さらには臨床へ
分かりやすく説明することができる.これこそがコン
サルテーションできる技師なのです.
学会長企画Ⅰ
臨床検査技師の役割と将来の展望
大学病院における臨床検査技師の役割(ICT の活動)
清祐 麻紀子(九州大学病院 検査部、グローバル感染症センター)
はじめに
また、微生物の専門としての知識や技術をラボ内で発揮
臨床検査技師の業務にも様々な部門がある。さらに、
するだけではなく、病棟ラウンド等に参加し、臨床の現場
検査部門だけではなく他部門と連携した「チーム医療」を
を把握することで、より知識・理解が深まりチームとしての
行う組織が編成され、その中に Infection Control
活動力は増加する。
Team(ICT)がある。ICT は医師、看護師、薬剤師、臨床検
査技師などを含む多職種から構成され、それぞれの専門
感染制御認定臨床微生物検査技師(ICMT)
性を活かし、病院関連感染制御やアウトブレイクの予防・
臨床微生物学会は 2006 年より感染制御認定臨床微生
対策などを行う組織横断的チームである。この ICT にお
物 検 査 技 師 ( Infection Control Microbiological
ける臨床検査技師の役割について報告する。
Technologist: ICMT)を設立した。ICMT 申請資格は、
1.日本臨床微生物学会の会員で、認定臨床微生物検査
九州大学病院における ICT 活動
技師であること 2.医療関連の感染制御に関する活動実
H13 年:ICT 設立
績があること 3.所属施設長の推薦があることである。臨
H23 年:グローバル感染症センター開設
床微生物学会の HP に記載されている、H25 年度 1 月 1
H25 年 4 月現在の構成メンバー:医師 16 名(うち専任 3
日現在の名簿では、全国では ICMT445 名(うち福岡県:
名)、歯科医師 3 名、看護師 6 名(うち専従 2 名)、薬剤師
12 名)が登録されている。
3 名、臨床検査技師 2 名、事務 2 名
ICT活動時にICMTの資格は必須ではないが、専門資
主な活動内容:感染対策の教育・指導・啓蒙、マニュアル
格が設けられたことにより、臨床検査技師の目標やスキ
作成、医療関連感染サーベイランス、アウトブレイクへの
ルアップとなっている。
対応、感染症患者へのコンサルテーション、その他
まとめ
ICT における臨検査技師の役割
ICT の中での臨床検査技師の業務は、①日常検査に
平成 22 年の感染防止対策に関する診療報酬改定に
おいて、感染防止対策加算に「3 年以上の病院勤務経験
おける正確かつ迅速な検査、報告、②臨床分離菌サー
をもつ専任の薬剤師、臨床検査技師が配置されているこ
ベイランス、③アウトブレイクの監視・早期発見、④原因究
と」が算定要件に記載された。これまでもチーム医療とし
明のための検査(保菌検査、環境検査、分子疫学的検
て、各職種の連携のもと感染管理活動が行われてきたが、
査)である。
診療報酬改定にこれらが記載されたことは、臨床検査技
臨床検査技師は院内の病原菌を最も早く認識する部
師の活動をさらに後押ししてくれるものと考える。
署に勤務している。個々の患者検体の迅速・正確な検査
を日常業務とし、さらに分離菌を病棟毎や期間毎の視点
で解析する(ラボラトリーベース・サーベイランス)ことで、
院内の「異常」をいち早く察知することができる。その集計
は週報や月報などのレポートで提示され、このレポートも
感染防止対策加算に欠かせないものである。また、アウト
ブレイクを早期に察知するために、自施設の日常的な分
離菌や耐性率も把握しておく必要がある。一定期間の分
離菌の感受性率を算出し、アンチバイオグラムを作成す
ることもできる。つまり、臨床検査技師はその専門性を活
かし、日常業務から視点を変えてデータを集計すること
で、感染管理活動に多くの情報を提供することができる。
連絡先:九州大学病院 検査部 092-642-5757
学会長企画Ⅰ
臨床検査技師の役割と将来の展望
企業における臨床検査技師としての役割
井上 誠也(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)
臨床検査の資格やその知識を生かせる職場は、病院
提供が可能になる場合がある。これらの職種のみなら
の検査室やクリニック等、実際に検査機器や検査資材
ず、医療関連製品の開発職やその評価職、製造職、ま
を用いて、患者により近い現場で検査を行う職場があ
た製品の拡販を計画・実行するマーケティング職等も
る。それ以外の 1 つとして、企業もあげられる。
医療関連メーカーにはあり、臨床検査やそれに付随す
その企業例としては、臨床検査センター、治験関連企
る医療全般の知識が、業務においても活用できる職種
業、製薬及び医療機器メーカー等があげられる。これ
も多いと考えられる。
らの企業がどのような事業を行い、また臨床検査技師
医療財政が逼迫する中で、高齢社会における予防医
として、どのような活躍の場がありうるかについて述
学の観点からも、遺伝的素因等に基づいた治療を施す、
べる。
個別化医療の観点からも、臨床検査の重要性は益々高
臨床検査センターは、検査装置等を持たない病院や
まることが予想される。それに応じて、臨床検査学や
クリニックから検体(血液、尿、細胞組織等)を預か
その関連技術は今後も発展していくものと考えられ
り、代わりに検査を行い、結果を返すことが主なサー
る。その中で、臨床検査に関わる企業は、最新かつ最
ビスとなる。大量の検体を検査する場合が多く、また
適なサービスもしくは製品を臨床の現場に届けるこ
病院施設では行いにくい特殊な検査も求められるこ
とが求められ、そこに、医学・医療全般の知識や臨床
とから、臨床検査技師として高品質でかつ高度な検査
検査学や技術を習得した臨床検査技師として、少なか
技術が求められることもある。
らず貢献できる場があるといえる。
治験関連企業については様々な業態があるが、製薬
会社が開発した新薬を、医療機関等で実際のヒトで試
す治験を支援もしくは代行するような企業体がある。
新薬の有効性や安全性を判断する上で、臨床検査デー
タは必須となり、その検査データの変動を科学的に判
断し、3 者間(被験者、ドクターをはじめとする医療
職者、製薬会社)を調整する、いわゆる治験コーディ
ネーターとして、臨床検査技師の資格が生かせる場合
がある。
製薬及び医療機器メーカーは、治療薬もしくは診断
薬、また医療機器等の医療関連製品を開発、製造、販
売する企業である。臨床検査技師資格を取った後に、
これらメーカーの営業職もしくは学術職という選択
肢がある。これらの職種の主な役割の一つに、医療職
者に対して自社製品や関連情報を提供する役割があ
るが、この活動において、臨床検査の資格や知識が生
きる場面も少なくない。すなわち、一般的に臨床検査
技師を養成する課程では、臨床検査をはじめ医学全般
の科目(生理学、生化学、血液学、免疫学、輸血学、
細菌学、病理学、遺伝子学、医用工学、公衆衛生学 等)
を幅広く履修することが求められる。その課程を通じ
て習得する医学・医療全般の基礎的な知識を生かすこ
とで、営業職及び学術職として付加価値を含めた情報
連絡先:[email protected]
学会長企画Ⅰ
臨床検査技師の役割と将来の展望
細胞検査士の学位取得と将来の展望
仲 正喜(九州大学大学院医学系学府保健学専攻、九州大学病院 病理部)
、
渡辺 寿美子、加来 恒壽、大石 善丈、田宮 貞史、大久保 文彦、小田 義直、杉島 節夫
【はじめに】
い状況を検索、
そして生成機序の解明を目指している。
私は九州大学医学部保健学科を卒業後、同大学院医
対象は C33a(子宮頸部扁平上皮癌)
、Hela(子宮頸
学系学府保健学専攻の修士課程にて保健学修士の学位
部腺癌)
、T24(尿路上皮癌)である。細胞数を 5×104
と細胞検査士の資格を取得した。現在は、九州大学病
個/ml に調整し、血清添加培地と無血清培地で 10 日
院病理部で働きながら、博士過程にて保健学博士の取
間培養して pair cells 出現数の比較を行った。また、
得を目指している。
生細胞タイムラプスイメージング装置を用いて、タイ
病理検査とは、疾病の診断を行うために、患者
ムラプス観察を行い、pair cells の生成過程を捕らえて
から採取した臓器・組織・細胞などを顕微鏡的に いる。
現時点までの結果として、3 つの培養細胞において
詳しく調べることであり、組織診断と細胞診断の
血清添加培地に比べ無血清培地の方が pair cells は多
2 つに大別される。
【細胞診】
く出現することが判明し、pair cells 生成と血清の有無
細胞検査士は、日本臨床細胞学会と日本臨床検査医
は関連性があることが示唆された。また、タイムラプ
学会の認定資格であり、臨床検査技師の上級資格であ
ス観察によって 15 個の pair cells 生成過程を動的に捕
る。細胞検査士の役割は、癌や前癌病変の早期発見を
えることができた。
Pair cells 生成は現在までに報告の
目的に、人体から採取された細胞をスライドガラスに
ある細胞侵入のほかに異常な分裂によっても生成され
塗布、染色後、顕微鏡的に観察して、病変の病態を推
ることが判明した。
定することである。細胞診検査は、訓練された細胞検
今後は pair cells 生成に関わる原因因子について分
査士と専門医によって診断され、癌検診において精度
子生物学的手法を用いて解析する予定である。
の高い有用な検査である。特に婦人科子宮頸部癌にお
【学位取得】
いては、早期子宮扁平上皮癌の発見に威力を発揮し、
罹患率の減少に貢献している。
細胞診検査の対象は、子宮頸部や子宮体部の婦人科
大学院には優れた指導者が多数おり、
充実した研究
環境もある。そのため幅広い専門知識や技術を修得す
ることができ、
基礎的な研究能力を養うことができる。
領域をはじめ、喀痰、尿、体腔液、胆汁、それに甲状
大学院で学位を取得することは、研究者として自立す
腺、乳腺、リンパ節などの穿刺吸引細胞診を加えると
るための第一歩となると考える。
広範囲の臓器をカバーしており、悪性腫瘍の診断には
欠かせない検査となっている。
私は、
『研究は臨床にフィードバックされてはじめて
価値を生むものである』という基本のもと、これまで
がん細胞と正常細胞は細胞形態に違いがあり、その
細胞形態を客観的に評価することをテーマに研究を行
違いを目で見て判断するのが細胞診である。細胞診断
ってきた。その成果は、少なからず診断精度の向上に
学の研究というのは、がん細胞のさまざまな形態を探
つながるもので、現在の細胞検査士の仕事に活かされ
究することである。
ている。
【現在の研究】
【まとめ】
テーマ:Pair cells 生成に関する検討
日々、多様に進歩する医学の分野において、これか
Pair cells とは癌細胞の特殊な出現様式である。1 個
らの臨床検査技師には、日常業務における技術の向上
の細胞を他の細胞が完全に取り囲む細胞形態を示すも
は勿論のこと、専門領域を確立し研究に対する積極的
のである。
Pair cells は癌の浸潤や予後予測など細胞診
姿勢が求められてくると考えられる。
断学において重要な所見として挙げられているが、生
成機序を含め未だ不明な点が多い。
本研究は培養細胞を用いて pair cells が生成しやす
連絡先:仲正喜
九州大学病院病理部 092-642-5853
学会長企画Ⅰ
臨床検査技師の役割と将来の展望
大学教育が目指すもの
杉内 博幸(熊本保健科学大学 医学検査学科)
医療の高度化、専門化が進む中で質の高い医療を実
践するためには、チーム医療が不可欠である。臨床検
重要である。
3.国際化時代に対応できる人材の育成
査技師は、そこに自らが有する検査の専門的知識や技
これからの教育は国際的に活躍できる臨床検査技
術を大いに役立てることが要求されている。即ち、患
師育成を目指すことが重要である。国際交流の一環と
者中心の医療現場に積極的に参画し、科学的で客観的
して、本学には、韓国のテグ大学、タイのコンケン大
なデータを提供することが必要とされる。現在、他職
学と交換研修プログラムがある。これは、毎年、本学、
種との連携や患者との接触が益々必要となる中で、技
テグ大学、コンケン大学の学生が相互に相手国に行き、
師の意識改革、専門的知識や技術の向上が社会的にも
ホームステイしながらそれぞれの大学で勉強や文化
要望されている。このような時代背景のもとで、臨床
交流を行うプログラムである。毎年、5~6 名の学生
検査技師の教育制度は、職務の専門性の深まりととも
から参加している。また、本学の大学院では、海外留
に3年制の専門学校から短期大学に、そして4年制大
学生の受け入れも行っている。
学・大学院教育へと移行し、より専門的な知識と技術
4.研究開発のできる人材の育成
の習得が可能となってきた。そこで、本会では、卒前
臨床検査技師の教育制度が 4 年制大学に移行し、ま
教育として、どのような教育に取り組めばよいのか、 た、大学院に進学することも可能となり、より専門的
大学教育が目指すものをいくつか紹介する。
な知識や技術の習得が可能となってきた。これからの
1. コミュニケーション能力を有した人材の育成
臨床検査技師は、検査に関係する研究や試薬の改良・
グループディスカッションやチュートリアル教育
開発を自らの手で行える環境にある。そのような状況
などを取り入れ、学生自身の問題発見能力と問題解決
の中で、卒前教育としては、卒業研究などでデータ収
能力を伸 ばす教育を行っているところが多い。この
集、解析能力、問題解決能力を養い、プレゼンテーシ
ような卒前教育は、医療現場でチーム医療が常識化す
ョン能力を身につけさせることが重要である。
る中で大いに役立つものと考えられる。本学では、1
5.卒業後の認定資格取得を意識した教育
学年が 100 数十名と多いので、少数学生担任制度 [ス
近年、高度化し専門化する医療現場を反映して、各
モールグループ(SG)担任制度]を設けており、ある
種資格認定制度も次々と開始されている。細胞検査士
テーマに関して SG 単位でのディスカッションや勉強
をはじめとして、糖尿病療法指導士、超音波検査士、
会を行っている。また、学内実習では、学生を 5~6
健康食品管理者、各種認定検査技師などその専門性は
人の小グループに分け、その中からリーダーを決めて、 広汎多伎にわたっている。これらの資格取得に対する
リーダーの指導のもとで実習を行っている。
意識を高めることも今後の教育現場では重要である。
2. 病態解析能力を養う
6.様々な分野で活躍できる人材の育成
他の診療部門との連携を図る医療が普遍化してい
大学卒業後の活躍の場としては、医療現場のみに限
く中で、検査技師の視点から、
“病態解析”ができる
定されるのではなく、医療に関係した様々な分野へと
臨床検査技師の育成も重要である。検体検査において
目を向ける教育が必要となってきた。大学や企業での
は、病気の予防、診断や治療の全行程のなかで、迅速
臨床検査に関する研究開発、治験コーディネータ、医
かつ正確な生体情報の提供と分析が必要であり、検査
療事務(診療情報管理士)
、予防医学分野への貢献な
結果から病態を推測できる質の高い臨床検査技師の
ども貴重な選択肢であり、このような視点からの情報
育成も必要である。そのためには、4年制大学で多く
提供、教育が益々重要である。
取り入れられているグループディスカッションやチ
ュ-トリアル教育などの自己問題解決型の教育を参
明日の臨床検査を担う人材の育成を目指して、試行錯
考に、工夫しながら、実際の症例を提示しグループデ
誤しながら上述したような教育に日々取り組んでい
ィスカッションをする授業形態を組み入れることが
るところである。
学会長企画Ⅱ
生きる力 ~輝く明日へ~
技師会活動を活発にいつも心配り、声かけ、そして挑戦
柳本 孝子(福岡県臨床衛生検査技師会 北九州支部長)
(北九州支部活動の概要)
福岡県臨床衛生検査技師会北九州支部は、臨床検査
の積極的な協力により大きく前進したように思いま
す。第 4 の目標はホームページの有効活用です。2004
技師国家試験がはじめて実施された昭和 46 年に発足
年に開設した支部ホームページ(kitaqamt)を、写
しました。会員数は現在○○○名を擁し、歴代支部長
真入りで事業報告するなど、多くの会員に見ていただ
の優れた統率力のもと様々な活動を展開してきまし
けるような内容に拡充しました。まだまだ活用の場は
た。
広がるのではないかと期待しているところです。
会の根幹である学術の研鑽は、各学術部門長を中心
に年間計画を立て研修会を開催しています。
(技師会活動でさらなる成長を)
技師会活動は、自らがお金を払って参加している組
北九州市の救急医療や検診事業への出務協力、市民
織です。職場の地位・立場は役立つことはあっても必
糖尿病教室への参画、医師会主催健診フェアへの出務
要ではありません。専門分野での上下関係もあまり考
協力、北九州市主催の健康づくりイベントへの出展な
慮する必要はなく、むしろこれまでの経験を生かし活
ど、地域社会と連携した活動にも早い時期から積極的
動することで、新しい発見がきっとあります。素直な
に取り組んできました。
気持ちで肩肘はらずに取り組み、自分を表現する場に
会員相互の親睦・交流に重点をおいた活動にも積極
的に取り組んでいます
本年 3 月、支部発足以来初めてとなる記念誌「北九
したらよいと思います。
さらに、支部事業の企画は、概ね支部長の意向が反
映します。事業には必ず数値目標を掲げ、支部長自ら
州支部 40 年のあゆみ」を発行しました。
も地位や立場を最大限生かし全力を尽くす。苦しみな
(臨床検査ゼミナールについて)
がらも作り上げていく充実感、そして見事成功したと
昭和 53 年に第 1 回目が開催されて以来毎年開催さ
き、関わった技師全員が達成感を実感できる。この繰
れ、今年 36 回目の開催を迎える“臨床検査ゼミナー
り返しこそ、技師会活動の楽しさであり醍醐味だとお
ル”は、支部の活発な活動の証として今や北九州支部
もいます。
の貴重な財産となっています。
ゼミナール開催を決意した根拠は「毎年事業を実施
(最後に)
私の思い描く技師会活動を一本の木に喩えるなら、
していく中で、竹の節のようにその年に心に残るもの
一年中緑の葉をつけた大きな木。心地よい季節には小
を残したい一心、そして業績を残したい。さらにこの
さいけれどきれいな花がよい香りを漂わせる。よくよ
ことを契機として、また刺激にもなって、技師会の活
く見ると気付きにくい葉っぱのかげからも沢山の花
性化に繋がるであろうとの意図もありました。
」
(第二
を咲かせている。そのような光景です。
代支部長 江川重信先生談)
大先輩からの言葉を添えます。
「会は、品格と学術
当初は、全国的に著名な先生方を講師にお招きして
と文化を大切にしていただき、この三つの柱で進んで
いました。ポイント的に市民対象の健康フェアも開催
いってください。そして社会活動に参加していただき
してきました。
たい。
」
いまでは、市民の健康づくりを応援するイベントに
発展・進化しています。
(活動の原動力はチームワークと挑戦)
支部長としてスタートした5年前、私は4つの目標
を掲げました。第 1 の目標は若い力が活躍できる場を
つくる。第 2 の目標は会員相互の交流の輪を広げる。
第 3 の目標は地域社会の健康づくり活動を応援する。
いずれも挑戦的な企画と施設責任者はじめ会員各位
最後に、技師会活動をお伝えする機会をいただきま
した女性部の皆様に心より感謝いたします。
学会長企画Ⅱ
生きる力 ~輝く明日へ~
九州発!あなたを癒し、応援します!! ~女性部アンケートをもとに~
土器 若穂(製鉄記念八幡病院 検査部)
学会長企画Ⅱ
生きる力 ~輝く明日へ~
地域に役立ちたい思いから、農村レストランを開店
本田 節(人吉市 郷土の家庭料理 ひまわり亭)
● 建物は昔の豪農のお屋敷
人吉市球磨川河畔に、
築 120 年の古民家を移築した
生き甲斐を提供するのが私の役目です」
。
「起業」とは
業を起こすのでなく、それによって自分も地域も起こ
風情あるたたずまいの農村レストラン「ひまわり亭」 されなければならない、そんな本田さんの持論がみご
があります。経営するのは、
「人吉にこの女性あり」
とに体現された「ひまわり亭」
。視察や交流の客など
といわれる、本田節さん。国土交通省の地域振興アド
年間 5 万人が全国から訪れ、いつもにぎわいを見せて
バイザーであり、2 期 8 年を務めた元市議会議員であ
います。
り、
「ひまわりグループ」の主宰者、そして郷土料理
研究家でもある女性です。
熊本県男女共同参画センターホームページより
http://www.danjyo.pref.kumamoto.jp/char/style/05ti
● 交流とボランティアを楽しむ
結婚後、建築設計事務所経営の夫の仕事を手伝っ
ていた本田さん。あるとき夫のすすめで商工会議所主
催の異業種交流グループ「平成正聞之会」に参加、若
い経営者や町おこしグループとの交流の楽しさに目
覚めた本田さんは、自らも仲間の女性たちと「ひまわ
りグループ」を結成、郷土料理を勉強したり、お年寄
りに弁当を宅配するボランティア活動をはじめまし
た。そんなとき、乳がんを煩い、1 年間の苦しい療養
生活を強いられた本田さん、しかし、彼女はただでは
起きあがりません。本田さんがつかんだもの、それは
「命の大切さ」と、
「人の役に立たないまま死にたく
ない」でした。
● ある「出会い」が人生を変えた
1993 年、本田さんは人吉市で開催された「第 3 回
九州女性サミット」の実行委員長を務め、市房漬で有
名な湯前町下村婦人会代表・山北幸さんと出会います。
山北さんはそのとき 80 歳。彼女の人柄に触れた本田
さんは「人生観が変わった」といいます。
「私もこん
なすてきな歳の重ね方をしたいと思ったんです」
。以
来、本田さんは山北さんの講演にどこまでもついてい
き、自らもさまざまな町づくり活動に携わっていきま
す。そして 1998 年、
「ひまわり亭」をオープンさせ
ました。郷土の伝統的な食文化を提供し、同時に女性
たちのさまざまな活動や交流の拠点ともなる場です。
「安心・安全」な食材に徹底的にこだわるのは命の大
切さを実感した本田さんならでは。15 名の女性スタ
ッフのうち 10 名が 60 歳以上です。「お年寄りの経験
や知恵、技はかけがえのないもの。それに敬意を表し
iki/064honda/
学会長企画Ⅱ
生きる力 ~輝く明日へ~
言葉の力
安田 瑞代(RKB 毎日放送)
シンポジウムⅠ
病院が求める検査室からの情報発信
生化学・免疫検査に求められる情報
森 大輔(九州大学病院別府病院 検査室)
、
堀田 多恵子(九州大学病院 検査部)
【はじめに】
ル シ ウ ム 補 正 、 推 算 糸 球 体 濾 過 量 (eGFR) や
1981 年にLundberg はbrain to brain という臨床検
AST/ALT 比など、1~数検査項目の計算式からより正
査情報ループ (検査依頼から報告までが正確で、しか
確なデータや診断補助に必要な情報を付加価値として
も報告まで早いほどその検査室は高い能力がある) の
提供することができる。また、抗 CCP 抗体、MMP-3
考え方を提唱した。これは、当時開発されていた自動
やプロカルシトニンなどのように、診断や治療効果に
検体処理装置の基本概念に大きな影響を与え、その後
貢献している検査項目も多くあるため、迅速かつ正確
に導入された自動分析システムにより、依頼から報告
に臨床側に報告することが求められる。
までの時間を著しく短縮させた。その結果、検査デー
【救命的な検査、病院経営からの生化学・免疫検査】
タは臨床側にとって、空気や水のように有って当たり
救命的な検査として、極端値やパニック値に代表さ
前の存在となったが、ほとんどのデータは単なる数値
れる血糖値や電解質などの検査項目が該当する。パニ
(シグナル) 情報のため患者様に必要な診療情報とし
ック値の定義は、
「生命が危ぶまれるほど危険な状態に
ては不十分である。またさらには、病院経営側にとっ
あることを示唆する異常値」であるが、患者様が必ず
て検査を院内または外部委託検査会社で行われてもデ
しも生命が危ぶまれるほど危険な状態にあると限らな
ータに違いがないと判断され、設備投資の観点からも
いため、検査項目と設定値は臨床医との協議が不可欠
検査室を病院内に置く疑問が発生してきた。
である。また、病院経営からみた生化学・免疫検査は、
以上のような経緯や現在の状況より、病院が求める
医療経済の窮迫を反映して、検査実施料の減額、包括
検査室からの情報発信について、生化学・免疫検査か
化、入院医療費の定額化 (DPC) により今日では必ず
ら求められる情報を中心に考察し述べたい。
しも収益部門でなくなった。そのため、医療を取り巻
【チーム医療や臨床との繋がり】
く環境の変貌や医療ニーズを捉え、診療効率・質向上
臨床検査と関わるチーム医療として、栄養サポート
と病院経営に貢献するような体制を整えることが重要
チーム (NST) や感染制御チーム (ICT) 等が挙げら
である。
れる。まず NST では、在院日数を短縮する目的で栄
【血液・造血器疾患の生化学・免疫検査の有用性】
養アセスメント蛋白が注目されており、血中半減期が
血液検査部門のシンポジウムということもあり、血
短くリアルタイムに動的な栄養状態の評価が可能な
液・造血器疾患における生化学・免疫検査の有用性に
Rapid turnover protein (RTP) であるレチノール結
ついても述べたい。血液・造血器疾患では主に血算、
合蛋白、トランスサイレチンおよびトランスフェリン
血球形態や細胞化学性状や遺伝子検査などの臨床検査
が、また血中半減期が比較的長く採血時点での静的な
により、診断や治療効果の判断が可能である。生化学・
栄養状態を示すアルブミン等が用いられている。次に
免疫検査においては、その対象となる検査項目は少な
ICT では、薬物血中濃度モニタリング (TDM) におけ
いが、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫では、免疫グロブ
る対象薬剤の血中濃度測定や、薬剤部と協同し抗生物
リンや蛋白分画などの検査項目から病態変化をある程
質適正使用の推進を目的とした抗菌薬使用患者様の血
度反映することができる。
中濃度の把握・管理等が行われている。このように、
【まとめ】
チーム医療へ積極的に参加することは、様々な医療従
病院が求める検査室からの情報発信について、生化
事者の中でその専門性がアピールでき、また患者様に
学・免疫検査においては確定診断や治療効果に貢献し
直接接してサービスを提供できる最高の機会である。
ている検査項目もあり、臨床側にとっては無くてはな
こういったチーム医療を通じて、さらなる臨床との繋
らない検査部門である。しかし今後は、病院経営や医
がりも増えていくものと思われる。
師と対等に密な連携・協議できる臨床検査技師の育成
【付加価値、診断や治療効果に貢献する検査項目】
が望まれる。
生化学検査において、低アルブミン血症におけるカ
連絡先:0977-27-1712
シンポジウムⅠ
病院が求める検査室からの情報発信
凝固・線溶系検査に求められる情報
久保山 健治(久留米大学病院 臨床検査部)
検査における「情報」の主たるものは検査結果であ
【ステップ3】
る。凝固・線溶検査においても例外ではない。凝固・
血液疾患を考える。
線溶検査は出血、血栓といった生命に直結する病態に
・先天性低下症、後天性低下症、産生低下
密接な検査であり、正確な検査結果を迅速に臨床へ報
・DIC
告することが望まれる。しかし、検査結果をただ単に
・ループスアンチコアグラント
出すだけでは質の高い検査とはいえない。
・DVT
他
毎年4月になると新人の技師、看護師、医師が入っ
てくる。途端に凝固検査部門はあわただしくなってく
このようなステップで検査データを解釈し、異常デ
る。採血量不足、検体のかたまり、ヘパリン混入等が
ータの原因を絞り込んで、臨床とのコミュニケーショ
増えるからである。このような検体の測定結果を「正
ンを行いながら「情報」を発信している。
確に」
「迅速に」とこのまま臨床へ報告するとどうな
また、当院では情報の発信者と受信者の教育のため
るのだろう。数字だけをみると、臨床的には出血症状
に、各種研修を行っている。毎年 7 月には新人研修、
や血栓といった状態がおきてもおかしくないような
夜勤・日勤の研修を行い、異動によって入ってきた者
検査結果が出ることも少なくない。つまり、データと
に対しては部門内研修でデータの解釈方法などをレ
臨床症状が乖離する。凝固分野に詳しくない医師はた
クチャーしている。さらに、CPC へ参加して研修医
だちに治療に入ってしまう可能性もあるだろう。つま
へ検査の情報を提供したり、血液腫瘍内科と合同勉強
りは最初に結果を目にする我々がどう判断し、どう解
会を開催している。
釈して、どのように結果を報告するかが最大の問題と
いえる。
今回は実際に、結果報告をする上で苦慮した症例を
当院では一定の質を保つために、基本的に次のよう
提示しながら、我々は検査技師ではなく、臨床検査技
なステップを踏んで、検査結果を報告するようにして
師であることを肝に銘じて、あらためて「情報」につ
いる。
いて考えていきたい。
【ステップ1】
テクニカルエラーを避けるために試薬・機器の性能
や特性を把握する。
採血方法や手技による偽高値・偽低値を避けるため
に以下の点を確認する。
・検体のかたまりや溶血の有無
・採血量
・ヘパリン混入
・血漿の色調(乳び等)
【ステップ2】
抗凝固療法を実施していないかを確認する。
・ワーファリン
・ヘパリン
・新規抗凝固薬
連絡先:0942-31-7639
[email protected]
シンポジウムⅠ
病院が求める検査室からの情報発信
血算・形態検査に求められる情報
堤 陽子、築地 秀典、平野 敬之、出 美規子、藤丸 政義、
森 大輔(佐賀県医療センター好生館 臨床検査科)
【はじめに】血算・形態検査は日常診療における基本
認した検査は医師の最終診断が未入力であっても仮
的検査項目として多用されており、その役割はスクリ
報告として電子カルテで閲覧できるようなシステム
ーニング的要素から病態の把握、経過観察、血液疾患
を組んでいる。また、鏡検室は病理と共有で、病理医
を捉えることにある。自動血球分析装置による判読は
師や病理技師とのコミニュケーションが取りやすく、
形態検査につながる重要なセクションであり、その得
末梢血・骨髄標本で腫瘍細胞出現時には可能な限り組
られた情報をもとにメイ・ギムザ染色による血液形態
織型の推定も行っている。
検査が不可欠である。自動血球分析装置および血液標
⑤臨床との連携:毎週血液内科医とともに血液カンフ
本からもたらされる情報は多様であり、私たち臨床検
ァレンスを行っており、末梢血・骨髄標本の提示・デ
査技師は迅速な検査結果だけでなく疾患マネジメン
イスカッションだけでなく治療方針も共有すること
トを支援する専門性の高い報告を要求されている。血
でその後の検査につなげることができると考えてい
算・形態検査の結果を的確に読み、迅速かつ正確な報
る。血液担当技師は解剖にも従事しており、毎月 CPC
告が求められている中で、自動血球分析装置の特性を
に参加し、必要に応じ末梢血像や骨髄像の提示を行っ
活かしながら形態検査は常に共存するものであり、そ
ている。
のためには技術研鑽と知識向上はもちろんのこと、臨
今回、当院血液検査室での現状や取り組みを症例を交
床との連携も重要になってくる。
え報告する。
当院は病床数 450 床で、佐賀県内においては高度救急
医療を担う基幹病院であり、県内では数少ない血液内
科を有し無菌室 10 床を備えている。
【当院の取り組み】
①血算検査の報告時間:各医師が診療開始前に採血結
果を確認できるように早出を行っている。
②分析機で異常値や異常フラグ出現の場合:血算で目
視基準を定め、目視基準となる異常値やフラグが出た
場合は血液システムにおいて自動で目視が追加とな
り標本が作製されるシステムである。また、パニック
値を設定し異常値および異常細胞出現時には主治医
へ連絡している。その他、医師からの迅速目視依頼に
も対応し、前歴のない血小板低値例では血小板凝集の
有無を生血で確認し、臨床に迅速で適切な結果を報告
している。
③骨髄検査:骨髄検査は年間約 300 件で、ベッドサイ
ドへ技師が赴き医師とコミニュケーションをとりな
がら標本作成を行っている。必要に応じ至急で標本を
染色し、医師と相談しながら検査を進めている。血液
疾患であれば特殊染色とフローサイト検査を行うこ
とで当日中に治療開始もしくは治療方針の決定に役
立っている。
④骨髄検査の付加価値:技師がカウント・所見入力を
行い、カンファレンスにおいて血液内科医とともに確
連絡先:佐賀県医療センター好生館 検査部
0952-24-2171
シンポジウムⅡ
Physiological Technologist(生理検査におけるスペシャリスト)の育成
大規模病院の立場から
山下 祐一(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部)
【はじめに】
生理機能検査と言っても大学病院や大・中・小規模
【接遇対策】
生理検査はほとんどの場合患者さんと接すること
病院など病院の規模や経営方針によって検査の内容、 から始まりいかに協力を得られるかによって円滑に
検査手順はさまざまである。件数も病院の特色等によ
かつ正確な画像や所見レポートの提供につながりま
って偏りはあるもののさまざまです。今回、当院の生
す。日ごろから新人職員の方々は患者さんの協力をい
理検査室に携わる臨床検査技師の育成について述べ
かに得られるかを諸先輩方々から指導や教育を受け
たいと思います。当院は国立病院機構でありまして全
ていることと思います。学術や知識だけでなくこの接
国に143施設、うち九州ブロックに28施設ありま
遇の難しさも新人の時にはよく経験するものです。い
す。福岡市内にありヤフオクドームのすぐ隣に位置す
ろいろな方々の指導や日ごろから行っている接遇か
る病院で10階建の病床数700床であります。
「質
ら多くを学び自分の経験を積み重ねることで自信と
の高いよりよい医療の提供」を念頭におき、ひとりひ
なりスムーズに生理検査を行う事が出来るようにな
とりが生理検査室の中でどのようにすれば親切丁寧
りそれが質の高い医療の提供へとつながると思いま
な医療を臨床に提供できるのか、どのように指導すれ
す。
ば皆で同様に迅速に正確で質の高い生理検査を行う
【まとめ】
ことができ、画像や所見レポートを提示できるのか
検査をスムーズに行うためには検査内容と検査方
(信頼性のある検査結果の提示)また医師や看護師、 法等を患者さんに十分に説明し協力を得たうえで検
放射線部との信頼関係の構築は必要不可欠でありそ
査を施行することと合わせて臨床検査技師として事
のために継続的なスキルの向上を行う必要がありま
前にその患者さんの必要な情報収集を行ったうえで
す。より良い生理検査室ならびにより良い医療の提供
検査を行い迅速に正確で質の高い検査結果を臨床に
を目指すために迅速で正確な質の高い医療の提供を
提供していくことが必要な事だと思います。これから
行っていきたいと思います。
の生理検査室を担っていく技師が多くいることを誇
【問題点】
りに思いながら、もっと多くの技師が育っていき検査
知識や技術を身に付けても生理検査室では患者さ
技師の地位が少しでもあがり、検査技師を取り巻く環
んと接することが多いところです。接遇の必要性も教
境が今よりより良い環境になることを願っておりま
育指導していくことでよりよい医療の提供につなが
す。みなさんの頑張りが患者さんの治療に役立ったり
っていくことと思います。実際、生理検査において患
笑顔につながることと思います。
者さんの協力が必要不可欠になってくることが多々
あります。その場合に患者さんに対する生理検査の意
義や方法の説明を行い、患者さんの状態の把握に努め
ていくことが必要です。いかに患者さんの目線に立っ
て検査を行えるかが親切丁寧な対応につながると思
います。現代社会はストレス社会と言われるくらいい
ろいろな事でストレスを感じていることと思います。
患者さん、医師や他の技師とのかかわりの中で起こり
うる事と思います。厳しく時には優しく指導教育して
いくうえで気を付けておかないといけないのが精神
面のケアになると思います。若い方々の精神面に気を
くばりながら厳しい指導の中にも愛情を込めて成長
を見守り続ける必要があると思います。
シンポジウムⅡ
Physiological Technologist(生理検査におけるスペシャリスト)の育成
中規模病院の立場から
米満 幸一郎、盛本 真司、小村 寛、川田 慎一、上國料 章展、小野原 暁恵、
岩元 由佳、黒原 由貴(鹿児島医師会病院 生理機能検査室)
当院は255床18科を有する紹介型総合病院で
ます。検査がやや慣れたころから装置の操作・検
す。生理機能検査室には7名の正職員と1名の臨時職
査技術が必要な心エコーに移行します。心エコー
員がいます。当検査室の技師は開院当初から病理検査
は検査時間を考慮し、入院の患者様を対象としま
室、検体検査室など他部署とのローテーションはなく、
す。いづれの検査も「新人教育の一環であること」
生理機能検査室の専属技師として配属されています。
「中堅技師とダブルチェックすること」
「時間が
7名の正職員は約20項目の検査を7週間1スパン
かかること」など検査の前に了承いただくように
で生理機能検査室内でのローテーションを行ってい
しています。中堅技師ととももに計測値やエコー
ます。7名の技師が偏り無く公平に検査を行っていま
所見を報告書に記載し医師が再度エコー画像を
す。3年目の新人も20年目のベテラン技師も心電図
チェックし報告書を確定します。
から筋電図、心エコー、緊急時の心カテまで全ての業
ステージⅤ:緊急時に対応できる
務をこなします。7名の正職員はオンコール体制で夜
(心カテ)
間休日業務にも携わります。その為にも全ての業務を
この5つのステージを一部重複しながら1ステー
こなせる必要があります。つまり新人教育は「このオ
ジ2~6ヶ月を目安に、最短1年半を目標に必要最低
ンコール体制に加わることができるようになる」こと
限の知識・技術を教育します。新人技師にとってはハ
が1つの節目となります。
ードではありますが、これが中規模病院の宿命でもあ
新人にはこのオンコール体制に入る為の新人教育
ります。この期間中は中堅技師が絶えずサポートを行
プログラムがあります。これには大きく5つのステー
ない、検査所見に緊急性がないかなどチェックします。
ジに分かれています。
この中堅技師のサポートとチェックが医師の信頼性
ステージⅠ:患者とコミュニケーションがとれて
を高める上でたいへん重要になります。もちろんこれ
検査が正しくできたか判断できる。
(心電図、肺機能、聴力、眼底カメラ)
新人技師で最初に携わる心電図では、検査中に遭
が新人教育の終わりではなく最低限の知識・技術の習
得に過ぎません。
生理機能検査業務の重要なことに検査報告書の作
遇する急性心筋梗塞や重篤な不整脈を見落とす
成があります。この報告書が技師間で差が出ないよう
ことなく判断できるように教育します。
留意することが必要です。また医師の信頼性を保つこ
ステージⅡ:やや技術の必要な検査ができる。
(トレッドミル、ABI、脳波)
とも重要であります。その為当院では週1回行われる、
術前・術後の院内カンファランスに参加して、腹部エ
トレッドミル等の負荷検査はリスクの存在が否
コーや乳腺・甲状腺エコーの結果をフィードバックし、
めません。強制的な負荷をかけず、中止事項に注
次の検査に役立てています。また積極的に超音波検査
意して,少しでも危険を察したら直ちに中止すよ
士などの資格取得に協力したり、学会、研修会などに
う教育します。患者の安全を第一に考えることが
参加するようにしています。加えて、検査室内でも持
重要です。
ち回りの勉強会を行っています。
ステージⅢ:検査に関してコメントできる。
生理機能検査の信頼性を高めていくためには、検査
(筋電図、ホルター心電図、FRC、DLco、
)
に携わる技師が、正確な検査を行うことが必要不可欠
ステージⅣ:技術が必要で且つ医師と協議しコメント
であります。たとえば超音波検査士の資格を取得した
ができる
からといって慢心するのではなく、さらなる向上心を
(心エコー、腹部エコー、体表エコー、血管エコー) もつ必要があります。依頼医が何を知りたくてオーダ
超音波検査は装置・探触子の操作が比較的簡便で
ーしたかを理解し、疾患に対する知識や病態を十分把
画像が直観視しやすい腹部エコーから開始しま
握し、臨床的に有用な情報を提供できる技師に育成す
す。検査時間を考慮し人間ドックの方を対象とし
ることが大切であります。
シンポジウムⅡ
Physiological Technologist(生理検査におけるスペシャリスト)の育成
生理検査に特化した施設の立場から
片山 雅史(熊本機能病院 神経生理センター)
、
吉松 文美代(同 心臓生理検査課)
、吉野 孝一(同 画像診断センター)
【はじめに】
など各診療科の専門学会や、技術的な側面からも補足
生理検査は、他の臨床検査業務と比較して被験者と
が可能な日本超音波医学会(検査学会)
、日本生理学会
の接点が比較的多い検査である。生体を対象とする検
などにも積極的に参加している。超音波検査について
査であるがゆえに、教育におけるシミュレーションが
は、日本診療放射線技師会関連の研修会も可能な範囲
容易にできないことや、標準化が難しいなどの問題が
で参加することで、さらに知見も深まる。当院スタッ
あった。加えて臨床検査技師という職種の業務が多岐
フは専門学会で得た情報を、広く臨床検査技師に伝達
にわたり、組織におけるバランスなどの観点から、ロ
することも役割の一つであると考え、技師会における
ーテーションを余儀なくされることが避けられない状
講演活動や、他施設からの研修も積極的に受け入れて
況であった。
いる。ある分野の事柄を、確実に自分自身の知識とし
【生理検査部門の現状】
て習熟したか否かを判断するには、第 3 者に解りやす
熊本機能病院では脳・神経領域における検査を専門
く説明できることであると思われる。したがって情報
で行なう「神経生理センター」
、心臓血管中心の「心臓
や知識の新人への伝達は、
若手が中心となって指導し、
生理検査課」
、および放射線科と連携をとりながら、エ
中堅以上の職員は指導法などの設定や、定期的な見直
コーを主業務とする「画像診断センター」を、検体検
しなどを担うことになる。
査部門とは別に設置し、現時点ではローテーションも
【今後の展望】
行なわずに専門教育が可能な環境にある。上記の部署
病院など施設内において、臨床検査技師という資格
間では、末梢神経障害を電気生理学的に診断した例に
をベースに横枠のくくりも重要であるが、教育・指導
ついて、
表在超音波で形態学的な裏づけを取ることや、 を充実させるためには、医師や他のコメディカルも含
心臓や腹部の超音波検査で必要性が生じれば、放射線
めた各診療科単位で、縦枠の活動が必要であると考え
科へ情報伝達し、CT や MRI 検査などへの移行がスム
る。各施設によって環境が異なるため、最良の策か否
ースとなるなど、様々な連携によって日常診療を効率
かは意見が分かれるであろうが、診療科ごとに細分化
化している。
された生理検査業務のメリットやデメリットを紹介し、
【後進の育成ついて】
生理検査の教育・指導における新しい展開につながる
教育・指導が必要な項目は、知識などの基礎とテク
ことを期待する。
ニックに大別される。テクニックの習熟は、個人差は
あっても長期間の反復による慣れでしか、なし得ない
ものであると考えている。その点においては専門領域
が限られて、ローテーションが無く長期間固定されて
いることは有利である。一方、高い専門的知識を身に
つけ、維持していくためには、技師会のみでは役不足
であることは否めず、スキルアップ目的で医師を中心
とした専門学会での活動が必要となる。教育の目標地
点として、
「日本臨床神経生理学会認定技術師」や「超
音波検査士」など各種上位学会認定の資格取得を課題
としてあげておくこともモチベーション維持には有効
であると思われる。すなわち、常に当該分野の最先端
情報に得るためには、日本臨床衛生検査技師会関連の
学会や研修会のみではなく、日本臨床神経生理学会、
日本末梢神経学会、日本循環器学会、日本心臓病学会
連絡先:096-345-8111(2570)
シンポジウムⅢ
チーム医療と一般検査
大規模臨床試験から考える2型糖尿病 ~熊本宣言に至るまで~
峯崎 智久(新小倉病院 糖尿病センター 医師)
日本における 2 型糖尿病患者の増大は深刻であ
一方で、HbA1c 値の低下のみを糖尿病治療の目標と
り、2007 年の調査では「糖尿病が強く疑われる人
することに警告を与えたのが、近年行われた
(HbA1c 値(JDS)6.1%以上)」は 890 万人、糖尿病が
ACCORD 試験、ADVANCE 試験、VADT 試験であ
強く疑われる人(HbA1c 値(JDS)5.6%)以上)は 1320
る。これらの試験は大血管合併症の危険因子を有する
万人であり、10 年前の 1997 年と比較すると約 1.3 倍
2 型糖尿病患者を対象に行われ、強化療法群と従来療
の増加を認めている。
法群に分け、合併症抑制に関して検討を行った試験で
一方で糖尿病合併症である細小血管合併症、大血管
あるが、強化療法群のコントロール目標値は HbA1c
合併症の予防も糖尿病治療において重要な問題であ
値(NGSP)6~6.5%未満と非常に厳格な目標設定とな
る。細小血管合併症は長期の血糖コントロール不良が
っていた。その結果、ACCORD 試験では強化療法群
原因となり、糖尿病網膜症は日本人の視覚障害の原因
の方が低血糖を多く認め、死亡率が有意に高くなり、
疾患の第 2 位、糖尿病腎症は 1998 年より透析導入の
試験途中で中止となり、その他の 2 試験も強化療法群
原因疾患の第 1 位となっており、2010 年の調査では
で低血糖を多く認め、重症低血糖は合併症、死亡が起
全透析患者の 43.5%を占めている。一方で、大血管障
こりやすくなる要因となっていた。
害である心筋梗塞は境界型糖尿病の状態からリスク
UKPDS に始まり、最近の ACCORD 試験までの多
が高まっており、初期からの治療介入が重要であるこ
数の介入試験から、血糖コントロールにおいては
とが知られている。
HbA1c 値を下げる事だけでは十分ではなく、血糖変
近年、血糖コントロールの指標である HbA1c 値と
動の出来るだけ少なくし、低血糖を避けたコントロー
糖尿病合併症に関する大規模臨床試験が近年数多く
ルが必要であることが示唆された。実臨床においても
なされてきており、血糖コントロールが糖尿病合併症
CGM(持続血糖測定)が行う事が出来るようになり、
にあたえる影響がより明らかになってきた。
外来診察時の HbA1c 値や SMBG で得られた血糖値
UKPDS は 1977 年から 10 年間に渡り英国で行わ
だけでは把握することの出来ない低血糖や高血糖を
れた介入試験であり、新規に診断された 2 型糖尿病患
見つけることが出来るようになった。その結果、個人
者に対し、薬物療法による強化療法群と食事療法を中
個人に合った治療方針の決定が可能となり、より良質
心とした従来療法群に分け検討した。HbA1c 値
な血糖コントロールが可能となってきている。
(NGSP)の中央値は強化療法群では 7.9%であり、従来
そして 2013 年 5 月に第 56 回日本糖尿病学会年次
療法群の 7.0%と比較して有意に低下しており、細小
学術集会にて「熊本宣言 2013」が発表され、血糖管
血管合併症のリスクは強化療法群では従来療法と比
理目標値も新しくなり、目標別の HbA1c 値が設定さ
較して 12%低下したが、強化療法で大血管障害の発
れ、低血糖を避けることも重要視されている。
症リスクを減少させるかどうかについては明確な解
答は得られなかった。
日本でも HbA1c 値の低下と細小血管合併症の抑制
に関連性は示されている。1987 年から 6 年間に渡り
行われた Kumamoto Study では細小血管合併症の進
展は血糖コントロールが増悪するとともに増大し、
HbA1c 値(JDS)が 6.5%未満の達成により合併症を抑
制できる可能性が示され、日本の血糖管理目標値に大
きな影響を与えた。しかしながら同試験でも HbA1c
値の改善による大血管合併症の発症リスクの軽減は
明らかではなかった。
以上の様に数々の大規模な介入試験を重ね、糖尿病
治療において様々な知見が得られえており、これらの
大規模臨床試験を踏まえ、熊本宣言に至るまでを述べ
ていきたい。
シンポジウムⅢ
チーム医療と一般検査
~糖尿病性腎症における尿中アルブミン検査の現状~
中村 育代(古賀総合病院 中央検査室)
また微量アルブミン尿を疑うものに対して 3 か月に 1
【目的】
平成 19 年の調査によると、
「糖尿病が強く疑われる
回限り保険適応となる。
人数」は 890 万人、糖尿病予備軍」は 1320 万人とな
【方法・結果】
り、特に糖尿病予備軍においては、平成 14 年から 5
1.尿中微量アルブミン測定状況(2013 年 1 月~2013 年 5 月)
年間で 440 万人増加と、糖尿病は確実に増えている。
DEMAND スタディ-研究にて、2 型糖尿病患者に
慢性の高血糖が持続すると糖尿病に特有の細小血
おけるアルブミン尿の有病率(陽性)が非常に高い(世
管障害が生じるが、その糖尿病合併症のひとつである
界 48.8%、アジア人 55%)という結果が報告されて
糖尿病性腎症は、臨床的には蛋白尿、腎機能障害、高
いるが、当院上記期間のデータは、尿中微量アルブ
血圧、浮腫などを呈し最終的には腎不全に至り、1998
ミン陰性 63.7%、微量アルブミン尿以上 31.2%の状
年から透析導入患者の原疾患のトップとなり、年々増
況であった。
(内科外来受診 HbA1c 測定者 3,352 名に
加することが予想される。多職種によるチーム医療の
おける尿蛋白測定者割合 15.7%、
尿中微量アルブミン
実践が求められている現状の中、糖尿病の腎臓を守る
測定者割合 12.0%)
管理と指導の観点より我々の専門領域として尿中微
2.測定可能な方法の現状調査
量アルブミン検査という視点からその基本を見直し、 ◎定量法・測定機器;ベックマン AU680
改善点を見つける機会とすべく検討したいと考える。
使用試薬;ALB-TIA「生研」
・免疫比濁法
【尿中アルブミン検査について】
精密性;尿コントロール 2 濃度 CV 0.76~1.07%
◎測定意義
精確性;既知濃度管理試料測定 ±10%以内
尿中アルブミンは、腎糸球体の構造変化・障害の進
直線性(高・低);良好、共存物質の影響;ほぼなし
行に伴い尿中排泄量が増加する物質であることから、 ◎定性法(試験紙キット名;メーカー名・略)
「尿中微量アルブミン」とも呼ばれ、①糖尿病性腎症
①クリニテックミクロアルブ・クレアチニンテスト
の最も早期(Ⅱ期・早期腎症期)に現れる所見として
;(株)シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス
の診断・治療の目安②将来的な心血管系疾患のリスク
②オーションスクリーン
ファクターとしての利用において注目されている。
マイクロアルブミン/クレアチニン;(株)アークレイ
◎測定と評価
③ウロペーパーⅢ‘栄研;栄研化学株式会社
自動分析機を用いて行う定量法と尿定性試験紙を
用いる簡便・スクリーニング的な定性法がある。
*本シンポジウム時、定量法他社比較および定性法と
の比較検証結果について報告とする。
アルブミンの尿中への排泄量は、採取時間や尿量、 【考察】
食事、運動などのいろいろな要因によって変動するの
多職種によるチーム医療の実践が求められる現状
で、蓄尿して 1 日排泄量を調べるのがベストですが、 の中、糖尿病性腎症の進展抑制、寛解導入を目指して
蓄尿は手間がかかるので、日常診療へ利用するため早
尿中アルブミン検査の意義と現状・留意点等をしっか
朝尿や随時尿においては、クレアチニン補正を行う。 り習得し、糖尿病教室での患者教育はもちろん、糖尿
表 1・糖尿病性腎症の早期診断基準
*1)一部抜粋
病チームスタッフとの情報共有を行っていくことも
測定対象 尿蛋白(-)~(1+)の糖尿病患者
尿中アルブミン
随時尿 30~299mg/g・Cre(3回測定中2回以上)
・採尿条件:なるべく午前中の随時尿を用いる
必須事項 通院条件によっては来院後一定の安静時間をへて採尿
もしくは、早朝尿を用いる
・測定方法:免疫測定法で測定し、同時に尿中クレアチニンも測定
尿中アルブミン
24時間尿 30~299mg/日
排泄率
時間尿 20~199μ g/分
参考事項
尿中Ⅳ型コラーゲン 随時尿 7~8μ g/g・Cre以上
腎サイズ
腎肥大
われわれ臨床検査技師に必要な役割のひとつであ
*定性法で微量アルブミン尿を判定するのは、スクリーニングに限り、後日必ず上記定量法で確認する。
連絡先;0985-39-8930、E-mal;[email protected]
ると考えられる。今後さらに従来の管理・指導にお
ける不足点を見つけ、その改善に取組みたい。
【参考文献】
*1)日本腎臓学会・日本糖尿病学会
糖尿病腎症合 同委員会報告、2005)
シンポジウムⅢ
チーム医療と一般検査
尿糖検査の再考
右田 忍(新小倉病院 臨床検査科)
糖尿病では、慢性合併症の細小血管症や、心筋梗
までに排尿し測定する(図)
。食事の内容を変えたり、
塞・脳梗塞などの大血管障害などの合併症が起こるこ
間食摂取、運動前後などで測定することを紹介する。
とが問題である。これらを予防するには血糖コントロ
3)SMUG の対象者
ールが非常に重要で、大規模臨床試験でも出来るだけ
糖尿病患者や予備軍とされる人が対象となる。その
厳格に、早期から血糖コントロールを行う事とされて
中で①SMBG が保険適用されない非インスリン治療で
いる。糖尿病患者の自己管理法として簡易血糖測定器
日常生活で血糖の状態を知りたい患者②血糖コント
による血糖自己測定(SMBG)が広く普及し有益な方法
ロールが安定していて、SMBG 測定を減らしたいイン
として認知されている。
スリン治療患者などが対象となる。
血糖値を連続的に測定できる持続血糖測定装置
4)指導にあたり
(CGM)の精度や操作性が向上し、2010 年の保険適応
血糖と尿糖の関連、域値、保険適応でないので自費
以降日常臨床でさかんに測定されている。埋め込み型
であることを説明、理解してもらう。①排尿を完全に
のセンサーで 3~4 日間 5 分毎に血糖を測定するので、 行う。②尿をつけたあとの判定時間を守る③色調変化
夜間睡眠中や仕事中などの SMBG では測定出来にくか
は比較表の表示で記録する。④(2+)以上では、食
った時間帯の測定も可能になり、詳細な血糖値の日内
事の種類、間食の有無などを記録する。⑤試験紙は湿
変動が把握できるようになった。この結果からインス
気に弱いので容器のふたはしっかりしめる。⑥HbA1c
リンの効果が把握でき、適切で安全な治療の指標とな
が治療判定のゴールドスタンダードで、尿糖は補助的
っている。SMBG では血糖値の変動が測定時点でしか
な検査である。⑦低血糖は調べられない。⑧高血糖の
わからず、1日7回測定でも不十分な場合がある。血
色調変化を視覚にうったえ、動機付けの手段とする。
糖変動が SMBG の「点」から CGM で「線」として捉え
【まとめ】
られる意義は大きい。CGM は施設設置基準やコストか
尿試験紙による SMUG は、SMBG に変わる方法でなく
ら頻回実施が困難なため、低コストで操作方法が簡易
補助的な手段である。SMBG 保険適応患者以外患者で
な尿試験紙での尿糖定性検査での測定ができないか
も血糖の変動を低コストで確認できる。SMUG の有効
見直されてきている。
性と限界を理解し、患者に正しく指導できるようにし
血液中の糖は腎臓で濾過される過程で水分ととも
たい。
に体に再吸収されるが、血糖が腎臓の閾値(160~
180mg/dL)超えると尿糖が検出される。尿糖陽性は、
血糖値が 180 ㎎/dL を超えたことを意味し、食後の血
糖値上昇を「面積」で捉えられる。この特性を生かし
た、尿糖自己測定(SMUG)について紹介する。
【尿糖自己測定(SMUG)
】
1)試験紙の選択
患者自身で測定するので、操作性、指導方法が容易
で誤操作が起きにくいな尿試験紙を選択する。①検査
用の尿コップが不要で尿試験紙に尿を直接かけられ
る。②色調の変化が容易に観察できる。③検査終了後、
そのまま水洗トイレに流せる。④吸湿を確認できる。
⑤試験紙の枚数は 20 枚/ボトルまで等が目安になる。
2)測定方法
食前に排尿し、食後1~2時間遅くとも次の食事前
連絡先;
(093)571-1031E-mal;[email protected]
シンポジウムⅢ
チーム医療と一般検査
検査室からみた糖尿病性腎症の特徴(新 CKD 重症度分類を含めて)
金竹 茂純(上ノ町・加治屋クリニック)
<臨床へのアプローチのすすめ>
になると考えられる。
糖尿病腎症は 1 期、2 期、3 期 a、3 期 b、4 期の 5 つ
の病期に分類される。それぞれの病期で治療のポイン
特定検診受診者 332,174 名の CKD 重症度
トが異なるため病期の確定は重要である。進行する糖
尿蛋白定性
尿病腎症では尿中微量アルブミン期、顕性蛋白期を経
-
±
1+以上
て以降 GFR:glomerular filtration rate(糸球体濾過量)が
A1
A2
A3
計
低下する。しかし末期腎不全に至るまで自覚的にも他
G1
15.70%
1.30%
0.74%
17.7%
覚的にも症状は乏しい。末期腎不全に至るまでには 5
G2
59.40%
5.27%
3.09%
67.8%
年から 10 数年の時間がかかる。言い換えればその期
G3a
10.63%
1.18%
1.12%
12.9%
間には治療のチャンス(時間)があるとも言える。こ
G3b
0.83%
0.14%
0.33%
1.3%
の重要なチャンスが見逃さないためには、患者、医療
G4
0.06%
0.02%
0.13%
0.2%
G5
0.03%
0.00%
0.04%
0.1%
計
86.7%
7.9%
5.5%
100.0%
者ともに糖尿病腎症に対する意識を高める必要がある。
その一つの手段とてして臨床検査で集積した検査値か
ら時系列(数値の変遷)を臨床に提示して積極的に糖
尿病腎症の進行の予測や治療評価に役立てることを提
日本腎臓学会編 CKD 治療ガイド 2012 から改変
案したい。
<糖尿病腎症の CKD 重症度分類>
糖尿病患者 1427 名の CKD 重症度
CKD;chronic kidney disease(慢性腎臓病)は「腎
尿蛋白定性
臓の障害(蛋白尿など)
,もしくは GFR 60 mL/分
/1.73m2 未満の腎機能低下が 3 カ月以上持続するも
の」とされる。2012 年 CKD 重症度分類に従来の GFR
-
±
1+以上
A1
A2
A3
計
(G1~G5)に加え尿蛋白(A1~A3)が追加され、糖
G1
22.78%
4.91%
2.17%
29.85%
尿病腎症の病期分類方法に追従した。そこで
G2
33.99%
8.55%
5.26%
47.79%
eGFRcreat;estimated GFR creatinine と尿蛋白定性から糖
G3a
7.22%
2.38%
3.78%
13.38%
尿病患者 1,427 名の CKD 重症度を分類し、特定検診
G3b
1.54%
0.91%
3.08%
5.54%
受診者 332,174 名の結果と比較すると A2 以上(尿蛋
G4
0.07%
0.14%
1.96%
2.17%
白±以上)は特定検診の 13.4%に対し、糖尿病では
G5
0.07%
0.00%
1.19%
1.26%
34.3%と高率であったが、G1(eGFR 90ml/min/1.73
計
65.7%
16.9%
17.4%
100.0%
m2 以上)は、特定検診 17.7%に比して糖尿病 29.9%
であり、G1 の蛋白陽性の A2 と A3(eGFR
90ml/min/1.73m2 以上、尿蛋白±以上)に限定して
も特定検診の 2.0%に比して糖尿病 7.1%と糖尿病で
は GFR が上昇している比率が高かった。つまり糖尿
病腎症の末期のGFR低下とは逆に初期ではGFRが上
昇する例も含まれることが示唆された。糖尿病腎症の
発見や治療の遅れは、病期によって尿蛋白と GFR 低
下が同時に進行しないことも一因と考えられる。改訂
された CKD 重症度分類では尿蛋白と GFR それぞれ
から重症度を確定できるため早期の発見と治療が可能
連絡先 099-254-1155
シンポジウムⅣ
他業種との連携 ~飛び出せ検査室~
病院環境を考える
棚町 千代子(久留米大学病院 臨床検査部)
細菌検査室で日常行う業務は、感染症の起炎菌であ
る一般細菌、抗酸菌、真菌を臨床検体から検出するこ
とである。主に実施されている検査には塗抹検査、同
要である。
今回のシンポジウムでは、病院環境への自施設の取
り組みについて現在の活動を中心に述べる。
定検査および感受性検査、迅速検査、遺伝子検査など
がある。
近年、新しい病原体の出現や抗菌薬耐性菌の多様化
により細菌検査室に求められる検査内容も大きく変
化しており、新しい病原体に対する検査法の開発、詳
細な菌種の同定法、新しい耐性菌の検出法、病院感染
菌の解析などが検査室の課題となっている。さらに、
平成 24 年度に診療報酬の改定が行われ、感染防止対
策加算が新設となり、加算 1 の施設基準として感染防
止対策チームには臨床検査技師が明記されていた。臨
床検査技師が感染対策に関わり病院内環境下での感
染を防ぐために、他部門との連携を図るのも重要にな
ってきている。
当院の栄養部との連携では、栄養部職員の検便検査
職員検便検査(約 60 名/月)
、厨房内環境検査(30
箇所/月)
、厨房内環境特殊検査(数箇所/不定期)
、
職員手指パームスタンプ検査(不定期)を行っている。
最近では、チルドパックを利用した調理を給食で提供
しているため、食品検査も行っている。また、薬剤部
とは薬剤部調合室環境検査や調整液の無菌試験(心筋
保護液,点眼剤,セレン注射液,硫酸亜鉛注射液,ト
ルイジンブルー液,
フルオレセイン液,
NaCl 吸入液,
滅菌蒸留水,ブドウ糖液 etc)を行っている。財務部
環境管理室とは冷却塔レジオネラ検査(7 月、8 月、9
月)を行っている。ICT 活動においては病棟ラウンド
時に問題が指摘されれば、パームスタンプ検査(手指,
聴診器 etc)や病棟環境検査(無菌室,清拭車 etc)
、
その他の機材、試薬等の検査を行っている。検査結果
を提供することで各部門で問題の解決、改善を行うこ
ととなり、いずれの部門からも高い評価を得ている。
病院内で業務が複雑化する中、他業種との連携によ
り臨床検体以外を扱うことも多くなっている。病院の
中では、診療部門、看護部門といった縦の関係と同様
に、異なる職種同士が結ぶ横の関係がある。チーム医
療の重要性がいわれる中で、閉鎖的に活動するのでは
久留米大学病院臨床検査部
なく、他部門と協力し病院環境を整えていくことが必
0942-31-7760
シンポジウムⅣ
他業種との連携 ~飛び出せ検査室~
医療施設の厨房における環境調査状況(アンケート)と当院での取り組みについて
永田 邦昭、三野 博利、吉田 俊輔(公立玉名中央病院 中央検査部)
【はじめに】
所に直接押し付けて採取。ⅴ)培養:35℃にて 2 日間好
厨房の環境調査につては,食中毒の防止はもとより,
気培養。ⅵ)判定:培地説明書に記載された判定基準を
調理に従事する職員の衛生意識向上のために必要であ
参考とした。
ると認識されてはいるものの,実際にその基準や実態
《結果および効果》
はよく知られていない。本シンポジウムでは後述の研
基本的には清掃・消毒後の調査であるため,常に「清
究会によるアンケート調査結果と当院での取り組みと
潔」あるいは「わずかに汚染」となるべき検査である。
その効果について紹介する。
実際に多くの場合,上記 2 つの判定基準内に判定され
【厨房の環境調査の実態】
たが,担当者によっては「中等度汚染」や「重度汚染」
「微生物検査を考える研究会」が平成24年に実施し
と判定される事例も認められ,意識の低い職員では繰
たアンケート調査結果を一部紹介する。本研究会には
り返す傾向も認められた。軽度以上の汚染が認められ
九州内の臨床微生物,食品微生物および環境微生物検
た場合には直ちに本人に伝え,再度清掃消毒をやり直
査に携わる様々な職種が参加して情報交換し,微生物
して再検査した。特に清潔度が要求される生食用のま
検査の質的向上および健康と医療への貢献を目的に活
な板については,
「わずかに汚染」でも再検の対象とし
動している。アンケートは過去に研究会に参加した 49
て指導教育を徹底した。調査開始当初は,調査箇所に
施設に配布し,26 施設(53%)から回答が得られた。集
よっては「中等度に汚染」や「重度に汚染」と判定さ
計対象となった 25 施設中 17 施設(68%)が厨房の細菌
れる事例が散見されたが,抜き打ち調査が定着するに
学的検査を実施していると回答し,検査の実施方法に
つれて汚染の度合いは低くなり,多くの箇所で「清潔」
ついては,自施設での実施が 4 施設,検査施設への依
か,あるいは菌が認められても「わずかに汚染」程度
頼が 8 施設という結果であった。定期的な実施は 13
に判定されるようになった。今回の環境調査は下痢原
施設で,月1回が4施設,月2回と半年に1回がそれ
性微生物の検出が目的ではなく,汚染の度合いを可視
ぞれ2回,2カ月に1回が1施設などであった。検査
化して見せることによる教育的効果を主眼に置いたも
サンプルの採取方法については,綿棒による拭き取り
のであり,職員の入れ替わりの激しい厨房における恒
が 11 施設,スタンプ法が 5 施設,綿棒拭き取り+ス
常的な衛生意識の植え付けに有効であった。
タンプ法が 2 施設であった。
詳細は学会にて報告する。 [補足:ATP 測定の検討]
【当院での取り組みと効果】
アデノシン三リン酸(ATP)は、全ての動物,植物,微
当院においては厨房施設の衛生管理の一環として,ス
生物などの生命体中に存在する化学物質で,洗浄後の
タンプ法を用いた環境調査を平成 15 年 11 月から実施
食品生産ライン・器具,厨房の器具,手などの汚れの
している。当院栄養課は管理栄養士 2 名と事務職 1 名
定量に応用されている。今回クリーントレース™ATP
を除く職員(約 20 名)は全て委託職員であるため,厨房
測定器ルミノメーター(スリーエムヘルスケア,栄研化
内で働く職員の入れ替わりも少なくない。これらの職
学)を使用する機会を得たので,毎月実施しているスタ
員を対象として,食中毒の防止と恒常的な衛生意識の
ンプ培養検査と同時に同じ箇所の ATP 値を測定した。
教育を目的として厨房内の細菌検査を月に 1 回抜き打
ATP 値イコール細菌数というわけではないが,菌繁殖
ちで実施してきた。
のもととなる環境の汚染の度合いを瞬時に測定し,定
《方法》
量値としてその場で提示することができるため,職員
ⅰ)検査頻度:月 1 回予告なしに厨房環境の清掃消毒後
の指導教育に効果的であると考えられた。
に検査実施。ⅱ)検査箇所:①調理従事者の手,②まな
謝辞:最後にアンケート調査に協力いただいた微生物
板(生食用),③まな板(キザミ用),④チルド室,⑤冷蔵
検査を考える研究会会員の皆様に深謝いたします。
庫,⑥配膳台(清潔区域)。ⅲ)使用培地:フードスタン
プ「ニッスイ」生菌数用・標準寒天(日水製薬)。
ⅳ)検体採取:面積 10 ㎠ のアガー・スタンプを調査箇
連絡先: 0968-73-5000(内線 707)
シンポジウムⅣ
他業種との連携 ~飛び出せ検査室~
地方衛生研究所における細菌検査
吉田 英弘(福岡市保健環境研究所)
「福岡市保健環境研究所」は、市民の健康と食の安
(参考)
全を科学的側面から確保するため、保健衛生および環
境に関する試験検査を行うとともに、これらに付随す
平成24年度業務実績(細菌担当分)
る調査研究を行う研究機関として、それまでの「福岡
市衛生試験所」から名称変更し、平成9年に中央区地
①食品等収去検査
行浜の福岡ドーム向かいに新設オープンしました。設
検体種類:市内で流通する食品
置当初から、市民のために開かれた研究所を目指し、
検 体 数:1,298件(3,827項目)
市民が保健・環境を学べる体験学習施設として、
「ま
検査項目:一般生菌数、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、
もる~む福岡」を建物1Fに併設しています。
腸管出血性大腸菌等
3~5Fが試験検査や調査研究を行うフロアとな
っており、保健衛生部門を担当する保健科学課、環境
②環境衛生関係検査
部門を担当する環境科学課の2課11係で構成され
検体種類:プール水、公衆浴場水等
ています。
検 体 数:530件(665項目)
検査項目:大腸菌、レジオネラ属菌等
福岡市保健環境研究所の組織
③環境保全関係調査
□環境科学課
□保健科学課
検体種類:事業場排水
・管理係
・細菌担当
検 体 数:23件(23項目)
・環境科学担当
・ウイルス担当
検査項目:大腸菌群
・水質担当
・感染症担当
・大気担当
・食品化学担当
・廃棄物資源化担当
・微量分析担当
・廃棄物処理施設担当
④食中毒・有症苦情検査
事 例 数:63件(ウイルス検査分含む)
検体種類:患者便、原因疑い施設ふきとり等
検 体 数:715検体
検査項目:食中毒菌全般
保健科学課では、食品中の残留有害物質や食品添加
物の検査、食中毒の原因物質調査や感染症法に基づく
感染症発生動向調査などを行っています。
環境科学課では、ダイオキシン類等有害化学物質の
調査や PM2.5の成分分析、セアカゴケグモの生息
⑤無症苦情検査
検体種類:弁当、馬刺し等
検 体 数:4件(5項目)
検査項目:一般細菌数、大腸菌群、カビ等
状況調査などを行っています。
⑥その他の依頼検査
今回の発表では、食中毒事件発生時における細菌検
検体種類:レジオネラ患者喀痰、飲用温泉水等
査や、行政機関である保健所と検査機関の連携等につ
検 体 数:40件(46項目)
いて、実際の食中毒事例を交えながらご報告します。
検査項目:レジオネラ属菌、大腸菌等
シンポジウムⅤ
プロカルシトニンの臨床的意義 ~各分野の視点より~
プロカルシトニンと小児科領域を中心に
松本 佳隆(福岡徳洲会病院 臨床検査科)
【はじめに】
【当院の小児科の現状】
プロカルシトニン(Procalcitonin:PCT)はアミノ
当院は福岡県春日市に位置する総合病院であり、年
酸 116 個から構成される分子量約 13kDa のペプチドで
間約 30 万人
(小児科患者約 13%)
の患者が来院する。
ある。カルシウム代謝に重要なホルモンであるカルシ
その中で、時間外(夜間・休日)受診者は約 3 万人(小
トニンの前駆体として甲状腺の C 細胞で生成され、代
児科患者約 30%)であり、時間外に占める小児の割合
謝によりカルシトニンとして甲状腺外へ分泌される。
は非常に高い。当院の小児科受診者では不明熱、感染
甲状腺で生成された PCT は健常者では血中へ遊離され
症疑いの患者が圧倒的に多く、敗血症の鑑別診断だけ
る事はない。しかし、細菌、寄生虫、真菌による重篤
でなく、早期に変動する炎症マーカーの 1 つとして
な感染症においては、その菌体や毒素などの作用によ
PCT 測定を実施している。
り TNFαなどの炎症性サイトカインが産生され、その
刺激を受けて肺、腎臓、肝臓、脂肪細胞、筋肉等、全
【当院小児科における PCT 検査の役割】
身の臓器で PCT が産生され血中に分泌される。その
本来感染症治療では原因となる細菌を特定し、さら
為 PCT 検査は細菌性敗血症の鑑別診断及び重症度の
には有効な抗生剤を使用しての治療が望まれる。実際
指標、治療効果の判定補助として有効なマーカーとし
には、紹介患者や他院からの転院患者では既に抗生剤
て感染症診断の現場では定着しつつある。
が投与開始されているケースがあり、血液培養では陰
性となる事や小児の場合では血液培養に必要な量の採
【当院における PCT 検査の現状】
血もできないことも多い。また、小児では採血時の体
当院では、以前は外注検査であった PCT 検査を小
動が多い為、コンタミネーションが考えられるケース
児科からの要望もあり平成 19 年に院内導入を開始し
も少なくない。特に小児受診率の高い時間外では細菌
た。当初、検体数も平均 50 件/月程度であり、半定量
検査室も十分に機能しておらず、当院における PCT
法の迅速診断キットにて検査を開始した。院内で PCT
検査の役割は重要である。
検査の周知徹底がされることにより検体数が増加した
こと、目視判定時の技師間差の発生すること、検体量
200μL 必要であること、10ng/ml 以上の濃度は半定
【まとめ】
当院では、
感染症疾患の多い乳児及び小児において、
量法では捉える事が不可能であること等、モニタリン
PCT 検査の検体数が非常に多い傾向がある。特に乳児
グには不適当の問題が発生し平成 22 年より自動分析
においては細胞性免疫が未熟であるため易感染であり
装置での測定を開始した。
時に重症化を起こしてしまうこと、また脳血管関門が
現在では、検体数は平均約 300 件/月となり、重要な
緊急検査の一つとなっている。
未熟である為に細菌性髄膜炎に移行しやすいことから、
早期発見、早期治療が重要となる。
当院では、微量検体でかつ迅速に測定できる PCT
検査は細菌性敗血症の鑑別診断及び炎症マーカーとし
平成 21 年
平成 22 年
平成 23 年
平成 24 年
検体数
1424
2333
3484
3208
うち小児科件数
721
1322
2742
2603
小児科比率
51%
57%
79%
81%
て、小児領域では非常に有用である検査の一つとされ
ている。
連絡先:092-573-6622(内線 230)
シンポジウムⅤ
プロカルシトニンの臨床的意義 ~各分野の視点より~
微生物検査からみた感染症マーカーの読み方について
大隈 雅紀(熊本大学医学部附属病院 中央検査部)
感染症診療の基本的な考え方は、① 臨床症状、診
ことが必要です。48 時間以内の新生児では PCT が高
察所見から感染症の可能性を考える。② 感染症の生
く、成人と PCT レベルが異なります。また、原因菌が
じている臓器を推定する。③ 感染症以外の鑑別診断
真菌(カンジダ、アスペルギルス)の場合には、PCT
を考える。④ 血算、生化学などの一般的な検査を実
が上昇するという報告もあれば、上昇しないという報
施する。⑤ 原因微生物を特定するための検査(画像
告もあり、深在性真菌症の診断には真菌の細胞壁構成
診断、細菌学的検査、真菌学的検査、ウィルス学的検
成分であるβ-D-グルカンの測定が有用です。
査、遺伝子学的検査、感染症マーカー)を実施する。
PCT が普及する一方で、血液培養と PCT の解離が報
⑥ 総合的に判断・診断し、患者背景を踏まえた治療
告されるようになりました。血液培養が陰性で PCT が
を行うこと、であります。
陽性の場合、抗菌薬投与の有無や、採血量や培養の不
全身性炎症反応症候群(Systematic inflammatory
備の可能性、または PCT の偽陽性が考えられます。血
response syndrome:SIRS)をきたす疾患は、感染性
液培養が陽性で PCT が陰性の場合は、一過性の菌血症
疾患として細菌性、真菌性、ウィルス性などがあり、 や皮膚常在菌などのコンタミの可能性が考えられます。
非感染性疾患としては外傷、熱傷、膵炎などが挙げら
今回、
2012 年 10 月 1 日~2013 年 3 月 31 日の 6 ヶ月
れます。細菌性感染症を非細菌性疾患と鑑別すること
間、血液培養とルーチン検査で測定されました感染症
は非常に難しく、さまざまな感染症マーカーが開発さ
マーカーの PCT、CRP、WBC、β-D-グルカン、アスペル
れています。
ギルス抗原(EIA)、KL-6のデータに着目し、後ろ向
現在、感染症領域で使用される感染症マーカーとし
きにデータの解析を行いました。
て WBC、CRP、IL-6、TREM-1、EAA、ESR などが挙げら
本シンポジウムにおいては、微生物検査の立場から
れます。DPC が導入され、感染症の早期診断・早期治
1.細菌性敗血症(血液培養陽性)との解析、2.血液
療・早期退院が望まれるなか、重症度、予後予測、治
培養陽性菌(グラム陰性菌、グラム陽性菌、カンジダ)
療効果の判定に新しい細菌感染症マーカーのプロカ
との解析、3.血液培養と PCT の解離の解析、4.細菌
ルシトニン(procalcitonin:以下 PCT)が注目され
以外(結核、真菌、ウィルス)の感染症での解析、5.
ておりその臨床的意義は高い評価を得ています。PCT
各診療科別(ICU、血液内科、移植外科、小児科、呼吸
は、細菌により惹起された全身性炎症反応で全身諸臓
器科)の解析、6.抗菌薬選択の指標(de-escalation
器から分泌され、血中濃度が上昇します。そのため、 療法)、などの検討についてご報告いたします。
細菌性敗血症および細菌感染症の重症度の診断に用
さらに、
ケースレポートとして感染症症例を提示し、
いられています。CRP と比較すると、感染後に血中レ
細菌感染と感染症マーカーとの関連性について、微生
ベルが上昇する時間は短く、治療に対する反応性は速
物学的視点から解説いたします。
やかであります。重症度判定の指標である SOFA スコ
アと PCT とは相関関係が認められ、敗血症性ショック
例では非敗血症性例と比較して PCT は有意に高値を
呈するなど、CRP や IL-6 などのサイトカインに比べ
多くの有用性が報告され、細菌感染症の鑑別診断に優
るものと考えられています。しかしながら、細菌感染
の診断の有用性に関しては、感度 34%-100%、特異
【連絡先】〒860-8556
度 70%-98%と一定の見解が得られていません。PCT
熊本市中央区本荘 1 丁目 1-1
検査の注意点として、非細菌性疾患(川崎病、マラリ
熊本大学医学部附属病院中央検査部
アなど)や非感染性疾患(外傷、熱射病、ARDS など)
微生物・遺伝子検査室
でも PCT の上昇を示す場合があることを知っておく
TEL:096-373-5696
シンポジウムⅤ
プロカルシトニンの臨床的意義 ~各分野の視点より~
PCT(プロカルシトニン)定量の効果と有用性
山田 昌博(佐世保市立総合病院 中央検査室)
<はじめに>
PCT(プロカルシトニン)は、カルシトニンの前駆体
多くみられたが、PCT 陰性例でも起因菌と思われる黄
色ブドウ球菌や腸球菌などの症例もみられる。
で 116 個のアミノ酸からなる分子量約 13KDa の蛋白質
<おわりに>
である。
PCT 測定は、敗血症治療における抗生物質の適正使用
敗血症は、重症病態における最大死亡原因である。
も含め、細菌性敗血症などでさらなる展開も期待でき
診断および治療開始の遅れは、患者の予後に大きく左
る。特異性・感度など高いとは言い難く問題点も多い
右し、敗血症性ショック発症後 6 時間以内における抗
のが現状である。しかし、これまで血液培養で行われ
生物質投与の遅れは、生存率の減少約 8%/時間と報告
てきた敗血症の補助的診断が PCT を測定することで、
されている。
迅速化が進みさらに定量法へ進むことで数値化による
敗血症における全身性炎症反応として従来 CRP、白血
病態把握を可能とする。今後、他の炎症マーカーや臨
球数、サイトカインなどが用いられているがその要因
床経過などと総合的に組合せ敗血症治療の中心に成熟
が感染を示すものではなく PCT(プロカルシト二ン)
することが期待される。
は、細菌敗血症の重症度を反映するマーカーとして、
PCT(プロカルシトニン)測定の開始から現在に至るま
近年、注目され多くの施設で検査されている。
での経過を中心に症例なども含め概説したい。
<半定量法から定量法への移行>
2009 年4~5 月 102 検体(敗血症疑いの患者 70 名)
を対象として、半定量法:ブラームス PCT‐Q(イムノ
クロマト法:和光純薬) 定量法:モジュラーアナリ
ティクス E170(Roche 社)を用い、死亡率(1 ヶ月)
や血液培養の陽性率を含め基礎的検討をおこなった。
定量法と半定量法における一致率は、97.1%、死亡率
は、半定量法(-)17.1%、半定量法(+)23%で血
液培養の陽性率は、半定量法(-)24%、半定量法(+)
46%であった。
<定量法への移行>
当院においては、PCT 測定を 2009 年7月より細菌検
査室から生化学検査室に移行し実施している。定量法
へ移行し数値化することにより半定量法で問題とな
っていた目視判定も自動化することにより、判定時
の個人差もなく客観的な数値として評価すること
が可能となり感染症の治療効果の判断材料として利
用されている。
<菌血症と PCT>
血液培養と PCT の同時採血において血液培養陽性例
225 例、PCT 陽性は 146 例(64.8%)であった。PCT は、
グラム陰性桿菌や嫌気性菌では高い陽性率を示したが、
グラム陽性球菌やグラム陽性桿菌では陽性率は、約
5~6 割程度と有意差がみられる。グラム陽性球菌検出
例においてコンタミネーションが強く疑われるものも
シンポジウムⅥ
子宮がん検診の啓発活動と検査の現状
~大学学園祭に子宮癌検診車を招請して~
中野 智裕(純真学園大学 保健医療学部)
【目的】
2008 年3 月に
「福岡県がん対策推進計画」
が策定され、
この中でがん検診受診の目標値として 2012 年度末ま
でに受診率 50%以上達成が掲げられている。しかし、
福岡県下での、子宮がん検診受診率は 2009 年度で
21.7%である。
今回、
我々は福岡市、
福岡市南区保健所、
日本臨床細胞学会福岡県支部と協力し、本学学園祭に
検診車を招請し、
学生に受診機会を提供し、
その上で、
若い人達の検診受診率を向上するための方策を考えた。
【方法】
検診への啓蒙活動として、昨年度より、子宮の日に学
内でパンフレット等を配付した。その後、学園祭まで
にリボン活動等を行っている学内サークルを中心に、
看護学科・検査科学科・医療工学科の教員のアドバイ
スの下、
婦人科クリニックの見学、
検診への意識調査、
HPV 感染に対しての意識調査を行った。学園祭当日
は、検診を受診する学生の為に、事前に検診車の見学
を実施、検診の時間と平行して婦人科医師による講演
会、女子学生らが自ら検診の重要性について調べた発
表を行った。また、学生が作製した、子宮頸がんの発
がんメカニズムと HPV の関連についてのパネルを展
示し、がん患者の実話ビデオ上映をおこなった。この
他に、細胞診標本を供覧し、がん細胞について細胞検
査士が説明を行った。
【結果】
講演会は女子学生だけではなく、男子学生の参加があ
った。また、掲示では地域の方々や多くの学生が説明
を聞いていた。検診受診者は 87 名であった。
【考察】
今回、87 名の受診者があった事は大きな成果であると
考える。若い世代の検診受診率を上げるには1.検診
の受診機会を作ること2.事前に検診や子宮がんの事
を十分に理解してもらう。
などが重要であると考える。
学園祭での子宮がん検診は今後も継続していくことで、
若い世代の検診受診率を少しでも向上させたいと考え
る。
シンポジウムⅥ
子宮がん検診の啓発活動と検査の現状
~HPV 検査の現状(検査センターの立場から)~
池本 理恵(株式会社エスアールエル 福岡ラボラトリー)
1981 年ハウゼンが子宮頸癌組織から HPV(16 型)
を分離してから多くの研究がなされ子宮頸癌の発癌
のメカニズムが少しずつわかってきた。婦人科細胞診
においてベセスダシステム(TBS)の普及により細胞
診検査に HPV 感染を関連づけられている。それは子
宮頸癌の予防をはかるためで近年細胞診検査と HPV
検査をセットで行うことも増えていいる。TBS で
ASC-US と診断された患者に関して、HPV 検査を実
施し 360 点の追加加算が行える。また、細胞診で陽性
となった患者が病理組織検査を行い結果が CIN1、2
となった場合には、HPV の型検査に 2000 点の保険
加算も行える。細胞診(一部病理検査)と HPV 検査
の組み合わせにより保険加算が行えることが、HPV
検査が増えた要因とも思われる。
また、細胞診と HPV 検査を組み合わせることで、子
宮頸癌に対する感度を上げることも可能とした。
(図
1)さまざまな分野で婦人科検診と HPV 検査の関わ
りの重要性を唱えられている。検査センターでもその
ニーズにこたえるため、その目的に応じた HPV 検査
が行われている。前癌病変を捉える為の高リスク(13
種類)陽性を調べる HC2(キアゲン)
。HPV 感染で
その HPV の型を調べるリニアアレイ HPV ジェノタ
イプ(ロシュ)
、クリニチップ(積水メディカル)
。ま
た高リスク陽性で子宮頸癌に最も関連がある 16 型、
18 型かそれ以外の型かを調べることができるコバス
(ロシュ)がある。検診では、高リスクの HPV 検査
と組み合わされ、2次病院ではタイピング検査が組み
合わされていることが多い。
子宮頸癌予防のためワクチン接種も実施されてい
るが 16 型 18 型以外の型による子宮頸癌は防ぐこと
が出来ない。そのため子宮頸癌を予防するためには婦
人科検診は必ず必要となる。ただ、子宮頸癌は予防で
きる癌である。そして細胞診と HPV 検査を共に行う
事で予防に留まらず経過観察やそのタイミングを計
る事も可能である。HPV 検査は、子宮頸癌を予防す
る優れた検査である。
【連絡先―電話番号】
(株)エスアールエル 福岡ラボラトリー
福岡県大野城市中 2-1-8
092-504-4011
シンポジウムⅥ
子宮がん検診の啓発活動と検査の現状
~子宮頸がん検診に関する国内外の情勢~
松岡 徹(株式会社キアゲン)
子宮頸がんはいわゆる高リスク型 HPV と呼ばれるヒ
費用対効果の向上、の 3 つの大きなメリットがあるこ
トパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因で発症
とが、エビデンスを基に確認されている。このためわ
する。1983 年に子宮頸がんの組織から HPV16 DNA を発
が国でも、人間ドックなどの任意検診だけでなく、市
見したドイツの Zur Hausen 博士はその功績により
町村の実施する住民検診においても独自に併用検診を
2008 年にノーベル医学生理学賞を受賞した。今では子
実施する自治体が増えてきた。日本では依然として受
宮頸がんの自然史はほぼ解明されており、一次予防と
診率が低いという課題はあるものの、今後併用検診の
してのワクチンと二次予防としての検診を両輪で機能
普及による検診の精度向上、費用対効果の向上が期待
させることにより、征圧が可能ながんと認識されてい
される。
る。
子宮頸がん検診の役割は CIN2/CIN3 といった前が
ん病変の段階で確実に発見し、必要なフォローアッ
ハイブリッドキャプチャー法(HC2 法)はこれまで
プ・治療を行うことで、子宮頸がんの予防につなげる
の豊富な検診におけるエビデンスに基づき、子宮頸が
ことである。細胞診と HPV-DNA 検査の併用検診は子宮
ん検診における HPV 検査のグローバルスタンダードと
頸がん予防のための精度の高い検診ツールとして今後
して位置づけられ、世界中で最も使われている検査法
の普及が期待されている。
である。最近、わが国でも HC2 法の他に複数の HPV-DNA
検査キットが体外診断薬として承認され、販売されて
最近、欧米から細胞診と HPV 検査を併用した検診の
いる。しかし、検診を目的として HPV-DNA 検査を行う
高い有効性を証明するいくつかの RCT 研究が相ついで
ためには検査法の選定には注意を要する。異なる
発表されている。特にオランダとイタリアの RCT 研究
HPV-DNA 検査キット間の判定一致率はおおむね 90%に
では併用検診により、前がん病変の発見率の向上に加
満たない。2009 年に欧米を中心とした専門家により、
え、2 回目の検診では子宮頸がんの発生を減少させる
30 歳以上の女性の子宮頸がん検診に使用する HPV-DNA
ことが示された。このようなエビデンスに基づき、昨
検査の国際的ガイドラインが発表された。このガイド
年 3 月に米国で最も保守的として知られる USPSTF(米
ラインでは新しい HPV-DNA 検査を検診に用いるには、
国予防医療サービス専門作業部会)が細胞診と HPV 検
その前に検診での臨床的な検証が欠かせないとして、
査の併用検診を推奨するとのリコメンデーションを発
標準法である HC2 法と比較して、臨床的な感度や特異
表した。これとは独立して同時に発表された
度、また再現性などの満たすべき条件を示している。
ACS/ASCCP/ASCP の3 学会からのリコメンデーションも
同様の内容であった。このような流れを受け、わが国
今後、検診に HPV 検査が普及していくことが予想さ
でも厚生労働省が
「がん検診のあり方に関する検討会」 れるが、
「検査」と「検診」に違いについては十分に理
を開催し、子宮頸がん検診への HPV-DNA 検査の導入に
解しておく必要がある。
検診においては受診者の利益、
向けて検討を行い、本年、国の事業として HPV 検査導
不利益のバランスが取れた検査法が使用される必要が
入に向けた HPV 検査の効果検証事業を開始した。一方
ある。そのためには正常者が多くを占める検診の集団
で 100 に近い数の自治体は国の動きに先んじて、
に対して、効果が検証された HPV-DNA 検査を導入して
HPV-DNA 検査併用検診を独自に予算化し、既に開始し
いくことが重要である。
ている。その中でもいち早く併用検診を導入した島根
県では、欧州の RCT 研究で示されたような子宮頸がん
患者減少という効果が表れてきている。
HPV-DNA 検査の併用検診には、①前がん病変の発見精
度の向上、②検診の受診間隔の延長、そして③検診の
シンポジウムⅦ
臨床が求める輸血の報告を目指して ~その報告で大丈夫ですか?~
医師の立場から
大崎 浩一(久留米大学病院 臨床検査部 医師)
安全に輸血を実施する上で輸血検査は必須であり、 の内容はほとんど理解されないと思った方が賢明で
医療機関では血液型検査、不規則抗体検査、交差適合
ある。しかも医師に限らず全ての医療スタッフが報告
試験などが日々行われている。検査結果は医師に報告
書を見る可能性があるので、専門用語はできるだけ避
され、医師はその結果に基づき血液製剤をオーダーす
け、検査の原理や結果の解釈、臨床的意義を誰が読ん
る。しかし、オモテ・ウラ検査の不一致、不規則抗体
でも理解できるように記載することが望ましい。必要
の検出など、時に予期せぬ検査結果が得られる場合が
な情報が不必要な情報の中に埋もれないよう、時には
あり、医師へ報告する際に問題が生じる。
優先度の低い情報を切り捨てることも必要だろう。た
検査技師は検査結果をできるだけ詳細に伝えよう
だし、求められる情報は医療機関によっても様々であ
とする。一方、医師の多くは輸血検査に関しての知識
り、現場のニーズにあった報告書のあり方が求められ
が乏しく、検査技師からの報告内容を正しく理解でき
るところであろう。
ない。本来は医師が輸血検査についての知識・理解を
今回「医師の立場から」というテーマで講演させて
高め、検査結果を正しく解釈して輸血をオーダーする
いただくに当たり、できるだけ現場の声、要望を反映
のが理想であるが、残念ながら現実と理想とは大きく
したものにするため、実際に輸血検査業務に従事して
隔たっている。
おられる検査技師の方々の意見をアンケート形式で
医師はそのキャリアを通じ輸血に関して十分な教
調査させていただいた。検査技師の方々が日々どのよ
育を受けられる環境にあるとは言い難い。また実際の
うなことを考え、どのような問題で困っておられるか、
現場では詳しい知識がなくても不都合が生じること
アンケートの調査結果を元に医師側の意見も加え、輸
は少ない。しかも多くの医師にとって輸血は実施する
血検査技師・医師双方にとって望ましい輸血検査結果
機会が決して多くない、いわば「非日常的」医療行為
報告とはどうあるべきかを提言したい。
である。このため、医師にとって輸血の知識の習得は
どうしても後回しになってしまうのである。
では輸血をオーダーする時の医師の思考はどうな
っているのか。医療の現場で輸血がオーダーされるの
は急を要する場面であることが多く、その時点で医師
は少なからず焦った状況にある。
「少しでも早く輸血
して患者の状態を改善したい」状況で医師が求める情
報は決して多くない。極端に言えば、
「適合血はある
のか。それはいつ届くのか」だけである。医師にとっ
ては必要な血液製剤が届いて安全に輸血が実施され、
患者の状態が改善すればそれで目的は達せられるわ
けで、不規則抗体云々、交差適合試験結果云々の報告
は後からでもよいのである。このため、検査結果を正
しく詳細に伝えたいと思う検査技師と、輸血の実施に
必要な情報があればそれで事足りると思う医師の間
にはどうしても意識のギャップが存在するのである。
輸血検査報告書を作製する際にはこのギャップを
考慮する必要である。また先にも述べたが、輸血に関
して医師の知識は限られている。検査技師が専門用語
を用いて詳細な結果報告書を作っても、残念ながらそ
シンポジウムⅦ
臨床が求める輸血の報告を目指して ~その報告で大丈夫ですか?~
検査技師の立場から ~ABO 関連~
藤本 純子、松永 幸子、松本 恵美子、松下 義照、西浦 明彦
(国立病院機構九州医療センター 臨床検査部)
【はじめに】
ABO 血液型検査は,輸血実施時には病院で行われ
る必須かつ一般的な検査である.しかし,時にオモ
テ・ウラ不一致が見られる.円滑に輸血が行われるか
否かは臨床側に検査技師がいかに情報を正確に伝え
Bombay(Oh)型の患者に輸血する際は,Bombay(Oh)
型の赤血球製剤を選択し輸血する必要があることを
周知しておくべきであろう.
赤血球上の A 抗原 B 抗原が極めて少なくオモテ検
査では検出できない場合,吸着解離試験を行う.目的
られるかが大きい.また,医療機関の連携が深まり, に応じた抗血清を使用し解離液中に感作した抗体が
紹介・逆紹介が多い現状では輸血検査情報の共有化も
証明されれば,赤血球上に抗原が存在していることに
重要となってくる.
なり ABO 型が判定できる.
今回のシンポジウムのテーマ「臨床が求める報告を
目指して」に添って検査技師の立場から ABO 関連の
【患者の病態が検査に与える影響】
ABO 血液型検査では,さまざまな原因によりオモ
報告について当院での注意点を含めた運用を報告す
テ・ウラ不一致が見られる。ABO 亜型よりも,ある
る.
種の疾患や病態などが,ABO 血液型検査に影響を与
【ABO 血液型が確定できない患者への輸血】
えることがあり,不一致の原因検索が病態把握に役立
ABO 血液型検査でオモテ検査とウラ検査で不一致
など異常反応が見られた場合,直ちに輸血が必要な場
つことも少なくない.
不一致の原因検索前に必要な患者情報として,年齢,
合は型違い輸血の回避に重点をおき赤血球製剤は O
性別,妊娠歴,輸血歴,疾患名,移植歴,輸液投与状
型,血漿/血小板製剤は AB 型を選択する.そこまで
況,造影剤使用などがあげられる.
緊急性は高くなく時間的余裕がある場合には異常反
【まとめ】
応がおこった原因の精査へと進み,血液型確定後に輸
現在,全自動輸血検査機器の普及により ABO 血液
血へと進む.しかしその判断は当然検査技師が決定す
型検査の標準化が進んでいる.しかし異常反応が見ら
るのではなく,その患者の貧血などの検査情報と担当
れた場合の精査は,どうしても試験管法で行わなけれ
医の臨床情報などの情報交換を行い,決定する必要が
ばならない.
ある.
【検査の進め方】
検査を進める上で,可能であれば検体量確保,精査
昨年の九州学会で血液センターへの ABO 血液型依
頼検査の約 40%が正常または冷式抗体の影響による
ものであったと報告された.ABO 血液型検査の報告
に要する時間・コストなどの情報の発信も行いたい. は自動化が進んだことで判定ミス・入力ミスは激減し
また臨床医からは先にも述べたように輸血の必要
たが,オモテ・ウラ不一致等への対応が難しくなった
性・可能性の有無,患者の病態などの情報収集も必要
ことも現状であろう.試験管法は,輸血検査の基本で
である.
あり,外すことのできない検査法である.自施設で使
輸血副作用を起こす可能性が高いことから血液型
用している試薬・機器の特性を理解し,更なる検査技
検査で問題となるのは,37℃反応性の抗 A1,抗 B や
術のレベルアップを目指し,異常反応がみられた場合
抗 H の有無である.そのため,ウラ検査で抗体が検
の報告の工夫を当日は呈示したいと思う.
出されても,間接抗グロブリン法で陰性であれば、通
常の A 型,B 型や AB 型の赤血球製剤を,陽性であれ
ば O 型の赤血球製剤を選択し輸血する.
ただし Bombay(Oh)型の患者には,37℃反応性の抗
H が自然抗体として存在するため,O 型の赤血球製剤
を輸血することはできない.非常に稀な型ではあるが,
連絡先 092-852-0700(6904)
シンポジウムⅦ
臨床が求める輸血の報告を目指して ~その報告で大丈夫ですか?~
検査技師の立場から ~不規則抗体関連~
大川内 雅洋(健和会大手町病院 臨床検査部)
、島 瑞枝(北九州総合病院)
、
横山 智一(北九州市立医療センター)
、田中 真典(産業医科大学病院)
【はじめに】
開始から4年が経過したが、現在の統一抗体カード
私たち検査技師は、常に臨床からどの様な結果報告
導入の現状、問題点を把握するために2013年6月
が求められているかを意識しなければならない。輸血
にアンケート調査を行った。対象は輸血研究班で導入
検査では、迅速かつ正確な検査結果が求められるが、
を把握している10施設とした。当初8施設で開始し
時として血液型判定や不規則抗体検査が困難な場合が
たが、この間2施設が新たに導入し、そして3施設が
有り、
十分な検査時間と患者情報を必要とする。
また、
休止状態であり、現在では7施設で導入している。
過去の患者情報が遅発性溶血性副作用の防止に役立つ
抗体カードの患者への説明は、ほとんどの施設が医
事も知られている。この様な患者情報の収集が、臨床
師により行われている(7施設中6施設)
。そのため、
が求める迅速かつ正確な検査結果の提供に繋がると考
医師には不規則抗体の臨床的意義、抗体カードの趣旨
える。
など理解してもらうことが重要で、検査技師から医師
この患者情報は個々の医療機関でしか利用されず、
他の医療機関同士で共有される事はない。輸血に関す
への検査結果の報告は、医師向け、患者向けの説明文
書が作成され使用されている。
る情報を個々の医療機関だけでなく、北九州地域で共
有するために北九州支部輸血移植検査研究班(以下、
輸血研究班)では統一の『血液型・不規則抗体情報カ
ード』
(以下、抗体カード)を導入している。
【統一抗体カードの問題点、良い点】
アンケート調査により判明した問題点は、①医師の
患者への説明、②患者の統一抗体カード利用の問題、
③患者への譲渡すタイミングの問題、などが挙げられ
【輸血研究班の取り組み】
た。また、良い点として統一抗体カードが利用され、
1)導入の経緯から開始まで
遅発性溶血性副作用を回避できた事も判明した。
2008年当時、北九州支部ではすでに独自で抗体
カードを発行している施設が有ったが、輸血研究班と
【まとめ】
して統一抗体カードの導入に向けて検討を開始した。
輸血検査は、臨床へ迅速かつ正確な検査結果を提供
最初に、北九州支部の輸血検査の現状把握、抗体カ
することが求められるが、北九州地域の輸血に関する
ードの参加意識を調査するためアンケート調査を行っ
患者情報を共有する事により、さらにその事が進むと
た。対象は支部会員所属の103施設とし、29施設
考える。輸血研究班の統一抗体カードはその一つの手
から回答を得た。
段である。
29施設のうち12施設が不規則抗体同定検査を実
これからも、輸血研究班では多くの施設に統一抗体
施しており、既に5施設が独自の抗体カードを発行し
カード発行を導入してもらい、支部全体の輸血検査の
ていることが判った。アンケートの中で、
「抗体カード
レベルアップ、臨床が求める結果報告が出来る様に貢
の形式を統一した場合参加するか?」の問いでは、6
献したい。
施設(20.7%)しか参加するとの回答がなかった。
輸血研究班で抗体カードを統一して導入する問題点と
して、①知識、技術的な難しさ、②新たな抗体産生時
の対応方法、③血液型、抗体名の記載方統一の問題、
④現行抗体カードからの変更問題、などが判明した。
次に、導入に向けてアンケートで判明した問題点をふ
まえ実施方法を策定し、2009年4月には、輸血研
究班として統一抗体カードを8施設で導入開始した。
2)輸血研究班の抗体カードの現状
連絡先:093-592-3063
シンポジウムⅦ
臨床が求める輸血の報告を目指して ~その報告で大丈夫ですか?~
日赤の立場から ~依頼検査の現状~
大野 徹也、吉村 崇、山崎 久義、江崎 利信、渡邉 聖司、清川 博之
(日本赤十字社九州ブロック血液センター 検査一課)
【はじめに】昨年、日本赤十字社では血液事業の広域
群7.5%、2群3.6%、Rh血液型検査で直接抗
事業運営体制の導入が行われ、現在7つのブロック血
グロブリン試験(DAT)陽性が、1群50.0%、
液センターと8か所の製造所により構成されている。 2群71.4%であった。不規則抗体検査については、
広域事業運営体制の導入に当たり、2012年4月
冷式抗体が1群25.9%、2群13.1%、不規則
より医療機関から依頼検査を受ける上での基本方針
抗体陰性が1群8.0%、2群4.8%であった。ま
が明確化され「ABO血液型、Rh(D)抗原及び不
た、不規則抗体陰性でDATのみ陽性であったものが
規則抗体スクリーニング検査は、輸血を実施する医療
1群9.9%、2群3.3%であった。
機関で責任を持って行っていただくこととし、輸血医
【考察】2011年度における全国の依頼件数と比較
療を前提としたものであり医療機関では実施困難な
したところ、依頼総件数2,702件に対して、九州
検査に限って受託すること」となった。それに伴い、 が708件(26.3%)と、他のブロックセンター
ブロックセンターの役割として「輸血医療にかかる検
査技術の向上及び維持を目的に、地域センターの協力
に比べ依頼件数が多い状況にあった。
今回の広域事業運営体制の導入に伴い、各医療機関
のもと、医療機関検査担当者等を対象に研修会等を開
で解決できると思われる内容への積極的な取り組み
催すること」となり、各地域で日赤研修会を行ってき
や環境整備をしていただくことで、九州各県での依頼
た。今回、本方針の導入前後における九州各県での依
件数が減少した。また、地域センターおよび各県の臨
頼検査内容の動向について報告する。
床検査技師会の協力のもと日赤研修会を行うことに
【対象】九州ブロック血液センターで受託したABO
より、更なる減少が認められ、延いては輸血医療への
血液型・Rh血液型及び不規則抗体検査の受託内容及
安全性にも繋がっているものと思われる。今後も輸血
び検査結果について、2011年1月から2012年
医療にかかる検査技術の向上及び維持を目的に、医療
3月を1群、2012年4月から2013年6月まで
機関検査担当者等を対象とした日赤研修会を行い、各
を2群とし、集計・比較を行い動向を調査した。
医療機関とコミュニケーションを図ることで、医療機
【結果】九州ブロック血液センターで調査期間中に受
関での実施困難な検査を少しでも減らしていくこと
託した依頼検査数は、562の医療機関から1,45
が重要である。
4件で、その内訳はABO血液型294件、Rh血液
型68件、不規則抗体1,092件であった。月次平
均依頼数は1群:60件、2群37件と38%の減少
を認めた。県別の減少率では、日赤研修会を行った5
県で約40%、日赤研修会を行っていない3県で約
15%の減少となった。
平成24年度の県別の赤血球製剤の供給本数と依
頼件数との割合を比較したところ、宮崎・鹿児島では
供給本数に比べ依頼検査の割合は少なく、逆に沖縄で
は多かった。他県では、供給数と依頼数の割合で大き
な差は認められなかった。
依頼項目ごとの調査では、ABO血液型で正常と判
定されたものが1群で31.5%、2群で24.5%。
冷式抗体の影響によるものが1群9.8%、2群1.
8%であった。Rh血液型で正常なRh(D)陽性が
1群7.5%、2群10.7%、Rh(D)陰性が1
連絡先 0942-31-8954
シンポジウムⅧ
危機管理セミナー 忘れていませんか?あの食中毒事件
~危機管理として行っていた中毒検査~
臨床検査技師に必要な中毒検査の基礎知識
冨岡 譲二(整形外科米盛病院 副院長)
【目的】日本中毒学会は、急性中毒の診療に携わる、 【内容】
医師・薬剤師・検査技師などが集まる学会で、その活
・中毒患者はなぜ死ぬのか?
動のひとつとして、急性中毒患者さんに対する治療の
・急性中毒の初期診療の流れ
標準化を推進しています。
安全確保
今回の講演では、日本中毒学会学術委員会(当時)が
緊急治療(ABCDE アプローチ)
作成した「日本中毒学会が推奨する急性中毒の標準治
療」にもとづいて、日本中毒学会中毒標準治療委員会
A:急性中毒における気道管理
が実施している「中毒セミナー」のエッセンスをご紹
B:急性中毒における呼吸管理
介します。
C:急性中毒における循環管理
このセミナーは、症例に基づいて急性中毒の病態を理
D:急性中毒における痙攀管理
解するとともに、急性中毒の標準治療に至るまでの初
E:急性中毒における体温管理
期診療をマスターすることを目的としています。
もともとは、医師・薬剤師を対象としたセミナーです
臨床診断
が、今回の講演では、中毒症例に接する機会のある、
病歴
臨床検査技師をはじめとするコメディカルスタッフ
簡易検査
どなたが聞いてもわかりやすいものにするために、今
トキシドローム
までのセミナー施行経験を踏まえて大幅に内容を改
・根本治療
変し、
「ABCDE アプローチ」を採用して、他の教育
原因物質の体内への吸収を抑える方法
コースとの整合性をはかりました。
吸収された物質の代謝・排泄を促進する方法
この講演を受講していただければ、今まであいまいだ
った中毒の診療が、体系化したものとして理解できる
・解毒・拮抗薬とそのメカニズム
ようになると思います。
・Lipid Rescue
ランチョンセミナーⅠ
(提供)シスメックス株式会社
血液内科臨床における臨床検査データ
~ベッドサイドに届く日々の検査結果を読み解く~
松島 考充(九州大学大学院医学研究院病態制御内科学)
現在の臨床現場を取り巻く環境は大きく変動し
つ つ あ る 。 治 療 に お い て は 、 Evidence-baced
madecine(EBM)の実施が強く意識され、治療に於
いては、様々な分野で分子標的治療の導入が進んで
きている。さらに、電子カルテが情報収集及び情報
共有のツールとして実臨床の現場で広く普及して
きており、単なる記録のみならず臨床のスピードや
臨床のスタイルさえも変えつつある。この変化は、
血液疾患診療においても例外ではない。
血液疾患のベッドサイドにおいて、検体検査の占
めるウェイトは他分野以上に大きい。すなわち、疾
患の診断・治療、そして合併症の管理・診断・治療
など、これら全ての段階に検体検査が必須という血
液内科臨床の特異な性質が関係している。
では、検査室から発信される検体検査結果という情
報は実際のベッドサイドでどのように扱われてい
るのだろうか? そして、ベッドサイドではどのよ
うな情報が求められているのであろうか?
情報において、その「正確さ」はある意味普遍的
な正義だが、絶対的なものではない。
情報は生ものである。刻々と状況が変化していくベ
ッドサイドにおいて、その場面・場面で求められる
情報は常に変化している。状況によっては、
「正確
さ」よりも「迅速さ」が優先される場面すら存在す
る。これもまた実臨床の真理である。
検査結果の解釈もまた、ベッドサイドから得られ
る情報が加わることにより、全く異なるものに変化
することがある。今を切り取ったはずの検査結果か
ら過去をそして未来を予測することが可能となる
こともある。また、ベッドサイドで行われた介入が
検査結果に大きな影響を与えることも有り得る。
今回、実際の現場で働く血液内科医が検査室から
届く検査結果を日々どのように読み解き、繋ぎ、そ
して活用しているのか、実際の症例を提示しながら
解説させていただく。そして、今回の講演が、検査
室とベッドサイドのより良い関係を築く一助とな
ればと考えている。
ランチョンセミナーⅡ
(提供)チェスト株式会社
*医師はどのような考えで肺機能検査をオーダーするか?
松元 幸一郎(九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設、診療科:呼吸器科)
臨床生理検査としての肺機能検査には、ポータブルタ
減少を反映している。COPD(特に肺気腫タイプ)の気
イプのスパイロメーターによる肺気量測定、努力性呼
流閉塞は末梢気道病変だけでなく肺胞領域の破壊性
出に基づく気流閉塞判定といった簡便なものから据
病変によってもたらされるため、拡散能は低下する。
え置き型の高価な測定機器による機能的残気量、拡散
一方、喘息や閉塞性細気管支炎は肺胞の破壊は伴わな
能、クロージングボリュームなどの特殊検査までが含
いため拡散能は保たれる。COPD において拡散能障
まれる。前者は外来ブースでも実施可能であり、徐々
害は患者の生命予後とも相関することが知られてい
にではあるが診療所や健診事業でも普及しつつある。 る。クロージングボリュームを依頼される機会は極め
臨床衛生検査技師が関わるとすれば総合病院や呼吸
て少ないであろう。一秒率で正常範囲でもフローボリ
器系専門病院における検査部業務としての後者であ
ューム曲線が下に凸なパターンを示していた場合、末
ろう。では、医師はどのような考えのもとに肺機能検
梢気道の閉塞性病変が疑われ、クロージングボリュー
査を依頼するのであろうか。
ムでより詳細に分析できる。言い換えれば、一秒率で
① 呼吸器専門医からの依頼は別として、日常的に最
明らかな気流閉塞所見がみられた場合にクロージン
も多いのは外科領域で手術を予定している患者に対
グボリュームを測定する意義は乏しい。
する術前検査としての依頼ではないかと思われる。%
③ 今後に注目されるのは、COPD のスクリーニン
肺活量と一秒率をもとに正常範囲、拘束性障害、閉塞
グ手段としての肺機能検査である。COPD の有無は
性障害、混合性障害と自動判定され、障害該当例は呼
肺機能検査でしか診断できない。大規模疫学調査によ
吸器専門医へコンサルテーションされる。術前評価に
れば我が国の 40 歳以上の人口の 8~9%が COPD を有
おいて重要なのは喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の
しているが、実際に診断・治療を受けているのはその
有無であり、気流閉塞(一秒率 < 70%)がみられた場合、 うちの 1 割に過ぎない。高い有病率にもかかわらず高
気管支拡張薬(2 刺激剤)吸入後に再測定し、気道可逆
血圧や糖尿病、高脂血症など他の生活習慣病に比べて
性を評価する必要がある。可逆性が大きいとそれだけ
一般国民の COPD の知識は極めて限られているのが
気道が不安定であり、喘息であれば気管内挿管時の気
現状である。事の深刻性に漸く気が付いた厚労省は昨
道攣縮や術後喘息発作のリスクが、COPD では術後
年から国家レベルの健康増進事業『健康日本 21』の
肺合併症のリスクが高くなる。術前に治療を導入・強
対象疾患として COPD を追加し、その啓発に力をい
化し、できるだけ気流閉塞を改善させておくことが求
れはじめている。したがって、一般の診療施設だけで
められる。しかし検査を最初に依頼するのは非呼吸器
なく健診事業者も肺機能検査を積極的に実施するこ
専門医であり、可逆性評価の意義を理解していない可
とが予想される。もう一つ注目されるのは、今年から
能性もある。気流閉塞がみられた場合、速やかに検査
保険適用となった呼気一酸化窒素(NO)測定である。
部サイドから依頼医師へ気道可逆性測定を追加した
喘息の気道炎症においては誘導型 NO 合成酵素由来
方がよいか打診してみるのは時間と労力の軽減にも
の NO が呼気中に増加する。従来、喘息の治療効果は
なりスタッフ連携が上手くいっている証しといえる。 自覚症状や肺機能の改善で判定し、気道炎症の改善は
② 呼吸器専門医や一部の循環器専門医が依頼する
評価困難であった。呼気 NO の測定によって、より客
特殊検査として拡散能検査がある。間質性肺炎・肺線
観的な評価基準に基づいた喘息診療が実現すること
維症の病勢評価、あるいは抗不整脈薬アミオダロンに
が期待される。検査室で従来の肺機能測定機器と並ん
よる薬剤性肺臓炎の鑑別などが依頼理由の代表であ
で呼気 NO 測定器が稼働する日が近づいている。
るが、気流閉塞を主病態とする呼吸器疾患の鑑別のた
めに依頼される場合もある。拡散障害は物理的な拡散
の障害というよりもガス交換を担う肺毛細血管床の
ランチョンセミナーⅢ
(提供)シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社
慢性腎臓病治療におけるアルブミン尿の位置づけ
深水 圭(久留米大学医学部 内科学講座 腎臓内科部門)
現在、慢性腎臓病(CKD)患者は全国で推定 1330 万人
3.2g が再吸収され、残ったアルブミンが体外に排泄
存在するといわれており、約 8 人に 1 人は CKD を有す
されるという報告がある。いずれにしても、アルブミ
るとされている。今後も CKD 患者は増加することが予
ン尿の測定は、現在使用しうる早期の腎障害バイオマ
想される。一方、最新の日本透析医学会の統計調査に
ーカーとして最も簡便でかつ有用であり、アルブミン
よると、日本全国の透析患者総数は 30 万 9946 人であ
尿が腎障害のマーカーであるのみならず、進展因子で
り、前年統計時と比較し 5000 人程度増加した。このよ
あることから、CKD 治療の重要なターゲット因子とし
うに、透析を含む CKD 患者は年々増加傾向にあり、CKD
て今後も臨床の現場で広く測定されるべきであろう。
早期発見・早期治療が急務の課題である。年別透析導
尿中アルブミンは、尿蛋白定性試験紙法で陰性の時期
入疾患の割合は第 1 位が糖尿病性腎症(44.1%)、第 2
(早期腎症期)においても異常値として検出可能であ
位は慢性糸球体腎炎(33.6%)、
第 3 位腎硬化症(12.3%)、 る。さらに正確に診断するには尿中アルブミン排泄指
第 4 位原因不明(8.5%)であり、糖尿病性腎症の割合は
数(尿中アルブミン/クレアチニン比)を算出する必
昨年と比較し 0.1%減少し、腎硬化症・原因不明による
要がある。あらたな CKD ガイドラインにもアルブミン
透析導入が増加している。しかしながら、それでも未
排泄量が加わっており、今後は尿中アルブミン指数の
だ透析患者の半数近くは糖尿病性腎症からの透析導入
算出が CKD の重症度を把握するうえで、さらに重要と
であり、糖尿病患者における腎症の早期発見・治療は
なってくる。特に、その場でアルブミンをクレアチニ
最重要課題である。実際、糖尿病性腎症が進行し腎不
ンで補正可能な試験紙は、今後病態の進行を評価する
全へ進展すると、腎症を発症していない糖尿病患者と
こと、また治療効果を検討するうえで必須となる。尿
比較し心血管合併症による死亡のリスクが年間 1.4%
アルブミン試験紙(クリニテック ミクロアルブ・ク
から 19.2%と約 14 倍に跳ね上がる。以上より、糖尿病
レアチニンテスト)は、アルブミン/クレアチニン比
性腎症の早期マーカーであるアルブミン尿は、患者予
を簡便に評価することが可能であり、その場で結果が
後を決定づける重要なバイオマーカーであり、アルブ
得られるため、特に一般外来診療において有用である。
ミン尿の測定により早期腎症を診断できれば、腎機能
さらに、蛋白、アルブミン、クレアチニン、ブドウ糖、
が正常のうちに治療を開始することが可能となるため、 ケトン体、白血球、亜硝酸、潜血、pH の9項目を一
糖尿病性腎症の根絶には必須の検査であると考える。
枚で測定可能な新試験紙が日本において発売予定で
アルブミン尿の排泄は、糸球体におけるアルブミンバ
あるが、我々は発売に先立ってその精度、特徴につい
リアーの破綻が原因と考えられる。バリアーとしての
て検討を行ったので、その有用性について紹介する。
基底膜陰性荷電、糸球体上皮細胞、内皮細胞になんら
以上のように、本講演では、CKD、特に糖尿病性腎症
かの障害が生じると、尿中にアルブミンが漏出する。 の臨床(診断・治療)の概略と、尿中アルブミン測定
動脈硬化の initial step である内皮機能障害がアル
ブミン漏出に関与していると考えられており、心腎連
関を考える上で、内皮機能傷害は重要である。もしく
は近位尿細管におけるアルブミン再吸収低下が、微量
なアルブミン尿の排泄機序として説明されている。糸
球体からは多量のアルブミンが漏出しており、尿細管
によってそのほとんどが再吸収されるが、尿細管障害
が生じるとアルブミンが再吸収されず、尿中に出現す
るというものである。ヒトにおいて、一日 3.3g 程度
のアルブミンが糸球体を通過するが、尿細管によって
の評価法・有用性につきわかりやすく解説する。
ランチョンセミナーⅣ
(提供)栄研化学株式会社
栄養科、検査部との連携による厨房内環境衛生、NST の取り組み
青木 哲美(社会保険田川病院 栄養科)
、平原 賢次(同 検査部)
①検査部の協力により充実した厨房内環境衛生
の維持
2004 年より厨房内で、大腸菌群対象、付着細菌検査
を定期的に抜き打ちで行っている。これにより、厨房
内の衛生状態を目で確認することができ、厨房内衛生
管理の質の向上、良好な厨房環境作りに大きく役立っ
ている。
②確実な ODA(客観的評価)を行った NST が実現
2006 年 4 月より全科型 NST を実施。毎週、入院後
の低栄養患者の拾い上げ、
ICT カンファレンス情報
(耐
性菌、菌血症、指定抗菌薬)を元に、NST アセスメン
トシートを作成し低栄養患者の把握を行っている。ま
た、ラウンドに検査技師が参加することにより、各対
象患者の ODA の説明及び薬の感受性等についてアド
バイスを行うことで NST を効率よく行うことが出来
ている。
以上、2 点の取り組みについて報告させていただきま
す。
ランチョンセミナーⅤ
(提供)和光純薬工業株式会社
プロカルシトニンを用いた敗血症診療について
~感染症迅速診断に有用な画期的な診断法~
真弓 俊彦(産業医科大学医学部 救急医学講座)
敗血症は現在でも頻度が高く、
敗血症、
重症敗血症、
その後、PCT 値を用いた感染症治療(抗菌薬を開始
敗血症性ショックになるにつれ死亡率が上昇し、敗血
/中止する判断に PCT を用いる)の観察研究、RCT
症性ショックでは 30〜70%と報告されている。敗血
も行われ PCT の有用性が報告された。さらには、近
症は近年、感染に起因する SIRS とされてきたが、
年、
これらの RCT の meta-analysis も報告され、
PCT
Surviving Sepsis Campagin Guidelines 2012 では若
値を指標に抗菌薬を開始/中止することにより、PCT
干変更された。
を用いない群と比し、死亡率は同等であったものの、
敗血症の診断は、感染の存在がその根本であるが、
抗菌薬投与期間が2.1 日短く、
総抗菌薬投与期間も4.2
感染の存在は、炎症反応の存在、検体でのグラム染色、 日短くなることが報告された(Kopterides P. Crit
細菌培養、エンドトキシン等の測定等で証明するが、 Care Med. 2010;38:2229-41)。
細菌培養には 2 日以上要し、炎症反応は感染以外でも
つまり、Procalcitonin は、1) 感染発症後早期に上
生じ、また、その他の検査法を用いても、実臨床では
昇し、検体処理が容易で、迅速に結果を得られる。2)
感染の有無の判定が容易でない場合が少なくない。
細菌の全身感染診断の非常に良いマーカーである。3)
プロカルシトニン(PCT)は、アミノ酸 114〜116 個よ
真菌やウィルス感染と鑑別できる。ただし、偽陽性/
りなるペプチドで、カルシトニンの前駆蛋白として、 偽陰性となる病態がある。4) 重症度とある程度相関
平時には甲状腺の C 細胞で生成される。しかし、感
し、
「PCT が高い」とより「重症」であることが報告
染時には TNF-αなどの炎症性サイトカインにより誘
されている。5) 治療の効果判定も可能で、抗菌薬の
導され、肺・腎臓・肝臓・脂肪細胞・筋肉といった全
継続/中止の判断も可能であり、低下が認められない
身の臓器で産生され、血中に分泌される。
場合には、抗菌薬が不適切であることや他部位の感染
細菌感染では上昇し、その他の感染症では上昇しに
を示唆している。6) PCT を指標にすることにより抗
くいことから、細菌感染の判定の有無に利用されるよ
菌薬の使用期間を短縮できる可能性があり、将来、耐
うになってきた。PCT の利点は、1) 採血に厳密な無
性菌が減少することも期待できる。
菌的な処理が必要がなく、通常の血液検体で良いこと、 このように、PCT は、感染症迅速診断に有用な画期
2) 30 分程で迅速で測定できること、3) 感染後 3 時間
的な診断法であり、臨床では必須の測定法となってい
程から上昇し、半減期が 22 時間程と長いため、感染
る。
検出感度が高いことである。一方、欠点としては、1)
講演ではこれらの要旨を解説する。
手術や熱傷などの感染以外の侵襲でも上昇するため、
偽陽性があること、2) 逆に、局所の炎症では上昇し
ないことがあるなど偽陰性もありうることである。
日本でも PCT の有用性を評価する多施設研究が行
われ(Aikawa N. J Infect Chemother 2005; 11:
152-9)、
細菌性感染と非細菌性感染との鑑別を PCT、
endotoxin、IL-6、CRP で比較したところ、ROC 曲
線でのAUC はPCT 0.84、
Endotoxin 0.60、
IL-6 0.77、
CRP 0.78 と、PCT が最良であったことや、PCT が
CRP よりも、重症度とより相関することが報告され
ている。
海外では、多数の観察研究とその mata-analysis が
行われ、
PCTの細菌感染検出の有用性が報告された。
連絡先: 093-691-7516
ランチョンセミナーⅥ
(提供)株式会社キアゲン
細胞診・HPV 検査併用子宮頸がん検診6年間の成績
~高精度・効率化・ワクチン時代対応可~
岩城 治(島根県立中央病院 母性小児診療部長)
最近、子宮頸がんは若年化(30 歳台中心)する一
方で妊婦は高齢化(30 歳台中心)し、両者の年齢層が
【適応年齢】
重なってきたため、検診の目的は CIN2/3 の検出にな
HPV 検査陽性率と上皮内がん罹患率の交差は25 歳で
ってきた。しかし、従来の細胞診だけでは CIN2/3 の
あった。また CIN2/3 以上の病変検出は 25 歳以上がほ
検出感度には限界がある。そこで、欧米では精度の高
とんどであったことから、
併用検診開始年齢は 25 歳以
い HPV 検査が導入されて 10 年以上になる。島根県・
上が適正と思われた。
出雲市でも細胞診と HPV 検査同時併用検診を住民検
診で施行してから 6 年になる。その結果を基に、日本
の実情にあった HPV 検査導入について検討した。
【検出単価】
1 例の CIN3 を検出するためにかかる行政費用が 45%
削減できた。行政の補助金を 30%削減できることが推
細胞診・HPV 検査同時併用検診(併用検診)は、検
計できた。
出感度の高い HPV 検査と特異度の高い細胞診を併用し
て高精度化することにより、一度に CIN2/3 をほぼ
【検診内容向上】
100%検出することができる。その結果、両者陰性の場
併用検診により罹患率の高い 30 歳を中心とする若
合は受診間隔 3~5 年に延長することができるので、
効
年者の受診率(人口比)が 2.2 倍となって 40%以上と
率化も可能だ。よって併用検診の場合、両者陰性例は
なり、検出率は 3 倍となった。その結果円錐切除例は
要 3 年後受診、細胞診陰性・HPV 検査陽性および細胞診
増加し、円錐切除後の HPV 検査陰性化率は 80%で 4 年
ASCUS・HPV 検査陰性は要 1 年後受診、
細胞診 ASCUS・HPV
以上持続している(がん予防検診実現)
。円錐切除後
検査陽性および細胞診 LSIL 以上は要精密検査となる。 64 人の生児を得た。
【検出精度】
【地域がん登録】
共同研究で併用検診を 2931 例施行し、CIN2 以上を
併用検診後から、島根の子宮頸がんは上皮内癌が浸
50 例(1.7%)検出できた。その結果、CIN2 以上の検出感
潤がんを 10~15%上回り、 県内全市町村に拡大してか
度 100%、特異度 93.7%、陽性反応的中度 21.7%、陰性
らは、上皮内がんが 1.5 倍に増加し、がん登録の約 70%
反応的中度 100%で、細胞診のみの感度 86%に比較し高
を占めるようになった。2012 年にはついに浸潤がん数
精度であった。ASCUS の約 50%は HPV 検査陰性であり、 が例年の 50%に半減した。また併用検診 6 年目の出雲
過剰なコルポ診や生検例の回避が可能であった。
市から広汎全摘例が消え、頸がんは概征圧できた。
【トリアージ検証】
【課題】
初回細胞診陰性・HPV 検査陰性例の CIN2/3 への進展
2012 年 3 月に、アメリカのガイドラインは、両者陰
率は 3 年後 0.2% (4/1714)、5 年後 1.4%(7/507)で、 性の場合は 5 年後の受診に変更しているが、受診率が
5 年後に浸潤がんに進展した例はなかった。これに対
極めて低く、ワクチンの導入も遅かった日本では 3 年
し、初回細胞診陰性・HPV 検査陽性例は 3 年後に 6.9%
間隔受診が適正と思われる。
(5/72)
、5 年後に 13.9%(10/72)が進展し、早い例は
12~18 ヶ月で CIN3 に進展したが、浸潤がん進展はな
かった。これらの結果からこの併用検診トリアージは
医療安全面でも適正であると判断した。
ランチョンセミナーⅥ
(提供)株式会社キアゲン
効果的かつ効率的な子宮頸がん検診の実施に向けて
~出雲市 行政からの報告~
有藤 亜希子(出雲市健康増進課)
出雲市では、子宮頸がん検診の効果的・効率的な実
が確保できるようになったことなど様々なメリット
施を目指し、子宮頸がんの主原因である HPV 感染の有
を得られた。検診目的が死亡率減少からがん予防に移
無を調べる HPV 検査併用子宮頸がん検診に取り組ん
行し、検診費及び医療費の削減にも繋がった。
でいる。この検診は、平成 19 年度島根県のモデル事
HPV 併用検診の実施にあたっては、受診者台帳及び
業として始まり、平成 21 年度から市単独事業に移行。 結果通知等の整備や、受診しやすい環境づくりなどに
開始から7年目を迎える。
注力し、効果的・効率的な検診が実施できるよう取り
組んでいくことが重要である。若年齢層の受診者を増
【目的】
出雲市の子宮がん検診受診率は平成 18 年度 15.4%
と低迷していたのに加え、HPV 感染の可能性の低い高
齢者を対象とした繰り返し受診がほとんどを占めて
いた。急速に増加する若年齢層の子宮頸がんの予防に
対応した子宮頸がん検診の実施に向けて HPV 併用検
診を実施・検証した。
【方法】
HPV 検査について、事前にチラシ等で事業内容を周
知すると共に受診時に検査について説明。同意のあっ
た人は通常の細胞診に併せて HPV 検査を実施した。結
果通知の指導区分については、細胞診陰性・HPV 陰性
者を「3 年後検診受診」
、陽性者を「1 年後検診受診」
として判定した。
【結果】
平成 19 年度の受診者数は 2,582 人で、
前年度に比べ
1.5 倍に増加した。特に若年齢層が増加し 2 .2 倍とな
った。
受診者の内、
93%(2,401 人)がHPV 検査を実施し、
陽性者は 2.1%(50 人)。HPV 陽性率は年代で差があり、
20~40 歳代までが 5.7%、50 代以上は 1.1%であった。
要精検者 18 人は全員が HPV 検査陽性者であり、
精密検
査の結果、中等度異形成 2 例、高度異形成 1 例が検出
され、進行期子宮頸がんが防止できた。1 年後も受診
が必要な人は 32 人(HPV 検査実施者の 1.3%)
、3 年後に
受診は 2,351 人(HPV 検査実施者の 97. 9%)であり、ほ
とんどの女性の「受診間隔延長」に効果があった。
【考察と今後に向けて】
HPV 併用検診実施によって、個人に合った受診間隔
やす取組を総合的に展開していくため、情報提供と共
にがんに関する継続した啓発が必要であると考える。
ランチョンセミナーⅦ
(提供)オーソ・クリニカルダイアグノスティックス株式会社
臨床医と検査部門との新たな連携とチーム医療を目指して
長井 一浩(長崎大学病院 細胞療法部)
臨床検査が、今日の医療現場において、必要不可欠
ける組織横断的な活動に大きく貢献している。
の重要な位置付けにあることは論を待たない。検査デ
輸血管理部門は、交差適合試験による適合血選択に
ータの集積によって正確かつ精密な病態を探究し、適
代表されるように、従来より検査業務の医療現場への
確な診断と治療方針の策定が可能となる。それは、現
コミットメントが明らかである。また、輸血医療では
代の医療が、患者の健康を増進するために、疾患や病
不適合輸血の防止をはじめとするリスク管理に輸血
態を形成する病因を解明し、これを取り除くあるいは
管理部門が強く関与している。
是正することを目指すという原理のもと、飛躍的な進
本講演では、演者が所属する長崎大学病院の輸血管理
歩を遂げつつあることと深く関連している。
部門での業務を中心として現況を報告し、臨床医が適
従来、検査情報を集積しようと先ずアクションを起
正で安全な輸血医療を実践することに関し検査部門
こすのは臨床医であり、そのオーダーを受けた検査室
が如何に寄与し得るかについて考察することを通し
サイドの役割としては、正確な結果情報を速やかに報
て、臨床現場と検査スタッフとの新しい業務連携やコ
告することにあった。しかし、その検査プランは、臨
ミュニケーションの在り方を模索したい。
床医が自らの描く診断プロセスの枠内で構築される
ものである。遺伝子・分子レベルで進む病態解明の成
果は、激しい勢いで臨床医学に応用され続けており、
臨床医療に課せられている役割が益々高度かつ細分
化されている今日、個々の臨床医のもつストーリーに
依拠するだけでは、患者にとって適確な判断を迅速に
決することが困難になりつつある。そうして、このこ
とは医療の不確実性や避けられないヒューマン・エラ
ーのリスク管理といった問題と繋がりながら、社会が
医療に求める姿勢について見直すことを迫るもので
ある。
したがって今日、臨床医療の広範な領域において、
従来の臨床医のパターナリズムを基調とする型から
脱し、チーム医療として相互に知識や技術を高めあい、
迅速な意思決定と適切な行動を生むコミュニケーシ
ョンの在り方が希求されている状況は、至極当然の流
れと云えよう。
臨床検査に焦点を合わせれば、それは診断プロセス
への検査技師の積極的な関与という課題にたどり着
くのではないだろうか。検査データの品質管理とその
解釈、いわゆるパニック値報告のような緊急時対応、
新たな検査プランの提案、さらには病態全体の総合的
な把握への臨床検査医学的アプローチ等、検査技師が
検査室を飛び出し、診療現場のチームの一員として活
躍する場は広がりをみせている。また、診断や治療以
外にも、院内の感染制御や栄養管理等、医療機関にお
ランチョンセミナーⅧ
(提供)株式会社ティエフビー
救急医療における救急検査という新しい概念について
~救急検査認定技師の役割~
福田篤久、久保田芽里(りんくう総合医療センター 中央検査科 / 日本救急検査技師認定機構)
【はじめに】 臨床検査とは、病気の診断・治療方針
を左右する因子に、24 時間を通して検査できるシステ
の選択・予後の判定などへ導くための補助手段である。 ムの構築が必要である。
また、この臨床検査領域における緊急検査は、従来、
4)ベッドサイド検査:血液・尿などはベッドサイド
患者にとって有益とされる臨床検査を迅速に行うこと
で検体採取が行われ、その場で検査を実施し、治療・
であったが、近年では、
“診察前検査”で代表されるよ
処置に活かされることが重要である。
うに、患者のためだけでなく、医療施設の効率化を目
5)反復性:救急検査の対象となる患者は、経時的に病
的とした緊急検査も存在するようになった。
態変化する場合も多い。したがって、一回だけの検査
そこで今回、前述の緊急検査と区別するために、救
で十分であることは少なく、多くの救急検査は繰り返
急医療(急性病態)に特化した緊急検査を“救急検査” して行われることが多い。
と称し解説する。
【救急検査システム】 従来より各医療施設の検査部
【救急検査とは】 救急医療では、すべての医療行為
門は、Turn around time(TAT)の短縮に努め、迅速な
において迅速性が求められ、瞬時の判断により治療が
結果報告を目指してきた。この TAT は、
「検体到着から
決定・開始される分野である。その中で、救急検査は
結果報告までの検査室内における時間経過」であり、
「急性病態および患者急変時に、正確性や確定診断に
検査依頼または検体採取から検査室への検体到着まで
比し、迅速性と患者病態把握を特に重視する検査」と
の測定前フェーズおよび医師が検査結果を確認するま
定義され、担当する検査室は救急診療部門に近接し 24
での測定後フェーズについてはあまり議論されていな
時間稼動することが必要とされている。ここでの検査
かった。救急領域においては TAT に測定前フェーズお
技師の主たる業務は、医師または看護師により提出さ
よび測定後フェーズを加えた時間 Therapeutic turn
れた患者検体に対し検査室内で検査を実施し、その結
around time(TTAT)の短縮が重要となる。TTAT が遅
果を迅速に報告することである。そのためには、一般
延する要因として、検体採取後に検査依頼が出てない
的な臨床検査に求められる条件に加え、救急検査には
とき、検体採取後に検体が検査室へ搬送されて来ない
以下の条件が必要となる。
ときなどの測定前フェーズの問題と検査結果は報告さ
1)迅速性:検査情報が治療に速やかに反映される迅速
れているが医師が結果を確認していないなどの測定後
性を備えた検査でなくてはならない。特に重症患者を
フェーズの問題が挙げられる。いずれのフェーズにお
対象とする場合では不可欠な条件であり、各種の呼吸
いても、多数の救急患者を受け入れている場合などで
循環モニターはもちろんのこと、動脈血血液ガス分析
は、医師または看護師が自分の持ち場を離れられない
なども迅速性に優れているがゆえに有用な救急検査の
ため問題が発生している。これらの問題点を解決する
一つである。
ために、救急医療担当の技師が現場である救急外来
2)簡便性:救急医療検査は、時間との戦いであると同
(ER)などへ介入し、検査関連業務を実施することで
時に、夜間休日などでは人的制約(マンパワー)を受
TTAT を短縮すると共に、医師や看護師が本来の業務に
けながら実施されることが多い。複雑な検査は時間と
専念できるように業務支援することが有効であり、技
人手を要するため救急検査には向かないが、測定技術
師が救急医療チームの一員として活動する救急医療検
の進歩により従来は複雑だった検査が簡便に行われる
査システムの構築が必要である。救急医療に携わる技
ようになった項目も増えており,救急検査として利用
師には様々な疾患に対応するための幅広い臨床検査知
可能な測定項目も増えている。
識や技術の他に、救急医療の基礎知識および技術の習
3)随時測定:救急検査は、24 時間を通していつでも
得が必須であると考える。
測定できる検査でなくてはならない。昼間帯では支障
【まとめ】救急医療における新しい概念としての、
“救
なく実施できる検査が、夜間休日帯では大きく制限を
急検査”について述べた。
受け測定できない場合も見受けられる。救急検査の質
連絡先:072-469-3111 (内線 PHS 9601)
ランチョンセミナーⅨ
(提供)ベックマン・コールター株式会社
最も使われている腫瘍マーカーCEA の検査法と臨床的意義の再点検
黒木 政秀(福岡大学医学部 生化学教室 教授)
1.はじめに
あるが、
その点を明確にした測定系はそう多くはない。
癌胎児性抗原(Carcinoembryonic Antigen: CEA)
われわれは、CEA 遺伝子ファミリーが明らかになった
は、もともと大腸癌で発見された糖タンパク質である
時代に、これらのファミリー分子を遺伝子工学で作製
が、その後いろいろな癌でも見つかり、それらの癌の
し、これらと反応しない抗体を選択することで、CEA
確定診断における補助指標として、また治療後の経過
に特異的な測定系を開発した。
観察における指標として、今や世界で最も利用されて
3.CEA の臨床的意義の再評価
いる腫瘍マーカーである.一方で、新しい癌関連物質
CEA 値が上昇する主な癌は、大腸癌、胃癌、胆嚢・
が発見され新規の腫瘍マーカーとして審査される際、 胆管癌、膵癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、甲状腺髄様癌な
既存のマーカーに比べて優る点を有することが認め
どで、おおむね腫瘍の大きさを反映して,その経時的
られる条件の一つとなるが、CEA はその対照として王
な測定に意義がある.しかし,他の腫瘍マーカーと同
者の地位を譲らず、新規マーカーの認可を厳しくする
じように早期癌での陽性率は低く,癌の診断に単独で
立場にもたっている。それでは、CEA に問題点はない
利用するには無理がある.現時点での大きな意義は次
のであろうか。ここでは、CEA が日常汎用されている
の3点である。a.上昇している場合は悪性所見の1
まさに今、その検査法と臨床的意義を改めて点検し、 つになる。b.外科療法後の経過観察に有用で、根治
かつその有用性を整理する。
手術の成否の判断や再発・転移の発見に有用である。
1.CEA 自体の特徴と問題点
c.化学療法や放射線療法など非観血的治療法の効果
CEA には2つの大きな特徴が存在する。一つは、正
判定に有用である。ただ、治療と同時に癌組織がなく
常人のいろいろな臓器の粘膜上皮や導管上皮でも発
なり直ちに CEA 下降が始まる外科療法と違い、その他
現していることである。しかし、CEA の特殊な細胞上
の治療法では、治療開始後しばらくは破壊された癌組
の分布パターン(極性)により、通常は血中には流出
織からの CEA 流出がつづくので、一時的に CEA が上昇
せず、その濃度は基準値以下に保たれる。一方、癌組
したあと下降に向かうのが普通である。
織では、組織構築と細胞極性が乱れ、血中にも流出す
一方で、組織構築や細胞極性に影響を及ぼすような
るようになる。正常組織でも発現しながら、CEA が癌
要因が加わると,癌患者に限らず血中の CEA が多少上
患者において腫瘍マーカーになりうる理由である。た
昇することがある.また,CEA の代謝経路や排泄経路
だ、正常人にも存在するという事実は、後述するよう
である肝・胆道系や腎・泌尿器系の障害でも上昇する
に、軽度の CEA 上昇を示すがその他の検査で悪性所見
ことがある.潰瘍性大腸炎、クローン病、喫煙習慣、
がない場合、重要な意味をもってくる。
強度の便秘、肝硬変、胆石症、腎不全などがそうであ
CEA のもう一つの特徴は、構造の一部が CEA に類似
る。しかし、これらの疾患では、基準値の2倍以上の
するため CEA 遺伝子ファミリーと呼ばれる一連の糖
値を示すことはなく、多くの場合、軽微な上昇と下降
タンパク質群が存在し、これらが上記の粘膜上皮や導
を繰り返すことが多く、治療を行わない限り上昇しつ
管上皮に加えて白血球でも発現していることである。 づける癌の場合と違う点である。
当然のことながら、これらは炎症性疾患で増量し、測
定キットによっては偽陽性の一因になる。
2.CEA 測定上の重要点
4.CEA の癌治療への応用の可能性
癌細胞膜上の CEA を標的にし、癌の治療をめざす試
みも続けられている。CEA に対する抗体を使うもので
現在,CEA は固相一次抗体と標識二次抗体を利用し
あるが、単独でというより、現在開発が進んでいる遺
たサンドイッチ法に基づく化学発光免疫測定法
伝子治療法や超音波療法あるいは光線療法を補完し、
(CLIA)や化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)あるいは酵
これらの治療法を癌にだけ向け正常組織への影響を減
素免疫測定法(EIA)などで実施される.
最も重要な点は、 らして副作用をなくそうとするもので、大きな注目と
CEA 遺伝子ファミリーと反応しない抗体を使うことで
期待が寄せられている。
ティータイムセミナーⅠ
(提供)エーディア株式会社
肝疾患診療の現状と展望
~最新の治療と検査~
国府島 康之(国立病院機構九州医療センター 消化器科)
本邦においてC型肝炎は第二の国民病とも称され、
その数は症状のないキャリアを含めると 150~200 万
人に及ぶと推測されている。また、B型肝炎も含めた
ウイルス性慢性肝炎を背景とする肝細胞癌は予後不良
な癌であり、その撲滅を目指すことは本邦における健
康増進の大きな課題のひとつとなっている。本セミナ
ーでは国立病院機構九州医療センター消化器科 国府
島 康之先生をお招きし、肝疾患に対する検査や治療
法の最新の話題、またその将来展望も含め、肝臓専門
医としての立場からご講演いただく。
ティータイムセミナーⅡ
(提供)アボット・ジャパン株式会社
B型慢性肝炎の治療と HBs 抗原定量の有用性
中島 俊彦(アボットジャパン株式会社 学術情報室)
【HBV キャリアの自然経過】
本邦の平均的な HBs 抗原陽性率は約 1%前後で、
【核酸アナログ治療時のモニタリング】
B型慢性肝炎の患者に核酸アナログを投与された
国内における HBV 持続感染者(キャリア)は約 130
症例で、HBV-DNA と HBs 抗原 を経時的に定量測定
万~150 万人と推定されている。
キャリアはALT 値、
してみると、核酸アナログ投与により HBV-DNA は
HBe 抗原、HBV-DNA 量、予測される免疫状態から、
早期に陰性化していたが、HBs 抗原 の減少は緩徐で
免疫寛容期(無症候性キャリア)
、免疫排除期(慢性
かつ数年間陽性のまま推移している。この乖離は、肝
肝炎)
、免疫監視期(非活動性キャリア)の3つの病
細胞内の HBV -RNA が核酸アナログによる逆転写
期に分けることが可能である。無症候性キャリアの
酵素阻害により HBV-DNA へ転写されず、血中
85~90%は自然経過で HBe 抗原陰性・HBe 抗体陽性
HBV-DNA を高率に低下もしくは検出感度以下とな
(HBe 抗原のセロコンバージョン)
、HBV-DNA 量の
るが、HBs 抗原や HB コア関連抗原は核酸アナログ
低下、肝炎の沈静化(ALT の正常化)が起こり、非
による逆転写酵素阻害を直接受けない 別の mRNA
活動性のキャリアとして多くの人が生涯をまっとう
ルートにより肝細胞から血中に分泌、放出され続ける
されるが、キャリアの 10~15%は肝硬変や肝細胞癌
ためだと考えられている。HBV-DNA 陰性後のモニタ
まで病態が進行すると推定される。従来非活動性のキ
リングは肝臓内の cccDNA 量と相関すると思われる
ャリアからの発癌はほとんどないと考えられてきた
HBs 抗原、
HBe 抗原や HB コア関連抗原で行われる。
がHBV-DNA 量が十分低下していない場合0.2%/年
の発癌の可能性があると「慢性肝炎・肝硬変の診療ガ
イド 2011」で報告されている。
【B型慢性肝炎の治療】
B型慢性肝炎の治療方法にはウイルス増殖抑制(抗
【核酸アナログ中止指針】
核酸アナログを使用してもウイルスを完全に排除
することは困難であり、薬剤耐性ウイルスの出現や治
療中止に伴う肝炎の再燃が問題点として残されてい
ることから「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避の
ウイルス療法)
、肝庇護および免疫力増強療法がある
ための指針 2012」が肝臓 53 巻 4 号で報告された。
が、HBV-DNA 量を検出感度以下に抑制し ALT の正
この指針は肝炎の再燃率を HBs 抗原量と HB コア関
常化を目指す抗ウイルス療法が基本ガイドラインに
連抗原量で推計されている。
なっている。
(最終目標は HBs 抗原の陰性化)
抗ウイルス療法のインターフェロン(IFN)は徐放性
のペグインターフェロン(Peg-IFN)が推奨されてい
るが発熱などの副作用、遺伝子型により有効性が異な
る、毎週皮下注射しなければならないなどのデメリッ
トがある。また、ヌクレオシド(塩基+五炭糖)の誘
導体で逆転写酵素の複製を阻害する核酸アナログ(ラ
ミブジン、アデホビル、エンテカビル)には薬剤耐性
ウイルスが出現しやすい薬剤や副作用の出やすい薬
剤があること、治療中止後の再燃が高頻度であるなど
のデメリットがあるが、
「B型肝炎治療ガイドライン
2013 年 4 月」では初回治療の場合ペグインターフェ
ロンかエンテカビルが基本薬剤として推奨されてい
る。
【HBs 抗原定量の臨床的意義】
従来 HBs 抗原は陰性・陽性の定性検査として用い
られていたが、抗ウイルス療法の進歩に伴い HBs 抗
原の定量が注目されている。
①Peg-IFN 投与終了後のHBs 抗原量が低いほどHBe
抗原、HBV-DNA、HBs 抗原の陰性化率が高くなる。
②Peg-IFN 治療開始後 24 週の時点で HBs 抗原量の
減少度合により SVR(sustained virological
response;HBV-DNA が検出感度未満になること)
の予測が可能になる。
③HBV-DNA 量が低いほど発癌リスクは低くなる
が HBs 抗原量によりリスクが異なる。すなわち、HBs
抗原量と HBV-DNA 量との掛け合わせで発癌リスク
の予測が可能になる。
ティータイムセミナーⅢ
(提供)積水メディカル株式会社
糖尿病治療における血統値の指標と最近の話題
兼本 勝利(積水メディカル株式会社 カスタマーサポートセンター)
【はじめに】
熊本市にて開催された第 56 回日本糖尿病学会年次学
世界の糖尿病患者は現在 3 億 7100 万人で,
成人人口
術集会で「熊本宣言 2013:あなたとあなたの大切な人
の 8%を超えており,2030 年には 5 億 1000 万人(うち
のために Keep your A1c below 7% 」
として採択され,
70%は途上国)を超えると予測されています.アジア地
6 月 1 日より運用開始される事になりました.目標値
域では急増しており,39 カ国に 1 億 3190 万人と見込
は 3 段階(HbA1c で,6.0,7.0,8.0)で,中心は「合
まれ,世界の 36%を占めると報告されています.糖尿
併症予防のための目標」と云う事で HbA1c 7.0%未満と
病症例数の増加に伴い糖尿病合併症も増加しています. なりました。
例えば糖尿病性腎症は 1998 年から透析療法導入原疾
患の第 1 位になっていますが,2011 年末には全透析症
【グリコアルブミン(GA)
】
例の原疾患の第1位になったことが2012年に報告され
グルコースとヘモグロビンが結合した糖化物が
ました.これら糖尿病合併症の発症・進展阻止には,
HbA1c であるのに対し,グルコースとアルブミンが結
糖尿病発症早期からの厳格な血糖コントロールが極め
合したものが GA です.これらの糖化タンパクは,結合
て重要である事はすでに数多く報告されています.その
するタンパクの半減期の違いによって異なった期間の
ために糖尿病治療薬の開発は急ピッチで進んでおり,
平均血糖を推測する指標となります.ヘモグロビンの
新しい治療薬が次々に発表されています.そのための
寿命約 120 日に対して,アルブミンの血中半減期は約
検査も HbA1c や GA に加え,CGM などの新しい手法が取
20 日であることから,過去 2~4 週間の血糖の平均を
り入れられてきています.
反映します.従って,糖尿病の治療開始時などで,早
期に血糖コントロール状態の変化を把握したい場合は,
【診断基準】
HbA1c より,GA がよく用いられます.また CGM の結果
2010 年 7 月診断基準が改訂され,糖尿病の診断はこ
から平均血糖のみならず血糖変動(SD)も良く捕らえ
れまでの「血糖値」に,慢性の高血糖状態を反映する
ている事がわかり,HbA1c とは異なる面が評価されて
検査として「HbA1c」が加えられ,早期診断が図られる
きています.さらに本年 3 月「血液透析患者の糖尿病
ようになりました.
また,
「国際標準化」
と云う流れで,
治療ガイド 2012」に GA が指標として採択され,合併
2012 年 4 月 1 日より,わが国で(HbA1c の)JDS 値か
症での血糖コントロールに強力な武器となっています.
ら NGSP 値への移行が始まったことは先生方のご記憶
また献血における検査サービスにおいても既に糖尿病
に新しいと拝察します.また本年(2013 年)4 月から
関連検査として導入されていることから,一般の方に
は特定健診においても NGSP 値への切り替えが行われ
も認知度が高まっています.
(併記無し)
,
来年 3 月一杯を持って完全移行となりま
す.
【血糖コントロールの目標値】
本日は以上の話題(①診断基準②治療目標値③再注
目される GA)をご紹介いたします.
またそのほか、積水メディカルがご提供できる糖尿
また、血糖コントロールの目標値につきましても、こ
病関連の製品につきましても、先生方のお役に立つ最
れまでは優,良,可(不十分,不良)
,不可の 5 段階で,
新の情報を提供させていただきたいと思います。
目標値は「患者の年齢および病態を考慮して,患者ご
とに主治医が決定する.
」となっていましたが,
「患者
中心の医療」の考え方の元,
「治療目標は年齢,罹病期
間,臓器障害,低血糖の危険性,サポート体制などを
考慮して個別に設定する.
」となり,本年(2013 年)
連絡先:06-6350-6581