東南アジアにおけるデング熱発生の季節要因 2015 年 12 月 3 日 鹿児島大学 岡本嘉六 デング熱は熱帯地域に分布する主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)(ヒ トスジシマカ(Aedes albopictus)も媒介する)によって媒介される。したがっ て、蚊の繁殖が盛んな時期に流行すると考えられるが、熱帯地域においては気 温よりも、繁殖に適さない乾季より水溜りが多い雨季に蚊が繁殖すると推定さ れる。しかし、具体的な時期は何時なのか? 太線はホーチミン市 -1- 2013 年に米国 CDC の Emerging and Zoonotic Infectious Diseases に掲載 された「ベトナム南部におけるデング熱流行の時空間動態(Spatiotemporal Dynamics of Dengue Epidemics, Southern Vietnam)」は、19 の省と 159 郡 において 2001 年から 2010 年に実施したデング熱症例の発生調査をまとめてい る。10 年間で 592,938 症例が報告され、年間平均 66,608 症例、10 万人当り 232 の頻度であった。大半の症例(82%)は 6 月から 12 月の雨季に集中していた。 州別の月別発生頻度(図 B)のピークには若干のズレがあり、ホーチミン市の ピークは各省よりも低かった。 Pathog Glob Health に掲載された 2012 年の「雨季と乾季におけるデング熱 媒介蚊の個体数:アジアの都市部と周辺部における媒介蚊制御との関わり ( Estimating dengue vector abundance in the wet and dry season: implications for targeted vector control in urban and peri-urban Asia)」は貯 水容器の種類別に幼虫と蛹の数を調べ、乾季および雨季の両方において、幼虫 数は蛹や成虫の数と並行しないことを見つけ、全ての貯水槽に対して対策を講 じる必要性を指摘した。 最も多くの蛹があった容器(蛹の総数に占める%、各棒の下の数字は容器の種 類):1:ドラム缶/大型容器、2:セメント容器、3:陶製容器、4:バケツ、7: 陶磁器容器、8:椀、9:花鉢、10:タイヤ、11:ココナッツ殻、12:廃棄容器 (缶、ビンなど)、17:墓の花瓶、18:石の窪み。 -2- 蛹の数が最も多かった貯水容器の種類は国によって違いがあり、インドネ シア(セメント容器が 86.7%)とフィリピン(ドラム缶が 84%)では乾季に 1 種類の容器が大半の蛹を作っていた。乾季において、タイでは陶製容器とバケ ツの 2 種類で 75%の蛹を作っていたが、その他の国は 3 種類以上の容器だった。 雨季においては、スリランカを除いて 3 種類以上の容器で蛹が多かった。 降雨量と報告されたデング症例数の関連性 調査した 6 ヶ国の中で、スリランカは乾季と雨季の影響を受けず通年患者が 発生していたが、その他の国では雨季が始まってからしばらくして患者発生が 増加した。スリランカは他の国々より降雨量が多いため、乾季でも容器に水が 溜まっていたものと思われる。 国によってデング熱の流行時期が異なっていることに注意すべきであり、渡 航先の状況を事前に把握しておくことが必要である。インドネシアはこれから 流行期に入る。 -3-
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