蚊が媒介する病気

蚊が媒介する病気
WHO, Mosquito-borne diseases
(仮訳)鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六
蚊は毎年何百万人もの死を引起している
蚊は世界で最も致命的な動物の一種である。ヒトを死亡させる病気を運び、
広げる能力は、毎年何百万もの死亡を引起している。2015 年には、マラリアだ
けでは、438,000 人の死亡を引き起こした。デング熱の世界的な発生率は過去
30 年間で 30 倍に増加し、より多くの国がこの病気の最初の発生を報告してい
る。ジカ熱、デング熱、チクングニア熱および黄熱の全ては、ネッタイシマカ
(Aedes aegypti)によって人間に伝播される。世界の人口の半分以上は、この
蚊が生息する地域に住んでいる。蚊を制御する持続的な活動が、これらの病気
の発生を防ぐために重要である。蚊にはいくつかの種類があり、多くの異なっ
た病気を運ぶ能力がある。ヤブカ属(Aedes)、イエカ属(Culex)、ハマダラカ
属(Anopheles)の蚊によって伝播される病気を紹介する。
ファクトシート:節足動物媒介性疾患
蚊の制御:ジカ熱を感染源で止められるか? 2016/8/15
ヤブカ属(Aedes):チクングニア熱
リスクがある地域: ネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ
(Aedes albopictus)の雌は、南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアお
よびインドの亜大陸で見つかる。チクングニア熱は、アジア、アフリカ、ヨー
ロッパおよびアメリカの 60 ヶ国以上の国にある。家の近くにある蚊の繁殖場所
は、チクングニア熱の重大なリスク因子である。最近十年間に、これらの蚊は、
ヨーロッパとアメリカ大陸に広がっている。2007 年に、北東イタリアにおける
地域的発生は、その後フランスとクロアチアの流行に繋がった。
伝播: このウイルスは、感染した雌の蚊の吸血によって伝播される。ヤブ
カ属は、夜明けと夕暮れ時に活動のピークがあるが、日照時間中にも吸血する。
両種とも屋外吸血するが、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)は屋内でも吸血す
る。
症状: 症状には、発熱と激しい関節や筋肉の痛み、頭痛、吐き気、倦怠感、
発疹が含まれる。関節痛はしばしば憎悪し、その期間は様々である。チクング
ニア熱は、蚊に刺されてから通常 4~8 日の間に発症するが、2~12 日の間に発
症可能である。症状が軽く、しばしば感染に気付かないか、デング熱が発生し
-1-
ている地域で誤診されることがある。ほとんどの患者は完全に回復するが、一
部の症例では関節痛が続くことがある。稀な例として、胃腸症状とともに、目、
神経、心臓の合併症が報告されている。重篤な合併症は一般的ではないが、高
齢者において長期の関節炎の痛みが続き、死亡することもある。
自分の身を護る: チクングニア熱に対する特別な抗ウイルス薬治療法はな
い。治療は、解熱剤、最適な鎮痛薬および補液を用いた関節の痛みを含む徴候
を楽にすることに主に向けられる。市販のチクングニアワクチンはない。忌避
剤を用いた個人防護、露出した皮膚を覆う着衣、ならびに日中の休息時に網戸
を使う;窓の網戸、自宅や勤務地周辺の蚊の繁殖場所の撤去が助言される。
ヤブカ属(Aedes):ジカ熱
リスクがある地域: ジカウイルス病の発生は、アフリカ、アメリカ大陸、
アジア、太平洋地域で記録されている。雌のネッタイシマカ(Aedes aegypti)
とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)は、130 ヶ国以上で見つかっている。2015
年以来アメリカ大陸でジカ熱の地域的な伝播が急激に増加し、蚊が媒介するジ
カウイルスを 62 の国と地域が報告した。WHO は、2016 年 2 月 1 日に国際的
に懸念される公衆衛生上の非常事態を発表した。
伝播: 蚊はヒトに感染させ、人々は性感染を介してお互いを感染させ得る。
ジカウイルスは、血液、唾液、精液、脊髄液およびその他の体液から検出され
ている。妊娠初期における母子感染も報告されている。ヤブカ属のほとんどは
日中に吸血する。
症状: 症状は通常軽く、軽度の発熱、皮膚の発疹、目の炎症(結膜炎)、筋
肉と関節の痛み、倦怠感や頭痛が含まれる。症状は、通常 2~7 日続く。妊娠中
のジカ感染は、小さな頭およびその他の胎児の脳の奇形を持って生まれた赤ち
ゃん、小頭症を引起す。ジカウイルスは、麻痺と死亡につながる神経学的状態、
ギランバレー症候群の原因でもある。
自分の身を護る: 予防の最高の対策は、蚊に刺されない防護である。忌避
剤を用いた個人防護、露出した皮膚を覆う着衣、ならびに日中の休息時に網戸
を使う;窓の網戸、自宅や勤務地周辺の蚊の繁殖場所の撤去が推奨される。現
在利用できる特定の治療法やワクチンはない。
性感染およびジカウイルス感染と関連する妊娠合併症のリスクを軽減するた
め、発生地域に住んでいる者や発生地域から帰った旅行者は、コンドームの着
用を含め安全なセックスを心掛けなければならない。
ヤブカ属(Aedes):デング熱
リスクがある地域: 女性雌のネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジ
シマカ(Aedes albopictus)は、ラテンアメリカ、米国、ヨーロッパ、アフリカ
およびアジアで見つかっている。デング熱は、熱帯地方全域の農村部と都市部
-2-
において広まっている。最近では、米国フロリダ州、中国雲南省および日本で
症例が報告された。デング熱は、南アメリカ諸国、コスタリカ、ホンジュラス
およびメキシコでも一般的にある。アジアでは、中国、クック諸島、フィジー、
マレーシアおよびバヌアツとともに、シンガポールとラオスが最近の症例増加
を報告している。
伝播: デング熱は、128 ヶ国以上に土着しており、39 億人がリスクに晒さ
れている。ネッタイシマカ(Aedes aegypti)はデング熱の主要な媒介蚊である。
このウイルスは、感染した雌の蚊の吸血を通してヒトに伝播される。ネッタイ
シマカはほとんど昼間に吸血する。
症状: 感染した蚊に刺されてから 4~10 日後にインフルエンザ様な症状が
表れ、激しい頭痛、目の奥の痛み、筋肉や関節の痛み、吐き気、嘔吐、リンパ
腺の腫脹や発疹を伴う高熱が出る。この病気は、一部のアジアと南アメリカの
国の子供達の間で深刻な病気と死亡を引起す重症のデング出血熱に進行する。
重症のデング熱の症状には、体温低下、激しい腹痛、持続的嘔吐、急速な呼吸、
歯茎の出血、消耗、情動不安、嘔吐物中の血液が含まれる。合併症や死亡のリ
スクを避けるために、発症後 24~48 時間以内の治療が不可欠である。
自分の身を護る: デング熱とデング出血熱に対する特別の治療法はない。
早期発見と適切な医療の利用は、致死率を 1%以下に下げる。デング熱ワクチン
は、風土病化している地域に住む 9~45 歳の人々に対して、一部の国の規制当
局によって認可されている。
リスクがある地域:
ヤブカ属(Aedes):黄熱
雌のヤブカ属は、アフリカとラテンアメリカの都市、
ジャングル、森林、湿潤状態、家の周囲で見つかり、黄熱を伝播する。黄熱は、
主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)の吸血を通して伝播される。2016 年 5
月に WHO 緊急事態委員会は、アンゴラとコンゴ民主共和国における黄熱流行
に対して国内活動と国際支援の強化を呼び掛けた。
Haemagogus 属の蚊が中央および南アメリカ、トリニダード、ブラジルおよ
びアルゼンチンで発生し、サルによって運ばれる森林型(ジャングル)黄熱を
伝播する。
伝播: 蚊は、サルを感染させ、その後この病気をサルからヒトへ、ヒトか
らヒトへ伝播する。この蚊は日中にほとんど吸血する。
症状: 3〜6 日後の症状には、発熱、筋肉痛、腰痛、頭痛、震え、食欲喪失、
吐き気や嘔吐が含まれる。約 15%の患者は 24 時間以内により重篤な第 2 相に
入る。この相の症状には、高熱、黄疸、嘔吐と腹痛が含まれる。口、鼻、目や
胃から出血が起き、嘔吐物や糞便に血液が混り、腎臓の機能が低下する。この
重篤な第 2 相に陥った患者の半分は、10~14 日以内に死亡し、残りは重大な臓
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器損傷なしで回復する。
黄熱は診断が難しく、西ウエストナイル熱、ジカ熱、中毒症とともに、重度
のマラリア、デング熱、レプトスピラ症、ウイルス性肝炎またはその他の出血
熱などと混同される。
自分の身を護る: 予防接種は、ヒトに適用できる。黄熱ワクチンの単回投
与は、黄熱に対する持続的な免疫と生涯の防護を提供できる。通常投与量の 5
分の 1 が緊急時に使用される可能性があり、最大 12 ヶ月の防護を付与すること
が判っている。蚊の繁殖場所の除去を含む媒介蚊の制御、忌避剤を用いた個人
防護、皮膚の露出部を覆う着衣、ならびに蚊帳や網戸の使用を推奨する。
イエカ属(Culex):ウエストナイル熱
リスクがある地域: 雌のイエカ属は、温帯地域の極端な北部を除いて、世
界中で見つかる 3 種の最も一般的な蚊の 1 種である。ウエストナイルウイルス
は、アフリカ、ヨーロッパ、中東、北米、西アジアで見つかる。イエカ属は、
日本脳炎も伝播する。
伝播: これらの蚊は、感染した鳥を吸血し、ヒトと馬に病気を伝播する。
吸血は夕暮れから夜明けまで行う。1999 年に、イスラエルとチュニジアで循環
していたウエストナイルウイルスがニューヨークに輸入され、その後数年間で
米国全体に広がる大規模で劇的な流行を引起した。
症状: ウエストナイルウイルスは、致命的な脳神経疾患を引き起こす。感
染者のおよそ 80%は症状を示さないが、感染者の 20%は、3~14 日後に、頭痛、
高熱、首の凝り、人事不省、見当識障害、昏睡、震え、痙攣、筋力低下、麻痺
など重篤な疾患の症状を示すことがある。50 歳以上および免疫不全の人々は、
リスクが最も高い。
自分の身を護る: ヒト用のワクチンは存在しない。推奨される個人的防護
と蚊の制御には、忌避剤、皮膚の露出部を覆う着衣、溜まり水など蚊の繁殖場
所の除去を含む。神経侵襲型のウエストナイルウイルス患者の治療には、入院、
輸液、呼吸補助および二次感染の防止が含まれている。
ハマダラカ属(Anopheles):マラリア
リスクがある地域: 2015 年に、32 億人以上がリスクに晒され、継続的な
マラリア伝播は、95 の国と地域で見つかっている。サハラ砂漠以南のアフリカ
は、全世界の症例の 88%とマラリアによる死亡の 90%を占め、不釣合いに高い
マラリア負荷に苦しんでいる。雌のハマダラカ属(Anopheles)がマラリア原虫
を伝播する;熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)はアフリカで最
も一般的な原虫で、世界のマラリアによるほとんどの死亡原因となっている。
雌のハマダラカ属は、熱帯の農村と都市の状態を好む効率的な媒介蚊である。
三日熱マラリア原虫(P. vivax)を運ぶハマダラカ属は、ほとんどアフリカ以外
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で見つかっている。
伝播: ハマダラカ属は、マラリアの主な媒介蚊である。これらの蚊は、主
に夕暮れから夜明けまでの夜間に吸血する。子供と妊娠中の女性は、マラリア
伝播率の高い国において病気のリスクが高い。
症状: 免疫のない者では、感染した蚊に刺された後 7 日以上(通常は 10~
15 日)して症状が表れる。最初の症状は、発熱、頭痛、悪寒および嘔吐である。
これらの症状は軽く、マラリアとして認識することは困難なことがある。熱帯
熱マラリア原虫(P. falciparum)によるマラリアは、重症化が急速に進み、と
くに免疫がないか低下した者で顕著である。重症の熱帯熱マラリアは、治療し
なければほとんど常に致命的である。早期診断の利用およびマラリアの症状が
表れてから 24〜48 時間内の効果的な治療が不可欠である。幼児、5 歳未満の子
供、妊娠中の女性および HIV/エイズ患者は、免疫のない移住者、移動者や旅行
者とともに、とくに脆弱である。
自分の身を護る: 抗マラリア薬は、マラリア予防にも使用できる。旅行者
は、予防的化学療法を通してマラリアを防ぐことができる。マラリア流行地域
に住む人々は、部分的免疫を獲得し、重篤な疾患のリスクを減らしている。国
の制御プログラムは、蚊を制御する対象地域において、長期間有効な殺虫剤網
および残効性がある噴霧室内の広範な利用を支援している。妊娠中の女性と乳
児用に対する間欠的な予防治療も推奨される。個人と家庭の保護には、忌避剤、
皮膚の露出部を覆う着衣、網戸などが含まれる。
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ファクトシート:節足動物媒介性疾患の概要
Fact Sheet: Vector-borne diseases
WHO, February 2016
鍵となる事実
● 節足動物媒介性疾患は、全ての感染症の 17%を占め、100 万人以上の死亡
を毎年引き起こしている。
● デング熱だけでも、100 ヶ国以上において 25 億人以上が感染のリスクに
晒されている。
● マラリアは、毎年世界で 600 000 人以上の死亡を引き起こしており、その
ほとんどは 5 歳未満の子供達である。
● シャーガス病、リーシュマニア症、住血吸虫症などその他の病気は、世界
で 1 億人もの人々に感染している。
● これらの疾患の多くは、予防措置の周知を通して防ぐことができる。
-5-
主な媒介動物とそれらが伝播する病気
媒介動物は、ヒトの間あるいは動物からヒトへ感染症を伝播することがで
きる生物である。これらの媒介動物の多くは、吸血する節足動物であり、感染
した宿主(ヒトや動物)からの吸血中に病気を起こす微生物を摂取し、その後
の吸血中に新たな宿主にその微生物を注入する。
蚊は、最もよく知られた媒介動物である。その他に、ダニ、ハエ、サシチ
ョウバエ、ノミ、サシガメおよびいくつかの淡水巻貝が媒介動物に含まれる。
媒介動物
種類
媒介する病気
ヤブカ属(Aedes)
蚊
ハマダラカ属(Anopheles)
イエカ属(Culex)
サシチョウバエ
チクングニア熱、デング熱、
リフトバレー熱、黄熱、ジカ熱
マラリア
日本脳炎、リンパ性糸状虫症、ウエストナ
イル熱
リーシュマニア症、サシチョウバエ熱
クリミアコンゴ出血熱、ライム病、回帰熱、
ダニ
Q 熱、ダニ脳炎、野兎病
サシガメ
シャーガス病
ツェツェバエ
アフリカトリパノソーマ症
ノミ
ペスト、リケッチア症
ブユ
オンコセルカ症
淡水巻貝
住血吸虫症
節足動物媒介性疾患
節足動物媒介性疾患は、ヒト集団における病原体や寄生虫によって引き起
こされる病気である。マラリア、デング熱、住血吸虫症、アフリカトリパノソ
ーマ症、リーシュマニア症、シャーガス病、黄熱病、日本脳炎およびオンコセ
ルカ症などの節足動物が媒介する病気によって、世界で毎年 10 億以上の症例が
発生し、100 万人以上が死亡している。
節足動物媒介性疾患は、全ての感染症 17%以上を占めている。これらの病
気の分布は、複雑な変化する環境と社会的要因によって決定される。
旅行と貿易の国際化、無計画な都市化および気候変動などの環境問題は、
近年、病気の伝播に大きな影響を及ぼしている。デング熱、チクングニア熱、
ウエストナイル熱などのいくつかの病気は、これまで知られていなかった国で
発生している。
気温と降水量の変動による農業慣行の変化は、節足動物媒介性疾患の伝播
-6-
に影響し得る。気候情報は、マラリアおよびその他の気候に敏感な病気を監視
し、その分布と長期的な動向を予測するために使用できる。
WHO の対応
WHO は、以下のように節足動物媒介性疾患と対応している。
● 媒介節足動物を制御し、人々を感染から護るための最良の証拠を提供す
る。
● 症例と発流行を効果的に管理できるように、各国に技術的な支援と指導
を行う。
● 国の報告システムを改善し、病気の本当の負荷を把握するため各国を支
援する。
● 全世界の協力センターと一緒に、臨床管理、診断および節足動物の制御
に関する訓練を行う;たとえば殺虫剤製品と散布技術など、節足動物と
戦い、病気に対処するための新しい手法を開発する。
節足動物媒介性疾患における決定的要素は、行動の変化である。WHO は協
力機関と連携して、蚊、ダニ、昆虫、ハエやその他の節足動物から自分自身と
地域社会を護る方法について人々が知ることができるように、教育を提供し、
人々の意識を向上させる。
シャーガス病、マラリア、住血吸虫症、リーシュマニア症など多くの病気
に対して、WHO は寄付された資金や薬剤を使って制御プログラムに着手してい
る。
水と消毒の利用は、病気の制御と撲滅において重要な要因である。WHO は、
これらの病気を制御するための多くの様々な政府当局と一緒に活動している。
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蚊の制御:ジカ熱を感染源で止められるか?
Mosquito control: can it stop Zika at source?
WHO, 17 February 2016
ネッタイシマカ(Aedes aegypti)は、ジカ熱、デング熱、チクングニヤ熱を
伝播する主な蚊の種類であり、制御を非常に困難にする行動の癖がある。この
文書は、制御のための従来の技術と新しい技術を概観し、WHO の手引きを要約
する。
妊娠中に蚊に刺された可能性が新生児の重篤な先天性欠損症に関連すること
は、大衆に警告を発し、科学者を驚愕させている。小頭症症例急増の発見は、
ウイルスが循環した時間と場所と関連しており、胎児、死産および新生児に超
-7-
音波によって検出される脳のその他の先天性奇形および視力と聴覚の損傷の証
拠の知見と並行している。発生国に住んでいるまたは訪問する妊娠可能な年齢
の女性にとって、そのような深刻な欠陥を持つ赤ちゃんを出産する予測は恐ろ
しい。
ウイルス循環とギランバレー症候群(GBS)発見の増加との関連性は、懸念
を追加した。GBS は、最も一般的カンピロバクターをはじめ一部のウイルスや
細菌の感染症を含む様々な原因による自己免疫疾患である。これまでに、ジカ
ウイルス循環とギランバレー症候群の発生率の増加との間の関連性は 8 ヶ国で
報告されている;フランス領ポリネシア、ブラジル、エルサルバドル、フラン
ス領のマルティニーク島、コロンビア、スリナム、ベネズエラ、ホンジュラス。
これらの国のいくつかにおいて、ジカが循環している唯一のフラビウイルスで
あるという事実は、この関連性の推定を重くしている。高度の保健システムを
有する国でさえ、この症候群患者の約 5%が、免疫療法にもかかわらず死亡して
いる。多くの者は、数ヶ月から 1 年の集中治療室での人工呼吸を含む治療をし
ばしば必要とし、保健サービスへの負担を追加する。
これらの推定される関連性が確認された場合、ジカ発生を最近検出した 30 ヶ
国以上における人々と社会の帰結は、驚異的なものとなるだろう。
一部の太平洋島嶼国で、最初は 2007 年に、2013 年~2014 年に再び発生し、
その後アメリカ大陸に広がった大流行において、ジカウイルスはデング熱とチ
クングニア熱のウイルスとしばしば一緒に循環した。これらのウイルスは診断
検査で交差反応し、検査結果を信頼できなくするので、検査方法の改善を最も
必要な新しい医療手段のリストの上部に押し上げた。さらに、現在使用可能な
PCR テストは、ウイルスが増殖している期間中のみでしか感染を検出できず、
感染の 80%には症状がないという事実によって、その弱点はさらに度を増す。
ただし、少なくとも 15 のグループがジカワクチンの開発を手掛けており、ワク
チンが大規模試験で検査できるまでに少なくとも 18 ヶ月を要すると WHO は推
定している。
これらのすべての理由から、WHO は、当面の防御の最善策として、蚊の制
御のための個人および集団規模の対策強化を勧告している。
ネッタイシマカ:「日和見主義」的で粘り強い脅威
ネッタイシマカは、ジカ熱、デング熱、チクングニア熱および黄熱をヒトに
伝播する主要な蚊である。世界の人口の半分以上は、この蚊が生息する地域に
住んでいる。
ネッタイシマカは、変化する環境、とりわけ、人類が地球上で生活する方法
の変化によって作り出された環境に適応する驚くべき能力を示すことから、専
-8-
門家はネッタイシマカを「日和見主義」と説明している。長年にわたって、ネ
ッタイシマカはそれらの機会を利用してきており、それには、国際的な旅行と
貿易の驚異的な増加および急速な無計画な都市化をきわめて効率的に利用して
いることが含まれる。最も不吉なことは、森における木の穴や植物の葉に溜ま
った水で内外間繁殖してきたネッタイシマカが、都市部での繁殖に適応し、水
道がなく、生ゴミやその他のゴミがほとんど収集されない貧困な人口密集地域
で繁殖していることである。
これらの適応は、ネッタイシマカを「容器内繁殖」種として区分する。屋外
の繁殖場所として好ましく、雨水が溜まるか水が貯留するどこでもこの蚊は繁
殖することができる。廃棄されたプラスチックのコップとペットボトルのキャ
ップ、鉢植えの下皿、水盤、墓地の花瓶、ペット用飲水容器などの人工の容器
に幼虫は見つかる。この蚊は、下水処理槽、トイレのタンク、シャワー区画の
微生物で汚染した場所でも繁殖できる。建設現場、古タイヤ、側溝の水溜りは、
大量に繁殖する機会を提供する。
産み落とされた卵は、乾燥状態できわめて長期間生き残ることができ、しば
しば 1 年以上生残する。卵が一旦水に沈むと、直ぐに孵化する。気温が低いと、
水の供給が十分な限り数ヶ月間は幼虫の段階に留まることができる。卵は粘着
性があり、実際に容器の内面に接着する。古タイヤの国際取引は、遠い場所に
蚊を運ぶ最高の乗り物である。
雌の蚊:積極的な吸血と「奇襲」
ネッタイシマカは、昼間に積極的に吸血する蚊である。雌だけが吸血する。
吸血は夜明けと夕暮れの時間帯が最も盛んである。屋内では、家庭の照明が明
るければ夜でもこの蚊は吸血する。ベッドの下やクローゼットに隠れるのが得
意である。成熟した蚊の雄雌とも花の蜜や果実など甘いものを餌にするが、雌
は卵を産むために血液中のタンパク質を必要としている。
長年にわたって、雌は際立った好みを示すように進化している:他の哺乳類
よりも人間の血液を好む、日陰の休憩場所を好む、新鮮な水よりも淀んだ水を
好む、産卵に最適な場所として小さな人工容器を好む、この最後の好みは明る
い色よりも黒ずんだ色の容器を好む。雌はしばしば「奇襲攻撃」を行い、犠牲
者に後ろから近づき、足首と肘を刺すが、それは気付かれて叩かれるのを防ぐ
ためと思われる。
メスネッタイシマカの雌は、いわゆる「つまみ食い」をする。1 回で十分な
血液を飲み込むことはなく、少量ずつ複数回に分けて吸血するので、1 匹の蚊が
ウイルスを運んで感染させる人数が増えることになる。
-9-
吸血後、雌は平均 100 から 200 個の卵を産むが、それは吸血した量に依存し
ている。別の種類の蚊とは異なって、ネッタイシマカの雌は一生の間に最大 5
回卵を産む。別の生き残り戦術として、1 匹の雌は異なる数ヶ所で産卵する。
これらの全ての機能は、ネッタイシマカ集団の制御を非常に困難にしている。
そして、彼らが広げる病気をはるかに大きな脅威としている。
蚊の制御対策の盛衰
1940 年代における残効性殺虫剤の発見と効果的な使用後、大規模かつ組織的
な制御プログラムは、世界の多くの地域で蚊が媒介する重要な疾患のほとんど
を制御することに成功した。ネッタイシマカは、アメリカ大陸から事実上排除
された。1960 年代後半までに、蚊が媒介する疾患のほとんどは、アフリカ以外
では、もはや主要な公衆衛生問題と見做されなくなった。
公衆衛生において健康の脅威が治まる事態が頻繁に起きたので、蚊の制御プ
ログラムは消滅した。資源割当が減少し、制御プログラムが崩壊し、社会的基
盤が解体し、ならびに専門家の訓練と配置が少なくなった。蚊および蚊が伝播
する病気は、復讐を込めて戻って来た。制御対策がほとんどない状態の環境に
彼らは戻って来た。関心が薄れ専門知識が少なくなったほぼ 20 年間は、蚊の制
御プログラムを実施するための国家の能力を深刻に弱体化した。以前成功した
制御プログラムは、緊急時の後手後手の殺虫剤空間散布、高い透明性と政治的
訴えはあるが別の制御戦略と統合しない限り効果が低い措置に置き換えられた。
制御能力の弱体化や喪失は、人口増加の加速、急速な無計画の都市化、土地
利用パターンの変化と並行し、それらはネッタイシマカ集団を繁栄させるより
快適な環境を作った。さらに、効果的な殺虫剤の在庫は、蚊が抵抗性を持った
ので効果が減った。
この劇的な復帰の結果は、デング熱の最近の歴史によって最も良く説明され
る。50 年前の状況と比較して、デング熱の世界的な発生率は 30 倍に高まって
いる。より多くの国が初めての発生を報告している。社会を深刻に破壊し、経
済を衰退させる方法でさらなる発生が広がっている。デング熱の発生の継続的
増加は一部の専門家の疑問を強めている;デング熱のようなよく知られている
病気の破壊的で繰り返される流行に対して国が自らを護れないとすれば、蚊の
制御がジカ熱を止めるのに役立つという説にどのような希望があるのか?
訳注:有機塩素系殺虫剤
DDT は環境での分解が遅く、効果が長年続く優れた特性を持っ
ていた。安価であったことから、伝染病を運ぶ蚊および農作物の害虫の駆除に広範に使用
され、その功績の大きさから開発者はノーベル賞を受賞した。
他方、難分解性であることから生物学的濃縮によって高等動物に蓄積して生息を脅かし、
母乳中からも検出されたことから「沈黙の春」など有害説が噴出した。これによって先進
- 10 -
国は DDT を禁止するようになったが、熱帯地方では媒介蚊が再び増加し、伝染病罹患者数
も元に戻ってしまった。
有効性と有害性のリスク解析が不十分なまま法的規制が行われたことに対し、WHO は
伝染病制御の観点から、FAO は食糧難解消のため DDT の使用を働きかけてきた(たとえ
ば、バッタの大量発生による農作物の枯渇に対する DDT 空中散布)。
こうした中で害虫が抵抗性を持つようになった。
参考:ウィキペディア、デング熱-衛生昆虫学の立場から、The use of DDT in malaria
vector control. WHO position statement、FAO DDT、
WHO の助言:蚊の制御に対する従来の方法と新しい方法
WHO は、ジカウイルス病への対応の一部として蚊の制御に関する助言を発
表している。前述のように、適切に実施された蚊の制御は、ジカ熱を含め、蚊
が媒介するウイルスの伝播を効果的に減らす。ただし、蚊の制御は複雑かつ費
用が掛かり、殺虫剤抵抗性の広がりによって効き目が悪くなっている。サハラ
以南アフリカ以外のごく一部の開発途上国は、蚊の制御のため十分に資金提供
を受けたプログラムを実施している。さらに、いくつかの制御措置は、国民に
よって容易には受け入れられていない。
蚊の全ての発育段階と取り組み、地域社会全体が参加するため、包括的な取
組み方を推奨する。成虫を殺すための薬剤噴霧は政府が活動している最も目に
見える証拠を提供するけれども、蚊の繁殖場所の除去が最も効果的な介入策で
あることを WHO は強調する。薬剤噴霧は、緊急事態のみに推奨され、蚊の活
動が最も激しい夜明けと夕暮れの時間帯に実施すると最も効果的である。妊娠
中に使用しても安全な忌避剤を含め、蚊に刺されるのを防ぐ個人防護措置も佩
用する。
デング熱とジカ熱の危機的状況の深刻さとより広範な制御技術の必要性を前
提として、WHO 媒介節足動物制御諮問グループは、WHO の検討のため遺伝子
が組換えられた表現型の蚊を含め、いくつかの新しい手法を評価している。遺
伝子が組換えられた蚊について、WHO 諮問グループはこの新しい手法の病気の
伝播への影響を評価するためさらなる野外試験とリスク査定を進言した。ケイ
マン諸島で以前に実施された試験は、ネッタイシマカ集団の大幅な減少を示し
た。
開発中の別の技術には、低線量放射線によって去勢された雄を大量に放つ方
法がある。去勢された雄と交尾した雌の卵は死滅し、昆虫集団はいなくなる。
去勢昆虫技術は、農学における重要な害虫を制御するため、国際原子力機関と
FAO によって大規模に利用され、成功を収めている。
有望な生物学的制御法は、蝶やショウジョウバエなどを含む一般的な昆虫の
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60%に見つかる天然の細菌 ボルバキア(Wolbachia spp.)を運ぶ雄の蚊を使用
する。この細菌は、ヒトやその他の哺乳動物には感染しない。雌がこの細菌を
運ぶ雄と交尾すると、卵は孵化せず、蚊の個体数を抑制する。調査中のボルバ
キアの別の株は、蚊の集団に定着して、デング熱を伝播する蚊の能力を弱める。
この技術は遺伝子組み換えを用いないので、蚊は遺伝学的に変更されない。ボ
ルバキア菌を運ぶ蚊は、デング熱の制御戦略の一環として、オーストラリア、
ブラジル、インドネシアおよびベトナムを含む複数の場所で放たれている。ボ
ルバキア菌の大規模な野外ド試験がまもなく開始される
ジカウイルスに侵襲されたいくつかの国は、蚊の制御のため統合的な取組み
方の一部として生物学的方法を使用している。たとえば、エルサルバドルは漁
村の強い支持を受けて、貯水容器に蚊の幼虫を食べる魚を放している。
最も身近な防御法として現在の蚊の制御介入策の使用を強化し、将来的に適
用できる新しい取組み方を慎重に試験することを、WHO は発生国と協力者に奨
励する。
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