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社会サービスの民営化(3)
近くて遠い国 韓国のPPP
Principal Research Engineer
志賀 光洋
隣国の韓国では、
PPP・PFIによるインフラ開発が盛んに行われていますが、
その背景や、わが国との制度設計や事業スキームの相違などについて整理します。
1 背景
PIMACの役割の中で最も重視されているのが導入可能性
韓国では1994年にインフラ民間投資法(PPI法)が施
行され、PPP/ PFI 制度がPPI(Private Participation in
Infrastructure)
という概念でとらえられています。
当初はBTO方式のみで、高速道路、鉄道、港湾等を対象
に、利用者からの利用料で事業費を賄うものであり、民間
調査(Preliminary FS = PFS)
であり、97、98年の経済危機
により限られた財源で効果的な投資をする必要に迫られ
たことに起因します。政府の財政投資についての評価制度
が成果を上げ、PPI についても同様にPFSなどの評価を
実施するようになっており、一定額を超える事業に対して
は、PIMACによる評価を受けることが制度化されています。
やがて、通貨危機後の1998年に同法が改正され、民間
②事業支援内容
投資を活発化するため、BTO方式の収益の一定部分を
政府が保障する制度等が導入され、2005年には学校等
の社会インフラ整備にPPIスキームの導入促進をはかる
ため、
日本のサービス購入型とほぼ同一のスキームである
BTL(Build, Transfer and Lease)方式が導入されました。
BTL方式の場合、民間事業者は需要リスクを負担しない
こととなります。また、BTO、BTLともにアセットの所有権
は公共側にあり、所有権を公共に渡して運営を民間が
実施するのがBTO、アセットを民間へリースするのがBTL
で、通常BTOは独立採算型、BTLはサービス購入型と
なります。
PPI法の対象は限定列挙された44の対象施設に限ら
れており、事業の実施手続きとしては、日本と同様に政府
が事業を告示し、民間事業者から提案を募集する政府告
示事業と民間事業者が特定の事業を発案する民間提案
事業との二つの方式があります。
府の政策の方向性との整合性確認、3)地域の均等発展
への貢献の3つの軸で評価が行われています。
ちなみに、
この3つの評価軸は財政投資だけではなく、全ての投資
に共通の基準とされています。
さらに、PPIについては、当
該事業が公共投資または民間投資のどちらが妥当なの
かについても評価することとなります。
また、韓国の公務員組織は日本と同様に2、3年で異動
してしまい、職員の専門性が乏しくなるため、教育支援も
行っており、支援要請があれば民間に対して行う場合も
あるようです。
③事業タイプと役割
韓国にはPPI法に則ったものと、そうでないものという
2つのタイプのPPIがあります。例えば、仁川国際空港とソ
ウル駅間の連絡鉄道はPPI法に則った事業で、ソウル駅
の新駅舎建設はPPI法に則ったものではありません。
また、事業の規模によって、PIMACの立ち位置が変わり
2 制度設計の相違点
∼中央政府の主導:KDI - PIMACの存在∼
ます。小規模プロジェクトはアドバイザリー・サポートを
KDI(Korea Development Institute)は、1971年に韓
国で最初に設立された社会科学分野の総合政策研究所
で、
このKDIの中に設置されているPIMAC(Public and
Private Infrastructure Investment Management
Center)が、PPP・PFIを含む公共投資事業に関する多様
な支援業務および政策サービスなどを行っています。
①概要
行い、大規模プロジェクトではPIMACの許可なしには事業
を推進できないこととなっています。
さらにもっと大規模な
プロジェクトでは企画財政部長官※2)が入ったプロジェクト
チームで評価を行い、RFP(Request For Proposal)
を主務
官庁が作成し、PIMACがチェックを行って企画財政部※2)
に送り、最終的には企画財政部長官の許可が必要となり
ます。
PIMACが評価した結果、事業がうまくいかないと判断
PIMACの主なタスクは、
した場合には、企画財政部に紛争調整委員会を設置して
①政府の財政投資に対する評価
意見調整を行いますが、場合によっては裁判を行うケース
②PPIに対する評価
③各公共機関が行う事業の評価
事業支援として行うPFSでは、1)費用便益分析、2)政
も見られます。
KDI
例えばソウル市地下鉄9号線のように、海外の投資銀行
をはじめとした所轄官庁等が
が買い戻したケースや、
ワールドカップの開催に必要とい
個別に事業評価を行っていましたが、効率が悪いため
うことで整備した仁川国際空港についてもIRR20%では
の3つです。
従来は、国土交通部
※1)
2005年に機能を統合してP IMACが誕生しています。
が不当利潤を得ているのではないかと批判があり、公共
かりすぎという指摘があり、調整・仲裁に入っています。
社会サービスの民営化
事業者が需要リスクを負担するものでした。
(3)
④制約の緩和
の流れの根底にあると言えます。その点については韓国
日本では道路法、河川法のような法律が個別のインフラ
も日本と同様に公務員はゼネラリストを育成する組織で
に存在し、その下にPFI法が位置する関係となっています。
あり、異動も激しく専門性が育たないのが実情のようで、
そのため、例えば、道路や河川の区域内で民間が収益事
そ の た め 民 間と 交 渉 する 代 替 組 織として の 役 割 を
業を行うことができないというような制約があります。
PIMACが果たしているようです。
一方、韓国では各インフラを所管する法律の上位に
③財政状況
PP I 法が位置しており、両方の法律が衝突した場合は
PPI法が優先されます。PPIの事業推進に必要と認められ
た場合には、各インフラの所管法による制約を緩和するよ
うにPIMACが勧告することができます。
良い状況では無いようです。そのため、PPI事業は国と同
じぐらいの数を自治体もやっていますが、規模が小さい
ため金額ベースで全体の3割程度となっています。
3 PPP/ PFI市場の相違点
このように、
日本では国・地方の案件を含めて、民間コン
サルタントが行政側の事業支援を行っていますが、韓国で
社会
会サ
サー
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ビス
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の民
民営
営化
化
社
(3)
韓国も日本と同様に地方自治体の財政状況は決して
はPPI法適用案件の事業支援はPIMACが行いPPI法適用
以外の支援を民間コンサルタントが請け負っています。
さらに、事業運営フェーズにおいて、英国などではイン
フラの運営を行う民間のサービスプロバイダーが発展し
ていますが、韓国ではO&Mだけを受託する企業はある
ものの、それほど多くは無いのが現状のようです。
一方、PPI事業への投資については、海外からのインフ
ラ投資も積極的に受け入れており、数多くの国とFTAを
締結しているため外資規制などはありません。
5 PFIに見る日韓の違い
韓国では企画財政部主導で行政機関の一部である
P I M AC がアドバイザーとして、い わばトップダウンで
PPP/ PFI を推進しているのに対して、日本では国土交通
省 や 地 方 公 共 団 体 などの 所 轄 官 庁 が 事 業を推 進し、
PIMACのような支援機能を民間コンサルタントが行って
いる点などの相違があります。
この背景には、PPP/ PFI のスキームが考案された時期
とインフラ需要の時期の違いがあると言えます。例えば、
韓国では1990年から1995年に自動車登録台数が3倍に
増加したのに対して、道路延長は1.3倍の伸びにとどまっ
ていたなど、90年代はインフラの需要が高く、それに伴う
投資が必要な時期でしたが、97年の経済危機で十分な公
4 現在の進展状況
共投資ができなかったため、外資を含めた民間資金の活
①PPP/PFIに対する世論
韓国の世論は民営化にかなり否定的なものが多いよ
うです。KTX(韓国高速鉄道)
も民営化を試みたものの、
運賃の高騰を懸念する世論により挫折しています。
また、
先述のとおり仁川国際空港に
用が進展するとともに、独立採算型の事業が多いです。
また、そのような国の成長と経済状況もさることながら
両国の組織・文化の相違として、大統領制に代表されるよ
うなトップダウンによる組織運営が根強い韓国と、議員内
閣制を採用する合議制の日本といった縮図が、PPP/PFIの
ついても年間500億円の黒字
制度ひとつを見ても違いが現れていると言えます。
が出ているのに、なぜ民営化
それぞれの仕組みに長所があり、一概にどちらが良いと
する必要があるのかというよう
いうような比較はここではあまり意味がありませんが、
日本
な論調のようです。
一方、道路については、従来
仁川国際空港
は民設の方がコストが高い傾向にありましたが、最近は建
における社会資本整備において、
さらなる最適化を目指す
上では韓国から取入れる要素は多くあるかもしれません。
設時の国の補助金投入による償還コストの圧縮や低金利
韓国
により、官設との差が縮小してきているようです。
さらに、配
当・利回りだけで利潤をあげるのは難しいので、建設工事
法制度
各インフラの個別法の上位に
PPI法が位置する
(PPI法が優先される)
事業判断
企画財政部主導
PIMAC
アドバイザー
PIMAC
(小規模:民間コンサル)
民間コンサル
タイミング
インフラ需要&財政難
インフラ需要⇒ピーク後に財政難
組織・文化
トップダウンによる判断
個別主体による判断
の受託をインセンティブにゼネコンが受注し、その後、
リ
ファイナンスして銀行等が入るケースが多いようです。
韓国国内の銀行はインフラ投資やプロジェクトファイ
ナンスなどの経験が無かったため、外資の参入が多かっ
たものの最近では参入しつつあるようです。
②官民能力相違に対する意識
日本では公共よりも民間の方が運営能力やコスト削減
能力などのいわゆる「経営能力」が高いことが、民営化へ
日本
各インフラの個別法の下位に
PFI法が位置する
各管理者
(国土交通省・地方公共団体等)
※1)
国土交通部 :日本の国土交通省に担当する機関
※2)
企画財政部 :日本の財務省に担当する機関
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