人文学、社会科学研究支援の意味第一部連邦政府

人文学、社会科学研究支援の意味
第一部連邦政府による資金配分1
米国における学術研究活動は、連邦政府資金の他、大学等機関自身の資金（基金収入や授業料等の収
入など）
、そして、州および地方政府、企業、慈善団体等、多様な資金により行われているが、本稿にお
いては人文学および社会科学についての資金配分に関する情報を取りまとめた。
一般に米国においては、社会科学は科学の一つの区分として位置づけられているが、人文学は、芸術
等と同様に科学とは別の範疇に括られることが多い。連邦政府による研究支援においては、社会科学は
国立科学財団（NSF）の社会、行動および経済科学局（Directorate for Social, Behavioral & Economic
Sciences）を中心として支援が行われているのに対し、人文学は国立人文学基金（National Endowment
for the Humanities: NEH）等の機関により行われている。また、社会科学の対象に心理学、法学、教育
学などを含めるかといった点においても他国とは異なる扱いが見られる。
このため、米国における人文学、社会科学研究に関する研究資金等の統計は他国の統計とは整合性に
欠ける面があるが、本稿においては NSF の国立科学工学センターの統計に加え、米国芸術科学アカデミ
ー（American Academy of Arts and Sciences）の人文学指標（Humanities Indicators）プロジェクト
による連邦政府資金配分の情報を掲載したうえで、連邦政府機関（NSF、NEH 等）による研究支援につ
いて記した。
１．人文学、社会科学への資金配分額
１－１．国立科学財団国立科学工学統計センターによる研究開発支出額
国立科学財団（NSF）の国立科学財団国立科学工学統計センター（National Center for Science and
Engineering Statistics: NCSES）は、米国の科学工学研究活動全般についてのデータを収集しているが、
以下の表はその一つの高等教育研究開発調査（Higher Education Research and Development Survey）
の高等教育機関の研究開発資金源のうち、人文学、社会科学に関する額を抜き出したものである2。
（単位：1,000 ドル）
研究開発
支出総額
（参考）研究開発総額
連邦政府
州および地
方政府
研究機関
の資金
ビジネス
非営利機
関
その他
67,154,642
37,922,314
3,869,376
15,753,517
3,724,971
3,979,951
1,904,513
心理学
1,140,755
751,215
38,401
253,493
15,490
67,447
14,709
社会科学
科学
2,210,253
919,994
173,078
760,150
44,713
247,427
64,891
経済学（社会科学の内数）
428,736
138,734
53,239
162,819
10,531
47,968
15,445
政治科学（社会科学の内数）
425,716
145,686
23,309
162,169
9,582
65,019
19,951
社会学（社会科学の内数）
503,889
252,000
25,018
146,955
9,383
61,261
9,272
その他の社会科学
851,912
383,574
71,512
288,207
15,217
73,179
20,223
2015 年 12 月 13 日米国の科学政策ホームページ掲載
Higher Education Research and Development Survey Fiscal Year 2014
http://ncsesdata.nsf.gov/herd/2014/
1
2
1
研究開発
支出総額
連邦政府
州および地
方政府
研究機関
の資金
ビジネス
非営利機
関
その他
科学工学以外
ビジネスおよびマネジメント
483,013
77,536
37,809
280,460
41,881
25,262
20,065
コミュニケーション、ジャーナリ
ズム、図書館科学
166,904
54,407
10,790
74,362
3,482
21,275
2,588
教育学
1,242,490
661,057
85,237
329,163
21,329
125,737
19,967
人文学
399,310
75,507
11,290
244,827
3,009
48,791
15,886
法学
148,440
23,949
11,557
75,268
3,990
26,463
7,213
社会活動
224,582
106,306
28,038
59,082
1,858
24,606
4,692
95,775
9,106
5,082
72,244
1,972
5,750
1,621
6,111,522
2,679,077
401,282
2,149,049
137,724
592,758
151,632
視覚芸術および舞台芸術
合計
出典： NSF, National Center for Science and Engineering Statistics, Higher Education Research and Development Survey, FY 2014.
以下の表は上記の資金源のうち、連邦政府の額について、省・機関別の額を転記したものである。国
立人文学基金（NEH）など研究開発総額の規模が比較的小さい機関はその他として集計されている。
（単位：1,000 ドル）
支出額計
研究開発支出総額（参考）
国防省
エネルギ
ー省
健康福祉
省
航空宇宙
局
国立科学
財団
1,803,449
20,277,673
1,326,468
5,125,870
37,922,314
4,922,036
心理学
751,215
48,547
341
502,024
18,622
社会科学
919,994
97,776
8,385
315,667
16,970
経済学（社会科学の内数）
138,734
9,799
2,875
39,335
166
政治科学（社会科学の内数）
145,686
20,003
1,642
38,729
社会学（社会科学の内数）
252,000
10,293
1,574
その他の社会科学
383,574
57,681
2,294
ビジネスおよびマネジメント
77,536
20,932
1,386
コミュニケーション、ジャーナリ
ズム、図書館科学
54,407
3,132
65
教育学
661,057
8,699
935
人文学
75,507
4,500
1,031
農務省
その他
1,059,350
3,407,468
71,740
5,198
104,743
132,946
60,053
288,197
24,104
31,253
31,202
278
20,614
3,996
60,424
107,818
295
41,520
11,113
79,387
129,785
16,231
46,708
13,691
117,184
4,030
62
13,400
1,445
36,281
17,705
147
9,607
764
22,987
62,066
3,890
163,332
3,082
419,053
11,112
302
18,410
52
40,100
科学
科学工学以外
法学
社会活動
視覚芸術および舞台芸術
合計
23,949
1,129
81
4,425
220
1,575
209
16,310
106,306
1,594
0
92,456
141
421
973
10,721
9,106
274
1,120
1,025
0
2,466
165
4,056
2,679,077
186,583
13,344
1,010,510
40,354
413,897
71,941
942,448
出典： NSF, National Center for Science and Engineering Statistics, Higher Education Research and Development Survey, FY 2014.
１－２．
「人文学指標（Humanities Indicators）
」
米国芸術科学アカデミー（American Academy of Arts and Sciences）は、人文学指標（Humanities
Indicators）プロジェクトを実施し、収集した情報をウェブ上あるいは報告書により公表している3。
American Academy of Arts and Sciences, Humanities Indicators
http://humanitiesindicators.org/default.aspx
3
2
「人文学指標」においては、
「国立人文学基金を超えて：人文学研究活動に対する他の政府機関の支援
（Beyond NEH: Other Federal Support for Humanities Activities）」においては、NEH 以外の連邦政
府機関による人文学研究支援の動向について以下のとおりまとめている。
・インフレ調整後の連邦政府の人文学研究への支援額は 2008 年の 13 億ドルから 2015 年には 12 億ドル
へと減少した。
・教育省予算については 2008 年から 2015 年の間に米国史教育プログラム（Teaching American History
Program）
、Javits フェローシッププログラムに加え、外国語、地域研究、国際事業において大きな削減
があった。
・国立公園局（National Park Service）による歴史および歴史的な対象の保存プログラムへの支援は、
2008 年から 2015 年の間に 19%減少した。
・2013 年の強制歳出停止において、国務省はロシア、ユーラシア、東欧を対象としたタイトル VIII 基
金を中断させた。
・国立公園局や博物館図書館業務機構（Institute of Museum Library Services）といった連邦政府の省・
機関の一般的な事業の中には、計上することが困難であるが、人文学研究活動への支援が含まれている。
・人文学研究において重要であるが、その業務が人文学を超えている連邦政府機関の予算に関しては、
議会図書館は 2008 年から 2015 年の間に 4%の減となっているが、スミソニアン研究所においては同じ
期間に 9%の増となっている。
同指標においては、連邦政府の人文学予算として以下の額が示されている4。なお、各機関の予算項目
の一部については、人文学研究のための支出を切り分けることができないため総額が記されているもの
がある。下表においては、切り分けることができない予算も含めた各機関の額を予算額の欄に記し、備
考として切り分けることのできない予算項目の額を記した。切り分けることのできない予算項目の額が
大きく、この表の予算額をもって米国の連邦政府による人文学研究支援総額とすることは適当でない。
個々の予算項目の額については当該ウェブサイトを参照されたい。
（2015 年度歳出予算、単位 100 万ドル）
機関名
予算額
国立人文学基金（National Endowment for the Humanities (NEH)）
教育省（Department of Education）
内務省（Department of Interior）
国務省（Department of State）
美術館・博物館および図書館業務機構（Institute of Museum & Library Services）
国立公文書館（National Archives and Records Administration (NARA)）
国立図書館・情報科学委員会（National Commission on Libraries & Information Science）
国立芸術基金（National Endowment for the Arts)
国立科学財団（National Science Foundation）
スミソニアン研究所（The Smithsonian Institutione）
米国平和研究所（United States Institute of Peace）
ウッドローウィルソン国際学術センター（Woodrow Wilson International Center for Scholars）
議会図書館（Library of Congress (LOC)）
146.02
169.24
2,614.79
658.98
212.86
381.73
0.00
146.00
1,138.20
675.34
35.30
10.50
413.01
備考（予算額のうち、人
文学研究への支出を切
り分けて計上できない
予算項目の額）
97.08
2,538.06
211.04
381.73
146.00
1,135.20
523.34
405.01
American Academy of Arts and Sciences, Humanities Indicators, Humanities Funding and
Research http://www.humanitiesindicators.org/content/indicatordoc.aspx?i=11
4
3
２．連邦政府機関による資金配分の目的や手法
以下においては、国立人文学基金、国立科学財団社会・行動及び経済科学局、そして国立保健研究所
（NIH）の社会科学部門の事業の概略を記す。他の連邦政府機関も人文学、社会科学研究に対する支援
を行っているが、独立した部署やプログラムの設定がないため本稿において取りまとめてはいない。
２－１．国立人文学基金
国立人文学基金（National Endowment for the Humanities: NEH）は、1965 年に設置された独立連
邦政府機関として、人文学の卓越性を促進させ、全ての米国人に歴史の教訓を伝えることを目的とし、
独立パネルと外部レビュアーによる最高水準の提案に対し、グラントの配分を行っている。NEH のグラ
ントは通常、美術館・博物館、図書館、大学、公共放送局、研究者個人を通して提供される5。
「人文学指標」では、NEH の事業資金は法律により規定されたフォーミュラと、多くの場合、ピアレ
ビューによる競争的な手順によるものを含む各プログラムにより実施されるとし、その内容について以
下のような分析を加えている6。
・ 2014 年度は、 NEH のプログラム予算の 37% は連邦政府／州パートナーシッププログラム
（Federal/State Partnership program）により州の人文学協議会（humanities council）に配分される。
・14.5%は、レファレンスマテリアル・リソースの作成、歴史的な新聞のデジタル化、消滅が懸念される
言語の文書化などの保存およびアクセス（preservation and access）活動に配分される。
・NEH 予算の 13%は、研究プログラム課（Division of Research Programs）において、フェローシッ
プや生活費の形により大学教員や個人研究者に配分される。
・人々との関連プログラム（public programs）および教育関連活動（education-related activities）は
それぞれ予算の 11.5%が支出される。
・NEH の事業資金の 7.7%は、既存の地方、州、全米の人文学のプログラムに配分されるチャレンジグ
ラント（challenge grants）として配分される。
・事業資金の 4%は、デジタル人文学室（Office of Digital Humanities: ODH）において支出される。
２－２．国立科学財団
国立科学財団（National Science Foundation: NSF）の社会・行動及び経済科学局（Directorate for
Social, Behavioral & Economic Sciences: SBE）は、人々の行動や相互関係、社会経済システム、組織
や機構といった対象の基盤的な知識を構築する研究を支援することに加え、科学工学活動に関する米国
の中心的な情報源として国立科学工学統計センターによる活動を行っている。SBE には、行動及び認知
科学（Behavioral and Cognitive Sciences: BCS）
、社会及び経済科学（Social and Economic Sciences:
SES）
、SBE 複数分野活動室（SBE Office of Multidisciplinary Activities: SMA）
、国立科学光学統計セ
ンター（National Center for Science and Engineering Statistics: NCSES）の部署が置かれている7。
SBE の予算は約 2 億 7220 万ドル（2015 年度見込み額）で、NSF の研究及び関連事業予算の約 4.6%
を占めている。
NEH, About NEH http://www.neh.gov/about
Humanities Indicators, Distribution of National Endowment for the Humanities (NEH) Program
Funding Among Activity Types
http://www.humanitiesindicators.org/content/indicatorDoc.aspx?i=76#fig384
7 NSF, SBE Home http://www.nsf.gov/dir/index.jsp?org=SBE
5
6
4
NSF は、研究者の自由な申請に対してピアレビューによる審査を通して行われる支援を中心とした業
務を行っているが、公募においては多数のプログラムが設置されている。SBE を通して行われる支援は、
政治科学、経済学といった一般的な分野に加え、例えば「消滅の危機にある言語の文書化（Documenting
Endangered Languages）といった特定の対象に絞った研究支援も行われている。
２－３．国立保健研究所（NIH）の社会科学部門
国立保健研究所（NIH）には、行動・社会科学研究室（Office of Behavioral and Social Sciences
Research: OBSSR）が設置されている。OBSSR は、1995 年に所長室（Office of the Director: OD）に
設定され、NIH 全体の行動科学および社会科学研究を触発させ、それら研究を他の NIH の保健研究活動
に統合させることにより疾病の理解、治療、予防を改善することをミッションとしている8。
OBSSR には、2009 年に Collins NIH 所長により NIH の各研究所・センターが参加する機構として基
礎行動・社会科学機会ネットワーク（Basic Behavioral and Social Science Opportunity Network :
OppNet）を創設し、健康に関する個人やグループの行動への影響のメカニズムやプロセスに関する基礎
科学への資金配分を拡大させており、2014 年 9 月までに 167 件の所外研究プロジェクトに 7,156 万ドル
を配分している9。
補足：民間財団による人文学、社会科学研究支援
特に人文学、社会科学研究に対しては、連邦政府機関に加え、民間財団による多様な支援も行われて
いるが、多くは特定の分野や特定の層の研究者を対象とし、また、支援形態もグラントだけではなく、
フェローシップの形態によるものも多い。このため、本稿執筆においては民間財団による支援の具体的
な状況を取りまとめることはできなかったが、民間財団による研究支援については（多くは個々のプロ
グラムの情報として）以下のウェブサイトから個々の財団のページにアクセスするなどにより入手可能
であることを付記する。
American Council of Learned Societies
http://www.acls.org/
HNet Online: Humanities and Social Sciences Funding Announcements
http://www.h-net.msu.edu/announce/group.cgi?type=Funding
Social Science Research Council
http://www.ssrc.org/
Foundation Center
http://foundationcenter.org/
Michigan State University Libraries, Grants and Related Resources
http://staff.lib.msu.edu/harris23/grants/index.htm
8
9
NIH, About OBSSR https://obssr.od.nih.gov/about_obssr/about.aspx
NIH, OppNet http://oppnet.nih.gov/index.asp
5

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