日本における性的虐待研究 -事例からみる身体・心理・行動上の問題- ○関東由加 稲垣由子 (甲南女子大学大学院人文科学総合研究科)(甲南女子大学人間科学部) キーワード:子ども、性的虐待、文献研究 Study of Sexual abuse Yuka KANTO Yuko INAGAKI (Graduate School of Humanities Sciences Konan Women’s univ. )(Faculty of Humanities Sciences Konan Women’s univ. ) Key Words:Child,sexual abuse,Literrature Study 目的 性的虐待が及ぼす被害児童への影響が大きいことは言うま でもない。児童虐待の中でも性的虐待の発見は、目に見えな い状態で行われるため、困難である。本研究は、戦後(1952 年以降)の性的虐待事例を概観し、被害児童への影響を明らか にするために、性的虐待発生後に起こる被害児童の行動上の 表1. 身体面 症状 婦人科系疾患・生殖器の障がい 疼痛反応 身体感覚の異常 上肢・下肢障がい 呼吸器系の障がい 神経性の障がい 泌尿器系の障がい 発熱 皮膚感覚の異常 計 33 23 14 10 10 5 5 3 2 変化および身体的、心理的な不調、疾患について分析し、性 的虐待の早期発見につながるような指標を見出すことを目的 とする。 方法 ①データ収集のためのデータベースは、 検索エンジン CiNii を用いて戦後(1952 年)から 2012 年 3 月末までの論文を 表2. 行動面 症状 家出・無断外泊 性的行動 非行 不登校・学力不振 自殺・自傷 食行動異常 暴力 依存症状(アルコール・薬物等) 多動・強迫症状 育児困難 計 51 49 47 37 35 20 18 13 10 5 収集した。そのキーワードとして「性的虐待」 「近親姦・近 親相姦」を抽出した。抽出後「子ども(こども) 」 「児童」 「女児」 「女子」 「少女」 「未成年」をキーワードとして絞り 込み検索を行った。 ②論文の専門性と学術的精度上げるため、論文の種類は「学 会誌」 「大学紀要」 「専門雑誌」に絞った。 ③事例の入力は Excel を使用し、DSM-Ⅳの診断基準に則 表3. 心理面 症状 他者との関係の変化 無力感 解離性症状 再体験 感情制御困難 精神疾患 不安症状 自己感覚の欠如 意味体系の変化 計 50 50 43 39 30 27 25 22 7 した心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害の反応を 示す表現、およびジュディスハーマン 1)が提案する複雑性 心的外傷後ストレス障害の症状を示す表現を入力した。 考察 身体的な症状としては婦人科系の疾患はもとより、原因は ④行動上の問題については、WidomCS.2000/郭麗月(監訳) 明らかでない痛みや感覚の異常が最も多く、行動面は家出や 2)の生涯にわたる機能領域における虐待・ネグレクトの潜 非行、暴力などの反社会的な行動によって性的虐待被害が明 在的影響を参考に入力した。 らかになっていた。心理面は他者との関係性が変化したり、 ⑤症状の入力にあたっては、虐待事例に精通した第三者に 無力感に陥りやすいことが明らかになった。以前の研究報告 チェックしてもらい精度を高めた。 で、本人からの開示先は教育現場が多いことを明らかにして きた。学校教育場面では保健室での原因不明の訴えや、生徒 結果 1.文献数 学会誌、紀要、専門雑誌の 403 件中、事例・症例を扱っ 指導にのらない生徒にたいしても注意深く観察し、性的虐待 の可能性があることを視野に入れながら関わる必要があると 考えられる。 ていた文献は 248 件であった。 2.症状別 身体面、行動面、心理面での症状を以下の表に示す。 参考文献 1)『心的外傷と回復』 ジュディス・L・ハーマン み すず書房 2)『虐待された子どもへの治療-精神保健、医療、法的 対応から支援まで』WidomCS. 郭麗月
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