外国人学生等の受け入れに関する提言

外国人学生等の受け入れに関する提言
∼外国人相談活動の現場から∼
2005 年 3 月
外国人学生問題研究会(SISA)
― 目 次 ―
はじめに
1
提
3
言
1 日本留学情報の提供
3
2 日本語学校の改革
3
3 日本留学試験の改革
4
4 留学生の入国・在留の制度改革と審査方法の緩和
4
5 大学等教育機関における留学生受け入れ体制整備
5
6 安心して留学生活を送るために
∼奨学金、アルバイト・宿舎の紹介、留学生住宅総合補償制度∼
6
7 日本での就職
7
8 地域住民としての受け入れ
7
9 警察とマスコミに対する要望
8
10外 国 人 政 策 の 確 立 と 入 国 管 理 制 度 の 改 善
9
外国人学生問題研究会( SISA) について
10
はじめに
「留 学 生 十 万 人 計 画」 達 成 後 の 政 府 の 姿 勢
文 部 科 学 省 発 表 に よ れ ば 、2003 年 5 月 1 日 現 在 の 在 日 留 学 生 数 は 10 万 人 を 超 え 、
1983 年 か ら 始 ま っ た 「 留 学 生 十 万 人 計 画 」 は 人 数 面 で 達 成 さ れ た 。 こ れ を 受 け る
形 で 2003 年 12 月 に 出 さ れ た 中 央 教 育 審 議 会 に よ る 答 申 「 新 た な 留 学 生 政 策 の 展
開 に つ い て 」 で は 、「 留 学 生 交 流 の 拡 大 が 極 め て 重 要 で あ る 」 と し な が ら も 、 受 け
入 れ に つ い て は 「 留 学 生 の 質 の 向 上 」「 在 籍 管 理 の 強 化 」 が 強 調 さ れ 、 消 極 的 と も
見える姿勢が示されている。
教育政策としての「 留 学 生 十 万 人 計 画 」 は 成 功 か 失 敗 か
しかし、留学生からの相談に直接携わってきた立場からみると、留学生数とし
て 確 か に 10 万 人 を 突 破 し た と は い え 、 教 育 政 策 と し て の 「 留 学 生 十 万 人 計 画 」 が
成功したとは到底思えない。中教審答申での留学生受け入れに対する消極的な姿
勢はもとより、入国管理局による入国・在留審査 が再び厳格化され、次々と審査
書類が追加されていること、警察による外国人取り締まりが強化され留学生が警
察署で長時間尋問を受けることが少なくないこと、マスコミによる「留学生・就
学生=犯罪予備軍」キャンペーン、これらに触発された世論の排外的風潮の助長
な ど の 現 状 が 、「 留 学 生 十 万 人 計 画 」 を 達 成 し た 結 果 起 こ っ た こ と だ と す れ ば 、 こ
の計画は、教育政策の面で「失敗」を越えて「破綻」してしまったということに
ならないだろうか。
なぜ SISA が 提 言 す る か
先の中央教育審議会答申では、上記のような留学生政策の失敗を正面から捉え
ることなく論じられている上、 もっぱら国家や大学等留学生を受け入れる側の立
場に立った内容となっている。
こ れ に 対 し て 、 外 国 人 学 生 問 題 研 究 会 ( SISA) は 、 個 々 の 留 学 生 に 対 す る 相 談
活動を行なっている個人からなるグループである。日常の活動の中で留学生と直
接接し、留学生の生活の実情、そこにおける悩みや苦労を具体的に知る立場にあ
る。国家や大学にとっていかに適切と思える留学生政策であっても、それが留学
生 か ら 見 て 価 値 の あ る も の で な け れ ば 有 効 な も の と な る こ と は な い 。そ こ で 、SISA
の特性を活かした、より留学生の立場に立った留学生政策についての提言を行な
うこととした。
1
総合的な外国人政策の中で留学生政策を考える
と こ ろ で 、 外 国 人 登 録 者 数 は 近 年 著 し く 増 え 、 2003 年 末 で 191 万 人 を 超 え た 。
特別永住者を除くいわゆるニューカマーズの比率が 4 分の 3 を超えている上、こ
れ ら の 中 に 労 働 を 目 的 と す る 多 く の 外 国 人 が 含 ま れ て い る 。「 十 万 人 計 画 」 が 始 ま
った当時と留学生を取り巻く日本国内の状況は大きく変化している。
従って、提言を行なうに当たって、留学生(就学生も含む)に限定されない在
住外国人全体に対する制度改革 などの提言も一部含まれることを、あらかじめ付
け加えておきたい。留学生は地域社会では他の外国人と同じ生活者としての側面
をもつことはいうまでもないが、昨今のニューカマーズ外国人の急増ぶりや介護
労働などを含む移民労働者の受 け入れを巡る論議が再び活発化している現状を考
慮するなら、かつてのように留学生だけに限定した政策のみを提言するのではな
く、日本として外国人 受け入れ をどうするのかという総合的な視点の中で留学生
受け入れについて検討する必要がある。外国人受け入れに関する明確な方針、特
に移民労働者に対する実態とかけ離れた施策を維持し続ける限り、日本が魅力的
な留学生受け入れ国にはなり得ないと考えるからである。
2
提
言
1 日本留学情報の提供
日本の教育機関や日本留学の実情に関する情報提供体制について、これまでも
政府答申などで常に解決すべき課題として取り上げられているにもかかわらず、
現在に至っても改善されたとは言い難い。来日して現実を知りショックを受ける
留学生も少なくない。海外の日本留学希望者に対して、現場の状況が的確に把握
できるような、わかりやすい情報提供システムを整備する必要がある。
このため、まず外務省と文部科学省が縦割り行政のバリアを越えて連携するこ
と、大学などの関係機関が留学生受け入れの現実をありのままに分かりやすく留
学希望者に伝える誠実な姿勢を保持することが重要である。
提言
1-1
(独 )国 際 交 流 基 金 と (独 )日 本 学 生 支 援 機 構 は 、 所 轄 省 庁 の 枠 を 越 え て 、 海
外において密に連携し、同一場所にて一体となって、海外における日本語
教育と日本留学情報の提供、日本留学アドバイジングを実施すること。
1-2
(独 )日 本 学 生 支 援 機 構 は 、 日 本 留 学 に 関 す る 現 実 に 即 し た 情 報 を 整 理 し 、
留学希望者にわかりやすくホームページ等で示すなど、効果的、具体的な
情報提供システムを構築すること。
1-3
大学等の教育機関は、留学希望者のための入り口をトップページに設け、
留学生の入学の仕組みなどの情報をわかりやすく提供するなどして、留学
希望者の立場に配慮したアクセスしやすいホームページの構築に努めるべ
きである。
1-4
(財 )日 本 語 教 育 振 興 協 会 は 、 日 本 語 教 育 機 関 に 関 す る 最 新 の 情 報 を 提 供
すること。所在地の変更などの日本語教育機関設置内容の変更に関する
情報についても、できるだけ速やかにホームページ上に公開し、来日前
の情報と来日後の現実の落差をなくす体制を整えること。
2 日本語学校の改革
国内の日本語学校生の約 7 割が高等教育機関に進学しているという実態からす
れ ば 、 日 本 語 学 校 は 日 本 留 学 の 入り 口 の 主 要 な 一 部 を 形 成 し て い る と い え る 。 に
もかかわらず日本語学校は、これまで教育政策としての視点からあまり考慮され
ないまま今日に至っている。最近、留学生相談の現場で日本語学校に関するもの
がまた増えはじめているが、その多くは日本語学校側の到底教育機関とは思えな
い 対 応 に 起 因 す る も の で あ る 。「 就 学 」 に 関 す る 在 留 資 格 制 度 の 改 革 、 及 び 日 本 語
学校の改善が急務であろう。
3
提言
2-1
文部科学省及び法務省は、日本語学校を日本留学の入り口を担う教育機関
として位置づけ、まず在留資格「就学」を廃止して「留学」に統合する。
それによって、医療費補助、奨学金、宿舎への入居資格など についての格
差を解消すること。
2-2
文部科学省は、日本語学校に対して補助金を支給し、学校の質の向上を図る
こと。
2-3
(財 )日 本 語 教 育 振 興 協 会 は 、学 生 に 対 し て 人 権 侵 害 に も 等 し い 次 の よ う な 行
為 を 行 な っ て い る 日 本 語 学 校 が あ る 場 合 、 こ れ を 直 ち にや め る よ う に 指 導
を徹底すること。
(1 )募 集 要 項 に は 記 載 さ れ て い な い 保 証 金 、 進 学 準 備 金 、 預 か り 金 な ど と
称する金銭を入学前に納付させ卒業時まで預かるという行為
(2 )退 学 ・ 転 学 を 希 望 す る 者 に 退 学 証 明 書 や 成 績 証 明 書 を 速 や か に 発 行 す
ることを拒否する行為
2-4 ( 財 )日 本 語 教 育 振 興 協 会 は 、 会 員 校 に 在 籍 す る 学 生 か ら の 訴 え を 受 け 付 け 、
問題解決にあたる相談窓口を常設し、専任の担当者を配置し、学生に周知
すること。
3 日本留学試験の改革
日本留学試験は、留学希望者が渡日して受験する負担の軽減、渡日前入学許可
制度の普及、わかりやすい入学選考システムを目的に実施されているが、試験科
目 や 実 施 場 所 な ど の 面 で 、 ま だ 問 題 が 残 さ れ て い る 。 特 に 、 英 語 能 力 測 定 に TOEFL
等が利用されている現状は、日本留学のための学力判定面で不適切であるばかり
でなく、大学受験を志す留学生にとって制度的にも経済的にも大きな負担となっ
ている。
提言
3-1
日本留学試験の試験科目に英語を追加すること。
3-2
中 国 か ら の 留 学 生 が 約 65% を 占 め て い る に も か か わ ら ず 、 中 国 で 日 本 留
学試験がまだ実施されていない。早急に中国国内での日本留学試験の実
施を実現すること。
4 留学生の入国・在留の制度改革と審査方法の緩和
入 国 管 理 局 は 、 2000 年 か ら 留 学 生 ・ 就 学 生 の 入 国 ・ 在 留 審 査 の 大 幅 緩 和 を 実 施
し た が 、留 学 生 数 が 10 万 人 を 超 え た 2003 年 度 の 後 半 か ら 、経 費 支 弁 能 力 や 経 歴 、
日本語力など に関する書類の提出を以前にも増して厳しく要求し、審査の厳格化
4
を進めている。しかし、これらの措置は、海外から日本留学を希望する若者達の
意欲をそぐばかりでなく、まじめで優秀な学生までも日本から遠ざけてしまう結
果を生むことが懸念される。
外 国 人 学 生 問 題 研 究 会 は 、2000 年 1 月 に 発 表 さ れ た 原 則 の 堅 持 を 求 め る と 共 に 、
より日本に留学しやすい環境を作るために一層の規制緩和策の推進を求めたい。
提言
4-1
入 国 管 理 局 は 留 学 生 ・ 就 学 生 の 入 国 ・ 在 留 審 査 に つ い て 、 2000 年 1 月 に
発表された緩和策に戻すこと。
(1 )入 学 許 可 書 が あ れ ば 在 留 資 格 認 定 証 明 書 が 交 付 さ れ 、 在 学 証 明 書 な ど
で在留期間更新が行なえるようにする
(2 )入 国 管 理 局 に よ る 経 費 支 弁 能 力 の 審 査 や 成 績 、 出 席 の 審 査 は 廃 止 す る
4-2
行方不明者や法に違反する者が多数発生し た教育機関については公表し
文部科学省との協議の上、留学生受け入れ数の制限、または受け入れ停
止等の措置をとること。
4-3
大学夜間部への入学にも在留資格「留学」を認めること。
4-4
現 行 で は 、留 学 生 の 資 格 外 活 動 許 可 の 時 間 と 職 種 に 一 定 の 制 限 が 設 け ら れ
ているが、これを日本人学生と同じ扱いに改めること。
5 大学 等 教 育 機 関 に お け る 留 学 生 受 け 入 れ 体 制 整 備
大学等教育機関は安易に留学生を受け入れ、結果として学習意欲などに問題の
ある留学生を在学させているという批判がある。また留学生からは、入学したも
のの自分の意図した勉学ができないとの相談も寄せられている。留学生受け入れ
教育機関は、経営的な視点からのみ留学生の受け入れを考えるのではなく、なぜ
留学生を受け入れるのか、どのような学生に来てほしいのか などの受け入れ理念
を明確にした上で、それを実現するための体制整備を先行させるべきである。ま
た 、 文 部 科 学 省 は 、 各 教 育 機 関 が 留 学 生 を受 け 入 れ る た め の 最 低 限 の 体 制 に つ い
て一定の指針を作り、これに反する教育機関に対して強い態度で臨むべきであろ
う。また、指針の中に、留学生相談体制の整備と入学時の保証人制度の廃止を含
めることが望ましい。
提言
5-1
文部科学省は、国 立 大 学 協 会 、私 立 大 学 協 会 等 と 協 議 の 上 、 大 学 等 に 留 学
生 を 受 け 入 れ る 場 合 の 指 針 を 策 定 し 、 教 育 支 援 や 生 活 支 援な ど 最 低 限 の
受け入れ体制に関する条件を定めると同時に、不適切な留学生受け入れ
をする教育機関があれば、受け入れ停止等の措置をとるべきである。そ
の際には、法務省との連携も必要である。
5
5-2
現 在 の 多 く の 大 学 で は 留 学 生 が 安 心 し て 相 談 で き る 窓 口 が な く 、学 内 で 解
決できる問題であるのに、留学生が民間留学生相談機関等に相談に来る
例が見られる。学内に一般学生向けとは別に、独立性を 保障された留学
生相談対応機関を設け、 留学生受け入れ全般に関する豊富な知識を有す
るスタッフを配置すべきである。
5-3
入学時の身元保証人(あるいは連帯保証人)制度は形骸化しているにもか
かわらず、未だに多くの大学等で保証人書類の提出を求められる。留学
生にとって多大な負担となっている保証人制度を撤廃すること。
6 安心して留学生活を送るために
∼ 奨 学 金 、 ア ル バ イ ト ・ 宿 舎 の 紹 介 、 留 学 生 住 宅 総 合補 償 制 度 ∼
留 学 生 数 が 10 万 人 に 到 達 し て 以 降 、 文 部 科 学 省 の 私 費 留 学 生 支 援 は 、 留 学 生 数
の 増 加 に も か か わ ら ず 縮 小 し て い る 。 ま た 、( 独 ) 日 本 学 生 支 援 機 構 発 足 に 伴 い 、
旧 (財 )内 外 学 生 セ ン タ ー が 2003 年 度 ま で 実 施 し て い た 民 間 宿 舎 の 紹 介 は 廃 止 さ れ 、
アルバイトの紹介は大幅に縮小・改変された。
住 居 の 確 保 は 日 本 で 留 学 生 活 を 送 る た め の必 要 不 可 欠 な 要 素 で あ る 。 し か し 、
外国人に対する無理解や連帯保証人制度などの壁が立ちはだかり、留学生にとっ
て大きな負担となっているため、宿舎契約の際に連帯保証人を得やすくなるよう
に「留学生住宅総合補償制度」が発足した。しかし、大学等が機関による連帯保
証を実施していないところが多いため、連帯保証人捜しで苦労する留学生は少な
くなく、この制度が十分活かされていない。
提言
6-1
私費留学生の生活安定のために、学習奨励費、授業料減免制度を一層拡充
すべきである
6-2
留学生相談の現場では、宿舎、アルバイトに関する相談は常に相談数の上
位を占める大きな問題なので、文部科学省は次の 2 点について早急に検
討すべきである。
(1 )希 望 す る 全 て の 留 学 生 に 十 分 な 額 の 奨 学 金 を 支 給 で き な い 以 上、 良
質なアルバイトの提供は私費留学生を受け入れる上で不可欠である
ので、新たなアルバイト紹介システムについて検討すること
(2 )民 間 宿 舎 の 紹 介 業 務 を よ り 積 極 的 な 形 で 再 開 す る こ と
6-3
宿 舎 の 連 帯 保 証 人 に 関 す る 相 談 が 相 変 わ ら ず 多 い の で 、 (独 )日 本 学 生 支
援 機 構 は「 留 学 生 住 宅 総 合 補 償 制 度 」の 活 用 状 況 を 調 査 し 、 受 け 入 れ 教 育
機関による機関保証を推進するなどの働きかけを強化すべきである。
6
7 日本での就職
法 務 省 発 表 に よ る と 、 2003 年 に 日 本 で 就 職 し た 留 学 生 は 3,778 人 で あ る が 、 日
本で学んだことを活か して企業等に就職したいと考えている留学生は、実際には
これよりもはるかに多いであろう。しかし、入国管理の面からもさまざまな規制
がかけられており、留学生の希望はなかなか実現されない。一方では、経済のグ
ロ ー バ ル 化 と 日 本 社 会 の 国 際 化 、さ ら に 少 子 高 齢 化も 相 俟 っ て、 外 国 人 人 材 を 求
める声は 高 ま っ て い る 。こ の 面 か ら 見 れ ば 、 日 本 語能力があり日本についてよく
知る留学生出身者は極めて貴重な人材である。まずは、留学生出身者を中心とし
た外国人の就労に関する入国管理制度の一層の緩和措置を要請したい。
提言
7-1
学 業 を 修 了 し た 留 学 生 に 、1 年 の 就 職 活 動 用 在 留 資 格 を 無 条 件 に 認 め る こ
と。
7-2
留 学 終 了 後 に 取 得 で き る 仕 事 の た め の 在 留 資 格 は 、現 行 制 度 で は 複 雑 す ぎ
る の で 、「 技 術 ・ 知 識 」 と い う 在 留 資 格 を 創 設 し 、「 技 術 」「 人 文 知 識 ・ 国
際業務」等の「知的」労働をここに一本化すること。
7-3
「医療」の在留資格により医師、看護師等の仕事をする場合、現行制度で
は年数や勤務場所に制限が設けられているが、これを撤廃すること。
7-4
専 門 学 校 等 で 学 び 「 介 護 士 」「 美 容 ・ 理 容 師 」「 鍼 灸 按 摩 師 」「 調 理 師 」 等
の 国 家 試 験 に 合 格 し て も 、現 在 の 入 管 法 で は 外 国 人 は 日 本 で そ の 仕 事 に つ
く こ と が で き な い 。こ れ ら の 資 格 を 取 得 し た 外 国 人 の 就 労 を 認 め る べ き で
ある。
8 地域住民としての受け 入 れ
地域社会がそこで暮らす外国人を地域住民として 受け入れ 、国籍や文化の違い
を越えて共に暮らすコミュニティーを形成していくことは、多文化共生への要請
が強まっている現状からして望ましいことである。この中でも留学生は、日本語
能力も高く、地域における多文化共生へのキーパーソンとなりうる存在であり、
より積極的な受け入れを図るべきである。また、留学生を含めた在住外国人が地
域でより住みやすくなるように住居、年金等の制度や環境を整備すべきである。
提言
8-1
自治体ごとに留学生宿舎の機能を持った地域国際センターの設立を図る。
センターは、地域の多文化社会づくりにむけて、外国人住民のための日本
語教育と相談対応の機能のほか、多言語による生活情報の提供、地域住民
がだれでも気楽に在住外国人と交流できる場と仕組みを兼ね備えたもの
7
に す べ き で あ ろ う 。また、外国人同士の交流や自国の文化発信 な ど の た め
の活動の場としての機能も持たせ、地域の国際化、多文化共生社会実現の
ための拠点とすべきである。
8-2
( 財 ) 自 治 体 国 際 化 協 会 及 び (独 )国 際 交 流 基 金 は 、 国 内 の 国 際 化 活 動 の 支
援 に も こ れ ま で 以 上 に 力 を 入 れ 、在 住 外 国 人 を 支 援 す る 活 動 を 行 な っ て い
るNPO、ボランティア等の民間団体に対し助成を拡大すべきである。
8-3
住居の確保は地域での生活のための基本的な権利である。しかし、留学生
の宿舎探しは、外国人に対する無理解などの壁が立ちはだかり、日本留学
に 対 す る イ メ ー ジ を 低 下 さ せ る 要 因 の 一 つ と な っ て い る 。さ ら に、宿舎の
連帯保証人制度は、留学生にとって大きな負担である。これらは、留学生
に限らず外国人一般、さらには日本人にとってさえも改善が望ましいの
で、以下の法制度的な整備を至急検討・実施すべきである。
(1 )宿 舎 へ の 入 居 契 約 時 に お け る 連 帯 保 証 制 度 の 禁 止
(2 )国 籍 、 人 種 等 を 理 由 と し た 家 主 、 不 動 産 業 者 に よ る 入 居 拒 否 に 対 す る
罰則を伴う禁止
8-4
自 治 体 及 び 政 府 は 留 学 生 を 含 む 外 国 人 に 対 し て 、次 の 生 活 上 の 諸 制 度 に つ
いて改善すべきである。
(1 )国 民 年 金 加 入 は 、 帰 国 予 定 の 外 国 人 に と っ て は デ メ リ ッ ト も 大 き い
ので、よく説明した上で、本人による選択制に任せるべきである
(2 )国 民 年 金 に は 学 生 納 付 特 例 制 度 に よ り 、 保 険 料 の 納 付 が 猶 予 さ れ る
制度があるが、現在日本語学校に在学する学生には適用されていない
ので適用するように制度を改善すること
(3 )留 学 生 の ア ル バ イ ト に よ る 所 得 税 は 、 租 税 条 約 に よ り 免 除 さ れ る 場
合 が あ る 。 ま た 、 留 学 生 を 非 居 住 者 と 見 な し て 20% の 源 泉 徴 収 を す
る事業所もある。様々な方法を通じて、留学生に関わる所得税制につ
いて雇用者等に周知をはかること
(4 )特 に 2003 年 よ り 、 外 国 人 に 対 し て 銀 行 口 座 開 設 を 拒 否 さ れ た と い う
相談が増えてきている。これは日本での生活を困難にする人権侵害に
も等しいと思われるので直ちに改善すること
9 警察とマスコミに対する要望
2003 年 頃 よ り 、 外 国 人 が 歩 行 中 に 警 察 官 に 呼 び 止 め ら れ 、 理 由 な く 長 時 間 拘 束
さ れ 、警 察 で 犯 罪 者 で あ る か の よ う に 扱 わ れ た な ど の 相 談 が 相 次 い で い る 。ま た 、
その理不尽さを何処に訴えても取り上げてもらえないという訴えも増えた。
新聞・テレビなどのマスコミは、外国人犯罪の増加を思わせる報道や外国人犯
罪をセンセーショナルに大きく取り上げる傾向も見られる。
8
提言
9-1
警察による過剰な取り締りを控えること。外国人の人権を尊重し、行き
過ぎた職務質問や理由のない長時間拘留などをしないこと。
9-2
マスコミは実態と異なる印象を与える報道を是正すべきである。犯罪と
外国人の関連を強調・暗示するような報道を慎み、犯罪報道は警察庁発
表をそのまま流すのではなく、データの検証をした上で、客観性のある
報道をすること。
10 外 国 人 政 策 の 確 立 と 入 国 管 理 制 度 の 改 善
国 境 を 越 え た 人 の 移 動 がま す ま す盛 ん に な る 国 際 社 会 の な か で 、 国 家 が 日 本 社
会 の 将 来 像 を 描 い た 上 で 、 外 国 人 を ど う 受 け 入 れ て い く か 、 省 庁 の 枠 を越 え た 整
合性ある施策(グランドデザイン)が必要である。しかし外国人の入国が増え始
め た 80 年 代 以 降 も 、 こ う し た 総 合 的 視 点 を 欠 い た ま ま 「 留 学 生 十 万 人 計 画 」 が 推
進されたため、留学生受け入れが労働目的の外国人の入国規制と同じ枠の中で扱
わ れ 、 大 き な 混 乱 を 生 み 出 し た 。 2000 年 に お け る 規 制 緩 和 措 置 は 留 学 生 政 策 を 外
国人労働者政策から分離したかに見えたが、また再び両者の混同と審査の厳格化
が復活した。さらに今回は外国人犯罪の問題までもが加えられ、真摯に勉学する
意志のある留学希望者をまたも日本離れに追いやる結果を生みつつある。
政府は、早急に国としての総合的な外国人政策の策定に本気で取り組むべきで
あると考える。その中で、留学希望者の枠と定住あるいは労働希望者の枠を別個
に準備するなど、来日外国人が目的に合った適切な入国、在留ができるように制
度を整理し直したうえで、多文化共生のための施策を実施するなど、外国人の入
国・在留環境を抜本的に改善することを求めたい。
提言
10-1
外国人政策は法務省入国管理局が中心となり推進されてきたかに見える
が、今後はこれが各省庁にまたがる重要な政策課題であるとの認識に基づ
き、個別の省庁の枠を越えた政策立案・実施部署を政府内につくること。
10-2
在留期限の最長を5年とすること。在留期限の延長は、日本で学ぶ留学生
の最短修業年数をカバーすると同時に、働くことのできる在留資格を持つ
外国人にとっても安定した生活を営むことができ、日本における地位が安
定する。
10-3
提 言 7-2 に あ る 「 技 術 ・ 知 識 」 の 在 留 資 格 と は 別 に 、 在 留 資 格 「 労 働 」 を
新設する。就労目的の外国人に対して学歴、実務経験に関係なく、日本に
ある事業所との雇用契約に基づいてこれを認めること。
10-4
日本語力を身につけ、日本について熟知した外国人に対して、日本での生
活実績や日本語によるコミュニケーション力、留学生としての経験などに
基 づ き 、「 定 住 者 」 等 の 在 留 資 格 を 認 め る こ と 。
9
「外国人学生問題研究会(SISA)」について
名 称 : 外 国 人 学 生 問 題 研 究 会 (Society of International Student Advocates)。
「留学」の在留資格を持つ大学、専門学校の留学生だけでなく日本語学校で学
ぶ「就学」の在留資格を持つ学生も含むという意味で、外国人学生という言葉
を敢えて使用しています。
目 的: 2003 年 5 月 1 日 現 在 、 日 本 に お け る 留 学 生 数 は 10 万 人 を 超 え 、 政 府 ・ 文 部 科 学
省 が 1983 年 以 来 提 唱 し て き た 「 留 学 生 十 万 人 計 画 」 が 数 の 上 で は 一 応 達 成 さ れ
ました。これをターニングポイントとするかのように、政府政策においても「 留
学生の質の向上」と「在籍管理」が強調されはじめました。入国・在留審査は
90 年 代 に 逆 戻 り し 、 留 学 生 の た め の 各 種 の 支 援 が 切 り 捨 て ら れ た 上 、 マ ス メ デ
ィ ア な ど で 外 国 人 犯 罪 が 過 剰 な ま で に 大 き く 報 道 さ れ 、日 本 で 学 ぶ 外 国 人 学 生 の
生 活 に 深 刻 な 影 響 を 及 ぼ し 始 め ま し た 。 日 々 外 国 人 学 生 の 相 談 に 当 た り 、 彼 らか
ら 生 の 声 を 聞 く こ と の 多 い 有 志 が 、上 の よ う な 外 国 人 学 生 を 取 り 巻 く 環 境 の 急 激
な変化を憂慮し、検証と発言を粘り強く続けていくことを目的に「外国人学生問
題研究会」を設立しました。
活動 : 民間や大学、日本語学校などの外国人学生相談担当者が、日ごろの相談活動か
ら 得 た 知 見 を 基 に 、 ① 文 部 科 学 省 の 「 留 学 生 政 策 」、 ② 大 学 、 専 門 学 校 、 日 本 語
学 校 な ど の 教 育 機 関 に お け る 「 外 国 人 学 生 受 け 入 れ 体 制 」、 ③ マ ス メ デ ィ ア な ど
に よ る 、 い わ ゆ る 「 外 国 人 犯 罪 報 道 」、 ④ 法 務 省 入 国 管 理 局 の 「 入 管 政 策 」 ⑤ 日
本における外国人全般の受け入れ、などについて調査・研究し、環境改善のため
の発言を行なっていきます。
設 立 : 2003 年 11 月
メンバー:
飯田秀夫
(外 国 人 支 援 ボ ラ ン テ ィ ア )
小熊裕美
(留 学 生 ア ド バ イ ザ ー)
小澤朋子
(東 京 YWCA 留 学 生 相 談 室 )
黒沼春子
(東 京 大 学 )
斉藤陽子
(東 京 大 学 )
◎白石勝己
(
ア ジ ア 学 生 文 化 協 会)
暁
(東 京 大 学 )
曽根文子
(
アジア学生文化協会)
高野靖子
(東 京 大 学 )
寅野滋
(東 京 大 学 )
野村明央
(日 本 語 学 校 非 常 勤 講 師 )
原 田 麻 里 子 (外 国 人 支 援 ボ ラ ン テ ィ ア )
日暮時子
(東 京 YWCA 留 学 生 相 談 室 )
藤橋帥子
(東 京 大 学 )
三本龍生
(
◎ 村 上 由 美 子 (東 京 YWCA 留 学 生 相 談 室 )
依田良子
(東 京 YWCA 留 学 生 相 談 室 )
◎栖原
渡辺佳子
◎ 福 島 み ち 子 ( ボ ラ ン テ ィ ア グ ル ー プ 留 学 生 相 談 室)
アジア学生文化協会)
(東 京 YWCA 留 学 生 相 談 室 )
◎は世話人(4 名)
連 絡 先 : 斉藤陽子
白石勝己
[email protected] -net.ne.jp
東 京 都 文 京 区 本 駒 込 2-12-13 ア ジ ア 文 化 会 館
(財 )ア ジ ア 学 生 文 化 協 会
Tel 03-3946 -7565
〒 113-8642
10