ワイヤレス・ベースバンドSoC向けASIPの設計

Customer Highlight
ワイヤレス・ベースバンド SoC 向け ASIP の設計
シノプシス
ASIP設計ツール担当テクニカル・マーケティング・マネージャ
Dr. Bo Wu
従来のSoCアーキテクチャでは、ソフトウェア無線(SDR)で必要とされる性能と消費電力の条件を満たすことができません。こうした中、多く
の設計チームが、これまで12~18ヵ月かかっていたASIPデザインのインプリメンテーション期間をシノプシスのIP Designerを利用して約
7ヵ月にまで短縮し、消費電力も20%削減することに成功しています。これらの点について、シノプシスのASIP設計ツールを採用したimec®、
株式会社富士通研究所、中国科学院 計算技術研究所(ICT)の成功事例も交えながら、シノプシスのASIP設計ツール担当テクニカル・マーケ
ティング・マネージャ、Dr. Bo Wuがご説明します。
現在のワイヤレス・ベースバンド設計では、汎用プロセッサとハイエンドDSP
ASIPの優位性
を組み合わせ、高性能が要求される機能ブロックにはカスタム・データパス・
ロジックを使用したアーキテクチャが主流です。
ASIP(Application-Specific Instruction-set Processor)は、ソフトウェア・
プログラマビリティとハードウェア・データパスを組み合わせることにより、
事実、2Gから3Gへのワイヤレス・モデムの進化はこのアプローチによって支
高い適応性を備えつつ性能と消費電力を最適化できるようにしたアーキテク
えられてきました。しかし最新のソフトウェア無線(SDR)では消費電力と性
チャです。ASIPのアーキテクチャは特定用途に合わせて開発できるため、命
能に対する要求がこれまで以上に厳しくなり、従来のアーキテクチャでは対
令セットとデータパスをカスタマイズして特定のアルゴリズムを効率よく実
応できなくなっています。
装するのか(その場合もソフトウェア・プログラマビリティは確保されます)、
複数の機能を切り替えて利用できるようにして効率より柔軟性を優先するの
かを設計チームが選択することができます。
現在のワイヤレス・ベースバンド設計の課題
次世代ワイヤレス・チップが満たすべき重要な条件には、
次の3つがあります。
●
マイクロ
プロセッサ
コンフィギュラブルな
マイクロプロセッサ
完全にソフトウェア・プログラマブルな信号処理をサポートし、将来の規格
を含む複数のモデム規格に対応できるように、信号処理を完全にソフト
●
LTE-A規格では最大1Gbpsの下りデータ・レートが必要となるため、これま
特定用途向けプロセッサ
柔軟性
ウェア・プログラマブルにすること(SDRの本質的な要件)
プログラマブル
データパス
で以上に高性能・低レイテンシとすること
●
ASIP
携帯端末は今後もバッテリ動作時間が市場での大きな差異化要因となるた
め、電力効率の向上を図ること
ハードワイヤード
データパス
このように、高いプログラマビリティ、高性能、超低消費電力という3つの条
件を満たしたデバイスを開発するには、これまでのアーキテクチャとは異な
効率
る、特定用途向けのヘテロジニアス・マルチコア・アーキテクチャが必要にな
ります(図1)。
図2. 柔軟性と効率を兼ね備えたASIP
ハードワイヤード・データパス
モデム
チャネル
エスティメータ
マイクロプロセッサ
ASIP
マイクロプロセッサ
同期
ASIP
低レベル・プロトコルと
アプリケーションSW
図1. 2G / 3G(左)と4G以降(右)のワイヤレス モデム チップの比較
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ASIP
MIMO
デコーダ
ASIP
チャネル
デコーダ
DSP
音声
コーデック
低レベル・プロトコルと
アプリケーションSW
ASIP
OFDM
レシーバ
DSP
ASIP
音声コーデック
フィルタリング
ユーザー定義
アーキテクチャ
nML
1
C
ASIP合成
アーキテクチャ最適化と
ソフトウェア開発
3
RTLジェネレータ
Synopsys
+ Coverity
プロセッサ・モデル
アルゴリズム
News Release
ニュースリリース
ユーザー定義
アルゴリズム
最適化Cコンパイラ
アセンブラ
FMT ALU OPD
4
リンカ
FMT OPD SH
詳細化
アーキテクチャ最適化
3
ハードウェア生成
4
検証
2
デバッガ /
プロファイラ
ISS
VCS
ESLモデル
SystemC
検証
テスト・プログラム・ジェネレータ
すると、現在最先端のワイヤレス・デバイスへの対応も容易になります。しか
ASIC FPGA
ASIPの消費電力と性能を最適化
し効果的な設計ツールなくしてSoC内の各ASIPを命令セットから完全にカ
IP Designerには、特定用途アーキテクチャの消費電力と性能を最適化する
スタマイズし、アプリケーションに合わせて最適化しようとすると、設計工数
ための機能が幅広く用意されています。
たとえば、ベクトル・データ型を使用してSIMD(Single-Instruction,
ASIPインプリメンテーションを自動化するIP Designer
Multiple Data)並列処理を指定することにより、MIMOによる先進のアンテ
ナ・テクノロジや複素数に対する周波数ドメイン処理をサポートできます。
Customer
Highlight
が増大しプロジェクトのスケジュール遅延を招くおそれがあります。
Success Story
図3. IP Designerのツール フロー
1つのSoCに複数のASIPを組み合わせて消費電力と性能のバランスを最適化
Design
Compiler
最新技術情報
SDK生成
2
バイナリ
Technology Update
1
合成可能RTL
VHDL / Verilog
IoT特集
命令セット FMT MPY OPD
シノプシスのIP Designerは、短時間で効率よくASIPを設計およびプログ
また、命令レベルの並列性を利用して性能を高める一方で、命令ワード・サイ
ではASICとFPGAの両方のテクノロジをターゲットにしたRTLを作成でき
ズを調整してプログラム・メモリーのフットプリントと消費電力の両方を削
るほか、最適化コンパイラを含めプロセッサに必要なソフトウェア・ツール
減するというバランスをとることができます。短い命令を使用し、実際に使用
チェーンをすべて自動で生成できます。
される命令のみをエンコードすることによって命令ワード・サイズを制限で
きます。
設計チームは、IP Designerで以下のことが行えます(図3)。
What's New
in DesignWare IP?
ラムできるよう支援する各種ツールで構成されています。IP Designer
リングをサポートできます。
ガが含まれます
ISSから得たプロファイリング情報に基づき、個々のアルゴリズムに合わせ
IP Designerを利用すると、これらの最適化を検討してワイヤレス・ベースバ
てアーキテクチャを最適化
ンド・アプリケーション向けの高性能・低消費電力アーキテクチャの開発が可
●
nMLプロセッサ記述からハードウェアを自動で生成
能になるとともに、これまで数ヵ月かかっていた詳細なインプリメンテー
●
リグレッション・テスト用のCおよびアセンブリ・コードのテスト・プログラ
ション工程も自動化できます。
●
検証編
フロー命令を埋め込むこともでき、メモリーおよびI/Oに対する柔軟なモデ
アセンブラ、リンカ、命令セット・シミュレータ(ISS)、グラフィック・デバッ
Support Q&A
チャ詳細化をさまざまな方法で制御できます。データパス・ブロック内に制御
nML記述から生成されるこのSDKには、Cコンパイラ、アセンブラ / ディス
フィジカル編
ション固有の関数を定義できるなど、信号処理ロジックにおけるアーキテク
ASIPアーキテクチャ専用のソフトウェア開発キット(SDK)を自動で生成。
Support Q&A
レジスタ、メモリー、機能ユニットの正確なビット幅を指定してアプリケー
定義
論理合成編
●
プロセッサ記述言語nMLを使用して命令セット・アーキテクチャ(ISA)を
Support Q&A
これ以外にも、IP Designerではスカラ、複素数、ベクトル・データ型、および
●
ムを生成
●
バーチャル・プラットフォーム内でISSを使用して実チップ完成前のソフト
ウェア開発をサポート
SDR向けASIPの設計事例
最近は、携帯端末およびスモールセル基地局の両方で3Gおよび4Gプロジェ
クトの要件を満たすためにASIPアーキテクチャを採用する設計チームが増
えています。ここからは、シノプシスのASIP設計ツールを適用してSDRプロ
ジェクトを成功させた設計チームの事例をご紹介します。
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Customer Highlight
ワイヤレス・ベースバンドSoC向けASIPの設計
前ページより続く
プログラム・メモリー
ベクトル
メモリー
1
スカラ
メモリー
ベクトル
メモリー
2
VLIW
RF
VLIW
FU 1
VLIW
FU 2
アドレス計算用
などの3つの
スカラ・ユニット
中央ベクトル
RF
ベクトルRF
VLIW
FU 3
CGA LS
ユニット1
CGA LS
ユニット2
2つのベクトル・ロード /
ストア・ユニット
CGA VU
1
CGA VU
2
CGA VU
3
3つのベクトル
演算ユニット
CGAパック
ユニット1
CGAパック
ユニット1
10ウェイVLIWスロット
2つのパック /
アンパック・ユニット
図4. imecの4GベースバンドASIP
事例1:3GPP LTEカテゴリ4モデム[1]
事例2:LTEマルチモード・ワイヤレス・ベースバンドASIP[2]
設計チーム : imec
設計チーム : 株式会社富士通研究所
アプリケーション : 4Gベースバンド
アプリケーション : スマートフォンおよびタブレットPC
imecは2種類のASIPアーキテクチャを検討しました。1つは柔軟で高性能な
富士通研究所は、マイクロ・アーキテクチャを最適化して消費電力を削減する
カスタムDSP、そしてもう1つはRTLを固定しデータパスをプログラマブルに
ためにASIPアプローチを採用することを決めました。設計チームは冗長なパ
して効率を優先したアーキテクチャです。設計チームは、ヘテロジニアスな
イプライン・ステージを除去し、消費電力を削減することに成功しました。
ASIPアーキテクチャを使用することで消費電力、面積、性能のトレードオフ
に成功しました(図4)。
アーキテクチャの特長
アーキテクチャの特長
●
4ウェイ・ヘテロジニアス・ベクトル演算ユニット
●
8ウェイ16ビット・ベクトル演算
●
10命令発行スロットのVLIW
●
冗長なパイプライン・ステージを除去し、消費電力を削減
●
4クラスのCGA機能ユニット
●
パイプライン・レジスタ・ゲーテッド・クロック
●
3つの32ビット・スカラ・ユニット
●
アプリケーション固有の特殊命令
●
パッキング・ユニット
●
3つの16ウェイ16ビットSIMDベクトル・ユニット(256ビット)
最終デザイン
●
ベクトル・ロード / ストア・ユニット
●
12GOPS(@250MHz)の性能
●
ゲート数100万
●
28nmプロセスで平均消費電力30mW
●
7ヵ月で最初のインプリメンテーションが完了
●
一般的なアプローチに比べ消費電力を20%削減
最終デザイン
●
40nmプロセスで平均消費電力45mW(@400MHz)
imecのベースバンド プロセッサ ソリューションの詳細は、下記をご覧ください。
http://www2.imec.be/be_en/research/wireless-communication/reco
「次世代ワイヤレス・デバイスでは柔軟性と信頼の向上が業界全体で求められ
ています。そこで、imecのブロードバンド・ワイヤレス・プログラムはコスト
と消費電力を抑えたリコンフィギュラブルな無線ソリューションの開発を目
指しています。今後の4Gおよび5Gネットワークを実現していく上で、複数規
パイプライン・ステージ
nfigurable-radio-digital-b.html
命令発行
ベクトル演算制御
…
…
ALU x8
ALU x8
ALU x8
ALU x8
LD / ST x8
LD / ST x8
MAC x8
MAC x8
冗長な
パイプライン・ステージ
を除去
格に対応したモデムの重要性はますます高まるでしょう。これに対応するた
め、シノプシス社のIP Designerツール・スイートを採用してCプログラマブ
ルなベースバンド・プロセッサ・テンプレートを設計し、面積とスループット
に関して非常に競争力のある数値を達成しました。さらに、
(LDPCやターボ
…
ベクトル演算
出典:SNUG Japan、2013年
図5. 富士通研究所の4GベースバンドASIP
符号などの)高度な方式をサポートした柔軟なFECコア(ASIP)ファミリー
を実現することにも成功しました。これらは非常に魅力的なハードウェア・イ
事例3:ベースバンドASIPコア[3]
ンプリメンテーションであるだけでなく、ハードウェアの完全な再利用と柔
設計チーム : 中国科学院 計算技術研究所(ICT)
軟なメモリー割り当てにも対応しています」
アプリケーション : 4G対応の携帯端末およびスモールセル基地局
imec
Liesbet Van der Perre氏
ICTは、FFT、FIRフィルタ、行列演算、マップ / デマップなどの主要なベース
バンド処理アルゴリズムをより効率的にサポートできるマイクロ・アーキテ
クチャの開発を目指していました。シノプシスのASIP設計ツールを利用する
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News Release
ニュースリリース
プログラム・メモリー(TCM)
命令発行
スカラ演算
ベクトル・ロード
ベクトル・ストア
SIMD演算
IoT特集
スカラRF
AGU RF
SALU
VALU
VAAU
VSU
VALU
スカラ・データパス
VMAC
VSF
IVU
SIMD(ベクトル)データパス
データ・メモリー(TCM)
ことで、設計チームは複数のアーキテクチャを短期間で検討し、最適なアプ
なります。
ローチを選択することができました(図6)。
Success Story
図6. ICTの4GベースバンドASIP
最新技術情報
SMAC
Technology Update
SLSU
Synopsys
+ Coverity
ベクトル・レジスタ・ファイル
特殊レジスタ
命令フェッチ / デコード
ASIPアーキテクチャならプロセッサの完全なカスタマイズが可能で、設計
アーキテクチャの特長
チームのニーズに合わせてワイヤレス・ベースバンドSoCをきめ細かく最適
ワイドSIMD実行(512ビット幅)
化できます。最先端のベースバンド規格で要求される高い性能を達成するに
●
4スロット可変長VLIW
は、複数のヘテロジニアスなASIPコアを使用することが現実的な解であるこ
●
カスタムISA:スカラ、ベクトル、スカラ / ベクトル混在、FFTなど
とが実証されつつあります。ASIPは汎用DSPに比べ電力効率に優れている
上、その本質的なプログラマビリティにより、ハードワイヤード・データパス・
ロジックに比べ高い柔軟性が得られます。
●
複数のASIP
●
代表的なASIP規模は130万ゲート
シノプシスのIP Designerを利用したASIP設計メソドロジでは、最適化ソフ
●
55nmプロセスで平均消費電力230mW
トウェア・コンパイラを含むソフトウェア・ツールチェーンを自動で生成でき
ます。
また、
ASICおよびFPGA用のRTLを生成できるほか、
短期間でアーキテク
まとめ
チャ検討を行い、
性能、
消費電力、
面積の最適なトレードオフを決定できます。
検証編
な成果をもたらしています。
Support Q&A
ており、その使い易さ、高い生産性、結果予測性はこれらの設計チームに大き
ますが、SDRではSoCの性能と消費電力に対する要求がこれまで以上に高く
フィジカル編
ル基地局アプリケーション向けのワイヤレス・ベースバンド設計に採用され
る中、1つのモデムで複数の規格をサポートできる手段はSDRに限られてき
Support Q&A
は、次世代モデムの規格への対応が難しくなっています。各種の規格が進展す
論理合成編
シノプシスのASIP設計ツールは、すでに最先端の携帯端末およびスモールセ
Support Q&A
従来のワイヤレス・ベースバンド・アプリケーション向けアーキテクチャで
What's New
in DesignWare IP?
最終デザイン
Customer
Highlight
●
参考文献
[2]
imecのASIPに関するプレゼンテーション(SNUG)
:http://www.synopsys.com/news/pubs/snug/2014/germany/A3_goossens_pres_snps.pdf
富士通研究所のLTE ASIPに関する事例:
http://news.synopsys.com/2013-07-09-Fujitsu-Laboratories-Implements-Custom-Processor-for-3G-LTE-Modem-with-Synopsys-Processor-Designer
[3]
ICTが発表した論文:http://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?arnumber=6800412
[1]
詳細情報
●
●
ウェビナー:Application-Specific Processors (ASIP) for the Design of Wireless SoCs
https://event.on24.com/eventRegistration/prereg/register.jsp?eventid=749425&sessionid=1&key=C1095E85AA84BDFD8A0875F9E5E64673
ウェブページ:IP Designer、IP Programmer、MP Designerに関する情報 http://www.synopsys.com/IP/ProcessorIP/asip/ip-mp-designer
著者紹介
Dr. Bo Wu:シノプシスのASIP設計ツール担当テクニカル・マーケティング・マネージャ。シノプシスでの勤務を含め、これまで18年間にわたりNortel、AT&T
Wireless、Cadence Design Systems、CoWareの各社で3GPP W-CDMA、LTE™、WiMAX™、WLAN、DVB®などの分野でシステム設計、シミュレーション、
インプリメンテーションを担当。清華大学(中国)にて電子工学の学士号と修士号、ビクトリア大学(カナダ)にて電気工学の博士号を取得。
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