光ファイバ通信用プロセッサの設計を 高度化するCOMSOLシミュレーション

Enablence社のSerge Bidnyk博士は、COMSOLを用いて光プロセッサの設計を
最適化しています。
光ファイバ通信用プロセッサの設計を
高度化するCOMSOLシミュレーション
光ファイバは従来の銅線による電気配線の場合に比べて、はるかに多くの情報をより少ない干渉で、より速く送信できます。
ほんの2、30年の間に、光ファイバの部品とシステムにおける進歩により、世界通信に対する人々の期待が高められました。
しかしながら、このようなシステムが広く行き渡るようになるには、その前に光領域で信号を処理するコンパクトな光プロセッサ、
およびそれらの信号を電気信号に変換し、ひいては2領域間のギャップを橋渡しすることになる他のプロセッサが安価に市場に
提供される必要があります。幸運にも光プロセッサの開発および製造における進歩が重要な段階に達しました。光プロセッサの
大量のアプリケーションが商業的に存続できる状況になりつつあります。最も有望なプロセッサが、シリカ、シリコン、および
シリコンゲルマニウムの半導体製造における革新により実現されました。しかしながら、これらのデバイスを完全にモデル化し
製造するには、研究者は光波プロセッサに特有の分析要件を処理できる高性能な設計ツールを必要とします。この取り組みに
おいてリーダーとして浮上してきた1つのプログラムがあります。COMSOLすなわちCOMSOL Multiphysicsパッケージです。
これは、光プロセッサ分野のイノベータと言えるEnablence社(カナダ、オンタリオ州www.enablence.com)での実績により、
計り知れない価値を持つものであることが証明されました。
Enablence社は、平面エシェル回析格子(Echelle grating)の技術に基づいて光集積素子の設計および製造を行う分野のリーダー
的存在として知られています。この会社の画期的な光プラットフォームは、エシェル回析格子固有のサイズ、性能、およびスケーラ
ビリティの利点を活用することで、光ネットワーキングのコスト低下を実現しています。会社は、材料科学、デバイス設計、ウェハ
製造、および製品パッケージ化の自社専門知識を使って、独自の光回路を製造してます。
装 置との間にあります。既 に安 価な 光 チップ を 利 用できる
状況であることから、ブローバンドコンテンツをダイヤルアップ接続
は言うまでもなく、xDSL(デジタル加入者電話回線)でも不可能な
方法で家庭に配信することが可能になるでしょう。
このような光プロセッサはほとんどの場合、様々な波長の光信号
が共通の光リンクを共有できるよう、光信号の分割と再組み合わせ
を処理しながら、いくつものタスクに対応できます。電子システムが
レーザーと変調器を用いて自らの信号を光信号に変換した後、
光マルチプレクサが個々の光信号をいくつか組み合わせて、より
高密度の光信号にします。送信先では信号を分離して後処理の
負担を軽減するために、信号を逆多重化する追加の光プロセッサ
が必要です。さらに、光プロセッサは、対象とする周波数間の光
ノイズを除去するための光フィルタリングばかりでなく、チャネル
の追加、削除およびパワー調整を容易にします。
図1 1枚の半導体ウェハに、数千の光プロセッサを含ませることができます。
この写真には、3つの別々のデバイスが写っています。各矩形のおおまか
なサイズは33 x 10 mmであり、上部で互いに重なり合っています。上下
のデバイスは、40チャネルのデマルチプレクサです。中央のダイには、
実際、3つのインターリーバデバイスが入っています。
Enablenceで製造されるデバイスの例はマルチチャネル型デマルチ
プレクサ、
くし形フィルタ、およびインタリーバです。通常、このような
デバイスは片面が数センチメートルであり、基板、一連の導波管
コア、およびコアを包むために最上部にあるクラッド材または充てん
材で構成されています(図2)。10 x 30 mmの大きさのデバイスは、
40の光導波管コアを扱うことができます。この場合、各チャネルは
40 GHzの情報帯域幅を持っているので、このデバイスは光リンク
高密度光チップ
ごとに合計1.6テラビットの帯域幅に達することになります。これ
この会社の画期的な光小型化プラットフォームは、従来型シリコン
は、電子システムで起こりうる事をはるかに超えたレベルです。構成
およびシリコンゲルマニウム半導体製造を革新させる、大幅な低
材料の屈折率コントラストが大きい、このようなデバイスの設計と
コストでの高性能チップ製造を実現します。これらの小型ICにより、
製造における大きな課題は、デバイスを小型化すればするほど希望
光デバイスの密度を高めることができます。通常の光テクノロジ
する光学的特性が得にくくなることです。
では1つのウェハに5から30個までのチップを装着することができ
ますが、LNLでは、各ウェハに3000のチップをパッケージすること
エシェル回析格子を用いた製造
ができます(図1)。これらのより小さいチップサイズを使用すると、
これらのDWDM(dense wavelength-division multiplexing、高
ウェハの不具合および不均一性の影響を限定的なものにできる
密度波長分割多重方式)光プロセッサを設計し製造する方法は
ので、高い生産性がもたらされます。さらに、これらの小型デバイス
いくつかありますが、Enablence社はエシェル回析格子を用いた
により、ウェハレベルでの光部品の集積度を高めることができ、
技術に特化しています。エシェル回析格子をバルク光学回析格子
結果としてパッケージングコストの低下がもたらされることになり
および導波路回折格子と比較した場合に最大の利点として挙げ
ます。これは、パッケージングが現在、光製品および光電製品の
られるのは、恐らく劇的に縮小されたサイズということになると
コストにおいて最も大きな要因である以上、重要な側面であると
思います。さらに、この格子は写真印刷を用いて作り上げること
言えます。
ができるので、格子ファセットまたは格子エンベロープ全体の形状
これらのデバイスは小型であるだけでなく、驚くべき高いレベルで
光信号を処理することができます。Enablence社のチップが目的
とすることの1つに、信号の流れが商用コンピュータおよび娯楽設備
での使用に適している電子領域に、光電変換器を用いて必要な
情 報 処 理 を すべ て光 領 域 で 行 うということ が ありま す。
光領域では、
かなり速い速度で情報を処理することができます。
特に、これらのデバイスはアナログとデジタル 領 域の 信号に
対し、各光チャネルごとに40 GHzを超える伝送速度で動作し
ま す。これ ら の デバ イス を 用 い ることで、設 計 技 術 者 は
光システムの帯域幅を増やして、ハイビジョンテレビや他のブロー
ドバ ンド コン テン ツ を 処 理 することを 希 望して い ま す。
についての制約をほとんど持ち込まないので、目的の機能を達成
するために非常に多くの柔軟性を持ちます。光コア(約6 x 6µm)は
コア周囲のクラッド材より高い屈折率を持つ材料で作られている
ので、光パイプの働きをします。指定された周波数の光は、光が
チャネル壁面でどのように反射するかに応じて、様々な方法でこの
コアを通って進みます。これらの方法のそれぞれがモードを表し
ます。例えば、ある1色の光に対して考えられるモード数は20~
30存在し、各モードには、そのモード固有の強度分布および伝播
速度が存在します。導波管で持続可能な固有モードがどれであるか
ということ、またそれらの速度をデザイナが知ることは極めて重要
です。この場合、COMSOL Multiphysicsが重要な役割を果たし
ところが、従 来型デバイスを用いれば光バックボーンを減 速
ます。平面光波回路の設計は通常、導波管モード構造の分析、
させるような、ボトルネックを作り出すことになるでしょう。
すなわち導波管内の光の分布を調べることで開始されます。
もう1つ、別のボトルネックが大容量バックボーンとエンドユーザ
光 導 波 管 に沿った伝 播について確定 するには、指 定された
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含む、任意のジオメトリおよび屈折率コントラストの導波管に等しく
動作する適合メッシュ機能を用いて、彼の計算プログラムを補強
しています。これにはCOMSOLの可変サイズメッシュが大変便利
です。もしメッシュが不変であれば、彼はデバイスジオメトリの特定
領域に注目してその光学的特性を詳しく調べることができない
でしょう。可変サイズメッシュによって彼は、どんな要素の影響も、
それがどんなに微小なものであろうとも捕らえることができます。
例えば、最上部の金属電極層は20~200 nmの薄さですが、光
領域では極めて重要な要素です。それが導波管コア内の光の特性
に影響を与えるからです。
周期的な境界もまた関連する問題です。デバイスの幅いっぱいに
かなり多数の導波管が隣同士に並んでいることがあるかもしれま
図2 有限要素メッシュにより、主要部分が示されている通常の光デバイス。
せんが、メモリの制約と計算時間を考慮すれば、ほんの小さな区域
非常に高い屈折率を持つ中央の導波管コアは、クラッド材または充てん
のみで詳細なモデル化を実行するというのが理にかなっています
材で囲われています。このようにして、光コアチャネル内に光波を収容し
(図3)。COMSOL Multiphysicsにより、Bidnyk博士は、境界が各
ます。このようなチャネルは、それぞれ40 GHzもの光伝送速度に対応して
サイドでミラーとしての働きをするように境界を設定することがで
います。
き、コアが実際のデバイスで実際にどのように機能するかを近似しま
す。この近似は現実的な近似です。境界の影響を無視できるほど、
複素誘電率テンソルに関してマックスウェルのベクトル波方程式を
コアがデバイスの端から十分に離れているからです。したがって、彼
解く必要があります。6つの成分(3つの電界ベクトルと3つの磁界
はこれをこのソフトウェア内でモデル化する方法を見つける必要が
ベクトル )と 屈 折 率 分 布 の 複 雑 な 横 断 面 ジ オ メトリと が
ありました。
結 合して い るため にベクトル 波 方 程 式 の 解 法 は 恐るべき
計算課題を示すことになります。
ベクトルに関係のある現象の解析
COMSOL Multiphysicsのもう1つの重要な利点が、平面光波デバイ
任意の形状の導波管モデル
スの最重要問題の1つである、複屈折の解析支援です。最近似モデ
C O M S O L M u l t i p h y s i c s を 使 用して、E n a b l e n c e 社 の
ル化コードがマクスウェルの方程式をスカラ関数の問題として取
S er ge Bid nyk博士が、任 意 形 状 導 波 管のモデル化を成 功
り組みますが、電界や磁界はベクトルです。Bidnyk博士が対処
させるため、吸収、周期的、金属的、および 磁 気 的 な一 組の
している現実世界はベクトルに基づいています。彼はモデルを
境界条件を伴う有限要素法に基づいて、一連のアルゴリズムを
現実世界の条件で考察することを希望していました。幸運にも
作成しました。これらの構造の作成は複雑なものであってもかまわ
COMSOLモデルでは完全なベクトル記述が可能です。そのパッケ
ないのでコアを通 過する任 意の 強 度 分布を生成し、目的の
ージのおかげで、彼は電界および磁界の成分の結合や、それらが
スペクトル通過域性能を達成し、装置内に収まることを希望して
相互にどう作用しているかなどの、ベクトルに関係のある現象の発
います。設計およびモデル化の様々な段階の緊密な統 合は,
見に取りかかることができました。彼は特に偏光状態の研究を必
COMSOL Multiphysicsが非常に魅力的であることの1つの
要としています。光の偏光特性が、光ファイバケーブルを通した
要因となっています。彼は様々なデバイスジオメトリを作成する
伝送の間に不確定なものになるので、偏光と無関係に同じ動作
MATLABアルゴリズムを書きました。各形状に対してMATLABが
をするデバイスの作成を希望していますす。デバイスはどんな偏
COMSOL Multiphysicsを呼び出し、呼び出されたCOMSOLモデルは
光に対しても同じ処理をしなければなりません。
導波管モードおよびそれらの伝播特性を計算し、デバイスの
したがって、Bidnyk博士は不均質異方性材料の光モードを解く
性能を調べます。通常のデバイスシミュレ ーションで彼は、
ためにFEMアルゴリズムを一般化しました。これにより、導波管
4,000のメッシュ要素を用いて断面積の横断モデルの作成と
解析に機械的な応力を含めることができるようになり、ひいては
固有値を解 析します。指定したジオメトリに対してCOMSOL
異なった成長温度およびアニーリング温度での材料製造プロセス
モデルがモードの固有値解に達するまで約2分かかります。つまり
の影響をモデル化しました。このような計算により、平面光波回路
Bid nyk博士は1日か2日の間に数百のジオメトリを使 用して
における応力誘発性複屈折の正確な値が導き出されました。
シミュレーションを実行できるということです。確かに彼は
ジオメトリによる 、性 能 を モ デル 化し最 適 化 する 、2 つ の
プログラムの緊 密な 統 合について極 めて熱 心です。「 私は
実際に他のどんなツールの使用も考えることができない。他の
ものは統 合されたものとはほど遠 いし 、統 合で きることで
多 大 な 時 間 の 節 約 が も た ら さ れ る こ と に な る 。」
と説明しました。
Bidnyk博士は、非常に薄い層や複合コアで構成された導波管も
事実、Bidnyk博士は次のようにコメントしています。
「光学的処理
における最大の問題は、複屈折であり、これが光処理能力の向上
を阻んでいます。」複屈折は導光材の特性であり、このため屈折率
が様々な偏光に対して異なります。固有の複屈折は、製造プロセス
中、特に熱いウェハ材が冷却するときに発生する応力により、発生
します。
対照的に複屈折の「形成」はコアジオメトリによって変化する、
デザイナがある程度制御できる1つの変数です。そして、ここは
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複素数を用いた作業
このようなデバイスのもう1つの重
要な操作パラメータは、デバイス
が 光 波に対して行う減 衰または
増幅の程度です。これは、完全な
ベクトル 解 析を用いて電 磁 界 の
値 を 表 す だ け でなく、複 素 数 で
屈折率の値をも表 せるCOM SOL
Multiphysicsの重要な能力です。
Serge博士は屈折率の複素部分を
解 析し 、そ の 値 を用 いて 損 失を
予測します。デバ イスエンジニア
達は、製造中のコア材にドープを
行い、その増幅特性や減衰特性を
変 更 すること が で きま す。この
ようにしてS e r g e博士は、コアが
図3 C O M S O L は 、光 コ ア 内 の 指 定 さ れ た 光 周 波 数 に 対 す る モ ー ド 決 定 を 支 援
通 過する光 をどの 程 度 まで 減 衰
し ま す 。こ の 分 析 を 用 い て 、デ ザ イ ナ は ジ オ メ ト リ を 最 適 化 し 、最 良 の 伝 播
または増幅させるかを決めることが
特性 を 持 つ モ ー ド を 見 つ け る だ け で な く 複 屈 折 の 影 響 を 取 り 除 く こ と
できます。「多くのパッケージ は
も で き ま す 。こ の 画 像 は 、実 世 界 で の 効 果 を 近 似 す る 境 界 条 件 を 作 成 す る
複 素 数 をまったく受 け付 けない
た め に プ ロ グ ラム が ど の よ う に セ ットア ップ さ れ た か を 示 して い ま す。
でしょうが、COMSOLモデルなら
受 け 付 け ま す。そ の 結 果 、私 の
アル ゴ リズ ム は 任 意 の コ ア
C O M S O L M u l t i p h y s i c s が 極 めて 有 用 で あ ること が
わかる領 域 でもあります。このソフトウェアが 光をベクトル
として解析できるので、彼は複屈折の完全な記述を得ることが
できます。COMSOL 構造力学モジュールを用いて、デバイス
固有の複屈折の値を予測し、次に固有値を補償できる複 屈折
形 成 を 持 つ コ ア ジ オ メト リ を 見 つ け 、本 質 的 に 偏 光
の影響を受けないデバイスを作成することができます。
適切な光層ジオメトリを見つければ、ソフトウェアはすぐに他の
デバイス特性をモデル化することができます。例えば、デザイナは
デバイスの最上部の金属層を用いて、クラッド材の温度が上昇して
コア材にわずかな変化を生じさせるときの屈折率を変更すること
ができます。また、例えば光スイッチングを実行するために、光の
特性に対する金属電極の影響を利用できます。
C O M S O L M u l t i p h y s i c s は 、電 気 機 械 反 応 に よ る
熱運動を組み合わせるといった問題の解決に優れています。
熱 的、電 気 的、磁 気 的、または構 造 的に結 合された問 題を
解 決するというに止まらず、マルチフィジックス処 理 を 行う
た め 、極 端 な ジ オ メトリを 含 む カ ットオ フ 条 件 付 近 で
操作した問題を、この技術を用いてモデル化しました。
ジ オ メト リ に 対 して 減 衰 を
計 算 することが できます。」これら特 化した計算の多くは、
C O M S O L 内 に あ る用 意 され た 標 準 モ デ ル の 一 部 として
利用することはできませんので、Bidnyk博士はパッケージの
基礎的で、最も詳細なレベルで作業する必要がありました。結果
として、彼は最初の学習曲線でかなりの時間を費やしました。
: COMSOLのグラフィカルユーザインタフェースを使う代わりに
マニュアルレベルのAPIを直接呼び出して作業しました。この汎用
形式を用いて彼は、パッケージ内のすべての機能と変数にフル
アクセスし、
「COMSOLモデルと同じくらいに、シミュレーションエン
ジンに近づくことができたパッケージは他にないでしょう。」
と付け
加えました。例えば、この機能を用いて彼は、計算メッシュの局所
密度を操 作 するだけでなく、すべての境 界 の電 磁 場 特 性も
カスタム定 義することが できました 。また、Enablence社を
始め、様々な会社が様々な平面光波回路を設計するためにこれらの
技術を採用し、通信 業 界でこれらの技術の 妥当 性を 確 認し
ました。これらの回路は、Ga As(ガリウムヒ素)/AlGaAs(アルミ
ニウムガリウムヒ素)、InP(インジウム燐)、LiNbO3(ニオブ酸
リチウム)、silica-on-silicon(シリコンオンシリコン)、SOI(シリコンオン
インシュレータ)、金属、およびポリマーを含む幅広い材料の範囲に
及 んで お り 、中 に は 屈 折 率 の 虚 数 部 分 に 大 き な ゲイ ン
値または大きな吸収値を持つものも一部あります。
計測エンジニアリングシステム株式会社
TEL 03-5282-7040 03-5282-0808
http://www.kesco.co.jp/
[email protected]
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