レーシングカーのリアウイングの枚数とダウンフォースの関係

レーシングカーのリアウイングの枚数とダウンフォースの関係
9 班 西川航矢
1.はじめに
平風の流れに加えると、ウイングの上側の流速は
自動車レースで走るレーシングカーを見てみる
下側より遅くなる。よってベルヌーイの定理より、
と、多くの場合、車体後部にリアウイングが取り
ウイングの上側の圧力が下側より大きくなり、こ
付けられている(図 1 (a))。その主な目的は、ダ
の圧力差によってダウンフォースが生じる。
ウンフォース(空気力学的に生じる鉛直下向きの
なお、循環の大きさを𝛤とすると、クッタ=ジ
力)をより多く発生させることで、より速くカー
ューコフスキーの定理より、発生するダウンフォ
ブを走行できるようにすることである。
ース𝐹𝑑 は式(1)のようになる。また、クッタの条件
一方で、リアウイングを何枚も取り付けたりす
ることはない。その理由としては、車重や空気抵
から𝛤を一意に決め、さらに 3 次元に拡張すると、
発生するダウンフォース𝐹𝑑 は式(2)のようになる 。
抗の増大、車全体の安定性・安全性の問題、競技
𝐹𝑑 = 𝜌𝑈𝛤
規則による制限など、様々な問題点が考えられる。
…(1)
2
𝐹𝑑 = π𝜌𝑈 𝑆 sin 𝛼
それでは、仮にこれらの問題が解決したとき、
…(2)
何枚もリアウイングを取り付けたレーシングカー
は出てくるだろうか。つまり、リアウイングの枚
数を増やしていくことは、ダウンフォースを増や
(𝜌:流体の密度 、𝑆:ウイングの翼面積(ウイン
グを上から投影したときの投影面積))
すというリアウイングの目的を果たすのだろうか、
という疑問を私は持った。しかし上記の問題点か
ら、このことについてはあまり注目されていない。
3.解析方法
まず、レーシングカーの模型(図 1 (a))を実寸
そこで今回の研究では、数値シミュレーションに
大に拡大したときの寸法をもとに、「Solidworks
よってこの疑問を明らかにしていく。
2012」を用いて、CAD 上でレーシングカーのモ
デルを作成した(図 2 (a))。なお、簡単化のため
2.ダウンフォース発生の原理
1), 2)
(図 1 (b))
空中に置かれた水平から𝛼だけ傾いた幅𝑎の 2 次
に、ウイングの形状はすべて 1920 mm×360 mm
×24 mm の平板で、水平面に対する角度を5 °とし、
元の薄板のウイングに代表速度𝑈の水平風を流す。
ウイングの間隔(下のウイングの上面と上のウイ
すると、ウイングの後端から時計回りの渦が生じ
ングの下面との鉛直方向の距離)については、150
る。ここで、この流れは粘性の無い流体とみなせ
mm と 300 mm の 2 種類を作成した。また、車体
るので、ケルビンの循環定理よりウイングまわり
についても形状を簡単化した。
に反時計回りの循環が生じる(この循環はウイン
次に、
「ANSYS Meshing」を用いてメッシュを
グまわりにおける𝑢 − 𝑈 (𝑢:流速分布)の方向を
生成した(図 2 (b))。このとき、解析領域を 5 m
表す閉曲線に相当する)。このとき、この循環を水
(a)
1920
リアウイング
1056
車体
720
車体
4320
(b)
(b)
リアウイング
(a)
リアウイング
流速 遅➔圧力 高
循環
ウイング
流速 速➔圧力 低
図 1 (a) モデルとしたレーシングカーの模型
(b) ダウンフォース発生の原理(2 次元)
車体
図 2 (a) レーシングカーのモデル(間隔:150mm)
(b) レーシングカーのメッシュモデル(間隔:150mm)
ダウンフォース (N)
2000
(a)
間隔:
150 mm
間隔:
300 mm
1600
1200
800
74
60
40
20
車体
0
速度(m/s)
400
0
0
1
2
3
4
リアウイングの枚数(枚)
5
ウイング
合成前の循環
合成後の循環
(b)
循環の
合成
図 3 リアウイングの枚数とダウンフォースの関係
×5 m×10 m の直方体とし、境界の設定を、車に
ウイング
左右面を対象面、前面を流入面、後面を流出面と
図 4 (a) 流速分布(間隔:150 mm、ウイング:5 枚)
(b) 想定されるウイングまわりの循環(2 枚のとき)
した。また壁面と車体の底との間隔を 0 とし、か
二つ目は、各ウイングまわりの循環の干渉であ
乗った人から見て下面を壁面、上面を遠方境界面、
つレーシングカーが壁面の中央にくるようにした。
る(図 4 (b))。図 1 (b)のときと同様に水平風を流
そして、生成したメッシュモデルを「ANSYS
すと、それぞれのウイングまわりには反時計回り
Fluent」を用いて数値シミュレーションで解析し、
の循環が生じると考えられる。ここで、各ウイン
ウイングの間隔が 150 mm および 300 mm の場合
グの隙間に着目すると、それぞれの循環の向きが
について、ウイングの枚数を 1 枚ずつ下から上に
逆になっている。そのため、隙間付近に生じた各
鉛直方向に増やしていくときに、リアウイングに
循環の流れは相殺しあい、循環が合成されると考
よって発生するダウンフォースの合計を求めた。
えられる。このとき、合成後の循環の大きさ𝛤は、
このとき、solver の条件を圧力ベース、非定常と
合成前と比べて小さくなる。これにより式(1)から、
し、乱流モデルの 1 つである k-εモデルで解析し
ダウンフォースの値は、枚数に比例するときの値
た。また、流入面の流速を 50 m/s(180 km/h,
より小さくなったと考えられる。
7
Re = 1.48 × 10 )、流入面に対する流出面の質量流
量の割合を 1 とした。
最後に、間隔が 150 mm と 300 mm のときの結
果を比較すると、300 mm のときの方がダウンフ
ォースが大きく、枚数を増やしたときのダウンフ
4.解析結果と考察
ォースの増え方も大きい。その主な原因としては、
リアウイングの枚数とリアウイングによって発
一つは各ウイングと車体との間隔が広がり、車体
生したダウンフォースの合計との関係をグラフに
付近の流れの影響が小さくなったこと、もう一つ
すると図 3 のようになった。
は各ウイング同士の間隔が広がり、循環の干渉の
まず、ウイングの枚数を増やすとダウンフォー
影響が小さくなったことであると考えられる。
スは増加した。これは、枚数が増えたことでウイ
ングの翼面積 𝑆 が増えたためであると考えられる。
5.おわりに
ここで式(2)によると、ダウンフォースはウイン
リアウイングの枚数を鉛直方向に増やすと、車
グの枚数(∝ 𝑆) に比例するはずである。しかし
体付近の流れおよび各ウイングまわりの循環の干
図 3 のグラフでは、ダウンフォースは枚数に比例
渉により比例関係のときと比べて増え方は小さく
せず、その傾きは比例関係のときより小さい。そ
なるが、ダウンフォースは増加する。よって、リ
の原因としては主に以下の 2 つが考えられる。
アウイングの枚数を増やすことは、ダウンフォー
一つ目は、車体付近の流れである。図 4 (a)から、
スを増やすというリアウイングの目的を果たす。
車体まわりの流速の遅い領域の影響により、下側
2 枚と上側 2 枚のウイング付近の流速が有意に異
参考文献
なることがわかる。このことから、枚数を増やし
1)今井功,流体力学(物理テキストシリーズ 9),岩
ていくとウイング付近の平均流速は変化すること
になるので、ウイングの枚数とダウンフォースは
比例関係にならなかったと考えられる。
波書店(1993).
2)松田卓也,飛行機はなぜ飛ぶのかまだわからない??
http://jein.jp/jifs/scientific-topics/887-topic49.html