特定・一般高齢者の転倒・認知症予防運動(スクエア

○平成23年度奨励研究
「特定・一般高齢者の転倒・認知症予防運動(スクエアステップエクササイズ)に
対するポピュレーションアプローチによる集団作業療法介入に関する検討
-性別による抑うつと自己効力感に焦点化して-」
作業療法学科 助教 真田 育依
1.研究目的
転倒・認知症予防における事業は全国の様々な自治体において実施されており,報告数も多くなって
きている.また,交流サロン,転倒予防教室,認知症予防教室などの介護予防事業が参加者のその後の
医療費や介護費用の伸びを大きく抑制し,費用対効果の極めて優れた保健事業であることも示されてい
る.
我々は4年間、本奨励研究費に基づき筑波大学大学院人間総合科学研究科大藏研究室とのポピュレー
ション・リサーチ・コラボレーションにより茨城県笠間市3地区の在宅高齢者に対する心理社会面に着
目した作業療法介入による、転倒・認知症予防のプログラムを実施してきた。しかし、参加者としては
圧倒的に女性が多く、特定および一般高齢男性に対しての効果は明らかにされていない。また高齢男性
に対する教室の効果に関する研究もまだ少ないのが現状である。今まで全176名の参加があり、本教室
を通して特定・一般高齢者共に抑うつ状態や自己効力感の向上を示唆する結果を得ている。
本研究の目的は,地域在住高齢者と一般高齢者に対する認知症および転倒予防プログラムとして開発され
たスクエアステップエクササイズ(Square-Stepping Exercise;以下SSE)に関する抑うつと自己効力感を性別
に関して検討することである.
2.研究方法
対象は,20-23年度に1クール3ヶ月間のSSE教室に参加した特定男性・女性群と一般男性・女性群のうち,全
ての検査を完遂した104名(特定男性群5名:平均年齢74.4±7.1歳,特定女性群25名:平均年齢71.6±4.1歳,
一般男性群9名:平均年齢73.8±4.6歳,一般女性群65名:平均年齢70.3±4.0歳)であった.両群間に年齢の
有意差はなかった.対象者はすべて以下の3条件を満たす者であった.
1)茨城県K市K地区およびT地区在住の在宅高齢者
2)健康増進事業および介護予防事業にて毎週開催される運動教室に3ヶ月間継続参加したもの
3)説明の上,同意が得られたもの
評価尺度は,抑うつ度(Geriatric Depression Scale:以下GDS)と自己効力感尺度(成田らが開発した特性的
自己効力感尺度:以下自己効力感)である.
教室の頻度は週1回,2時間の計7回であった.
プログラムは,
① ウォーミングアップ(15~20分)
② 大藏らが開発したSSEを用いた転倒・認知症予防プログラム(30分)
③ ボールやタオルを使用したゲーム感覚を取り入れた集団体操(20分)
④ クールダウン(10分)
⑤ 骨格標本を用いた健康講話(30分)から構成されていた.
教室の運営方針は以下の4つとした.
①参加者のポジティブな面を強調する発言を遵守した
②認定テストを実施する機会を設け,モチベーションを高めた
③参加中,一度は全ての参加者同士のコミュニケーションを促した
④健康講話を通した自己の日常生活における健康維持への啓発を促した
本研究は筑波大学研究倫理審査委員会の承認後,質問用紙への記入をもって,回筓に同意を得たものとし
た.
各群における教室前後のGDSおよび自己効力感について比較した.以上の解析にはStatviewJ-5.0を用い、
有意水準は5%未満を有意差あり、5%以上10%未満を有意な傾向ありとした。
3.研究結果
教室前後において,GDS-15については特定女性群のみ有意な改善傾向がみられた(p=0.076)(表1).自
己効力感については一般女性群のみに有意な向上が認められ(p=0.003),一般男性群に有意な改善傾向が
みられた(p=0.096)(表2).
表1 教室前後における GDS-15の比較
特定高齢者
一般高齢者
pre
post
p値
男性(n=5)
4.2±4.4
6.0±3.2
0.279
女性(n=25)
5.2±4.2
4.4±4.0
0.076
男性(n=9)
3.8±2.1
3.7±3.9
0.888
女性(n=65)
4.1±3.1
3.6±2.8
0.188
*
*:p<0.1
表2 教室前後における自己効力感の比較
特定高齢者
一般高齢者
pre
post
p値
男性(n=5)
69.0±10.3
67.8±10.7
0.715
女性(n=25)
73.1±17.5
74.0±14.8
0.678
男性(n=9)
75.0±11.2
77.9±10.4
0.096
*
女性(n=65)
73.7±13.7
76.9±14.0
0.003
***
*:p<0.1
***:p<0.01
4.考察(結論)
特定群においては抑うつというネガティブな側面が改善し,一般群においては自己効力感というポジ
ティブな側面がより向上するという結果は昨年の報告した内容と一致した.しかし、今回新たに両パラ
メータにおいて男性の特定高齢者については改善が認められず、教室運営において、性別と心身機能の
特徴を考慮する必要があると考える.本エクササイズが高齢者の心理社会機能に関係することが示唆された
が,対象となる高齢者の属性により効果の現れやすい心理社会機能は異なることが予測される.特定高齢者と
一般高齢者が混在した認知症・転倒予防教室においては,それぞれの特徴を考慮した介入の必要性が示唆さ
れた.
5.成果の発表(学会・論文等,予定を含む)
第12回日本認知症ケア学会(横浜)と第45回日本作業療法学会(埼玉)にて結果の一部を発表した。本研究は
2012年1-3月の結果を加えて日本作業療法士協会の「作業療法」に投稿予定。
6.参考文献
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