室内人工照明設計支援ツールの研究開発 大信田司朗(黒沢研究室)

室内人工照明設計支援ツールの研究開発
大信田司朗(黒沢研究室)
1.研究の背景及び目的
蛍光灯が本格的に普及して以来、人々は照明に見やす
さを求めてきた。そのため照明計画は、見やすい明るさ
を確保することを目的に行われてきた。しかし、近年、
人々の生活スタイルは多様化し、良質な住生活、住空間
に対する人々の欲求が高まってきている 1)。こうした動
向は照明にも無関係ではなく、特に住宅の照明では、単
に明るいだけの照明ではなく、
「行動にあったものにした
い」、「気分や行動により暗くてもよい」というように、
状況や好みに合わせた照明を求めるようになってきた 2)。
しかし、人々の置かれる状況、照明に対する嗜好は、各
個人よって多様である 3)。つまり、就寝の際に、多少暗
めの照明を求める人もいれば、明るい照明を求める人も
いる。室内全体が明るくなるような照明を好む人もいれ
ば、スポットライトを用いた局部的に明るい照明を好む
人もいる。従って、設計者の側から、各個人に合わせた
照明設計を提案することは困難なものとなっている。
こうした背景のもと、最近は施主自らが一般向け照明
デザインソフト 4)を用いて、照明設計を行うようになっ
てきている。また、パソコンの普及により、このような
ソフトウェアの需要が伸びてきている。その結果、設計
会社、建築事務所などもソフトウェアを導入し、施主と
建築家とのイメージの橋渡しとして利用されている。し
かし、現在の一般向け照明デザインソフトは、専門家が
使う照明デザイン専用ソフトとほぼ同等の機能を有し、
照度の設定や光源の位置の決定など、実際の設計行為の
際には、専門知識に裏付けられた判断が必要とされる。
そのため、専門知識を持たない一般ユーザー5)にとって
は扱いづらく、適切な照明設計ができない可能性が高い
ことが指摘される 6)。
以上の問題を踏まえて、本研究では、一般ユーザーに
よる照明設計の支援を目的とした、照明プラン検索シス
テムの提案を行う。具体的には、専門知識を持たない一
般ユーザーでも、照明環境に関する条件を設定するだけ
で、適切な照明プランを引き出せるような照明プラン検
索システムを提案する。
2.研究方法
2.1 照明プランの決定要因の整理
前述したとおり、本研究では、一般ユーザーによる照
明設計の支援を目的とした、照明プラン検索システムを
提案することである。従って、適切な照明のあり方と、
照明のあり方に影響する要素との関係を明確にし、事前
に、適切な照明のあり方を準備しておく必要がある。そ
こで、照明環境と人間の生理的、心理的影響の関係につ
いての既往文献を整理し、照明のあり方に影響する要素
の抽出を行う。なお、以降本研究では、適切な照明のあ
り方を「照明プラン」と呼ぶ。また、照明環境に影響す
る要素が照明プランを決定する要素であることから、照
明環境のあり方に影響する要素を「決定要因」と呼ぶこ
ととする。
2.2 照明プランの作成
2.1 で抽出された照明プランの決定要因を受けて、光
源の種類や数、照明の配置方法などを決定し、照明プラ
ンを作成する。
2.3 照明プランの検索システムの検討
2.3.1 検索項目の整理
基本的には決定要因が検索条件となるが、一般ユーザ
ーに分かり易いことを条件に、本検索システムで使用す
る検索項目を精査する。
2.3.2 検索項目のインプット方法の検討
インプット方法には、文字入力による方法やチェック
ボックスなどをクリックする方法など幾つかの種類があ
る。既存検索システムを参考に、本検索システムで使用
するインプット方法を検討する。
2.3.3 アウトプット方法の検討
既存検索システムや文献、雑誌を参考に、本検索シス
テムのアウトプット方法を検討する。その結果、本検索
システムのアウトプット方法は、3 次元コンピュータグ
ラフィックス(以後 3DCG)画像による方法を採用するこ
ととなるが、その画像の再現性、現実感、及び視点の位
置についても、文献や既往研究をもとに検討する。
2.3.4 プログラム言語、データベースの検討
プログラム言語は、教育用、一般アプリケーション用、
科学技術計算用といったように、目的によって様々な種
類がある。また、前述の通り、本検索システムでは、3DCG
画像によるアウトプット方法を採用する。従って、その
画像を格納するためのデータベースが必要となるが、デ
ータベースにも様々な種類がある。ここでは、本検索シ
ステムの運用方法を考慮して、本検索システムで使用す
るプログラム言語、データベースを検討する。
3.研究の結果
3.1. 照明プランの決定要因
照明環境と人間の物理的、心理的影響との関係に関する
文献 7)8)により、「室の種類」と「光源の数」、「光源の配
置」との関係が示されている。例えば、住宅は、リビン
グ、ダイニング、キッチンなど様々な用途を持った個室
で成り立っているが、各室ごとに必要とされる明るさや
照明の配置が異なる。つまり、寝室は着替えなどの簡単
な作業を行えるだけの照度が得られれば良いが、就寝す
るときや夜間に目が覚めたときなどは、周辺を見ること
ができるような照度を必要とする。
また、小林 9)、國島 10)、李 11)によって、
「生活行為の内
容」、「行為を行う人数」と「光源の配置」、「光源の数」、
「光源の種類」との関係が示されている。小林は、明る
さと均一性と生活行為の関係を調べ、行為によって必要
とされる明るさや照度の均一不均一の程度(光源の配置)
が異なることを明らかにしている。また、國島は、生活
行為と天井照明の関係を検討し、行為が、照明の位置、
個数、光源の種類に影響をあたえることを明らかにして
いる。李も上述の二人と同様な結果を得ており、例えば、
休息をとる行為では照明の個数は少なく、頭上にはなく、
白熱灯を用いることを推奨している。なお、使用してい
る言葉は若干異なるが、いずれの研究も、生活行為の評
価軸を「個人的-対人的」といった行為を行う人数によ
るものと、
「リラックス-集中」といった行為の内容によ
るものとに分類し、その分類ごとに適した照明のあり方
を提案している。
また、竹内 12)、梁瀬 13)、中村 14)、横田 15)、中山 16)、三
木 17)によって、
「照明に求める雰囲気」と「光源の配置」、
「光源の種類」との関係が明らかにされている。
竹内は、光の分布が及ぼす心理効果を調べた結果、光
の分布(光源の配置)が室の雰囲気に影響を与えること
を明らかにした。梁瀬は、居間における天井照明と室内
の雰囲気との関係を調べた結果、室内の雰囲気は、光源
の面積(照明の配置、光源の数)、光源の種類、光源の数
の影響をうけることを明らかにした。また、中村、横田、
中山も、竹内、梁瀬らと同様の結果を得ており、例えば、
光源の面積(光源の配置、光源の数)が大きくなれば、
室内の雰囲気は活動的なものとなるということが述べら
れていた。三木は光の方向性と室内の雰囲気との関係を
調べ、室内の雰囲気は照明の高さの影響を受けることを
明らかにしている。例えば、光源を低位置に配置すると、
落ち着いた雰囲気が得られることとなる。なお、各研究
の印象評価実験で使用されている室の雰囲気を表す形容
詞には、それぞれ若干使用する言葉の違いはあるものの、
「落ち着き-活動性」、「リラックス-集中」の 2 つの評
価軸が用いられていた。そして、この 2 つの評価軸ごと
に照明のあり方が提案されていた。
また、李 18)、廣瀬 19)、國嶋 20)は、「生活行為」と「照
明に求める雰囲気」との関係、およびこれらと「光源の
配置」との関係を明らかにしている。李、廣瀬、國嶋は、
共に行為と雰囲気と光源の数、種類、照明の配置の関係
を調べ、行為には適した雰囲気があり、また、それにあ
った光源の数、種類、照明の配置方法があることを明ら
かにした。一例を挙げれば、
「パーティーをする」行為を
行う場合は、
「活気がある」、
「変化のある」雰囲気が求め
られ、この雰囲気を演出できる「局部照明」が好ましい
ということが提案されている。
・個人的-対人的
・リラックスー集中
以上をまとめると、照明プランの決定要因には、
「室の
種類」、「室に求める雰囲気」、「行為の内容」、「行為を行
う人数」を挙げることができる。これらの決定要因によ
って、望ましい「光源の種類」、「光源の数」、「照明の配
置」が決定される(図 3.1)。
3.2 照明プランの作成
前項で抽出した照明プラン決定要因に則って、光源の
配置、光源の種類、照明方式、照明の数を決定し照明プ
ランを作成した。なお、本研究ではプログラム作成の都
合上、室の種類と部屋の広さを制限することとした。す
なわち、部屋の種類はリビング、リビングダイニングの
2 択とした。
なお、リビングを選択した理由は、照明が重視される
室である 21)こと、多くの研究が行われているからである。
また、リビングの広さは一般型誘導居住水準 22)を例に 10
畳とした(図 3.2)。リビングダイニングを選択した理由
は現在の住宅、集合住宅において一般的な生活空間とな
っているからである。また、リビングダイニングの広さ
は集合住宅におけるリビングダイニングの平均的な広さ
である 15 畳とした(図 3.3)。
図 3.2
リビングベースモデル
照明の要素
行為
光源の数
(明暗)
光源の種類
(色)
光源の配置
(均一性)
雰囲気
・落ち着き-活動性
・集中-リラックス
図 3.3
照明プランの決定要因
図 3.1
部屋の種類
照明プラン
の構成要素
リビングダイニングベースモデル
照明プランの決定要因
照明プランの決定要因の関係
1)光源の種類と配置、照明方式の決定
前述したとおり、行為や室の種類、望まれる雰囲気ご
とに求められる光源の配置方法や光源の種類が変化する。
家の中でも最も多目的な空間であるリビング 23)の目的
を満足させるには、その使い方にあわせて調節できる照
明装置にしておくことが望ましい。つまり、全般照明に
加え、ダウンライト、スポットライト、スタンドのよう
な補助照明を用いて局部的に明るくできるような 1 室多
灯の照明環境が望ましい。そこで、本研究では、蛍光灯
による全般照明(50lx~200lx)に加え、補助照明として
白熱灯を光源とするダウンライト、スポットライト、ス
タンド(200lx~500lx)を用いた照明パターンを準備し
た。
リビングダイニングの照明プランを作成するに当たり、
機能が明確である、ダイニングの照明プランを把握した。
ダイニングは食事をする場であると同時にくつろぎや休
息の場でもある。従ってダイニングでは落ち着いた雰囲
気を演出しやすい間接照明と、テーブルの上を明るく照
らせるペンダントのような部分照明を併用するのが望ま
しい。また、食べ物をおいしそうに見せることを配慮し
た光源を選ぶことも必要である。従って、リビングダイ
ニングは一室多灯とし、テーブルに向けて白熱灯や電球
色の蛍光灯を光源としたダウンライト、スポットライト、
スタンド、ペンダント(200lx~500lx)を用いた照明パ
ターンを作成した。
2)照明の数の決定
前述の通り、行為、望まれる雰囲気、室の種類ごとに、
必要とされる明るさ、すなわち光源の数が変化する。し
かし、一方で部屋の種類ごとに日本工業規格(JIS Z9110)
で照度基準が定められている。また、松下電工、TOSHIBA
などの各メーカーのカタログ 24)25)、ならびに照明設計資
料 26)によれば、部屋の広さとワット数のおおよそ目安が
あり、一畳辺りに必要な明るさは、蛍光灯で 10~15W(ワ
ット)、白熱灯では 30~40Wとされている。従って、本
研究では、日本工業規格による照度基準や各照明メーカ
ーの資料を参考に、異常な照明環境にならないよう、室
の雰囲気、部屋の種類、各行為に適した光源の数を設定
して照明プランを作成した。
3.3 照明プランの検索システムの検討
3.3.1 検索項目の整理
「3.1 照明プランの決定要因」を受けて、検索項目を
以下のように設定した。
前述の通り、室の種類が異なると光源の数や配置が変
わる。また、照度基準や照明メーカーの資料により、室
の種類ごとに必要な明るさ、すなわち光源の数が定めら
れている。よって、検索項目に『室の種類』を設定した。
既往研究より、行為に適した光源の数や配置が存在す
ることが示されている。したがって、照明プランの検索
項目に『行為』を設定する。なお、その内容は、既往研
究を元に「睡眠、テレビ鑑賞、パーティー、読書、映画
鑑賞、団らん、新聞・雑誌を読む」とした。また、既往
研究により、行為は「個人的-対人的」といった軸で大
きく二分され、その行為を行う人数によって光源の数や
配置が変わることが示されている。したがって、検索項
目に『行為を行う人数』を設定する。
前述の通り、望まれる雰囲気によって、照明の数や種
類が変わる。例えば、リビングで映画を見る場合、その
映画の内容がシリアスな映画であれば、
「落ち着いた雰囲
気の照明」で見るのが良いが、逆にエキサイティングな
内容の映画であれば、
「活動的な雰囲気の照明」が適して
いる。また、そのときの気分や人によってはシリアスな
映画を「活動的な雰囲気の照明」で観賞する場面も想定
される。このように、行為が同じく映画鑑賞であっても、
その場の人間の求める室の雰囲気によって、様々な照明
プランが考えられる。従って、検索項目に『望まれる雰
囲気』を設定する。なお、既往研究により、雰囲気は「集
中-リラックス」、「静か-にぎやか」といった軸で評価
されることが示されている。しかし、
「集中-リラックス」
については、行為と密接に結びついた要素である。よっ
て、「集中-リラックス」の違いによる照明への影響は、
上記の行為による選択結果の中に反映させている。よっ
て、望まれる雰囲気の検索項目には『静か-にぎやか』
のみを設定する。
以上の『室の種類』、『行為』、『行為を行う人数』、『望
まれる雰囲気』の 4 つの検索項目は既往文献によって導
き出されたものである。本研究では、この 4 つの検索項
目に加えて、
『予算』を設定している。というのは、予算
を掛ければ、照明の数や種類を増やし、最良な照明環境
を作ることは可能である。しかし、現実には予算に限界
が存在し、その範囲で照明計画を行う必要がある。よっ
て、本研究では、検索項目に「予算」を設定することと
した。ただし、照明メーカーや施工会社によって金額に
若干の差異が生じるため、具体的な金額は出すことは難
しい。そこで、本検索システムにおいては、
「安い・普通・
高い」の 3 段階評価を採ることとした。
以上をまとめ、図 3.4 に検索項目と検索結果の関係の
概念図を示す。図では「行動」、「雰囲気」、「人数」の軸
だけであるが、実際は「予算」、「部屋の種類」も加わり
5次元となるため、図では表すことはできない。
「人数の大小」軸
「雰囲気」軸
「行為」軸
選択
イメージ写真
人数1人の写真群
人数2人の写真群
人数3人以上の写真群
図 3.4
選択された写真
検索条件と検索結果の関係を示す概念図
3.3.2 検索項目のインプット方法の検討
1) 部屋の種類による検索(図 3.5 ①参照)
部屋の種類が異なれば、光源の数や種類、配置方法の
みならず、配置する家具の種類など部屋の見た目もがら
りと変わるため、インプット方法にタブを採用し、検索
画面を切り替える方法を採ることとした。
2) 予算による検索(図 3.5 ②参照)
本来、予算は具体的な金額で選ぶ方法が好ましい。し
かし、先に述べたとおり、照明メーカーや施工会社によ
って金額に若干の差異が生じるため、具体的な金額を提
示することは難しいので、本検索システムにおいては、
「安い・普通・高い」の 3 段階評価とすることとしてい
る。従って、コストは「高い-安い」で選択できるよう
にスライダー方式を用いることにした。
3) 具体的な行為による検索(図 3.5 ③参照)
行為は、選択できる項目が一覧できるようにラジオボ
タンを用いて、一覧表示から選択できるようにした。
4) 行為を行う人数の検索(図 3.5 ④参照)
人数は少なければ、具体的な数値で表すことができる
が、人数が多くなれば、その範囲を絞ることができない。
しかし、既往研究によれば、人数による心理への影響は、
個人的か対人的か、すなわち一人か二人か大勢かという
幅を持って顕れるので、具体的な人数で示すのではなく、
「個人的―対人的」の範囲内で選択できるようにスライ
ダー方式を用いることとした。
5) 雰囲気による検索(図 3.5 ⑤参照)
室の雰囲気の選択にはスライダー方式による 5 段階評
価を用いた。これは、照明環境と望まれる雰囲気に関す
る既往研究のなかで、雰囲気の評価に SD 法の 5 段階評
価が採られていたことに起因している。
リビング
リビングダイニング
①
リビングダイニングの照明プランが選択できます。
予算を選択してください。
安い
高い
◎テレビ鑑賞
◎パーティー
◎読書
◎映画鑑賞
◎団らん
③
◎新聞、雑誌を読む ◎食事
行為を行うときの人数を選択してください。
④
個人的
2)アウトプット画像の再現性及び、現実感の検討
作成した 3DCG 画像の再現性、現実感を考慮して、ど
の程度の画質で出力することが望ましいかを検討した。
3DCG 画像の再現性、現実感に関する研究は、CG の現実
感認知に関する研究 28)、バーチャルリアリティ(以後 VR)
を用いた実空間再現性の検討の研究 29)、仮想空間の疑似
体験に関する研究 30)などがある。これらの研究によると、
3DCG および、VR において、高さ、幅、寸法感は実大空間
での大きさ感の把握の精度範囲内でおさまり、十分な再
現性があるという知見が得られている。
また、CG の現実感はモデリング精度(ポリゴン数)に強
く影響受ける。しかし、必要以上にモデリング精度を上
げても、その効果は薄いことが示されている。実験で使
用された 3DCG 画像の最大ポリゴン数は「6506」であり、
本稿で作成した 3DCG 画像のポリゴン数はすべて「10000」
以上のため、十分な現実感が得られているといえる。な
お、テクスチャ画像容量はディスプレイの見た目の鮮明
さに左右されるため、再現性、実現性に影響しないとい
う結果がでている。しかし、本稿においては 15インチ
程度の画面でも十分に繊細な画像が表示できるようにす
るため、1200×800 ピクセル程度のサイズで 3DCG 画像を
作成した。
②
行う行為を選択してください。
◎ 睡眠
在、照明計画のプレゼンテーションに良く使用されてい
る方法であり、一般ユーザーにとって照明環境が最も把
握し易い方法だといえる。なお、3DCG 画像の作成には、
インテリアシミュレーションソフトとして、業務用、個
人用共に普及率の高い 27)メガソフト社の3D インテリア
デザイナーPRO2 を使用した。また、画像の保存は、ファ
イル容量が少なく画質のよい JPEG 方式を用いた。
3)画像の視点位置
3DCG 画像の視点は、建築雑誌内の室内写真や既往研究
の模型実験の視点位置にならって、部屋が最も長く見え
る壁の中心から、反対側を見る視点とした(図 3.6)。こ
の視点は、偏りのない形で照明を見ることができるよう
な視点であるので、照明の評価においては適切な視点で
あると考えられる。なお、視点の高さは日本人の平均的
な高さである 150cm とした 31)。
対人的
行為を行うときの雰囲気を選択してください。
静か
にぎやか
⑤
検索
図 3.5
検索画面
3.3.3 アウトプット方法の検討
1)アウトプット方法の選択
照明プランのアウトプット方法としては、3DCG 画像に
よる表示、天井伏図による表示、テキストによる表示な
どがあるが、本検索システムのアウトプット方法には
3DCG 画像の提示を採用することとした。3DCG 画像は、現
図 3.6
視点位置
3.3.4 プログラム言語、データベースの検討
本検索システムは数多くの施主に利用してもらえるよ
うに、また施主が照明設計を行ってもよいのだというこ
とを広く認知させるため、利便性を考慮して、インター
ネットでの利用を考え。そのためには、様々な種類のパ
ソコン、OS でも利用できるプログラム言語である必要が
ある。
従って、これらの条件を考慮し、本検索システムのプ
ログラム言語は、米 Sun Microsystems 社の JAVA 言語 32)
を使用した。また、プログラム言語としては、扱いやす
い言語であるため、今後の開発を容易に進めることがで
きる。
本検索システムのデータベースはスウェーデンの
MySQL AB 社の「MySQL」を用いた。MySQL を選択した理
由は、世界的に人気があること、無償で使用できること
である。
なお、検索項目を選択仕損なった場合、本来は照明プ
ランを絞り込む条件が少なくなっただけなので、複数の
照明プランが出力されることとなる。しかし、本検索シ
ステムには、まだ多数の画像を表示する機能を盛り込ん
でいないため、エラーが出るように設定している。
①
②
3.3.5 照明プラン検索システム
ここでは、本検索システムの構成、及び使用方法につ
いて述べる。
また、本システムは JAVA 言語を用いて作成したため、
本検索システムは 8 個のクラスから構成されることとな
った。表 3.1 に各プログラムの概要を示す。
表 3.1
クラス名
クラス名
③
④
※
プログラム概要
プログラムの
プログラムの役割
LightingSerch.java
検索システムをまとめ、コントロールする
Li vingSerch.java
リビングの照明プランを検索する
LivingDining.java
リビングダイニングの照明プランを検索する
LivingData.java
リビングの照明プランのデータベースから選択さ
れたデータを取り出す
LivingDining.java
ダイニングリビングの照明プランのデータベース
から選択されたデータを取り出す
ImagePanel.java
各データベースから取り出された照明プランの
CG画像を検索画面にサムネイル表示する
ShowImage.java
検索画面のCG画像をクリックしたとき原寸大表
示する
PicturePanel.java
原寸大に表示されたCG画像を拡大、縮小、回転
する
次に、本システムの使用方法を述べる。図 3.7 は本シ
ステムを使用して、検索した結果の画面である。起動し
たときは、検索結果の 3DCG 画像が表示されていない。こ
の状態で、始めに、
「部屋の種類」を選択する。図 3.7 ①
参照)。続いて、
「行為」、
「行為行うときの人数」、行為を
行う際の「雰囲気」をそれぞれ選択する(図 3.7 ②参
照)。各項目を入力したら、検索ボタンをクリックする(図
3.7③参照)。
その結果、各項目でインプットしたデータがデータベ
ースに送られ、検索結果として、検索ボタンの隣に 3DCG
画像が表示される(図 3.7 ④参照)。そして、表示され
た 3D 画像をクリックすると拡大表示され、3DCG 画像を
鑑賞することができる(図 3.8)。以上が、本検索システ
ムの使用方法である。
※
検索ボタンが押されるまでは、何も表示されていない
図 3.7
検索照明プラン結果
図 3.8
照明プランの拡大表示
4.まとめ
照明環境に関する複数の既往研究を整理、分析する
ことで、照明環境と人間の物理的、心理的影響との関係
を明確にし、これに基づいて照明プラン検索システムを
作成した。従来の照明設計では建築照明に関する専門知
識を必要としたが、本照明プラン検索システムにより、
一般ユ—ザーでも予算や部屋の使用方法などの簡単な条
件を設定するだけで適切な照明プランを得られるように
なった。
今後の課題としては、部屋の種類や広さ、使用する家
具などの選択肢を増やすことが挙げられる。加えて、照
明器具の違いが人間の心理に影響を与える可能性の有無
など、既往研究では指摘されていない検索項目について
も、更に検討していく必要がある。
注釈及び参考文献
わせて、LD+K型の間取りがとられた。また、家族の団らんが見直
1) 「経済的豊かさ」よりも「心の豊かさ」、
「所得・収入」よりも「余暇・
され、食事の場を重視して、もっとゆったりと落ち着いた空間にしよ
自由時間」を重視し、また「自分らしさ」を求めるなど、人々の価値
うという傾向も強まってきた。独立したDの空間を設けるところまで
観が変化してきている。快適生活ビジョン研究会編:信連携時代の快
はいかないにしても、食事だけでなく団らんもできるような家具を使
って、食事の場をもっと楽しい場所にしていこうという方法もとられ
適生活ビジョン、ぎょうせい、1996
2) 佐藤、当摩、中山:住宅照明の基礎調査
その1、照明に対する意識
24)
と実態、照明学会全国大会、pp.291-292、1994
3) 熊澤貴之、中村芳樹:光環境の認識における個人差
るようになった。
室内光環境の認
25)
識に及ぼす体験の影響(1)日本建築学会計画系論文集、No.534、
松下電器産業株式会社
2002/5
東芝ライテック株式会社
2002-2003
pp.77-82、2000.8
ナショナルマ-ケティング本部:National
ランプ総合カタログ、照明社、2002.5
電材照明社:TOSHIBA
施設・屋外照明
CATALOGUE
4) 厳密にいえば、一般向けの照明デザイン専門のソフトというものは存
26)
松下電工株式会社
在しないので、一般ユーザーは、住宅設計ソフトの中に組み込まれた
27)
メガソフト社の 3D インテリアデザイナーは本稿で使用した業務用
電気マーケティング部:照明設計資料、1997.1
照明設計機能を用いて照明設計を行っている。本稿では、住宅設計ソ
の他に機能、素材数を限定した安価な個人用がある。これらは、発売
フト内の照明設計機能を指して、照明デザインソフトと呼んでいる。
から約 2 年で 10 万本以上売り上げており、この種類のソフトでは最も
一般向けのインテリアデザインソフトはメガソフト、インフィニシス、
ライラックシステム、エー・アイ・ソフトなどから販売されている。
普及しているソフトである。
28)
稲本淳平、吉澤望、宗方淳、平手小太郎:室内視環境シミュレーシ
各メーカーとも発売から 10 年程経つが、現在でも、最新版が発売され
ョン手法としてのコンピューターグラフィックスコンピュータグラフ
続けている。また、当初は一般向けに作られたソフトウェアだが、そ
ィックスの現実感認知に関する研究、日本建築学会計画系論文集、
No.569、pp.41-47、2003.7
の需要から、後に各社とも業務用の発売を行った。
5) 本研究が対象とした一般ユーザーは、施主、すなわち、これから照明
29)
吉澤望、稲本淳平、平手小太郎、大山能永、小野浩史:バーチャル
器具を設置しようとする人である。また、照明(研究)の専門家では
リアリティを用いた住環境提示システムにおける実空間再現性の検討
なく、建築(意匠)設計者、インテリアデザイナー、電気設備設計者、
被験者実験による明るさ感、空間の大きさ感、寸法感、現実感の検証、
日本建築学会計画系論文集、No.550、pp.87-93、2001.12
建築計画系研究者などで、照明に関心のある方々である。
6) 鹿倉智明、小林茂雄:私でも設計できます(照明設計支援ツール)、照
柴野伸之:照明に彩られた仮想空間を疑似体験する、照明学会誌、
第 83 巻第 1 号、1999
明学会誌、第 83 巻第 1 号、1999
7) 中島龍興、近田玲子、面出薫:照明デザイン入門、彰国社、1995.8.30
8) 社会法人日本建築学会:光と色の環境デザイン、オーム社、2001.6.1
9) 小林茂雄、乾正雄、中村芳樹、北村麻子:室内環境照明の明るさ、均
一さと生活行為の関係、日本建築学会計画系論文集、No.481、pp.13-22、
31)
社団法人インテリア産業協会:インテリアコーディネーターハンド
ブック技術編、pp.47、2004.3.20
32)
JAVA 言語の特徴として、まず、「プラットフォームに依存しない」
ことがあげられる。ソフトフェアは、一般的にハードウェアや OS に依
存して作成されるが、JAVA 言語は特定のハードウェアや OS に依存しな
1996.3
10)
30)
國嶋道子、梁瀬度子:生活行為から見た天井照明の評価室内視環境
いプログラムを作成できる。例えば、Windows 上で作成したプログラム
要素の心理的影響に関する実験的研究・3、日本建築学会大会学術講演
を、Macintosh 上でプログラムの変更をせずに実行できる。つまり、異
梗概集、1988.9
なるアーキテクチャ(ハードウェアやソフトウェアの構造)間で、移
11)
李善永、石原従道、平手小太郎、安岡正人:住宅居間における明る
植性の問題にほとんど直面することがない。
さの分布が心理評価に及ぼす影響に関する研究、日本建築学会計画系
第2に、「オブジェクト指向言語」であることがあげられる。オブジェ
論文集、No.497、pp.1-6、1997.7
クト指向言語では、プログラムを構成する単位をクラスと呼ぶ。クラ
12)
竹内義雄、乾正雄:不均一照明の心理効果、日本建築学会大会学術
13)
梁瀬度子、國嶋道子:天井照明の室内雰囲気に及ぼす影響
室内視
環境要素の心理学的影響量に関する実験的研究・2、日本建築学会学術
中村肇、唐沢宜典、沢辺真由美:リビング照明の心理要因と物理要
横田健治:住宅の照明環境が雰囲気に及ぼす効果、照明学会誌、第
中山和美:住宅照明における豊かさの意味、照明学会誌、第80巻
第4に「マルチスレッドに対応している」ことがあげられる。マルチ
行い、同時に複数のアプリケーションを駆動することが可能なシステ
ムのことである。JAVA 言語では、言語レベルでスレッドの並列処理が
第9号、1996
17)
JAVA 言語によるネットワーク処理は記述しやすく理解しやすいので、
スレッドとは、スレッド(プログラム実行の単位)単位で並列処理を
86 巻第4号、2002
16)
第3に「ネットワークシステムの構築が容易」であることがあげられ
比較的簡単にネットワークシステムのプログラムができる。
因の体系化、照明学会誌、第 80 巻 11 号、1996
15)
て、開発効率が向上し、それによって保守性もまた向上する。
る。ネットワークプログラミングは、一般的に記述が複雑であるが、
講演梗概集、pp291-pp292、1983.9
14)
スは、独立して作成することができ、クラスの持つ継承やカプセル化
の機能などを利用することにより、プログラムの再利用性が高められ
講演梗概集、pp189-pp190、1980.9
三木保弘、宮田紀元:光源の配置と室内表面の構成が雰囲気におよ
サポートされ、同期(データの連携)の仕組みも組み込まれている。
ぼす影響光の空間的配分に関する研究、日本建築学会計画系論文集、
最後に「セキュリティがしっかりしている」ことがあげられる。ダウ
No.488、pp.111-119、1996.10
ンロードしたアプレットが、ローカル(ユーザー側)にあるファイル
18)
李善永、石原従道、平手小太郎、安岡正人:住宅居間における明る
はアクセスすることを禁止する機能が用意されている。基本的に,ア
さの分布が心理評価に及ぼす影響に関する研究、日本建築学会計画系
プレットからアクセスすることができるのは、ダウンロードもとのサ
論文集、No.497、pp.1-6、1997.7
ーバーにあるファイルのみに限られる。
19)
廣瀬利香、原啓介、中村芳樹、乾正雄:住宅における照明の心理的
効果
その1
居間における照明の役割、日本建築学会大会学術講演
梗概集、pp.85-86,1991.9
20)
國島道子、梁瀬度子:室の好ましい明るさと室内雰囲気の評価
室
内視環境要素の心理的影響に関する実験的研究.5、日本建築学会学術
講演梗概集、pp353-pp354、1984.10
21)
佐藤仁人:住宅照明の現状と将来、照明学会誌、第 80 巻第 9 号、
1996
22)
社団法人インテリア産業協会:インテリアコーディネーターハンド
ブック
23)
技術編 2004.3.20
戦後、公団住宅を中心に、DK型がとられるようになった。しかし、
それは住宅の規模を縮小することには役だったものの、落ち着いた食
事空間が取れないなどの欠点が指摘された。そこでLとDとを組み合