現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP) 大学等名 テーマ名 取組名称 取組学部等 取組担当者 Web サイト 九州大学 テーマ3:知的財産・コンテンツ関連教育の推進 医療コンテンツプロデューサー育成事業 歯学府 歯学府長 吉浦一紀 http://www.dent.kyushu-u.ac.jp/projects/gp1/ 1.取組の経緯・背景 医療従事者教育においては患者の写真や動画などの患者視覚情報コンテンツを用いた教育が必 要不可欠です。一方、患者にとっては個人を特定される可能性があるコンテンツの流布は最も忌避 する内容です。したがって、患者視覚情報コンテンツの創造においては、患者の人権に十分配慮し てコンテンツ生データを修得した後で、確実な不特定化処理と権利処理を行う必要がありますが、 現状では医療基盤とコンテンツ創造能力、不特定化処理を含む権利処理能力をあわせ持つ医療コン テンツプロデューサーは育成されていません。 本取組においては医療の専門家、権利処理の専門家、情報処理の専門家の連携のもとで患者視覚 情報コンテンツの創造、保護、活用に関わる医療コンテンツプロデューサーや医療コンテンツを理 解した指導的医療従事者を育成するプログラムを展開しました。主な教育対象は将来の教員や指導 的医療従事者育成の場でもある医療系大学院の1年次学生とし、講義やコンテンツ作成実習を行い ました。 2.取組の内容 実施内容 患者の権利を守り、不利益にならないように、医療従事者教育に不可 欠な患者の写真(静止画)や動画などの患者視覚情報コンテンツを作成 できる人材を育成する医療コンテンツプロデューサー育成プログラムを 構築した。 育成プログラムは主に患者の不特定化等に関する法的根拠の学習、患 者の視覚情報を基盤とする単純な医療コンテンツ作成に関する講義と実 習、患者が全く特定されない医療コンテンツ作成から構成されている。 患者の不特定化等に関する法的根拠は資料調査や外部専門家の講演等で 法的知識の学習コンテンツビデオを作成した。患者の視覚情報を基盤と する単純な医療コンテンツ作成に関しては静止画および動画編集ソフト の使用方法を学ばせることとした。患者が全く特定されない医療コンテ ンツ作成に関しては 3 次元コンピュータグラフィックス(3 Dimensional Computer Graphics:3DCG) によって作成する手法の基礎を学ばせることとした。カリキュラムとしては大学院1~2年次の取 得を推奨することとした。 取組の工夫や特徴 臨床的に極めて多忙な医療従事者への育成プログラムであるため、知識取得の動機付けが重要で あると考え、1)必要性を感じる時期に育成プログラムを提供し、2)医療従事者ではなく、患者 の立場でも本プログラムを経験させることによって動機付けを工夫したことが特徴である。医療従 事者教育は学部教育、大学院教育、卒後教育と段階的に進行するが、学部教育においては基盤知識 の習得が最優先課題であり、十分な興味を持たせることができない。臨 床 研 究 等 の 症 例 報 告 で 患 者 視 覚 情 報 コ ン テ ン ツ を 作 成 す る 必 要 に 迫 ら れ る 大 学 院 教 育 の 段 階 で 本 育 成 プ ロ グ ラ ムを 提 供 し た こ と に よ っ て 、 学 習 効 果 が 高 ま っ た 。 ま た 、 講 義 や 通 常 の 実 習 だ け で な く 、 相互 実 習 ( 互 い に 模 擬 患 者 と な り 、 模 擬 患 者 視 覚 情 報 コ ン テ ン ツ 収 集 お よ び 情 報 処 理 、 不 特定 化処理を行う)を行い、患者の視点からコンテンツ創造の経験をさせた ことによって不特 定化処理や権利処理の重要性を実感させるプログラムになったと考えられる。 実施体制 取組主体である歯学府(大学院)においては、実施責任者である歯学府長の指示のもと で 、 教 務 委 員 会 ( 大 学 院 教 育 を 担 当 す る 委 員 会 ) が 本 取 組 実 施 詳 細 に 関 す る 企 画 立 案 運営 を 行 っ た 。 ま た 、 運 営 に 関 し て は 教 育 医 療 情 報 室 ( 専 任 教 員 1 名 配 置 ) お よ び マ ル チ メデ ィ ア 室 が サ ポ ー ト を 行 っ た 。 ま た 専 門 知 識 教 授 や 法 的 講 義 コ ン テ ン ツ 等 の 作 成 に 関 し ては 外部専門家との連携により行った。 3.取組の成果や評価、人材養成面での達成度 取組の成果 医療教育の現場で必要とする医療コンテンツは静止画・動 画・シェーマ(治療の図)等があげられる。これらのコンテン ツを作成するために次のような多段階的な教育システムを構築 できた。 1)法的知識を充実させるための学習コンテンツ 法律の専門家による患者肖像権・著作権・個人情報保護法・ 臨床研究に関するビデオ講義の作成と学内 WebCT(インターネ ットを利用した教育システム)に公開した。 2)静止画・動画の処理方法を習得する学習コンテンツ 患者さんの個人情報等のインターネットへの漏洩は、回収不 能な情報漏洩であるために、個人を特定することにつながる情 報に関する部分のマスク処理を行うための Photoshop 講義・動画 編集講義を学内 WebCT(インターネットを利用した教育システ ム)に公開した。 3)シェーマ等の作成方法を習得する学習コンテンツ 解剖図・手術図等を作成するための Adobe Illustrator 等のソフ トを用いたメディカルイラストレーション学習コンテンツを作 成し、学内 WebCT(インターネットを利用した教育システム) に公開した。 ④大学院講義の実施 取組最終年度には、本補助事業により得られた各種コンテン ツをまとめあげ、3DCG 等の高度な医療コンテンツを作成する講義を 大学院講義用テキスト さらに追加し「医療コンテンツの作成と応用」として大学院低学年 (3DCG の作成部分から抜粋) (1年次対象)のカリキュラムに講義を開講し、Web 学習コンテン ツと対面授業を連携させた医療コンテンツプロデューサーの育成 を開始した。 テーマの政策課題への対応 本取組は平成 19 年度に応募された現代的教育ニーズ取組支援プログラムであり、このプログラ ムでは 6 つのテーマで募集が行われ、本課題はテーマ 3「知的財産・コンテンツ関連教育の推進」 に関するものである。テーマ 3 自体がわが国の知的財産・コンテンツ関連教育の推進という政策課 題に対応した募集であり、本課題は医療分野における知的財産・コンテンツ関連教育の推進に必要 な医療コンテンツプロデューサー育成カリキュラムを構築したことから、政策課題への貢献は極め て大であると判断される。 医療現場で必要になる法的知識の学習コンテンツビデオを作成している。また、各種個人情報保 護法等を学ぶことのできるテキストを作成し政策課題への対応を積極的に推進した。 人材養成面での達成度等 本取組によりこれまで医療教育において必要とされてい たが、育成されていなかった医療コンテンツプロデューサ ーの育成が可能になった。まず、学生を指導する教官の育 成を行い、スキルアップを行った。さらに、本取組では学 習者の支援・スキル向上のために左図のような人材育成の ための学習システムを構築した。Web 学習システムを用いた教材を作成したことで、学生は授業時 間以外でも理解できるまで何度も同じ講義を聴講することが可能(授業終了後も可能)であり、 「医 療コンテンツの作成と応用」として医療系大学院 1 年次に開講した。事業終了後も継続して人材育 成を行っており、人材養成面からも高く評価できる。 4.学内からの評価、教育改革への影響等 歯学教育を行う教員は医療教育の専門家であり、また医療コンテンツ(授業の資料等)の作成者 でもある。この 10 年間のパソコンの発達により医療教育現場は大きく変化し、パソコンを用いた 講義(写真・動画・アニメーション)がほとんどである。しかし、教育を担う教員は情報教育・コ ンテンツ作成教育を受けておらず、個人のパソコン能力の差が資料の差・授業の質の差につながる というのが実情であり、本取組はこのような現状を打破していきたいという「学内のニーズ」を満 たすものであった。3 年間の取組により多くの教員がコンテンツを作成する方法を学び、教育に活 用することができるようになった点でこの取組は大きな成果を出したといえる。また、関連する法 規に対してもより深い理解が得られた。 5.学外からの評価、波及効果等 医療教育現場では、国民のニーズに応えるために「より実際の現場に即した臨場感のある教育」 を目指している。そのためには本取組で養成される医療コンテンツプロデューサーが必要不可欠で ある。 (外部評価者) ・ 本取組は「患者に関わる視覚情報コンテンツの創造、保護、活用に関わる医療コンテンツプロ デューサーや医療コンテンツを理解した指導的医療従事者を育成する」取組であり、医療基盤と 情報処理基盤の両者を有する教育促進に取組み、人材育成および人材育成システムを構築した点 は高く評価される。 ・ 九州大学歯学部の取組は、優れた教育コンテンツ開発者を育成することにより基礎と臨床を直 結させ、時代にニーズにはマッチした「臨床能力に優れた歯科医師の育成」を育成する教育改革 プログラムと評価できる。 6.今後の展望、課題 医療教育において、患者症例写真・病理組織像・治療に関する図やビデオ教材(医療コンテンツ) は必須であるが、メディカルイラストレーション等の人材育成プログラムを展開している高等教育 機関(美術解剖をのぞく)はほとんどないのが現状である。一方、アメリカのジョンズホプキンス 大学 で は 100 年 程前 か らこ の よう な 医 療コ ン テン ツ を開 発 する 人 材 を育 成 する プ ログ ラ ム (Biomedical Visualization Program)を展開しており、全米には 5 つの認定教育機関(修士課程)が 存在している。これらの卒業生による学会(Association of Medical Illustrators)が組織されており、 デジタル医療コンテンツの制作を行っている。九州大学大学院歯学府では、本取組によるサポート のおかげで将来の教員候補である博士課程の低年次(1〜2年)にこの講義を開講することが可能 になりました。今後もこの事業を推進し医療コンテンツプロデューサーを養成していきます。 【本件お問い合わせ先】 担当部署:歯学学生係 電話番号:092-642-6261
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