弁護士さんに聞いてみよう VOL.1

弁護士さんに聞いてみよう
弁護士 : 弁護士法人小野総合法律事務所
聞き手 : 三幸エステート コンプライアンス部
1
VOL.
長田誠司氏
百目鬼(どうめき)英明
─ 百目鬼:長田先生、
弊社ではお客様にメールマガジンを毎月お届けしております
が、
より一層お役にたつ内容とすべく、
今月から本コーナーが新設されることになりまし
た。
多くの企業様にとって気になるお話を提供させていただきたいと考えておりますの
で、
ご協力宜しくお願い致します。
─ 長 田:お役にたてれば光栄です。
こちらこそよろしくお願いします。
長田誠司(おさだ・せいじ)
平成17年 弁護士登録(58期)
小野総合法律事務所入所
三幸エステートのほか、大手信託銀行の
不動産部門等を担当し、不動産取引に関する
業務を主に取り扱っている。
◆敷金預託時の留意点を教えて?
を借り続けようとする場合には、
競落人と新たな賃貸借契約を締結する必
─ 百目鬼:早速ですが、
賃貸借契約の締結時に、
お客様からよく敷金の
要がありますが、
競落人が、
これを拒むことも可能ですので、
その場合、
テナ
保全方法について聞かれます。
借主が敷金を差し入れる際に、
留意すべき点
ントさんは6か月以内に退去しなくてはなりません
(民法第395条)
。
があれば教えてください。
─ 百目鬼:その場合の敷金はどうなります?
─ 長 田:重要なのは
「契約前に、
将来、
敷金から控除される金額に関す
─ 長 田:この場合、
競落人が敷金返還債務を承継するわけではない
る契約条項の内容を確認しておく」
ということでしょうか。
原状回復の条項
ので、
破産した会社に対して請求するしかありません。
ただ、
破産手続の場
や償却等の条項は返還時になってトラブルになることも多いですので、
契約
合、
支払賃料を将来の敷金返還原資に充当するよう貸主
(破産管財人)
に寄
前にこういった条項の中身をきちんと確認しておくことが大事だと思います。
託請求できます
(破産法第70条)
ので、
その分については敷金の回収が可能
ほかに敢えて挙げるとすれば「貸主の信用に問題はないか」
ということで
です。
破産手続開始後で競落までに支払った賃料に相当する分の敷金につ
しょうか。
敷金は、
退去時に借主の債務不履行等がなければ返還してもらえ
いてだけは保全されることになります。
ることを前提に貸主に預けておくものですので、
契約期間中の貸主の信用悪
─ 百目鬼:ということは、
例えば賃料の10か月分相当額を敷金として預託
化によって返還されなくなっては困ります。
ただ、
法的整理の場合には、
不十
していたテナントさんにとって、
万一貸主が破産して6か月で競落されてしま
分となる可能性もありますが、
借主の救済規定もおかれています。
うと、
残り4か月分の回収は難しいということですね。
─ 長 田:そのとおりです。
寄託請求によって常に全額回収ができる保
◆倒産時の敷金の扱いは?
証はありません。
─ 百目鬼:貸主が倒産すると敷金の取り扱いはどうなりますか? 倒産に
─ 百目鬼:入居時に、
抵当権が設定されている場合には、
そのようなリス
は破産や民事再生・会社更生など様々な形がありますが、
先ずは、
破産した
クがあるということですか?
場合について教えてください。
─ 長 田:法的にはそのとおりですが、
実際にあるかと言われれば、
オ
─ 長 田:破産の場合、
単純にいえば、
会社の財産を全て現金に代え債
フィスビルにおいては貸主の倒産ということは稀のケースでしょう。
仮にあっ
権者に配当しますので、
会社は消滅することになります。
このため、
破産した
たとしても、
先ほど申し上げたとおり、
任意売却されるケースも多いので、
あ
会社が所有していたビルは、
抵当権が実行されて競売される場合でなけれ
まり心配しすぎるのもよくないと思います。
ば、
破産手続の中で第三者に任意売却されることが多いです。
このように通
─ 百目鬼:よくわかりました。
ところで、
民事再生による倒産も考えられま
常の売買であれば、
買主が貸主の地位を引き継ぎ、
敷金返還債務も承継さ
すが、
この場合の敷金はどうなりますか?
れますので、
借主にとっては、
所有者が変わるだけで、
契約内容が変わること
─ 長 田:民事再生や会社更生手続の場合、
会社継続が前提ですので、
はなく、
影響は限定的といえます。
貸主がそのままである場合があります。
─ 百目鬼:そもそも破産するような会社は、
不動産を担保に資金を調達
─ 百目鬼:破産の場合、
支払賃料を敷金返還原資に充当するよう寄託請
している場合が多いかと思います。
借りているビルに抵当権が設定されてい
求ができるというお話でしたが、
民事再生の場合には、
このような請求はで
る場合には、
金融機関は競売にかけて債権を回収しようとするのではないで
きないのですか?
しょうか? その場合でも貸主が変わるだけですか?
─ 長 田:民事再生や会社更生の手続開始後、
テナントさんが賃料の支
─ 長 田:確かに、
金融機関から資金調達をする際、
不動産を担保に入
払いを継続する場合には、
賃料の6か月分相当額の範囲内で共益債権として
れるケースは多いと思いますし、
このような債務者が万一破産した場合、
金
扱われますので
(民事再生法第92条3項、
会社更生法第48条3項)
、
簡単に言
融機関は競売にかけて債権を回収することが可能です。
ただ、
収益が上がる
えば賃料の6か月分相当額までは保全されるが、
それを超える部分はカット
ビルの場合には、
競売で処分するよりも任意売却の方が高く売れる可能性
される可能性が高いということになります。
そして、
抵当権が実行され競落
が高いので、
抵当権がついていても必ず競売されるとは限らず、
任意売却さ
される場合の取扱いは、
破産の場合と同様に考えればよいのですが、
任意
れるケースも多いかと思います。
売却の場合には注意が必要です。
全くの任意売却であれば、
破産の場合と
─ 百目鬼:万一、
入居ビルが競売になった場合には、
どうなりますか?
同様ですが、
再生計画や更生計画の中で売却される場合には、
先ほど述べ
─ 長 田:競売された場合に注意しなければならないのは、
テナントさん
た6か月分を超える部分の敷金額がカットされる場合があります。
が破産した会社と賃貸借契約を締結し、
物件の引渡しを受けた時
(入居当
─ 百目鬼:よく理解できました。
本日は主に貸主倒産時の敷金の取扱い
時)
に、
当該建物に
(根)
抵当権が設定されていた場合には、
テナントさんは、
についてご説明頂きました。
ありがとうございます。
賃借権を競落人に対抗できないという点です。
競売後も引き続き当該物件
※上記は、
平成25年2月5日に弁護士法人小野総合法律事務所にて取材させて頂いた内容をまとめたものです。
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問い合わせ先
[email protected]
取材協力先
弁護士法人小野総合法律事務所
(長田誠司弁護士)
http://www.ono-law.jp/