スポーツ選手がプロダクション と契約する場合の問題点

連載 基礎から学ぶ「スポーツと法」
No. 20
スポーツ選手がプロダクション
と契約する場合の問題点
望月克也
スポーツ法政策研究会、銀座共同法律事務所、弁護士
1.プロダクションと契約する前に
なったり、複数のプロダクションが業務を
ここ数年、プロ・アマを問わず、テレビ
シェアすることもよくあり、
「自分はいった
芸能活動には、本体だけではなく、その
にスポーツ選手が登場する機会が非常に増
いどこに所属しているのか。自分を管理し
営業活動など付随的な行動が必要な場合も
えています。スポーツ選手は、その肖像、
ているのはどこなのか」
といったことすら曖
多く、どこまでそれに対応するか、といっ
名前、ひいては存在自体に大きな価値があ
昧になってしまうこともあります。
た問題も生じます。そこで、マスタースケ
るからです。
そこで、後日の紛争を防止するため、き
かねません。
ジュールの決定権がどこにあるのかを明ら
かにする必要があります。
この事象は、一面、スポーツファンが増
ちんと契約書の作成を要求するべきでしょ
えたことの現れであると言え、喜ばしいこ
う。意外と言い出しにくいことではあるの
芸能活動の一つ一つを完全に事前に決め
とと思われます。しかし、他方で、スポー
ですが、きちんとしたプロダクションであ
ることは難しいでしょうが、スポーツ活動
ツ選手が個人で芸能活動を切り盛りするこ
れば、当然応じてくれます。
が最優先であること、時期による配分の変
更があれば、可能な限りその詳細もプロダ
とは非常に大変です。メディアや広告代理
店との連絡、交渉、権利関係の処理、契約
締結など非常に煩雑な作業が必要であり、
本業と両立することは困難でしょう。
3.芸能活動の程度を
はっきりさせること
クションに説明したうえ、契約書に明記し
たほうがいいでしょう。
次に、具体的な契約の内容に入っていき
4.報酬の配分について
このような場合、多くはプロダクション
ますが、まず、自分がプロダクションにお
などに一任することが一般的と言え、今後
願いしたいことは何か、つまり、契約の主
また、スポーツ選手の芸能活動によって
も、こういった契約形態は増えることと思
たる目的が何か、をはっきりさせる必要が
得た報酬(ギャラ)の配分、選手とプロダ
われます。
あります。
クションの取り分も問題になります。
そこで、今回は、スポーツ選手がプロダ
多くの場合は、テレビ出演、講演、CM
この点、スポーツ選手には、芸能人と大
クションと契約をする場合に注意すべき事
出演など、いわゆる芸能活動の窓口になり、
きく違う点があります。芸能人の場合、本
項、問題点などについて、検討したいと思
一手に引き受けてもらいたいという希望が
人の資質もさることながら、プロダクショ
います。
あるでしょう。ここで注意したいのが、本
ンの営業活動などにより次第に売れてい
業であるスポーツ活動との両立です。
く、つまり、プロダクションがゼロから育
2.契約書を作成すること
まず基本的なところですが、契約書の重
要性です。
本業と芸能活動のバランスは、人によっ
てていく場合が多い。これに対して、スポ
て異なりますし、また、オフシーズンなど
ーツ選手の場合、ある程度本業で成績を残
の時期によっても異なるでしょう。もっと
し、人気も得てから、作業が繁雑になり、
近時は契約書を作成することが当たり前
も、プロダクションとしては、可能な限り
プロダクションにお願いする、といったプ
となりつつありますが、エンターテインメ
芸能活動を、とくに、コマーシャルなど高
ロセスをたどることが多いです。つまり、
ント業界の特殊性から、まだ、契約書を締
額の仕事が欲しいのも当然です。
プロダクションの役割としては、ゼロから
結しないまま話が進んでしまい、いつのま
つまり、漫然とスケジュール管理を任せ
育てていくというよりは、一定程度パブリ
にかプロダクションに所属したことになっ
てしまうと、多くの活動をせざるを得ず、
シティの価値がある人物をより有効に育て
ている、といった事態が生じ得ます。とく
スポーツ活動、練習などに満足な時間がと
ていく、ということに重きが置かれます。
に、プロダクションによって強い分野が異
れなくなってしまう、といった事態が生じ
芸能人に例えるならば、一定のキャリアが
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基礎から学ぶ「スポーツと法」
ある人がプロダクションを移籍したときに
近いところがあるかもしれません。
この点、これらの利用範囲について事前
す。
に合意できれば望ましいのでしょうが、基
もちろん、スポーツ選手も表現の自由を
また、スポーツ選手の場合、芸能活動と
本的には、契約書上はプロダクションに一
有しており、自由に書き込み等をできるこ
いうよりは、本業の成績によって更なるパ
任する趣旨の条項が設けられることがほと
とが原則です。他方で、先に述べたように、
ブリシティの価値が付加されていくという
んどでしょう。スポーツ選手自身が個別に
スポーツ選手はその存在自体に価値がある
特殊性もあります。
権利関係の処理をするのは難しいですの
ため、その発言一つによって、価値が大き
で、これはやむを得ないところです。
く減殺されてしまう場合も多いにあり得ま
多くのプロダクションは、この点に配慮
しているように思えます。たとえば、オリ
ただ、時と場合によっては(プロダクシ
す。この点は、アップする前にプロダクシ
ンピックでの順位など、本業の成績によっ
ョンの責任がない場合も)
、選手の意図しな
ョンがその内容をチェックする場合等が多
て配分を付加する、といった条項を設ける
い肖像等を用いられてしまうことがありま
いようですが、いずれにせよ、ある程度表
場合もあるでしょう。
す。たとえば、テレビ番組に出演したとき
現内容に制約が加えられる場合があること
のキャプ画を勝手に雑誌に載せられてしま
に留意しておくべきでしょう。
また、スポーツ選手の場合、当初は個人で
対応していたり、また、自分1人が所属の小
う、といった場合もありえるでしょう。
8.最後に
さい会社をつくって対応してきた、という
そこで、このような場合は、法的手段を
ことも多いようです。この場合、新たに所
行使するにあたって、プロダクションに全
以上のような点に注意して、プロダクシ
属したプロダクションが仕事をとってくる
面的に協力してもらうよう条項を設けてお
ョンとの間の契約内容について吟味すれば
場合と、従前の自分の人間関係により仕事
くとよいでしょう。
よろしいかと思います。
を取ってくるような場合もあるでしょう。
なお、実際に訴訟を提起することになっ
もちろん、マネージメントのプロである
そこで、仕事をいずれが得たのか、で配
た場合には、通常、スポーツ選手自身が原
プロダクションと契約内容について協議し
告となることは頭に入れておいて下さい。
たり、場合によっては交渉したりするのは、
やはり、報酬の配分についてはもっとも
芸能人の事案ですが、所属するプロダクシ
それ自体重荷なことかもしれません。しか
紛争が生じることが多いようです。金銭問
ョンが原告となって訴訟提起した事案にお
し、安易に契約締結してしまい、あとで
題でトラブルを生じて本業に影響しては本
いて、任意的訴訟担当を認めることはでき
「話が違う」となった場合は、何倍もタフ
末転倒です。配分の多寡よりも、プロダク
ないとして、訴えを却下した裁判例があり
な作業が待っていますし、そちらに力や時
ションとの信頼関係、および自分が納得で
ます(東京地裁平成17年8月31日判決)
。
間をとられてしまい、本業にも影響しかね
分率を変える場合もあります。
きる配分を決めて、あとは本業と必要な芸
能活動に専念する、といったスタンスがよ
いと思います。
ません。
6.自分の会社や所属チーム・
協会との関係について
先に述べたとおり、スポーツ選手の場合、
5.権利関係について
スポーツ選手でよく問題となる権利は、
プロダクションと契約する前に、個人で会
他方で、内容に納得したうえで契約を締
結し、信頼関係を構築できれば、プロダク
ションは非常に頼もしい存在になってくれ
るはずです。
社をつくっている場合があります。この場
そのような良好な関係を築き、本業でも
肖像権やパブリシティ権です。パブリシテ
合、その会社との契約内容と矛盾しないよ
素晴らしい成績を残すことの一助になれば
ィ権の定義には諸説あるのですが、東京高
うにする必要があります。
幸いです。
裁平成18年4月26日判決は、
また、アマ選手の場合は所属会社、プロ
「一般に、固有の名声、社会的評価、知名
選手の場合は所属チームや協会などの協約
度を獲得した著名な芸能人の氏名、芸名肖
がある場合があり、これと矛盾しないよう
像等を商品に付した場合は、当該商品の販
にする必要があります。
売促進に有益な効果、つまり顧客吸引力が
事前にプロダクションに説明し、契約書
あることは一般に知られているところであ
や協約などを示しておく必要があるでしょ
り、著名な芸能人には、その肖像等が有す
う。
る顧客吸引力を経済的な利益ないし価値と
して把握し、これを独占的に享受すること
ができる法律上の地位があり、これをパブ
リシティ権と称する」としています。
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7.ブログなどについて
ここ数年、スポーツ選手がブログやツイ
ッターなどを利用する場合が多くみられま
〔参考文献〕
『スポーツの法律相談』伊藤尭ほか、青林書院
『パブリシティ権概説』内藤篤・田代貞之、木鐸社
『肖像権新版』大家重夫、太田出版
『判例タイムズ1028号』P.232, 東京地裁平成12年
2月29日判決
『判例タイムズ1208号』P.247, 東京地裁平成17年
8月31日判決
『判例タイムズ1214号』P.91, 東京高裁平成18年4
月26日判決
『判例タイムズ1280号』P.306, 東京地裁平成20年
4月7日判決
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