BaFe2As2系における擬ギャップ相 東京大学 工学部 下志万貴博 近年、銅酸化物高温超伝導体のみならず鉄ニクタイドにおいても擬ギャ ップに代表される異常な常伝導状態が報告されている。銅酸化物では、擬ギャ ップの起源として超伝導の前駆現象や特異なスピン/電荷秩序との関連が議論さ れているが、鉄ニクタイドにおいては未だ系統的な解釈が進んでいない。鉄ニ クタイドの母物質における基底状態は、遍歴磁性と軌道自由度という銅酸化物 に見られない特徴を有するため、擬ギャップの起源を考察する上で興味深い。 本研究では、鉄ニクタイドにおいて多くの報告がある擬ギャップ現象を系統的 に理解するために、ホールドープ、電子ドープ及び等原子価ドープが可能な BaFe2As2系を選び、広い温度領域と組成領域を網羅した角度分解光電子分光測定 を行った[1,2]。 本研究では以下の3点を明らかにした。①擬ギャップは波数空間の全て のホール面及び電子面に分布している。②擬ギャップ相の形状は置換元素の種 類(K, Co, P, Ru)により大きく異なる。③擬ギャップ、軌道秩序及び電子ネマ ティック状態[3]が比較的近い温度において発現する。 講演では鉄ニクタイドにおける擬ギャップの起源について議論したい。 参考文献: [1] T. Shimojima et al., arXiv : 1305.3875. [2] T. Sonobe et al., unpublished. [3] S. Kasahara et al., Nature 486, 382 (2012). 謝辞: 本成果は、以下の各氏との共同研究によるものです(敬称略)。園部竜也、品田慶、出田真一郎、 石坂香子、Walid Malaeb、辛埴、吉田鉄平, 藤森淳, 大串研也、内田慎一(東京大学)、Ashish Chainani (理研)、小野寛太、組頭広志(高エネ研)、中島陽祐、安斎太陽、有田将司、井野明洋、生天 目博文、谷口雅樹(広島大学)、中島正道、富岡泰秀、木方邦宏、李哲虎、伊豫彰、永崎洋、伊 藤利充(産総研)、笠原成、寺嶋孝仁、池田浩章、芝内孝禎、松田祐司(京都大学)。 Email : [email protected] 鉄系超伝導体における元素置換による電子状態変化 京大人環 吉田鉄平1 東大工 出田真一郎 東大理 鈴木博人, 藤森淳 銅酸化物高温超伝導体と鉄系超伝導体の大きな違いは,母物質の鉄サイトを Co や Ni などの 他の遷移金属に置換することで電子をドープし,超伝導を引き起こせることである。これは,わ ずか数%の不純物置換で,銅酸化物では超伝導が消失することから考えると驚くべきことであり, 鉄系の超伝導は銅酸化物とは異なる,不純物に強い超伝導であることがうかがえる。しかし,鉄 サイトの遷移金属置換が単にキャリアドープとしてのみ働いていると考えてよいのか,それとも 電子構造の変化まで考慮しなければならないのか,自明な問題ではない。最も単純な場合は,固 定されたエネルギーバンドに電子を詰めてゆく, 「リジッドバンドモデル」に従った変化が期待さ れる。しかし Mn や Zn 置換などでは超伝導が発現せず、リジッドバンドモデルでは説明できない 変化が電子構造に起きていることを示唆している。 我々は角度分解光電子分光 (ARPES) を用いて鉄系超伝導体の Fe サイトを Mn, Co, Ni, Cu, Zn に置換した物質の電子状態を調べてきた。 観測されたフェルミの体積からキャリア数を見積もっ たところ Co, Ni 置換ではリジッドバンドモデルに近い振る舞いをすることが分かった [1]。一方 Cu 置換ではリジッドバンドモデルから大きくずれ [1], Zn 置換では母物質と同様の反強磁性状態 のフェルミ面が観測された [2]。これは置換元素の 3d 準位が深い場合,ドープされた電子は遍歴 的な Fe 3d バンドに供給されず,深い不純物準位に局在していることを示している。一方、ホール ドープに対応する Mn 置換では反強磁性電子状態が保たれ超伝導を示さない。共鳴光電子分光の 結果,置換された Mn によって形成される電子状態は電子相関のため局在した状態を形成するこ とが分かった [3]。 参考文献 [1] S. Ideta et al., Phys. Rev. Lett, 110 (2013), 107007. [2] S. Ideta et al., Phys. Rev. B, 87 (2013), 201110R. [3] H. Suzuki et al., Phys. Rev. B, 88 (2013), 100501. 1 E-mail: [email protected] 1 Ba ドープ KFe2As2 試料のレーザー角度分解光電子分光 東大物性研 大田由一 1, 岡崎浩三, 小谷佳範, W.Malaeb, 辛埴 東大工 下志万貴博 阪大基礎工 木須孝幸 東理大総合研 渡部俊太郎 中国科学院 C.-T.Chen 産総研 木方邦宏, 李哲虎, 伊豫彰, 永崎洋 千葉大院理 齊藤拓, 深澤英人, 小堀洋 鉄系超伝導体の中で、(Ba,K)Fe2As2(BaK122)系は、最適ドープ(x ~ 0.4)ではその超伝導ギャ ップにノードが存在しない、フルギャップである一方で、過剰ドープである KFe2As2(K122)にお いては、様々な実験から超伝導ギャップにノードが存在することが示唆されている非常に興味深 い系である。レーザー角度分解光電子分光(ARPES)の先行研究から、最適ドープでは、ブリル アンゾーン中心近傍にある3枚のホールフェルミ面(inner,middle,outer)において、超伝導ギャッ プに異方性はなく、ギャップサイズにシート依存性もないことが分かっている。その一方で、我々 は、K122 においては明瞭な異方性とシート依存性が存在することを発見した。さらに、middle においては、特定のフェルミ波数において8つのノードが存在することが分かった。加えて今回、 我々は、この最適ドープから K122 までのオーバードープ領域におけるレーザーARPES により、 わずかなドープ変化によって超伝導ギャップの異方性やシート依存性が劇的に変化することを発 見した。これは、このドープ領域で 3 枚のホールフェルミ面における面間・面内相互作用の大き さがほぼ縮退している証拠であり、これらの相互作用の縮退・競合がこの系の超伝導において重 要であることを示唆していると考えられる。研究会当日はこれらの結果について紹介させて頂く。 x = 0.88 2.5 x = 0.93 1.5 = |0+4cos| x = 1.0 2.0 = |0+4cos| 2.0 (meV) (meV) 1.5 1.0 1.5 1.0 1.0 0.5 0.5 0.5 0 -90 -45 0 45 90 0 -90 Fermi Surface Angle (deg.) -45 0 45 Fermi Surface Angle (deg.) 90 0 -90 -45 0 45 Fermi Surface Angle (deg.) Ba1-xKxFe2As2 オーバードープ領域における超伝導ギャップ異方性とシート依存性 K. Okazaki et al., Science 337;1314,(2012) Y. Ota et al., arXiv:1307.7922 1 90 鉄系超伝導体の電子相図 大阪大学 理学研究科物理学専攻 田島節子、宮坂茂樹、竹森章、小林達也、Kwing To Lai、足立徹 鉄系化合物の超伝導は、磁気秩序相の近傍に出現するという点で、銅酸化物超伝導体と似 ている。しかし、その電子相図を描こうとすると、横軸にとるべき物理パラメータが何なの か、明確ではない。実験的には、置換元素の濃度や印加圧力などを変化させると、磁気秩序 が抑制され、同時に超伝導転移温度が上昇し、最高値を示した後に減少に転じることが知ら れている。しかし、ここでが複数のパラメータが同時に変化している可能性がある。 我々は、鉄系化合物超伝導体の超伝導機構に直接寄与しているはずの“Tc 決定因子”を探 るために、キャリアドープに相当する置換と化学圧力に相当する置換との両方を同時に行い、 複数のパラメータの変化に対して Tc と輸送特性、結晶構造との関係を調べた。 最も高い転移温度が観測されている 1111 系を一例にすると、磁気秩序相である LaFeAsO に O/F 置換をした場合と、As/P 置換をした場合では、いずれの場合も磁気秩序が抑制されて 超伝導が出現するが、電子系に与える効果の本質は異なる。今回作製した F 置換なしで P 置 換のみを行った試料のシリーズでは、As 濃度の高い組成で一つの Tc の山が存在し、P 濃度の 高い組成で別の Tc の山が存在することがわかった。As100%の組成と P100%の組成では、フ ェルミ面を構成する電子軌道が異なることを考慮すると、これは、それぞれの軌道のフェル ミ面における超伝導が別に存在することを示していると考えられる。 F 濃度を変えながら、 同じような As/P 置換シリーズを作製していくと、 F 濃度増加と共に、 二つの Tc の山は接近していき、最後には合体する。このとき、 Tc のピークは中間組成 (As60%P40%)にあり、電気抵抗の T-linear など量子臨界的な振る舞いが見られる。一方、他 の F 濃度のシリーズから類推すると、このひと山になった Tc のピークを形成する組成では、 P-rich 型の電子軌道から As-rich 型の電子軌道へ移り変わる境界であると思われる。実際、 ホール係数は、この組成で絶対値の急激な増大と激しい温度依存性を示し、リフシッツ転移 を思わせる。 磁気的量子臨界点の近傍で超伝導が出現するというシナリオの場合、その量子臨界点近傍 でなぜ軌道の入れ替わりが起きる必然性があるのか、自明ではない。フェルミ面のネスティ ングで規定される磁気揺らぎの大きさ以外に、軌道というもう一つ重要なパラメータを考慮 する必要があることを、強く示唆する結果である。 122 系についても、K 置換による超伝導と P 置換による超伝導は、磁気秩序相によって隔 てられていることがわかった。 謝辞:本研究は科 学 技 術 振 興 機 構 戦 略 的 国 際 科 学 技 術 協 力 推 進 事 業・日 本 EU 共 同 研 究 の支援を受けて行われたものです。 Quantum criticality in carrier-doped Fe-pnictides Guo-qing Zheng Department of Physics, Okayama University, Okayama 700-8530 We will present NMR results on carrier-doped iron-pnictide high temperature superconductors LaFeAsO1-xFx [1-2] and BaFe2-xNixAs2 [3], and discuss coexisting states of matter, quantum critical phenomena, and their relations with the superconductivity. [1] T. Oka et al, Phys. Rev. Lett. 108, 047001 (2012). [2] T. Oka et al, to be published [3] R. Zhou et al, Nature Commun. 4, 2265 (2013). 鉄系超伝導体の核磁気共鳴による研究 — BaFe2 (As1−x Px )2 を中心にして — 石田 憲二,∗ 家 哲也, 川島 裕貴, 京都大学大学院 理学研究科 中井 祐介,∗∗ 北川 俊作 ∗∗∗ 1 我々の研究グループでは核磁気共鳴 (NMR) の実験を通して鉄系超伝導体における磁性と超伝導 の関係を調べてきている [1]。その中でも同価数置換系 BaFe2 (As1−x Px )2 系において反強磁性ゆ らぎと超伝導の相関、特に反強磁性量子臨界点近傍で最高の超伝導転移温度 (Tc ) を持つことを実 験的に示した。[2] このような関係が他の 122 系や他の結晶構造の系 (例えば 1111 系) で見られる のかを実験結果に基づいて議論する。[1] さらに、今まで報告のある NMR の実験結果と他の実験 結果を比較し、反強磁性ゆらぎと格子系との関連性についても議論したい。[3] また最近行ってい る BaFe2 (As1−x Px )2 における不純物効果についても報告する予定である。 本研究は、京大理の笠原成氏、芝内孝禎氏、松田祐司氏、東工大の細野秀雄氏、慶応大の神原 陽一氏、神戸大理の菅原 仁氏、Zhejiang Univ. の C. Wang 氏, G. Cao 氏, Z. -A. Xu 氏との共同 研究である。. 参考文献 [1] 例えば “ Review of NMR Studies on Iron-Based Superconductors ” K. Ishida, and Y. Nakai, 「Iron-Based Superconductors: Materials, Properties and Mechanism」 Edited by N. L. Wang, H. Hosono, and P. Dai, Pan Stanford Publishing Pte.Ltd. 275-355 [2] Y. Nakai, T. Iye, S. Kitagawa, K. Ishida, H. Ikeda, S. Kasahara, H. Shishido, T. Shibauchi, Y. Matsuda, and T. Terashima, Phys. Rev. Lett. 105 (2010), 107003 [3] Y. Nakai, T. Iye, S. Kitagawa, K. Ishida, S. Kasahara, T. Shibauchi, Y. Matsuda, H. Ikeda, and T. Terashima Phys. Rev. B 87 (2013), 174507 1∗ E-mail: [email protected] 現所属:首都大学東京大学院理工学研究科 ∗∗∗ 現所属:神戸大学大学院理学研究科 ∗∗ 1 鉄系高温超伝導で起こる多様な電子状態の系統性の理解 阪大院基礎工 椋田秀和、木内宏彰、 圓月風子、八島光晴、北岡良雄 阪大院理 A 産総研 B K. T. Lai A、宮坂茂樹 A、田島節子 P. M. Shirage B 、永崎洋 B 、伊豫彰 A B 鉄系超伝導で見られる超伝導ギャップ構造や電子状態の多様性は、超伝導の起源 に対する単一的な理解を難しくしている。As-Fe-As ボンド角やニクトゲンの鉄面か らの高さと T c には明確な相関が見られることから、FeAs 面の局所構造と電子状態の 対応関係を調べることはひとつの重要な切り口になるだろう。 等価数置換系(Ca4 Al2 O 6 )Fe2 (As 1-x P x ) 2 は、Fe 2+状態にある Fe(As,P)層の基底状態が、 価数を一定に保ちながら大きく局所構造を変化 (特にニクトゲン高さを低く )させる ことができ、x=0~0.4 でフルギャップ超伝導、0.5<x<0.95 で均一な整合反強磁性、x=1 ではノーダルギャップ超伝導へと連続的に変化する [1-3]。さらにより多くの鉄系超 伝導母物質も含めて整理してみると、ブロック 層の違いに依らず Fe 面からの Pn の高さ(hPn )が 1.32Å<hPn <1.42Å の領域で反強磁性、hPn >1.42Å Fe 2+ state でフルギャップ超伝導、hPn <1.32Å でノーダルギ ャップ超伝導となっていることがわかった。こ の結果は、同じく Fe2+状態にある LiFeAs が超伝 導、 NaFeAs は反強磁性であることや、等価数 置換系 AeFe 2 (As 1-xP x) 2 (Ae =Ba, Sr)での反強磁 性からノーダル超伝導相が現れることなどとも よく対応している。 LaFe(As 1 -xP x)O 1 -y F y 系は、y=0.1 では x=0.4 の とき T c =28K の最高値をとり、y=0.05 でも中間領域に T c が極大をとる[4,5]ことから、 局所構造因子が電子状態や T c とどう関係 しているかを探ることは興味深い。この系 で系統的な NMR 測定を行ったところ、T c が高い組成の試料では低エネルギーの反 強磁性スピン揺らぎが増大していることがわかった。このことは T c の増大と反強磁 性ゆらぎが深く関係していることを示唆している。講演では、このような 様々な物 質系でおこる電子状態と、最高転移温度 Tc >50K の 1111 系超伝導体で起こる最適化 された電子状態の結果[6]と比較しながら、Fe 系高温超伝導の局所構造と電子状態に ついて議論したい。 [1] [2] [3] [4] [5] [6] P. M. Shirage et al., J. Am. Chem. Soc. 134, 15181(2012). H. Kinouchi et al., Phys. Rev. Lett. 107, 047002(2011). H. Kinouchi et al., Phys. Rev. B. 87.121101 (2013). S. Saijo et al., Physica C 470, S298 (2010). K. T. Lai et al. Proceedings of APPC12. H. Mukuda et al.. Phys. Rev. Lett. 109, 157001 (2012). 鉄系超伝導体における電子格子相互作用の軌道揺らぎへの影響 — 制限密度汎関数摂動論の開発と応用 — 東京大学大学院 工学系研究科 野村 悠祐, 有田 亮太郎 九州工業大学大学院 基礎科学研究系 1 中村 和磨 鉄系超伝導体の発見以来、その超伝導の発現機構に関して活発な議論がなされている。有力な ペアリング機構としては、スピン揺らぎ媒介の s± 波超伝導 [1,2] と軌道揺らぎ媒介の s++ 波超伝 導 [3,4] がある。鉄系超伝導体については、その発見直後から電子格子相互作用は超伝導を直接媒 介できるほどは強くないことが示されているが [5] 、電子格子相互作用は軌道揺らぎがを増大し、 それによって間接的に超伝導に寄与する可能性が示されている [3] 。このシナリオを検証するため には、低エネルギー有効模型の第一原理的導出とその定量的な解析が重要である。有効模型の電 子一体項、電子相関項についてはこれまでに評価されているが [2,6] 、フォノン自由度を含む項に ついてはその評価がなされていない。 本研究では、第一原理計算によって電子格子相互作用を含む低エネルギー模型を導出する方法 論として制限密度汎関数摂動論を開発し、それを LaFsAsO に適用した [7] 。得られた模型を乱雑 位相近似を用いて解析し、電子格子相互作用の軌道揺らぎへの影響を調べた。その結果、電子格 子相互作用による軌道揺らぎの増大は小さく、スピン揺らぎ媒介の s± 波状態が実現した。この結 果は、鉄系超伝導体で軌道揺らぎ媒介の超伝導が実現するとすれば、電子格子相互作用は重要な 役割を果たしておらず、あくまで電子的な機構によるものであることを示唆する [8] 。 1) I. I. Mazin et al., Phys. Rev. Lett. 101, 057003 (2008) 2) K. Kuroki et al., Phys. Rev. Lett. 101, 087004 (2008) 3) H. Kontani and S. Onari, Phys. Rev. Lett. 104, 157001 (2010) 4) Y. Yanagi et al., Phys. Rev. B 81, 054518 (2010) 5) L. Boeri et al., Phys. Rev. Lett. 101, 026403 (2008) 6) K. Nakamura et al., J. Phys. Soc. Jpn., 77 093711 (2008), T. Miyake et al., J. Phys. Soc. Jpn., 79 044705 (2010) 7) Y. Nomura et al., arXiv:1305.2995 8) S. Onari and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 109, 137001 (2012) 1 E-mail: [email protected] 1 鉄系超伝導体における軌道揺らぎ及び超伝導発現機構 — 相図の統一的理解を目指して — 名古屋大学 工学部 大成 誠一郎 1 鉄系超伝導体の相図の統一的理解を目指し、まず我々は超伝導にならない低ドープ領域におい て、構造相転移が反強磁性相転移よりも少し高い温度で起きることに着目した。これは、軌道揺 らぎがスピン揺らぎと同等、またはそれ以上に重要であることを意味する。更に、超音波吸収の 実験により構造相転移近傍で C66 のソフト化が現れ、構造相転移に対応する強的軌道揺らぎが増 大することが確認された。しかしながら RPA や FLEX 近似などの従来の方法ではこれらの実験 に対応する軌道揺らぎの増大を再現できないという問題がある。 本研究において、RPA や FLEX 近似に含まれていない、クーロン相互作用のバーテックス補正 を考慮した結果、軌道揺らぎとスピン揺らぎのモード間結合が生じ、構造相転移や C66 のソフト 化に対応する強的軌道揺らぎがスピン揺らぎと協力的に増大することが明らかになった。[1] 更に 自己エネルギーを自己無撞着に取り込み Eliashberg 方程式を解くことにより、現実的なパラメー タ領域において軌道揺らぎが増大し、S++ 波が実現することを明らかにした。[2] また、BaFe2 (As,P)2 等でギャップ関数のノード構造が観測されているが、これは軌道揺らぎと スピン揺らぎの競合による、S++ 波と S± 波のクロスオーバーで、再現することが可能である。こ のように、バーテックス補正による軌道揺らぎにより、鉄系超伝導体の多彩な相図を統一的に理 解できると考えている。 謝辞 本研究は名古屋大学理学部、紺谷浩教授との共同研究である。 参考文献 [1] S. Onari and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 109 (2012) 137001. [2] S. Onari, H. Kontani, S. V. Borisenko, V. B. Zabolotnyy, and B. Buechner, arXiv:1307.6119. 1 E-mail: [email protected] 1 鉄系超伝導体の第一原理有効模型の解析 — ドーピング効果及びモット絶縁体の近接効果 — 東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 三澤 貴宏 1 強相関電子系に対する非経験的な計算を行うために、我々のグループでは第一原理バンド計算を もとにした低エネルギー有効模型導出 [1,2] とその有効模型の高精度解析 [3,4] を組み合わせたハイ ブリッド手法の開発を行なっている。この手法を鉄系超伝導体のいくつかの異なる物質 (LaFeAsO, LaFePO, BaFe2 As2 ,FeTe) に適用することで有効模型が現実の物質の磁気秩序モーメントの大き さをよく再現し、磁気秩序モーメントの物質依存性が相互作用の大きさの違いでよく説明できる ことを示してきた [3,4]。 さらに、第一原理有効模型に対して電子濃度を変えることで電子状態がどのように変化するか を調べた [4]。その結果、鉄系超伝導体の母物質の電子配置は d6 (5 軌道 6 電子) であるがホール ドーピングとともに、磁気秩序モーメントが大きくなり、同時に、電子状態がインコヒーレント になっていくことが分かった。これはホールドーピングとともに電子間相互作用が有効的に大き なっていることを示している。さらに、d5 (5 軌道 5 電子) まで磁気秩序モーメントは連続的に大 きくなり、d5 ではモット絶縁体が発現することを明らかにした。この結果は鉄系超伝導体の母物 質 (d6 ) が d5 でのモット絶縁体に起因した巨大な反強磁性ドームのふもとにおり、そこで高温超伝 導が発現していることを示している。われわれの提唱のあとに、この d5 のモット絶縁体の近接効 果は別の理論計算でも指摘され、その重要性が議論されている [5]。 本研究は、中村和磨氏、今田正俊氏との共同研究によって行われたものである。 参考文献 [1] M. Imada and T. Miyake, J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 112001. [2] K. Nakamura et al., J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 123708. [3] T. Misawa, K. Nakamura, and M. Imada, J. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011) 023704. [4] T. Misawa, K. Nakamura, and M. Imada, Phys. Rev. Lett. 108 (2012) 177007. [5] L. de’ Medici, G. Giovannetti, and M. Capone, arXiv:1212.3966v1. 1 E-mail: [email protected] 1 鉄系超伝導体の d-p 模型における d-p 軌道相関効果 新潟大院自然, 新潟大理 山田武見, 大野義章 これまで鉄系超伝導体の電子状態や超伝導機構を Fe の 3d 軌道と As の 4p 軌道から構成される 16 バンド d-p 模型に基づいて調べてきたが [1]、今回は Fe の d 電子間のサイト内クーロン相互作 用 Hdd に加えて、Fe の d 電子と As の p 電子の最近接サイト間クーロン相互作用 Hdp 、および、 As の p 電子間のサイト内クーロン相互作用 Hpp を考慮したハミルトニアン H Hdp = H0 + Hdd + Hdp + Hpp , ∑ † ∑ ∑ † dimσ dimσ , npjl = pjlσ pjlσ = Vml ndim npjl , ndim = <im,jl> σ (1) (2) σ を調べた。ここで、1 電子ハミルトニアン H0 は第一原理バンド計算を再現するように決められ、 Hpp は Hdd と(相互作用の大きさは異なるが)同じ表式で与えられる。 既にこれまで、RPA を用いた計算により、Hdp の効果によって電荷揺らぎが増大し、その揺ら ぎを媒介として s++ 波超伝導が実現することを報告したが[2]、そこでは Vml の軌道依存性を考慮 していなかった。今回は、3d 軌道と 4p 軌道の波動関数に基づいて Vml の軌道 ml 依存性を考慮 した結果、電荷揺らぎに加えて超音波実験で観測された弾性定数 C66 のソフト化に対応する波数 q = 0 の軌道揺らぎが増大することが分かった。さらに Hpp を考慮すると、電荷揺らぎは大きく 抑制されるのに対して軌道揺らぎはむしろ増大するため、現実的な相互作用では軌道揺らぎの増 大のみが実現することになる。一方、Hdd とネスティングの効果によって増大した反強磁性揺ら ぎは、Hdp 、Hpp によってほとんど影響を受けない。なお、Vml の軌道依存性によって tetra-ortho 構造転移を伴う強的軌道秩序が実現することは、この物質の Fe と As の幾何学的配置から容易に (平均場の描像で)理解できる。 また最近、A15 型超伝導体(V3 Si や Nb3 Sn)に対しても同様の研究を行っている。この物質の 場合も、V(Nb)と Si(Sn)の幾何学的配置から、Vml の軌道依存性によって構造相転移(マル テンサイト変態)を伴う強的軌道秩序が実現することは容易に理解できる。定量的な計算を行う ため、WIEN2k による第一原理計算と WIEN2Wannier を用いて 36 バンド d-p 模型を構築した。 時間があればその結果についても報告したい。 参考文献 [1] Y. Ōno, Y. Yanagi, Y. Yamakawa, N. Adachi: Solid State Commun. 152 (2012) 701 及び引用文献 [2] 柳有起, 山川洋一, 安立奈緒子, 大野義章: 日本物理学会 2010 年秋季大会(大阪府立大学)25aWG-4; 柳有起: 学位論文(新潟大学)2010 年 9 月 磁場侵入長に対する反強磁性臨界揺らぎの効果 京都大学 理学研究科 野本 拓也 1 , 池田 浩章 反強磁性揺らぎと超伝導との関連性は銅酸化物高温超伝導体の発見以降、強相関電子 系における重要なテーマであり続けている。近年、鉄系超伝導体 BaFe2 (As1−x Px )2 に対す る系統的な実験により、量子臨界組成 (x = 0.3) 近傍で磁場侵入長 λ2 (0) の急峻なピーク 構造が観測された [1]。さらに磁場侵入長の低温での温度依存性は、ピーク構造が見える 領域において通常の ∆λ(T ) ∝ T から外れ、むしろ ∆λ(T ) ∝ T 1.5 のように振る舞う [2]。 同様の傾向は他の物質においても知られており、例えば CeCoIn5 の加圧下測定において も反強磁性相に向かって磁場侵入長が増大する振る舞いが観測されている [3]。また、低 温での ∆λ(T ) ∝ T 1.5 的な振る舞いは CeCoIn5 や κ-(BEDT-TTF)2 X (X=Cu[N(CN)2 ]Br, Cu(NCS)2 ) において観測されており、これらの特異な現象は反強磁性の量子臨界に普遍 的なものであることが伺える。そこで、我々は超伝導体中のフェルミ液体論に基づいた解 析を行い、反強磁性量子臨界点近傍において臨界揺らぎが磁場侵入長に与える影響につい て詳しく研究した [4]。 反強磁性臨界点に普遍的な振る舞いを調べるため、我々はそれぞれ銅酸化物超伝導体と 鉄系超伝導体を模した単純なモデルを用いて解析を行った。このモデルにおいては、絶 対零度での磁場侵入長はフェルミ面の形状と揺らぎの構造のみに依存する。解析の結果、 量子臨界点に向かって磁場侵入長が増大する振る舞いはどのケースでも見られるが、臨界 点における顕著なピークは鉄系超伝導体でのみ期待されることが明らかになった。また、 磁場侵入長の温度依存性に関しては、準粒子カレントのバーテックス補正を取り入れるこ とで通常の ∆λ(T ) ∝ T からより高次のべきにクロスオーバー的に変化し得ることを確認 した。この効果はフェルミ面上のホットスポットとノードの位置に強く依存しており、上 で述べた実験事実を正しく解釈するためには不可欠な効果であると考えられる。 参考文献 [1] K. Hashimoto et al., Science 336, 1554 (2012). [2] K. Hashimoto et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, 3293 (2013). [3] L. Howald et al., Phys. Rev. Lett. 110, 017005 (2013). [4] T. Nomoto and H. Ikeda, arXiv:1305.4427. 1 E-mail: [email protected] 1 Ca10Pt4As8(Fe1-xPtxAs)10 と Ba(Fe1-xCox)2As2 の軌道揺らぎに関連 した中性子散乱研究 総合科学研究機構 佐藤正俊 1、池内和彦 名大・理 小林義明、李尚、豊田真幸、伊藤正行 J-PARC/MLF 梶本亮一 物構研 P. Miao、鳥居周輝、石川喜久、神山崇 原子力機構 中村博樹、町田昌彦 CEA Saclay P. Bourges ORNL A.D. Christianson 鉄系超伝導体における Tc への非磁性不純物の結果は、その超伝導オーダーパラメーター∆が Γ点と M 点の周囲にある2つの離れたフェルミ面上で同一の符号を持っている(S++対称)こと を強く示唆しており、スピン揺らぎ機構によって現われる符号反転を伴う S±対称の∆とは相容れ ない。このことの発見以来、我々は、高い Tc をもたらす新しい超伝導機構がこの系に存在して いる可能性に注目し、いくつかの物理量に対して研究を行っている。ここでは特に、多軌道・ 多バンド電子系に特徴的な軌道揺らぎ機構を念頭にして最近行った Ca10Pt4As8(Fe1-xPtxAs)10 (Ca10-4-8)単結晶(Tc∼33 K)に対する中性子非弾性散乱のデータを用いて、 (1)磁気励起スペクトルに見られる特徴、 (2)FeAs 面内に振動する acoustic, optical 双方のフォノンモードの振舞い の概略を示し、さらに、Ba(Fe1-xCox)2As2 の結晶粒の集合体(x=0.0, 0.01, 0.02)に対して、外部ス トレス、表面効果の影響を全く受けない条件で行った高分解能回折実験の結果を詳しく示して、 (3)TN, TS(それぞれ、反強磁性転移、tetra↔ortho 転移の温度)、さらには“nematic”状態へ の移行に関する特徴的温度 T*で表される温度-x 相図をどう理解するか、特に、T*が現 われる理由はなにか について、軌道揺らぎの役割に注目ながら議論する。 1 E-mail : [email protected] 鉄系超伝導体における軌道とスピンの物理 —超伝導ギャップ関数、弾性定数、電子ラマン測定— 紺谷浩、大成誠一郎 Nagoya University 1 鉄系超電導体では、磁気相転移温度 TN より高温で構造相転移温度 TS が発現し、TS 以下では 大きな軌道分裂 Exz − Eyz ≈ 600K が観測される。また TS 以上では、弾性定数 C66 のソフト化や 電子ラマン測定による軌道感受率 χx2 −y2 (0) の増大、さらには C4 対称性が破れる電子ネマティッ ク状態が出現する。これらの正常状態における「異常な電子状態」の理解が、理論における最大 の課題であった。これらの電子状態は、軌道揺らぎや軌道秩序の存在により説明されるが、平均 場近似や LDA、DMFT 等では再現されない。ところが、平均場近似を超えた電子相関であるバー テックス補正がもたらす「スピン揺らぎと軌道揺らぎのモード間結合」により、軌道揺らぎがス ピン揺らぎが強調して発達することが見出された [1]。本理論により、TS (> TN ) 以下における軌 道偏極状態(nxz ̸= nyz )や、TS 以上における軌道揺らぎの発達が説明される。さらに、軌道揺ら ぎがもたらす s++ 波状態や、軌道揺らぎとスピン揺らぎの拮抗がもたらす nodal-s 波状態が、純 粋な 5 軌道ハバード模型に基づき再現することができる [2]。 本講演では、上記のバーテックス補正を考慮した理論(SC-VC 理論)に基づく、正常状態や超 伝導状態の理論解析の結果を議論する。特に、C66 と電子ラマン測定との類似点と相違点、また軌 道揺らぎとスピン揺らぎの拮抗がもたらすバラエティーに富んだ超伝導状態に焦点を絞って議論 する予定である。 なお最近、2 次元繰り込み群の手法により多軌道ハバード模型が解析され、バーテックス補正に よる軌道揺らぎや軌道秩序が発生することが明らかになり、SC-VC 法の正当性が明らかになった [3]。今後、様々な多軌道強相関電子系において、軌道秩序や軌道揺らぎに起因する新規超伝導な ど、興味深い軌道の物理の発現が期待される。 references 1) Seiichiro Onari and Hiroshi Kontani, 2) Seiichiro Onari, Hiroshi Kontani, Sergey V. Borisenko, Volodymyr B. Zabolotnyy and Bernd Buechner, arXiv:1307.6119. Phys. Rev. Lett. 109, 137001 (2012). 3) Masahisa Tsuchiizu, Yusuke Ohno, Seiichiro Onari and Hiroshi Kontani, Phys. Rev. Lett. 111, 057003 (2013). 1 E-mail: [email protected] 1 Ba(Fe1-xCox)2As2 の FeAs 面内異方性−不純物効果− 名大院理 A、総合科学研究機構 B、JST-TRIPC 小林義明 A, C、豊田真幸 A、李 尚 A、伊藤正行 A, C、佐藤正俊 B, A, C 鉄系超伝導体において、正方晶−斜方晶構造相転移が起きるとされる温度(Ts)以上 の正方晶相でも、鉄の正方格子面内に斜方晶軸を主軸とする異方性が様々な物理量で 観測されている。その起源には、超伝導発現機構として議論されるスピンや軌道のゆ らぎが関与していると考えられ、多くの議論が行われている。 我々は、異なる x 値の Ba(Fe1-xCox)2As2 に対して、75As NMR を用いて As 位置の電 場勾配の Fe 面内異方性を調べた。ここでは、その異方性の大きさや温度依存性が Fe サイトへの不純物導入により、どのような影響を受けるかを報告し、Fe 面内異方性の 起源について議論する。 x = 0 試料の 75As NMR スペクトルの面内方向依存性から、斜方晶軸の a, b 方向が主 軸となる電場勾配の面内2回対称性を、Ts 以上でも観測した。核四重極共鳴周波数νa, νb から電場勾配の異方性η = |(νa−νb)/(νa+νb)|を見積ると、Ts 直上でのηは、斜方晶相中 T « Ts でのηの 1/60 となる。 この大きさは格子の斜方晶歪の寄与だけでは説明できず、 Fe 電荷分布の非対称性の寄与もあると考えられる。また、ηは室温近くでも有限な値 をとり、温度降下で徐々に増大し、Ts 近傍まで特徴的な変化は見られない。 x ≠ 0 試料の 75As NMR スペクトルは As を囲む 4 つ最近接と 8 つの次近接 Fe サイト 全てが Fe で占められた As サイトからのスペクトルと、最近接、次近接どちらかの Fe サイトが Co1 つ以上で占められたものとに分けて観測できる。前者のスペクトル から、x = 0 のものと同様な異方性が観測された。Ts 以下のηは、x の増加で小さくな るが、Ts 以上でのηは室温近くでも x = 0 の試料と比べ大きく、x の増加で大きくなる 傾向を示した。また、室温近くから Ts まで低温に向かって徐々に増大する。 これらの振舞いは、格子の斜方晶歪や Fe 電荷分布の異方性の出現が不純物や格子 欠陥のまわりに局所的に生じたとすると説明し得る。また、このような領域が温度と もに大きくなり、斜方晶への転移につながると理解できる。 超音波測定に現れる鉄系超伝導体におけるスピン揺らぎの効果 岩手大学 大学院工学研究科 Shalamujiang Simayi,坂野 幸平, 藤井千旭,竹澤 遼,中西 良樹, 吉澤 正人1 産業技術総合研究所 木方 邦宏,中島 正道,李 哲虎, 伊豫 彰,永崎 洋 東京大学 大学院理学研究科 内田 慎一 鉄系超伝導体 Ba(Fe1−x Cox )2 As2 には C66 の大きな弾性異常が存在し、スピンネマティック秩序 や軌道揺らぎとの関係が議論されている [1]。この物質には、面間方向の弾性定数 C33 にも異常が 見いだされている [2]。この C33 の異常は小さいながら、x=0.060 の試料では 50∼60K の高温から 緩やかに軟化するなど、C66 とは異なった特徴的な振る舞いを示すことから、われわれは、鉄系超 伝導体研究の初期段階からこの振る舞いに注目してきた。不思議なことに、C33 はこの系の示す構 造相転移温度 TS では異常は示さず、磁気相転移温度 TN と超伝導転移温度 Tsc で異常を示す。こ れに伴い、C33 の超音波吸収係数は、Tsc 以下でピークを示し、低温に向かって低下する。 さて、超伝導体を含む遍歴電子系の弾性的性質は電荷応答関数として考える事ができる。良く 知られているように、従来型の超伝導体では、スピン応答関数である NMR の核磁気緩和率には Hebel-Slichter peak が観測される。一方、電荷応答関数の虚部である超音波吸収係数は Tsc 以下 でピークを示さない。強相関伝導系である UPt3 や UBe13 の超音波吸収係数は、Tsc 以下でピーク を示すことが知られ、Landau-Khalatnikov 機構の関与が議論されている。核磁気緩和率のコヒー レンスピークは異方的超伝導体では現れず、鉄系超伝導体でも観測されない。このコヒーレンス ピークの有無に関する電荷応答関数とスピン応答関数の関係は s++ と s± ギャップ対称性で逆転す ることも予想される。もし、このことが鉄系超伝導体で実現しているとしたら、超音波測定で見 つかったこれらの面間方向の不思議な性質は、c 軸の伸縮や鉄を囲むニクトゲンの四面体角の制御 を通じた超伝導発現機構へのスピン揺らぎの役割を示唆しているのも知れない。 参考文献 [1] M. Yoshizawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 81 (2012) 024604 [2] S. Simayi et al., J. Phys. Soc. Jpn. submitted. 1 E-mail: [email protected] 1 La と P をコドープした CaFe2As2 における 臨界温度 45 K の超伝導 岡山大学 大学院自然科学研究科 工藤 一貴 1 鉄ヒ素系化合物は、化学ドープへの許容性が高い。鉄ヒ素層およびスペーサー層の各サイトに 多様な化学種をドープすることができ、その結果、超伝導を発現する [1]。網羅的かつ系統的な化 学ドープが行われ、最高の臨界温度 Tc は、1111 型で 55 K (SmFeAsO1−x Fx )[2]、122 型で 38 K (Ba1−x Kx Fe2 As2 )[3] に達した。一見すると、化学ドープにはもはや工夫の余地はないように思え る。それに対し本講演では、2つの化学種を同時にドープするコドープが、新たな高 Tc 鉄系超伝 導体を開発するために有効であることを示す。 CaFe2 As2 に La と P をコドープすると、Tc = 45 K の超伝導が発現した [4]。この Tc は、 Ba1−x Kx Fe2 As2 の 38 K[3] より高い。Ca1−x Lax Fe2 (As1−y Py )2 は、0.12 ≤ x ≤ 0.18、y = 0.06 に おいて大きな超伝導体積分率を示した。興味深いことに、この超伝導相は x ≤ 0.12、y = 0.0 に存 在する反強磁性秩序相に隣接しない。一般に鉄系の超伝導相は反強磁性相に隣接し、そのため磁 性に由来する超伝導機構が有効であると議論されている [1]。我々の結果は、磁性以外にも、超伝 導発現を媒介する機構が鉄系に存在することを示唆する。 本研究は、岡山大学の伊庭恵太、野原実との共同研究によるものである。 参考文献 [1] D. C. Johnston, Adv. Phys. 59 (2010), 803. [2] Z.-A. Ren, W. Lu, J. Yang, W. Yi, X.-L. Shen, Z.-C. Li, G.-C. Che, X.-L. Dong, L.-L. Sun, F. Zhou, and Z.-X. Zhao, Chin. Phys. Lett. 25 (2008), 2215. [3] M. Rotter, M. Tegel, and D. Johrendt, Phys. Rev. Lett. 101 (2008), 107006. [4] K. Kudo, K. Iba, M. Takasuga, Y. Kitahama, J. Matsumura, M. Danura, Y. Nogami, and M. Nohara, Sci. Rep. 3 (2013), 1478. 1 E-mail: [email protected] 1 BaFe2As2 系超伝導体の超伝導対称性1 京都大学 理学研究科 芝内 孝禎 2 鉄系超伝導体では、超伝導ギャップ構造がユニバーサルではない振る舞いを示すことが明らかと なっている [1]。例えば BaFe2 As2 系では、Co 置換系および K 置換系の最適ドープ付近では、様々 な実験によりフルギャップの振る舞いを示しているのに対し、P 置換系の広い置換範囲および K 置 換系の過剰ホールドープ領域では、超伝導ギャップがゼロ点 (ノード) を持つ振る舞いが観測されて いる。フルギャップの超伝導状態では、符号変化を伴う s± か伴わない s++ かどうかは別にして、 いずれにしても s 波 (群論の分類では A1g 対称性) を持つことは明らかである。これに対してノー ドを持つ場合は、d 波などの他の対称性である可能性もあるため、まず対称性としてフルギャップ の場合と同じ A1g 対称性を持つのかどうかを実験的に明らかにすることが重要である。 P 置換系では、点欠陥を導入可能である電子線照射の手法を用いて、不純物散乱を制御した試 料について磁場侵入長を精密測定した。その結果、低温における温度依存性が不純物濃度ととも に温度に比例する依存性から熱活性型に変化することを明らかにした [2]。これは、不純物により ノードが消失することを直接示す初めての実験結果であり、ノードの位置が対称性によって守られ ていない A1g 対称性を持つことを明らかにするものである。一方 K 置換系では、過剰ドープ領域 における熱伝導度 κ の測定から、低温極限の残留 κTc /T の値が非単調なドーピング依存性を示す ことを明らかにした [3]。このような非単調な依存性は、d 波のような対称性によりノードの位置 が決まっている場合には期待されない極めて異常な振る舞いであり、これもノードの位置がドー ピングによって変化することが可能な A1g 対称性を持っていることを示す結果である。 以上より BaFe2 As2 系の超伝導は、ギャップ構造はノードを持つものや持たないものが現れる多 様性を示すが、対称性としてはユニバーサルに A1g 対称性を持つということが結論できる。 参考文献 [1] レビューとして、T. Shibauchi, A. Carrington, and Y. Matsuda, arXiv:1304.6387; 芝内孝禎, 松田祐司, 日本物理学会誌 68 (to be published). [2] Y. Mizukami et al., (unpublished). [3] D. Watanabe et al., arXiv:1307.3408. 1 本成果は、水上雄太, 川本雄太, 渡邊 大樹, 山下 卓也, 三上 拓也, 藏田 聡信, 笠原成, 池田浩章, 松田祐司 (京都大 学), R. Prozorov (Ames), A. B. Vorontsov (Montana), M. Konczykowski (Ecole Polytechnique) の各氏をはじめ、 多くの内外の研究者との共同研究によるものです。 2 E-mail: [email protected] 1 STM/STS でみた FeSe の超伝導ギャップ 理研 CEMS 花栗哲郎 1 超伝導ギャップにノードを持つ鉄系超伝導体のノード構造の詳細を明らかにすることは、超伝導 機構を知るうえで重要である。超伝導ギャップの詳細を知るうえで STM/STS は強力な手法である が、ほとんどのノードを持つ鉄系超伝導体は表面が電気的に中性ではないため、実験が困難であ る。FeSe は唯一の例外であり、MBE 薄膜試料のその場 STM/STS 実験からノードの存在が示唆さ れている [1]。本研究では、基盤の効果等、薄膜固有の影響を排除するために単結晶で STM/STS 実験を行った。 左図に典型的な STM 像を示す。格子構造の周期は、Se 格子に相当し、ダンベル状の輝点は、欠 陥が鉄サイトに存在することを意味する。右図に、ランダムに選択した欠陥から離れた場所での トンネルスペクトルを示す。スペクトル形状は V 字型であるが、単一のギャップではなく、内部 構造が存在する。講演では、準粒子干渉効果や渦糸の電子状態についても議論する。 本研究は、綿重達哉氏をはじめとする京都大学の松田・芝内グループ、Karlusruhe 工科大の Meingast グループとの共同研究です。 図 1: 左図:0.4K における FeSe の STM 像とスペクトル。STM 像は 15 nm×15 nm、セットポイ ント+95mV/0.1nA。トンネルスペクトルは縦方向にオフセットした。 参考文献 [1] C. -L. Song et al., Science 332, 1410 (2011). 1 E-mail: [email protected] 1 中性子散乱による鉄系超伝導体のスピン揺動の研究 産総研 李哲虎、木方邦宏、中島正道、伊豫彰、永崎洋 青山学院大 堀金和正、藤田慧、秋光純 ILL P. Steffens ケルン大 N. Qureshi、M. Braden 鉄系超伝導体におけるスピン揺動と超伝導の相関関係を明らかにすべく、これまで中性子散乱 による研究が盛んになされてきた。中性子散乱によって得られた重要な結果の一つに Tc 以下で磁 気シグナルが顕著に増大する現象、いわゆるレゾナンスの観測がある。このレゾナンスの起源は 超伝導の対称性が s++ と s± では異なると考えられており、その起源解明は重要な研究課題の一つ となっている。そこで、我々はレゾナンスの起源を明らかにすべく、単結晶を用いた中性子散乱 実験によりレゾナンスを詳細に調べた。 本研究では測定試料系として 122 系を選択した。122 系は電子ドープ、ホールドープ及び化学的 圧力等により超伝導が出現する。そのため、系統的な実験によりそれらに共通した法則を見いだせ る可能性がある。そこで、我々は電子ドープ系の Ba(Fe,Co)2 As2 、ホールドープ系の (Ba,K)Fe2 As2 及び化学的圧力が印加される BaFe2 (As,P)2 を偏極及び非偏極中性子非弾性散乱により調べた [1-3]。 実験の結果、鉄系超伝導体におけるレゾナンスの異方的な振る舞いが明らかとなった。これま で、Co ドープ系でレゾナンスエネルギーが c 軸方向に分散関係を持つことが知られていた。今回、 我々はキャリアーがドープされない P ドープ系でも c 軸方向に分散が見られることを見いだした。 これにより c 軸分散がキャリアードープとは関係なく普遍的に見られる振る舞いであることが明 らかとなった [3]。c 軸分散のバンド幅は Co ドープ、P ドープともに3次元反強磁性相関が強いほ ど大きくなる。またドープ量を長距離反強磁性秩序がなくなる濃度で規格化すると、Co ドープ、 P ドープ両者ともにバンド幅のドープ量依存性はユニバーサルラインに乗ることも分かった。 Co ドープ系の偏極中性子非弾性散乱実験から、我々は初めてレゾナンスモードに偏極依存性が あることを発見した [1]。スピンが c 軸方向に揺らいでいるモードでは、非偏極中性子で観測され る 2∆ = 4kB Tc 近傍のレゾナンスに加え、2∆ = 1.8kB Tc という低エネルギーでシャープなレゾナ ンスピークが観測された。このように我々は二つのレゾナンスピークが存在することを突き止め た。これらの詳しい解析、解釈及び K ドープの最新の結果について会議にて議論したい。 参考文献 1) P. Steffens and C. H. Lee et al., Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 137001. 2) C. H. Lee et al., Phys. Rev. Lett. 106 (2011) 067003. 3) C. H. Lee et al., Phys. Rev. Lett. (2013) submitted. 1 梯子型鉄系化合物 AFe2X3(A = Cs, Ba; X = S, Se) の電子物性 東大物性研 平田靖透1 ,大串研也,杜菲,田島裕之,上田寛 鉄カルコゲナイド化合物 AFe2 X3 (A = Cs, Ba; X = S, Se) は一次元的な Fe の二重鎖が集まっ た梯子構造を持つ、鉄系超伝導体 Ax Fe2−x Se2 の類縁物質である。銅酸化物高温超伝導体では梯 子型銅酸化物 Sr14 Cu24 O41 が超伝導を示す [1] ことから、鉄系の梯子型化合物の物性についても 最近研究が進められている。AFe2 X3 はいずれも低温で反強磁性秩序が生じる絶縁体であるが、 BaFe2 Se3 [2] は磁気モーメントが強磁性的に揃った 2x2 のユニットが反強磁性的に配置されるブ ロック型の磁気構造をとるのに対し、BaFe2 S3 や CsFe2 Se3 [3] はそれぞれ磁気モーメントの向きが 異なるストライプ型の磁気構造をとり、また Ba を Cs に部分置換した Ba1−x Csx Fe2 Se3 は x の値 によって磁気秩序が消滅する [4] などこの系で豊かな磁気秩序を示すことが中性子回折実験で明ら かにされている。さらに、CsFe2 Se3 は Fe の形式価数が 2.5 となる混合原子価化合物であるが、メ スバウアー分光の結果は電荷秩序の形成を否定しているにもかかわらず電気伝導は BaFe2 Se3 より も絶縁的という奇妙な電子物性を持つ。 我々はこれらの物性の起源を解明するため、BaFe2 Se3 、CsFe2 Se3 、BaFe2 S3 の光学応答をはじ めとする電子物性の測定を行い、それぞれの光学伝導度スペクトルに複数のモット励起モードが 現れることを明らかにした。本発表では複数のモット励起モードの起源を考察し、また梯子型鉄 系化合物における電子物性と磁気構造との関わりを議論する。 参考文献 [1] T. Nagata et al., PRL 81, 1090 (1998). [2] Y. Nambu et al., PRB 85, 064413 (2012). [3] F. Du et al., PRB 85, 214436 (2012). [4] 羽合孝文ほか、日本物理学会第 68 回年次大会 27aXZE-7 (2013). 1 E-mail: [email protected] 1 dHvA 測定による KFe 2 As 2 の電子状態研究 物質・材料研究機構 寺嶋 太一 Ba1-xKxFe2As2 のホールドープ側のエンドメンバーKFe2As2 は、電子比熱係数 93 mJ/K2mol か ら推測されるように電子相関の強い系である[1]。Tc は約3Kと低いものの超伝導を示し、多くの 実験データがそのギャップ構造にノードがあることを示唆している。これは x ~ 0.4 の最適ドー プの場合のフルギャップ状態と対照的であり、ギャップの対称性、詳細な構造が実験的、理論的 に盛んに研究されている。更に、ごく最近、圧力下の Tc の圧力依存性が Pc ~ 18 kbar を境に負 から正へ変わることが発見され、圧力によるギャップ対称性の変化の可能性が提案されている[2]。 そこで、本講演においては、KFe2As2 の電子状態研究について、まずは常圧における dHvA 測 定からわかったことをまとめた後[3, 4]、高圧力下における dHvA 測定の結果についてご報告する。 参考文献 [1] H. Fukazawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, SA118 (2011). [2] F. F. Tafti et al., Nature Phys. 9, 349 (2013). [3] T. Terashima, M. Kimata, N. Kurita, H. Satsukawa, A. Harada, K. Hazama, M. Imai, A. Sato, K. Kihou, C.-H. Lee, H. Kito, H. Eisaki, A. Iyo, T. Saito, H. Fukazawa, Y. Kohori, H. Harima, and S. Uji, J. Phys. Soc. Jpn. 79, 053702 (2010). [4] Taichi Terashima, Nobuyuki Kurita, Motoi Kimata, Megumi Tomita, Satoshi Tsuchiya, Motoharu Imai, Akira Sato, Kunihiro Kihou, Chul-Ho Lee, Hijiri Kito, Hiroshi Eisaki, Akira Iyo, Taku Saito, Hideto Fukazawa, Yoh Kohori, Hisatomo Harima, and Shinya Uji, Phys. Rev. B 87, 224512 (2013). 鉄系超伝導体のドーピング効果 産総研 A,東大理 B、千葉大院理 C 永崎洋 A, 中島正道 A,B, 石田茂之 A,B, 齊藤拓 C, 木方邦宏 A, 富岡泰秀 A, 李哲虎 A,伊豫彰 A,伊藤利充 A,深澤英人 C,小堀洋 C,内田慎一 A 鉄系超伝導体では、高温超伝導は母物質に対する様々な元素置換(ドーピング)によ って発現する。元素置換の役割としては、(1)異なる価数をもつ元素の導入によるキ ャリアの注入、 (2)化学的圧力効果による結晶構造の変形、 (3)不純物ポテンシャル の導入、等が挙げられるが、これらの効果はドーピング手法によって大きく異なる。例 えば、図に示す BaFe2As2 を母物質とする一連の物質群の電気抵抗を比較すると、母物 質 BaFe2As2 で見られる特徴、即ち、高温領域では高い電気抵抗率を示し、その温度依 存性も小さいという、いわゆる“悪い金属”的な振る舞いは、K ドープをしても変わ ることなく保たれる。一方、Co ドープ、P ドープの場合はドーピングに伴って電気抵 抗率が下がっていき、系は良い金属へと変わっていく。 光学伝導度スペクトルによれば、BaFe2As2 の低エネルギー領域の電荷励起は、イン コヒーレントな成分が支配的であり、これが悪い金属の原因となっている。この傾向は、 K をドープしてもこの傾向に変化は見られない。一方、Co、P 置換の場合は、ドーピ ングと共にコヒーレントな成分が増大していくことが明らかとなった。低エネルギー励 起におけるコヒーレント成分の占める割合は電子相関の強さの指標のひとつと考えら れるが、この値は As-Fe-As の結合角及びフィリングと相関している。このことは、ド ーピングによる化学圧力効果、フィリングの変化が電子相関の強さをコントロールして いることを示唆している。 図 BaFe2As2 を母物質とする超伝導体の面内電気抵抗のドーピング依存性 鉄系超伝導体反強磁性相における電気伝導度の面内異方性と不純物 京都大学 基礎物理学研究所 杉本 高大1 , 遠山 貴己 ヨゼフ・ステファン研究所 Peter Prelovšek 仙台高等専門学校 兼下 英司 鉄系超伝導体母物質の一つで、鉄原子が二次元正方格子状に並んで層状構造をなす BaFe2 As2 (122 系)はネール温度以下で反強磁性を示す。このときほぼ同時に構造相転移も起こり、Fe-Fe 結 合長の短い方に強磁性的で、それに垂直な方向に反強磁性的である。それぞれの結晶軸方向の抵 抗を測定すると異方性が現れ、反強磁性方向の抵抗が強磁性方向の抵抗よりも小さくなることが 知られている。ところで、この試料をアニールするとこの異方性はほとんどなくなるが、Fe サイ トを Co に置換していくと異方性が増加する。これは不純物による散乱が抵抗の異方性の主要な寄 与であることを示唆している [1, 2]。また、Ba サイトを K に置換することでホールをドープする と、異方性が入れ替わることも報告されている [3]。 鉄系超伝導体では、フェルミ面近傍に鉄の 3d 電子に含まれる複数の軌道の成分が顔を出してい る。我々は記憶関数による定式化 [4] を多軌道電子系でも使えるように拡張し、不純物を導入した 際の電子の緩和時間の計算と解析を進めている。計算に当たって、まずストライプ様の反強磁性 秩序が生じている状態を考え、5 軌道ハバード模型の平均場近似にスピンの秩序を考慮し、秩序 パラメータを自己無撞着に解くことで基底状態の波動関数とエネルギー分散を数値的に導出する。 この結果を用いて記憶関数を計算し、緩和時間を得ることで電気伝導度を計算できる。 不純物ポテンシャルによる散乱を考慮して計算を行うと、反強磁性方向の伝導度が強磁性方向 のものよりも大きくなるという、定性的に実験と一致する結果が得られた。さらにホールをドー プすると伝導度の異方性が入れ替わることも再現することができた。これらの結果は反強磁性相 における折りたたまれたフェルミ面の形状によって説明されることを解説する。 参考文献 [1] M. Nakajima et al., Phys. Rev. Lett. 109, 217003 (2012). [2] S. Ishida et al., Phys. Rev. Lett. 110, 207001 (2013). [3] E. C. Blomberg et al., Nat. Comm. 4, 1914 (2013). [4] W. Götze and P. Wölfle, Phys. Rev. B 6, 1226 (1972). 1 E-mail:[email protected] 1 第一原理ダウンフォールディング法に基づく鉄系超伝導体の磁性の研究 産業技術総合研究所 平山元昭 1 鉄系超伝導体の母物質は多彩な磁性を示すことが知られている [1]。代表的な LaFeAsO(1111 系) や BaFe2 As2 のような 122 系はストライプ型の反強磁性秩序 (AFS) を示す。一方、単層型の鉄系超 伝導物質である FeTe(11 系) では (π/2, π/2) にピークを持つバイコリニア型の反強磁性秩序 (AFB) が安定化し、FeSe では磁気秩序は発現せずに約 10 K 以下で超伝導が現れる。 鉄系超伝導物質における磁気秩序の多様性を明らかにするために、我々は強相関電子物性を第 一原理的に解き明かす方法 (MACE(Multiscale Ab initio scheme for Correlated Electrons)) を用 いた [2]。この方法では、まず初めに密度汎関数法 (DFT) に基づいて大局的な電子構造を計算し、 制限乱雑位相近似 (cRPA) を用いてフェルミ準位近傍の電子に対する低エネルギー有効模型の導 出を行う [3]。従来の方法に内在する低エネルギー電子間の相関効果の二重勘定を排除するため、 我々はさらに制限自己エネルギー (cSE) 法を導入した [5]。この方法では、DFT の局所密度近似 (LDA) における相関交換ポテンシャルを、高エネルギー自由度からの自己エネルギー、及び低エ ネルギー電子間の有効相互作用の周波数依存性の効果の 2 つに置き換える。 次に我々は得られた有効模型に多変数変分モンテカルロ法 (mVMC) を適用し、鉄系超伝導体の磁 性を計算した。鉄系超伝導物質は一般に低エネルギー電子間の有効相互作用が強く [6]、DFT/LDA を超えた相関効果の取り扱いが必要となる。例えば、LDA ハミルトニアンの期待値を 1 体項とす る従来の模型 [6] を使った計算では FeTe においても AFS が安定化していたが、今回の相関効果の 二重勘定を含まない有効模型を使った計算では AFB が FeTe で安定化し、実験を再現することを 見出した。見積もられた FeTe の Fe3d 軌道間の有効相互作用は約 3-4eV と大きく、強いフント結 合が長周期の AFB の安定化に大きな役割を果たしている。 参考文献 [1] H. Hosono, Y. Nakai, and K. Ishida: J. Phys. Soc. Jpn. 78 (2009) 062001. [2] M. Imada, and T. Miyake: J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 112001. [3] F. Aryasetiawan et al.: Phys. Rev. B 70 (2004) 195104. [4] T. Misawa, K. Nakamura, and M. Imada: J. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011) 023704. [5] M. Hirayama, T. Miyake, and M. Imada: Phys. Rev. B 87 (2013) 195144. [6] T. Miyake, K. Nakamura, R. Arita, and M. Imada: J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 044705. 1 E-mail: [email protected] 1 鉄系超伝導体におけるフェルミ面トポロジーとバンド形状の協力効果 大阪大学 理学研究科 黒木和彦, 臼井秀知 電気通信大学 先進理工 1 鈴木雄大 鉄系超伝導体に対しては、はやい段階でフェルミ面のネスティングを起源とするスピン 揺らぎ媒介のペアリング機構が提唱された。様々な実験が超伝導ギャップの符号反転を示 す点はスピン揺らぎ媒介と整合するものの、一方において、フェルミ面のネスティングが 非常に悪い、あるいは存在しない鉄系超伝導体の例も見つかりつつある。例えば、水素 ドープ型の 1111 系は [1] 多量の電子ドープによってフェルミ面のネスティングが著しく損 なわれるにも関わらず [2, 3]、高温超伝導が実現する。このような観点から、少なくとも 通常の意味でのフェルミ面・ネスティング以外の効果が、ペアリングを媒介するスピン揺 らぎの形成において重要な働きをしていると考えられる。 本研究においては、いくつかの物質に対して第一原理バンド計算から有効模型を構築 し、揺らぎ交換近似を適用して、スピン揺らぎ媒介超伝導について研究を行った。揺らぎ 交換近似は、自己エネルギー効果を取り込むことによって、乱雑位相近似よりもフェルミ 準位から離れたバンド部分の効果をより有効的に取り込む。その結果、フェルミ面そのも ののトポロジーに加えて、波数 (0, 0), (π, 0), (π, π) 近傍の(フェルミ準位から離れた)バ ンド形状もスピン揺らぎの形成と、それを媒介とする超伝導に重要な影響を及ぼすことが わかった。また、このバンド形状は、電子の隣接ホッピング積分に支配されるが、ホッピ ング積分から想定される局在スピン間の相互作用と、遍歴スピン描像が与えるスピン揺ら ぎの間には興味深い対応関係がある。 参考文献 [1] S. Iimura et al.: Nat. Comm. 3 (2012) 943. [2] S. Iimura et al.: Phys. Rev. B 88 (2013) 060501(R). [3] K. Suzuki et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 083702. 1 E-mail: [email protected] 1 新しい BiS2 系層状超伝導体 首都大学東京 理工学研究科 水口 佳一 1 最近われわれは,BiS2 超伝導層を有する新しい層状超伝導物質系を発見した[1,2].BiS2 系超伝導体は図 1 に示すような層状構造を有し,二枚の BiS2 層が共通の超伝導層である. 母相はバンドギャップを持った絶縁体であり,ブロック層制御により電子キャリアのドー ,SrFBiS2 型, ピングにより金属化し超伝導が発現する.REOBiS2 型(RE = La,Ce,Pr,Nd) Bi4O4S3 の三種類の結晶構造において超伝導が見出されており,LaO0.5F0.5BiS2(高圧アニ ール試料)において Tc = 10.6 K が観測されている. これまでの研究により,BiS2 系の超伝導特性は結晶構造と強い相関を持つことがわかっ てきた.多結晶試料に高圧アニールを施すことで劇的な Tc の上昇がみられることや,高圧 下測定における特異な圧力―Tc 相 図は非常に興味深い.これらの事実 は,BiS2 系超伝導の発現には最適 なキャリアドープのみならず,局所 構造パラメータの最適化が重要で あることを示唆している.特に,格 子定数の a 軸方向に起因する構造 パラメータが高温超伝導化に重要 である可能性が高い.本講演では, 多結晶および単結晶試料を用いた 物性測定結果を紹介し,超伝導と強 く相関する結晶構造パラメータに ついて議論する. 参考文献 [1] Y. Mizuguchi et al., Phys. Rev. B 86, 220510 (2012). [2] Y. Mizuguchi et al., J. Phys. Soc. Jpn. 81, 114725 (2012). 1 E-mail: [email protected] 図 1.BiS2 系超伝導体 LaOBiS2 と Bi4O4S3 の結 晶構造図.図中の色付けした部分が BiS2 超伝導 層である. Two Superconducting states in LaFeP1-xAsxO1-yFy K. T. Lai, A. Takemori, S. Miyasaka, S. Tajima, H. NakaoA, R.KumaiA, Y. MurakamiA Dept. of Phys., Osaka Univ., AKEK PF/CMRC The As-doping dependence of critical temperature Tc and resistivity ρ(T) in polycrystalline LaFeP1-xAsxO1-yFy has been investigated. In our previous study, we have reported that Tc increases with x and has maximum around x = 0.6 in the series of y = 0.1 [1]. As x is increased from 0 to 0.6, the T-dependence of ρ(T) changes from T2 to T-linear, indicating the enhancement of antiferromagnetic (AFM) fluctuation. In this study, we further investigate the As-content dependence of Tc and ρ(T) in LaFeP1-xAsxO1-yFy with lower F concentration. The figure shows the phase diagram of this system. In the case of y = 0, we have observed two superconducting (SC) domes in the range of x = 0 – 0.3 and x = 0.6 – 0.8, respectively. In particular, the dome of low As content has not been reported in the previous study [2]. In the Figure: The phase diagram of LaFeP1-xAsxO1-yFy. series of y = 0.05, the x-dependence of Tc shows two peak structures around x = 0.4 and x = 0.8 - 1.0, and a local minimum in the range of x = 0.5 – 0.7. In the region of x = 0 - 0.2 for y = 0 and that of x = 0 - 0.4 for y = 0.05, the ρ(T) shows the change of T-dependence from T2 to Tn (n ~1) with increasing x, suggesting that the AFM fluctuation increases with x. The theoretical calculations have predicted that there are some differences between the Fermi surfaces (FSs) of LaFeAsO1-yFy and LaFePO1-yFy [3]. The existence of the two SC domes or two peaks of Tc in the y = 0 and 0.05 series indicates that LaFeP1-xAsxO1-yFy has two SC states which originate from the different FS topology as suggested in the theoretical calculations. In addition, the present results reveal that these two SC domes merge into one dome with increasing F doping. [1] S. Miyasaka et al., J. Phys. Chem. Solids 72 (2011) 414 [2] C. Wang et al., EPL 86 (2009) 47002 [3] K. Kuroki et al., Phys. Rev. B 79 (2009) 224511 鉄系高温超伝導体における履歴電子と局在スピン間相互作用 元豊橋技術科学大学 西 和久 鉄系高温超伝導体は、銅酸化物超伝導体と同様に層状な結晶構造を持ち電子 構造では3d 電子が主役を演じ、また超伝導相と反強磁性相が隣接しているなど の点では類似しているが、多軌道電子系や母物質が反強磁性金属などの点から は異なっている。鉄系高温超伝導の起源となるキャリアのクーパー対を形成す るメカニズムは現在のところ明らかではないが、電子フォノン相互作用がクー パー対の起因でない場合、磁気的な相互作用がその有力な候補と考えられてい る。多軌道電子系のキャリアが様々な磁気的相互作用を含む電子間相互作用の 影響下で複層的な状態を形成し、その結果として超伝導状態に至るという彫像 が浮かび上がって来る。鉄系高温超伝導を完全に理解するには、これらの複雑 な構造を一歩ずつ解きほぐすことが必要で、偏見に囚われない多様な視点から の研究が求められる。本研究では履歴電子と局在スピンとの相互作用という観 点から鉄系高温超伝導体に特有な相互作用モード間の競合または協奏といかに 関連しているのかに主眼を置いて検討する。 最近の XPS による鉄系超伝導体での局在スピンの測定[1]に端を発し3d 電子 の異なる役割について理論的に調べられている[2]。鉄系超伝導体では履歴電子 と局在スピンが共存し、それと超伝導・磁性間との競合が関係する可能性が論 じられている。一方鉄系超伝導体の有効模型は tight-binding 模型を出発点とし、 磁気揺らぎをクーパー対の起源とする模型が構築されてきた[3]。銅酸化物高温 超伝導の場合と異なり、多軌道電子系では Hubbard 模型を簡単に構成すること は難しく最局在ワニエ基底関数を用いた tight-binding 模型が作られている。ここ でもこの方法を採用し履歴電子と局在スピンとの相互作用(s-d 相互作用)を含ん だハミルトニアンから Hubbard 的なモデルハミルトニアンを導出する。このハ ミルトニアンに基づいて超伝導状態を決める種々の因子を調べ、相互作用モー ド間の競合または協奏にどの程度関係しているかを探る。 参考文献 [1] H. Gretasson et al., Phys. Rev. B 84, 100509 (2011). [2] L. P. Gor’kov and G. B. Teitel’baum, Phys. Rev. B 87, 024504 (2013). [3] K. Kuroki, et al., Phys. Rev. Lett. 101, 087004 (2008). 鉄系超伝導体 LiFeAs における 3 次元ギャップ構造の理論解析 名大理 齋藤 哲郎1 , 紺谷 浩 名大工 大成 誠一郎 鉄系物質の超伝導発現機構の理論は、軌道揺らぎによる s++ 波超伝導の理論、スピン揺らぎに よる s± 波の理論の 2 つが提案され、その解明に向けて活発な研究がおこなわれている。鉄系超伝 導体の 1 つである、LiFeAs は最近の ARPES により、ギャップに異方性が観測されており [1, 2]、 その再現は理論の課題となっている。 我々は、実験を再現する 3 次元モデルを用いてギャップ関数の計算を行った。下図は Fermi 面 である。クーロン斥力(U )のみを考慮して RPA で計算を行った場合、主にホール面と電子面の xy 軌道内ネスティングによりスピン揺らぎが発達し超伝導が発現する。このため、h-FS1、2 は 主に xz/yz 軌道で構成されているためギャップは非常に小さくなり、実験を再現しない。さらに、 h-FS3 とのネスティングが悪い inner e-FS は outer e-FS よりギャップが小さくなり、実験結果を 再現しない。 一方、四重極相互作用(g )のみを考慮して RPA で計算を行った場合には、主に xz/yz ↔ xy 軌 道間ネスティングを利用して軌道揺らぎが発達し超伝導が発現する。このため、inner e-FS(xy ) と h-FS1,2(xz/yz )の軌道間ネスティングにより h-FS1、2 のギャップがほかの FS より大きくな り、実験を再現する結果が得られた。また、inner e-FS のギャップが outer e-FS より大きくなる。 ギャップ構造の詳細や、U 、g を両方考慮した場合などについては当日議論を行う。 π/2 k z =π h-FS3 xy ky 0 −π/2 inner e-FS θ h-FS1,2 xz/yz 0 θ outer e-FS kx π 図 1: kz = π 平面における LiFeAs のフェルミ面。 参考文献 [1] S.V. Borisenko et al., Symmetry 4 (2012), 251. [2] K. Umezawa et al., Phys. Rev. Lett. 108 (2012), 037002. 1 E-mail: saito@s,phys.nagoya-u.ac.jp 1 梯子型鉄系化合物 Ba1−x Csx Fe2Se3 に見られる多彩な磁性 東大 物性研 羽合 孝文, 大串 研也, 平田 靖透, 上床 美也, 上田 寛, 吉澤 英樹 東北大 多元研 南部 雄亮, 佐藤 卓 ANSTO Maxim Avdeev JAEA 関根 由莉奈, 深澤 裕 ORNL Jie Ma, Songxue Chi 近年、鉄系超伝導体の類似物質として 123 系と呼ばれるスピンラダー物質、BaFe2 Se3 や CsFe2 Se3 が注目を浴びている [1,2]。123 系は鉄系超伝導体に見られる磁気構造や FeSe4 の四面体構造を持つ一方で絶縁体である。 BaFe2 Se3 及び CsFe2 Se3 は異なる Fe 原子の有効価数を持ち、結晶構造や磁気構造にも 違いが見られる。我々はこれらの 2 母物質に対し混晶系である Ba1−x Csx Fe2 Se3 におい て、x の変化が物性、特に磁性がどのように影響するのかを研究している。特に磁性につ いて、米国の Oak Ridge National Laboratory (ORNL) の WAND 回折計を用いて中性 子粉末回折実験を行ったところ x に依存して極めて多彩な変化を見せることが分かった。 BaFe2 Se3 に現れるブロック磁性 (245 系鉄系超伝導体に見られる) は不安定で、x の変化と 共に長距離磁気秩序をすぐに失う。一方で CsFe2 Se3 に現れるストライプ磁性 (1111, 111, 11 系等の鉄系超伝導体に見られる) は比較的安定しており、広い x 領域で存在するもの の x の変化により異なる磁気異方性を示す。また x ∼ 0.25 近傍では 7 K 以上の温度領域 で明確な磁気散乱を観測できなかった。 磁気構造についての詳細な情報を得るため、Australian Nuclear Science and Technology Organisation (ANSTO) の ECHIDNA 回折計にて高分解能中性子粉末回折実験を行い、結 晶構造及び磁気構造の決定を行った。合わせて行った単結晶に対する帯磁率測定の結果か ら、特に Ba1−x Csx Fe2 Se3 におけるストライプ磁性は磁気波数ベクトル、モーメント方向 及びモーメントの大きさが変化する多彩な磁気構造をもつことが分かった。 講演ではこれらの磁気構造の詳細及び結晶構造、諸物性との関係について総合的に議論 する予定である。 参考文献 [1] Y. Nambu, et al., Phys. Rev. B, 85, (2012) 064413 [2] F. Du, et al., Phys. Rev. B, 85, (2012) 214436 1 Tc = 45 K を発現する電子ドープ CaFe2As2 の電子状態 岡山大院自然 砂川正典 1, 蛇渕泰平, 園山純生, 伊庭恵太, 工藤一貴, 野原実, 脇田高徳, 村岡祐治, 横谷尚睦 KEK 物構研 小野寛太, 組頭広志 広大放射光 有田将司, 島田賢也, 生天目博文, 谷口雅樹 鉄系超伝導体の中でも高い超伝導転移温度(Tc)を持つ新超伝導体の電子構造 研究は、より高い Tc の発現を目指す上で重要な情報を与える。物質の電子構造 を直接観測する有力な手法として角度分解光電子分光(ARPES)があり、特にフェ ルミ面トポロジーに着目した研究が精力的にされている[1,2]。我々は鉄系超伝 導 に お け る 高 Tc 発 現 の 起 源 を 電 子 構 造 の 観 点 か ら 解 明 す る た め に 、 AEFe2As2(122 型, AE= Alkaline Earth)バルク超伝導体の中でも最高 Tc = 45 K の超 伝導を発現する、 La と P をコドープした電子ドープ CaFe2As2[3]を用いた ARPES 測定を行った。 その結果、2枚のホール面と2枚の電子面がブリルアンゾーンの中央とコー ナーにそれぞれ存在し、全てのフェルミ面の kz 分散が弱いことが分かった。ま た、偏光依存 ARPES の測定結果から、2枚のホール面の内、電子面とネスティ ング条件が良い外側ホール面は XZ/YZ 軌道を持つことを明らかにした。この kz 分散の弱い XZ/YZ ホール面と電子面とのネスティングは、NaFe1-xCoxAs の最適 電子ドープ(Tc = 20 K)と同じであることが分かった[2]。この結果は、フェルミ面 のネスティングだけでは電子ドープ CaFe2As2 における Tc = 45 K での超伝導発現 を説明できないことを示唆している。 参考文献 [1] Y. Zhang et al., Phys. Rev. B 84, 020509 (2011). [2] Z. R. Ye et al., arXiv:1303.0682. [3] K. Kudo et al., Scientific Reports 3, 1478 (2013). ___________________________ 1 E-mail: [email protected] LaFeAsO1−xHx における磁気・軌道秩序と超伝導の理論研究 名古屋大学 理学研究科 名古屋大学 工学研究科 山川 洋一 1 , 紺谷 浩 大成 誠一郎 近年、LaFeAsO1−x Hx の過剰電子ドープ領域を含む相図が報告され、低ドープ領域 (x < 0.2) の超伝導相 (Tcmax = 29K) だけでなく高ドープ領域 (0.2 < x < 0.5) にも超伝導相 (Tcmax = 36K) が存在し、2 重ドーム型の超伝導相を持つ事が明らかとなった [1]。さらに、 超伝導が消える x > 0.5 では新たな磁気・軌道秩序相の存在も報告されており [2]、高ドー プ領域の超伝導と電子状態に強い関心が持たれている。 そこで本研究では、各組成比に対する第一原理計算から強束縛模型を構築し、クーロ ン相互作用 U, U ′ , J, J ′ 及び四重極相互作用 g を RPA の範囲内で取り扱い、スピン・軌道 揺らぎと超伝導について議論した [3]。図 (a) に軌道秩序の生じる gc を示す。電子-ホール 面間のネスティングはドーピング量 x の増加と共に減少し、Uc 及び gc は一旦上昇する。 しかしながら、高ドープ領域では電子-電子面間のネスティングが増大し、過剰ドープ領 域において磁気・軌道揺らぎが再び著しく発達する事を見出した。一方、 rigid band 模 型においては Uc と gc は共に x に対して単調増加となり、高ドープ領域で現れる磁気・軌 道秩序を説明出来ない。さらに、s++ 波超伝導における Eliashberg 方程式の固有値 λE を 図 (b) に示す。低ドープ領域と高ドープ領域の磁気・軌道揺らぎに起因し、s± 波・s++ 波 共に両端に向けて λE が増大する。s++ 波超伝導では、実験で Tc の極小が報告されている x ∼ 0.2 近傍で λE が最少となり、2 重ドーム型の超伝導相図を良く再現する結果を得た。 さらに最近、高ドープ領域の磁気・軌道秩序の詳細が実験的に明らかになりつつあり、そ れらとの関連についても議論する。 3 (a) λE orbital order ωc=1.0eV 0.4eV − g(x) 1 gc gc (rigid band) 0.2 x 0.4 0 0 0.2eV 0.02eV 0.2 x αc g [eV] 参考文献 0.95 2 e−h e−e 0.2 0 1 αc 0.24 0.22 (b) s++−wave (nimp= 0%) 0.9 [2] N. Fujiwara, et al., Phys. Rev. Lett. 111, 097002 (2013). 0.85 0.4 [3] Y. Yamakawa, et al., Phys. Rev. B 88, 041106 (2013). 図 1: (a) gc 及び (b) s++ 波の固有値 λE と αc の ドーピング依存性。 1 [1] S. Iimura, et al., Nat. Commumn. 3, 943 (2012). E-mail:[email protected] 1 SrFe 2As2 における K,P 同時置換による超伝導抑制効果 阪 大院理 足立徹,小林達也,宮坂茂樹,田島節子 The control of superconductivity by co-doping of K and P in SrFe 2 As 2 Dept. of Phys., Osaka Univ. Toru Adachi, Tatsuya Kobayashi, Shigeki Miyasaka, Setsuko Tajima SrFe 2 As 2 系では K を置換した際の最適組成付近で、超伝導ギャップはフルギャ ッ プとなる。一方、P 置換系の超伝導ギャップはノーダルギャップ であることが報 告されている 。このノーダルギャップ は、フルギャップ超伝導 において偶発的にノ ードが発生したために生じるのか、あるいはフルギャップ 超伝導とは全く異なる超 伝導メカニズムのために生じるのかは明らかになっていない 。そこで、本研究は 、 SrFe 2 As 2 に K と P を同時置換し、ノーダルギャップ領域とフルギャップ領域の間 に現れる物性を測定することで、この2つの異なる ギャップ領域がどのように接続 しているかを探ることを目的とした。 本研究では、Sr 1-x K x Fe 2 (As 1-y P y ) 2 の幾つかの異なる組成(x,y)の単結晶を育成 し 、 電気抵抗率や磁化率などの 物性を測定し た。 また、EDX を用いて組成分析を 行った。左下図に電気抵抗率の温度依存性のグラフを示す 。このグラフから、P 置 換系に K を置換していくと、SDW 転移温度が上昇し、SDW 状態が安定化してい くことがわかる。今回得られた単結晶の T SDW , T C を横軸に K の置換量を、縦軸に P 置換量を取ったグラフにプロットした所、右下図のようになった。 このように、K 置換、P 置 換で生じるフルギャップ、ノーダルギャップの超伝導相 (SC)は、この相 図上では連続的には接続しておらず、その間に SDW 相が存在している可能性が高 い。 0.6 1 300 K 0.6 0.4 x=0.02, y=0.18 x=0.14, y=0.20 x=0.25, y=0.15 200 300 0.2 0 0 100 T (K) P content y 0.5 0.8 0.4 SC 0.3 SDW 0.2 0.1 0 SC 0 0.2 0.4 K content x 0.6 図 : Sr 1-x K x Fe 2 (As 1-y P y ) 2 の電気抵抗率の温度依存性と 電子相図 ( T SD W を●、T C を○で表している。破線はガイドラインである。 また、x 軸上、y 軸上の点は先行研究の結果である。 ) 1111 鉄系超伝導体の高電子ドープ域における 非整合スピンゆらぎを起源とする s± 超伝導体の理論解析 鈴木 雄大1 電気通信大学 情報理工学研究科 大阪大学 理学研究科 臼井 秀知, 黒木 和彦 東京工業大学 応用セラミック研究所 飯村 壮史, 佐藤 嘉泰 東京工業大学 元素戦略研究センター 東京工業大学 応用セラミック研究所, フロンティア研究センター 松石 聡 細野 秀雄 鉄系超伝導体 LnFeAsO1−x Hx (Ln =La, Sm)[1] における高電子ドープ域における転移温度と ドープ量の関係は非常に興味深い現象であり, その理解は鉄系超伝導体における超伝導発現機構を 詳しく知る上で非常に重要である。 我々はこれまでにドープによるバンド構造の変化を考慮した模型を適用した乱雑位相近似を適 用した理論解析を行ってきており, 高ドープ時においてもスピンゆらぎが十分に発達し, s± 波型超 伝導が起こる可能性を示した [2]。しかしこの計算では自己エネルギーの効果が取り入れられてお らず, ドープ量が増えると共にスピンゆらぎの強度と超伝導転移温度が単調に増大する結果が得ら れていた。 今回, 自己エネルギーの効果を考慮したゆらぎ交換 (FLEX) 近似を 用いて超伝導のドープ依存性についてスピンゆらぎ理論の枠組み内で α 解析を行った。その結果, 高ドープ域においてエリアシュベルグ方程式 の固有値がドープ依存性を持たなくなり, 実験上,Tc がほぼ一定となる ことを定性的に理解することが出来た。フェルミ面のネスティング自 体はドープによって悪くなるにもかかわらず,Tc が一定に保たれるのは 一見不思議であるが, 実は Fe-As-Fe 結合角 α の減少に伴う dX 2 −Y 2 軌 道の起源のバンド全体の変化がスピンゆらぎの強度を増強する効果を 持っており, このことが相図の理解の上で重要であることが分かった。 図 1: Fe-As-Fe 結合角 α 今発表では FLEX による結果と dX 2 −Y 2 軌道起源のバンドのドープ依存性がどの様に超伝導へ 影響を与えるのかについて発表する。 参考文献 [1] S. Iimura et. al.: Nat. Comm. 3 (2012) 943 [2] K. Suzuki et. al.: J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 083702 1 E-mail: [email protected] 鉄系超伝導体 A(Fe1−x TMx )2As2(A=Ba, Sr, TM=Co, Ni, Mn, Mo, Ru) における面内電気抵抗率異方性 大阪大学大学院 理学研究科 小林 達也 1 , 山田 匠, 田中清尚, 宮坂 茂樹, 田島節子 鉄系超伝導体の母物質である AFe2 As2 系では、低温の斜方晶相に対して一軸圧力を加える事で 非双晶化し、面内電気抵抗率の異方性を測定することが可能となる。特に Fe サイトを元素置換し た試料では、斜方晶相において強磁性的スピン配列を持つ b 軸方向の抵抗率が、反強磁性的にス ピン配列した a 軸方向の抵抗率よりも大きくなることが報告されている。この異方性の原因とし てドープされたキャリアの違い [1] や異方的不純物散乱 [2] による機構が提案されているが、その 議論は収束していない。先行研究 [1] では、A サイトと Fe サイトの置換を比較することでドープ キャリアによる違いを論じているが、比較は同じ Fe サイトの置換により行うのが望ましい。また [2] では Fe サイトの Co 置換が議論されているが、形式的にはホールドープとなる Mn 置換やキャ リア数を変化させない Ru 置換の場合などで Co 置換の場合と同じ振る舞いが観測されるかは自明 ではない。そこで、本研究では BaFe2 As2 と SrFe2 As2 を対象として Fe サイトを Co, Ni, Mn, Mo, Ru で置換した単結晶を育成し、電気抵抗率の異方性の変化を系統的に測定することで本系におけ る異方性の起源を明らかにすることを目的とした。測定は、フラックス法で育成した単結晶をア ニールし、試料品質を改善した上で行った。 測定の結果、抵抗率が金属的な振る舞いを示す電子ドープ (Co, Ni) だけでなく、絶縁体的な温 度依存性を示すホールドープ (Mn, Mo) の場合でも抵抗率は斜方晶相の b 軸方向が a 軸方向より も大きくなる振る舞いが観測された。この他にも等価数置換 (Ru)、置換元素あたりのキャリア数 (1 価:Co, Mn / 2 価:Ni, Mo)、3d/4d 電子 (3d:Co, Ni / 4d:Ru, Mo) などの違いも検証した が、抵抗率は常に強磁性的な b 軸方向が大きくなる傾向が得られた。これらの結果は、AFe2 As2 系にみられる電気抵抗率の異方性の起源が、ドープキャリアの種類・有無の違いに依らないこと を示しており、Fe サイトに置換された不純物元素が引き起こす異方的散乱にあると考えられる。 参考文献 [1] E. C. Blomberg et al., Nature Communications 4 (2013), 1914. [2] S. Ishida et al., Phys. Rev. Lett. 110 (2013), 207001. 1 E-mail: [email protected] 1 鉄系超伝導体における超伝導と反強磁性の共存 京都大学 基礎物理学研究所、京都大学 人間環境学研究科 A 松井 楽徳 1 、森成 隆夫 A 、遠山 貴己 鉄系超伝導体の中には反強磁性と超伝導の微視的な共存相を持つ物質が存在する。このような共 存相の性質は超伝導ペアリング対称性と密接に関係しておりこれまでに多くの議論がなされてい る。本研究では有力なペアリング対称性の候補とされているスピン揺らぎを媒介とした s+− 波、軌 道揺らぎを媒介とした s++ 波のそれぞれが反強磁性とどのように関係しているかについて調べた。 始めに鉄系超伝導体 2 軌道強束縛模型 [1] にオンサイトクーロン相互作用による反強磁性相互作 用を取り入れた模型に対して、オンサイトまたは次最近接サイトのペアホッピング項を超伝導相 互作用として取り入れることにより s++ または s+− 波対称性を導入する。これに平均場近似を用 いて秩序パラメータを自己無撞着に解くことによって系の基底状態における超伝導と反強磁性の 相互作用のパラメータに対する相図を計算した。s++ 波対称性ではある値より大きい反強磁性相 互作用パラメータのときには超伝導と反強磁性の共存状態がなくなるのに対して、s+− 波対称性 では反強磁性秩序が起きるような反強磁性相互作用のパラメータの範囲では共存状態が実現する ことが分かった。また反強磁性秩序によって再構成されたフェルミ面上における共存状態での超伝 導ギャップ関数は s++ 波対称性のときにはノードは存在しないが、s+− 波対称性のときにはギャッ プ関数の符号反転を伴うノードが必ず存在する。このことは s+− 波対称性を仮定した場合に反強 磁性秩序によって再構成されたフェルミ面上でノードレスなギャップ関数が生じるバンド表示の計 算 [2, 3] とは異なるものである。このようなバンド表示の結果との相違は、出発点となる多軌道 強束縛模型におけるフェルミ面上の軌道分布を考えることによって理解することができる。また より正確に軌道自由度を取り入れた鉄系超伝導体 3 軌道模型 [4] においても上記と同様な解析を行 い、結果を報告する予定である。 参考文献 [1] S. Raghu et al., Phys. Rev. B 77 (2008), 220503(R). [2] D. Parker et al., Phys. Rev. B 80 (2009), 100508. [3] S. Maiti et al., Phys. Rev. B 85 (2012), 144527. [4] M. Daghofer et al., Phys. Rev. B 81 (2010), 014511. 1 E-mail: [email protected] 1 BaFe2(As1−xPx)2 単結晶における面内異方性の NMR による研究 京都大学大学院理学研究科 家 哲也1 , 中井 祐介2 , 北川 俊作3 , 石田 憲二, 池田 浩章, 笠原 成, 芝内 孝禎, 松田 祐司 LNCMI, Grenoble, France Marc-Henri Julien, Hadrien Mayaffre, Steffen Krämer, Mladen Horvatić, Claude Berthier 京都大学低温物質科学研究センター 寺嶋 孝仁 鉄系超伝導体 BaFe2 (As1−x Px )2 は As と P の置換比を x = 0 から増やすことで、正方晶か ら斜方晶への構造相転移温度 TS 、反強磁性秩序温度 TN が抑制される [1]。TS 、TN が消失す る領域を中心に Tc,max ∼ 30 K の超伝導相が発達しており、その相図は重い電子系や銅酸化 物など他の非従来型超伝導体の相図によく似ている。最近、この BaFe2 (As1−x Px )2 におけ る磁気トルク測定から、TS より十分高温の T ∗ から電子状態が結晶格子の四回回転対称性 を破っている、いわゆる電子ネマティック状態になっているとする報告がなされた [2]。また ARPES 測定からも対応する領域において擬ギャップの出現と Fe の dyz /dzx 間の軌道偏極が 報告されている [3]。 我々は、電子ネマティック相における電子状態の微視的情報を得るため、この系の x = 0.04 に対応する BaFe2 (As0.96 P0.04 )2 の単結晶試料を京都大学の笠原氏より提供を受け、NMR 測 定を行っている。今回、TS ≈ TN = 123 K 以上から室温付近までの 31 P-,75 As-NMR スペク トルの温度依存性と FeAs 面内磁場方向依存性を調べた。その結果、高温から電子状態の面 内異方性を示す有意な変化が得られた。31 P 核、75 As-核の NMR からはそれぞれの核まわり での磁性、電場勾配の情報を引き出すことができる。本発表ではこの面内異方性の振る舞い と起源の詳細について報告する予定である。 参考文献 [1] S. Kasahara et al., Phys. Rev. B 81, 184519 (2010). [2] S. Kasahara et al., Nature 486, 382 (2012). [3] T. Shimojima et al., arXiv:1305.3875 1 E-mail: [email protected] 現 首都大学東京 3 現 神戸大学 2 1 光電子分光による LaFeAsO 1-xHx の電子状態の研究 東大工,東大物性研 A, 東工大応セラ研 B , 東工大元素センター C 中村飛鳥 * ,下志万貴博,園部竜也,出田真一郎,Walid Malaeb A ,辛埴 A, 飯村壮史 B ,松石聡 C ,細野秀雄 B,C ,石坂香子 昨年、LaFeAsO において水素ドープによる超伝導相図が見出され 、フッ素ドープ では到達できなかった高ドープ領域における第二の超伝導ドームの存在が明らか となった[1]。これまで LaFeAsO 1-x F x においては、第一の超伝導ドーム (SC1)領域の 常伝導状態において擬ギャップ相の存在が報告されている [2,3]が、第二の超伝導ド ーム(SC2)領域における常伝導電子状態は明らかになっていない。 そこで本研究では、LaFeAsO 1-x H x の電子状態、特に SC1、SC2 を含む幅広い組成 領域 における擬ギャップ 振る舞 いについて角度積分光電子分光 を用いて精査した。 その結果、SC1 の最適ドープ組成(x =0.10)においてフッ素ドープ系[2]と同様の二つ の擬ギャップ構造を見出した。また、SC1 と SC2 の間の組成である x = 0.20 におい ても同様に二つの擬ギャップ を発見し、この結果はアンダードープ領域における反 強磁性転移温度 T N 及び構造相転移温度 T S から外挿されるような擬ギャップ相の存 在を示唆している(図 1)。 また、SC2 の最適ドープ組成(x = 0.35)について測定を行った結果、 SC1 領域とは異なり一種類のみの 擬ギャップが観測された。 今後は更なる相図の完成を目 指し他の組成について同様の測定 を行い、擬ギャップの起源につい て議論する予定である。 図 1 : LaFeAsO 1-x H x にお ける擬ギャップの分布 [1] S. Iimura et al., Nat. Commun. 3, 943 (2012). [2] D. Garcia et al., Phys. Rev. B 78, 245119 (2008). [3] T. Sato et al., J. Phys. Soc. Jpn. 77, Suppl. C, pp. 65-68 (2008). *mail : [email protected] DMFT+Eliashberg 方程式による鉄系超伝導体の 磁気・軌道揺らぎと超伝導 新潟大院自然, 新潟大理 A 石塚 淳, 山田 武見, 大野 義章 A 東理大理工 柳 有起 鉄系超伝導体の発現機構として,反強磁性揺らぎに由来する s± 波超伝導 [1] と軌道揺らぎに由 来する s++ 波超伝導が提案されている [2, 3].これらの理論の基となってきた第一原理計算のバン ド構造は,角度分解光電子分光 (ARPES) の実験結果を,バンド幅全体に数分の 1 程度繰り込むこ とによりほぼ再現すると考えられてきた。しかし,最近の高分解能 ARPES 実験 [4] では,特定の バンドのみ有効質量が 10 倍にも増加しバンド分散が大きく変形する,繰り込み効果の顕著なバン ド (軌道) 依存性が観測されている.このような電子状態のもとでの超伝導の記述に対しては,バ ンド分散の大きな繰り込み効果を記述できない RPA などの摂動的アプローチを超えて強相関効果 を十分に考慮できる超伝導理論の構築が必要不可欠である. 1 RPA の結果と比べて磁気 · 軌道秩序がともに大き く抑制され現実的な相互作用の値に対して転移が 実現すると同時に,最近の ARPES 実験とコンシ ステントな繰り込み因子の軌道依存性を得た (図 1 上図).さらに,RPA の結果と比べて磁気揺らぎに よる s± 波超伝導領域は抑制されるのに対して,軌 道揺らぎによる s++ 波超伝導領域は強相関効果に より大きく広がることを示した (図 1 下図).この 2 計算で得られた超伝導の異常自己エネルギーには 1/d(d : 次元) コレクションが含まれており,DMFT に基づいて異方的超伝導の記述が可能となった. 参考文献 [1] [2] [3] [4] K. H. Y. H. 2 2 X −Y XY SC FO SC FO 0 1 DMFTでの超伝導領域 0 0 RPA での超伝導領域 1 2 3 軌道間クーロン相互作用 図 1: 上図は各軌道の繰り込み因子.下図の赤 線は超伝導 (SC)Eliashberg 方程式の固有値 λ、 青線は強軌道 (FO) 感受率のストーナー因子 αc でともに 1 が転移点となる. Kuroki, et al.: Phys. Rev. Lett 101 (2008) 087004. Kontani and S. Onari: Phys. Rev. Lett 104 (2010) 157001. Yanagi, et al.: J. Phys. Soc. Jpn 79 (2010) 123707. Ding, et al.: J. Phys. Cond. Matt. 23 (2011) 135701. 1 Z 0.5 ZX, YZ 固有値 λ ストーナー因子 α DMFT+Eliashberg 方 程 式 に よ り 調 べ ,従 来 の 繰り込み因子 本 研 究 で は ,鉄 系 超 伝 導 体 の 5 軌 道 模 型 を BaFe2(As,P)2 における xz/yz 軌道の不均衡 東大工 園部竜也*, 下志万貴博, 石坂香子 産総研 中島正道, 木方邦宏, 李哲虎, 伊豫彰, 永崎洋 東大物性研 大串研也 京大理 笠原成, 寺嶋孝仁, 芝内孝禎, 松田祐司 鉄系超伝導体の母物質はストライプ反強磁性秩序状態への磁気相転移および正方晶から斜 方晶への構造相転移を示す。これらの相転移はいずれも四回対称性を破るものであり, xz/yz 軌道の占有数の差として定義される「軌道秩序」との関連が議論されている。実際にこれま で角度分解光電子分光によって,BaFe2As2 において降温に伴い生じる xz/yz 軌道の不均衡が報 告されている[1-2]。また近年, 等原子価ドープ系である BaFe2(As,P)2 において, 斜方晶・反強 磁性相および超伝導相を覆う広範囲にわたり,相転移より高温から出現するスピン・格子の二 回対称成分(“電子ネマティック相”)が報告されている[3]。しかしながら, このような BaFe2(As,P)2 の多彩な相図において軌道秩序相がどのように現れるかは未だ明らかではない。 本研究で我々は角度分解光電子分光を用いて, BaFe2(As,P)2 の母物質からオーバードープ の広い組成領域を対象とし, xz/yz 軌道の不均衡の組成・温度依存性を調べた。アンダードー プ組成(x = 0.07, TN,s = 114 K)では, 低温斜方晶・反強磁性相における xz/yz 軌道のエネルギー 差は約 60 meV であり, この不均衡は“ネマティック温度”に対応する 160 K 程度から生じて いることが分かった。さらに, P 置換量の増加に伴い xz/yz 軌道のエネルギー差は減少し, x = 0.61 試料においてほぼ消失する。これらの温度・組成依存性は“電子ネマティック相”のそ れと酷似しており,スピン・格子成分に二回対称性が生じるとほぼ同時に軌道成分についても 四回対称性が破れることを示している。また, xz/yz 軌道の不均衡は超伝導状態においても保 たれており, 本系における超伝導が四回対称性の破れた電子構造の下で発現していることも 明らかになった。 参考文献 [1] T. Shimojima, et al., Phys. Rev. Lett. 104, 057002 (2010). [2] M. Yi, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 108, 6878 (2011). [3] S. Kasahara, et al., Nature 382, 486 (2012). * E-mail: [email protected] 鉄系超伝導体における軌道選択モット転移近傍の電子状態 新潟大院自然, 新潟大理 山田武見1 , 大野義章 鉄系超伝導体に対する最近の ARPES 実験結果 [1, 2] から, 強相関効果の重要性が再認識されて いる.例えば中相関的とされる Ba1−x Kx Fe2 As2 において, 繰り込み効果の顕著なバンド・軌道依 存性が報告されている [1].また, より強相関的な Kx Fe2−y Se2 [2] では昇温により特定のバンドの消 失が観測されることから, 軌道選択モット転移 [3, 4] を示唆する結果として注目を集めている. 鉄系超伝導体における繰り込み因子の軌道依存性については Gutzwiller 近似 [5] やスレーブスピ ン平均場 [6] などを用いた理論研究において報告されているが, 定量性により信頼のある理論手法 を用いて調べることは重要であると考えられる. 本研究では鉄系超伝導体の5軌道ハバード模型に対して,局所相関効果を正確に考慮できる動的 平均場理論を適用し, 準粒子バンドの繰り込み効果と軌道選択モット転移の可能性について調べた. 図 1 に繰り込み因子 Zl の電子間クーロ <n>=6.0 U=U’+2J, J=J’=0.1U 1 ン相互作用依存性を示す.有限のフント結 合 J の下では軌道内クーロン相互作用 U の 増大に対して X 2 − Y 2 軌道と XZ, Y Z 軌 道の繰り込み因子が大きく減少し, 顕著な Zl 0.5 軌道依存性が現れる.また, より大きな U に対しては特定の繰り込み因子がゼロにな る軌道選択モット転移が発現する. 講演当 XY 2 Z XZ,YZ 2 2 X −Y 0 0 日は軌道選択モット転移のドーピング依存 性やホールドープと電子ドープにおける電 子状態の違いなどについても議論する予定 である. 2 U [eV] 4 図 1: 繰り込み因子 Zl の U 依存性.ここで粒子 数は ⟨n⟩ = 6.0, クーロン相互作用 (U, U ′ , J, J ′ ) は U = U ′ + 2J, J = J ′ = 0.1U に固定した.また軌 道の表示は Fe-As 方向を X, Y にとった. 参考文献 [1] H. Ding et al. : J. Phys.: Condens. Matter 23, 135701 (2011). [2] M. Yi et al. : Phys. Rev. Lett. 110, 067003 (2013). [3] A. Koga, N. Kawakami, T. M. Rice and M. Sigrist : Phys. Rev. Lett. 92, 216402 (2004). [4] L. Medici, S. R. Hassan, M. Capone and X. Dai : Phys. Rev. Lett. 102, 126401 (2009). [5] N. Lanatà et al. : Phys. Rev. B. 87, 045122 (2013). [6] R. Yu and Q. Si : Phys. Rev. Lett. 110, 146402 (2013). 1 E-mail: [email protected] Ca10Pt4As8 (Fe1−xPtxAs)10 (x ∼0.2) の磁気励起と格子振動 総合科学研究機構 東海事業センター 池内 和彦1 , 佐藤 正俊 J-PARC センター 名古屋大学 理学部 梶本 亮一 小林義明, 鈴木一範, 伊藤正行 Lab. Lon Brillouin, CEA-CNRS Oak Ridge National Laboratory 日本原子力研究開発機構 Phillipe Bourges Andrew D. Christianson 中村 博樹, 町田 昌彦 鉄系超伝導体において、dyz 軌道(バンド)と dzx 軌道の間の充填率の変化として与えられる 軌道ゆらぎに特に注目して研究を行ってきた。Ba122 系等によく知られた正方晶-斜方晶構造相転 移が、この揺らぎと格子系との結合でひきおこされていることが考えられるが、じつはその転移 温度 (Ts ) より高い温度からすでに 4 回対称が破れていることが種々の静的物理量に見られており、 それと上記のゆらぎとの関係にも興味が集まっている。本研究では Ca10 Pt4 As8 (Fe1−x Ptx As)10 (x ∼0.2) について非弾性散乱実験を行い、Ba122 系の場合に Ts で顕著なソフト化を示す弾性定 数 C66 に対応した面内 TA モードと、さらに逆格子空間の M 点(ここでは磁気ブラッグ点に対 応)における面内光学モードについて温度変化を測定し、本系において軌道揺らぎが格子との結 合を通してどのように現われるかを調べた。その結果、この C66 音響モードや(図 a)、さらに Fe の面内振動に対応する M 点の光学モード(エネルギー領域 ∼ 40 meV)に、Tc 以上からの強い 温度変化が見られた(図 b)。本発表では上記の格子振動に加えて磁気励起の結果も示し、超伝導 機構における軌道揺らぎの重要性について議論する。 1 E-mail: k [email protected] 1 SrFe2(As0.65P0.35)2 の超伝導ギャップ 東京大学 理学系研究科 鈴木 博人 1 、岡崎 浩三、藤森 淳 京都大学大学院 人間・環境学研究科 吉田 鉄平 スタンフォード大学 橋本 信、D. H. Lu、Z. -X. Shen 大阪大学 理学研究科 小林 達也、宮坂 茂樹、田島 節子 等原子価元素置換による鉄系超伝導体 BaFe2 (As1−x Px )2 (Ba122P)、SrFe2 (As1−x Px )2 (Sr122P)は、超伝導ギャップにノードが存在するという点で特徴的である [1,2]。アニー リングを施すことで、Sr122P の超伝導転移温度は現在 Ba122P を凌ぐものとなっている [3]。今回、アニールにより超伝導転移温度が上昇した Sr122P (x = 0.35, Tc = 31 K) の高 分解能角度分解光電子分光 (ARPES) を行い、詳細に超伝導ギャップを測定した。測定は Stanford Synchrotron Radiation Lightsource BL5-4 で行った。図1に Z 点周りでのホー ルフェルミ面およびその上での対称化したスペクトルを示す。内側のフェルミ面では超伝 導ギャップのサイズが大きく、外側のフェルミ面では小さいことがわかる。ギャップの kz 依存性は、ホール、電子フェルミ面ともに小さかった。また as grown の試料 (Tc = 26 K) の測定結果と比較すると、アニールによって FeAs 面内の不規則性を取り除くことで、超 伝導ギャップのサイズが大きくなっていることがわかった。 図 1: Z 点付近 (hν = 24 eV) のフェルミ面と対称化したスペクトル 参考文献 [1] K. Hashimoto et al., Phys. Rev. B 81 (2010) 220501 [2] T. Dulguun et al., Phys. Rev. B 85 (2012) 144515 [3] T. Murphy et al., Phys. Rev. B 87 (2013) 140505 1 E-mail:[email protected] 1
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