投資行動 社会調査・実習 石井健一 投資行動の「合理性」 • ファイナンス理論では、投資する人の合理性 が前提とされている。「効率的市場仮説」とは、 市場は全ての情報を織り込んでいる、という ものである。 • 一方で、こうした効率的市場仮説に合致しな い現象が多数、存在する。これらは、「アノマ リー」とよばれている。たとえば、一月効果や 業績発表への保守的反応などがある。 (Shefrin, 2002)。 1 プロスペクト理論 • こうした人々の非合理性を説明する心理学の 理論として「プロスペクト理論」(prospect theory)が提唱されている(Kahneman & Tversky,1979)。 • この理論は、判断が状況に依存していること を示している。 質問 以下のどちらを選ぶか。 (1)75万円の確実な損失を受け入れる (2)75%の確率で100万円失うが、25%の確率で何も失 わない。 調査結果によると、ほとんどの人が後者を選ぶ。 2 質問 以下のどちらを選ぶか。 (1)75万円を確実にもらえる (2)75%の確率で100万円もらえるが、25%の確率で何 ももらえない。 調査結果によると、ほとんどの人が前者を選ぶ。 損失回避 • カーネマンとトヴァスキーは、これらの現象を 「損失回避」(loss aversion)とよんでいる。 • 損失には、同額の利益の約2.5倍の影響力 があるとされる。 3 問(1) 以下のどちらを選ぶか。 (1)15万円を確実にもらえる。 (2)くじを引く。50%の確率で19万5000円、50% の確率で10万5000円がもらえる。 問(2) 今、前問のくじを引いて15万円を得たと しよう。あなたは、次のくじに参加するか。 くじを引くと、50%の確率で45000円も らえるが、50%の確率で45000円を支 払わなくてはならない。 4 フレーム依存効果 • 実は問1と問2は、本質的に同じ質問である。 しかし、調査結果によると多くの人が回答を 変えるという。問(2)では、くじに参加する人が 25%増えた。 • これらの結果は、人間の意志決定がどのよう な枠組みでなされるかに、依存していることを 示している(「フレーム依存性」frame dependence)。 行動ファイナンス • 実際の投資行動における人々の非合理的な 心理プロセスは、「行動ファイナンス」という比 較的新しい研究分野で研究が始まっている。 • 興味のある学生は、「行動ファイナンス」の キーワードがある本を図書館で調べるとよい。 5 リスク回避と文化 • カーネマンとトヴァスキーは、「損失回避」の 現象を実験で示したが、社会調査の結果によ るとリスク回避の程度は、国(文化)によって 異なっていることが示されている。 文化の次元 • Hofstede (経営学者)は、各国の文化は次の ような次元で測定されるとしている。(1)権力 への距離、(2)個人主義・集団主義、(3)男性 性・女性性、(4)不確実性の回避、(5)長期的 志向性である。 • 「不確実性の回避」を国別にみると、平均が 高いのは、ギリシア、日本、ポルトガル、ベル ギーなどである。 6 投資行動の分析の目的 • 以上の研究例が示すように、人々の投資行 動は合理的な側面だけで説明できるわけで はない。 • また、文化や個人の特性によっても、その行 動パターンは異なっているであろう。 投資行動の分析の目的 • 投資行動のパターンは、個人の属性とどのよ うに関係しているのか。たとえば、収入、職業、 パーソナリティと、どのような関係があるのか。 • 株式、投資信託、貯金、外貨預金、保険、不 動産などから、興味ある対象を選び、仮説を つくる。 7 投資行動の分析の目的 • ただし、学生を対象とする場合、投資行動を 実際にしている者は少数であろう。したがって、 調査の目的変数を「投資行動」ではなく、「投 資に対する認知・態度」におきかえてもよい。 8
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