和牛仔牛の下痢予防

「今日の一針、明日の十針」
・・・和牛仔牛の下痢予防・・・
和牛仔牛の病気のそのほとんどは下痢と風邪です。この病気を根本的に無くすためには、快適な牛舎環境
と適切な飼養管理が不可欠です。簡単に言えば換気の十分な牛舎、適切な密度、質の高い乾草が先ず必
要という事です。しかしながら、これを実行するのは大変な事で、多額のお金か大変な労力を必要とするのが
現状です。
今回はそのような大掛りな改善の話ではなく、下痢に関して今日からできる事、是非試してほしい事を述べ
ていきたいと思います。
まず、病気を的確に予防するために、自分の牧場の病気の発生状況を把握しましょう。自分の農場の仔牛
下痢の原因にはどのようなものがあり、そしてそれぞれが、いつ頃発生したのか(生後何日齢か?、季節はい
つ頃か?)という事です。もちろん把握されているとは思いますが、正確でしょうか。きちんと何かに書いて記
録した方が良いと思います。例えば、仔牛1頭につき1枚の「病気履歴カード」を作ります。最低限記入する事
は、母牛、仔牛の名前と生年月日と病気の履歴(いつ何の病気になったか)です。どの農場でも、下痢になる
月齢はそれほど差がないものです。
クリプトスポリジウム
敵はこれです
母乳性の下痢
コクシジウム
敵はこれです
仔牛の下痢の原因は実に様々ですが、我々が良く遭遇するの
は、コクシジウム、ロタウイルス、クリプトスポリジウム、そして母乳の
質低下による下痢です。これらの下痢は、その発症時期そして便の
色で大雑把ながら原因を絞り込めます。
ロタウィルス、クリプトスポリジウム、母乳性の下痢はそのほとんどは
黄色系の便色ですが、発生する時期が微妙に違います。ロタウィル
スは生後2日目頃から生後4ヶ月ぐらいまで発症する可能性がありま
すが、クリプトスポリジウムは生後1週齢~1ヶ月齢までとほぼ限定さ
れます。母乳性の下痢は母牛の体調によって左右されるわけです
が、やはり生後すぐから2ヶ月齢ぐらいです。
生後10日で、血液混じりの茶褐色の便を排泄したとしても、コクシ
ジウムの可能性はほとんどありませんし、生後2ヶ月で黄色の下痢を
排泄したらクリプトスポリジウムの可能性は考えなくて良く、ロタウィル
スか母乳性の下痢と推定できます。後は、過去に自分の農場で現
れた病原体を照らし合わせればいいわけです。
例えば、ロタウィルス下痢は出た事があるが、クリプトスポリジウム
下痢は全く出た事がない農場では、生後15日目で黄色の下痢を見
つけたら、ロタウィルスか母乳性の下痢を疑えば良いわけです。確
定診断は担当の獣医師が行いますが、予防あるいは早期の自家治
療を的確に実施するためにも、おおよその病気の見当をつけること
が重要です。
上記の下痢の中で効果のある予防・治療薬があるのはコクシジウ
ム下痢だけです。逆に言えば、コクシジウム下痢だけは予防が可能
という事です。コクシジウムの便は、暗緑色や茶褐色で血液が混入
している事が多く、発症時期は早くても生後3週齢で、生後3ヶ月齢
ぐらいまでがピークとなり、その後成長するにつれて発生は減ります
が、成牛になっても発症する事がたまにあります。生後1ヶ月頃にエ
クテシンを1クール(3日間)飲ませるというプログラムを皆さん実施さ
れてると思いますが、「飲ませたのにコクシジウムになった」「飲ませ
る前になっちゃった」という話しを良く聞きますし、生後7日目から飲
ませてるという方もおられます。
エクテシンを飲ませても、ずっと効果があるわけではありません。効果が持続するのは、おおよそ2~3週間
です。ですから、コクシジウムが濃厚に汚染している農場では、0.5~1ヶ月の間隔をあけて数クール飲ませ
る事が必要になってきます。
では、生後何日目から、そして何日間隔で飲ませたら良いのでしょうか?。それは、そこの農場のコクシジウ
ム下痢の発生の時期によって違ってきます。ここで先程の「病気履歴カード」が役に立ちます。コクシジウム下
痢が出始める日齢がわかったら、その7~10日前ぐらいにエクテシンを飲ませ始めましょう。1クール飲ませて
も何頭かがその1ヶ月後に、またコクシジウム下痢になるようなら、また、その時期に合わせて再度飲ませま
しょう。
ロタウイルス
敵はこれです
もう1つ予防の手段があるのはロタウィルス下痢です。ロタウィルス
下痢の予防法として、母牛に牛下痢5種混合ワクチンを注射する方
法です。ロタウィルスで困っている農場は、ワクチンの注射をしましょ
う。ロタウィルス下痢の発症を半分以下に減らせた農場もあります。
ただし、毎年2回接種しなければ効果は低いようです。
「自分の農場において、季節に関係なく生後20日齢から50日齢の
間に5割の牛がロタウィルス下痢に罹ってしまう」という事がわかれ
ば、それは大いに有用な情報になります。そう思って仔牛を観察す
るのと、ただ漫然と見てるのでは当然違いがあります。(ちょうど、発
情の牛を探すのに、発情周期の牛を重点的に注意するように)余裕
があれば、血統、ワクチン接種月日、市場成績も記入されたら後々
もっと役に立つと思います。
残念ながらクリプトスポリジウムと母乳性の下痢に関しては、未だ予防法は確立されていません。
話は変わりますが、下痢の予防は仔牛が生まれてからスタートする訳ではありません。分娩2ヶ月前がスター
トです。可能なかぎり、分娩房に入れて増飼いをしましょう。
また、皆さんはお産に必ず立ち会いますか?。10年前ですが、「和牛のお産を見たことがない、いつも朝に
なったら生まれてる」と言われていた畜主がいました。仔牛の死亡の原因で一番多いのは胎児死です。確か
に、立ち会っても死んで生まれる事はあるでしょう。しかし、立ち会っていれば助けられた仔牛も必ずいます。
酪農家の方はお産の時に立ち会うことがほとんどです。分娩時に立ち会うことで胎児死を防ぎましょう。
下痢の予防には、人工初乳製剤を使うことがあります。その中でもヘッドスタートはカナダの企業と大学とが
協力して造り上げた製品でロタウィルス、クリプトスポリジウム、病原性大腸菌、BVD-MDその他の抗体が含ま
れていますし、ヨーネや白血病などの病原体が含まれていない事も検査で証明され、病気が減った報告も数
多くあります。私も症状重篤化を防いでくれた症例を数多く経験しています。
以上、まとめますと、『分娩2ヶ月前に母牛を分娩房に入れて増飼
いスタート。そして分娩2ヶ月前と1ヶ月前に、母牛に牛下痢5種混
合ワクチン接種。お産には必ず立ち会い、仔牛が生まれたらヘッド
スタートを投与。そして「病気履歴カード」を作製して以後の病歴を
記録。コクシジウム発症状況に応じて1~3クール、エクテシンを投
与すること』です。この一連の予防法を行うことは大変な作業であり
ますが、予防というのは、まさに「今日の一針、明日の十針」だと思
います。後の手間を減らすためにも予防に手間をかけましょう。
「今日の一針、明日の十針」
今日縫えば一針で済むほころびも、放っておくと次第に大きくなって十針
も縫わねばならなくなる。何事も処置が遅れると、あとで苦労することのたと
え。