管理組合会計について 平成 19 年 9 月 2 日(日) 地場産業振興センター 本館 3F 盛永有登税理士事務所 第6研修室 第 1 章 税理士の仕事 1.税理士法第 2 条 ①税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業 とする。 一 税務代理 二 税務書類の作成 三 税務相談 ②税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理 士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の 作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことが できる。 ①については、他人からの要請があった場合に税金の申告書を作成できる者は、 原則として税理士以外行ってはならないとうたっています。これは、税理士のみに 許された独占業務です。 ②については、われわれは税理士付随業務と呼んでおります。税理士は税の専門 家であるとともに、会計に関しても専門家であるということになります。 しかし、②の会計業務については税理士の独占業務ではなく、あくまでも税理士 付随業務であります。つまり、会計に関する専門家は税理士だけではないというこ とで、マンション管理士や管理会社もある意味では会計の専門家に該当することに なります。 −1− 2.現場での会計業務 ①ひと昔前の業務スタイル 一.関与先から会計資料一式を風呂敷又はダンボールで受け取る。 二.税理士事務所が会計資料を整理する。 三.税理士事務所が記帳の代行を行い、出来上がった会計帳簿を関与先に渡し ます。 すべての業務を税理士事務所が行います。関与先は出来上がったものを受け取る だけになります。これがひと昔前までの業務スタイルであり、本日は風呂敷会計 又はダンボール会計と呼ばせて頂きます。 ②近時の業務スタイル 一.関与先は自社の会計資料一式を整理します。 二.関与先で会計ソフトに取引を入力して会計帳簿を作成します。 三.税理士は関与先が作成した会計帳簿を監査し、間違えがあれば指導し、訂 正してもらいます。 四.出来上がった試算表をもとに助言をし、対策をともに考えます。 会計帳簿の作成までは関与先の仕事になります。パソコンが普及し、会計ソフ トが登場した現在では、会計帳簿の作成までを関与先自身が行うのが理想的な 状態です。これが近時の業務スタイルであり、本日はパソコン会計と呼ばせて 頂きます。 グローバルスタンダード、コンプライアンス、内部統制制度などなど。企業を取 り巻く経済環境がめまぐるしく変化する今日では、あらゆる分野でそのスピードが 求められることでしょう。大事な自社の経営状況をいち早く把握し対策を練るうえ でも、パソコン会計が今後の主流になっていきます。 −2− 第 2 章 会計の目的 会計の目的は、大きく分けて考えると、二つあります。一つは外部報告目的であ り、もう一つは内部報告目的です。 ①外部報告目的(財務会計) 企業外部の利害関係者に対して情報を提供するもの。 利害関係者…株主、債権者、投資家、国・地方公共団体、消費者など ②内部報告目的(管理会計) 企業内部の管理者に対して情報を提供するもの。 管理者…経営者、営業部門、経理部門など 企業会計 公益法人会計 その他 外部報告目的 ◎ 〇 △ 内部報告目的 ◎ 〇 〇 1.企業会計 税務署の目 株主・投資家の目 企業会計 金融機関の目 行政の目 外部の厳しい『目』にふれることによって、企業会計はたえず進歩・発展してい ます。 −3− 2.公益法人会計 平成 17 年 12 月に「公益法人制度改革(新制度の概要)に関する意見の募集」が 行われ、いよいよ平成 20 年度の現行公益法人制度の廃止に伴い、平成 18 年度から 新たな公益法人会計基準が導入されることになりました。 公益法人会計も、日進月歩ではありますが進化・発展しています。 3.そ の 他 会計が必要となる領域において、外部の『目』にふれる機会が少ない組織がいく つか存在します。例えば、管理組合、町内会、同窓会、PTAなどがその代表です。 外部の厳しい『目』にふれる機会が少ないこれらの組織では、誠に残念なことに、 通常では考えられないようなことがまれに起こる危険性があります。 管理組合 町内会 同窓会 PTA このうち、県下の高校のPTAが一昨年度より、いっせいに確定申告書の提出を 税務署より命ぜられました。たぶん、全国でもそうでしょう。高校のPTA会計は 税務署の厳しい『目』にふれることによって、今後、進化していくことでしょう。 残された組織は今後も外部の『目』にふれる機会が少ないため、進化の余地があ りません。 このことは、修繕積立金が多額に発生する管理組合にとっては、まさに悲劇であ ると私は思います。変化に対応できたものだけが生き残ります。 −4− 第 3 章 企業会計、公益法人会計と 管理組合会計 1.管理組合会計の目的 管理組合会計は、建物等の維持保全のために限られた収入で、効果を最大限に あげることによって、快適な居住環境を確保することを目的としています。 2.管理組合会計の性格 管理組合会計の処理方法は、予算を管理運営するという面で公益法人会計に近 いものでありますが、明確な法令上の規定や基準がありませんので、企業会計的 な手法・考え方を採用し「企業会計」の会計処理を取り入れているのが現状です。 区分 企業会計 会 企業会計原則 管理組合会計 管理組合会計指針 公益法人会計 公益法人会計基準 計 (一般原則) (一般原則) 1.真実性の原則 よ り 2.正規の簿記の原則 2.正規の簿記の原則 3.資本取引損益取引区分の原則 3.明瞭性の原則 2.正規の簿記の原則 4.明瞭性の原則 4.継続性の原則 及び誘導法の原則 5.継続性の原則 5.予算準拠の原則 3.継続性の原則 こ 6.保守主義の原則 6.区分経理の原則 4.重要性の原則 ろ 7.単一性の原則 ど の 1.真実性の原則 1.真実性の原則 及び明瞭性の原則 (目的別会計) ・貸借対照表 ・収支予算書 ・貸借対照表 務 ・損益計算書 ・収支計算書 ・正味財産増減計算書 諸 ・株主資本等変動計算書 ・貸借対照表 ・財産目録 表 財 8.重要性の原則 ・個別注記表 ・財産目録 ・収支予算書 ・収支計算書 ・キャッシュフロー計算書 準拠法令 ・企業会計原則 ・標準管理規約 ・財務諸表規則 ・区分所有法 ・会社法 ・法人税法 −5− ・新公益法人会計基準 (公益法人制度改革 3 法) 3.予算準拠の原則 管理組合の収入及び支出は、予算に基づいて行う必要があります。つまり、管 理業務を行うにあたって、管理者(理事長)や特定の役員の恣意に基づいた会計 を行ってはならず、組合の合意に基づいた予算により執行されなければならない という原則です。 「予算」と「決算」を対比することで、その差異を分析し、予算の執行等の良 否を確認することができます。 企業会計においても、経営計画書を作成し、予算と実績の分析・対策を行って います。 4.区分経理の原則(目的別会計) 一般会計と修繕積立金会計は、区分して経理しなければなりません。つまり、 管理組合会計は、目的別に処理する必要があるという原則です。 それぞれの経理を一緒にしてしまうと、適正な管理に支障が生じる可能性が高 くなります。 企業会計においても、部門別会計を採用して、部門ごとの区分経理を行ってい ます。 −6− 第 4 章 管理組合の資金管理と口座管理 1.通帳、印鑑等の管理者 マンション管理適正化法では、次のようにうたっています。 (財産の分別管理) 第七十六条 マンション管理業者は、管理組合から委託を受けて管理する修繕積立金そ の他国土交通省令で定める財産については、整然と管理する方法として国土交通省令で定め る方法により、自己の固有財産及び他の管理組合の財産と分別して管理しなければならない。 預金口座は、管理組合名義とし、管理会社は、原則として預金通帳と印鑑を同時 に管理することができません。 それでも、通帳と印鑑を管理会社が同時に保管している例も多いようです。管理 組合の役員が嫌がるので渡せないケースも発生しているようですが、業者・組合と も同時保管のために事故が発生し、この条文が定められた経緯を理解すべきでしょ う。 2.会計帳簿の種類、保管・閲覧 マンション管理適正化法では、次のようにうたっています。 (書類の閲覧) 第七十九条 マンション管理業者は、国土交通省令で定めるところにより、当該マンシ ョン管理業者の業務及び財産の状況を記載した書類をその事務所ごとに備え置き、その業務 に係る関係者の求めに応じ、これを閲覧させなければならない。 会計帳簿等は適正に保存されなければなりません。万一のときに肝心の書類・帳 簿がなく、対応もできないというケースもあります。規約や細則などで決まりを決 め、保管すべきでしょう。 −7− 「マンションの管理組合会計処理細則」モデル 会計書類及びこれに関連する書類 保存期間 1 総会及び理事会議事録 2 管理規約改正関連資料 3 業務委託・工事契約書、駐車場契約書その他の契約書 4 保険証券 5 その他、理事会において必要と認められた資料 永久保存 現金出納帳、預金出納帳、管理費等台帳、備品台帳 会計伝票及び領収証等の証ひょう資料 10 年間保存 収支予算書・計算書、貸借対照表、財産目録 3.会計監査 監事の職務は、「会計監査」と「業務監査」の大別されます。 【会計監査】 ①実施者…監事は、収支決算書類に基づいて会計監査を行います。 ②目 的…「予算に基づき管理行為が適正かつ効率よく実施されたか」、「管理組 合の財産状況はどうなっているのか」を確認することが大きな目的で す。 【業務監査】 ①点検・改修工事等の実施内容… 年度当初に計画された点検・清掃及び改修工事等が適正に行われたか を確認します。 ②組合運営費の支出内容… 組合運営費について、その支出目的・支払先を確認します。 ③その他 −8− 第 5 章 管理組合会計に関する問題点 1.不十分な会計書類の整備 ・貸借対照表を作成していない管理組合が、約2割弱ある。小規模な管理組合ほ ど作成していない組合が多い。 ・企業会計による会計書類と同じ書式及び勘定科目(損益計算書)で作成してい る組合がある。 ・財産目録又は什器備品を管理する備品台帳を作成している管理組合は少ない。 ・小規模な管理組合では、月次収支計算書が整備されていない組合が多い。 2.管理費会計と修繕積立金会計の未区分の会計 ・収支計算書で、管理費会計と修繕積立金会計を区分していない管理組合がわず かにある。 3.現金主義の採用 ・期末の未収金や未払金の処理が不明確となる現金主義を採用している割合が、 約 4 割と高い。 4.不明確な貸借対照表の記帳 ・金融機関からの借入金を負債の欄に記載していない管理組合が約 3 割ある。 ・定期預金または損害保険の積立保険料を資産の欄に記載していない管理組合が ある。 ・勘定科目が変更されてもその説明がなく、経理の継続性を確認できない場合が ある。 5.管理組合業務の目的外の支出 ・組合員の合意や管理規約等による定めがないにもかかわらず、管理組合会計か ら町内会費、自治会費の支払いをしている組合がある。 −9− 6.不明確な会計書類等の保管期間 ・会計書類及び会計帳簿の保存期間を定めている管理組合はほとんどない。 7.機能していない会計監査 ・会計監査の経験のない区分所有者が監事として選出されている場合には、業務 監査とともに実質的な会計監査が行われていないことが多い。 8.役員の任期 ・管理組合の財務会計についての書類や情報の引継ぎは重要である。特に、管理 組合では、役員の任期が短い場合が多く、財務会計についての知識が十分でな いことが多い。 【管理組合の財務会計に関する今後の具体的な検討課題】 ①管理組合の財務会計に関する会計基準の策定 管理組合の会計は、予算に基づいて執行されることが必要であること、管理費 と修繕積立金会計を区分することなど、既存の「公益法人会計」や「企業会計」 にはない特性があり、管理組合の財務会計基準の明確化について要望も強い。 このため、管理組合の財務会計基準の策定を検討する必要がある。 ②実務的な会計マニュアル及び監査マニュアルの作成 管理組合の財務会計基準の策定を踏まえて、会計処理の実務に役立つ会計マニ ュアルの作成を検討することが必要である。また、管理組合の監事は十分な知 識や経験がないことが多いので、会計監査のためにの監査マニュアルの作成を 検討する。 ③財務会計に関するわかりやすい情報提供への支援 管理組合は、適正で、かつ、正確な会計書類に基づいて区分所有者に財務会計 の状況を説明する必要があるが、基本的な財務会計に関する情報になじみの少 ない組合員にも、わかりやすく説明することが必要である。 −10− 第 6 章 管理組合会計の会計処理 【簿記一巡の手続】 取引の発生 仕 訳 帳 ・仕入取引 ・現預金出納帳 ・総勘定元帳 ・貸借対照表 ・売上取引 ・伝票 ・補助元帳 ・損益計算書 ・給料の支払 ・仕訳帳 ・売上帳 ・キャッシュ・ ・仕入帳 フロー計算書 ・経費の発生 簿 決 算 取引を行ったという記録がな おもな決算整理事項 んらかのかたちで残ります。 ・現金過不足の整理 ・契約書・納品書 ・消耗品の整理 書 ・売上原価の計算 ・請求書(控を含む) (期末たな卸など) ・領収証(控を含む) ・引当金の設定 ・レシート この記録をもとに ・借入金返済表 仕訳をきります。 ・固定資産の減価償却 ・預金通帳など つまり、記帳です。 ・費用・収益の見越し・繰延べ ・有価証券の評価替え 【管理組合の会計書類等の分類】 会計書類等 備 考 ①収支予算書(管理費会計、修繕積立金会計、駐車 区分して経理すること。 場使用料会計等) 会 計 ②収支計算書(管理費会計、修繕積立金会計、駐車 区分して経理すること。 場使用料会計等) 書 ③貸借対照表(管理費会計、修繕積立金会計、駐車 作成することが望ましい。 場使用料会計等) 類 管理組合法人では作成が義務 ④財産目録 付けられている。 ⑤附属書類(未収金明細表、借入金明細書、月次収 支計算書、備品目録等) 会計帳簿 主要簿 補助簿 仕訳帳、総勘定元帳 ― ― 現金出納帳、預金出納帳、管理費等 原則として、複式簿記、発生 台帳、備品台帳、その他の補助簿 −11− 主義で記帳する。 第 7 章 企業は経営理念を掲げよ! 1.経営理念 組織にはその組織の存在意義や目指すべき理想の状態があります。これを明文化 したものが組織理念であり、意思決定や行動のよりどころとなるものです。 企業においては、それを「経営理念」といいます。人間に魂が宿って初めて人間 であるように、企業もその魂である経営理念が宿って初めて企業としての存在価値 を発揮しうるといえます。 【顧客第一主義】 【社会(地域社会)への貢献】 【社員の幸福・人材育成・教育】 2.管理組合の組織理念 町内会や隣人関係とのわずらわしさからマンションを購入したのに。やれ、総会 だ、自治会だ、夏祭りに、住民交流会・・・。こんなはずでは。 TKC全国会 『自 利 基本理念 利 他』 世のため人のため、つまり会計人なら、職員や関与先、社会のために 精進努力の生活に徹すること、それがそのまま自利すなわち本当の自分 の喜びであり幸福なのだ。 そのような心境に立ち至り、かかる本物の人物となって社会と大衆に 奉仕することができれば、人は心からの生き甲斐を感じるはずである。 『わかりやすいマンション管理組合の財務会計』より抜粋 マンションの住民間に一定のプライバシーは尊重しつつも、共に暮らす仲間とし ての人間関係が築かれていれば騒音・ペット問題等は起こらないともいえるでしょ う。マンション生活において最も望まれる快適性は、よき隣人関係なしには考えら れないものだからです。 −12−
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