−医療保険販売の現場から− 米国医療保険制度の改革 一はじめに 米国医療保険制度改革については、日本においても大き な関心を呼び、マスコミによる報道も詳細にわたっている ようである。﹁生命保険経営﹂においても既に何度か取り 永 島 英 器 二 医療保険の抱える問題点と解決の試み 医療保険については、相互に関連する様々な問題点が指 1.医療保険の抱える問題点 谷川貞悌氏︶には歴史的、理論的背景に至るまで詳しくか 研究所調査報﹁アメリカの医療保障−その理想と現実﹂︵長 の行方﹂武藤弘明氏︶、また、明治生命フィナンシュランス 員に対する医療保険を用意できる訳ではなく、また公的保 民の四人に一人︶に達するものと見積もられている。 医療保険料の高騰などの理由から、事業主の全てが従業 中の試算によると、二年以内にこの数は六三〇〇万人︵国 万人にのぼる無保険者の存在である。クリントン改革案の 最大の問題は、アメリカ人口の一五%に当たる三七〇〇 (1)無保険者の存在 摘されているが、代表的なものは次の三点に集約される。 つ平明に解説されている。 こうした中、本稿においては、営業の第一線で医療保険 上げられ︵最近では、平成五年二月、﹁米国医療保険制度改革 販売に携わる駐在員︵ロスアンゼルス︶の視点から、医療保 険であるメディケイドについても、所得基準に加え州ごと 八九︵九四一︶ め、連邦政府のガイドライン︵年収七〇〇〇ドル︶以下のい に様々な要件︵障害者、母子家庭など︶が定められているた 険制度改革のもたらす企業への影響、現地日系ブローカー およびエージェントの役割等につき論じることとしたい。 米国医療保険制度の改革 リフォルニア州で行った調査によると、黒人のうち三二%、 れている。Kaiser Family Foundationが一九九二年にカ Earnings︶の 五〇%に匹敵 社純益︵Net 療保険料コス トは、平均会 米国医療保険制度の改革 ラテン系住民の二一%、アジア系住民の一七%が無保険者 九〇︵九四二︶ レ率の三・五倍、非管理職給与上昇率の五倍に達してい る。 れた結果、国民医療費のGDPに占める割合は一九九二年 もと、医師の数は無制限には増えないという条件下で行わ 〈KPMG Peat Marwick調べ〉 わゆる貧困層のうち実際の受給者は半数に満たないと言わ であるのに対して、白人のそれは八%に過ぎず、ここにも 年は四五%で する︵一九九〇 アメリカのアキレス腱である人種的な問題が顔をのぞかせ ている。 から、医療保険 こうした事実 あった︶。 料の負担がアメ (2)医療保険料の高騰 ・アメリカ製の自動車を一台買うと、購入代金のうち一一 に当てられる。日本製のそれは五五〇ドルに過ぎず、こ 〇〇ドルはその自動車会社の従業員のための医療保険料 リカ企業を苦し め、国際競争力 ンデを負っていることになる。 の時点でアメリカメーカーは一台あたり五五〇ドルのハ なっていることが容易にうかがえる。 を弱める一因と .Foster Higgins社の調べによると、一九九一年の平均医 健康といった代替不可能なマーケットで、しかも免許制の 医療保険料高騰の最大の原因が医療コストの上昇にある ドルに上昇した。 ・一九八六年から一九九三年までの間の医療保険料上昇率 のは明らかである。一部の公的保険を除き日本の点数制の は、図1︵KPMG Peat Marwick調べ︶のとおり、インフ ような制約がなく、きわめて資本主義的自由競争が、生命、 一九八四年の一六四五ドルから一九九二年には四〇〇〇 ・従業員一人あたりにかかる医療保険料の平均コストは、 図1 1986年から1993年までの医療保険料上昇率 に達するとみられている。 時点で一四%︵日本は六%︶に達し、今世紀中には一九% このほか、医療過誤訴訟が頻発する中、医師は訴訟をカ 一般にアメリカは労働力の流動性が高く、これが労働力 の最適配分、ひいては経済の活力につながっていると言わ れるが、医療保険の問題がこれに暗い影を投げかけている に、無保険者および政府からの医療機関への支払いが十分 めに過剰サービスを提供する傾向が指摘されている。さら に加入するのが常識で、また訴訟の可能性を最小化するた 保険料で済むのに﹂と思う事業主と、﹁保険の保障さえあ れたり、割高な保険料を要求される中小企業の事業主にと た従業員がいるために、民間保険会社から引受けを拒否さ さらに、既往症については、たった一人の既往症を抱え としたら、これは個人レベルの問題にとどまらない。 でない公的保険の受益者については、医療機関から見れば ﹁招かれざる客﹂であり、この回収不能コストを民間保険 こととはいえないだろう。 ればすぐこんな会社を辞めたいのに﹂と思う従業員が長い 間付き合わなければいけない状況は、誰にとっても幸せな バーする損害保険︵平均年間保険料一万五千ドル︵一九九〇年︶︶ 加入者に転嫁する、いわゆる﹁コストシフティング﹂が保 険料高騰に寄与していると言われている。︵コストシフトさ っても切実な問題である。﹁彼さえいなければずっと安い れる金額は本来の医療費の三八%に相当するとの試算あり こうした問題に対して、保険会社あるいは州政府が対応 2.問題解決の試み 策を講じており、一定の効果をそれぞれあげてはいるもの (3)ジョブロックの出現 ︵Healthcare Financial Management Assn.一九九二年︶。︶ 前述のKaiserの調査によると、カリフォルニア州住民を (1)管理型医療の普及 の、一方で限界も露呈している。 対象としたアンケートに、四分の一の人が、医療保険を失 う危惧からジョブロック︵転職できない状況︶に陥っている と回答している。家族の中に一人でも既往症を抱えたメン 定割合︵通常八割︶を保険会社が加入者に払戻す。この方 伝統的な医療保険は、一定のDeductible︵免責︶の後、一 バーがいる場合、新しい勤務先の保険会社から、加入を拒 否されたり、既往症免責が適用されたりすることを恐れて、 式をとる限り、ビバリーヒルズの高名な医者が法外な診療 九一︵九四三︶ なかなか転職に踏み切れない。 米国医療保険制慶の改革 米国医療保険制度の改革 費を請求した場合でも、基本的に八割の負担を保険会社は 覚悟しなければならない。﹁合理的かつ妥当︵Reasonable &Customary︶﹂な範囲に給付対象を限定したり、入院や手 術の事前承認制を取り入れてもそれらは緊急避難的対応の こうした中・一九八〇年代後半から急速に普及したのが、 域を出ない。 PPO︵Preferred Provider Organization︶とHMO︵Health Maintenance Organization︶に代表される管理型医療 ︵Managed Care︶である。PPOにおいては、保険会社と 医療機関が契約を結び、PPO加入者に対する医療サービ スは通常一〇∼二〇%割り引かれる。加入者は、ネットワー ク内の医療機関に行った場合自己負担が小さくなり、医療 ことができる。 機関はフィーが制約される反面、安定した顧客を確保する HMOにおいては、一定の保険料︵前払い︶を対価に、 HMO組織が予防診療を含めたあらゆる医療サービスを加 入者に提供する。HMO加入者は、IDカードを示し僅か なCo-Payment︵通常五ドルまたは一〇ドル︶を支払うのみで いずれのプランも加入者の医師選択の幅の縮小︵HMO 医療サービスを受けられ、クレイムフォームの記入や Deductibleの自己負担から解放される︵図2参照︶。 図2PPOとHMOの仕組み の場合、ホームドクターを選択し、全ての専門治療はホームドク ターの紹介を受けて行う必要がある︶と引換えに医療コスト Oと従来の伝統的保険 (注)従業員が複数プランの中から選択を許されている場合があるため、 合計が100%を上回っている。 〈KPMG Peat Marwick調べ〉 引き下げにある程度成功している。また、最近では、HM ︵Point-of-Service︶と 呼ばれるプランも登場 している。図3、4、 表1のとおり、管理型 っており、この傾向は 医療の占率は年々高ま 企業に顕著である。し 特に、西海岸および大 かし、管理型医療の進 展が医療保険料上昇の 抑制策に有効であると った問題については政 しても、無保険者ある いはジョブロックとい て解決は不可能であ 府レベルの対応なくし 米国医療保険制度の改革 図4地域別プラン加入状況 を組み合わせたPOS 図3従業員が会社からオファーされている医療保険のタイプ 九三︵九四五︶ 表1会社規模別加入状況 米国医療保険制度の改革 5% 4 5% 22% 28% 1, 000 −4,999 46 22 22 10 5,000 − 38 29 20 13 計 41 26 22 10 200− 999 POS P PO HM O 伝統的プラン 会社 規 模 ( 従業員数) 〈KPMG Peat Marwick調べ−1993年〉 る。 九四︵九四六︶ に、個人あるいは団体の引受けを拒否できない。 こうした規制により、アンダーライティング︵危険選択︶ は、既往症等によるリスクの増大から、伝統的プラン 両州から撤退。また、州内にとどまった保険会社について 機能を奪われた保険会社は、採算割れを恐れ、少なからず ヨーク州︵一九九三年四月︶、 日系企業が集中するニュー (2)州政府の対応 カリフォルニア州︵一九九三 オレゴンなどの州が連邦の改革を待たずに独自の規制を発 また、両州以外でも、フロリダ、ミネソタ、ワシントン、 ︵Indemnityタイプ︶では事業主が負担可能な保険料を維持 効させている。こうした州政府レベルの改革によって、五 できないとして、HMOやPPOを中心とした申請を州に のの、次の共通項を含んでい 影響を与えている。二州の規 制は微妙に異なる点があるも 〇名以下規模の会社に属する従業員の既往症などの問題に に関する新法が施行され、保 る。 ついて一定の前進があったことは評価できるものの、複数 年七月︶で相次いで医療保険 ①新法適用対象は、従業員数 の州にオペレーションがまたがる会社では、従業員がそれ 行ったため、管理型医療への移行が加速した︵大手保険会 社のうち、伝統的プランを州に申請したところはごく僅か︶。 五〇名以下の中小企業。 ぞれの州の規制に服することから、従業員間で保険給付に 険会社および事業主に大きな ②商品内容および保険料につ 差が出てくるといった新たな問題も惹起し、連邦レベルで の解決、調整を望む声が高まる結果となった。また、いず いては州政府の事前承認が れの州も、事業主に従業員のための保険加入を強制しては 必要。 ③保険料について、業種、性 いないため、無保険者問題は連邦レベルの改革に委ねられ ている。 別、既往症の有無などによ って差別してはいけない。 ④保険会社は、既往症を理由 三クリントン改革案とその影響 会社に限り、コーポレートアライアンスを設けて独自のプ 州ごとに設置されるアライアンスが、個々の事業主に代 わって保障内容、保険料を交渉。従業員数五〇〇〇名超の 会社との交渉を委ねることによってコストの抑制等を図る 個々の中小企業事業主に代わって、州アライアンスに保険 ランを持つことができる。これは、相対的に交渉力の弱い クリントン改革案の概要 1. の概要は次のとおりである。セキュリティーの創出︵皆保 昨年一〇月にクリントン大統領が議会に提出した改革案 険の実現、既往症のカバー︶とコストの抑制︵一九九七年まで ことを意図したもので、﹁Managed Competition︵管理され た競争︶﹂の考え方に基づくものである。 (1)皆保険の実現 ①入院②緊急医療③ドクターフィー④予防医療⑤ 精神病、アルコール中毒治療⑥家族計画⑦妊娠、出産 る主な医療サービスは以下のとおり。 ジを含まなければならない。ミニマムパッケージに含まれ は、National Health Board︵連邦医療委員会︶が設置され る。なお、各プランは改革案に示されたミニマムパッケー なお、各州のアライアンスを監督する機関として中央に にGDPの伸びの枠内に抑える目標︶に主眼が置かれている。 無保険者の八五%が被用者またはその家族であることか ら、全ての事業主に対して従業員︵注︶およびその家族に 医療保険を提供することを義務づけること、さらに社会保 険を充実させることによって、皆保険を実現。 ︵注︶週一〇時間以上勤務するパートタイマーや収入の八〇%以 ⑧ホスピス⑨在宅看護⑩救急車⑪外来リハビリ⑫ (4)被用者個人が医療保険を選択 外来薬事処方⑬人工器官⑭歯科︵子供のみ︶ 州アライアンスによって選ばれたいくつかのプランの中 上を当該事業主に依るインデペンデントコントラクターを含 む。 (2)転職時の医療保険の保障 九五︵九四七︶ 数五〇〇〇名以下の企業については、プラン選択権が事業 から、被用者自身がプランを選択。これによって、従業員 保険会社は既往症、年齢、財政状況等のリスク要素によ (3)アライアンス︵保険購入組合︶の創設 って、加入を拒むことはできない。 米国医療保険制度の改革 米国医療保険制度の改革 九六︵九四八︶ (6)事業主負担にキャップ︵上限︶を設定 〇%を上回る︵図6参照︶。 年間総給与および従業員数によって、最大七・九%︵給 主からアライアンスおよび個人に移行する︵図5参照︶。 (5)事業主が保険料の八〇%以上を負担 業員数七五名以下かつ平均給与二万四〇〇〇ドル以下の企 与比︶の段階的な事業主負担のキャップを設定。なお、従 全ての事業主が、従業員およびその家族について、基準 保険料の八 (7)事務処理の効率化 業については政府が助成を行う。 〇%以上を は自己負担︶。 負担︵残り 標準的ベネフィットパッケージ︵ミニマムパッケージ︶の HMOを選んだPPOを適んだ伝統的プランを 加入者加入者選んだ加入者 被用者が基 図6クリントン案においてHMOが 基準保険料となった場合の自己負担 準保険料よ り保険料が 高いリッチ なプランを 選択した場 合でも、会 社は基準保 険料の八〇 %のみを負 担するた め、この場 合は個人負 担割合は二 図5クリントン案の概略図 導入へクレイムフォームの統一などによってへ事務処理を 企業についても標準プランの適用を強制してはいない。 パー案よりさらに規制が緩く、従業員数一〇〇名以下の けてはいないが、一方で二〇〇五年までに全国民に何ら かの保険に加入することを義務づけるとしている。 また、クーパー案と同様に事業主の保険料負担を義務づ 軽減し、コスト抑制を図る。 議会内にはクリントン案のほかにも数多くの改革案が存 2.クリントン改革案に対する反応 (4)一九九四年四月一七日には、議会内で大きな影響力を持 政府の関与が十分でなく、カナダのような一律な公的保 (1)民主党のリベラル派の中には、クリントン改革案はまだ る従業員数五〇〇〇名を一〇〇〇名に変更③事業主の 保険料負担割合を八〇%から五〇%に引下げる、といっ のキャップを七・九%から一二%に変更②分岐点とな つGeorge Mitchell上院議員(民主党)が、①事業主負担 険(Single Payer Plan)にすべきであるとの意見があるが、 たクリントン案に対する修正案を発表した。 在する。これらの案のポイントおよび民間団体の反応は概 ね次のようなものである。 多数派を構成するに至ってはいない。 下(クリントン案では五〇〇〇名)の企業に限るほか、事 の認定した標準プランの強制適用を従業員数一〇〇名以 パー案(Jim Cooper下院議員、民主党)は、アライアンス (6)州アライアンスを通して選別へ淘汰されていくと予想さ 協会)はクリントン案不支持(支持案は特定せず)を表明 ness Roundtable(経済円卓会議)がクーパー案を支持、 United States Chamber of Commerce(商工会議所) を強制するクリントン案に反対する空気が強く、Busi- (2)共和党および民主党員のかなりの支持を集めているクー (5)経済界とりわけ中小企業事業主は、八〇%の保険料負担 業主に保険料負担を義務づけないなど政府の介入を抑え た案となっている。一〇〇名超企業におけるコスト抑制 れる中小保険会社はクリントン案に反対、テレビを通し している。 およびNational Association of Manufacturers(製造業 ラン(管理型医療)に誘導できるとしている。 策としては、医療保険料の損金計上に上限を設定(現在 は制約なし)することによって、企業を保険料の安いプ 九七(九四九) (3)チャフィー案(John Chafee上院議員、共和党)は、ク てー 反対キャンペーンを張っている。このほか、医療機関 米国医療保険制度の改革 はプライスコントロールを危惧。プラン選択の主体が事 (3)事業主負担にキャップを設ける場合その水準は ことが可能な状態︶か かユニバーサルアクセス︵クーパー案の目指す誰でも入る 九八︵九五〇︶ 業主からアライアンスおよび個人に移ることから、保険 米国医療保険制度の改革 ブローカーやエージェントは自らの役割低下に対して危 (6)保険料負担能力のない中小企業および個人に政府助成を (5)コストコントロールの手段 (4)独自プランを持てる企業規模をどこに設定するか 行うべきか また、財源面からシンタックス︵酒、タバコ等の﹁罪悪 機感を持っている。 税﹂︶増税が噂されており、タバコ、酒業界も神経をと 仮にクリントン案あるいはそれに近い案が成立した場合 4.企業に与える影響 (7)財源としてペイロールタックス︵給与所得税︶やシンタ ックスの増税を行うべきか がらせている。 3.今後の審議見通し クリントン大統領としては、一九九四年一一月の中間選 挙までに法案を成立させ、一九九八年一月に皆保険を実現 させることを目標としているものの、上述のように様々な で大胆な妥協が図られ議会を通過することがあっても、内 展開はまったく予断を許さない。今後の審議で有力案の中 する負担上限︵給与比七・九%︶以上の保険料を負担して 内容がリッチ、などの理由から現在クリントン案の想定 (1)従業員の平均年齢が高い、労働組合の力が強い、プラン には、企業に与える影響としては次のようなものが考えら れる。 容如何ではクリントン大統領による拒否権行使の可能性も いる会社︵多くは大企業︶については、医療保険コスト が軽減される可能性がある︵現在、全企業平均一二%、ゼ 決前の種々の委員会審議が始まったばかりであり、今後の 意見、案があるうえに、現在︵一九九四年五月︶、両議院議 否定できない。今後の議論の主要論点は次のようなものと なろう。 ネラル・モーターズでは一九%︶。 (1)事業主に保険料負担を強制するか︵その場合の負担割合︶ (2)ユニパーサルカバレッジ︵クリントン案の目指す皆保険︶ (2)逆に、現在プランを持っていない、プランを持っている そのものが脅かされかねない。これがクリントン案に対 となり、その多くが中小企業であることから、企業経営 入れていないといった会社については、大きなコスト増 から保険料が安い、パートタイマーが多く彼らを保険に が内容がリッチでなかったり、従業員が若いなどの理由 れ、大手保険会社の寡占化が進行することが予想される。 よび管理型医療のネットワークが弱い保険会社は淘汰さ (5)州アライアンスによる選別の過程で、中小の保険会社お ックスを課すとしている︶。 ン案では、独自プランを選択する企業には一%のペイロールタ 現在、相対的に社会的地位や報酬が高いとの理由から専 門医の人気が高く、ホームドクターが不足していると言 してもっとも強く批判されている点であるが、大統領は、 医療機関についても、HMO、PPO加入者の急増、医 仮 に 中 小 企 業 の 倒 産 が お こ っ て も 、 他 方 で 前 記 ( 1 ) の よ う 療幾器の高額化等によって、ネットワーク化、資本集中 化が加速すると考えられている。また、医師については、 にメリットを受け業容を拡大する会社もあるので、社会 いる。 全体として失業問題が深刻化することはないと反論して いった管理型医療への移行促進を挙げている。州アライ 等が一層重要となろう。 ターへのキャリアチェンジを促す教育プログラムの開発 Oがさらに普及するためには、専門医からホームドク (3)コスト抑制策としては、いずれの案もHMOやPPOと われているが、ホームドクターの存在を前提とするHM アンスの認める保険も管理型医療中心となるほか、移行 策の両面で企業経営上大きなウェイトを占める。一方で、 俗に言う﹁水と安全はタダ﹂の国日本からやって来た駐在 米国において、医療保険の問題はコスト面および労務政 割− 四おわりに−現地日系ブローカー、エージェントの役 促進のための税制上のインセンティブも導入される可能 性が高い。 (4)中小企業については︵クリントン案では従業員数五〇〇〇名 員が選択するため、事業主はプラン選択に関して主体性 員が戸惑うもう一つの代表が、この医療保険の問題でもあ 以下︶、州アライアンスの選んだプランの中から各従業 を失う。これに対して大企業については、州アライアン スに参加するか、コーポレートアライアンスを設置して 九九︵九五一︶ 独自プランを持つかについて選択を迫られる︵クリント 米国医療保険制度の改革 現地スタッフの力を借りながら、不慣れな医療保険の問題 ントを雇ったり、契約を結ぶほどの余裕はなく、駐在員が る。在米日系企業の多くはベネフィット専門のコンサルタ 者に対しても、管理型医療の必要性、上手な利用方法など 経営層はもとより従業員説明会の場等を利用し個々の加入 う。管理型医療というのは、相対的に保険料が安いばかり でなく、自己負担が少ない、予防治療に熱心であるなどユー のをまず採用するなどして円滑な移行を考えるべきであろ 一〇〇︵九五二︶ に懸命に取り組んでいるのが現状とみられる。こうした駐 在員が頼りにするのが保険ブローカー、エージェントであ 米国医療保険制度の改革 り、この意味で日本の生命保険会社の現地法人を含む日系 を十分に説明することが肝要であろう。 状況だが、州レベルの改革が相次いで実施される一方で連 下企業マーケットにおけるブローカーの役割低下は必至の ク加盟に消極的であったが、ここにきて少しずつ加盟病院 も患者に困らない、等の理由から管理型医療のネットワー ィーが制約されてしまう②ネットワークに加盟しなくと また、日系医師は従来、①ネットワークに加盟するとフ ザー側にもメリットが多い。ブローカー、エージェントが、 のブローカー、エージェントの果たす役割は小さくない。 邦の改革は先行き不透明という一種のケイオスの中、少な クリントン改革案がそのまま実施されれば、五〇〇〇名以 くとも短期的には日系ブローカー、エージェントに対する 増えてくるだろう。︵ネットワークへ保険会社︶サイドも病 ワーク︵保険会社︶と病院の橋渡し機能を果たすケースも 予想されるが、日系ブローカーやエージェントがネット ︵医師︶が増えてきている。今後、管理型プランの加入者 が増えるにつれて、こうした動きはさらに加速することが 期待はかつてないほど高まりを見せているといえよう。具 体的には次のような役割、使命が考えられる。 1.管理型医療への円滑な移行促進 院サイドもユーザー︵患者︶からの要望には耳を傾けるも といった要望をまとめた形で突きつけることは効果がある 保険会社︶﹂﹁このネットワークに入ってほしい︵対病院︶﹂ のであり、﹁この病院をネットワークに入れてほしい︵対 代の趨勢である。日系企業は、HMOやPPOのネットワー クに日本人医師が少ないことから、これに躊躇するところ クリントン改革案の成否にかかわらず、管理型医療は時 が多いが、いきなりHMOは無理でも、PPOやPOSと いったout-of-Networkについてもカバレッジのあるも と思われる。︶ 2.法規制や差別問題等に関する的確な情報提供 確にこれを理解している人は少ない︵行政の拙速とも思われ る対応も一因だが︶。また、前述のように、州レベルの改正 とれなくなったという新たな問題も発生している。 によって、事業所ごと支店ごとでベネフィットの整合性が COBRA(Consolidated Omnibus BudgetReconciliation Act)によって退職者等に対してプラン加入継続権に関す 採用従業員のベネフィットに差をつけているなど従業員福 れを怠っていたり、就業規則等に基づかずに駐在員と現地 いくことが、ブローカーおよびエージェントに求められる し、現在の各会社の制度を分析し問題を一つ一つ解決して ない状況であるが、今こそ、本当に必要な情報を取捨選択 報がマスコミを賑わし、ともすればそれに振り回されかね こうしたなかで、連日のように医療保険改革をめぐる情 祉制度の運営に問題点を抱えている日系企業があるとの声 役割であろう。 る通知を出すことを義務づけられているにもかかわらずこ も聞かれる。言うまでもなく、訴訟社会アメリカではこう 一〇一︵九五三︶ ︵明治生命ロスアンゼルス駐在員事務所係長︶ したことは命取りになりかねない。また、駐在員の中には、 とりあえず自分で医療費を立て替えておいて、後日日本の 健康保険に請求すれば現地の保険加入は不要と考えている 方もいるが、緊急事態が発生したときにしっかりした保険 会社のIDカードがないと診療を拒否されることがあるの でこれは大変危険である。こうした問題はクリントン改革 云々以前の問題であり、こうした例に接するたびにまだま がらこうしたケースは必ずしも珍しくはない。 だ我々の努力が足りないと自戒する次第であるが、残念な さらに、一九九三年に相次いで実施されたニューヨーク 州、カリフォルニア州の医療保険改革は、事業主および加 入者に大きな影響を与えるものであるにもかかわらず、正 米国医療保険制度の改革
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