プレゼンテーションの 001 目的 注意 興味 理解 合意 決定 行動 ●―――何故、プレゼンテーションか たぶん、あなたは、今、これから始まるプレゼンテーションの準備に多忙を極 めていることだろう。データを集めなければならない。ストーリーを考えなけれ ばならない。それに、ビジュアル資料も作らなければならないし、参加者への配 付資料も用意しておかなければならない。さらに、想定問答集までも考えておか なければならない。忙しいこと、この上ない。 しかし、ちょっと待ってもらいたい。あなたは、 「何故、プレゼンテーションを おこなうのか」 。まず、この質問に答えてもらいたい。それから準備にとりかかっ ても遅くはない。いや、この質問に正しく答えることができなければ、準備のた めに費やす努力が水の泡になる。それに、人前に立って冷や汗をかきつつも、頭 の中が真っ白になる恐怖と闘いながら、プレゼンテーションをする、その苦労が 報われない。 何故、プレゼンテーションをおこなうか。 「相手に自分の考え方を理解させた い」 、それが答えだと、あなたは言うに違いない。あなたの企画や提案を、聴き手 に理解させたい。そのために、プレゼンテーションをおこなう。その通りだろう。 しかし、それだけなら、このクソ忙しいときに、わざわざ人を集めなくてもいい のではないか。書類を配布すれば、それで十分ではないか。ましてや、メールで 一斉に配信した方が効率的だ。口頭でおこなうプレゼンテーションより、文書の 方が確実に相手に理解させることができる。それに、文書なら内容を読み返すこ とができ、かつ、記録にも残る。 2 ●―――非効率なコミュニケーション さて、あなたは、このような考え方に反論できるだろうか。さらに言うならば、 プレゼンテーションは口頭でおこなう。この口頭でのコミュニケーションは、最 も非効率的で非効果的。そして、頼りないものだ。あなたが発する音としての言 葉は、どんどん消えてなくなってしまう。それに、いくら熱弁を振るっても、聴 き手の右の耳から左の耳へと素通りする。これでは、糠に釘、暖簾に腕押し、聴 き手の耳に念仏、いや、プレゼンテーション。 残念なことに、あなたの話しぶりは、立て板に水とはいかないだろう。つっか える、忘れる、とちる、言い直す、余計なことまで言う、アーウーの雑音が入る、 第 1 章 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 戦 略 などなど。聴き手の理解を阻害する要因を多く含んでいる。それに、あなたは、考 えながら話す、話しながら考える。感覚的に話すわけにはいかないから、論理的 に思考しなければならない。簡単な作業ではない。 よくある話だが、プレゼンテーションの後で、 「どのぐらい話せましたか」と尋 ねると、 「言いたいことの半分ぐらいしか‥‥」という答えが返ってくる。それに、 聴き手に「どのぐらい理解できましたか」と質問すると、 「そうですね、半分ぐら いでしょうか」という答えが返ってくる。さて、歩留まりは。たったの25%。残 念ながら、プレゼンテーションにおけるコミュニケーションは、最も非効率的で 非効果的だ。それでも、あなたは、このままプレゼンテーションの準備を続ける だろうか。 ●―――プレゼンテーションの理由 何故、プレゼンテーションか。たとえば、あなたが、顧客に問題解決の新しい システムを提案するとしよう。提案の内容を十分に理解して欲しいと思う。しか し、理解させるためには、まず、顧客の注意を喚起しなければならない。注意を 喚起し、興味をもたせなければならない。 「それは、面白そうだね」と、興味をも たなければ、聴き手はあなたの話に耳を傾けようとはしない。 顧客の注意を喚起し、興味をもたせ、そして、論理的に説明する。そうすると、 顧客は、あなたの提案内容を理解する。 「なるほど」と。しかし、理解させただけ で十分だろうか。 「分かるけれどもねえ」ということもある。理解させ、次に、合 意させなければならない。 「そうだ、その通りだ」と。しかし、合意させるだけで いいのだろうか。 「その通りだが、まあ、検討しておこう」と言い古された台詞を 返されることも多いはずだ。合意させるだけではなく、顧客に決定させなければ ならない。 「そうだ。そう決めよう」と。しかし、決定させるだけでいいのだろう か。 「そうは言っても」と、後で覆されることもある。決定させて、行動させなけ ればならない。 「じゃ、契約書にサインしよう」と。 注意を喚起し、興味をもたせ、理解させ、合意させ、決定させ、行動させるた めには、人を集め、あなた自身の口から、あなた自身の考え方を、聴き手に直接 語りかけるプレゼンテーションでなければならない。 3 オープンな 002 意思決定のツール 決定できる 人物 プレゼンテーション 決定に 必要な情報 双方向の コミュニ ケーション 意思決定 ●―――プレゼンテーションは意思決定のツール 聴き手に、単に理解させるだけでなく、合意させ、決定させ、そして、行動さ せなければ、あなたが聴き手の前に立って、プレゼンテーションをおこなう理由 はない。合意させ、決定させ、行動させる。つまり、プレゼンテーションは意思 決定のツールというわけだ。 たとえば、あなたが優秀なエンジニアだとしよう。ある新商品の企画から開発 までを担当している。来期発売予定の新商品候補のひとつだ。候補だから、他に も多くの新商品の企画がある。この中から、ひとつの新商品を選び出し、マーケ ットに投入する。投入した新商品がドンピシャであれば、収益も上がり、ビジネ スは成功する。しかし、その逆であれば、ビジネスに失敗する。非常にリスキー な意思決定が要求される。さて、候補の中から、どのようにして新商品を選び出 すだろうか。きっと、あなたは、商品企画会議でプレゼンテーションを実施する よう要請されるだろう。会議の参加者は、あなたのプレゼンテーションを聴き、あ らゆる角度から議論をおこない、そして、来期の新商品を決定する。 このように、プレゼンテーションは意思決定ツールとして、重要な役割を担っ ている。重要な役割を担っているが故に、話し手であるあなたは、提案する企画 が、いかに素晴らしいか、いかにマーケット・ニーズに合っているか、さらには、 いかに会社の収益に貢献するか説明し、そして、プレゼンテーションの最後には、 参加者である聴き手に決定させなければならない。この新商品をマーケットに投 入する、と。 4 ●―――オープンな意思決定 プレゼンテーションをベースに意思決定をおこなう。これが本来の姿だ。本来 の姿という意味は、現実の姿とは異なることがある、ということ。 あなたの属する企業や団体では、重要な意思決定が、どのようになされている だろうか。いや、そもそも、決定しようとする人なんかだれもいない、と言うか もしれない。しかし、それは論外として。たぶん、何か物事を決めなければなら ないとき、まず、関係者に根回しをおこなうだろう。飲み屋という密室で、しか も、テーブルとか袖とかの下で、貸し借りの関係で決める。そして、最終的に、会 議という公の場で、もうすでに決まっていることを、改めてもったいをつけて決 第 1 章 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 戦 略 める。よくある話だ。このようなクローズドされた意思決定のスタイルは、なに やら、きな臭いものが漂う。親分子分の貸し借りとか、裏取引とか、数の論理と か、あるいは、声や態度の大きさとか。このような意思決定は、もうそろそろ、止 めようではないか。 オープンな意思決定がこれからのビジネスには必要だ。プレゼンテーションと いうオープンな場で、フェアに物事を決めていくことだ。これからのビジネスに、 プレゼンテーションは必須科目だ。 ●―――意思決定に導く3つの要素 オープンな意思決定が必要だ。それではとばかり、みんなが集まって決めよう とする。そうなると、今度は、決まらない。 会議の冒頭で、議長が「どなたか、意見はありませんか」と投げかける。一同、 黙して語らず。全員でイヤな沈黙に耐えるしかない。あるいは逆に、喧々囂々、議 論百出。そう言えば聞こえがいいが、単に感情的に言い合っているだけの会議。た とえば、販促会議で、来期のキャンペーンについて、どのように実施するか決め なければならないとする。議長が、いきなり「来期のキャンペーンは、どうしま しょうか」と投げかけるとしよう。これでは、まともな意見が返ってくるはずが ない。たとえ、何らかの意見が返ってきたとしても、好き勝手に意見を述べるか ら、そのうち会議は無法地帯になる。結局、会議を開いてみたものの‥‥となり かねない。何が問題だろうか。問題の原因は3つある。1つ目は、決定できる人 物がその場にいないこと。2つ目は、決定するに足る情報が不足していること。そ して、最後の3つ目は、決定に向けて建設的な双方向のコミュニケーションがな されないこと。これらの原因を排除するためには、プレゼンテーションがその役 割を担うことだ。 もし、あなたが来期のキャンペーンの責任者なら、まず、販促会議に決定でき る人物を招集することだ。そして、プレゼンテーションで決定するために必要な 情報を提供する。ただ、一方的に情報を提供するのではなく、あなたは、聴き手 と双方向のコミュニケーションをコントロールしながら、最終的な意思決定に導 くことだ。 5 インタラクティブ ン 003 プレゼンテーショ 意思決定 話し手 聴き手 双方向の コミュニケーション ●―――一方通行の恐怖 たとえば、あなたが重要な顧客に対して、プレゼンテーションを実施すること になったとしよう。このプレゼンテーションに成功すれば、ビッグなビジネスを 手にすることができる。失敗するわけにはいかない。この日のために、あなたは、 資料集めに東奔西走し、パソコンに向かって夜遅くまで残業をした。準備万端、あ なたは自信にあふれている。 顧客の会議室に入る。お偉方がずらりと並んで、あなたを待ちかまえている。ピ ンと張りつめた緊張感が走る。あなたは、担当者から紹介され、プレゼンテーシ ョンを開始する。提案に至る背景を述べ、話の全体像を説明する。聴き手はあな たの話に耳を傾けている。ビジュアル・スライドを示し、提案の詳細について話 し始める。その間、聴き手は黙ってあなたの話に聴き入っている。黙って聴いて いるだけに、分かっているか分かっていないか、分からない。少し心配になる。だ からといって、話し手が黙るわけにはいかないから、そのまま話を続ける。プレ ゼンテーションは佳境に入り、顧客のベネフィットを、ここぞとばかり、力強く 語る。しかし、聴き手は身じろぎもせず、瞬きもせず、無反応。あなたは、不安 に思う。思うが、気を取り直して、さらに話を続ける。最後に、 「ご質問がありま したら」と尋ねる。が、質問はない。聴き手はシーンと黙ったまま。 あなたは、最後の礼を述べ着席する。ひと息ついたところで、あなたは、この プレゼンテーションは失敗かもしれない、と恐怖に駆られる。聴き手が無反応な プレゼンテーションほど怖いものはない。 6 ●―――能動的に関与したい聴き手 もし、あなたが、プレゼンテーションは、話し手が一方的に話すものだ、と思 っているなら、それは改めた方がいい。聴き手に合意させ、決定させ、行動させ たいなら、一方的なプレゼンテーションは止めよう。ひとつのテーマに対して、話 し手と聴き手が、お互いに意見を述べあう。その議論の中から、最適な方法論を 見つけだし、そして、決定する。そんなプレゼンテーションをしよう。そのため には、あなたのプレゼンテーションは双方向でなければならない。 聴き手が、あなたから一方的に話を聴かされて、それで、 「よし、決めた」と、 重要な決定を下すことができるだろうか。だが、聴き手に催眠術をかけない限り、 第 1 章 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 戦 略 それは、無理な相談というものだ。聴き手は、あなたの話に疑問をもっているか もしれない。自分の意見を言いたいと思っているかもしれないし、反論したいと 手ぐすね引いているかもしれない。あるいは、決定するには、もっと掘り下げて 考えたいと思っているかもしれない。 聴き手は、本来、あなたのプレゼンテーションに、もっと能動的に関与したが っている。関与して、納得ずくで、意思決定をおこないたいと思っているはずだ。 それを一方的なプレゼンテーションをおこない、聴き手を受動的にしてしまって いる。 「ご質問は、後ほど、一括して」などと言うから、聴き手は受動的な態度で 聴き、決定することを放棄する。 ●―――双方向のコミュニケーション あなたが、聴き手が無反応なプレゼンテーションの恐怖を、一度は味わってみ たいと言うなら、一方的に機関銃のように話せばいい。しかし、合意させ、決定 させ、行動させたいなら、聴き手をあなたのプレゼンテーションに積極的に関与 させるべきだ。関与させるとは、意見を言わせる、質問をさせる、反論させるな ど。聴き手とインタラクティブなコミュニケーションを実現する。そうすれば、聴 き手は考え、そして、決定する。 聴き手に考えさせるためには、まず、あなたは、プレゼンテーションで、聴き 手からの意見や質問を遮らないこと。もし、あなたが遮ると、聴き手は考えるこ とを放棄する。積極的に取り上げて、それについて議論する。聴き手が、たとえ 反論してきても、無視しない。反論はウェルカムだ。プレゼンテーションが終わ ってから、陰で反論され否定されるより、よっぽどいい。反論されれば、スマイ ルで対応しよう。聴き手の反論には、論理的に解説する。あるいは、聴き手の反 論が正しければ、素直に、その説をあなたの考えに取り込めばいい。もし、聴き 手が黙ってあなたの話を聴こうとする受動的な態度なら、逆に、あなたから質問 すればいい。質問を投げて意見を言わせる、あるいは、反論を引き出す。 プレゼンテーションでは、聴き手と双方向のコミュニケーションをマネジメン トしながら、あなたの最終ゴールを目指していく。これが、プレゼンテーション の醍醐味だ。 7 ジョブ・プロセスと ン 004 プレゼンテーショ プレゼンテーション計画 今回の プレゼンテーション ジョブ・プロセス フェーズ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 必然性 目的 Ⅴ 最 終 目 標 次のステップ 目標 ●―――ジョブ・プロセス上に位置づける これまでで、あなたは、プレゼンテーションに対する基本的な考え方を学習し た。聴き手に合意させ、決定させ、行動させなければ、あなたがプレゼンテーシ ョンをする意味がないこと。プレゼンテーションをオープンな意思決定のツール として活用すること。そして、聴き手に決定させるためには、一方的なプレゼン テーションではなく、インタラクティブに進めること。それでは、プレゼンテー ションの準備を再開しよう。 まず、あなたは、これから実施しようとしているプレゼンテーションが、全体 の仕事の中で、どこに位置づけられるか、それを明らかにしなければならない。何 故か。ジョブ・プロセスの段階によって、プレゼンテーションの様相ががらりと 変わるからだ。たとえば、あなたが、新しい業務効率化プログラムを企画し実施 するとしよう。まず、企画を立案したら、あなたは、役員会でプレゼンテーショ ンをする。決裁を取ったら、次に、部課長会議でプレゼンテーションをする。マ ネジメントの合意を得たら、実務担当者を集めてプレゼンテーションをする。あ なたは、このように、自分の仕事を前に進めるために、それぞれの段階でプレゼ ンテーションをする。 つまり、プレゼンテーションは、あなたの仕事を前に進めるエンジン、という わけだ。各段階のプレゼンテーションは、 「業務効率化プログラム」という同じテ ーマであっても、当然ながら、その背景も目的も目標も、もちろん、内容も切り 口も、それぞれ異なるはずだ。 8 ●―――プレゼンテーション計画 プレゼンテーションの準備は、何がなんでも、ジョブ・プロセスの全体を見通 して、 「プレゼンテーション計画」を立てることから始める。 たとえば、あなたが、ある顧客にアプローチし、ビジネスをモノにしたいとし よう。行き当たりばったりではなく、セールスのジョブ・プロセスに基づいて、仕 事の計画を立てるはずだ。まず、顧客を調査し分析する。情報収集に基づいて顧 客の課題を発掘する。そして、課題を解決するソリューションを構築する。それ を顧客に提案する。さらには、ビジネス・オポチュニティの評価、要件定義、プ ロジェクトの立ち上げなど、全体のプロセスを明らかにする。それと同時に、顧 第 1 章 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 戦 略 客に対するプレゼンテーション計画を立てることだ。どのタイミングで、どのよ うなプレゼンテーションをおこなうか、あらかじめ、全体スケジュールを決める。 たとえば、顧客の調査・分析が終われば、調査結果をチームで共有するプレゼン テーションを実施する。顧客の課題を抽出し、その解決策を社内で議論するため のプレゼンテーションを実施する。提案書を作成し、顧客に対してプレゼンテー ションをおこなう。あるいは、プロジェクトのキック・オフ時に、オープニング・ プレゼンテーションをする、などなど。ジョブ・プロセスの全体像を見ながら、プ レゼンテーションの計画を立てよう。 もし、あなたが、このプレゼンテーション計画を立てずに、仕事を始めたとす る。当然、行き当たりばったりのプレゼンテーションをすることになる。結果は 火を見るより明らかだ。 ●―――獲得したいものを絞り込む 計画を立てることによって、あなたは多くのメリットを手にすることができる。 その最大のメリットは、プレゼンテーションの最後で、あなたが獲得したいもの を獲得できること。つまり、目標が達成できること。 多くの人たちは、1回のプレゼンテーションに多くのものを詰め込みすぎる。あ れも言いたい、これも言いたい、と。たとえば、提案の概略だけでなく、詳細も 説明しなければ、いや、製品の仕様も伝えておかなければならないし、技術的な 解説も必要だ。それに、導入後のメンテナンスについても言っておかなければ、な どなど。気持ちは分かるが、止めた方がいい。ジョブ・プロセスに基づいて、1 回あたりのプレゼンテーションで獲得したいものを絞り込むことだ。たとえば、提 案内容の概略に興味をもたせ、基本的な方向性に合意させる。技術的優位性を理 解させ、採用を決定させる。見積額を提示して、予算獲得のアクションを取らせ る、などなど。それぞれの目標を確実に達成し、仕事のプロセスを前に進める。こ の積み重ねが、あなたのビジネスを成功に導いてくれる。 1回のプレゼンテーションに多くを詰め込むと、目標がぼやけてしまう。目標 がぼやけると、それを達成することは困難だ。得たいものが分からないで、得た いものを得ることはできない。 9 プレゼンテーションの 005 舞台装置 プレゼンテーション 解決への 期待感 ■ 話を聴きたい ■ 提案に興味がある ■ 考え方を知りたい ■ 良ければ、採用したい 問題意識 ●―――決定できない原因 さて、ビジネス・プロセスを組み立て、プレゼンテーション計画を立てると、あ なたは、それぞれのプレゼンテーションで、聴き手に何を決定させなければなら ないか、明らかにすることができる。決定事項、それが、あなたのプレゼンテー ションの目標になる。 しかし、目標が定まったとしても、いきなりプレゼンテーションを始めてはい けない。何事でもそうだが、いきなり、というのが失敗の原因になる。あなたは 素晴らしいプレゼンテーションをおこなった。しかし、最後に、聴き手に決定さ せることができなかった。プレゼンテーションは失敗だ。その失敗の原因は3つ ある。その原因を排除してから始めることだ。その原因とは、まず、1つ目は、聴 き手の目的が不明確であること。つまり、聴き手が何のために、あなたのプレゼ ンテーションを聴かなければならないか、分かっていない場合。2つ目に、決定 のタイミングがズレていること。つまり、決定するには、時期尚早であったり、手 遅れであったりする状態。そして、3つ目は、決定権者の不在。つまり、聴き手 の中に「イエス」と言える人物がいないこと。 このような何も決定できない状態で、プレゼンテーションの準備に精を出して いる。残念ながら、よくある話だ。熱弁を振るえば振るうほど、あなたは無駄な エネルギーを浪費することになる。適切な聴き手に対して、適切なタイミングで、 そして、決定できる聴き手に、粛々とプレゼンテーションを執りおこなわなけれ 0 1 0 ばならない。 ●―――舞台装置をセットする 聴き手に決定を促すためには、あらかじめプレゼンテーションの舞台装置を作 っておくことだ。舞台装置と言っても、ステージに大道具や小道具を並べること ではない。聴き手に「聴きたい!」と思わせる状態を作り上げておくこと。そし て、その舞台装置の上で、プレゼンテーションをおこない、聴き手に理解させ、合 意させ、そして、決定させる。 「聴きたくもない」という聴き手に、プレゼンテー ションをおこなう愚を犯すのは止めよう。 たとえば、あなたが、顧客に「是非、提案させてください」と述べたとしよう。 顧客は、 「それじゃ、お願いします」と、肯定的な返事をした。たぶん、あなたは 第 1 章 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 戦 略 待ってましたとばかり、プレゼンテーションの準備にとりかかるだろう。そして、 顧客の会議室で、自社製品のメリットについて滔々と語り始める。しかし、聴き 手の顔ぶれを見ると、なにやら、関係がないだろうと思われる部署の人たちまで 出席している。それに、担当者レベルの人たちだけで、どうも、上層部の人たち がいない。参加すべきキー・パーソンもいない。反応もいまいち。プレゼンテー ションの最後で、 「では、検討しておきます」との反応。あなたは、仕方なく、 「よ ろしくお願いします」で締めくくる。そして、すごすご引き下がる。 何故、すごすご引き下がらなければならないのか。その理由は、聴き手である 顧客は、あなたが提案すると言ったから、プレゼンテーションを聴いているにす ぎない。あなたのプレゼンテーションには舞台装置がない。 ●―――期待感を高める 聴き手が、あなたの話を聴いてみたい。あなたの提案に興味がある。あなたの 考え方を知りたい。さらには、よければ、あなたの提案を採用したい。このよう に、聴き手の期待感を高めることだ。舞台装置を作って、そして、あなたが登場 する。そうすれば、プレゼンテーションは成功する。 期待感を高めるためには、プレゼンテーションを始める前に、聴き手に問題意 識をもたせておくことだ。それも、十分に。たとえば、あなたが社内プロジェク トを立ち上げたいとしよう。いきなり、関係者を集めてプロジェクトを提案して も、討ち死にするだけだ。まず、事前調査をおこなう。いかにプロジェクトが必 要か、早急に手だてを講じなければ、いかに先細りになってしまうか。問題意識 をもたせることだ。そして、それを解決できるのは、あなたである。あなたが問 題解決の答えをもっている、と予感させる。問題意識が醸成され、期待感が高ま った頃にプレゼンテーションをおこなう。 さらに重要なことは、あなたのプレゼンテーションに参加する聴き手を厳選す ることだ。単に、この指たかれ、ではない。だれがあなたの提案に「ゴー」と言 えるか、実行段階でのキー・パーソンはだれか、将来、阻害要因となる人物はだ れか、明らかにする。そして、最適な人物を、聴き手として招集する。そうすれ 0 1 1 ば、プレゼンテーションで討ち死にすることはない。
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