生前診断が困難であった全身性アスペルギルス症合併血管炎症候群の 1 例

一般演題(ポスター発表)
P-18
糸状菌
生前診断が困難であった全身性アスペルギルス症合併血管炎症候群の 1 例
○飯塚進子 1、原嶋真主美 1、田中淳一 1、西 正大 1、木村美保 1、高山陽子 1、遠藤平仁 1、久米 光 2、
近藤啓文 3
(1 北里大学医学部膠原病感染内科、2 北里大学医学部病理、3 北里研究所メディカルセンター病院)
症例: 70 歳代男性
主訴:呼吸困難
既往歴: 40 歳:高血圧症、65 歳:狭心症、
家族歴:父:胃癌、兄:リンパ腫、妹:膠原病(詳細不明)
生活歴:喫煙 4-5 本/日、飲酒 2 合/日、海外渡航歴・ペット飼育歴:なし
現病歴:平成 9 年より近医で腎機能障害(腎生検なし)を指摘され、食事療法、降圧剤による加療を受
けていた。平成 12 年 11 月から 39 度台の発熱、左肺野浸潤影を認め、細菌性肺炎の診断で同院にて抗生
剤(セフピロム、アミカシン)よる加療をうけたが、肺浸潤影は両側に拡大し、低酸素血症が進行した。
第 5 病日から抗真菌剤(フルコナゾール)を併用し、やや解熱傾向となったが、同時期より血痰が出現
し、呼吸不全に陥ったため、当院に転院となった。
転院時現症:体温: 37.5 ℃、血圧: 166/80mmHg、脈拍: 109 回/分 正、意識:清明、眼球結膜:黄
疸なし、眼瞼結膜:貧血あり、表在リンパ節:触知せず、頸静脈:怒張なし、眼底:異常所見なし、口
腔内:発赤なし、舌に白苔あり、胸部聴診:心音純、両肺野に湿性ら音を聴取、腹部:肝胆脾腎は触知
せず、腹膜刺激症状なぁ、四肢:浮腫あり、神経所見:髄膜刺激症状なし、脳神経系感覚運動神経系に
異常所見なし、
転院時検査所見:血液ガス分析(Room air): Po2 42.9 Torr、HCO3- 21.8mmol/L、尿: UP(+)、UB
(3 +)、US(−)、Uro(±)、沈査 WBC3-5、RBC50-100、硝子円柱(+)、顆粒円柱(+)、血算:
WBC 17200/μL(Neutro 99.0 %、Eosino 0、Lymph 0.5)、Hb 6.7g/dl、Plt 17.0 万/μL、生化学検査: T.
P 4.8g/dl(γ-gl 14.0 %)、LDH 638IU/L、BUN 54mg/dl、Cr 2.5mg/dl、CRP 33.4mg/dl、HbA1C 5.7 %、
免疫学的検査: IG-G 1090mg/dl、ANA < 40 倍、MPO-ANCA 571EU、血中アスペルギルス抗原陰性、
β-D glucan 56.0pg/ml、喀痰培養:一般細菌(−)、真菌(−)、抗酸菌染色(−)、血液培養:一般細
菌、真菌陰性、心電図:Ⅱ、Ⅲ、aVf にて異常 Q 波を認める。胸部 X 線:右中下肺野、左下肺野に浸潤
影を認める(写真 1)
。心臓超音波 Diffuse
hypokinesis、
経過:転院後、酸素投与、抗生物質(スルバクタム/セフオペラゾン、エリスロマイシン)による加療
を行うが、呼吸状態が悪化した。挿管、人工呼吸管理となった際、挿管チューブより多量の血液が認め
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一
般
演
題
糸︵
状ポ
ス
菌タ
ー
発
表
︶
真菌症フォーラム 第 8 回学術集会
られ、肺出血の診断となった。この間、喀痰培養、血液培養は陰性であり、肺腎症候群の診断にて第 2
病日よりステロイドパルス療法を施行した。その後 PSL60mg にて加療し、血清 MPO-ANCA 値が高値
であったことから顕微鏡的多発血管炎の疑いで当科転科した。パルス後呼吸状態は改善し、第 5 病日に
人工呼吸器離脱したが、第 7 病日に再度肺出血が出現し、病態の悪化が認められたため、血漿交換療法
を計 3 回、免疫抑制剤の併用を行った。徐々に呼吸状態は改善したが、第 11 病日に左上肢の不全麻痺が
出現し、頭部 CT にて右側脳室に脳梗塞所見が認められた。降圧剤、脳浮腫改善剤にて加療したが、第
15 病日には新たに意識障害、右上下肢の麻痺が出現した。頭部 CT にて左大脳頭頂部皮質に出血所見
(写真 2)が認められ、その後は意識の改善なく、第 20 病日に永眠となった。
病理解剖にて、頭部には広範囲の出血性梗塞巣と、その支配領域血管となる大脳動脈に真菌(アスペル
ギルス)塞栓が認められた。梗塞巣にも真菌菌糸が認められたことから、脳病変はアスペルギルス血症
による塞栓が原因と考えられた。右肺組織では空洞病変、気管支肺炎所見が広がり、同部に一致して真
菌菌糸と出血を伴う気管支肺炎像がみられた。一方、左下肺では特に強い肺出血像が認められたが菌糸
の存在は認めなかった。その他、心外膜に結節性病変がみられ、心筋内にも斑状の出血性病変が多発し、
両者とも真菌菌糸の集塊であった。甲状腺は壊死性病変が存在し、同部にも真菌菌糸が存在した。
考察:本症は病理所見から、重症肺出血に対するステロイドをはじめとする免疫抑制療法にて、日和見
感染の侵襲性アスペルギルス症を発症し、その後真菌血症、播種性に脳出血性梗塞を生じたと考えられ
た。しかし、肺、脳だけでなく、心筋、心外膜、甲状腺からも大量のアスペルギルス菌糸が認められた
事から、高度の真菌血症が存在したと推測され、後に血漿交換時に採取した患者血漿分離 DNA の nested PCR ではアスペルギルス陽性の結果であった。以上より、本症は発症からかなり早い段階でのアス
ペルギルス症の合併があったとも推測され、免疫抑制剤使用以前から合併していた可能性も否定できな
い。発症時期は不明であるが、いずれにしろ、経過中の各種培養、血中抗原からは真菌を検出すること
ができず、生前診断が非常に困難な症例であった。
写真1
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写真2