6.IPネットワークにおける重要通信確保のための技術的検討

6.IPネットワークにおける重要通信確保のための技術的検討
(1)災害時の安否確認におけるIPネットワークの利用
災害等の非常時に輻そうが発生した場合、重要通信を確保するため、一般
の通話に対する通信規制が行われるが、一般利用者が必要とする安否確認
については、必ずしもリアルタイムの通話を必要としないため、インター
ネット等を活用することが有効である。
通信総合研究所等においてはウェブ上で個人の安否情報の登録や検索が
できるIAA(I Am Alive)システムの研究開発を行っており、これまでも、
三宅島や有珠山の噴火時等、また平成15年3月のイラク攻撃に伴う在外
邦人の安否確認支援等、非常時における実験運用を行っている。
一般利用者の安否確認のための通信手段としてIPネットワークを利用
することは、非常時における輻そうを軽減するためにも有効であり、災害
等の非常時にはこのような安否確認の通信手段を広く利用者に普及してい
くことが必要である。
(2)IPネットワークによる新たな重要通信確保システム
DSL、FTTH等のブロードバンドアクセス網の普及等により、これま
での電話網を中心とするネットワークからIPネットワークへと進展して
いくなかでは、IPネットワークを安否確認の通信手段として利用するだ
けでなく、災害等の非常時における重要通信の確保についても、これまで
の災害時優先電話を中心としたシステムだけでなく、IPネットワークを
活用した新たなシステムの導入を進めていくことが求められる。
既に、ITU、IETF等の標準化機関ではインターネットにおけるGE
TSのような緊急通信システムの提供を可能とする技術など、IPネット
ワークでの重要通信・緊急通報システムに関する検討が進められている。
我が国においても、重要通信を取り扱うシステムをIPネットワーク上で
実現することを検討することが必要であり、そのための研究開発を行うと
50
ともに、標準化機関等において、将来的な重要通信確保システムの確立に
取り組んで行くことが必要である。
(3)IP電話における緊急通報の確保
平成14年9月から一般の加入電話からIP電話に着信するために「05
0」から始まる番号が新たに利用できることとなったことから、平成15
年度には発着信が可能なIP電話の普及が見込まれている。
IP電話の普及によって、これまでの固定電話からIP電話に置き換わっ
ていくことも想定されることから、これまでの固定電話で提案されている
緊急通報等の機能をIP電話で実現することが求められている。
①
既存電話網における緊急通報の確保
既存の固定電話からの緊急通報については、災害時優先電話から
の通話と同様、一般の電話からの通信規制時でも優先的に取り扱わ
れる。また、発信した行政区域に応じ、市内交換機から所轄の指令
台に接続する機能を有している。その際、回線を切断しても指令台
で回線を保持する回線保留機能、指令台から切断したユーザを呼び
出せる再呼び出し機能、発信者番号取得による通報者の位置特定機
能(118を除く。
)等を備えている。
また、携帯電話からの緊急通報は、無線基地局のセル単位の行政
区域に応じ、交換機から所轄の指令台に接続する機能を有している
が、現在は、警察及び消防へは、アナログ専用線で接続されている
ため、回線保留機能と再呼び出し機能は可能であるが、発信者番号
は表示されていない。
しかしながら、これを可能とするため、接続回線のISDN化を
進めることによって、警察においては平成15年度から、消防にお
いては平成16年度から順次改修される予定である。この改修によ
51
って、固定電話が備えている回線保留機能は無いが、発信者番号に
より再呼び出しが可能となる。
110,118,119番
以外の通話
IP電話アダプタ
IPネットワーク
NTT電話局
NTT電話局
警察
警察
指令台
MDF 交換機
交換機
公衆網 加入者線
ISDN
県警本部他
消防
消防
ユーザ宅
指令台
携帯電話からの
◆110番は、通報者の発番号 表示が可能なISDN経由に移
行予定(H15.4から順次)。
◆119番もH16、17頃から移 行する方向で検討中。
POI
専用回線
中継網
管轄消防本部
警察
基地局
携帯電話事業者
のネットワーク
集
約
装
置
海保
海保
指令台
消防
管区海上保安部
専用回線
海保
110番の接続の流れ
118番の接続の流れ
119番の接続の流れ
図6−1 固定電話および携帯電話からの緊急通報接続
② IP電話からの緊急通報における課題
IP電話サービスには、その利用形態がロケーションフリーで地理
的に固定されていないものもあり、固定電話と同様に発信場所に対応
する受理機関の指令台に接続するための方法等について検討すべき
課題がある。
例えば、IPネットワーク上で実現されるロケーションフリーなI
52
P電話からの緊急通報を接続するためには、なりすまし対策や呼び返
し機能等をIPネットワークのなかで実現するための検討を進めて
いくことが重要である。
現在、IPネットワークが従来の電話網が担っているライフライン
としての役割を果すため、このような機能を実現するための研究開発
を推し進めているところであるが、今後も研究開発を推進していくこ
とが必要であり、その結果については、ITU、IETFで行われて
いる国際的な検討に反映させていくことが必要である。
IP電話には多様な形態があるが、例えば固定電話に重畳するAD
SLを利用するIP電話の場合には、現状では、緊急通報は固定電話
を利用することによって確保を行っている。
また、CATVやFTTH等の特定の伝送路設備によって利用者に
IP電話サービスを提供している場合にも、加入者情報等IP電話事
業者の有する情報に基づき、発信エリアの緊急機関接続先を登録・管
理する機能をネットワークに導入することで、適切な接続を実現する
ことも考えられることから、技術開発や標準が確立するまでの当面の
対応として、一定の要件を備えたIP電話の緊急通報を接続していく
ことが必要である。
現在、「050」番号を利用して提供することが予定されているI
P電話のほとんどがこれらの形態に含まれているが、IP電話を提供
する事業者は多数あり、それぞれの事業者によってネットワーク構成
や方式が異なっている。このため、今後、IP電話からの緊急通報の
接続を推し進めていくため、IP電話事業者、受理機関等の関係者に
おいて、緊急通報を接続する場合の要件、方法等について調整を行い、
円滑な緊急通報の接続を可能とすることが必要である。
53