【39】 全地連「技術e-フォーラム 2008」高知 水上からのポータブルコーン貫入試験実施事例 田村ボーリング(株) たに の み や ○谷 野宮 たつ ひろ 竜浩 3.現場測定作業 1.はじめに ポータブルコーン貫入試験(JGS 1431-2003)は、主に軟 試験は単管式にて実施した。通常単管式の試験では人 弱な粘性土地盤において人力で静的にコーンを貫入させ, 力で挿入すること,摩擦の影響が大きくなることから, コーン貫入抵抗を求める試験である。コーン貫入抵抗値 測定深さは 3~5m が限界であり,従ってロッドも 5m 程度 からは経験式から粘性土の一軸圧縮強度を求めることが が標準である。しかし本試験では,水深 21m の水上から できる。 層厚 3.5m の堆砂層を対象として試験を実施するため,通 今回,ダム湖底の堆砂層に対して水上からポータブル コーン貫入試験を実施する機会があったため,この実施 常のロッドに加えて 3m 継ぎのロッドを 7 本作成し,合計 26m 分を用意した。 試験の実施では,ロッド長が長く試験器自体の重量が 事例について報告する。 30kg 以上となるため,図-2 のようにボーリング櫓の滑車 2.業務概要 を利用し,足場に固定した単管パイプに 3 重程度巻き付 今回試験を実施した場所は,愛媛県に構築されている ダムの一つであった。業務の主目的は,湖畔に分布する 地すべり対策の一案として水中押え盛土が検討されてお り,この検討に必要となるダム堆砂層の地盤定数を求め る事であった。当初の調査方針では堆砂層を不攪乱試料 採取し,室内試験により地盤定数を推定するというもの け,人力で長時間つり上げ固定でき,また必要に応じて 降ろす(挿入する)ことができるようにした。 また,あらかじめφ86mm ケーシングを水底付近まで鉛 直に設置し,この中に試験器ロッドを通すことで,試験 器挿入時の鉛直性を保持した。 であった。しかし,ボーリング調査の結果,堆砂層は含 滑車 ボーリング櫓 水比が非常に高くロッド自沈となる軟弱なシルトである ロープ 単管に3回程度巻き付ける ことが判明し,採取した不攪乱試料の成形が困難となる 足場に固定した単管 可能性が発生した。そこで,ボーリング水上足場から容 ポータブルコーン貫入試験器 易に実施でき,地盤定数を推定できる何らかの試験の方 ロッド 法を検討した結果,ポータブルコーン貫入試験を実施す ることとなった。結果的には不攪乱試料による三軸試験 (CUb)も実施することができ,室内試験による地盤定数を フロート足場 上げ下ろし係り 記録係り 測定することができた。 現場の施工条件の模式図を図-1 に示す。調査実施地点は φ86mmケーシング 湖底 ダム湖の中流域における最深部付近であり,貯水率は最大 限下げられていたものの水深が 21m であった。 コーン ポータブルコーン貫入試験 水上フロート足場 図-2 崩積土 現場実施状況概念図 崩積土 堆砂層 試験時に留意した事項は,フロート足場であるため足 不攪乱試料採取 基盤岩 場の揺れがそのまま試験器の揺れとなり,荷重計の値に 影響を与えることとなるため,揺れが生じないよう細心 図-1 現場施工条件概念図 の注意をして実施した。 全地連「技術e-フォーラム 2008」高知 件が CUb で圧密条件が現状とは異なり、さらにシルトで 4.とりまとめ作業 ポータブルコーン貫入試験の原理は,貫入させる際に 規定形状のコーンにかかる荷重をコーン底面積で除して, この値をコーン貫入抵抗 qc(kN/m2)として算定するもの であり,通常の試験では図-3(a)となる。今回の試験では ロッド長が長く,対象地層が軟弱なシルト層であるため、 試験器質量による荷重が貫入に要する荷重よりも非常に 大きくなっている。また,水深が深く水中に入る試験器 の体積が通常と比較して大きく,浮力の影響も無視でき なくなっている。このような条件から,本試験では図 あるためφをとることができるため,φ=0 で想定される ポータブルコーン貫入試験結果からの c(=qu/2)とは単 純な比較はできないが,オーダー的には妥当な値が測定 されていると判断した。また,2 回の試験結果がほぼ一 致していることから,試験の精度は確保できていると判 断した。 結果的に,業務成果としての堆砂層の地盤定数として は三軸圧縮試験の結果を採用し,ポータブルコーン貫入 試験の結果は参考値として報告した。 コーン貫入抵抗 qc (kN/m2) 推定一軸圧縮強さ qu(kN/m2) 深 の質量による荷重から,人力による引き上げ力と浮力を m ) -3(b)のように,貫入時のコーンにかかる荷重は,試験器 ( さ 0.0 100.0 qc = (Qrd + M・gn)/A ここで, qc:コーン貫入抵抗(N) A:コーンの底面積(m 2 ) (A=0.000645 m 2 ) Qrd:荷重計測定値(N) M:試験器,ロッド質量(kg) gn:標準重力加速度(m/s 2 ) (gn=9.81 m/s 2 ) M 16.89 1.0 15.65 1.5 23.58 2.0 21.61 2.5 qc・A 1) qc = (M・gn – Qrd - u)/A 3.0 3.5 84.43 78.25 117.90 108.03 43.22 216.10 33.88 169.40 49.78 248.91 Qrd 図-4 u M qc・A (b)本調査でのコーン貫入抵抗算定式 図-3 0.5 Qrd (a)地盤工学会基準でのコーン貫入抵抗算定式 ここで, M:試験器,ロッド質量(kg) (追加した 3m ロッド 7 本の 重量を含む) u:水中部分での浮力(N) (u=V・ρw・gn) V:水中のロッド・コーンの 体積(m 3 ) ρw:水単位体積重量(kg/m 3 ) 300.0 波線・小マーカーは 2 回目の試験の値 差し引いた値として計算し,この値をコーン底面積で除 することにより qc を算定した。 200.0 0.0 試験結果とりまとめ方法 試験結果グラフ 6.まとめ 水上フロート足場で水深 20m という通常の条件とは異な る状態でポータブルコーン貫入試験を実施した。施工にお いては長尺のロッドを使用し,試験器を鉛直に貫入させる ための工夫や,試験器重量が重くなることによる工夫が必 要であった。また,とりまとめでは貫入させるための荷重 が試験器重量となり,深い水深のため浮力を考慮する必要 があった。 5.試験結果 ポータブルコーン貫入試験に限らず,原位置試験やサウ 図-4 に試験結果を示す。試験は足場を 1m ずらして 2 回実 ンディングでは現場の条件が基準にあてはまる条件でない 施した。図-4 では,qc に加えて推定一軸圧縮強度 qu(qc/5 場合も多い。しかし,調査の結果として試験値が必要とな 1) で推定 )を示した。試験結果から,堆砂層層厚が 3.6m あ るため,様々な工夫により測定,とりまとめを行う必要が り,一軸圧縮強度は 1 回目の平均で 25.74(kN/m2)となった。 ある。この時に重要なことは試験の原理を熟知し,基準と 堆砂層の深部ほど強度が大きくなっており,これは深部ほ なる方法のみに縛られることなく柔軟な対応をすることで ど上位の堆積物の荷重により圧密され,強度が増加してい あると考える。 るものと考えられる。 試験対象層に対しては,不攪乱試料を用いた三軸圧縮 試験 を実 施 し てい る。 試 験 の結 果全 応 力 での 粘着力 c=4.81(kN/m2),せん断抵抗角φ=14.3(°)となる。試験条 《参考文献》 1)地 盤 工 学 会 編 : 地 盤 調 査 の 方 法 と 解 説 , pp291, 2004.6.
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