鹿児島県「土砂災害警戒情報」の検証 *天野 篤(アジア航測株式会社) ・有馬正敏(株式会社南日本放送) ・弘中秀治(宇部市役所) 表-1 鹿児島県「土砂災害警戒情報」発表一覧 1. はじめに 「土砂災害警戒情報」は、2005年9月1日、全国に先 駆け鹿児島県で運用開始された。目的は、「大雨による 土砂災害発生の危険度が高まったとき、市町村長が防 災活動や住民等への避難勧告等の災害応急対応を適 時適切に行えるよう支援する。また、住民の自主避難の 判断等にも利用できるような内容とする」とされている。 本稿では、これまでの「土砂災害警戒情報」発表と発災 状況を踏まえ、運用実態を検証し、避難等対処行動を 促す所期の防災効果実現に向けた課題を整理した。 2. 「土砂災害警戒情報」発表と発災状況 2.1 鹿児島県 2005 年 9 月 1 日から 2006 年 7 月 24 日の間で、13 降雨、延べ 152 号が発表された(表-1)。片や、本格的な 避難を要するであろう規模の土砂災害を生じた大雨は、 筆者らが知る限り次の 3 例となる。 i) 2005 年 9 月 5 日~ 台風 14 号 [表-1 №1] 台風 14 号の異常な雨の降り方に伴う土砂災害により、 県下だけで 5 名が死亡した。「土砂災害警戒情報」が多 数出され、問題を含みながらも概ね伝わった。しかし、そ れを受けた市町村や住民の避難対応に必ずしもうまく 直結しなかった点が、国やマスメディアから指摘された。 ii) 2006 年 7 月 5 日~ 梅雨前線 [表-1 №11] 断続的に続く大雨で、被害が続出した(死者 0)。10 ヶ 月前の記憶が新しい垂水市は、5 日夜、市内全域 8,334 世帯、約 19,000 人に対し「避難勧告」を出した。実際の 避難者数は限られ、自主避難の呼びかけと似ていた。 iii) 2006 年 7 月 21 日~ 梅雨前線 [表-1 №13] 梅雨前線による記録的な大雨で、河川の氾濫やがけ 崩れ等による災害が相次ぎ、県下で 5 名(うち土砂災害 3 名)の死者が出た。なお、「土砂災害警戒情報」の解除 に引きずられ、相対的に「大雨警報」が長く続く印象を受 けた。共同発表な故に硬直化しがちなのかもしれない。 2.2 今年度より運用開始した他県 ■沖縄県(4月28日開始):一度も発表されていない。 「土砂災害警戒情報」は、降雨に伴い集中的に発生す る「表層崩壊」と「土石流」のみを対象としている。この前 提が周知されず、中城村等の狭義の「地すべり」発生を 事前に捉えきれなかった“実力”が、地元紙社説で批判 された(その後、気象庁ホームページに説明が追加され た)。豪雨時の緊急情報が、ただでさえ行政の縦割りに 沿って出され混乱しがちなのに、特定の現象が除外さ れることで、いよいよ使えない情報ととられかねない。 ■島根県(6 月 1 日開始):6 月 22 日、7 月 8~9 日、 7 月 17~19 日の 3 降雨で発表あり。数時間先の予測で 「連携案」C.L.を超過した前 2 例では目立った災害が発 生しておらず、避難勧告・指示にも至っていない。しかし、 実況で C.L.超過、さらに「土壌雨量指数」履歴 1 位を更 新した直近の例は、崩壊等多数発生し、死者 1 名の他、 鉄道・道路等にも大きなダメージを与えた。危険性の “確度”に相当する上記 3 段階別の判定を明示したい。 3. 「土砂災害警戒情報」運用実態の検証と課題 ① 「空振り」が多い(奄美諸島で目立つなどムラあり) 土砂災害は現象の推移が捉えにくく、いつどこで起こ るかを判定し難いため、事前予知~避難対応は簡単で はない。行政機関が出す情報は、“言った”という事実が 重視され、受け手に理解され活用されたかどうかは二の 次になりがちで、往々にして安全側の判定になる。結果、 「土砂災害警戒情報」についても、従来の警報慣れ=リス ク過小評価の問題から抜け出せないままと感じられる。 ② 自治体の「避難勧告・指示」に直結していない 上記①とは逆に、社会的影響が大で責任が重い「避 難勧告」等は、目に見える兆候が何も無い段階で出され ることは稀で、発令される場合でも、対象が限定されず に非現実的な数万人規模になっていたりする。結局、頼 りない予知情報しかないが故のこの乖離は悩ましい。 ③ 「自主避難」も容易ではない 地域住民にとり、大雨の際の危険は土砂災害だけで はない。同時に起こり得る様々な現象を総合した危険情 報が必要で、かつ、判定根拠や時空間的精度が改善さ れ、対象者と対応行動がきちんと特定されないと、有効 な防災対策とはならない。今後、地域の殆どが高齢者 になっていくので、なおさら重要である。
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