見せればわかる算数授業

ここから始めるIT活用
見せればわかる算数授業
- 気軽なIT活用で子どもたちに力をつける -
皆 川
抄
録
寛
実物投影機を活用した授業のよさは,次の3つに整理
実物投影機は,プロジェクタと接続するだけで身近な
できる。
教材を簡単に拡大提示できる。実物投影機の活用はIT
①
指示の明確化
活用授業の「入り口」であり,機器操作に抵抗感のある
②
動機づけ
教師にとっても扱いやすいものである。ここでは,算数
③
情報の共有・比較
科での実践例を取り上げ,実物投影機活用の「よさ」を
教科書や資料集を大きく提示しながら指示すること
紹介していく。
により,教師の意図が確実に伝わり,結果として活動時
<キーワード>
間を十分に確保することができる。また,導入場面で挿
算数科,気軽なIT活用,実物投影機,プロジェクタ
絵や写真を拡大提示するだけで,子どもたちの目が輝き
始める。発表場面では,ノートを拡大提示したり,操作
1
実物投影機の「よさ」
校内ネットワーク環境の整備が進み,最近ではディジ
活動そのものを「生中継」したりすることで,クラス全
体での情報共有が促進され,さまざまな考えを生かした
授業展開が可能になる。
タルコンテンツを活用した授業実践が盛んに行われるよ
うになってきた。
そんな中,私が注目しているのはプロジェクタと実物
投影機を組み合わせた「気軽なIT活用」授業である。
実物投影機は,プロジェクタに接続するだけで身近な教
2
活用事例の紹介
ここでは,実物投影機を活用した算数科での「気軽な
IT活用」授業例をいくつか紹介する。
材を簡単に拡大提示できる。教科書やノートを拡大して
見せるだけで,子どもたちの集中力は驚くほど高まり,
(1)分度器の使い方(4年)
より確実な理解を促す。実物投影機はIT活用授業の「入
り口」であり,機器操作に抵抗感のある教師にとっても
扱いやすいものである。より多くの教師に「けっこう簡
単だ」「これなら自分でもできそうだ」「効果がありそう
だ」と実感してもらうためにも,実物投影機は最適なツ
ールだといえよう(図)。
写真1
教科書をスクリーンに拡大投影
分度器の角度を読み取る学習場面である(写真1)。
分度器の目盛りは,意外に細かい。教師用の分度器で説
図
MINAKAWA
だれでも実践可能なIT活用
明してもなかなか伝わらない。教師が黒板に書いて説明
Hiroshi:登米市立北方小学校(宮城県登米市迫町北方字富永 110-5)
- 18 学習情報研究 2006.5
するのも苦労するし,混乱する原因となる。そんなとき
がふくらみ,それにともない集中力が高まる効果もある。
に,児童が持っている分度器や教科書を実物投影機で拡
さまざまな学習場面で,子どもたちは友だちの考えか
大投影するとよい。読み取らせたい部分だけを拡大投影
ら刺激を受け,自分の考えを再構築していく。友だちの
すれば,1度ずつ数えながら確認することができる。ス
考えを「耳」からだけでなく「目」からの視覚情報とし
クリーンにペンで書き込みながら,読み取り方のポイン
ても得ることで,より深まりのある学習活動が可能にな
トを示すことも容易である。
ると考えている。
(2)折れ線グラフの読み取り(4年)
折れ線グラフから変化の様子を読み取る学習場面で
ある(写真2)。折れ線グラフから情報を読み取る力は,
算数科だけでなく社会科や理科,総合的な学習の時間等
でも重要になってくるものである。
教科書に載っているグラフを教師が黒板に書き写し
たりするのは大変である。そんなときに,教科書を実物
投影機で拡大投影すれば,児童の手元と全く同じグラフ
で指導ができる。必要に応じて,ペンでスクリーンに書
き込みながら変化の様子を説明する。実物投影機は,簡
単に拡大率を変えることができるので,児童の理解度に
応じた授業展開が可能である。これは,折れ線グラフを
写真3
実物投影機の真下で操作活動
書く指導場面でも応用できる。
3
おわりに
ITを活用すれば,子どもたちに「力がつく」授業が
実現できるわけではない。教育の情報化がどれだけ進ん
でも,授業をするのは教師である。ディジタルコンテン
ツやIT機器が効果的に働く授業場面を見出し,授業の
どのタイミングでそれらを活用するか,そして子どもた
ちにどんな力をつけたいのかという授業設計こそが重要
である。
ITを日常的に活用することにより,IT活用のポイ
ントが見えてくる。
「プロジェクタと実物投影機」の魅力
は,操作が簡単であるため誰にでも気軽に教材を提示で
写真2
教科書のグラフを拡大投影
きる点にある。ITを活用する場面を見極めるセンスを
磨くためにも,我々教師には日常の授業の中で「気軽に」
(3)平行四辺形の面積(5年)
ITを活用していくことが求められている。
平行四辺形の面積の求め方を考えさせる場面では,操
作活動を通して等積変形すればよいことに気づかせる
(写真3)。具体的には,小さな画用紙をはさみで切り,
自由に移動させながら考えるように指示する。しかし,
操作活動の過程を全体の場で共有するのに,口頭での説
明だけでは不十分である。そこで,発表場面では実物投
【参考文献】
影機の真下で子どもに操作活動を再現させ,操作の様子
・皆川寛・堀田龍也(2004.10),
『プロジェクタと実物投
をスクリーン上で「生中継」するのである。等積変形の
影機の日常的活用を支援する分類シートの開発』,第
手順がクラス全体で共有でき,意見交換が活発になる。
30 回全日本教育工学研究協議会全国大会論文集より
スクリーンに拡大投影することで「私はこう考えたけど,
・堀田龍也(2003.10),『確かな学力の形成のための IT
○○さんはどのように動かすのだろう?」という期待感
活用』,教育展望 2003.10 月号(教育調査研究所)
- 19 皆川
寛:見せればわかる算数授業