この論文は,イタリアの建築家アルド・ロッシ(1931

この論文は,イタリアの建築家アルド・ロッシ(1931-1997)の著書『科学的自伝』(1981 年)およ
び同時期の建築やドローイング作品を,ヴァルター・ベンヤミンの自伝的回想との比較によって分析
アナロジー
し,「 類 推 」という概念を用いて語られるその「書法」(それはドローイングの画法でもある)に
おける想像力の論理を解明することを目的としている。1
『都市の建築』末尾でロッシは,次のように書いていた。
どの伝記にも興味を惹くに充分な話題が詰まっているものであり,およそ伝記というものがすべて
生と死との間のことに限定されているにもかかわらず,そうなのだ。確かに,都市の建築は,この
すぐれて人間的事象は,こうした伝記の具体的記号なのだ。意味や感情を超えたところで,それに
より我々は都市を知るのだ。
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パドヴァのパラッツォ・デッラ・ラジォーネをはじめとして,都市の構造の強固な一部として複数
の機能を果たしつつ,そうした機能とはほとんど無関係な形態を維持する「都市的創成物」の「類型
的形態」の力を論じてきた挙げ句に,ロッシがその構造のなかに最終的に見出しているのは,「個々
の人間の生活や運命を支配する法則」との類似だったのである。ロッシがモーリス・アルブヴァック
スによる「集団的記憶」の研究を援用して言うように,都市そのものが「民衆の集団的記憶」であり,
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同時にその「場」である。
1978 年に執筆された『都市の建築』アメリカ版初版への序文でロッシは,「都市の建築」を具体的
記号とする「都市の伝記」は,都市的創成物の場に秘められた集団的記憶を呼び出すことにより,そ
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こに隠された願望までも明るみに出してみせる,と言う。 事実として永続する都市的創成物ばかりで
はなく,都市の進路から見放されて放置された未完の建築のような「中断された作品」もまた・・・・・・
参考文献一覧
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網野善彦『増補 無縁・公界・楽』,平凡社,1987.
Bachelard, Gaston: La poétique de l'espace. Paris: Presses Universitaires de France, 1957. ガストン・バシュラ
ール『空間の詩学』,岩村行雄訳,ちくま学芸文庫,2002.
Ferlenga, Alberto (ed.): Aldo Rossi: The Life and Works of an Architect. Köln: Könemann, 2001.
南後由和「動物化するグラフィティ/タトゥー̶̶都市/身体の表面への偏執」,『10+1』No.40,
INAX 出版,2005,144-155.
Rossi, Aldo; a cura di Daniele Vitale: L’architettura della città. 1966. 2.ed. Milano: CLUP, 1987. アルド・ロッ
シ『都市の建築』,大島哲蔵・福田晴虔訳,大龍堂書店,1991.
田中純「都市の伝記̶̶自伝という死の訓練」,『10+1』No.34,INAX 出版,2004,2-11.
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本論文は,拙論「都市の伝記̶̶自伝という死の訓練」(『10+1』No.34,INAX 出版,2004 年,2-11 頁)にお
けるロッシとベンヤミンの都市論に関する分析を,ロッシ論に焦点を絞って発展させたものである。
2
アルド・ロッシ『都市の建築』(ダニエーレ・ヴィターレ編,大島哲蔵・福田晴虔訳,大龍堂書店,1991 年)
271-272 頁。
3
ロッシ『都市の建築』213 頁参照。
4
同,316 頁参照。