平成 20 年度 理数教育ステップアップ研修 実践記録 理論の再構築のために、単元のまとめでの演示実験授業の工夫 −高等学校 2 学年化学「酸化還元」の指導を通して− (実践者 新潟県立新潟南高等学校 高橋 義之) 高等学校の化学の授業において単元の終了毎に、単元を通した様々な演示実験を行うことは、学んだ ことの理論の再構築を図るのに、大変重要である。またその際、様々な角度からの演示実験によるアプ ローチは、理解の広がりに役立つ。高校化学の現場で、その多大な教授内容と時間的制約を考えると、 こうした試みはなおさらに、多くの学校で行う価値のあるものと考えている。 実験の観察を通して、学んだ個々の内容を頭の中で整理統合していく過程は、理数の面白さの本質的 な部分を担うことであり、さらに深く追究したいというモチベーションの形成に役立つことである。 本研修では高校生が苦手とする「酸化還元」の単元について、上記の過程を試み、その有効性を検証 した。その結果、多くの生徒の理解度が増し、 「酸化還元」を得意と考える生徒が増加した。 1 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための構想 (1) はじめに 時間的制約の多い高校の化学の中で、大きな単元の終了毎に、生徒とのダイアローグと演示実験に より単元を流れる化学の理論を再構築することは、本当の意味で「理科の面白さや深く追究する楽し さを味わわせる」ことにつながるものと考えている。 昨今、派手なパフォーマンスで演示実験を行い、理科の面白さをアピールする実験ショーをみかけ る。それ自体は楽しく、理科の学習へのきっかけになることは間違いないものと思う。その一方で高 校の授業における実験、特に教科書に掲載される実験は、測定や色の変化を観察するなど無味乾燥的 なものが多く、実験が作業になっている側面も多く見受けられる場合が多いように思う。もちろん、 パフォーマンスを伴った派手な実験で、マジックショー的に生徒を楽しませるだけの実験でも困るし、 生徒自身が手を動かしながら地道な観察を伴う実験も重要なことは大いに認めるべきことである。 そこで今回の研修では、下記に示したような実験授業を試みた。 生徒による地道な観察、測定 ⇔ 派手なパフォーマンスを伴う演示実験 ↓ 実験を“作業”にしない、楽しく、化学の原理原則を追究する 驚きと納得をふんだんに盛り込んだ演示実験授業は、効率的に生徒の理解を育むだけでなく、生徒の 頭の中で化学の理論を再構築し、真に“わかる”ことにつながり、 「理科の面白さや深く追究する楽し さを味わわせる」ことになると考えた。 (2) 上記構想実現のため、特に注意を払った点 ① 常に生徒の頭を活動させるための演示、発問を行う 今回の試みは、演示実験を単に見せるのではなく、かつ、生徒によるグループ実験ではない。授業 で学んだことが想起され、再構築されていくように行う。常に視点(注目点)を明らかにして、生徒 の理論の再構築を支援する発問(声かけ)を行う。このことは授業で学んだことを改めて考え、整理 -1- する大きなチャンスとなる。例えば、酸素との結合、硫黄や塩素などの陰性元素との結合、更には強 い酸化剤との反応により、 “電子の支配を受けること”が“酸化される”ということについて、平易な 言葉を用いた声かけで支援する。このことで、常に生徒の頭の中をフル回転させ、理論の再構築を促 すことができる。その際、教授内容の正確さを失わない程度に、日常的な“たとえ”を用い思考の活 発化を図る。 ② 驚きを伴う実験を挿入する 一連の実験の中に、驚きを伴う実験を挿入することで、常に飽きさせることなく、生徒の思考を支 援する。そのために、教科書にない幾つかの斬新な実験を取り入れる。例えば、濃硫酸と過マンガン 酸カリウムによるメタノールの酸化実験は、危険を伴う実験ではあり、生徒実験は難しいが、演示実 験であれば安全を確保しながら可能である。この実験では試験管中に“雷”が観察され、過マンガン 酸カリウムの激しい酸化作用について、生徒に強烈に印象づけることが可能となる。また、塩素ガス 中に銅箔を入れると、一瞬で燃えてなくなる等の実験は、新鮮な驚きをもって、理論の再構築への実 現へとつながっていくものと考えている。 ③ 理論の再構築を多様な角度からアプローチする 生徒の頭に留め置きたい応用の効く概念形成のために、多様な角度からの実験を行い、可能な限り、 自発的な理論の再構築ができるように支援する。 「酸化還元」という同一の事象について、いろいろな 角度からアプローチすることで、理論が厚みを帯びた生きた理論として再構築されていく過程は、ま さしく「理科の面白さや深く追究する楽しさを味わわせる」ことになると考えた。 豊富で多様な 角度からの演示 ストーリーをもった解説 整理統合 箇条書き的な された理論 既習知識 効率的に 興味を引き出す驚きの 事象の演示 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための今回の授業 2 授業の実際 今回の研修では、「酸化と還元」を対象に前述した構想を試みた。「酸化と還元」はその概念形成が 難しく、定着しにくい単元である。そのような単元であるからこそ、 “電子の流れ”を常に意識しなが ら、多角度的な演示実験によるアプローチが有効であると考えた。 (1) 授業の実際で注意したこと等 y 小・中学校を通じ、酸素と化合することが酸化というイメージを崩して、酸化還元の理論が、 生徒の頭の中で整理され、再構築され広がっていく快感を味わわせたい。 -2- y 1時間の授業の中で多くの演示実験観察により断片化した学習内容が整理されていき、自らの 学習の整理が行われていく過程(なるほど・・・、そうだったのか・・・)に対する醍醐味、 楽しみを味わわせたい。ここでは多くの演示実験を行い、その観察から学習理論の再構築を促 す。 y 授業の後半で極めて簡単に電池がつくれることを、 “身をもって”体験し、金属以外が電極にな る理由について考えさせ、電池について“なんとなく”から“なるほど”という本質な理解に 至る過程を楽しませる。 y 本時は酸化還元のまとめとして行われるもので、個々の項目についてはほぼ学習済みである。 従って本時は概念の復習的な授業であり、内容の細かい部分について詳細に触れることはない。 y 化学実験室の教卓前に集合し、教科書、ノート等は特に持参せず、演示実験を行いながら、生 徒自身が自らの思考により酸化還元について整理、再構築できるようにする。そのため、板書 はメモ程度にとどめる。また定性的な話題にとどめることで、事象についての本質的な思考を 促進する。 y 後半に生徒が躓きやすい金属が電極でない電池について実験をさせ、 “イオン化傾向の差電池” から“酸化還元反応取り出し電池”への思考の飛躍を狙う。 (2) 授業の展開(指導の要領) 時間 学習活動 教師の働きかけ(支援) 導入 本時の目的につい 演示実験の観察と電池の作成を通し、酸化還元について頭の中で再整 3分 て 理してほしい。 酸 化 と 酸化とは・・・? 銅を酸化するには… 酸化銅(Ⅱ)の生成を演示…燃えなかったけど、 いくつかの 還 元 は 銅の空気中におけ これって酸化? 電 子 の る酸化演示実験の * 銅をもっと本格的に燃やして見よう。 燃焼”を通 授 受 で 観察。 * 硫化銅(Ⅰ)の生成を演示…「燃えるということは?」 し、中学生ま 指導の留意点 “明らかな あ る こ でで学習し と に つ 銅の硫黄蒸気中で た酸化(酸素 いて の酸化演示実験の との化合)と 12 分 観察。 高校で学習 した電子の 銅の塩素ガス中で 授受による の酸化実験の観 酸化を結び 察。 つける。 酸素との化合だけ 陰性元素と でなく、周期表右 銅の反応に * 上の“電子好き” の陰性元素の単体 との化合、つまり 硫黄や塩素と銅の 反応で酸化の本質 塩化銅(Ⅱ)の生成を演示…「燃える=酸素との結合ではない」 3つの演示実験を考察…銅は酸素,塩素,硫黄と化合した結果、どう 変化したか。 より、銅が電 子を奪われ る点で共通 している点 周期表上の陰性元素との化合により、銅の価電子は酸素、硫黄、塩 -3- に注目させ (支配電子の減 少)を考える。 素に支配された。 る。 “酸化される”とは電子を放出すること。逆に“還元される”とは 感覚的に酸 酸素、硫黄、塩素 電子を受け取ること。 化数の変化 は支配電子を増加 酸化という言葉の由来について考える。中学校で習った酸化還元が酸 が酸化還元 させたことについ 化、還元の1つの代表例にすぎないことを説明する。 を表してい て考える。 ることに気 これらの現象を電 付かせる。 子を用いた半反応 式で示してみる。 相手を酸化する物 酸化剤、すなわち相手の電子を自分のものとして支配したことを強調 酸化された 酸化剤、 質を酸化剤とい する。 ということ 還 元 剤 い、相手を還元す 強力な酸化剤として過マンガン酸カリウムを学習したことを思い出 と酸化剤の の 代 表 る物質を還元剤と す。 違いについ を学ぶ いう。 なぜ、過マンガン酸カリウムが酸化剤になり得るのか。 て触れる。 KMnO4 の Mn を巡る環境を説明する。 12 分 先ほど演示した反 実際に試験管内で観察される“雷”が電子の流れでないことを説明す 過マンガン 応で酸素、硫黄、 る。その一方で、過マンガンカリウムが激しい酸化作用を示すことを 酸カリウム 塩素が単体として 演示し、酸化剤の代表として印象に残す。 の激しい反 の酸化剤になった 応が、激しく ことを確認。 電子を奪っ 銅が還元剤になっ ているイメ たことを確認。 ージとなる 過マンガン酸カリ ようにする。 ウムによるアルコ ールの酸化演示実 過去に実験 験の観察。 したアルカ リ金属の反 還 元 剤 に つ い 還元剤について発問する。 応と、その電 て・・・ “電子がキライ”というものは、もっとも簡単な単体としては・・・ 子配置を想 起させるよ 周期表と関連づけ て単体の還元剤に 陽性元素が還元作用をもつことについて説明。 うに発問す る。 ついて考える。 金属ナトリウムに 水に電子を与えることで共通の事象(水の還元による水素の生成と水 よる水の還元演示 酸化物イオンの生成)が起こることを理解する。 実験の観察。 ゼネコンによる電 ヨウ素の生成より電子の流れを予測させる。 子の授受と酸化還 ヨウ素がでてきたということは・・・・、ヨウ化物イオンから電子が 元 もがれた? ゼネコンによる水 生成したヨウ素(ヨウ素文字)に陰極をあて、その変化を発問、説明。 -4- の還元演示実験の 観察。 ヨウ素が消えたと ヨウ化カリウム水 いうことは・・・、 の陰極でも、 溶液をしみこませ ヨウ素に電子が与 還元剤によ た、ろ紙でのゼネ えられた? る反応でも 電気分解で コンによるヨウ化 電子をもら 物イオンの酸化、 うことが、還 ヨウ素の還元。 元反応とし て共通であ る点に注目 させる。 電池とは・・・ ボルタ電池の概念について復習する。 電子が実際 電池 還元剤から酸化剤 7分 に移動する電子の 酸化剤と還元剤を結ぶ電子の流れを取り出したものが電池であると うな声かけ 流れを取り出せた の、電池の本質概念を形成する。 でイメージ に見えるよ ら・・・。 をつかむ。 金属のイオン化傾向の違いに基づき電子が流れるボルタ電池、 酸化還元を別々の 酸化のされ方の不釣り合いによる鉛蓄電池などについて振り返る。 場所でおこし、そ の間を導線で、外 部回路に取り出し てあげればよい。 電池を 電池のしくみにつ 銅と亜鉛のイオン化傾向の違いによって電子が流れたことを説明。 使用する亜 つくる いて本質的な理解 検流計を用いて電流が流れていることを確認。 鉛板と銅板 (生徒 を目指す。 体も電気を通すことを確認。 は清浄な状 検流計の針の触れる向きにも注目。 態になって による 実験) 銅と亜鉛を手に持 体より抵抗が少なくなることで、さらに電子が流れやすくなることを いることを 15 分 ち、つなぐことで 説明。 説明する。 電流が流れること 銅板と亜鉛板で舌を挟み、何の味もしないことを確認。 を検流計を用いて 銅板と亜鉛板で舌を挟み、2 枚の板を接触させることで電子の流れが 電子メロデ 示す。 生じることを説明。 ィは極性が ズルツァーの実験 銀歯とアルミ箔でも同様のことが起きていることを説明。 ある。電池の を説明。 正極を電子 各班でズルツァー メロディの の実験を体験。 陽極(赤い導 ズルツァーの実験 炭素棒に代えるべきは亜鉛板か、銅板か生徒が判断する。 線)につなが で使用した金属板 炭素棒を用いて電池をつくりなさいという指示にとどめる。 ないと鳴ら とビーカーで電池 ないことを を作り電子メロデ 酸化還元による電子の流れを取り出し、電池を作っているのであっ ィを鳴らす実験。 て、必ずしも両極に金属が必要ではないことを気付かせる。 -5- 注意する。 乾電池を見せ、一 酸化還元反 方は金属であるが 応における 他方は金属でない 電子の流れ 炭素棒であること を取り出せ を説明。炭素棒を れば、極板は 用いて、電池を作 金属である ってみる。 必要がない ことに気付 かせる。 まとめ 酸化還元では電子 3分 の流れとその向き に対し、常に意識 を配ることが重要 である。 (3) 授業の展開の要約 電子のやり取り 酸化還元=電子の授受 演示実験による酸化剤と の演示実験 という概念構築 還元剤のイメージの形成 ゼネコンで電子の授受を強制的 酸化剤と還元剤をつなげれば に起こすと・・・電気分解の復習 電子の流れが取り出せる 金属の組み合わせが電池でな 銅と亜鉛のイオン化傾向 い・・・本質的な電池の理解 の違いが電子の流れを生 み出すボルタ電池の復習 生徒実験「電池はシンプルにで きる!」より電池の確実な理解 自らのからだを電池にする! ズルツァーの実験 本時における“酸化還元”と“電子の授受”と“電池”と“電気分解” 3 実践の考察とまとめ この研修並びに授業の最も大きな狙いは「酸化と還元」における“電子の流れ”を生徒の頭に再構 築する支援を行うことであった。ここでは、構想実現のために注意を払った点の1つ1つに焦点を当 -6- て考察を試みたい。 ① 常に生徒の頭を活動させるための演示、 発問を行うことができたか? グループ別に行う生徒実験と異なり、演 示実験では常に発問や解説を加えながら実 験することができる。そのことにより、演 示実験に対する学習の準備が十分でない生 徒にも、学びを提供できる。学びのための ストーリーをもった演示実験は、生徒の頭 をフル回転させることができるものと考え ている。1つ1つの演示に、 “見えない”電 子の流れを、あたかも見えるように話をす ることで、授業で学んだ「酸化と還元」が立体的に想起され、再構築されていく手応えを感じながら 授業をすることができた。例えば電気分解における陽極、陰極での電子の授受を、 「いきいき化学アイ デア実験」等で著名な盛口襄氏は「プラスチューチュー、マイナスガバガバ」と表現されている。こ のように平易な言葉が生徒の理解を助けることは言うまでもない。特に酸化還元における電子の動き は実際に目に見えないだけに、まるで目で見えるが如く豊かに“電子の動きを語る”ことができるか どうかは、生徒の理解、更には面白さを味わわせることができるかどうかについて、重要なポイント になる。演示実験をしつつ、そこで起きている事象について、正確さを失わず、どれだけ平易な言葉 で表現できるかは、授業の成否を担うといっても過言ではない。教科書を読むが如くに声をかけても 生徒の理解は深まらず、理論の再構築は難しくなる。この点は筆者の最も得意のするべき点であり、 今回の授業についても、普段の授業と同様に表現豊かに声をかけながらの演示ができたものと考えて いる。ただ理想的には発問をきっかけとした、生徒とのダイアローグを準備したが、時間の制約もあ り、結果的に教師の発問に、教師自身が答えるモノローグとなる場面が多かったことは大きな反省が 必要と考える。 ② 驚きを伴う実験を挿入することができたか? 例えば、以下に示したような実験を行った。 y 銅の塩素ガス中での酸化実験の観察 試験管に少量のさらし粉をいれ、濃塩酸を滴下し塩素を発生させる。ゴム栓でふたをし、塩素の流出を抑える。別 の試験管に少量の銅箔をいれ、その中に駒込ピペットでとった塩素ガスを吹きかける。褐色の気体がわずかに発生 し、銅箔が消失する。あきらかに銅箔が“燃える”様子が観察される。試験管を用いることで重い塩素ガスの教室 環境への流出が最低限にできる。 y 過マンガン酸カリウムによるアルコールの酸化演示実験の観察 太い試験管に濃硫酸を 10mL いれ、その上にメチルアルコールを同量以上重層する。そこへ少量の(耳かきいっぱ いくらい)過マンガン酸カリウムを加えると、アルコールと硫酸の境界面でアルコールが激しく酸化される。 丸善 の「実験による化学への招待」にエチルアルコールを用いるものが掲載されている。メチルの方がエチルより反応 が激しい。激しい反応は危険と隣り合わせだが、十分注意すれば生徒は喜ぶ。ここでは境界面に生成する緑色の過 マンガン酸(Mn2O7)が強力な酸化剤としてアルコールを酸化するわけだが、理論よりも現象を楽しませたい。 -7- ここに示したような実験は、生徒が驚きをもって観察できる実験である。がしかし、同時に危険な実 験であり、生徒のグループ実験に供することは不可能である。このような演示実験で行うと、あっと いう間に消える銅箔やパチパチと光る試験管の中の雷に生徒は大きな興味を示した。理解が困難なパ フォーマンス実験やマジックショーのような演示は、高校の化学の授業には不適切だと考える。しか し、驚きの事象に対し興味を持って観察させることは理数の楽しさだけではなく、その思考の活発化 を強力に支援するものと考えている。 ③ 概念形成の再構築を多様な角度からアプローチできたか。 例えば、以下に示したような実験を行った。 y 金属ナトリウムによる水の還元演示実験の観察 フェノールフタレインを滴下した水1L の入ったビーカーに金属ナトリウムを投入、水が還元され、反応している 部分の水の色が変色し、水が還元されていることがわかる。試験管で同様の実験を行い発生した水素に点火、確か に水が還元され、水素が発生したことを確認しつつ、中学校での水の電気分解で水素が発生した電極について考え る。 y ゼネコン(手廻し発電機)で、フェノールフタレインを滴下した食塩水の電気分解 適当な濃度の食塩水にフェノールフタレインを滴下。ゼネコンで炭素電極を用いて電気分解を行う。フェノールフ タレインが赤くなった電極(陰極)での化学反応を生徒に確認する。また、それによって電子が流れた込んだこと が示され、ゼネコンの正負のどちらにつながっていたのか復習する。また、陽極での化学変化についても復習する。 ナトリウムからの電子が水に与えられることと、電気分解によって水に電子が与えられることが生 徒の頭の中では散乱された状態で置かれていることを多分に感じる。どちらも水が還元される共通反 応であることに注目させ、同様の反応が起きていることを示すことは、 “水の還元”という整理統合さ れた、価値のあることがらとして、生徒の頭に留め置かれることになる。この授業では、このように 多様な角度からの実験を行い、概念の再構築が支援できる場面が多々あったものと考えている。以上 より本研修における今回の授業はほぼ、意図していた通りにできたと考えている。 高校の化学では授業時数に余裕がなく、個別の現象を学び、大きな枠でその単元の現象をとらえ、 整理しなおす時間的な余裕がない。授業時間が十分に確保できさえすれば、生徒自ら手を動かす実験 と、それを補完する理論の育成のための授業を繰り返すことで、基礎化学の概念形成の目的は果たせ ることになるであろう。しかし、現実的に化学の各分野に及ぶ重厚な内容と実際の授業時数を考える と理想とするこのようなかたちでの理論の再構築は極めて困難と考えている。こうした中で、単元の 最後の 1 時間に、演示実験を多角度的に行う中で、理論の再構築を試みることは極めて大きなメリッ トがあるのではないかと思う。また今回の実践で、そのことを示せたものと考えている。 生徒の頭の中にあった“箇条書き的な既習知識”が“整理統合された理論”に再構築されていく過 程は、生徒にとって愉快なことであり、 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」こと に他ならないものと考えている。 〈参考文献・参考資料〉 y CD「明日の授業を愉快にしたい」 新潟県理化学協会化学研究委員会 -8-
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