ブッシュ政権の原子力政策

2005 年度久保文明ゼミ リサーチ・ペーパー
ブッシュ政権
ブッシュ政権の
政権の原子力政策
~なぜ今
なぜ今、新規原子力発電所の
新規原子力発電所の建設を
建設を推進するのか
推進するのか~
するのか~
法学部 30251 佐川 豪
(22,633 字)
目次
序論
第 1 章 アメリカの原子力産業
第 1 節 原子力産業とは
第 2 節 アメリカの原子力発電の発展
第 3 節 原子力産業の再編
第 2 章 ブッシュ政権の原子力政策
第 1 節 概要
第 2 節 エネルギー政策法の影響
第 3 節 問題の所在
第 3 章 原子力産業によるロビー活動
第 1 節 政府に対するロビー活動
第 2 節 議会に対するロビー活動
第 3 節 その他のロビー活動
第 4 節 原子力業界の意図
第 4 章 セキュリティー・イシュー
第 1 節 エネルギー・セキュリティー
第 2 節 地球温暖化問題
第 5 章 世論と原子力エネルギーの安全性
第 1 節 世論
第 2 節 運転上の安全性
第 3 節 テロ攻撃からの安全性
第 4 節 核廃棄物貯蔵・再処理問題
第 5 節 まとめ
結論
脚注
参考文献・資料
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序論
ブッシュ(George W. Bush)大統領は 2005 年 8 月 8 日、ニューメキシコ州アルバカーキにあるサンディア国立研究所(Sandia National
Laboratories)で国家エネルギー法案(National Energy Bill)に署名し、これによりブッシュ政権の4年来の懸案であったエネルギー
政策法(Energy Policy Act of 2005)が成立することとなった。同法は、エネルギー自給率の向上につながる企業や個人の取り組みを
優遇税制で後押しするもので、減税の総額は今後 10 年で約 145 億ドル(1 兆 6200 億円)にのぼると試算されている。法案は、油田・ガ
ス田開発のみならず、エタノール、水素燃料、風力、太陽光等の代替エネルギーおよび再生可能エネルギーの開発・促進を支援するもの
であるが、最大の特徴は、原子力発電を国内エネルギー供給力拡大の重要な柱の一つと位置づけている点である。
このエネルギー法案は、2001 年 5 月にブッシュ大統領が表明した国家エネルギー政策を法案化したものである。ブッシュの原子力見
直し政策に対し当初多くのメディアは、
「アメリカが原子力推進政策に転換した」1と報じ、驚きの眼差しをもって批判を浴びせた。また、
ブッシュ大統領やディック・チェイニー(Dick Cheney)副大統領といった政権の幹部がかつて石油関連会社を経営していたことから、
政権とエネルギー業界との癒着を指摘する一部メディア2や反原子力団体3もあった。
この論文は、原子力推進政策は政策の「転換」ではないのではないかという疑問と、
「原子力政策」と呼ぶものの中身を精査せずに原
子力推進か否かを論ずることはできないのではないかという問題意識に端を発する。ブッシュ大統領の原子力政策が注目を浴びている理
由は、約 30 年ぶりに原子力発電所が新規に発注されることが現実味をもってきたことにあるのであって、既存の原子力発電所の運転や
新規原子力発電所の建設を推進する政策の発表自体は、政策の転換を指し示すものでない。あくまでも、これまでの各政権を通じて研究
開発を続けられてきた原子力エネルギーが、実用化に向けて第一歩を踏み出したという点で新規性が認められるのである。
そこで、ブッシュ大統領がこれまでの原子力エネルギーをさらに推進するに至った背景を探ることを本論文の目的とする。背景を探る
ことで、原子力発電所の新規建設が、ブッシュ政権を取り巻く原子力産業、議会、世論、環境など様々な要因によって形成され、実を結
ぼうとしていることを述べる。そして、それと同時に、原子力政策をめぐる幅広い争点をなるべくわかりやすく体系立てて論じたい。
論文の流れは以下の通りである。
まず、第 1 章でアメリカ原子力産業界全体の方向性について明らかにしたい。原子力産業の構成について簡単に理解した上で、原子力
発電の発展に触れ、さらに業界全体での原子力関連企業の合併・統合の現状を概観する。次に第 2 章ではブッシュ政権の原子力政策につ
いて検討する。はじめにエネルギー法案の中で成立した原子力関連の政策の内容にふれ、そして、新規建設に向けての業界の動きを紹介
した上で、改めて問題を明確化したい。すなわち、なぜ今ブッシュ政権で原子力エネルギーが見直されているのかという関心のもと、ブ
ッシュ政権の原子力政策は政策の「転換」ではなく純粋に「推進」であり、特に新規の原子力発電所を建設することに力点が置かれてい
ることを確認する。そしてその原子力政策の背景に、直接的には原子力産業のロビー活動、間接的にはエネルギー・セキュリティーと地
球温暖化という二つのセキュリティー・イシューの存在、ならびに世論の軟化があったことを提示する。そこで章を改め、第 3 章では、
法案成立の背景に原子力産業のロビー活動があったことを説明する。具体的には、政府に対するロビー活動、議会に対するロビー活動、
そしてその他のロビー活動と分類し、ロビー活動の内容を分析した上で、簡単のその背後の意図について触れたい。続く第 4 章では、二
つのセキュリティー・イシューの存在が原子力産業を後押ししたことを述べる。第 5 章では世論の軟化をデータから紹介し、世論に大き
く影響を与える安全性という観点から、原子力政策の争点を浮き彫りにしたい。具体的には、原子力エネルギーの安全性を「原子炉の運
転上の安全性」
、
「テロ攻撃からの安全性」
、
「核廃棄物処理問題」の三つに分けて論じる。以上、ブッシュ政権の原子力エネルギー政策の
中身と法案成立の背景、意図、政策争点を踏まえて、最後、結論をもってこの論文を終えたい。
第 1 章 アメリカの原子力産業
第 1 節 原子力産業とは
原子力産業は、原子力機器、役務等を供給する原子力供給産業と電気事業者に分けられる。原子力供給産業には原子炉、機器等を供給
する原子力機器供給産業、ウラン濃縮、燃料加工、再処理等を行う核燃料サイクル産業、保守等を行う原子力ソフト・サービス産業等が
あり、多種多様な企業群により構成されている。原子力供給産業の需要は電気事業者の設備投資、研究開発投資に負うところが大きい。
3
従ってこの論文では、便宜的に原子力産業を原子力発電産業と同視しながら議論を進めていく。
第 2 節 アメリカの原子力発電の発展
アメリカでの原子力平和利用は、1953 年、当時のアイゼンハワー(Dwight D. Eisenhower)大統領による“アトムズ・フォア・ピ
ース(Atoms for Peace)
”宣言によって始まった。1954 年には原子力法が改正されて民間会社が原子炉を所有・運転できるようになり、
1957 年 12 月に初の商業用原子力発電所となるシッピングポート(Shippingport)発電所が運転を開始した。その後、1960 年代から 1970
年代初めにかけて、原子力発電ビジネスは原子力委員会(AEC)の支援の下、順調に発展を続ける。1973 年 10 月に起きた第一次石油危
機の影響もあってか、1973 年には 1 年間で 41 基の原子力発電所が発注され、年間の最高を記録した。
しかし、電力需要の低下、高い建設コストなどから、1960〜1970 年代、原子力発電所の建設計画は中途で頓挫することが多くなり、
新規プラントの発注は 1974 年以降、新規プラントの着工は 1976 年以降途絶えた。こうした背景には、連邦政府の原子力政策の変更に伴
い規制項目が増加したり手続きが複雑化したりしたため、運転開始までの期間が予想できず金利支払の負担が増し、建設コストがかさん
だことがあった4。原子炉の受注難を受け、原子炉メーカーは経営難に追い込まれ、原子力産業から撤退した会社も多かったと言う。そ
して 1979 年 3 月にペンシルベニア州のスリー・マイル・アイランド(Three Mile Island : TMI)原子力発電所 2 号機で事故が発生して
以降、原子力発電所の許認可に関する規制が過剰なまでに強化され、新規プラントの完成は、1996 年 5 月に営業を開始したテネシー峡
谷開発公社(Tennessee Valley Authority : TVA)のワッツ・バー(Watts Bar)原子力発電所が最後となっている。1980 年代、1990
年代には、多くの原子力発電所が安全上の問題や設備上の欠陥から閉鎖に追い込まれた。さらに、反対運動やコストの問題から当初の運
転認可期間の 40 年に達しないまま早期閉鎖する原発も出ており、96 年から 98 年までの期間に 6 基の原発が運転を停止している。
ところが、近年は逆に、エネルギー危機に伴う電力需要の増加とブッシュ政権の原子力見直し政策、原子力発電所の安全性・設備利用
率の向上によって、原子力発電所の運転認可を従前の 40 年から 20 年間延長して 60 年にしようという動きが活発であり、既に 2001 年 6
月までに、原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission : NRC)は 6 つの原子力発電所に運転認可更新(20 年延長)を認めてい
る。この他 2001 年 7 月までに 14 基が NRC に対して延長を申請しており、さらに 18 基が今後申請を予定している。
アメリカには 2004 年度で 103 基の稼働中の原子力発電所があり、平均設備利用率 90.5%にして、総発電量 7,886 億 kWh を誇り、国内
電力供給の約 20%(19.9%)を占めており5、石炭火力に次ぐ第 2 位の電源である。
第 3 節 原子力産業の再編
また、原子力発電開発の停滞と電力市場の自由化、電力事業の規制緩和を受けて、現在、アメリカでは電気事業の再編が活発であるが、
それはすなわち原子力発電産業と原子力機器産業の再編が進んでいることを意味する。
アメリカでは1992年、エネルギー政策法(Energy Policy Act of 1992)の成立を契機に電力市場の自由化が本格的にスタートした。
連邦エネルギー規制委員会(Federal Regulation and Oversight of Energy : FERC)は1996年にオーダー888(送電線開放命令)を発給
し、これにより電気事業の再編が加速されることになった。こうした規制緩和による電気事業再編の中で、原子力発電所の統合や売買が
活発化している。2003年2月段階で、規制緩和が導入されたイリノイ州、ニューヨーク州、バージニア州など18州には52ユニットの原子
力発電所が立地しており、原子力発電会社再編の中心となっているエクセロン社(Exelon)
、エンタジー社(Entergy)
、ドミニオン社
(Dominion)の各社は、それらの州に位置している6。
エクセロン、エンタジー、ドミニオンの3社とも、合併・買収を通じて成立、もしくは規模を拡大してきた会社である7。1992年から1998
年にかけて完了した合併・買収案件のうち、統合資産が100億ドルを超えるものはわずか4件しかなかったが、1999には完了・未完了を含
め10件が100億ドルを超えている。発電会社が規模の利益を追求し統合・合併を繰り返していることが近年の特徴であり、1920年代に見
られた、小規模の電気事業者が合併して大規模な持株会社を作る動きとは区別できる。
なお、付け加えて言うにとどめるが、1999 年 3 月に英国原子燃料会社(British Nuclear Fuels plc : BNFL)がウェスチングハウス
社(Westinghouse)の原子力事業部門を買収するなど、世界規模での原子力機器(原子炉)供給会社の再編も同時に起こっており、また、
原子力発電所の運転管理会社の設立も近年活発である。運転管理会社は、所有者が異なる原子力発電所の運転管理を共同で行い、運転の
ノウハウの共有化と効率化による運転人員の削減、運転コストの低減化を目指している。
4
第 2 章 ブッシュ政権の原子力政策
第 1 節 概要
アメリカでは 1990 年代後半から IT 化に伴い電力需要が急増したことや、天然ガス・石油価格が高騰したことを受けて、国の安全保障
上、エネルギーの安定供給が懸案となっていた。こうした状況の下、ブッシュ政権は発足当初にチェイニー副大統領を代表とするエネル
ギー作業部会(Energy Task Force)と呼ばれる特別対策チームを編成し、エネルギー政策の作成を始めた。そのようにして仕上がった
新エネルギー政策は、2001 年 5 月 17 日にブッシュ大統領によって発表された。
ブッシュ大統領は 2001 年 1 月就任直後の 5 月 17 日、ミネソタ州セントポールでの演説の中で包括的な国家エネルギー政策(National
Energy Policy)8を発表し、クリーンかつ供給面で制約がない原子力発電拡大の必要性を強調した。そこでは、
・既存の原子炉で一定の安全性をクリアしたものに対しては、運転許可を延長すること。
・原子力発電所の所有者による、来るべき廃炉に備えた積立金を非課税とする法の整備。
・プライス・アンダーソン法(Price-Anderson Nuclear Industries Indemnity Act :原子力損害賠償法)の延長に関する法の整備。
・廃棄物の量が少なく核不拡散性の高い再処理および燃料技術の研究。
といった、既存の原子力発電所を支える具体的な政策提言がなされた。
ここで興味深いのは、これらの政策が決して新規原子力発電所の建設を促すものではない点である9。しかし、新エネルギー政策発表
と同時並行で議会が作成していた国家エネルギー法案は、既存の原子力発電所の支援のみならず、新規建設を力強く後押しする内容であ
った。
このエネルギー法案は 2003 年と 2004 年に上院で否決され、2005 年 8 月にようやく成立することとなった10。法案の中では、具体的
に、
・ 2005 年 12 月までとなっていたプライス・アンダーソン法を、2025 年まで延長。
・ 新設原子力発電所 6 基について、原子力規制委員会(NRC)による許認可の遅れや訴訟による建設遅延・運転休止によって損害
が生じた場合、初めの 2 基までは政府が全額を負担(但し、上限は1 基について 5 億ドル)
、3〜6 基までは半額を負担(上限は 1
基について 2.5 億ドル)する。
・ 新設原子力発電所の発電量について、8 年間に限り、生産税を控除する(上限は一年間当たり最大 1.25 億ドル)
。
などの新規原子力発電所の建設を直接バックアップする金銭的な保障に加えて、その他、テロ対策の強化と、新型原子炉の研究開発のた
めの予算計上、高レベル放射性廃棄物の処理方法などについての諸案が掲げられており11、これによって最大の利益を受けるのは原子
力産業であると言われている12。事実、国家エネルギー法案が 2005 年 8 月にエネルギー政策法として成立したのを受けて、既に新規原
子炉建設に向けた現実的な動きが始まっている。
第 2 節 エネルギー政策法の影響
エネルギー政策法の中に掲げられた政策は、今後実現に向けて具体化が進んでいくことが予想される。が、それに先立ち、既に業界内
では新規原子力発電所の建設を進める動きが活発である。ここでは、ニュースタート・コンソーシアム(NuStart Consortium)を例とし
て紹介したい。
デューク・エナジー社(Duke Energy)やエンタジー・ニュークリア社(Entergy Nuclear)
、エクセロン・コーポレーション社(Exelon
Corporation)など 8 つの会社は、2004 年に有限責任会社、ニュースタート・エナジー・デベロップメント社(NuStart Energy Development)
を設立した。さらにこれにテネシー峡谷開発公社二社の原子炉製造会社を加えてできたのが、ニュースタート・コンソーシアム(以下、
ニュースタート)である。ニュースタートの設立目的は、NRC によって策定されながら未だに使われたことのない、新型原子力発電所の
建設・運転合同認可(Construction and Operating License : COL)を取得すること、ならびに、経済効率の高い原子炉の設計デザイン
を作り上げることである。COL 取得は、原子力発電復興に向けての重要な第一歩である。ニュースタートが実際に経済的効率性を満たす
5
形で、COL 取得までの費用と期間、原子炉のモデルを示すことが、後進の見本となるのである。原子力発電が活性化するか否かは、ニュ
ースタートの挑戦の結果如何にかかっていると言っても過言でないだろう。
ニュースタートは、2005 年 5 月に原子力発電所の新規建設候補地を 6 カ所あげていたが、9 月 22 日、最終的にアラバマ州にあるグラ
ンド・ガルフ(Grand Gulf)原子力発電所とベルフォンテ(Bellefonte)原子力発電所の二カ所に絞り込んだことを発表した13。6 カ所
いずれの候補地においても、現地の州や郡政府から新規建設についての支援策を提示された。たとえば、メリーランド州と同州のカルバ
ート郡は法案成立直後の 2005 年 8 月 15 日、州南部のカルバート・クリフス(Calvert Cliffs)原子力発電所に新規原子力発電所を誘致
する一環として、2 億ドルの財政的優遇措置をニュースタートに提案した。財政的優遇措置の中身は、1 億ドルを上限とする借り入れ保
証、1 億ドルに相当するメリーランド州およびカルバート郡からの補助金の支払いと税金の繰り延べだという。こうした動きの背景には、
新規建設が創出する経済的利益がある。原子力発電所の建設は、4 年間で約 2000 の建築工事を生み、発電所の運転と維持に際しては永
久的に 250 人から 400 人の専門職の雇用が必要となる。
順調にいけば、ニュースタートは 2007 年末か 2008 年には二基の原子炉について設計の詳細と環境評価をまとめ、それらを NRC が 2
年かけて点検した後、2010 年内に 30 年ぶりの許認可を COL という形で取得する予定である。取得された許認可はニュースタートのメン
バーである企業によって引き継がれ、建設を開始する。建設には 4 年を要することが想定されているので、早くても新規の原子力発電所
が運転を開始するのは 2014 年になる予定である。ニュースタートによって最終的に却下された残り 4 つの建設候補地についても、エン
タジー社が単独でルイジアナ州のリバー・ベンド(River Bend)原子力発電所での COL 取得を検討するなど、各社が原子力発電所新規建
設に向けて動き出している。
第 3 節 問題の所在
以上、政策の流れと現状を眺めてみると、現在の原子力政策が浴びている注目は、原子力発電所の新規建設が現実味を増してきたこと
に起因すると言えよう。そして、ブッシュ政権の原子力政策は、正確に言えば、脱原子力政策からの「転換」ではない。アメリカはこれ
まで本気で原子力を発電オプションから除外したことはない。また、既存の原子力発電所の運転継続を指して、
「原子力エネルギー推進」
を謳っているわけでもない。なぜならば、運転認可の延長はブッシュ・シニア政権の頃から既に徐々に始まっている。また、事故の際に
賠償額を制限するプライス・アンダーソン法14に至っては、もともと 10 年の時限立法として制定されたために、すでに改正と延長を繰
り返して現在に至っている。もちろん、新規建設が現実に成し遂げられるためには、原子力発電会社が建設・運転認可を取得し、原子炉
を設計し、投資家から資金を調達し、という一連の過程を進んでいかなければいけない。エネルギー法案に掲げられた金銭的援助などの
具体策は、新規建設を直接的に支援・助長するものの、あくまでもそうした一連の過程を円滑にするにとどまる。
それでは、そもそも原子力発電所の新規建設政策が提唱され、法案化された背景には、どのような要因があったのであろうか。その要
因こそ、間接的に新規建設の実現に現実味を与えたものであり、原子力政策の行方を下支えするものと言える。この章では、原子力発電
所の新規建設を促進する政策・法案の成立背景を探っていく。そこには大きく言って(1)原子力産業によるロビー活動、
(2)セキュ
リティー・イシューの存在、
(3)世論の軟化があったことを論じたい。
第 3 章 原子力産業によるロビー活動
第 1 節 政府に対するロビー活動
政府の中で、原子力産業と最も関連を取りざたされているのは、副大統領のディック・チェイニーである。2000 年の大統領選におい
てブッシュとチェイニーは、原子力関連利益団体から 26 万 7259 ドルの政治献金を受けており15、チェイニーが主導したエネルギー作
業部会は、政策の立案過程で 7 人の原子力産業界の重役を会議の席に加えていた16。そのため、ブッシュ大統領がエネルギー政策を発
表した直後から、その政策が誰の意向を汲み、どの程度エネルギー会社の幹部から意見を取り入れ、そしてそうした会社がエネルギー政
策への関与を通じて何を要求し何を受け取ったのかといった疑問が顕在化した。それらの疑問は、環境 NGO のナチュラル・リソース・デ
ィフェンス・カウンシル(Natural Resources Defense Council)と法律事務所ジュディシャル・ウォッチ(Judicial Watch)を原告とし
6
て、政府に関連文書の開示を求める二つの異なる訴訟へと発展し、2002 年の春にようやく、エネルギー作業部会に出席したエネルギー
業界の重役の名前が開示された17。重役たちの影響がどの程度のものだったかは不明であるが、ネヴァダ州選出のハリー・レイド(Harry
Reid)民主党上院議員は、ユッカマウンテンの核廃棄物貯蔵を推進した 14 人の提案者はチェイニーの作業部会のメンバーであり、ユッ
カマウンテンの処分場計画の裏には原子力産業からの積極的な働きかけがあったと主張する18。
このように見てくると、政府主導のエネルギー政策立案の背景にはエネルギー業界からの圧力があったと考えるのが妥当であろう。そ
してさらに、エネルギー業界は政府だけでなく議会にも周到なロビー活動を行っていた。当初作業部会では原子力エネルギーについて懐
疑的であったのに、チェイニーが上院議員 100 人と私的に会合を開いた際、4 分の 3 の議員が原子力エネルギーを支持したため、原子力
エネルギーの検討が始まったとも言われている19が、それはまさに原子力業界の重役が作業部会に出席した日と一致していたという20。
従って、原子力を推進するという政策決定は、政府の作業部会と上院双方の意図によって決定されたと見ることができる。
第 2 節 議会に対するロビー活動
ブッシュ政権がエネルギー政策の立案を始めるのと時を同じくして、議会もエネルギー法案の策定に向けた一歩を踏み出していた。
2001 年 3 月、下院エネルギー・大気質小委員会(House Commerce Subcommittee on Energy and Air Quality)において、エンタジー・
ニュークリア社の重役は安全保障、経済成長、環境保護の三つの点で原子力エネルギーの必要性を訴えた。テキサス選出の共和党議員、
ジョー・バートン(Joe Barton)下院議員は、このヒアリングの目的を、包括的エネルギー法案を作成する委員会に対して指示を与える
ためとして、バランスの取れたエネルギー・ポートフォリオを考えるには偏見を持たず原子力エネルギーに目を向けるべきだと語った。
この声に応え、下院エネルギー・通商委員会(House Energy and Commerce Committee)議長のビリー・トージン(Billy Tauzin)議員
も、原子力がエネルギー政策の柱となるという認識を示した。また、上院ではピート・ドメニチ(Pete Domenici)上院議員が、安全性・
コスト・環境面いずれの点からも代替可能なエネルギーオプションが出てこない限り、
アメリカは原子力エネルギーを維持すべきであり、
単純に原子力エネルギーに背を向けることは正気の沙汰ではないと述べた。そして、それ以降、ビリー・トージンとピート・ドメニチの
二人が中心となって、エネルギー法案の具体化を進めていく。
これらの背後には、原子力産業から議員への献金があった21。原子力産業の中で政府に対して最もロビー活動を展開しているのは、
原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute : NEI)である。NEI は、260 の会社からなる同業者団体であり、業界に対する主な
立法や規制政策を形作っていくことを設立目的としている。2001 年にブッシュ大統領が原子力政策を掲げた際、NEI は、
「環境に優しく、
化石燃料の代替エネルギーとなる原子力エネルギー」の宣伝活動を行った。ユッカマウンテンの計画を議会が承認した際には、ビリー・
トージン共和党下院議員やジョン・ディンゲル(John Dingell)共和党下院議員を含む数人の議員に特別に感謝の辞を送った。
トージン議員はエネルギー委員会の議長を務め、エネルギー法案の策定に直接に携わり、2001 年から 2002 年にかけて個人献金と政治
活動委員会(Political Action Committee : PAC)を合わせて約 6 万 2000 ドルの政治献金を受けている。下院エネルギー・通商委員会
の幹部民主党員であるディンゲル議員は 8 万 3000 ドル以上を受け、 下院エネルギー・電力小委員会(the House Subcommittee on Energy
and Power)の議長も務め 6 万 3000 ドル以上を受けたジョー・バートン議員は、ユッカマウンテンの処分場計画に関する下院決議の発起
人でもあった。一方、上院で最も多くの額を受けたのは共和党のロバート・C・スミス(Robert C. Smith)上院議員であり、その額は個
人献金と PAC で 2001〜2002 年において 9 万ドルを超える。スミス議員は NRC を監督する上院環境・公共事業委員会(Environmental and
Public Works Committee)に所属する共和党幹部である。総じて、2002 年度の選挙期間中に、原子力業界は選挙候補者と委員会に対し
て 870 万ドルを献金した。特に、業界は共和党を支持し、個人献金、PAC、ソフトマネーを合わせて全体の 70%を共和党に与えた。
業界側では、サザン・カンパニー社(Southern Company)の献金額が最大であり、2002 年において110 万ドル以上を献金し、その 72%
が共和党に対するものである。サザン・カンパニー社の発電所の多くは石炭によるものであるが、ジョージア州とアラバマ州において 3
基の原子力発電所を運転している。ドミニオン・リソース社(Dominion Resources)は同年、80 万ドル以上を献金し、かつコネティカ
ット州の原子力発電所購入に 1.3 億ドルを支払った。フロリダ・パワー・アンド・ライト・グループ(Florida Power & Light Group)
はドミニオン・リソース社と争った末、ニューハンプシャーの原子力発電所を購入し、その献金額は同年において 40 万ドルを超え、且
つ、その 90%が共和党に対するものである。
但し、原子力エネルギーについて単純に共和党が賛成派、民主党が反対派というように単純に色分けをすることはできない。議会にお
いて原子力エネルギーに反対する中には、核不拡散政策を重視する議員がいる。また、原子力エネルギー推進に賛成しないという立場で
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は、アメリカ国内の他の資源をもっと利用すべきだと言う立場もある22。つまり、選挙区に石油・石炭・天然ガスなどがある議員にと
って原子力エネルギーの推進は不要なのである。従って、原子力業界からの献金額が民主党よりも共和党に対して多いというのは、共和
党の政策の一定の傾向を表しているに過ぎず、言い換えれば、共和党と民主党の双方に献金をする原子力業界の献金方法の合理性を示し
ているとも言えよう。さらに、議員個人を対象に見た場合、原子力業界の献金に一定の傾向があることもわかる。
1997 年から 2003 年の間に約 350 万ドルを上院議員に献金をした原子力産業 PAC について調べてみると、そこからは 2 つの点が明らか
になる。まず、一つ目は、原子力業界は原子力エネルギーを推進するよう、議会の主要な議員に政治献金を送って働きかけたという点で
ある。上院における 1)プライス・アンダーソン法の延長の可否、2)ユッカマウンテン核廃棄物最終処分場建設計画の可否、そして 3)
エネルギー法案に新設原子力発電所に対する金銭的保障条項削除の可否(ワイデン・スヌヌ修正(Wyden-Sununu 修正)
)23の 3 点につ
いての投票行動と原子力業界からの個々の議員に対する献金額を調べると、原子力業界の政治献金が議員の投票行動に大きく影響を与え
ており、献金額が多い議員ほど原子力政策を推進していることがわかる24。
二つ目は、献金が、特に原子力産業に大きな影響を持つ 3 つの委員会に所属している議員に対して行われたという点である25。3 つの
委員会とは、サンディア国立研究所のあるニューメキシコ州選出のピート・ドメニチ議員が議長を務め、プライス・アンダーソン法の延
長やユッカマウンテン計画、ワイデン・スヌヌ修正を提出したエネルギー・天然資源委員会(Energy and Natural Resources Committee)
。
NRC を監督し、原子力発電所の解体案に関する提案や原子力の安全性基準などを担当する環境・公共事業委員会(Environment and Public
Works Committee)
。そして税の優遇措置を担当する歳入委員会(Finance Committee)である。
以上、原子力産業から議会への献金額の多さとともに、献金が議員個人の投票行動に結びついていること、そして原子力産業は特にエ
ネルギー法案に影響を持つ委員会に所属している有力な議員に、多額の献金を含むロビー活動を行っていることがわかっていただけたと
思う。
第 3 節 その他のロビー活動
原子力業界は、他にも州・連邦レベルの規制官や一般市民に対するロビー活動を行っている。特に、連邦レベルでは、NRC に対して新
規原子力発電所建設・運転の許認可プロセスを容易にしたり、現地住民の関与を制限したりするよう働きかけており、それらは成果をあ
げている。ここには、許認可プロセスを過度に厳しいものと捉えるか否かという見解の相違があり、環境保護団体は改正後のプロセスに
は市民の関与が保障されていないと憤る26。また、原子力業界は PR 活動にも力を入れており、原子力発電のクリーンなイメージを伝え
る広告を作って宣伝をしている27。そういった宣伝活動の効果があってか、近年原子力エネルギーに対する世論は全体的に非常に好意
的になっている。世論についてはまた章を改めて論じることにしたい。
第 4 節 原子力業界の意図
こうした原子力業界のロビー活動の意図は、詮ずるところ、原子力発電所の新規建設にある。その背景には、既存の原子力発電所の多
くが、運転認可年数の 40 年を迎え始めていることがある。多くの発電所は老朽化しても安全基準を満たしているとして 20 年の認可の延
長を認められているが、それ以降は耐用年数を超えることが予想されているため、徐々に新規プラントと入れ替えていくことが直に必要
となっていくだろう。またアメリカでは 1973 年で新規発注が絶え、約 20 年間原子力発電所の建設がなされていないため、原子力科学技
術の継承に警鐘が鳴らされている28。
しかし、原子力発電所の建設には多額の資金を提供する投資家たちの支援がなくてはならないにもかかわらず、原子力発電はなかなか
投資の対象とならない。その理由としてはまず、原子力発電が計画から立地サイトの選定、環境調査を経て、建設着工、完成まで最低
20 年を要する点があげられる。NRC の元メンバーで、現在はイェール大でエネルギー政策の教鞭をとっているピーター・ブラッドフォー
ド(Peter Bradford)氏は、原子力エネルギーのような長期の投資が必要なものは、上り下がりの激しい市場に不向きだと指摘する29。
また、過去 1980 年代〜1990 年代に、建設の遅れからコストが膨らみ、投資資金の回収が焦げ付いたことがあったため、投資家を安心さ
せるためにはまず、新規原子炉が予想された費用と期間で完成する確証が得られなければならない30。従って、まずは優遇税制を活用
し、2、3 の原子炉を建設することが課題となる。幸い、上にも述べた通り、現在原子力業界では再編による発電会社の大規模化が進ん
でいる。以前は調達できなかった建設費用を、ウォール・ストリートからの投資がさほど得られずとも、自社の力と優遇税制で賄うこと
8
ができる下地が作られている。しかもここ 4、5 年、エネルギー・セキュリティー意識を高める事象が相次いだことも、原子力業界を勢
いづける結果となった。さらに、最近の天然ガス・石油の激しい価格変動から、原子力発電の発電コストが相対的に低下しており、原子
力発電の経済性が見直され始めていることも追い風となっている31。そうした外部要因は、大きく言ってセキュリティー・イシューと
表現できよう。
第 4 章 セキュリティー・イシュー
ここでは、第 3 章とは異なる視点から、原子力業界を後押しする要因を検討していく。すなわち、セキュリティー・イシューとして、
原子力発電そのものの安全性ではなく、エネルギー・セキュリティーと地球温暖化の 2 点をあげたい。
第 1 節 エネルギー・セキュリティー
ブッシュ政権は当初エネルギー政策の理由付けとして、度々エネルギー・セキュリティーを強調した。つまり、現在のアメリカはエネ
ルギー危機に直面しており、中東など政治的不安定な諸国に石油などのエネルギー供給を依存するのではなく、アメリカ国内のエネルギ
ー供給力を増強してエネルギー自立を促そうという考え方である。折しも、2001 年 1 月にカリフォルニア州で大規模な停電が、9 月には
同時多発テロが、そして 2003 年 8 月にはニューヨークで大規模な停電が起こり、電力危機とエネルギーの中東依存に対する恐怖感は一
般市民にも浸透した。原子力発電所を新設しなければアメリカは将来エネルギー不足に陥り、停電が 1990 年代から起こり始めるという
言説は、1980 年代からしきりに原子力業界やエネルギー省幹部から主張されていた32。そして 2001 年のカリフォルニア停電はそうした
予想が現実化したものとして、エネルギー供給拡大の必要性を訴える証拠として取り上げられた。
しかし、こうした主張には批判が多い。つまり、ブッシュ政権やエネルギー業界はありもしないエネルギー危機を作り上げ、国民の不
安を煽り立てているという反論である。ブッシュ大統領が語るエネルギー危機、特に中東に依存している石油の危機といってもそれはあ
くまで潜在的なものにすぎない。1970 年代の二度の石油危機と比較すると、1970 年代のものは現実に石油不足が問題となったが、現在
のエネルギー不足は実態を伴っていない33。ハリケーンの襲来でガソリンの供給が滞ったことなどはあったが、それらはエネルギー供
給拡大によって解決する課題ではないと言える。カリフォルニアの電力不足は電力自由化の失敗であり、ガソリン価格の高騰とともに、
原因は市場メカニズムが正常に機能していないことに起因する34。従って、問題に対する解決策は供給量の拡大ではないことは明らか
である。
第 2 節 地球温暖化問題
ブッシュ政権並びに原子力業界は、原子力エネルギーの最大のメリットを地球に優しいこと、つまり二酸化炭素等の地球温暖化ガスを
排出せず空気を汚さないことであると主張する35。ブッシュ大統領は就任直後に京都議定書の調印を覆したが、地球温暖化に対する問
題意識の高い欧州への気配りからか、二酸化炭素など地球温暖化ガスの排出を抑えることが必要という姿勢を示そうとしている。その二
酸化炭素排出削減の手段として考えられているのが、原子力発電の増強に他ならない。しかし、確かに、原子力発電は一切二酸化炭素を
排出しないクリーンな発電方法として注目を浴びているが、原子力エネルギーの推進が地球温暖化対策として有効という主張については
疑問が投げかけられている。
まず、ブッシュ政権のエネルギー政策は全体で見たとき、省エネとは程遠い、エネルギー生産拡大路線を奨励している。エネルギー法
案からは最終的に落ちてしまったが、アラスカの油田開発を始め、国内の石油・天然ガス・石炭の生産増加を図り、海外へのエネルギー
依存を減少しようというのが専らの政策の中身である。従って、たとえ原子力発電による発電量を増やし、その部分に関しては二酸化炭
素の排出が抑制できたとしても、その他の発電に際して抑制した分以上の二酸化炭素を排出してしまえば、それは全体で見て地球温暖化
を進めることになる。また、地球温暖化ガスの最大の排出源は自動車であるから、発電量の内訳を変えたからといって、温暖化を防止す
る抜本的な解決策とはならないという意見もある36。
しかし、そうした反対意見があるながらも、2003 年 7 月末にマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の研究者の連名によ
9
って発表された報告書「原子力の将来」
(通称 MIT レポート)は、地球温暖化対策の手段としての優位性や、発電コスト面での競争力な
ど、原子力発電の長所を強調し、新規の原子力発電所建設を動機づけようとしている。レポートの共同議長の一人である、アーネスト・
モニズ(Ernest Moniz)MIT 教授は、過去に大統領府の科学技術政策担当次長、クリントン政権時にはエネルギー省エネルギー・科学・
環境担当次官を務めた人物である。MIT レポートに対する学術的評価は決して高くなく、現にフランス原子力庁から核廃棄物再処理サイ
クルの評価手法について批判を浴びた37。しかし、アメリカ国内では、このレポートは学術的側面から原子力エネルギー推進派の後押
しするものとして大きな役割を果たした。
こうして、二つのセキュリティー・イシューの高まりは、その議論の信頼性が疑問視されているにも関わらず、原子力業界・政権の思
惑を世論に伝えるにあたって非常に効果的であったことが推測される。2005 年 8 月に、ビスコンティ・リサーチ社(Bisconti Research)
とクエスト・グローバル・リサーチ・グループ(Quest Global Research Group)によって発電所近隣住民からランダムに選んだ 1152
人に対する電話聞き取り調査38が行われたが、その結果、原子力エネルギーをきれいな空気やエネルギー・セキュリティーと結び付け
て考える人が、どちらも 85%を占めることがわかった。世論が何によって形成されるかを精密に分析するのは困難である。しかし、結果
的に世論が原子力エネルギーに軟化している現状から推測するに、ブッシュ政権と原子力業界のアドボカシー活動は一定の成果を挙げて
おり、その分反原子力団体の言説が弱まっていることはどうやら確かである。次の章では、原子力発電所の安全性という、より世論の形
成に影響を与える問題を論じながら、原子力政策の争点と対立軸を俯瞰する。
第 5 章 世論と原子力エネルギーの安全性
第 1 節 世論
NEI のデータによると、1979 年のスリー・マイル・アイランド事故の直後は世論の反原子力が激高していた39が、近年はそれも収ま
ってきて、むしろ原子力発電に対して好意的な傾向を示している。
2005 年 10 月 12 日の全米の 1100 人を対象にした最新世論調査によると、原子力発電所の近くに住む人の 83%が原子力エネルギーに好
意的であり、76%が新規原子炉の建設を肯定している。現在運転中の原子力発電所から 10 マイル以内に住む人々を対象にした調査で、
85%の人が最も近くに立地する原子力発電所について、その安全性は“高い”と答えており、88%の人は電力会社が安全に原子力発電所
を運転していることを確信している40。
また、既述の 2005 年 8 月に行われた、ビスコンティ・リサーチ社とクエスト・グローバル・リサーチ・グループの調査から、ビスコ
ンティ・リサーチ社社長、アン・ビスコンティ(Ann Bisconti)氏は、
「近隣住民の多くは地域の原子力発電所を支持しており、近隣住民
は、原子力エネルギーに積極的な視点を持ち、発電所に親近感を抱き、そして発電所が地域社会を益すると信じている」という。また、
電力供給の面で必要ならば、既存のサイトに新規の原子炉を建設することは“許容できる”と答えた住民は全体の 76%におよび、
“許容
できない”は 22%、
“わからない”は 2%であった。こうした数字は、2001 年 10 月に NEI が行った世論調査41の結果を上回る数字であ
る。
以上、二つの世論調査を信頼すると、以下のことが導きだせる。まず、原子力エネルギー自体への見方は、かなり好意的なものであり、
既存サイトの近隣住民は原子力発電所の安全性を信頼している。また、そうした住民はサイトに新規原子炉を建設することにも積極的で
ある。既存サイトに新規建設することの賛否については、2001 年にカリフォルニア州で行われた二つの異なる世論調査から分析すると
“Not In My Back Yard”(私の裏庭ではダメ)の傾向を見ることができた42ので、個別の州ごとに事態は異なるであろうが、少なくと
も、全国規模で見たときに既存サイトへの新規建設は近隣住民から受け入れられているということが言えるだろう。この結果は既存のサ
イト以外での新規建設について、世論の反応を示しておらず、その点が残念である。しかし裏を返せば、これによって、現在の原子力政
策が、新規サイトではなく既存サイトに新規原子力発電所を建設することを目的としていることがわかる。
世論の形成は、常に正しい科学的な情報に基づいているわけではなく、偏った情報を伝えるマスメディアに翻弄される。そして、政党
は、政策決定に際し反原子力エネルギーを表明すれば選挙に有利という予想が働くことから、原子力発電問題を党利党略に用いることが
多い43。従って、原子力推進に向けて安定した世論の基盤を作ることは困難であると考えられてきた。その点からみると、ここ 4、5 年
は、ブッシュ政権の原子力推進政策に反対するマスメディアや原子力反対グループの動きがあるにも関わらず、世論が安定して親原子力
10
エネルギーへ向かっており興味深い。そこには、上の世論調査でも示されているように、原子力発電の安全性が高まったという世論の認
識が背景にある。しかし、原子力政策の中でも、ネヴァダ州のユッカマウンテンに核廃棄物の最終処理施設を建設する計画は、州・郡政
府や地域住民の強い抵抗を招いており、そこには核廃棄物の安全性といった問題が横たわっている。従って、世論を左右する最も大きな
要因の一つは、間違いなく原子力エネルギーの安全性であると言って過言ではない。
一般的に原子力エネルギーの安全性と言った場合、それはいくつかの異なる事柄を含む。上で簡単に触れたが、ここでは再度簡単に問
題を整理することから始めたい。
まず、原子力発電所の運転についての安全性がある。すなわち、事故によって原子炉が溶解・爆発し、近隣に放射線被害をもたらす危
険性の裏返しとしての安全性である。次に、同様の危険が事故ではなく、テロ攻撃などの外部要因によってもたらされる危険に対する安
全性もあげられる。以上の 2 点は原子力発電、ないし、原子炉そのものの安全性と言えよう。さらに、原子力エネルギーの安全性には、
核廃棄物の処理といった問題が含まれている。具体的には、廃棄物の貯蔵・再利用に際しての安全性である。貯蔵・運搬についてはユッ
カマウンテンに核廃棄物の最終処理施設を建設する計画をめぐって、長年議論が紛糾しており、議論が終結する目処が全く立たない状況
である。また再利用については、問題は国際化の様相を呈する。なぜならば、再利用の危険性とは再処理によって精製されるプルトニウ
ムが核兵器に転用される危険性を指しており、再処理技術の他国への移転が国防問題へと発展することを示唆する。これら、核廃棄物処
理問題が、原子力発電所の新規建設にとって障害となっている。
第 2 節 運転上の安全性
現在アメリカにおいて、原子力発電所の平均設備利用率は 90%を超えており、定格出力の増加と相まって発電量の増加と発電効率の
向上に寄与している。反原子力団体はまずこの点を捉えて、安全性の低下を警告し、規制の緩和を進める NRC を非難する。すなわち、こ
うした設備利用率上昇の背景には保守検査期間の短縮と燃料交換サイクルの延長があり、定格出力の増加とともに安全性の切り捨てであ
ると主張する44。また、同時に NRC は既存の原子力発電所の運転認可を 20 年延長し始めており、そうした規制緩和を非難する声も消費
者団体やシンクタンクからあがっている45。
加えて、1979 年のスリー・マイル・アイランド事故以来、アメリカでは原子力発電所の事故は発生していないが、大惨事に至る前に
防がれた出来事はあったという。
例えば、
2002年3月、
オハイオ州、
トレドから40マイルの所にあるファースト・エナジー社
(First Energy)
のデイビス・ベッセ(Davis Besse)原子力発電所では、冷却水中に含まれる酸が、6 インチの厚さの鉄でできた原子炉のふたを浸食し、
穴を作っていた。穴は深く、あと 4 分の 1 インチを浸食していたら、放射能汚染された熱水が原子炉内に漏れだすところであった46。
また、同発電所ではコンピューターウィルスが機器系統に侵入したことも報告されている47。
こうした規制の緩和と現実の事象を受け、個々の原子炉において確かに安全性がきちんと守られているか再検査する必要がある。しか
し、既に 25 年以上原子力発電所を安全に運転してきたことも事実であり、その意味で NRC の設定する安全評価基準が機能していること
も否めない。
第 3 節 テロ攻撃からの安全性
原子力監視グループによると、原子力発電所はもっぱら事故に対する安全性の確保を念頭においているが、故意の破壊活動に対する防
御は弱い48。しかし、原子力会社幹部は、9.11 テロで用いられたようなボーイング 757、767 の直撃は想定外であるとしても、地上から
の攻撃には十分な備えがあると反駁する。シカゴに本社を置く原子力設計会社、FAI社(Fauske & Associates Inc.)のロバート・ヘ
ンリー(Robert Henry)副社長は、地震や竜巻など外部からの攻撃に対する原子力発電所の安全性を確信する49。ただ、発電所には敷
地内に核廃棄物の貯蔵庫があり、その建物は上部からの力にはあまり丈夫でない。かつ、いくつかの発電所においては、貯蔵庫が公道の
近くに立地しており危険であることが指摘されている。
現実に攻撃されたとき、放射能漏れによって癌などの病気による死者が何万人も出るという原子力監視グループの主張についても、原
子力業界や科学者からは、130 人の死者と 1,800 件の甲状腺癌患者が生まれたチェルノブイリより被害が大きくなることはないという主
張がなされている。
9.11 テロ以後、NRC は原子力発電所の警戒態勢の甘さを非難されてきた。会計検査院は NRC のチェック体制を原子炉の運営会社寄りと
11
非難し、そうした論調は議会にまで波及した50。ニューヨークから 24 マイルしか離れていないインディアン・ポイント(Indian Point)
発電所について、ニューヨーク州の危機意識は極めて高かった。NRC は同発電所にて模擬テロリスト攻撃を行い安全性を認定したが、政
府監視グループや州の高官は安全性の認定として不十分と評価している51。インディアン・ポイント発電所を経営するエンタジー社は、
2003 年4月に前ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ(Rudolph Giuliani)氏を安全対策担当の役職に招いたが、これは州政府
との関係を改善し、安全面での取り組みをアピールするためであろう。
2005 年のエネルギー法案にはテロ対策の条項が入っており、発電所で働くものに火器の携帯を認めるなどの対策を施している。しか
し、基本的に、テロ攻撃は事故の発生よりも予測することが困難であるため、それに対する安全性の確保もより困難である。施設の警備
が十分か否かはテロリストの規模と武器の破壊力の程度に依存しており、NRC の安全基準を一概に正当化することも否定することもでき
ないだろう。原子力会社と監視グループの議論は平行線を辿りやすいのはそのためである。テロ行為からの防御責任を民間の発電会社な
り警備会社に求めることがそもそも酷であり、テロ行為が発電所に及ぶ前に未然に阻止することが国に課された使命である。
第 4 節 核廃棄物貯蔵・再処理問題
核廃棄物処理の問題は、核拡散問題と結びついている。アメリカでは 1976 年にカーター政権が原子燃料の再処理政策を、プルトニウ
ムが抽出されて核拡散につながるという理由で事実上放棄して以来52、ワンス・スルーと呼ばれる使い捨て方式を採用し、使用済燃料
を再処理せずそのまま貯蔵してきた。そうした核廃棄物は、最終処理施設の完成まで、一時的に各発電所に備えられた処分場に貯蔵され
ているが、過去 40 年間で既に 4 万トンもの核廃棄物が出ており、一時的な処分場では間に合わなくなってきている。
2002 年 2 月 14 日、ブッシュ政権はネヴァダ州のユッカマウンテンに核廃棄物最終処理施設を建設することを提案した。そこでエネル
ギー省(DOE)は下院(2002 年 5 月)及び上院(2002 年 7 月)にユッカマウンテン処分場計画の実施の賛成決議を得て、NRC による処分
場認可を申請した。ところが、ネット上での文書公開に不手際があったり、提出した文書が捏造されていたという疑惑が出てきたりした
ため、DOE は当初の計画から 1 年以上遅れた現在も許認可が取得できておらず、処分場の操業開始は早くて 2012 年から 2017 年の間にな
るだろうと言われている。
ネヴァダ州や発電会社と DOE 間のトラブルは訴訟にまで発展しているので、最近では DOE 内部でも、ユッカマウンテンに処分場を建設
する計画に悲観的な見方が出てきている。そして、とうとう 2005 年 11 月 14 日には、使用済燃料再処理に関する統合施設の建設計画を
含んだ予算案が議会を通過し、26 日、ブッシュ大統領の承認を得て成立した。この統合施設では、使用済燃料を再処理し抽出されたプ
ルトニウムを MOX 燃料に加工することで、使用済燃料リサイクルを図り、かつ、再処理に伴い生じる高レベル廃棄物に関して、ガラス固
化を行い、最終処分前の貯蔵まで行う。計画では、2007 年までに建設場所を選定し、2010 年までに建設することが予定されている。も
しもこれが実現すれば、カーター政権以来の政策転換が現実化することになる。
今後原子力エネルギーを推進していくためには、現在のまま発電所各所の敷地内処分場に核廃棄物を貯蔵するには限界があるため、早
急に再処理政策をとるのか、それともユッカマウンテンに最終処分施設を建設するのか、明確な指針を示さなければならない。ユッカマ
ウンテン計画が頓挫すると、他のサイトを検討しながらワンス・スルー方式を続けるというのは、それに伴う州・郡政府、住民の長期に
わたる抵抗が予想されるため、現実的でない。使用済燃料を再処理してウランとプルトニウムを回収し、MOX 燃料に加工して再度軽水炉
にて利用するプルサーマルは、現在フランスやドイツなど、ヨーロッパを中心に活用されている。カーター政権の再処理凍結にしても核
不拡散に対する強固な姿勢を顕示するにとどまり、実効性はない。従って、国際原子力機関(IAEA)の主導でプルトニウム利用の透明性
を担保しながら、使用済燃料の再利用を進めるのが現実的だと言える。現在アメリカでは先進的燃料サイクルイニシアティブ(Advanced
Fuel Cycle Initiative)が進められており、プルトニウムの再処理について、乾式再処理と核変換処理という二つの方向から、放射性
廃棄物が核兵器の材料へと転用される危険を回避しようとしている。こうした動きはアメリカのプルトニウム利用政策、つまり使用済燃
料再処理政策を前提としたものに他ならない。
第 5 節 まとめ
ユッカマウンテン計画の反対運動は、ネヴァダ州の地元の行政府や住民によって支えられている。核廃棄物処理問題に先行きが見えな
いことは、遠い将来的には原子力エネルギー全体の足かせとなるが、近い将来においてはほとんどの州で新規建設を阻害する事由とはな
12
らない。なぜならば、ネヴァダ州の反対運動は、新規建設に反対する国民的な世論を形成することはないと考えられるからである。
核拡散問題にしても、ヨーロッパや日本ではプルトニウムの利用を行っており、アメリカが再処理しないことによる核拡散の抑止効果
とプルトニウム利用で生まれる利益を比べれば、後者が前者に勝るのは明らかである。また、核拡散の危険性は外交の事柄であり、ここ
でも、それをもとに原子力発電所の新規建設に反対する国民的な世論を形成することは想定しづらい。
しかし、新規原子力発電所建設に反対する国民的な世論を形成しないとしても、安全性の担保や、廃棄物の貯蔵・再処理方法の決定は、
今後原子力エネルギーを推進していくに際して、避けて通ることのできない課題である。世界の原子力政策に影響を与える課題であるゆ
え、新規建設の行方と並んで注視していかなければならない。
結論
ブッシュ政権の原子力政策をもって、アメリカが脱原子力から原子力推進に方向転換したとする見方は正しくない。原子力発電所の新
規建設を促進する現在のブッシュ政権の政策は、基本的に、既存の原子力発電所の運転認可を延長し、かつ新規建設・運転の許認可を改
善し原子力発電への投資を活性化しようとしたブッシュ・シニア政権の政策の流れを汲んでいる。また、省エネと再生可能エネルギーを
重視したクリントン政権にあっても、原子力エネルギーの必要性は研究開発の促進という形で認識されていた53。ブッシュ政権の原子
力政策の最大の特徴は、何度も言っているように、新規原子力発電所建設の実現性を飛躍的に高めた点にある。
原子力発電所の新規建設は、安全性・技術力の向上だけでは現実化しない。現実化させるためには、投資家からの支援が必要不可欠で
あるが、自由市場において原子力発電産業は投資の対象となりづらいため、原子力産業のような公共性・必要性の高い産業に関しては、
必然的に国家の保護・規制による育成が必要不可欠となる。許認可規制や優遇税制などの具体的な政策決定を介して、政府は原子力産業
を適切にコントロールすることを要求される。ホワイトハウス、省庁、そして議会における政策決定の過程には、原子力産業界や環境保
護団体などがロビー活動により介入し、しかも政策策定後においても国内外の世論や外交問題、自然現象など突発的な事象が政策の実行
に影響を与える。
現在、新規建設が現実化した背景には、直接的かつ積極的にはブッシュ政権の政策的支援がある。また、新規建設に反対しない方向性
を示しているという意味で、消極的要因として世論の軟化をあげることができる。そしてそれらの背景には、まず第一に積年のロビー活
動によって本意を遂げようとしている原子力産業界の存在が大きい。かつ、反原子力団体や環境団体の力が昔よりも衰えていることが第
二にあり、そうした要因のさらに背後には、9.11 テロや停電といった人災と、地球温暖化や自然環境の変化といった天災がもたらした
安全保障問題の高まりがあった。それに乗じて、ブッシュ政権の原子力推進広報活動は一定の成功をおさめ、世論は原子力エネルギーを
見直すようになったと言える。原子力発電所の安全性をめぐる根本的な問題、特に、核廃棄物の処理問題は現在暗礁に乗り上げており、
それを解消しないことには原子力政策の将来的な展望が開けないことは確かである。しかし、原子力発電所は、1979 年以降運転上の安
全性を担保している実績から、新規原子力発電所の建設自体を妨げるだけの世論の動きは存在しない。
本論文では、ブッシュ政権の原子力政策が包括的エネルギー法案の骨子として結実した背景に、原子力産業のロビー活動、エネルギー
危機と地球温暖化問題という二つの大きなセキュリティー・イシューの存在、そして世論の軟化が存在したことを分析しながら、原子力
政策をめぐる争点と対立軸を解説した。原子力発電所の新規建設に向けて土台が築き上げられた今、原子力発電各社の挑戦が果たして成
功するのか、今後に注目したい。
13
脚注
1
「米、原発推進に転換 石油・ガスも増産−−民主など反発「環境破壊招く」−−エネルギー政策概要」『朝日新聞』2001年5月17日付夕
刊;「米、原発推進へ転換 天然ガス−アラスカ採掘解禁−−国家エネルギー政策」『日本経済新聞』2001年5月17日付夕刊など。
2
Erin Neff, “Anti-Enron mood may boost Yucca fight,” Las Vegas Sun (February 26, 2002).
3
美浜の会の以下のサイトを参照。 http://www.jca.apc.org/mihama/News/news62/news62bush.htm.
4原子力百科事典 ATOMICA の以下のサイトから「原子力発電所の新規発注の低迷とその後の活性化の兆し」を参照。
http://sta-atm.jst.go.jp:8080/chart.html.
5
Nuclear Energy Institute の以下のサイトを参照。 http://www.nei.org/doc.asp?catnum=3&catid=13.
6
原子力百科事典 ATOMICA の以下のサイトから「アメリカの電気事業および原子力産業」を参照。
http://sta-atm.jst.go.jp:8080/chart.html.
7
Ibid. 2001 年までの原子力発電産業ならびに原子力機器供給産業の再編について、詳細は同サイトに譲る。
8
The White House の以下のサイトを参照。 http://www.whitehouse.gov/energy/.
9
日本エネルギー経済研究所(IEEJ)のサイト(http://eneken.ieej.or.jp/data/old/pdf/bush0107.pdf#search='IEEJ%20 ブッシュ%20
原子力政策')から、河合祐一氏による「ブッシュ政権の原子力政策〜米国の国家エネルギー政策」を参照。
10
2003 年、2004 年に提出されたエネルギー法案は、いずれも下院を通過したものの上院で否決され、成立には至らなかった。その原
因として多くの記事で取り上げられているものは、アラスカ野生保護地区での石油採掘問題と、MTBE 製造を製造物責任法の対象から除
外する問題の二つであり、原子力エネルギーの各論が議会の可決を阻んだということは指摘されていない。
11
Nuclear Energy Institute の以下のサイトを参照。 http://www.nei.org/documents/Energy_Bill_2005.pdf.
12
Justin Blum, “Congress Could Send Bush Energy Bill Today—Measure Easily Clears the House,” Washington Post, (July 29,
2005).
13
NuStart Energy の以下のサイトを参照。 http://www.nustartenergy.com/DisplayArticle.aspx?ID=20050922-1.
14
WIKIPEDIA の以下のサイトを参照。 http://en.wikipedia.org/wiki/Price-Anderson_Nuclear_Industries_Indemnity_Act.
15
opensecrets.org の以下のサイトを参照。 http://www.opensecrets.org/news/nuclear/index.asp. テキサスにある原子力会社 TXU の
社長、アール・ナイ(Erle Nye)はブッシュの選挙戦に 2 万ドルを寄付し、さらに資金集めに奔走した一人である。そして、その結果、
NEI の委員 23 人中 17 人が、総額にして 3 万 7000 ドルを寄付した。
16
同じ席には、ブッシュ政権の最高政治顧問のカール・ローヴ(Karl Rove)
、最高経済顧問ローレンス・B.リンゼイ、そしてエネル
ギー作業部会の理事アンドリュー・ルンドキストなどが同席していたと言う。Katharine Q. Seelye, “Nuclear Power Gains in Status
After Lobbying,” The New York Times, (May 23, 2001).
17
opensecrets.org の以下のサイトを参照。 http://www.opensecrets.org/news/energy_task_force/index.asp.
18
Neff, op. cit.
19
Nuclear Energy Institute の以下のサイトを参照。 http://www.nei.org/documents/insight2001_04.pdf.
20
Seelye, op. cit.
21
opensecrets.org の以下のサイトを参照。 http://www.opensecrets.org/news/nuclear/index.asp.
22
エネルギー政策研究所所長神田啓治氏の発言による。経済産業研究所(RIETI)のサイト
(http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/03120901.html)から「米国のエネルギー政策と日本へのインプリケーション」を参照。
23
一般にワイデン・スヌヌ修正とも呼ばれ、オレゴン選出のロン・ワイデン(Ron Wyden)共和党議員とニューハンプシャー選出のジ
ョン・スヌヌ(John Sununu)共和党議員を中心として提出された。発起人にはワイデン議員とスヌヌ議員以外に、ネヴァダ州選出のハ
リー・レイド民主党議員とジョン・エンサイン(John Ensign)民主党議員などが含まれている。ネヴァダ州では州政府・住民によるユ
ッカマウンテン計画反対の動きが活発であるため、選出された 2 名の上院議員はユッカマウンテン計画を含めた原子力エネルギー政策全
般に否定的である。
24
Taxpayers for Common Sense の以下のサイトを参照。 http://www.taxpayer.net/energy/nuclear/nuclearinfluence.htm.
25
Ibid..
26
原子力業界意向に沿った連邦の規制官を、パブリック・インタレスト・リサーチ・グループ(Public Interest Research Group)の
アンナ・オリリオ(Anna Aurilio)氏が批判している。Margaret Kriz, “Nuclear Power Gets To Go To The Ball,” National Journal (May
19, 2001), p.1502.
27
広告には、スクーターに乗った笑顔の少女が携帯電話で話しており、”Clean air is so 21st century.”というキャッチコピーが付いて
いる。 Ibid..
14
28
エネルギー政策研究所所長神田啓治氏による指摘。経済産業研究所(RIETI)のサイト
(http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/03120901.html)から「米国のエネルギー政策と日本へのインプリケーション」を参照。
29
Seelye, op. cit.
30
リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)のジェイムズ・アセルスチン(James Asselstine)氏が上院の公聴会で行った証言に
よる。Margaret Kriz, ”King Coal’s Resurgence,” National Journal (June 26, 2004), p.2021.
31
原子力発電の原価は1キロワット 2.2 円、石炭火力 2.5 円、天然ガス火力 4.2 円であり、一旦発電所が建設されてしまえば、原子力
発電が最も安い発電方法となると言われている。
32リチャード・ルドルフ、スコット・リドレー『アメリカ原子力産業の展開』
、御茶の水書房、1991 年、412 頁。
33
William Schneider, “It’s Cheney VS. Carter In New Energy War,” National Journal (May 12, 2001), p.1450.
34
Crive Crook, “Read My Lips: There’s No Energy Crisis,” National Journal (May 12, 2001), p.p.1383-1384.
35
エンタジー社の CEO、ボブ・ラフト(Bob Luft)氏は、原子力は大規模の発電形態の中では、本質的に(温暖化)ガスを排出しな
い唯一の方法であり、気候変動問題に際してなぜ原子力依存を容認しないのか理解しがたい、と発言している。Margaret Kriz, “Still
Radioactive,” National Journal (October 4, 2003), p.3028.
36
核管理協会(Nuclear Control Institute)の代表で、上院で開かれた 1979 年のスリー・マイル・アイランドの事故調査の共同議長
も務めた、ポール・レベンサール(Paul Leventhal)氏による。Seelye, op. cit.
37原子力百科事典 ATOMICA のサイト(http://sta-atm.jst.go.jp:8080/)から「米国 MIT 報告書『原子力の将来』
」を参照。
38 この調査は、NEI が委託したもので、原子力発電所近隣の住民を対象として原子力エネルギーについての姿勢を問う全国規模の調査
としては初めてのものであった。Nuclear Energy Institute の以下のサイトを参照。
http://www.nei.org/documents/Survey_Plant_Neighbors_10-12-05.pdf.
39 といっても、住民投票に至ったケースでは、新規建設禁止について賛成が反対を上回ったのは、1976 年から 1992 年までで 10 件中 2
件であり、運転中の原子力発電所を閉鎖するか否かの住民投票において賛成が反対を上回ったことも、同期間中、12 件中 1 件しかない。
原子力百科事典 ATOMICA の以下のサイトから、
「アメリカにおける原子力発電所をめぐる住民投票」を参照。
http://sta-atm.jst.go.jp:8080/.
40
Nuclear Energy Institute の以下のサイトを参照。 http://www.nei.org/index.asp?catnum=4&catid=851.
41
原子力百科事典 ATOMICA の以下のサイトから「アメリカの PA 動向」を参照。 http://sta-atm.jst.go.jp:8080/.
42
2001 年 5 月にフィールド・インスティトゥート(The Field Institute)によって行われた原子力発電所建設に対する世論調査のデ
ータと、同州において 2001 年7月にパブリック・ポリシー研究所(Public Policy Institute of California)によって行われた調査を
検討する。測定方法や時期が異なるので単純に比較することは危険だが、これによると、まず前者によって新規建設支持 59%、反対 36%
という数字が示され、1984 年の反対 61%から比べると大きく原子力支持が進展していることがわかったが、後者で、カリフォルニア地
域に原子力発電所を建設することの賛否を尋ねたところ、カリフォルニア州には既に稼働中の原子力発電所が二基あるにもかかわらず、
反対が 57%を占める結果となった。これは一般に言う“Not In My Back Yard”
(省略して NIMBY(ニンビー)とも言われる)の傾向を表
していると言える。すなわち、原子力発電の必要性については一定の理解を示しながら、いざ発電所を自分の住んでいる地域に建設する
となると反対を表明するという世論の傾向を表している。
43
中村政雄『原子力と報道』
、中央公論新社、2004 年、108~143 頁。
44
美浜の会の以下のサイトを参照。 http://www.jca.apc.org/mihama/News/news62/news62bush.htm.
45
いくつかの消費者団体は、NRC は個々の原子炉について構造上の統合性を検査せずに認可しているとして批判している。また、憂慮
する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)の調査は、老朽化した原子力発電所は崩壊の危機に瀕しており、より厳格な安全義
務を課すべきだと警告している。Kriz, ”King Coal’s,” p.2021.
46
Kriz, “Still Radioactive,” p.3027.
47
Ibid..
48
核管理協会のエドウィン・ライマン氏の発言を参照。Margaret Kriz, “Hot Rod Targets,” National Journal (December 15, 2001),
p.3839.
49
Ibid..
50
ミシガン州選出のジョン・ディンゲル共和党議員の発言。“It is unfortunate that one terrorist attack on American soil wasn’t
enough to prompt the NRC to pay greater attention to the security risks at some of our country’s most vulnerable sites.” Kriz, “Still
Radioactive,” p.3027.
51
Ibid..
52
1974 年にインドが、カナダから輸入した研究用の原子炉でプルトニウムを抽出し、原子爆弾の実験に成功したことが直接の引き金
となった。それを受けて 1977 年にカーター政権は、立法により再処理政策を無期限に延期することを決定。日本をはじめとして世界各
国に再処理政策を凍結するよう政治的圧力をかけた。榎本聰明「わかりやすい原子力発電の基礎知識(改訂 2 版)
」
、株式会社オーム社、
1997 年、172-173 頁。
15
53
2 期目のクリントン政権では、地球温暖化防止や輸入石油への依存度の高さから、原子力がエネルギー源として見直され、原子力に
関する技術力の維持が課題となった。1997 年、科学技術諮問委員会(PCAST)はクリントン大統領の要請に従いエネルギー研究開発に
ついて報告書をまとめ、その中でクリントン政権では初めて原子力開発の重要性が語られた。それを受けてエネルギー省は原子力研究イ
ニシアチブ(NERI: Nuclear Energy Research Initiative)に着手し、原子力の長期的課題である、安全性、経済性、放射性廃棄物、核
不拡散などについて、新規の革新的な研究開発問題に取り組む大学や国立研究所、産業界を助成することとなった。2001 年からのブッ
シュ政権の原子力政策は、基本的にこのクリントン政権の政策を継承している部分も大きい。原子力百科事典 ATOMICA のサイト
(http://sta-atm.jst.go.jp:8080/)から 「アメリカの原子力開発体制」を参照。
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参考文献・資料
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、御茶の水書房、1991 年。
榎本聰明「わかりやすい原子力発電の基礎知識(改訂 2 版)
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、株式会社オーム社、1997 年。
中村政雄「原子力と報道」
、中央公論新社、2004 年。
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田邉敏憲「フォローの風吹く原子力発電(上)
・
(中)
・
(下)
」
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、2005 年 3 月 15・22・29 日号。
鳥飼誠之「米国 供給源拡充で危機回避」
『エネルギーレビュー』
、2004 年 3 月号、10〜13 頁。
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博田忠邦「諸外国の原子炉リスク評価とその活用」
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松下和夫「EU は環境、米は経済重視 問題は議定書以降の長期的政策」
『エネルギーレビュー』
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●新聞
朝日新聞
産経新聞
日本経済新聞
毎日新聞
読売新聞
Las Vegas Sun
Seattle Post-Intelligencer
The Christian Science Monitor
The New York Times
The Washington Post
●HP(2006 年 1 月現在)
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原子力百科事典 ATOMICA http://sta-atm.jst.go.jp:8080/.
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「アメリカの電気事業および原子力産業」
「アメリカの原子力政策および計画」
「アメリカの原子力政策および計画(2001年、ブッシュ政権)
」
「アメリカの原子力発電開発」
「アメリカの原子力開発体制」
「アメリカの原子力安全規制体制」
「主要国の原子力政策」
「アメリカの PA 動向」
「アメリカにおける原子力発電所をめぐる住民投票」
「原子力発電所の新規発注の低迷とその後の活性化の兆し」
「米国 MIT 報告書『原子力の将来』
」
「米国エネルギー情報局『エネルギー見通し 2005 年版』の電力予測」
美浜の会 http://www.jca.apc.org/mihama/.
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WIKIPEDIA The Free Encyclopedia http://en.wikipedia.org/.
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