よ∼くわかる 前立腺がん 監 修 :(財)がん 研 有 明 病 院 顧 問 福 井 巌 先 生 医療機 関名 M001MI02 2015年10月作成 B1 IS 20 M.I. 1 2 前立 腺のはたらき 前 立 腺 がんとは 前立腺の構造とはたらき 前立腺と男性ホルモン 前立腺がんの特徴 前 立 腺は、男性のみに存 在 する臓 器 前 立 腺 は、男 性 ホ ル モ ン に よ って 前 立 腺 がん は、高 齢 者 に 多く、初 期 です。大きさは 20g 前 後の栗の実く その成長やはたらきなどが維持され には自覚症状はほとんどありません。 ら いで、膀 胱 の 出 口 に 存 在し、尿 道 ています。また、前 立 腺に発 生 する 多 くは 尿 道 から 離 れ た 前 立 腺 の 辺 (尿 の 通り道)の周りを 取り囲 んで い 肥大症やがん細胞の増殖なども男性 縁 域に発 生します。他のがんに 比べ ます。 ホルモンによって促されます。 ると、進 行 が 緩 や かで、生 命 に 危 険 前立 腺は精 液の一部となる前立 腺 液 男性ホルモンは脳の視床下部、下垂 を及ぼしにくいといわれています。 を 分 泌して 精 子 に 栄 養 を与え たり、 体 から分 泌 さ れる 刺 激 ホ ル モン の 保 護 す る 役 割 が ありま す。そ の 他、 作 用 を 受 け、多 くは 精 巣 で 一 部 は 排 尿と 射 精をコントロールする 役 割 副腎で作られています。 前立 腺 がん へんえんいき 辺縁域 尿道 ・ 60 歳 以 上の男性に多く発 生 特徴 も担っています。 膀胱 ・ 男性ホルモンが、がん 細 胞の増 殖などに関与 ・ 比 較 的ゆっくり進 行 ・ 初期には自覚 症 状はほとんどない ふくくう 腹腔 ちょくちょう 直腸 前立腺がんの患者数 ぼうこう 膀胱 ち こ つ せ い のう 精嚢 近 年、日本の 男性のがんでは前立 腺 しゃせ い かん がん患者数の増加が著しく、国立がん 射精管 恥骨 前立 腺 がいにょうどうかつやくきん 外尿 道 括 約 筋 前立腺がん 胃がん 肺がん 大腸がん 肝臓がん 80,000 研 究 センターによると、2015 年 の がん罹 患 数は前立 腺がんが第 1位と なり、次 いで 胃 が ん、肺 が ん が 続 く いんけい 陰茎 と予測されています。 そ の 理 由として、検 診 の 普 及による 罹 患 数︵ 男 性 ︶ ぜんりつせん 主要な各がんの罹患数 (人) 100,000 60,000 40,000 20,000 ※破線部および2015年の 罹患数は予測値である 早 期 発 見 率 の 向 上、高 齢 者 人 口 の 0 せいそう 精巣 増 加、食 生 活の 洋風化 などがあげら 1990 1995 2000 2005 2011 2015(年) れます。 出典:国立がん研究センターがん情報サービス 『がん登録・統計』 より作図・一部改変 がいにょうどうこう 外尿道口 いん のう 陰嚢 1 2 前立腺がんと前立腺肥大症との違い 前立腺がんの原因 ポイント 加 齢、男 性 ホ ル モン、遺 伝 的 素 因 の 前立腺肥大症と前立腺がんは、全く別の病気です。 他、食 生 活 などの 生 活 習 慣 も 要 因と どちらも前立 腺にできる腫瘍で、症状も似ていますが、 な り ま す 。特 に 動 物 性 脂 肪 の 多 い 前 立 腺 肥 大 症 が良性の腫 瘍 であるのに 対し、前 立 腺 洋 風 型 の 食 生 活 が 関 与 して い る と がんは悪性の腫瘍です。両者は発生部位に違いがあり い わ れて いま す。乳 製 品 な どの 関 連 ますが、しばしば同時に発生します。 も指摘されています。 気になる症状がある場合は、早めに受診しましょう。 前立腺がんの症状 前 立 腺 がん の 多くは、尿 道 から 離 れ た 辺 縁 域 にで き やす い ため、早 期 には 前立 腺がん(悪性) 前立 腺 肥 大 症(良性) ほとんど症状が現れません。 進 行 すると、尿 道 が 圧 迫 さ れて、尿 が 出 にくい な どの 前 立 腺 肥 大 症 に似 た 症 状 が みられます。さらに進 行すると、リンパ 節や 骨などに転 移し、腰 痛や 歩行困難などの症状が現れます。 主な 症状 【発生部位】 【発生部位】 外側の辺 縁 域に発 生することが 尿道に近い移行域の細胞が増殖 多く、周辺に向かって増殖する。 する。 膀胱 尿が出にくい、 トイレの回数 が増える、 残 尿 感 など 前立 腺 前立 腺 がん 尿や 精 液に血 液 が 混じることもある。 膀胱 背中 ・ 腰の痛み、 歩行困難 (骨に転移した場合) 肥大した 移行域 辺縁域 【経過】 【経過】 早 期にはほとんど症 状が 現れな 前立 腺の肥 大により尿 道が圧 迫 い が、進 行 に とも な い、尿 が 出 さ れるた め、早 期 より尿 が 出 に にくい な どの 症 状 が 起 こり、骨 くいなどの症状が起こりやすい。 やリンパ 節 など他の臓 器にがん 転移することはない。 が転移する。 3 4 3 ・がんの可能性を調べる場合(スクリーニング検査) 検 査・診断 PSA(前立腺特異抗原)検査 P SA は 前 立 腺 細 胞 だ け が 作 るた ん ぱく質 で、血 液 中 の P SA 値 が 高 い ほど 前 立 腺 がん の可能 性 が 高くなります。早 期 発 見 のための 指 標として 検査・診断の手順 用いられる検査です。 健 康 診 断 な ど で P SA 値 が4 ng /mℓ以 上 の 場 合、専 門 医 に よる 検 査 を 受けることが望ましいでしょう。 健 康 診断などによる PSA 検 査(血 液 検 査) 直腸診 PSA<4ng/mℓ (−)陰性 PSA 4∼10ng/mℓ (±)グレーゾーン PSA>10ng/mℓ (+)陽性 人さし指を肛 門から直 腸に入れ、直 腸 の 壁 越しに前 立 腺に触れて 状 態を 確認する検査です。大きさ、硬さ、痛みの有無などを調べます。 経直腸超音波(エコー)検査 超 音 波 プ ローブ を 肛 門 から直 腸 に 入れ、前 立 腺 に向けて 超 音 波 を 発し、 専門医による直 腸診、超音 波 検 査 がんの 疑い高い がんの 疑い低い 大きさ、形、内部 の 構 造などを画 像で確 認する検 査です。 ・がんの疑いがある場合 ( 確定診断 ) MRI(磁気共鳴画像法) 前立腺内におけるがんの広がりや被膜外浸潤の有無を調べます。 MRI、 前立 腺 針 生検 陰性 − 生検 局所麻酔などを行い、前立腺に針を刺して組織の一部を採取します。組織を 調べることで、がん細胞の有無、がん細胞があれば悪性度(性質)や広がり 具合などを確認します。 陽性 + = 定 期 検 査を受けながら経 過観察 前立 腺 がん ・がんと診断された場合 ( 病期診断 ) 画像検査 CT(コンピュー ター 断 層 撮 影 法)・骨 シン チ グラフィにより、リンパ 節・骨 な どへ の 画像検査 (CT、骨シンチグラフィ) 5 転移の有 無を調べます。治療 方 針を決める 上で大切な検査です。 6 4 手術療法(前立腺全摘除術) 治 療 前 立 腺 全 体 と精 嚢を 手 術 で 摘 出する治 療 法 で す 。特 に 前 立 腺 内にとど まっ こ ん ち て い る 早 期 が ん に 対して は 、根 治 ( 完 全 に 治 る こと ) する可 能 性 が 高 い 治 療 法 で す 。開 腹して 行 う方 法 や 腹 腔 鏡 を 使って 行 う方 法 な ど が ありま す 。 進行度と治療法 術 後 の 性 機 能 を 維 持 するために 勃 起 神 経 を 残 すことも あります。 治療 法は、がんの進み具合 ( 病期 )、悪性 度、PSA 値の 他、患者さんの年齢や 合併症なども考慮して決めます。 放射線療法 こ ん ち がんの 進み具合 限局がん 局所進行がん 転移がん 前立 腺に放 射 線を当て、がん細胞を死 滅させる根 治療 法です。体外から照 射 がんが 前 立 腺 内に と ど まって い る 早期がん 前立腺の被 膜を破 って進 展している リンパ 節 や 他 の 臓 器に転移がみられる する方法と前立腺内に放射線源を入れる方法があります。転移したがんによる 痛みをやわらげる緩和目的で行われることもあります。 手 治療 法 術 療 法 や放 射 線 療 法 の 後、がん の 進 み 具合 などによっ ては下記のような症状が起こる場合があります。 PSA監視療法 ● 排尿障害(尿漏れ、頻尿など) 手 術 療 法 放射線療法 内分泌療法 化 学 療 法 時間とともに改善することが多いですが、 骨盤底筋 体操 症状がある場合、下記のような対策があります。 ・ 水分摂 取に気をつける ・ 尿 漏れパッドや尿 失 禁 パンツを使う か つ や くきん ・ 肛門括約 筋を引き締める体 操 こつばんて い きん (骨 盤 底 筋 体 操)を行う ● 性機能障害(特に勃起障害) PSA 監視療法(無治療経過観察) 小 さ な おとなし い 限 局 がんで は、すぐに 積 極 的 な 治 療 を 行 わず、注 意 深く 経 過を観察することがあります。3∼6ヵ月ごとに定 期検 査(PSA 検 査、直 腸 診など)を行い、がんの進行がみられたら治療に踏み切ります。 前立腺の周囲に勃起に関わる神経があるため、 性機能障害が起こる可能性があります。 その場合、ED 治療 薬(シルデナフィルなど)の 投与が有効な場合があります。 余分な力を抜いて、肛門 の周りをゆっくり締めた 後、ゆっくりと緩めます。 これを 繰 り 返し 行 い ま す。 (立 位・座 位 で も、 どんな姿 勢でも可) 体に負担をかけることはなく、また、積極的な治療による合併症・副作用など を回避できるメリットがあります。 7 放射線療法の晩期障害としては直腸・肛門出血、血尿が起こることがあります。 8 内分泌療法(ホルモン療法) 前立腺のがん細胞の増殖は男性ホルモンによって促されるため、男性ホルモン の産生やはたらきを抑える薬の投与が有効です。 作用の しくみ ◆ 二次内分泌療法 一次内分 泌 療 法で充分な効果が得られなくなった場合に、一次内分 泌 療 法で使 用 した 抗 男性ホル モン剤を中止すると、病 状 が 軽 快することがあります(抗 男性ホ ルモン剤除去症候 群)。また、別の抗男性ホルモン剤に変 更して ( 抗男性ホルモン 剤 交 替 療 法 )、単 剤あるいは LH-RH アゴニストまたは LH-RH アンタゴニストと 脳 視床下部 下垂体 LH-RH(黄体形成ホルモン放出 ホルモン)アゴニスト(注射) 併用で使用することにより、効果が期待できます。 精巣での男性ホルモンの産 生を抑制し、 がんの増殖を抑える薬 ・リュープロレリン ・ゴセレリン ◆ 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する内分泌療法 内 分 泌 療 法を 続けている間に、前 立 腺 がん の 性 質 が 変わり、従 来 の内 分 泌 療 法 (去 勢、ビカル タミド、フル タミド)だけではがん の成 長を抑えきれ ない 状 態にな 精巣 副腎 男性ホルモン産生 LH-RHアンタゴニスト(注射) 精 巣での 男 性ホルモンの 産 生を抑制し、 がんの増殖を抑える薬 ・デガレリクス ることがあります。このように、内分 泌療 法が効かなくなった前立腺がんのことを 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)と呼びます。 抗 男性ホルモン剤であるエンザルタミドや、男性ホルモン産 生阻害剤であるアビ ラテロンは、このような CRPC に 対しても効 果 を 発 揮 することが わかっており、 一次・二次内分 泌療 法後に増悪した前立腺がんの患者さんに使用されます。 前立腺 男性ホルモン産生阻害剤 (CYP17 阻害剤) (経口) 男性ホルモンの産 生に関わるCYP17と いう酵 素を阻害することにより、男性ホ ル モン の 産 生 を 抑 制し、が ん の 増 殖 を 抑える薬 がん細胞増殖 内分 泌 療 法が 効く タイプのがん細胞 内分 泌 療 法が 効かない タイプのがん細胞 去勢抵抗性 前立腺がん 内分 泌療 法 ・アビラテロン 再燃 女性ホルモン剤(経口) 男性ホルモンの産生を抑制したり、がん 細胞への直接作用などにより、がんの増 殖を抑える薬。副作用が強いため、通常 は他の内分泌療法剤を優先的に使用する。 ・エチニルエストラジオール 抗男性ホルモン剤 (抗アンドロゲン剤) (経口) 男性ホルモンが前立腺のがん細胞にはた らかないようにし、がんの増殖を抑える薬 ・ビカルタミド ・フルタミド ・エンザルタミド がん細胞発 生 がん細胞減少 がん細胞 増殖 がん細胞 増殖 ◆ 内分泌療法による副作用 ◆ 一次内分泌療法 内分 泌療 法の治療 薬には、以下の副作用が現れることがあります。 去勢や抗男性ホルモン剤などの薬 剤により前立 腺がんの増殖を抑制します。抗男 性 ホル モン 剤を単 剤で 使 用するだけでなく、去 勢(LH-RH アゴニストや LH-RH アンタゴニストもしくは精巣摘除術)と併用することにより、精巣での男性ホルモン 産 生および 副腎で作られる男性ホル モンのはたらきの両 方を抑えることが でき、 より治療 効果を高めることが期待できます。 9 ● 更年期障害様症状(ほてり、のぼせ、発 汗、疲れやすい など) ● 性欲の低下、勃起障害 ● むくみ ● 女性化乳房 ● 肝機能障害 ● 骨粗しょう症 ● 筋力低下 ● 糖・脂質代謝異常 など ※気になる症状が現れたときは、すぐに医師または薬剤師にご相談ください。 10 化学療法 抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑える治療 法です。内分 泌 療 法が 効きに くい場合や効かない場合(CRPC)に行われます。 PSAモニタリング ◆ 治療効果判定の指標 内 分 泌 療 法や 化 学 療 法による治 療 効 果 の 判 定や、薬 剤 切り替え・中止の 判断を 行うための簡 便な 指 標として、一 般に PSA が用いられます。ある薬 剤を投与し、 ◆ 一次化学療法 PSA の 値 が 低下すれば、 『効 果あり』と判 定され 通常その 薬 剤の 投与を 継 続しま CRPC に対する化 学 療 法として、ドセタキセルという抗がん剤が 有 効であること すが、PSA の値に変化がないかあるいは増加した場合は、 『効果なし』と判定され が示されており、このドセタキセルにステロイド剤であるプレドニゾロンを併用す 必要に応じて薬剤の変更が検 討されます。 る治療 法が標準的治療とされています。 ◆ 二次化学療法 ドセタキセルによる一次化 学 療 法で充分な効果 が 得られなくなった場合に、カバ 治療開始 同じく、ステロイド剤であるプレドニゾロンと併用で用いられます。 PSA ジタキセルという抗がん剤が 有 効であることが示されています。ドセタキセルと 薬剤変更 ◆ 化学療法による副作用 薬剤変更 薬剤変更 抗がん剤は強力ながん抑制作用を発揮しますが、その分副作用にも注意が必要です。 抗がん剤の代表的な副作用を以下に示します。 【特に注意したい副作用】 経 過時間 ● 好中球減少 体 の免 疫 機 能を担う好中球 が減 少することにより、感 染 症にかかりやすく なります。好 中 球 が 減 少する時 期(抗 がん 剤 投与 後 7∼14 日後)は人 混 み を避け、外出時のマスク着用、うがい ・ 手洗いを心掛けましょう。 ● 間質性 肺炎 痰 をとも な わな い 乾 い た 咳(空 咳)が 特 徴 的 で す。非 常にまれで は ありま す が、風 邪 様 症 状 の 後、急 激に呼 吸 困 難 が 出 現 することが ありますので、 早期に発見し、対処することが重要です。 【その他の副作用】 ◆ 再発(再燃)の指標 前立 腺がん治療 後の再発(再燃)と PSA の変 化との間には密接な関連があること がわかっており、PSA の変化を観察することによりがんの再発(再燃)を早期に発 見することができます。そのため、治療後も定 期的に PSA 検査を中心とした経過 観察が行われています。 ● 食欲不 振 ● 脱毛 ● 倦怠 感 ● むくみ ● 肝機能 障害 ● アレルギー、 経 過観察の間隔は、一般的に手術療 法後1年間は3ヵ月ごと、2∼3年目は6ヵ月ご ショック ● 末梢神経障害(しびれ) ● 爪の変化(変形、脱落) など と、それ 以 降 は 年1回の 実 施 間 隔が 妥 当とされています。また、放 射 線 療 法 や内 ※気になる症状が現れたときは、すぐに医師または薬剤師にご相談ください。 分 泌 療 法 の場合は、治療 後3年目以 降も6ヵ月から1年ごとにPSA検 査の 継 続が 必要といわれています。 11 12 5 治療 後の注 意 点 MEMO QOL(生 活 の 質)を 維 持 するためにも、医 師に 相 談 の上、下 記 のような点に 注 意しましょう。 ● 定期的に受診しましょう ● バランスのよい食生活を心がけましょう 赤身肉や乳製品などの動物性 脂肪を控え、 野菜、果物、米や玄米、豆類などの菜食中心の食事をとりましょう ● 週 3 回以上の適度な運動を心がけましょう ウォーキング、水泳など自分に合った運 動を楽しんで続けましょう ● お酒は適量にしましょう ● 禁煙しましょう ● 規則正しい生活を送りましょう 13 14
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