PE029 教心第 57 回総会(2015) 大学生の抱くストリートダンスに対する印象 ―ダンス経験・ダンスの鑑賞経験に基づいた検討― ○清水大地(東京大学大学院) 岡田 猛(東京大学) 問題と目的 学習指導要領改訂により,2012年に中等学校 体育においてダンス授業が必修化され(文部科 学省,2008) ,ストリートダンスは学校教育に広 く導入された(中村,2009) 。学校現場では,指 導可能な教員の不足や指導方法の困難さといった 問題が提起される一方で(e.g., 中村,2009) ,探 索型学習の実施,コミュニケーション能力の育成 といった教育目標に賛同し,教員,生徒から授業 に対する好意的な意見が示されつつある(e.g., 広 瀬,2004) 。 一方そもそもストリートダンスとは,ギャング の抗争の代替として発展した経緯もあり(OHJI, ,クラブ文化と関係したアンダーグラウン 2000) ド な 領 域(Osumare, 2002) と 捉 え ら れ て き た。 現在では若者文化の 1 つと捉えられ,企業の協賛 する大会も行われる等,広く受け入れられている が,路上で行う練習形態や起源から,否定的な評 価を抱かれる場合も多い(清水・岡田,2014) 。 そのような中で,体育科の目標である「生涯に 渡って活動に親しむ人間を育てる」ためには,単 に振付や指導構成を工夫するだけでは不十分であ る。授業に参加する若者がストリートダンスに対 してどのような評価を抱いているのか,否定的な 評価を抱いているとすれば何が原因であるか,詳 細を考慮して授業内容を組み立てることが求めら れる。以上を踏まえ,本研究では若者の代表であ る大学生を対象に,ストリートダンスの印象やダ ンス授業の印象について質問紙調査を行った。 研 究 方 法 予備調査(自由記述)に基づき作成した質問 紙(ストリートダンスに対する印象27項目,スト リートダンスの授業に対する印象19項目,回答者 の特性15項目の全61項目)を,2012年 6 月に東京 大学の教養学部の学生348名に実施した。分析対 象としたのは,リストワイズ除去を行った329名 である。なお本研究は,清水・岡田(2014)のデー タについて,新たな問いを設定し,先行研究とは 異なる分析を加えたものである。 結 果 まず特性に関しては,ストリートダンスの経験 がある学生は329名中 8 名(2.4%)とわずかで, 実際に見た経験がある者も47名(14.3%)と少な かった。また,235名(71.4%)と半数以上の学 生が苦手意識を抱いており,全体としてストリー トダンスに親しみを感じている学生は少ない。 次に特性以外の46項目について探索的因子分 析(主因子法,プロマックス回転)を行った。命 名した因子を表 1 上部に示す。そして,ストリー トダンスを行った経験の有無によって学生を分 け,各群の下位尺度得点を算出した(図 1 ) 。図 より,経験の有無によってダンスに対する肯定的 評価の得点などが異なることが分かる。 さらに,ストリートダンスの鑑賞経験,スト リートダンスに取り組んでいる友人の有無,スト リートダンス以外のダンス経験の有無等を説明変 数とし,下位尺度得点を従属変数とした重回帰分 析を実施した(表 1 ) 。表より,因子Ⅰ(ダンス に対する肯定的評価)が鑑賞経験や音楽に関する 知識,取り組む友人の有無により影響を受けるこ と,因子Ⅴ(授業に対する肯定的評価)が他のダ ンス経験に影響を受けることが示されている。 考 察 本研究の結果として,以下3点が示唆された。1) ストリートダンスに対して親しみを感じている大 学生は少ない,2 )ストリートダンスを行った経 験の有無によって,ダンスに対して抱く印象が大 きく異なる,3 )ストリートダンスの鑑賞経験の 有無や音楽への親しみ,他のダンスを行った経験 の有無によってダンスに対して抱く印象が異なる。 ストリートダンスに生涯に渡って親しむ人間を 育てるためには,若者が抱く否定的な印象を考慮 し,例えば「鑑賞経験を多く与える」といった多 様な指導方法を組み込み,学生が自発的に授業に 取り組んでいける工夫が必要とされるだろう。 ― 452 ―
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