研究課題別事後評価結果 1.研究課題名 「サスティナブル・ユビキタス社会実現のための要素技術に関する研究」 2.研究代表者及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点) 研究代表者 高岡 美佳(立教大学経営学部・大学院経営学研究科 准教授) 主たる研究参加者 中原 秀樹(武蔵工業大学環境情報学研究科 教授) 中村 二朗(日本電信電話(株)NTT 環境エネルギー研究所 グループリーダー) 岩瀬 嘉男((株)日立製作所 トータルソリューション事業部 端谷 隆文(富士通(株)環境本部環境技術推進統括部 主任技師) 部長付) 小林 裕幸(小田急電鉄(株)営業推進部マーケティング担当 プロジェクトマネージャー) 白倉 直人(東京ガス(株)環境部 環境推進グループ 大竹 裕之(凸版印刷(株)国際本部国際部 副課長) 部長) 3.研究内容及び成果 3-1.目的 環境・社会改善効果の高い生活行動ナビゲーションシステムの開発・実証を行うことを通じて、サス ティナブル(持続的)なユビキタス社会実現のシナリオを描くことを目的とした。そのため、(1)ユ ビキタス技術・サービスによる情報授受と生活者行動変化の分析、(2)ユビキタス技術・サービスの 環境影響・社会影響の評価技術の開発、(3)環境改善効果の高い生活行動ナビゲーションシステムの 開発とその実証、(4)サスティナブル・ユビキタス社会実現のシナリオと政策提言の作成、を課題と した。 3-2.内容及び成果 (1)ユビキタス技術・サービスによる情報授受と生活者行動変化の分析 食品及び交通について、2回の消費者へのアンケート調査を中心に、ユビキタス技術・サービスによ る情報提供に対するニーズの有無、環境・健康等の情報授受による行動変化などを解析した。その結果、 環境に関する情報は、消費者の購買意思決定因として重視されていないということが示された。消費者 にいかに外的情報探索行動をとらせるか、いかに環境情報に気づかせるか、更にその環境情報をいかに 消費者の購買行動に結びつけるか、という購買行動の変容に関する研究を行う必要があることが明らか となった。 (2)ユビキタス技術・サービスの環境影響・社会影響の評価技術の開発 ユビキタス技術の普及によって実現した「ユビキタス社会」を定量的に評価するための指標として、 「社会うるおい指標」を提案した。本指標は「環境、安全、健康、快適、経済、幸福」という 6 項目で、 ユビキタスサービスを評価するものであり、ケーススタディの結果、この指標を用いてユビキタスサー ビスを定量的に評価することが可能である事が示された。また、上記 6 項目の統合化のための「重み付 け係数」を得るため、インターネットを利用した調査も実施した。 (3)環境改善効果の高い生活行動ナビゲーションシステムの開発とその実証 2回の消費者行動調査の結果や、各グループによる基礎調査の成果を踏まえて、食品の購買決定時・ 消費時、および交通サービスの決定時における消費者を対象とする、次の3つのナビゲーション開発実 験を実施した。 1)小売店頭での食品購買決定時に消費者の属性と嗜好性にあわせた情報提供をすることで、食品購買 行動をサスティナブルな方向へ誘導するシステムの実験調査。 2)JR 浜松町駅-東京ビッグサイト間移動における、携帯電話による消費者への交通情報及びサステ ィナブル情報(環境・安全・健康)提供システムによる、交通サービスの決定に関する実験調査。 3)冷蔵庫内食品在庫管理情報が、メニュー決定時、食品消費・廃棄時に、どのような影響を与えるか の実験調査。 以上の実験の結果から、①サスティナブル情報(環境・安全・健康)は、それ単体の提供では消費者 の行動を大きく変えることは難しい、②しかしながら、消費者の属性や嗜好性をもとにナビ因子を決定 し、情報の組み合わせを工夫して、消費者が欲するタイミングでユビキタスに情報を提供することで、 生活者をサスティナブルな消費行動に誘導するためナビゲーションの効果がでる可能性が高い、③一部 の情報については、ナビゲーション対象者の年齢が高くなるにつれて、情報の適合度があがる、が判明 した。 (4)サスティナブル・ユビキタス社会実現のシナリオと政策提言の作成 「ユビキタス技術・サービス」という、生活者にとっての利便性向上を目的とした技術・サービスを 対象とし、そのサービスによって生活者が得る効用と環境効率・社会効率とが、ともに増大するような 生活モデルを提示し、生活者の欲求に反しない実現性の高いサスティナブル・ユビキタス社会形成のシ ナリオとして、シンポジウムやホームページ上で提案した。 また、サスティナブル・ユビキタス社会実現を加速するための政策提言として、下記をまとめた。 ①サスティナブル・ナビゲーション実現の為の(CO2 排出量等の)サスティナブル情報のデータベース 構築支援。 ②社会問題軽減への貢献を定量化できる「社会うるおい指標」の標準化。 ③「社会うるおい指標」を用いた循環型社会に資する事象の定点測定等による国レベルでのモニタリン グ。 ④政策及びエコファンド等の民間の市場評価システムへのモニタリング結果の反映。 4.事後評価結果 4-1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況 研究代表者は、日常生活に視点をおいて、消費者行動をサスティナブルにすることとユビキタス技術 とを結びつけ、サステイナブル・ユビキタス社会の要素技術の問題点を明らかにして、当初の目的に合 致する成果を上げた。要素技術として、食品購買時及び食品利用時のナビゲーションシステム、ならび に交通機関利用時のナビゲーションシステムの開発を行うと共に、事前のアンケート調査及び各システ ムの実証実験を行った。その結果、困難な課題である日常生活における消費者の行動の定量化、データ 化に成功し、見えにくい消費者の行動予測という、潜在的な問題を発掘することができたことは有意義 であった。研究体制としても、企業及び大学の専門家が連携して、技術的な開発及び実証実験において それぞれの役割を分業し、研究代表者が全体のまとめをしっかりと行って成果の創出に結びつけた。 成果の発信としては、「サステナブル・ライフスタイル ナビゲーション」の出版、サスティナブル・ ユビキタス社会実現のシナリオのホームページ公開、産官学共同シンポジウム「ユビキタス社会と消費 者行動」の開催、新聞・雑誌 11 件掲載等、社会一般に向けた情報発信は十分適切に行われた。また、 招待講演(国内会議5回)、学会発表(国内学会 14 件、国際学会 13 件)、論文発表(国内誌2報)が行 われた。加えて、研究に参加した企業の主催する、東京ガスのエコクッキング講座(料理教室 22 ヶ所)、 日立製作所の uVALUE コンベンション 2007 での講演等も行われている。 以上、総合的に評価して社会問題の解決及び当初目標の達成という視点からは、優れた成果を上げた。 4-2.成果の科学技術、社会への貢献 これまでの消費者の行動調査は定性的な意識調査に留まるものが多く、消費者個人の行動を環境配慮 するようにユビキタス技術を適用する試みも国内では非常に限定的にしか行われてこなかった。本研究 課題では、持続可能な消費生活へのナビゲーションという社会的な課題に対して、ユビキタス技術の導 入のし方を提案したものであり、社会の問題解決に資する成果が得られた。日常の消費者行動に影響を 与えることができるよう、要素技術の個別研究から定量化、指標化を行い、限定された内容ではあるが、 消費者の行動が変えられることを実証してみせることができたことは重要な成果である。 ただし、これまでに得られた成果は食品と交通の分野で、食品は女性中心、交通では東京都心の特定 経路での実証という限定的な内容であり、この結果を全国規模に外挿することには無理がある。今後、 開発した手法の精度を高めるよう研究を深化させることが期待される。その結果、要素技術を統合して 社会に適用するシナリオへと発展させることができれば、社会に大きく寄与するインパクトをもたらす ことが期待される。また、本研究課題で開発した手法は防災や子どもの安全等、より広い範囲で適用さ れる可能性があり、今後の展開が期待される。 なお、「環境に良い」ということのデータ不足、社会が食品等の環境情報等をきちんとストックする ことの必要性も明らかにされており、社会に対する問題提起の意味も認められる。 4-3.その他の特記事項(受賞歴など) 研究代表者は、環境省中央環境審議会総合政策部会環境情報専門委員会 専門委員に就任している。
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