1.業務委託名: シロップ廃液の高効率メタン発酵システムとバイ オガス発電調査 2.受託事業者名: 委託団体:山 梨 罐 詰 株 式 会 社 連携団体:静岡県環境資源協会 連携大学:静岡大学工学部物質工学科 中崎教授 3.研究成果概要: 静岡市清水区は、有数の漁港有しており、それに伴い缶詰工場、水産加工業 が盛んな地域である。食品加工業という業種では各工場からの排水は高濃度・ 高負荷排水となりやすい。そのため、排水を処理する排水処理施設に対する資 金、エネルギー、マンパワーの投入量は非常に高く、各企業においては高濃度 排水をどの様に有効利用し、また、安価に処理できるかが課題となっている。 今回はこの課題を解決するシステムとして、高濃度排水をメタン発酵し、メ タンガス(本事業ではバイオガスと呼ぶ)として取り出し、このバイオガスを 燃料として、ガスエンジンによる発電と給湯を行い、利用を行うものである。 メタン発酵により最終的に排水処理施設で処理される排水は低負荷となり、現 状よりも低コストで、投入エネルギーの削減による運転が可能となる。 本事業では、山梨罐詰株式会社の高濃度排水を原料(バイオマス)とした、 メタン発酵設備と、熱・電気供給設備、の一連のシステムについての可能性を 検討する。また、このシステム導入することで、既設の排水処理設備への影響 を調査報告する。 3.1 調査内容 山梨罐詰株式会社は、工場より発生する高濃度排水(主として廃シロップ) についての発生量、性状等の実状調査を行った。また現在の高濃度排水の処理 施設における負荷状況等についての調査を行った。さらには高濃度排水のメタ ン発酵から、電気・熱供給システムの検討を行った。 うち、メタン発酵の技術について静岡大学工学部物質工学科中崎研究室と連 携・協力し、本事業に最適な発酵システムについて、遺伝子工学的検討を実施 した。 静岡県環境資源協会は、調査検討した内容について、外部委員を招聘した作 業部会を開催し、環境性・経済性・普及性の評価を行った。 3.2 実験および検討 検 討 す る シ ス テ ム フ ロ ー を 図 1 に 示 す 。廃 シ ロ ッ プ を 原 料 と し た UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket: 嫌 気 性 汚 泥 床 法 )式 メ タ ン 発 酵 を 行 い 、 バ イ オ ガ ス -1- を製造する。バイオガスを脱硫・脱臭精製した後、ガスエンジンによる発電を 行い、バイオマスを排出した食品工場にて利用しようとするものである。 バイオガス 188 m3/日 缶詰工場 高濃度廃液 2.5t/日 貯留層 メタン発酵槽 脱硫・脱臭装置 熱(温水) 146MJ/h 電力 25kW/h 25kW 級ガスエンジン 既設廃水処理 ガスタンク メタン消化液 (図1:メタン発酵およびバイオガス発電利用システム) 工場から排出する廃シロップをメタン発酵により、バイオガスにエネルギー 変換するにあたって、従来のメタン発酵法よりも、高速処理が可能なUASB メタン発酵法を検討する。このUASB方式の大きな特徴として、グラニュー ル状メタン菌が発酵槽内に高密度で保持されることが挙げられるが、このグラ ニ ュ ー ル 状 メ タ ン 菌 の PCR-DGGE 法 を 用 い た 微 生 物 菌 叢 の 解 析 と 高 密 度 培 養 手 法 の検討を行なった。 このUASBメタン発酵法を含むバイオガス発電システム構築に必要な基礎 的データとして、廃シロップの性状および排出量調査、さらに廃シロップを使 った高密度培養手法の検討で得られた、バイオガスの性状および単位有機物あ たりのバイオガス発生量調査を実施した。さらに排水処理施設の現状調査を行 った。 3.3 結果および考察 表 1 に 廃 シ ロ ッ プ の 性 状 を 示 す 。排 出 量 は 日 量 平 均 2.3t( 定 格 設 計 値 2.5t /日 )で あ っ た 。廃 シ ロ ッ プ BOD は 100,000~ 150,000ppm で あ っ た の に 対 し 、メ タ ン 発 酵 後 の BOD は 20000ppm と な り 、現 在 の 排 水 処 理 設 備 に 対 す る 運 転 負 荷( 汚 -2- 泥処分費、電気代、薬剤費)を45%低減できることが分かった。 高密度培養手法の検討により、発酵槽中の滞留日数は10日程度となり、発 酵 槽 を 25m 3 程 度 ま で 小 型 化 す る こ と が 出 来 る 。 廃シロップ原料のメタン発酵菌(バクテリア)叢の解析の結果、比較した生 ゴミ原料のメタン菌(バクテリア)叢と大きな差が見られ、菌叢が原料に適合 してゆくことが裏付けられた。一方古細菌(アキーア)叢には原料による大き な違いがなく、今後の詳細な検討が必要となった。 バ イ オ ガ ス の 性 状 は( メ タ ン 50~ 60% 、二 酸 化 炭 素 40~ 50% 、硫 化 水 素 10ppm、 ア ン モ ニ ア 0ppm) ガ ス エ ン ジ ン に 禁 忌 物 質 で あ る シ ロ キ サ ン は 検 出 さ れ な っ か 3 た 。発 生 量 は 、1kg有 機 物 量 あ た り 500Lと 確 認 さ れ 、予 想 発 生 日 量 は 約 188m( 7.8 m 3 /h) と な っ た 。 得られたバイオガスは、エネルギー有効利用の点と、夜間運転の安全性を考 慮 し 、 近 年 バ イ オ ガ ス 用 に 開 発 市 販 さ れ て い る 、 2 5 kW 級 ガ ス エ ン ジ ン 発 電 機 を 検 討 し た 。 2 5 kW級 ガ ス エ ン ジ ン の バ イ オ ガ ス 燃 料 使 用 量 は 、 13m 3 /hで あ る が 、 今 回 の シ ス テ ム で は 7.8m 3 /hの 発 生 量 で あ る 為 、 小 型 の ガ ス ク ッ シ ョ ン タ ン ク を 介 し た 、1 日 14.4 時 間 の 間 欠 運 転 を と る こ と と し た 。発 生 エ ネ ル ギ ー 量 と、エネルギー面のコストメリットを表3に示した。電気および熱エネルギー で 年 間 462 万 円 の コ ス ト メ リ ッ ト が 見 込 め る こ と が 判 っ た 。 表1 :廃シロップの性状 品種名 黄桃 成分 ショ糖 ビタミン 写真 :缶シラップの様子 糖度 クエン酸 17.0% メチルセルロ 14.6% C みかん ショ糖 クエン酸 ース TS 濃度 廃液 -- 10~15% 表2 エネルギー種 発生量(年間) 単価 電力 108,000 kWh ¥19/kWh ¥ 2,052,000 3 ¥ 2,569,040 熱(13A) 3.4 :ガスエンジンコージェネレーションによるコストメリット 3 15,112 Nm コストメリット ¥170/Nm 事業性評価 本 シ ス テ ム で は 、 排 水 処 理 費 用 が 45% 削 減 さ れ 、 さ ら に 発 生 エ ネ ル ギ ー で コ ストメリットが得られる。バイオマス発電事業としてとらえた場合、イニシャ ル コ ス ト と ラ ン ニ ン グ コ ス ト を 考 慮 し た 、5 年 償 却 で の 発 電 単 価 は 63.7 円 /kwh -3- と 算 出 さ れ 、 1 0 年 償 却 で の 発 電 単 価 は 0.02 円 /kwh と 算 出 さ れ た 。 本 バ イ オ マ ス 発 電 事 業 の 事 業 性 を 、上 記 発 電 単 価 試 算 結 果 か ら 評 価 す る と 、 他 の 所 謂 新 エ ネ ル ギ ー 発 電 で は 、 ( 太 陽 光 発 電 = ¥ 6 6 /kwh) で あ り 、 ( 大 規 模 風 力 発 電 = ¥ 1 0 ~ 2 4 /kwh) で あ る こ と と 比 較 し て も 、 補 助 金 な し の 場 合 で も 10 年 償 却 ベ ー ス で 、 十 分 メ リ ッ ト が あ り 、 事 業 性 が 有 る と 判 断 で きる。 3.5. 波及効果と今後 日本缶詰協会・缶詰時報資料のフルーツ缶詰輸入総量から全国の業務用シロ ッ プ 量 を 推 計 す る と 3 7 ,0 0 0 t /年 で あ り 、 こ の シ ス テ ム が 確 立 さ れ 導 入 さ れることで、A 重油換算で139万Lのエネルギー効果が見込まれる。 また、本調査の缶詰製造業以外の食品製造業において、年間100t以上の 食品廃棄物発生事業所は食品リサイクル法により、本年度までに20%の再生 利用等が求められており、リサイクルの手段として堆肥化等による対応をして いる事業所が多い。しかし、たい肥については、県内のたい肥需要量に対して 供給量が既に上回っている状況であり、又、脱水等による減量のみで対応して いるところも多い。 そこで静岡市内をはじめとして、食品廃棄物等が発生する企業においては、 今回調査した高濃度排水のメタン発酵システムを応用し、固形の廃棄物は磨砕 機等により細かくし高濃度排水と一緒にメタン発酵することで、高濃度排水と 食品廃棄物の有効なエネルギー利用が可能となる。 本調査事業の結果により、山梨罐詰株式会社においては平成20年度を目標 に敷地内にメタン発酵装置を設置し、そのエネルギー利用を進めるとともに、 排水処理施設に対する負担を減少させる。 連携する静岡大学の調査・研究において取得された、メタン菌の菌叢に関す る基礎データは、その測定手法も含め、新規性が非常に高く、今後メタン発酵 を進める事業者にとっても有用性が高いため、特許出願、学会発表等で公知を 行ってゆく。 社団法人静岡県環境資源協会においては、このシステムの実証が行われた後 に、当協会の会員を始め、県内の食品製造業の企業、組合に対し、このシステ ムの導入を推奨し、高濃度排水のエネルギー化、排水処理施設に対する負荷の 低減を図っていく。 -4-
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