ショートショート 作成日時 2013 年 バベルの塔の完成 人類はその長い歴史の中で、数え切れないほどの破壊を繰り返してきた。 時は22世紀、人類は過去の破壊という過ちを永遠に封印するためにバベルの塔を建設し ていた、 そう、中世時代の人々も、幾度となく夢見た 月へと届く塔を構築していた。 破壊は、争いや戦争であり、殺傷や死は細胞の破壊であり 構築は進歩であり、それがもたらす安定は平和である。 また、 社会や文明は構築によって成され、今は大きく開かれた宇宙探索への扉も、宇宙宙開発と いう構築によってなされた。 月へのバベルの塔における完成はもうそこまで迫っている。 人類は一丸となって幾多もの困難と危機を乗り越えて塔の構築を続けてきた。 それは大いなる平和の印でもあった。 一方、月への塔、それは現在の科学を持ってしても 人類最大のプロジェクトであった。 すべての科学と知識を集結して、塔を構成するすべての部分のその一か所一か所となるブ ロックを積み重つづけて、数えると永遠とも思えるような50年以上の月日。 まさにこの塔の構築は、人類の叡智と歴史の積木であった。 各国は団結し、各国の資源や技術を惜しみなくその人類が挑む未踏のプロジェクトに投入 し、各国の代表者や著名人はその足跡を、塔を構成する一ブロックを実際に自分自身の手 で積む作業をすることで、名を刻んできた その際に、その計り知れない高さと地球からの距離のため、代表者はロケットでその時点 での最高地点に向かい、ブロックで自らの足跡を残した。 これは、人類の争いのない、団結と協力の新しい時代が次なるフェーズである大いなる高 みに到達していく記録である。 そのはずだった、 、 、 しかし、 いつの世も、狂った人間は存在し、反対と争いを起こそうとする。 幾数もの塔へのテロ攻撃は未遂に終わるも、構築したものを 破壊することが人類のさらなる飛躍や発展であり、そして、芸術である、そこに意味を見 出せと彼らは狂乱の主張をした。 まだ、人類が月の開発を進めていない頃、また別の狂気の者たちは、 人類は月に到達することで、月で人類はまだ破壊を再開するのは確実だと高らかにさげす みながら叫んだ。 さらには、このような事もあった。 すなわち、当然バベルの塔は人の存在する月へと延びる、広大な住居空間としても活用さ れ始めた。 その中のある住人一家の無邪気な子供が、なんと恐ろしいことに塔から落ちそうになった こともあった。 まだまだ開発の発展途上であり住居のセキュリティも甘かったこともあってか、 親が目を離したすきに、子どもの体重がかかり、ベランダの部品ボロりと、一個が崩れて、 子供が転落しそうになったのである。 奇跡的に悲劇は起こらなかったが、この塔における、人類にとってのとてつもなく深く重 みのある歴史的意味もなにもかにも、ばらばらになり、地まで崩れ落ちかねなかった。 すべてをまとめて言いかえれば、おかんぼうが落ちて命を落とすことになったら この壮大なる崇高なる人類の塔に対する栄光とプライド、そして、あこがれが、それらの 全てが悲劇の汚名を被ってしまうという致命的なことにもなりかねない、そのような幼き こどもの不慮の行為であった。 この不慮の行動は、幼いからこそのごく小さな出来心、悪気はなく単なる運の悪さによる ものであったろうが、非常に不幸というべきことは、その一家は人類の名誉をかけたプロ ジェクトへの妨害と冒涜にあたるとして実際には政府に判断され、責任をとるべくとの通 達により月に移動し、月の住人となるように厳しく命令される形となった。 どうしてそうなってしまったのだろうか、、、 家の中のどこにでもあるおもちゃの積み木ブロックを蹴散らし、崩し壊す程度のいたずら のように、 、 、 そんな意図的でもなんでもない、感情的な行動によって、人類の塔を完成させるミッショ ンが扱われたような思いを政府は、不測にも、不幸にも抱いてしまったのだろうか、、 、 罪のない子供にとっては、実際はそうではないのに、、、 この子供にとってはとくに、本当に不幸なことになってしまったのだった、 、、 ただ、ものは破壊するのではなく構築することこそが、叡智を基にしてものを最大限使い こなすことのできる人類の証であることを学んでほしいと政府は心底願い、政府は人類を 代表してその子には積木を与えることにした。 そして、そのような歴史的事実と共に、 バベルの塔は完成を迎えようとしていた、、、 バベルの塔付近の上空へと一挙にロケットで飛び上がり、塔の荘厳さと壮大さを楽しむツ アーも地球から多く企画された。 そして、ブロックを積めるチャンスもあるとのことも、このようなツアーが人気を博した 要因でもあった。 一方、この時点で、 月の開発は劇的に進み、そこに住む人々も多数となっていた。 しかし、悲劇はまた起こってしまった。 人類は月に降り立つと、地球での歴史を愚かにも繰り返すことになったのである。 そう、月に降り立ち月に住むようになった人々は地球の人々の考え方と対立し、いつしか 月の陰の人々と呼んだ。そう、人類とは種のように、地球人は彼らを軽蔑して、そして避 難して、そう呼ぶようになった。 それでも、歴史は刻まれ続けた、 、 、 そして、ついに、 バベルの塔は完成を迎えようとしていた、、 、 まさに構築における最後の最後。中世からの思いを引き継いだ、50年にわたる人類史上 最高の建築プロジェクトの完成、大団円。 永遠に創り続けなければならないとも思えた塔も、 あと残り、とうとう一個のブロックを残すのみ。 バベルの塔の頂上の頂点、正真正銘のてっぺんにて、そこからそのさき、10センチさき、 月はそこまで迫っていた! 最後の1ブロックで人類の壮大なる、古代より受け継がれたロマンと夢の冒険のパズルを 完璧に埋め終える! しかし、人々の歴史はまたうごめき始めた、、 、 ラストのコンプリート1ピース、その役を 人々は明らかに、あからさまに欲にまみれながら、強固にまで狙いはじめた。 争い、戦争、欲望、悲劇、忌まわしき歴史、苦労、膨大な時間、すべてを超越するはずの、 そして超越しようとした人類の歩みの金字塔となるはずの50年のプロジェクトであった が、 首相たちも呪いにかかったように、すでに建設途中でブロックで足跡を残しておきながら、 最後のブロックで永遠に莫大な栄光の名を、歴史上に刻めること、、 、それに囚われた。 歴史に名を残すことだけに、とりつかれて狂ったように駆り立てられて、、 、 核爆弾のスイッチで 魑魅魍魎のように塔を上がるように最後の頂点を目指す、無数の積み重なるような欲にま みれた狂った敵どもたちを消しとばせば、自分がそのブロックを積んで 永遠に HERO だ!! その耐えられない欲望の魅力に、いまにも邪悪な魔が差そうとしていた、、 、 また、世界はまた、一瞬で破壊に染まる、、、 そのとき、 ! ブロックが完成した。 月に住む、月の陰の人々の中の一人である誰かが、おじいちゃんにもらったぼろぼろの積 木を始めたらしい。 それまでは、ただたた積み木の塊の山をバラバラに壊すだけで、だから、ピースがいくつ もすでになくなってしまっていたけれど、、、そのなかで初めて思い立って始めた、 始めた最初の積み木が、その一個が、はまったらしい。 コチッと。 最後の最後の一個のブロックであるその場所に。 それは、塔の一部壊して月に移動させられたあの幼い子供の、孫だった。 そう、 彼は、ある歳になって、ふとはじめて浮かんだやってみたいという思い、 その無邪気さ以外は一切何も持たずに、ただうれしそうに、ただ楽しそうに、 彼のブロックを構築し始めたところだった、、 、 最後のブロックへ、最後のブロックを自分の手中にと、完成の瞬間をわがものにしようと、 一心不乱に突き進む彼らのもくろみは、バラバラと音も立てずに瞬時に崩れ去った。 このようにしてなされた完成は彼らにとっては愕然を意味するが、 月の影の人々たちから見たときなのか、どのときなのか、 ただ、あるとき、 確実に あきらかに、 それは見方によっては、何に比べても美しくも見える。 はじまりとおわり 光と陰 破壊と構築 無邪気な破壊は悪ではないかもしれないし、 はじめはあるものを壊してまた壊して、、 、その繰り返しだらけ、ふとその中で、 、あるとき ふと気付いて、学んだ、 、 、そして、初めて実践した創るということ、、 、 その日、全世界に、最後の一積みを逃して苦渋の表情を大人げなく露わにした アメリカ大統領はアナウンスした、 「 あの子にとっては小さな一積みかもしれないが、 人類にとってはとてつもなく残念な一積みだ、 、 、 」 地上から、地球から空の、宙の垂直に彼方まで伸びていっている塔を拝み上げるシーンが、 真逆に反転して、 あかちゃんの狭い視野の中の、数個の積み木。 アームストロング船長を、人類が狭い白黒のスクリーンの中に注目したように。 天井からぶら下がっている、いや、単なるドでかい天井のようなそれ見ながら。 「 あの子にとっては小さな一積みかもしれないが、 人類にとってはとてつもなく残念な一つ、、、だ いや、 、 、地球のみなさん、どうか待って下さい。 残念とおもっていた、 よちよちあるきぐらいの子供の一積みは アームストロング船長が感じた重力 の上をいく、 両足が対を成しているように、 そして、 どちらに引きつけられることもない重力、、 と その二面性の下にある 反転と、反転の自由を 人類に思い出させてくれた。 そして、思い出させてくれた。 構築と破壊の両足で、新しい大地に降り立ったばかりであることを。 」 END © 2013 Genichi Kawada
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