第36回全国中学生人権作文コンテスト愛知県大会最優秀賞 勇気に感謝 西尾市立西尾中学校3年 山本遥加 わたしには大嫌いな子がいました。小学生のころ,空手の組手の時にめちゃくちゃ強い 力でがむしゃらにパンチと蹴りをしてきた子です。二歳年上の男の子で乱暴者。わたしは その子と組手をするのが嫌で嫌で仕方なく,空手そのものが嫌いになるくらいでした。終 わった後いつも,腫れ上がった腕や足の真っ青なあざを見ては 「あの子のせいだ。」 と怒って泣いてばかりいました。 あるとき,彼のお母さんがわたしのところへ来てこう言いました。 「遥加ちゃん,いつもごめんね。実はうちの子,アスペルガー症候群っていう障害があっ て,相手の気持ちや周りの状況を考えるのが苦手なの。痛いときは大きい声で何回も「や めて!」と言ってもらえると伝わるから。本当にごめんね。」 突然のことで,わたしは意味が全く分かりませんでした。 家に帰って母にその話をすると, 「そんなこと全然気付かなかったね。まずはアスペルガー症候群ってどんなものなのか一 緒に調べてみよう。」 と,パソコンを開いてくれました。検索してみると, 『発達障害の一つ。知能低下を認めないため周囲から気付かれにくいが, ①コミュニケーションがうまく取れない ②空気が読めない ③悪気はないのに人を怒らせてしまう事が多い といった症状があり,本人はとても苦しい思いをしている。』 と,書いてありました。まさに彼に当てはまることばかりでびっくりしました。特に一番 驚いたのは,本人も苦しい思いをしているということでした。今まで障害をもつ人と関わ ったことがなかったわたしには想像すらしなかったことで,そんなことも知らずにずっと 大嫌いだと言っていたわたしの心にぐっと大きな何かが刺さりました。 母は, 「その子のお母さんはすごいなぁ。普通なら我が子の障害を認められないとか隠しそうな のに,わざわざ自分から言ってきてくれるなんて。これは感謝しなきゃ。」 と,ものすごく感心していました。 「遥加も今までつらかったね。でも,相手に悪気は無いのだし,これから自分がどのよう に対応したらいいのかを考えていこう。」 といろいろアドバイスしてくれました。 その後も痛い思いはたくさんしましたが,不思議と今までのようなつらい気持ちにはな りませんでした。そして彼に関わり続け,何回も組手を重ねるうちに,わたしの心の痛み もすっかり和らいでいきました。彼はただ一生懸命空手の練習をし,純粋に空手が好きで 頑張っていただけだったと気付くことができたからだと思います。だからわたしも勇気を 出して,どうしても我慢できないときははっきり「やめて!」と言葉で伝え,強すぎるパ ンチや蹴りには防御の練習に集中するよう努力していました。すると,だんだん彼と楽し く空手ができるようになったのです。 あれから七年経ちますが,今でも仲の良い空手仲間の一人です。彼のおかげでわたしは 空手も心もずいぶん強くなったと思います。 障害には大きい小さいがありますが,今回のようにちょっと見ただけでは分からない場 合の関わり方はとても難しいと思います。誤解もたくさん生まれることでしょう。そこを 上手くやっていくには,障害を認め,関わる相手に公表し理解してもらう努力をする勇気 が欠かせないことだと分かりました。 今の日本は障害をなかなか表に出すのが難しい風潮があると思います。そんな中,彼の お母さんは打ち明けてくれました。その勇気がわたしの彼への誤解を解き,空手を楽しめ る方向へ導いてくれたのだと感謝しています。 彼のお母さんのように,わたしも勇気をもてる人間になりたいです。そして,これらの 勇気に感謝を忘れることなく,障害に理解ある行動をしていきたいと思います。
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