平成26年度 - 宮崎市の教育情報サイト アイビーネット

平成26 年度
宮崎市教育委員会
は
じ
め
に
宮崎市教育委員会では、昭和31年以来、その時期における教
育課題の解明と教職員の資質の向上を目指して、毎年教職員を対
象に教育研究論文の募集を行って来ました。おかげで、59回目
を迎え、平成26年度宮崎市教職員教育研究論文集を発刊する運
びとなりました。
教育研究論文は、一昨年度より個人研究をまとめたものとして
募集しておりますが、本年度は小学校67編、中学校23編、計
90編の応募がありました。改めて、宮崎市の先生方の教育に対
する熱意と意欲に敬意を表しているところです。
本年度は、国語科をはじめとする各教科の学習指導方法の研究
は勿論のこと、学年・学級経営、キャリア教育、生徒指導等、多
くの研究領域での応募がありました。どの論文も児童生徒や地域
の実態及び社会情勢を踏まえての実践的な研究がなされておりま
した。また、校長、事務主査の応募もあり、応募者の層の広がり
が見られたことに、学校を構成する教職員の頼もしさを実感する
ことができました。
今後、これらの研究の成果を生かしながら更に研究を深め、実
践を深めていくことにより、児童生徒の健やかな成長と学校の発
展につながっていくことを強く願っております。そして、来年度
も素晴らしい論文の応募が多数ありますことを期待するとともに、
本教育研究論文集が広く各学校において活用されますよう希望い
たします。
最後になりましたが、研究論文の応募についてご指導いただき
ました各学校の校長先生をはじめ、関係の諸先生方に心より感謝
申し上げます。特に、論文審査及び論文指導に熱心に当たってい
ただきました宮崎大学教育文化学部、宮崎大学大学院教育学研究
科の先生方に衷心よりお礼を申し上げます。
平成27年3月
宮崎市教育委員会教育長
二見
俊一
も
○
く
じ
はじめに
ページ
<小学校の部>
1 一席・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小学校における意見文指導の実践的検討
東大宮小学校
教諭
有田
1
雅代
2 二席・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
実感を伴った理解を図る理科学習の在り方
~第4学年理科学習(地球領域)の「夜空を見上げて」における
宮崎科学技術館との博学連携の取組を通して~
檍小学校
教諭 横山
登
3 三席・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
キャリア発達を促す「子どもの手による運動会」の有効性
小戸小学校
教諭 長曽我部
31
博
<中学校の部>
1 二席・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
学校・家庭・地域が一体となったキャリア教育の指導の在り方
~職場見学を取り入れた学級活動の実践を通して~
宮崎東中学校
教諭 三橋 正洋
2 三席・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ICTを活用した授業効率化の研究
~デジタル指導書・デジタル教科書の活用を通して~
大塚中学校
教諭 黒木
○ 平成26年度宮崎市教職員教育研究論文入賞者一覧
淳平
59
平成26年度
宮崎市教職員教育研究論文
小学校における意見文指導の実践的検討
「小学校の部」
宮崎市立東大宮小学校
教 諭
有田 雅代
Ⅰ
はじめに
国語科は言葉の教科である。全学年で指導し、授業時数も多い。国語科を中核として全教科を通し
て言語活動を行う必要もある。では、そのための授業はどうあればよいのか。国語科に科せられた課
題は重い。さらにそれを実践しなければならない教師は相応の理論と実践力を備える必要がある。し
かし、国語科の指導内容は幅広く、教材ジャンルは多岐にわたる。言語活動は系統的に見えて、系統
性は薄い。ともすると、活動あって学びなしの授業に陥る場合もある。そこで平成24年度、25年
度、26年度の3年間で、意見文に焦点を当てて研究した。広大な国語科の指導内容の中で、意見文
1つの研究は、点を打つようなものである。しかし、この1つの点に絞った研究から見えてきたもの
は、国語科の授業の在り方、ひいては全教科に通じる授業の在り方であった。点を突き詰めて穴を開
けた向こうに見えた、広い世界こそが今後の自分の教師としての授業力を左右するものであると考え
る。
Ⅱ
Ⅲ
研究の目的
小学校における意見文指導の在り方を実践的に検討し、今後の意見文指導の方向性を示す。
意見文指導の考察
1 先行研究からの改善の視点
意見文とは、書き手の意見を論理的に述べ、読み手に一定の納得を促す文章である。それには書
き手が意見をもっていることが前提としてある。意見文を指導するにあたっては、児童の意見が記
述されるようにしなければならない。
大西道雄は、意見文の内実をなす意見を、
「主体が、問題・障害のある状況、事態に遭遇し、それ
を克服するにあたって、判断・行動の基準、根拠とするために形成した理念である。」と述べてい
る1)。さらに、
「ここで言う問題・障害を現実的な生活上の不自由性、障害状態のみをさしている
のではない。主体がよりよく生きる(価値ある生を営む)ことを目ざして生活するに際して生じた、
物の見方・考え方におけるズレ、矛盾、疑問、否定意識などといった内面的問題意識をも含めてい
る。
」と述べている1)。この意見の形成過程を授業の中で指導する必要がある。また、香西秀信は、
意見を述べることについて「
『議論』という現象が成立するためには、いくつかの条件が必要であ
ろうが、その中で絶対に欠くことのできない必須条件をひとつあげるとすれば、それは意見の対立
ということをおいて他はない。
(省略)後述するように現在の国語教育の意見文指導、議論指導で
は、必ずしもこのことが『常識』となっていないようなので、ここではしつこく念を押しておきた
い。
」に述べている2)。さらに、
「現行の意見文指導では、ディベートほどにも『意見を言う』こと
の意味が理解されていないようである。誰も反対しないようなことを平気で『意見』文として書か
せているからだ。
」とも述べている2)。
そこで、意見文指導を行うにあたって、反論ができうる意見の形成過程を授業の中で設定してい
くことが、児童の意見が記述された意見文指導の1つの方向性だと考えられる。これを、今までの
意見文指導の中に設定することで、実践から見えた課題を解決できるのではないかと考えた。
2 実践からの改善の視点
本研究に取り組んで3年近く経過した。研究の推移を年度ごとに振り返りながら、課題を見直す
ことにする。
(1)第4学年「説明のしかたについて考えよう」
(アップとルーズで伝える+「仕事リーフレット」
を作ろう)の実践(平成25年度実践)
第4学年では「説明のしかたについて考えよう」と「写真と文章で説明しよう」の2つが設定
されている。この単元の領域及び教材は、「読むこと」アップとルーズで伝える(説明文)と「書
くこと」
「仕事リーフレット」を作ろうである。この説明文は、
『テレビでも新聞でも、受け手が知
-1-
りたいことは何か、送り手が伝えたいことが何かを考えて、アップでとるかルーズでとるかを決め
たり、とったものを選んだりしている。』という筆者の主張が、工夫して述べられている。児童は
筆者の主張を読み取るとともに、文章構成や問いと答えの関係、写真の引用の仕方など、筆者の書
きぶりを学ぶ。さらに、この説明文の学習を受けて設定された「『仕事リーフレット』を作ろう」
でリーフレットを作ることになる。この2つの単元の紐帯が「写真の引用」であり、習得し活用で
きるようになっている。そのリーフレットの中に、次のような記述が見られた。
ア 生活経験と結び付けた記述
【児童の記述】
① いつも早起きしてかぎを開けるから大変だなあと思いました。
② たくさんの仕事をしていてミスをしないことは大変だから、教頭先生の役わりは大事だなあと思いました。
③ ベテランは大事なことをまかされることが多いなあと思いました。
④ ぼくは最初パソコンで何か調べているのかなと思いました。
【①〜④の記述の分析】
①
自分と教頭先生が毎日早起きして仕事をすることを結び付けている。
②
生活の中で様々なミスはつきものであることを経験から知っている児童が、ミスが許されない教頭先生の役割に気
付き、感想を述べている。
③
ベテランの人々が重要な役割をまかされることを経験から知っている児童が、教頭先生が教職28年であることが
重要な役割をまかされる理由ではないかと考えている。
④
自分がパソコンを使う目的が調べることが多いことと結び付けている。
モデル文には、取材した内容に対しての感想は記述されていない。本児童はモデル文を模倣した
のではなく、取材した内容に対して無意識に自分の生活経験と比べて感想をもち、それを記述した
と考えられる。これは、第5学年での意見文の前段階としての姿の一例と言える。この実践から、
中学年段階では、児童が無意識に生活経験を根拠とした感想をもつように、児童の生活と近づけた
活動を仕組んでいくことが必要であることが分かる。
イ
取材した内容に疑問をもった記述
【児童の記述】
⑤ ぼくはなぜ一番大変なのかが分かりません。
【⑤の記述の分析】
⑤
事務室の一番大変な仕事が電話の応対であることに対して疑問をもっている。児童が電話をとって応対することを
日常生活の中で普通に行っていることで、なぜそれが一番大変なのかという疑問をもっている。
本児童は、事務室の電話の応対という仕事を自分が生活の中で行う電話の応対を同等のものと
して捉えたので、このような疑問をもったのだと考えられる。この児童が事務室の先生に「なぜ、
電話の対応が一番大変なのですか。」と再度質問していたら、この疑問は解けたはずである。事務
室の電話と家庭の電話にかかってくる数の違いを聞かされたら、この児童は驚きそこから新たな感
想をもち、その記述が表れたかもしれない。第5学年で学習する意見文の学習において重要なのは、
児童に意見をどうもたせるかである。意見をもつにはそこにある事実を肯定的に受け取っては何も
生まれない。まずその事実は本当なのか否定的に、批判的に見る目を養う必要がある。そのために、
中学年の時期に、事実と自分を比べて感想をもったり、疑問を抱いたりする目を養うことが重要で
ある。本研究においてその記述が見られたことは意味があることである。この実践より、取材した
内容と自分の生活経験を結び付けた感想や疑問をもたせることが第5学年の事実(グラフや表)を
もとに意見文を書くという学習に効果的につなぐ架け橋になることが分かる。
-2-
(2)第5学年「説明のしかたについて考えよう」(天気を予想する+グラフや表を引用して書こう)
の実践(平成24年度実践)
第5学年では「説明のしかたについて考えよう」と「理由づけを明確にして説明しよう」の2
つが設定されている。これらの単元の領域及び教材は、「読むこと」天気を予想する(説明文)と
「書くこと」グラフや表を引用して書こう(意見文)である。この説明文は、『科学技術の進歩や
国際的な協力の実現によって天気予報の精度は向上しているが、天気に関する知識をもち、空を見
て、風を感じることも大切にしてほしい』という筆者の主張が、工夫して述べられている。児童は
筆者の主張を読み取るとともに、文章構成や問いと答えの関係(論の進め方)、グラフや表、図や
写真の引用の仕方など、筆者の書きぶりを学ぶ。さらに、この説明文の学習を受けて設定された「グ
ラフや表を引用して書こう」で意見文を書くことになる。この2つの単元の紐帯が「グラフや表の
引用」
であり、習得し活用できるようになっている。その意見文の中に次のような記述が見られた。
【児童の記述】
① だが、中学生は、部活などもあります。小学生は、6時間で帰ります。でも、中学生、高校生は、部活があり、宿題
も小学生よりだんぜん多いです。だから、小学生の読む冊数が多いのだと思います。
② それは、本のページ数です。小学生はそう多い本ばかりを読まないはずです。でも、中学生、高校生は、小学生より
ページ数の多い本を読んでいるから、冊数は、少ないと考えられます。
【①②の記述の分析】
①
小学生と中学生・高校生は、部活や宿題などの様々な条件が違う。条件が異なるものは一律に比較できないと考えて
いる。
②
グラフが示している数値は冊数しか表していない。小学生と中学生・高校生が読む本のページ数は違うはずである。
ページ数が多い本を読む中学生・高校生の方が、冊数が少ないのは当然であると考えている。
①②
数値が意味していることやグラフが示そうとしていることを読み取り、グラフそのものに問いや疑問をもっている。
この児童の意見の根拠となっているものは2つある。1つは児童の生活経験である。児童自身の
経験から兄(中高生)の生活を推測し、それを根拠に記述している。もう1つは、グラフに対する
問いや疑問である。グラフに示された数値は本の冊数であり、それを読書量と直接結び付けること
に対して問いや疑問をもっている。題名「本の冊数とページ」にもそれが現れている。このように、
モデル文の単なる模倣ではなく、意見形成の芽生えといえる記述が見られた。しかし、児童はそれ
を意見として言語化・文章化していない。これを、意見として、言語化・文章化していくことが、
今後の課題となる。この実践により、グラフを根拠にした意見文指導において、グラフに対して問
いや疑問をもたせるようにすることが、意見形成の芽生えにつながることが分かった。さらにそれ
を支えるものが、児童の生活経験であることも分かった。
3 意見文指導の方向性
2年間の実践から見えた意見文指導の方向性を述べる。グラフの引用、文章構成、ことば(文型)
の指導は効果があった。しかし、意見をどのようにもたせるのか、意見の形成が難しい。児童の意
見が記述された意見文にするために3つの方向性が見えた。まず、児童の意見の根拠となるものは
生活経験である。次に、提示された問題に対して児童がある一定の考えをもち、それに対して生活
経験から何らかの疑問やズレが生じることである。最後に、それらが文章として記述されることで
ある。つまり、小学校段階の児童に対する意見文として、まず提示された問題に対してもった一定
の考えやものの見方が記述されていること、続いてそれに対する疑問やズレを起こしている生活経
験が記述されていることが考えられる。何となく抱いている問題事象に対する疑問やズレを児童自
身が認知し、その理由を生活経験と結び付けて考えることを意見の形成とし、意見文指導において
その形成が促される指導計画を立てることが意見文指導の方向性といえる。
-3-
Ⅳ
光村図書第5学年「説明のしかたについて考えよう」(天気を予想する+グラフや表を引用して書
こう)の実践的検討(本年度実施)
1 単元を貫く目標の設定
本単元は「読むこと」と「書くこと」を関連させる構成をとっているため、教科書においては、そ
れぞれの領域に重点をおいた目標が設定されている。「天気を予想する」では「読むこと」、「グラフ
や表を引用して書こう」では「書くこと」「話すこと・聞くこと」である。また、2つの教材はそれ
ぞれ独立した目標を立てている。そのため、「グラフや表の引用」という2つの単元の紐帯が見えに
くくなっている。そこで本研究において、この2教材を貫く単元目標を設定した。単元を貫く目標を
設定することで、
「グラフや表の引用」を意識した指導がよりいっそう図られると考えた。
2
評価への見通し
評価は大きく前半の「読むこと」と後半の「書くこと」の2段階で行う。前半で習得した「グラフ
や表の引用のしかた」を後半で活用する単元構成をとっている。後半で活用するためには、前半で活
用すべき知識や技能を身に付けておく必要がある。したがって、評価は前半の「読むこと」が終わっ
た段階で、筆者のグラフや表の引用のしかたを読み取り、習得することができたか判断する必要があ
る。後半部分の「書くこと」が終わった段階では、意見文で評価する。このように2段階で評価を行
うことで、前半でグラフや表の引用の仕方が身に付いていない児童に対して、振り返って指導するこ
とができる。
3
単元指導計画及び指導のポイント
(1)単元指導計画(全 11 時間)
2単元をつなげた単元指導計画を立てる。
「天気を予想する」
(6時間)と「グラフや表を引用し
て書こう」(5時間)の合計 11 時間の計画である。教科書においては、「グラフや表を引用しよう」
は4時間配当であったが、意見形成の過程を指導する特設の1時間加え、5時間配当とした。
(2)指導のポイント
単元指導計画を立てるにあたって、本研究の要になる指導や児童の実態に応じた活動の設定、現
段階での問題を解決するための手立てなどを指導のポイントとして述べる。単元指導計画は、これ
らのポイントを踏まえている。
ア 意見を形成する過程の設定
意見を児童にどのようにもたせるかが本研究の要である。そこで、意見の形成の過程を指導する
ための時間を設定した。「読むこと」の6時間が終わった後に、「書くこと」の導入として7時間目
に特設時間として単元指導計画に位置付けた。
意見を構成する過程として、3ステップを設定した。第1ステップは、
「グラフを読み取る」であ
る。グラフを見てそこから気付くことを考えさせることで、児童は自分がこの問題(物の見方・考
え方におけるズレ、矛盾、疑問、否定意識などといった内面的問題意識)について書こうとするイ
メージをもつ。それは、自分の生活とグラフを比べ問題意識を喚起された児童がグラフに対して問
題を見つける過程、方向性といえる。第2ステップは、
「自分の立場を決める」である。本当に深く
踏み込めば、必ず対立物が表れてくる。深く踏み込むのは、結局のところ、十分に考え抜くこと、
よく調べ上げることである。大西道雄は次のように述べている。
「主体が自己の立場を明確にすると
いうことは、対象のもつ、障害のある状況、対立関係の構造的認識が深まることを意味しており、
主体における自己の立場の明確化は、意見の萌芽とも言うべき、
『こうしたらいいのではないか』
『こ
うあってほしい』といった、漠然とした観念を形成する。このような観念を明確化するためには、
当然、その意見の根源となる対象についての『問題』意識が明確になっていなければならない。」1)
グラフを読み取ることでイメージとして抱いた問題意識を肯定的な立場で捉えたのか、否定的な立
場で捉えたのか立場を明確にする。第3ステップは、
「理由を考える」である。イメージとして抱い
た問題意識を肯定的に受けとめたのか、否定的に受けとめたのか、決めた理由を自分の生活経験と
-4-
結び付けて考えさせる。肯定的でも否定的でも立場を決めたからにはその理由となる経験が自分の
中にあるはずである。それを深く考え抜かせる。この3つのステップを意見の形成過程とした。
イ 意見を形成する過程に基づいたモデル文の提示
意見の形成過程である3ステップが記述されたモデル文を作成し、提示した。このモデル文は平
成24年度に実施した際、児童が書いた意見文をもとに作成した。意見形成の3スッテプの他に、
文章構成、ことば(文型)、文末表現においても、「天気を予想する」で学習した内容が反映される
よう配慮した。
小学校段階の児童に、モデル文を示すことは効果的である反面、モデル文を模倣した文章になる可
能性が高い。紙面の都合上掲載できないが、このモデル文と、教科書のモデル文の2つのモデル文
を提示した。2つの違うタイプのモデル文に触れることで、モデル文の模倣からの脱却を図る。
ウ 学習内容と生活経験を結び付ける指導
国語科に限らず、他教科においても生活経験と結び付けることは重要である。算数科では、実生
活で用いる場面を想定した問題が組まれているし、社会科は単元そのものが児童の生活を基盤とし
ている。道徳においては、毎時間の中で実生活へ振り返る展開後段が必ず設定されている。そこで
他教科においても、意識的に学習内容と生活を結び付ける指導を行った。
エ 社会科におけるグラフや表の読み取りと生活経験を結び付ける指導
グラフや表を引用して意見文を書くためには、まずグラフや表を読み解くことができなければな
らない。
「読むこと」と「書くこと」の両方の単元で、グラフや表が引用されている。特に、モデル
文で引用されているグラフは、折れ線グラフと棒グラフが2つ表示されているものである。このよ
うな複合的・発展的なグラフの読み取りの指導を社会科で行った。社会科を選んだ理由は、複合的・
発展的なグラフが多く取り扱われているからである。
グラフの読み取りをする中で、読み取ったことと生活経験を結び付ける指導も行った。例えば、
インターネットや新聞、テレビ、ラジオなどの普及率の推移のグラフを提示したところ、児童がラ
ジオは少ないが一定の普及率があり、変化も少ないと読み取った。その理由を生活経験と結び付け
て考えさせると、お年寄りが聞いている、タクシーで聞いている、インターネットでもラジオは聞
けるなど、普段の生活の中から理由を考え出した。このような学習を社会科で重点的に行い、国語
科では行わなかった。
オ
非連続型テキスト(グラフ)に対する批判的な読みの取り扱い
意見の形成過程を指導するために設定した特設時間で取り扱うグラフは、図1「5月1か月間の
平均読書冊数の推移」
(全国学校図書館協議会調べ)である。このグラフを見て、児童は「小学生が
中高生より読書冊数が多い」ということは、全員の児童が読み取れる。実際は「小学生の方が中高
生より読書冊数が多い」とは言い切れない。なぜなら、読書冊数と読書量は条件が違うため比較で
きないからである。このように、読書冊数は読書量ではないことに気付くことが、グラフに対する
批判的な読みができていると言える。
ではこの批判的な読みと意見文における意見の関
連をどう扱うか。
「読書冊数が一番多い小学生が、中高
生より読書をたくさんしている。
」という読み取りに対
し、肯定的な立場(そう思う)をとる児童が実態とし
てほとんどであり、否定的な立場(そう思わない)と
とる児童は1割程度であると予想できた。テキストに
対する批判的な読みの力を付けることが重要であり、
求められていることは周知のことである。しかし、こ
こではグラフは意見をもつための1手段であり、意見
図1
5月 1 ヶ月間の平均読書冊数の推移
をもつために重要なことは肯定的、否定的いずれかの立場を決め、生活経験をもとに理由を考える
-5-
ことである。児童が肯定的に受けとめるにはその根拠となる生活経験があるからである。よって、
肯定的に受けとめる児童を否定的に受けとめる方向に矯正せず、全体での練り合いの場で批判的な
読みに触れるようにする。
カ
生活経験から学習内容へのメタ認知化
小学生段階の児童において生活経験と学習内容の結び付きは重要である。主体形成と実の場の設
定に関わってくる。主体である児童が、自分で追究したくなる場面をつくり、それが児童自身の生
活に立脚していることが大切である。また、実の場の設定は児童に問題意識を喚起し、目的追究行
為をとらせる。実の場は、場面における生活目的意識の形成とその追究行為の発動を総合している。
そのためには、導入で学級全員が同じスタートラインに立てる経験を設定し、その中から主体的に
学びたいという意欲や目的がもてるようにしていく。さらに教材の中で日常と離れた抽象的な学習
内容へと発展していく。生活経験から学習内容へと抽象度・一般化の高い内容への変化を児童が認
知した後は、さらにそれを日常で使っていくことが理想である。
キ
導入の工夫(単元指導計画の提示)
日常生活において、自分の思いや考えを伝えても相手が納得しない経験という、ほとんどの児童
がもつ経験を取り上げる。それを解決するための力を身に付けるという目的をもたせるために、そ
れを単元目標として設定する。本研究においては、単元目標を「説明のしかたを考えよう。」と設定
した。これは、児童の問題意識と教材を近づけ、学習する必要感や教材との出会いの必然性を生む。
これらの手立てをとることにより、11 時間という長い時間をかけての学習において意欲と目的を継
続することができる。
ク
ことば(文型)の指導
「天気を予想する」と「グラフや表を引用して書こう」において、共通して指導すべきこととし
て、
「グラフや表を引用するときに使うことば(文型)」がある。
「天気を予想する」と「グラフや表
を引用して書こう」のモデル文で共通して使用していることば(文型)は『グラフの題名を述べる
ことば(題名)』
、『グラフの種類を述べる言葉(グラフの種類)』、
『注目する数値や言葉を示すこと
ば(言葉や数値)』、
『自分の考えを述べることば(自分の考え)』の4つである。このことば(文型)
を、
「天気を予想する」で筆者がグラフや表を引用している際にどのように使っているかを読み取ら
せる活動を通して、習得を図る。また、
「グラフや表を引用して書こう」で示されているモデル文で、
このことば(文型)を確認することでより習得が図られる。このような手立てで習得した引用する
ためのことば(文型)を、さらに意見文を書く活動で活用させていく。
4 授業の展開
単元指導計画に沿って行った授業の実際を、全 11 時間の概要の形で示したいところであるが、紙
面の都合上、本研究に大きく関わる第7時のみ示す。
【第7時】(
「グラフや表を引用して書こう」意見のもち方
第7時は本研究の要である意見の形成過程に焦点を当てた特設時間である。めあては「グラフや表
を引用して学級のみんなを納得させる意見文を書こう。」で意見の持ち方を指導した。
意見の形成過程の3ステップに従って、授業を構成した。第1スッテプ「グラフを読み取る」では、
「5月1か月間の平均読書冊数」
(全国図書館協議会調べ)のグラフを提示し、読み取らせた。それを
発表させる中で、「読書冊数が一番多い小学生が、中高生より読書をたくさんしている。」という観点
へ導いた。第2ステップ「立場を決める」では、第1ステップで導いた観点に対して、立場1(そう
思う)
、立場 2(そう思わない)を決めさせた。第3ステップでは、第 2 ステップで選んだ理由を自分
の生活経験と結び付けて考えさせた。理由を書く際、立場1は赤の付箋、立場2は青の付箋を使用さ
せることで、それぞれの児童の立場を把握しやすくした。立場2の児童は予想通り1割程度だった。
自力解決→グループ(4人)での話合い→全体での話合いと段階を踏んで多くの児童が関われるよう
にすることで、立場1を選んだ児童も、グラフに対して批判的な読みをした立場 2 の児童の考えに触
-6-
れることができた。
最後に、本時の学習を振り返らせることで、意見のもち方の3ステップをまとめさせた。
Ⅴ 分 析
1
授業記録より
(1)グラフから読み取ったことと自分の生活経験を結び付けた児童の発言
本研究の要である第7時を分析した。児童は、立場1(そう思う)と立場2(そう思わない)
のどちらかを選択し、その理由を生活経験と結び付けて考えた。全ての児童が生活経験と結び付
けた理由を、赤青どちらかの付箋に記述することができた。両方の立場から理由を述べた児童の
発言の一部を抜粋した。
【立場1(そう思う)
】
発言者
児童①
発言内容
私は「そう思う」で、お姉ちゃんが言っていたんですけど、中学生になったら忙しくてほとんど図書室
に行けなくなったと言っていました。
児童②
ぼくはそう思うの立場で、理由は授業でも図書室に行って本を読んだりしているからです。
児童③
私はみのりさんの帰るのが遅いのが同じで、家からたまに見かけるんですけど、中学生が夜の7時から
8時の間に帰るのをよく見かけるので、
教師
遅いねえ。で。
児童③
忙しいから読む暇がないと思います。
教師
どうぞ。
児童④
はい。うみさんに付け加えて、部活などがあって大変だからです。
教師
ああ、なるほどね。部活があるねえ。みすずさん、何か意見があるって言ってたね。どうぞ。
児童⑤
えっと、なんか、私が塾に行く途中だったら、同じぐらいの時間に帰ってきている中学生もいるんですけ
ど。だから、早く帰る中学生と・・・・
教師
早く帰る中学生と、遅く帰る中学生がいる。なるほどねえ。るかさん。
児童①は中学生の姉の発言をもとにしている。児童②は自分の週1時間図書室へいく授業があ
るという経験をもとにしている。児童③と⑤は自分が実際に見る中学生の姿をもとにしている。
児童④は姉がおり、中学生になって始まる部活を原因として考えている。
【立場2(そう思わない)】
発言者
児童⑥
発言内容
私は「そう思わない」で、中高生は字が多い本を読んで、小学生はなんか、字が多い本は最後まで・・・
んーなんて言えば・・・
教師
字が多いの反対を考えればいい。字が、
児童⑥
少ない
教師
少ない本ってこと?今書いていることを読んでごらん。
児童⑥
中高生は字が多い本は、スラスラ、あっ最後まで読むけど、なんか、小学生は最後まで読めなくて、あれ、
あ、あれ、返す期限が
教師
きてしまう?なるほどね。どんどん返していくってこと?読まずに?
児童⑥
そうです。
教師
読まずに返すから冊数が増えると。いると思う。いると思うよ。先生実際に見たことあるもん。読まずに
返す人もいる。なるほど。確かに。
児童⑦
ぼくは「そう思わない」で、中高生は難しい伝記の本を読むけど、小学生はあまり難しくない簡単な本を
読むからです。
教師
なるほど。中高生は難しい本を読む、小学生の方は簡単な本を読む。だから小学生のほうが読むっていう
-7-
のは一概に言い切れないって、そういうことが言いたいってこと?なるほどね。
教師
他に。あいみさんまだある。さあ、どうぞ。
児童⑧
はい。えっと、私は「そう思わない」で、小学生は昼休みとか帰った後は、読書をしなくて、外で遊ぶ人
が多いから。
教師
あっ、自分で見た感じで。
児童⑧
私も。
教師
私が見たら。グラフは小学生の方が多いけど・・・
児童⑧
私もしたことがあるんです。
教師
あっ、私もしたことがある。私も実際は本を読むより遊んでると。なるほどね。私はそんなに本は読んで
ないと。遊んでると。分かりました。なるほど。遊びが楽しい。
児童⑥は自分が読む本と中高生が読む本の字の多さの違いを、自分の経験をもとに比べている。
児童⑦は自分が読む本と中高生が読む本の内容の難易度の違いを、自分の経験をもとに比べている。
児童⑧はグラフの小学生は読書冊数は多いが、自分は読書をするより外で遊んでいるという具体例
を出し、自分の実態とグラフの結果を比べている。
(2)非連続型テキスト(グラフ)に対する批判的な読みが見られる発言と思考の言語化
本研究においては、非連続型テキスト(グラフ)に対する批判的な読みができることを全員には
求めないが、できる児童が1割程度いると予想していた。実際に批判的な読みをしている児童が3
人、グループや全体での話合いでの友達の発言を聞くことで、批判的な読み方に納得した児童が7
名いた。児童⑨、児童⑩の発言を抜粋した。
発言者
児童⑨
発言内容
私はけんすけさんに、本の種類について書いたのは同じで、小学生の方が絵本などの短い本を読むことが
多いけれど、中高生になると小説などの長い本を読むことが多くなるので、えっと、短い本は、短時間で
読み終わるけど、
(だ)から、いっぱいの本が同じ時間で読んだとしてもたくさんの冊数が読めると思いま
す。
教師
それは、「そう思う」なの、「そう思わない」なの。
児童⑨
「そう思う」です。
教師
「そう思う」でいいか?「そう思わない」方じゃない?
児童⑩
(つぶやき)どっちとも言える。
教師
どっちとも言える?
児童⑩
どっちとも言えると思います。
教師
なんでどっちとも言えるの?(児童⑩に視線を合わせながら全体に問うたが児童⑨が発言)
児童⑨
私は「そう思う」っていうのにしたのは、えっと、読書をたくさんしているだから、
・・・・
教師
ああ、分かった分かったよ!こっちの方が冊数が・・・短いから。
児童⑨
短いけど、・・・
短いから冊数が多くなる。こっちもなんか言ったよね。中高生はなんて言った?
教師
小説などの長い本を読む。
長いから。なるほどね。
(途中、省略)
教師
さっきしゅんさんが、ここさ、薄いと分厚いと短いと長いってところが両方に言えるって言ったよね。そ
れ説明できる?しゅんさん言わなかった?この短いと長いが出た時に両方に言えるんだけどって。こっち
でも言えるんだけどって。言ったよね。
児童⑩
(言いたいことはあるが、何と答えてよいか分からず戸惑っている)
教師
誰か説明できる人、両方に言えるんだけどって。
-8-
(児童が顔を見合わせている)
はいじゃあいいです。じゃあみんな見ててよ。ここで(赤線)、「そう思う」と「そう思わない」で線を引
くんですが、これ全体を見て、何か意見を言いたいことや質問したいことがありませんか。
(間)これさあ、
「そう思わない」人をまず見てもらっていい?「そう思わない」人はね、小学生は数字的には多いですよ。
でも、読まずに返している人がいますよ、しかも本は簡単じゃないですか、中高生は字が多い本を読んで
ますよ。しかも難しい本ですよね。だから冊数だけを比べて、読書をたくさんしているとはそう言いきれ
ないんじゃないですか、それがこっちの意見ですね。こっちの意見、ゲームセンターに行ったり、部活を
したり宿題をしたり、忙しくて図書館に行けないから、やっぱりグラフの数値が低いんですよ。そういう
意見ですね
児童⑨は、立場1(そう思う)と捉えている。その理由として小学生と中高生の読む本の長さが
違うからと述べている。児童の生活経験に基づいた理由である。この児童は、読書冊数が多ければ
読書量が多いと言えるのかというグラフに対する疑問や批判的な意見はもっていない。教師が揺さ
ぶりをかけてもあくまでも立場1であると強く主張を続けた。読書冊数と読書量を同じであると考
えていることが分かる。児童⑩も、立場1(そう思う)と捉えている。しかし、児童⑨の発言や教
師の揺さぶりを受けて、波線部分「どっちとも言える。」と発言している。これは、無意識のうちに
読書冊数が多ければ読書量が多いと言い切れないのではないかというグラフに対する漠然とした疑
問が浮かんできていると考えられる。グラフに対する批判的な読みにいたる思考の兆しである。教
師はこの児童⑩の発言を受けて、最後に、冊数だけを比べて読書をたくさんしているとは言いきれ
ないという発言を引き出したくて児童⑩に発言を求めたが、言語化までには到らなかった。
理想としては、二重線部分の教師の発言を児童の話合いで引き出したかった。あと10分時間が
あったら引き出すことができたかもしれない。
2 ワークシートの授業の振り返りより
(1)意見のもち方についての記述のあるもの
児童①
意見のもち方として、グラフを読み取り、立場を決め、理由を考える事で、相手が納得する分を書く事ができる事が
分かりました。
児童②
意見文の意見のもち方は、日ごろの日常の中から取り入れ、考えて、意見文の理由を書くことが分かりました。
児童①は意見の形成過程である3つのステップを理解していることが分かる。児童②は意見の根拠
とする考えを生活経験と結び付けて考えることを理解していることが分かる。
(2)意見文への意欲が高まった記述があるもの
児童③
今日の学習で学んだことを書けばかんたんに意見文がかけそうな気がしました。
児童④
グラフを読み取り、自分の立場を決めてその理由を考えるということを、意見文でもいかしたいです。
-9-
書くことに抵抗感をもつ児童は多い。しかも意見文という新しく学ぶ文章ジャンルに抵抗感なく取
り組ませるために、核となる意見のもち方を指導することの重要性を本研究で述べてきた。意見のも
ち方を3つのステップで指導した授業の振り返りで、児童③④のように「かんたんに意見文がかけそ
うな気がしました。」や「意見文でもいかしたいです。」という意欲的な記述があるということは、3
つのステップで意見のもち方を指導することの成果といえる。
(3)交流を通して多様な意見に触れるよさについて記述があるもの
児童⑤
ぼくは、赤の意見しか分からなかったけど、青の意見を取り入れることでシァア(視野)(ママ)が広がったので良
かったです。中高生になるといそがしくなるから、今のうちに本を読んでおきたいです。()は推測
児童⑥
グラフや表を読み取る→立場を決める→理由を考えるということをして、意見をもつことができた。他の人の意見を
きいて、もう一つの立場のことを考えたり、同じ立場でもちがう理由をしることができた。
児童⑤の記述から、自分と違う立場の考えを聞くことで自分自身の視野の広がりを自覚できたこと
が分かる。児童⑥の記述から、同じ立場でも生活経験が違う友達の多様な考えを知るよさや違う立場
の考えを知るよさが自覚できたことが分かる。友達と交流し、それぞれの生活経験をもとにした多様
な考えに触れることが重要であることが言える。
3 意見文分析より
(1)意見の形成過程の文章化
意見形成過程を、第1ステップ「グラフを読み取る」、第2ステップを「自分の立場を決める」、
第3ステップを「理由を考える」の3つのステップとして指導した。この3つのステップは35名
全ての児童が記述していた。
『題 ページ数と時間の余裕(省略)では、本当に小学生が中高生よりも本を読んでいるといえるのでしょうか 。ぼくは、
そう言えないと思います。その理由は二つあります。一つ目は、読むページ数です。小学生は、ページ数の少ない本を読み
ます。しかし、中高生は、受験や勉強のために、分厚くて、ページ数の多い本を読むことです。二つ目の理由は、読む時間
の余ゆうです。小学生は部活もなく、宿題も少ないです。しかし、中高生は、部活があり、宿題も小学生より多いです。こ
......
の二つの理由があるので小学生は、中高生より本を読んでいるとは言い切れないと考えます。(省略)』
第 1 ステップが二重線、第 2 ステップが波線、第3ステップが下線である。(以下全て同じ。)3
..
つのステップを踏んで「この二つの理由があるので小学生は、中高生より本を読んでいるとは言い
....
切れないと考えます。」と記述している。3つのステップの記述は全員ができていた。さらに、それ
ぞれの内容に妥当性と一貫性がなければならない。第1ステップのグラフを読み取る段階で、グラ
フの読み取りが妥当でない児童が見られた。数値的な読み取りではなく、そのグラフが表す内容を
つかみ取れていなかった。第2ステップの自分の立場を決める一文は全ての児童が記述していた。
第3ステップの理由を考え記述する段階で、第2ステップで選んだ自分の立場と一貫性がない記述
が見られるものがあった。
3つのステップで意見の形成を図ることは思考を促し、全体指導としては有効である。しかし、
児童によっては、意見形成の3つのステップですら型になり、形骸化してしまうこともあることが
分かった。このような場合は、途中で個別に指導する必要がある。
(2)生活経験の記述
立場1(そう思う)と立場2(そう思わない)のどちらの立場を選択しても、自分の生活経験と
結び付けて考えている記述があった。
【立場1】
『題 平均読書冊数の推移(省略)では、小学生は、中学生、高校生より読書をしているといえるでしょうか。私は、そう
いいきれると考えます。理由は三つあります。一つ目の理由は、小学生は、一週間に一回は図書室に行く時間があるからで
-10-
す。それに朝に読書の時間があって読む時間があるからです。二つ目の理由は、最近ゲームなどをして本を読む時間が
ないがある(ママ)と考えました。三つ目の理由は、友達がいっていたんですけど、字が小さい小説などは、目がいたくな
り1ページぐらいしか読めないといっていて絵本などを読むけど、すぐ終わるといっていて私は、小学生の冊数が一番多い
と考えました。小学生は、読む時間があるので高校生、中学生より読書をしていると考えました。(省略)』
この児童は、自分自身の生活経験として、週一回図書室に行くこと、朝の読書の時間があること、
ゲームをして本を読まなくなったことを記述している。また、絵本を読むけどすぐ読み終わるから
冊数が増えるという友達の生活経験も取り入れて記述している。これは第7時の友達との交流の効
果でもある。
【立場2】
『題 小中高生の本の冊数とページ(省略)では、中学生は、小学生より読書をしていなく、高校生より多くの本をよんで
いるといえるでしょうか。私は、そう言いきれないと思います。理由は二つあります。一つ目は、小学生は、まだ読みきっ
ていないのに返却期間があるから返してしまっていると思います。しかし、どんどん借りる本を変えてしまい冊数が増えて
いるのだと考えます。二つ目は、本のジャンルが小学生、中学生と高校生ではちがうと思います。小学生は絵本などの短い
本をよむことが多いので、同じ時間読書をしても内容によって冊数が変わると考えました。(省略)』
この児童は、読まずに返却している小学生の実態を生活経験の中で知っており、それを記述して
いる。また、読む本の内容の難しさとページ数が違うことに気付き、読書時間を同じにそろえたと
しても、冊数は異なることを記述している。読書時間をそろえるという発想が、前提として小学生
と中高生では自由に使える時間が違うという様々な生活経験をもとにしている考えられる。
この児童は、前述している授業記録の中の児童⑨である。授業の際は、児童⑨の発言が「そう思
う」なのか「そう思わない」なのか、教師が揺さぶりをかけたところ、「私はそう思うだ。」と強く
言い切った。しかし、その後の話合いを通し、
「そう思わない」に立場を変え、記述している。これ
も交流の効果である。思考した結果を授業中に言語化(発言)し、その後交流を通して再思考し、
文章化される過程が分かる。
どちらの立場においても、生活経験と結び付けて考えることができているということは、本研究
において、非連続型テキスト(グラフ)への批判的な読みの力の育成より意見形成に重点化を図り、
あえて立場2に矯正せずどちらの立場でもよいという指導の方向性は一定の効果があったと言える。
(3)グラフの読み取りと内容の妥当性
子ども達には4つのグラフを提示し、その中から児童自身が
①
自分の生活経験と結び付けて考えやすいものを選ぶようにした。
提示したグラフは、「①メディア別の広告費の変化」「②百貨
店、大型スーパー、コンビニエンスストアの売上高のうごき」
「③家庭や商店からでたごみのゆくえ」
「④5月1ヶ月間の平
均読書冊数の推移」である。①は8人、②は4人、③は0人、
④は23人が選んだ。平成24年度の実践の際も④のグラフ
は学級の半分の児童が選択していた。読書が児童の生活に身
近である証拠である。③のグラフは、児童の生活や学習内容に
図2
メディア別の広告費の変化
は関係が深いが、興味関心の高さとは関係が深いとは言えない結果であろう。本研究においては、
第7時の授業で④のグラフを扱ったので、ほとんどの児童が④を選ぶことも予想はしていた。しか
し学級の3分の1の児童が①と②グラフを選択した。第7時の意見の形成過程の授業を設定するこ
とで、意見文を書くことへの抵抗感が低くなり、意欲が高まった結果と言える。
特に①と②を選択した児童のグラフの読み取りが妥当であるか検討する必要がある。①のグラフ
を選択した児童の意見文を抜粋する。
-11-
『題 広告費の変化・ちがい(省略)では、ラジオやざっしより、テレビやインターネットなどのほうが、多いと言えるで
しょうか。私は、多いとは言えないと思います。理由は、三つあります。理由の一つ目は、祖父が、まだラジオなどを夜に
聞いたりしていたので、ラジオを使ったり、もっている人はいるので、ぜったい、テレビが多いとは、言えないと私は考え
ます。(省略)』
第1ステップの「グラフを読み取る」で、
「ラジオやざっしより、テレビやインターネットの方が
..
多い。
」と読み取っている。これは 2011 年での値を見るとその通りである。しかし、何が多いのか、
主語が抜けている。グラフから読み解くとすると、広告費が多いと読み取るのが普通であるが、後
の理由を見るとそうとは言えない。理由から推測すると、そのメディアを使っている人が多いとい
う思考の流れが分かる。広告主は使っている人が多い媒体に広告を出すので、人数と広告費の多さ
が一致しない訳ではないが、それを記述する文章が必要であろう。
年間通して社会科でグラフの読み取りの指導を繰り返し行ってきた。そのため、グラフの題名や
特定の年の値、変化の様子を読み取ることはできる。しかし、意見を形成する土台となるグラフの
読みまでは、限られた時間で児童1人の力では難しい部分がある。
(4)ことば(文型)と文章構成
ことば(文型)の指導は第6時で焦点化して行った。35名全員が、グラフの題名を述べること
ば(題名)、グラフの種類を述べる言葉(グラフの種類)、注目する数値や言葉を示すことば(言葉
や数値)
、自分の考えを述べることば(自分の考え)を意見文で使っていた。さらに、文章構成は「読
むこと」と「書くこと」を関連させて指導した。4つから6つの構成で書いていた。モデル文を 2
種類示したので、多様性と妥当性のある文章構成だった。意見の形成過程の3つのステップをアレ
ンジしており、モデル文を模倣した文章構成に偏らず、ほとんどの児童が自分の意見を述べるため
に効果的な構成をしていた。系統的・計画的で要点を押さえた指導を行うことでことば(文型)と
文章構成の指導は比較的容易であった。
(5)意見の記述
ア 意見の形成過程に沿った意見文
『題 小学生は本を読んでいるのか(省略)では、小学生の方が中高生より読書をたくさんしていると言い切れるでしょうか。
わたしは言いきれないと考えます。小学生より中高生の方がたくさん読んでいるとわたしは思います。理由はたくさんあります。
一つ目は中高生は分厚い本を読んで小学生は分厚い本を借りる人もいて最後まで読まずにかえす人がいるので読んでないと思い
ます。二つ目は、小学生は本を読まずほとんど遊んでいるから本を読んでいるとは限りません。よく公園で見るんですけど中高
生よりも小学生ほとんどの人が遊んでいることが分かりました。だからあんまり本を読んでないとわたしは思いました。だから
小学生はあんまり本を読んでないと考えました。(省略)』
意見の形成過程に沿って意見を形成し、意見を記述している意見文の例を2つ挙げる。まず「5
月1ヶ月間の平均読書冊数の推移」のグラフを引用している意見文である。
この児童は、3つのステップで意見を記述しており、自分の生活経験とグラフを比べ、グラフ
は本当に正しいのか疑問を抱いている。その思考を、題「小学生は本を読んでいるのか」と「小
学生より中高生の方がたくさん読んでいるとわたしは思います。」という文章で記述している。こ
の児童はグラフに対する批判的な読み、つまり読書冊数が読書量を表すのではないことにズレを
感じているというよりは、自分の実体験とグラフの結果にズレを感じ、それを文章化している。
学力を ABC の3段階で評価すると、この児童の実態は、C+である。普段は文章を書くことに抵
抗感をもっている。第7時の授業分析での児童⑥と⑧の発言者でもある。さらに授業での発言が、
意見文の中に意見として記述することができている。思考したことを言語化し、記述している。
本研究の手立てが有効であることが言える。
-12-
次に、「メディア別の広告費の変化」を引用した意見文である。
『題 テレビと新聞ではどちらがよいか(省略)では、テレビのほうが、新聞より優れているので広告費が多いのでしょうか。
わたしは、そういいきれないと考えます。一つ目は、テレビでは、言葉でなにか放送するけど、新聞では書くことしかできな
いので、テレビのほうがだんぜん早いということです。だから早さの面ではテレビのほうが優れているといえます。二つ目は、
くわしさです。テレビでは、サラサラと事けんの内容を放送しているけど、新聞では事件のあったところの近所の人のコメン
トなどがくわしくのっているからです。だから、くわしさの面では、新聞のほうが優れているといえます。このグラフを読ん
で考えたことは、テレビと新聞では、テレビは早さが優れている、新聞では、くわしさの面が優れています。だから、どちら
がいいかは、いいきれないと思います。』
この児童は、テレビと新聞の2つのメディアに着
目して、テレビの方が新聞より広告費が高いのは、
優れているからだとは言い切れないと考えている。
それを3つのステップにしたがって記述しており、
自分の生活経験と結び付けている。
広告費の高さをメディア媒体の優劣に置き換える
ために「ではテレビのほうが、新聞より優れている
ので広告費が多いのでしょうか。
」
と第1ステップで
記述している。また、題も「テレビと新聞ではどち
らがよいか」としている。第2ステップで立場2(そ
う思わない)であることを記述している。第3ステ
ップでテレビと新聞のそれぞれのよさを生活経験と
結びつけて記述している。そして、最後の段落で第
図3
意見形成のある意見文
2ステップで言い切れないと考えた理由をまとめて
いる。
この児童は意見の形成過程である3つのステップを型として理解しているのではなく、この3つ
のステップから、自分の意見を生み出しているといえる。
イ
意見の形成過程から脱却した意見文
意見の形成過程を経て、さらに発展し3つのステップから脱却した意見文の例を挙げる。
「百貨店、
大型スーパー、コンビニエンスストアの売上高のうごき」を引用している意見文である。
『題 これからのコンビに・スーパー・百貨店について(省略)ぼくは、スーパーやコンビニは、たくさん店舗があるけど、
百貨店は、少ないのか不思議に思い、売上高を調べてみました。(省略)ぼくは、この結果で考えたことは、百貨店の売上高
が減っている理由は、最近は、スーパーやコンビニエンスストアのほうが行く機械(ママ)が多くなったからだと考えます。
逆にコンビニエンスストアや大型スーパーは、便利で近いから売り上げがのびていると考えます。では、これからは、どこが
上がっていき、下がっていくのでしょうか。ぼくは今の状態がしばらく続くと考えます。なぜなら、さっき言ったように、百
貨店は行く機会がなくなっているからです。しかし、百貨店側が身近なものにしてくれたり、通いやすくなるような手を打っ
たら状況は変わると思います。コンビニエンスストアは、二十四時間で新聞やざっし、おにぎりなどのちょっとした時に買う
ことができ、店舗をたくさん増やしていけば、一位になれることができると思います。大型スーパーは、何でもあるというこ
とが強みだから何かイベントか値下げなどをやり、コンビニエンスストアのように、店舗を増やし、身近なものにすると、コ
ンビニエンスストアに差をつけることができると思います。ぼくは、このグラフを見て分かったことは、身近で便利な大型ス
ーパーやコンビニなどは、売上高がのび、行く機会のない百貨店は、売上高が低いことが分かりました。』
この児童は、グラフに対して2つの問いをもっている。まず、
「スーパーやコンビニは、たくさん
店舗があるけど、百貨店は、少ないのか不思議に思い」と記述している。これは、生活経験から、
スーパーとコンビニに対しての百貨店の店舗数に違いがあることに気付き、その理由を考えるため
-13-
に、売上高に着目すると記述している。そ
して、グラフから読み取った百貨店の売上
高の現象と大型スーパーとコンビニエン
スストアの売上高の増加を「便利で近い」
「行く機会の多さ」という生活経験をもと
にして記述している。これから、店舗数の
多さが「便利で近い」
「行く機会の多さ」
につながるという児童の思考の流れが分
かるが、その記述は見られない。次に、
「こ
れからは、どこが上がっていき、下がって
いくのでしょうか。」と記述している。こ
れからのグラフの予測を第1ステップと
して記述している。第2ステップとして、
幾通りかある現象から「今の状態がしばら
図4
3ステップから脱却した意見文
く続く」と自分の立場を決めている。第3
ステップでは「百貨店が行く機会がない」と生活経験をもとに記述している。この2つの問いに対
して、百貨店、コンビニエンスストア、大型スーパーそれぞれが売上高を伸ばす手立てを自分の経
験をもとに記述している。
1つ目の問いから2つ目の問いを生み出す文章構成は、「天気を予想する」で学んでいる。さら
に、意見の形成過程にとらわれず、アレンジして意見を記述することができている。「読むこと」
と「書くこと」を関連させて指導を行うことと意見の形成過程を授業で取り扱うことの成果である
と考えられる。
Ⅵ
今後の意見文指導の在り方
1
意見文指導における非連続型テキスト(グラフ)の取り扱い
本単元は「読むこと」と「書くこと」の関連的指導を行い、その紐帯が「グラフの引用」であっ
た。グラフをもとに意見を形成する過程の時間を設定し、丁寧に行った。さらに、社会科において
グラフの読み取りの指導は年間を通して行った。そのため、グラフの題や数値の読み取り、変化の
様子は全ての児童ができるようになっている。しかし、授業で取り扱わない初めての初読のグラフ
に対して、児童がグラフそのものをどう解釈するか、グラフの内容までの読み取りを行うのは難し
い様子が意見文から分かった。非連続型テキストであるグラフへの批判的な読みや解釈の仕方は重
要な指導すべき内容である。それは意見文指導と別に取り扱い、意見文は意見文として、意見の形
成過程にのみ焦点を当て指導する方向性がある。
2 意見の形成過程の発展
意見文を分析する中で、意見の形成過程の今後の発展する姿が見えた。
『題 中高生の本の読み方(省略)では、小学生が中高生よりたくさん読書していると考えられるでしょうか。私は自分の生
活から考えてそう言い切れると考えました。理由は二つあります。はじめに、小学生より中学高校生は、帰ってくるのがおそ
いしテスト勉強などでいそがしいというのは本当のことですが、私がバレーがある日の時間帯と帰ってくる時がいっしょだし
それに宿題は、部活の前にやるので、家に帰ってひまそうです。わたしは、そういうときに本を読めばいいのにと思います。
もう一つの理由は、休日の過ごし方です。私は習い事があるのでほとんど家にいませんが中学生は試合なので負けて早く終わ
って帰ってきて遊んでいます。(省略)』
この児童は、第3スッテプの生活経験から理由を考える際、中学生の姉を見て、忙しいのは本当
だが、本を読む時間はあると反論している。つまり、第3ステップの中に反論を含んでいるのであ
-14-
る。先にも述べたが、繰り返す。本当に深
く踏み込めば、必ず対立物が表れてくる。
大西道雄は次のように述べている。「主体
が自己の立場を明確にするということは、
対象のもつ、障害のある状況、対立関係の
構造的認識が深まることを意味しており、
主体における自己の立場の明確化は、意見
の萌芽とも言うべき、『こうしたらいいの
ではないか』
『こうあってほしい』といっ
た、漠然とした観念を形成する。このよう
な観念を明確化するためには、当然、その
意見の根源となる対象についての『問題』
図5
意識が明確になっていなければならない。」
1)
このことから、3つのステップに「反論」
反論を内包した記述のある意見文
という要素を加えていく方向性が考えられる。第6学年の意見文においては、意見文により説得力
をもたせる目的で、予想される反論とそれに対する反論という指導事項がある。それを型で指導す
るのではなく、意見の形成を目指す指導を行う中で、児童が無意識に内包する反論をメタ認知させ、
文章化していく方向を目指したい。
3
思考の言語化と文章化
本研究において、児童に意見をもたせそれが記述された意見文を目指した。そのため、児童が自
分だけで思考する段階から、授業を通して友達や教師と対話することで自分の考えを言語化する段
階、最後に文章として記述する段階があった。
授業分析と意見文分析を通して、思考したことを発言することで自分の考えをメタ認知すること、
さらにそれを文章として記述することで自分の考えを再びメタ認知することが分かった。しかし、
思考を言語化し、さらに文章化する難しさもあった。児童が考えたことが発達段階によりうまく言
語化できない様子や、文章化できない様子も見られた。このうまくできないところを授業として手
立てをとっていくことが教師の役割である。特に、教師は思考と言語化、文章化の関係と、児童の
発達段階の結び付きを認識した授業になるよう配慮すべきである。
Ⅶ
おわりに
国語科は言葉の教科である。国語科として身に付けさせるべき言葉の力を、児童自身が日常生活で
使えるようにしていき、児童の人生が豊かなものになるように願う。そのために児童の日常から目的
意識をもたせ、学習内容として認識させる。そして、再び日常へ返していく。その具体から抽象へ、
さらに具体へという繰り返しが授業であり、児童の学びではないかと考える。そんな授業を目指して
いきたい。
【引用・参考文献】
1)作文教育における創構指導の研究(大西道雄、溪水社、1997年)
2)反論の技術—その意義と訓練方法—(香西秀信、明治図書、2001年)
3)小学校学習指導要領解説
4)国語三下
国語編(文部科学省、2008年)
あおぞら、国語四下
はばたき、国語五
銀河、国語六
5)ヴィゴツキー入門(柴田義松、子どもの未来社、2013年)
6)新訳版・思考と言語(柴田義松、新読書社、2012年)
-15-
創造(光村図書、2011年)
平成26年度
宮崎市教職員教育研究論文
実感を伴った理解を図る理科学習の在り方
~第4学年理科学習(地球領域)の「夜空を見上げて」
における宮崎科学技術館との博学連携の取組を通して~
「小学校の部」
宮崎市立檍小学校
教諭 横山
登
Ⅰ 研究主題
実感を伴った理解を図る理科学習の在り方
~第4学年理科学習(地球領域)の「夜空を見上げて」における宮崎科学技術館との
博学連携の取組を通して~
Ⅱ 主題設定の理由
平成20年3月に改訂された新学習指導要領では、
「生きる力」を育成することや知識・
技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること等を基本的なね
らいとしている。その解説に「知識基盤社会」における持続可能な発展を見据えつつ、国
際的に低い理数教育への意欲を高めるために「理数教育の充実」が改訂のポイントとして
示してある。また、新学習指導要領の理科の目標には「自然の事物・現象について実感を
伴った理解」が示してあり、
「実感を伴った理解」が新しく追加されている。
「実感を伴った理解」には、
「具体的な体験を通して形づくられる理解」、「主体的な問
題解決を通して得られる理解」
、
「実際の自然や生活との関係への認識を含む理解」と3つ
の側面がある。1)
また、平成25年度に行われたみやざき小中学校学習状況調査の理科の分析結果から、
宮崎地区の児童のB問題(活用)及び、
「思考・表現」における正答率及び達成率が低いと
いう現状がある。2)学習したことを日常生活と関連させて活用して考えをもつこと等が苦
手な傾向であることが分かる。
これらのことから、児童が「自然の事物・現象の理解」において実感を伴って理解して
いくために、体験活動や問題解決の充実、身近な日常生活との関連を図った授業改善を一
層行い、指導に当たることが必要となる。
そこで、
注目したのが学習指導要領解説理科編の指導計画の作成と内容の取り扱い
(3)
にある「博物館や科学学習センターなどとの連携、協力」の記述である。そこには、
「理科
の学習を効果的に行い、児童の実感を伴った理解を図るために、博物館や科学センターな
どと連携、協力を図りながら、それらを積極的に活用するように配慮すること」という記
述がある。3)
今回、第4学年理科学習「夜空を見上げて」においても「地球」領域に関連する博物館・
科学センターである宮崎科学技術館(以下科学館)との連携を効果的に行うことが児童の
実感を伴った理解を図ることにつながることが期待できる。
博物館と学校との連携の在り方のことを“博学連携”と言う。
(以下博学連携)博学連携
がなかなか進まないことについて、
「博学連携はなぜ広がらないのか」
(日高ら、2012)
において「同じ展示物を見ても、博物館関係者と学校関係者では視点が違うことを関係者
が相互理解しなければ博学連携は広がらない」4)ことを述べている。理科を授業するに当
たって、学習内容の実感を伴った理解を図るために、どのように連携を図ることが効果が
高いか教師として考えて取り組む必要がある。
また、
「博物館と学校連携への期待」
(中山、2013)では、
「教師が博物館との連携し
た教育の充実感を実感するようになれば、博物館と連携した事例がきっと増えてくる。
」5)
との記述がある。このことから考えると、教師としてまず、意識的に博物館との連携の在
り方を探り、児童が生き生きと学習に取り組む姿を目指し、積極的な博学連携を進めるこ
とが大切であると考える。
本校は、校区に隣接する場所に科学館があり、昨年度も理科の学習で科学館を見学し、
- 16 -
プラネタリウムの見学等の体験活動を行っている。そして、
「情報活用の実践力を育成する
理科学習の在り方」
(横山、2013)の研究では、科学館のプラネタリウムの体験活動を
学習で活用し、情報を整理し、まとめる等の効果を高めた実践6)がある。ただ、教育課程
の関係から何度も科学館での体験活動は難しく、意図的、計画的な連携の在り方の研究、
実践が求められる。
そこで、本年度は、第4学年理科学習(地球領域)の「夜空を見上げて」における宮崎
科学技術館との効果的な博学連携の在り方を通して「実感を伴った理解を図る理科学習の
在り方」を研究主題として研究を行うことにした。
Ⅲ 研究目的
児童の実感を伴った理解を図るために、
「実感を伴った理解」についての学習の考え方や
地球領域学習「夜空を見上げて」における宮崎科学技術館との博学連携の在り方について
究明する。
Ⅳ 研究仮説
理科学習における「実感を伴った理解」の考え方を整理し、宮崎科学技術館との博学連
携を効果的に行いながら授業を実践すれば、
児童の実感を伴った理解を図ることができる。
Ⅴ 研究構想
【研究主題】
実感を伴った理解を図る理科学習の在り方
~第4学年理科学習(地球領域)の「夜空を見上げて」における宮崎科学技術館との博
学連携の取組を通して~
実態調査
実感を伴った理解
を図る理科学習に
かかわる意識調査
(調査問題の作
成、実施、分析)
理論研究
実感を伴った理解を図る
3つの側面の考え方
博学連携の考え方
指導計画作りに向けて
宮崎科学技術館との博学
連携
授業実践
第4学年 理科
7月、10月~12月
「月は日によって形は
どのように変わるか。
」
「月の美しさやおもし
ろさを感じ取ろう」
Ⅵ 研究の実際
1 実態調査
小学校学習指導要領解説理科編(文部科学省)には理科の目標において示してある「実
感を伴った理解」について3つの側面の説明7)がある。その3つの側面を【表1】のよ
うに整理した。
【表1「実感を伴った理解」の説明】
3つの側面
「実感を伴った理解」の説明
具体的な体験を通して
自らの諸感覚を働かせて、観察、実験などの具体的な体験を
形づくられる理解
通して自然の事物・現象について調べることによる理解であ
る。
主体的な問題解決を通
自らの問題意識に支えられ、見通しをもって観察、実験を中
して得られる理解
心とした問題解決に取り組むことによる理解である。
実際の自然や生活との
実際の自然や生活との関係への認識を含む理解である。
関係への認識を含む理解
- 17 -
理科学習において「実感を伴った理解」を図るために、理科学習の意識調査(対象:本学
級児童 36 名、実施時期:7 月)を行った。調査用紙には、理科の興味・関心や「実感を伴っ
た理解」に関わる3つの側面の中から「地球」領域に関わる質問を設け、4段階で回答する
ようにした。その中から理科学習への興味関心や月や星の観察体験等について抽出した集計
結果が【図1】である。
児童の回答を集計してみると、理科学
習や宇宙への興味関心や月や星を観察し
(%)
たい思いがあると肯定的に答えた児童は
9割を超え、理科学習や宇宙への高い興
味関心があることが分かった。一方で月
や星を観察した経験のある児童は5割程
度であり、月や星の観察経験に個人差が
ある。目的意識をもち、天体の観察の仕
【図1 学習意識調査(7月)】
方を学べば、児童自ら観察を楽しむ経験
が増え、実感を伴った理解につながることが考えられる。
今回の博学連携の対象となる宮崎科学技術館(以下科学館)には、学校で教えることに役
立つ天体に関わる豊富な情報がある。教師が科学館と連携を図ることで、児童の学習意欲が
一層高まることが期待できる。児童に科学館を訪れた回数を聞くと、多くの児童が複数回訪
れており、科学館に親しんでいることが分かる。プラネタリウムの体験や館内にある展示物
の体験を楽しんでいる。しかし、例えば、月の学習に関係のあるアポロ11号のイーグル号
について月に関わる情報を尋ねるとあまりはっきりとした答えが返ってこない等、宇宙のイ
メージが漠然としていることが分かる。
そこで、理科学習において、科学館との効果的に博学連携を行い、児童の実感を伴った理
解を図ることを目指し、研究を進めることにした。
2 理論研究
(1) 「地球」領域における「実感を伴った理解」の基本的な考え方
ア「地球」領域の特性について
理科の内容区分は「粒子」
「エネルギー」
「生命」
「地球」の4つの領域に分けられ
ている。その中の「地球」領域の体験は観察が中心である。観察とは、
“実際の時間、
空間の中で具体的な自然の存在や変化をとらえること”8)である。領域の特性とし
て、
“時間や空間のスケールが大きいこと”9)があり、特性を意識した取組が必要
になる。児童は、日頃から身近に月や星を見ている。しかし、天体の観察は時間や
空間のスケールが大きいために、観察において天候や時間帯が影響したり、方位や
角度等の位置情報が分かりにくくなったりすることが多い。学習を進めるに当たっ
ては、月や星の方位や角度などの位置情報を教師が意識的に把握したり、児童の継
続観察の期間や時間帯等の設定や言葉かけに配慮をしたりする等の工夫をする。
イ 研究で目指す児童の姿の設定
本研究を進めるに当たって、児童の「実感を伴った理解」を図るために、【表2】
に研究で目指す児童の姿の設定をした。その際、課題となった“児童の観察経験の
個人差”や“実感を伴った理解の3つの側面”、“地球領域の特性”等を基にした。
- 18 -
【表2 研究で目指す姿】
実感を伴った理解
体験を通して形づくら
れる理解
主体的な問題解決を通
して得られる理解
実際の自然や生活との
関係への認識を含む理解
目 指 す 姿
天体の美しさや素晴らしさを感じ取る体験や継続的
な観察を通して自らの見方や考え方をもつことができ
る。
問題意識を基に月や星の観察記録を取り、データを基
に結果を整理し、考察し、結論付けをすることができる。
日常の観察において前の観察と比べて、考えたり、学
習したことを生かし、日常生活の観察でとらえ直したり
することができる。
ウ 「地球」領域における3つの側面の考え方
単元の学習を進めるに当たって、“指導計画にどのように3つの側面を取り入れ
て指導をするか意識をすることで、児童の実感を伴った理解を図ることができると
考え、3つの側面の考え方を【表3】に示した。
【表3 3つの側面の考え方】
3つの側面
3つの側面の考え方
体験の充実には、
“天体に対する感動を生む体験”と“問題解決に
おける継続的な観察での体験”が考えられる。観察の動機付けとな
る天体現象に目を向けさせたり、天体の美しさやおもしろさを感じ
体験の充実
(側面1)
取らせたりする体験により児童の主体的な問題解決につなげる。
「地球」領域の特性を踏まえながら、日常生活で観察が複数回で
きるように、気付きや発見を生み出す観察の充実を図る。観察に対
する見通しを明確に意識させるために、教師が的確な情報をもち、
観察を促す。
児童一人一人が自らの問題意識を基に観察を充実させ、観察によ
主体的な
問題解決
(側面2)
るデータを基にした結果の整理、考察、結論付けの一連の問題解決
の過程を大切にする。観察で得たデータを持ち寄り、データを分析
し、月の形や動きの傾向を見付けていく学習を行う。
そのために、観察時間、時期を確保する等の児童の観察を充実さ
せることのできる学習指導計画の工夫を行う。
“学習したことを生活とのかかわりの中でとらえなおすこと”が
学習の日常化である。月や星の観察では、各家庭の観察が多くなる
ので、教師の働きかけが大切である。
学習の日常化
(側面3)
継続的な観察において日々の各家庭学習で学習の日常化が出てく
る。観察において月や星の存在や位置、前の観察との違いや同じ傾
向等の変化をとらえることで観察の楽しみが出てくる。また、問題
解決で得た結論を基にした観察も考えられる。日々の生活において、
学習したことを生かし、とらえ直す。このことが、学力調査等で問
われている“活用力”の育成につながると考える。
- 19 -
これらの3つの側面
の関係を【図2】に表
した。体験を充実さ
せることを基盤にし
て、主体的な問題解
決を行い、学習の日
常化につなげていく
ことがそれぞれつな
がっており、その関
係を示した。
児童の実感を伴っ
た理解を図る指導計
画を作成する上での
参考にした。
(2) 博学連携の考え方
【図2 3つの側面の関係図】
博学連携は、
“博物館と学校がどのように連携していくか”について博物館と学校
との連携を示すものである。
博学連携の在り方については「教師のための博物館の効果的利用法」
(大堀、19
97)では、学校教育と博物館の学びについて、学校教育は「現実や実践からどう
しても遊離しがちになる」
、社会教育は「実際の生活に直結した課題などが学習者の
中心になり、学習者個人や社会的な現実の問題に関する要求に応えざるを得ない場
面が少なくない」とそれぞれの立場が示してあり、学校教育と社会教育は「公教育」
という「車」を動かす両輪の輪であると述べている。10)
このことから考えると、学校教育はこれまで学習したことを日常生活に結び付け
た学習が十分に行われにくいことがわかる。そして、博学連携を通して、学校の学
びに博物館の学びのよさを取り入れていけば、実感を伴った理解につながると考え
られる。
また、ジョージ・E・ハイン(2010)の「博物館で学ぶ」では「人々は博物
館の中で独特で驚くべきつながりを作り出す」
「来館者が不思議に思ったり、探求し
たり、心を開いたりする経験」や「新しい体験や美的な体験」を実現する」
「博物館
は伝統的な学校教育を実践したり、特定の事実や概念を学んだりするには向かない」
と述べている。11)博物館での学びでは知的好奇心を高めたり、広げたりする等、
多様な学びができることや博物館と学校の学びには違いがあることなど博物館での
学びの特性があることがわかる。
このことから博物館の
“新しい体験や美的な体験”
などを学習の問題に対して必要に応じて取り入れれば学習の効果が高まると考えら
れる。
さらに、博物館での学びの考え方として参考となる取組に“アウト・リーチ”と
“ハンズ・オン”がある。
“アウト・リーチ”とは、博物館から外に出て行う取組のことを指す。その中で、
学校の授業に取り入れられるものの1つとして、館外での展示がある。12)子ども
達にとって主体的に学習に取り組むことにつながる“感動を生む”展示物の活用が
- 20 -
できれば、学習の効果が高まると考えられる。また、博物館の展示の情報を学習
課題に沿って紹介できれば、博物館を訪れる際に展示物に注目でき、学びを焦点
化することができると考えられる。
“ハンズ・オン”展示とは、参加体験型展示で科学館等の展示物そのものに工
夫を加えることで、
実験装置を自由に動かすことができる展示が開発されている。
13)
学校の学びにおいても“アウト・リーチ”展示において“ハンズ・オン”展
示の工夫ができれば、効果がさらに高まると考えられる。
しかし、
“ハンズ・オン”展示における体験活動において、理解や思考を伴わな
い体験活動だけでは十分な教育効果がないとの指摘(ハイン、2010)14)も
あり、体験活動で高まった子どもの興味・関心を理解や思考につなげていく必要
がある。
博学連携の教師と指導員との協力については、博物館概論(吉田、2011)
に博物館側と学校側からの連携の在り方についての記述があり、その中で、学校
側の連携の在り方として、学校にとって博物館は、授業を進めるための豊富な資
料と情報を集積した場所である15)と述べてある。教師と指導員が相互に協力し
あい、相談を密にすることが連携の効果を高めることにつながる。
これらの考え方から、博学連携の視点を以下のように考えた。
○ 博物館の体験のよさ(新しい体験、美的体験)を学校の学びに取り入れる。
○ 学校の学びに博物館の学びを取り入れる際には、学習の課題や問題に応じ
思考の伴うものにする。展示物活用では、“アウト・リーチ”展示(博物館
の展示を学習を活用)や“ハンズ・オン”展示(参加体験型展示)があり、
驚きや感動を生む体験ができるようにする。
○ 教師と指導員が連絡を密にして相互に協力し合う。
(3) 博学連携による実感を伴った理解を図る学習指導計画作りに向けて
博学連携による実感を伴った理解を図る学習指導計画作りに向けて科学館との
博学連携を示した関係図が【図3】である。
科学館の豊富な情
報や展示物を
活用し理科学
習の問題解
決にどのよ
うに取り入
れていくか
を表してい
る。特に博
物館の展示
物から得ら
れる感動体
験を取り入
れたり、理
【図3 実感を伴った理解と博学連携の関係図】
- 21 -
解を深める場面で展示物を活用したりすると効果があると考えた。また、科学館
から得られる的確な情報を基に指導計画を立てる上での参考にした。
(4) 単元「空を見上げて」における宮崎科学技術館との博学連携
学習計画の作成に向けて、事前に科学館と打合せを行ってきた。その連携、協力で得
て、活用した情報を紹介する。
ア 科学技術館の展示物・体験の活用
(ア)「授業に使える展示物~学校利用ガイドブック~」(科学館の展示物の把握)
宮崎科学技術館から学校の利用を促進する資料として「授業に使える展示物~
学校利用ガイドブック~」
(宮崎文化振興協会、2013)16)が紹介された。
このガイドブックには、「地球」領域の学習計画を作成するに当たり、“どのような学習
内容で、どんな展示物があり、展示物でどんな説明ができるか”が分かり、展示物の利
用やプラネタリウム等の体験に関わる基本的な考えをもつことができる。
例えば、小学校4年では学習内容「月と星」では、展示物の「ジェミニカプセル」(アポ
ロ11号・イーグル号)が活用できることが分かる。また、展示物には説明があり、学習に
おける説明で活用できる。
(イ) 展示物の活用(イーグル号・アポロ11号月面着陸の情報)
月の学習の発展の学習として、「月
についてもっと調べよう」と月の興味・
関心を高める学習がある。その学習
の効果を高める科学館の展示として
有効なものに“イーグル号”がある。
教科書には、【図4】のように 月
面の様子があり、アポロ11号の着陸
船イーグル号の実物大の模型の展
示があることや月面の岩や砂がある
17)
様子など
【図4 科学館展示と教科書写真】
を関連させて紹介することができる。見学時に展示を見学すると効果的であ
ると考えられる。
(ウ) 月の立体展示をする機器(「ダジック・アース」の活用
天体の美しさを感じ取ることができ
る展示物の1つに「ダジック・アー
ス」18)がある。
「ダジック・アー
ス」は、京都大学大学院理学研究
科の斉藤氏が中心となって取り組
んでいるものであり、今回、科学
館から活用について紹介していた
だいた。
「ダジック・アース」は、 【図5 教科書写真と「ダジック・アース」機器】
地球や惑星、月を手軽に立体表示することができる。立体表示させるソフトを大
型の球にプロジェクターで投影させ、現実感をもたせて表示できる。科学館で展
示されたことがあり、展示物を学校で活用する「アウト・リーチ」展示ができる。
また、パソコンのコントローラーの活用で、月を回転させることができ、
“ハンズ・
- 22 -
オン”展示ができる。
【図5】のように教科書に掲載されている月の裏側を「ダッ
ジク・アース」で体験ができる。
(エ) プラネタリウムの体験にかかわる情報
宮崎科学技術館には、季節の星空
を天球に投影するプラネタリウムがあ
る。4年生では、夏の大三角や冬の大
三角の学習があり、プラネタリウムを見
学すると効果的である。プラネタリウム
の番組の中では、見学したその日の
星空の投影ができる。今回の連携で
は、実際の学校の校庭の写真の画像
を科学館のプラネタリウムの投影と組み 【図6 檍小から見える夏の大三角の予想図】
合わせて、より実感をもたせた。その日の星空と組み合わせた星空の投影をすることで、
校庭から見た星空を体験し、校庭にある木々から方位等の星空の位置が分かりやすく
なる。【図6】は、実際に投影されたプラネタリウムの星空情報で7月1日の午後9時に檍
小の校庭から見ることのできる夏の大三角の星座の予想図を示したものである。
イ 科学館の指導員との情報交換~学習内容にかかわ
る情報提供~
(ア) 「月の位置情報」を的確につかむための情報
学校で使用している教科書の月の観察の学習に
おいて、【図7】のように観察において月の方位や
高さの調べ方が記載されている。
児童に日常生活において、観察を進んで行わせ
ていくために、まずは、教師が月の位置情報をしっ
かりと把握しておく必要がある。 月の位置
【図7 高さ・方位の説明】
情報を把握するために、科学館に国立
天文台のホームページ「暦計算室」19)を
教えていただいた。そのホームページか
ら月の観察をするに当たって教師が方
位や角度月齢等の情報を入手でき、
【図8】のように学校の運動場から見える。
月の予想図が作成でき、児童の観察
を促すことができる。
3 授業実践
【図8 檍小から見える月の予想図】
博学連携による児童の「実感を伴った理解」を意図的・計画的に図るために指導計画に
「博学連携の関連」の欄を設けた。授業実践で、2つの事例を紹介する。
(1) 検証単元名 第4学年 理科 「月や星」
(2) 単元のねらい
天体について興味・関心をもって追究する活動を通して、月や星の動きと時間の経過
を関連付ける能力を育てるとともに、それらについての月や星の特徴や動きについての見
方や考え方をもつことができるようにする。
- 23 -
(3) 学習指導計画の工夫
学習指導計画の作成に当たっては、
空を見上げ ると (2 ) 「月や星」(8 時間)
指導計画
1
月や星(1時間)
月の動き(1時間)
2
( 月の継続観察)
4・5 月の動きのまとめ
星の動き(2時間)
6
7
まとめ・力だめし
8
【図9】のように2時間目の後に、月の
時間数
観察期間(10月~11月)を設け、継
続観察ができるようにし、
その期間に他
の単元を並行して行った。また、継続観
察の期間に月の美しさや面白さを感じ
取る学習を行い、
月の継続観察の意欲付
けを行った。
(4) 検証授業Ⅰ(単元2時間目・4時間目)
3時間目
発展学習:
月につい
て調べよう
【図9 学習指導計画の工夫】
ア 活動のねらい
○ 月を観察し、月の位置を調べ、月の特徴や動きの考えをもつことができる。
イ 科学館との博学連携
○ 月の位置情報(国立天文台のホームページ等)で教師が的確な位置情報をつかん
だり、問題解決のまとめに展示物(
「ダジック・アース」
)を活用したりする。
ウ 学習指導計画(単元2時間分)
主な学習内容及び学習活動
1
本時学習について話し
合う。
2 問題を話し合う。
指導上の留意点
○ 皆既月食等の天体現象
元
4 観察の方法を学ぶ。
2
〔月の位置の計測方法]
時
○
間
目
興味・関心をもたせる。
・ 月の観察に関わる月の暦
等の情報を適切につかむ。
・ 国立天文台のホームペー
ジの暦計算室の活用
○ 月の形の変化や動きに
ついて予想する。
方位磁針での方位の
見方
○ げんこつでの角度の
測り方について
〇 児童一人一人に観察
記録を取ることができ
るように、観察の仕方
観察カードの記入の
をきちんと学ばせ、観
仕方(目印の記入、方
察のデータを取ること
位、時刻、角度の位置
ができるようにする。
○
【連携による月の的確
な位置情報の収集】
月はどのように動くだろうか。
3 予想する。
理解との関連及び児童の姿
等から、月の形や動きに
月は日によってどのように形が変わるだろうか。また、
単
博学連携による実感を伴った
【図10 げんこつで角度を
測る練習をする児童】
等定点観測について)
【月の継続観察(10月~11月)】
地球領域の特性を踏まえ、継続観察の期間を設け、日常
生活の中で、観察を促した。観察カードによる記録以外に
家庭学習(宅習ノート)で行うようにした。
教師は月の位置情報を適切にもった上で、帰りの会等で、
【図11 児童の記録】
“今日はどんな月が出ると思う?”と投げかけた。
※ 児童の天体への興味関心を高める授業をこの期間に行う。→事例2で紹介する。
- 24 -
主な学習内容及び学習活動
1
これまでの観察を振り
返る
指導上の留意点
〇
博学連携による実感を伴った
理解との関連及び児童の姿
これまでの継続してき
た観察を振り返る。
2 問題を確認する。
月は日によってどのように形が変わるだろうか。
〇
3 結果の整理をする。
見比べて、日付、時間、
[個人]
方位、月の形の情報を1 【図12 観察記録をワークシ
ートにまとめる児童
枚のカードにまとめ、
○
学級全体でデータ化をす
[表やグラフへの整理・考察]
これまでの観察記録
をまとめる。
〇
カードを記入し、黒
板に貼る。
3
時
これまでの観察記録を
児童】
ることで、科学的な手続
きによる考察につなげ
る。
[グループ・全体]
4 考察をする。
間
○
目
【図13 観察記録を黒板に整
理し、傾向を見る児童】
黒板に貼ってあるカ
ードから、データの傾向
〇
カードを黒板にそれぞ
を見て、考察をする。
れ貼ることで、自分と他
考察の内容
・ 夕方8時ごろ三日月は西
の空にあるが、満月は東の
空にある。月は日によって
形が変わり、夕方見える場
所が変わる。
・ 10月28日と11月2
7日に三日月が見られた
ので、次は12月の終わり
ごろ見れそうである。
の人のデータを比べ、月
○
【アウト・リーチ展示】
・ 【ダジック・アース】の月
の満ち欠け映像でのまとめ】
の出た日や形にかかわる
考察をする。
〇
ダジック・アースには
月の満ち欠けのコンテン
ツがあり、どのように満
ち欠けをするか映像で確
かめる。
【図14 月の満ち欠けの展示】
月の満ち欠けの映像で
のまとめをする。
5 結論付けをする
月は日によって形が変わり、約1ケ月するとまた同じ形を見ることができる。
(5) 検証授業Ⅱ(単元3時間目)
ア 活動のねらい
○ 月や惑星などの天体の美しさや面白さを感じ取り、月や惑星などの天体に対する
興味・関心をもつことができるようにする。
イ 科学館との博学連携
○ 月等の天体への興味・関心を高める科学館の展示物情報(アポロ11号イーグル
号の展示物の紹介や「ダジック・アース」の立体展示機器の活用)を基に、天体
への興味・関心を高め、主体的な問題解決につなげる。
- 25 -
ウ 学習指導計画(単元1時間分)
主な学習内容及び学習活動
1 月について話し合う。
2 めあてを話し合う。
博学連携による実感を伴った
理解との関連及び児童の姿
指導上の留意点
〇 「ダジック・アース」に
ついて紹介する。
月についてもっと知り、美しさやおもしろさを感じ取ろう。
3 月について学ぶ。
・ 地球と月の大きさについ
て(地球の直径の4分の
1)
〇 「ダジック・アース」を
使いながら地球と月の大
きさ比べを体感させる。
〇
【図15「ダジック・アース」
月の展示を見ながら
の活用】
月の模様を想像したり、ア
・ 【ダジック・アース】の月
ポロ11号が着陸した地
の表面の様子や月の裏側の
・クレーターというくぼ
点を示したりして、「ダジ
体験】
単
み
ック・アース」の月の展示
元
・月のもようの見え方
と組み合わせて理解を深
・地球から月までの距離
〇 月の表面について
3
〇
月に宇宙船が降りた場
時
所
間
・岩や砂で覆われている
目
める。
科学館の展示物写真と
「ダジック・アース」の月
〇 月の裏を見た人の数
の立体展示を組み合わせ
〇 月の裏を見る体験
て、実感をもたせる。
・
「アウト・リーチ」展示、 〇
【図16 立体展示での説明】
・ 【ダジック・アース】の月
児童に月を回転させ、月
「ハンズ・オン」体験を
の裏側の観察を疑似体験
する。
させる。
の裏側や惑星を回転する体
験】
わく星について知り、美しさやおもしろさを感じ取ろう。
〇 太陽系の惑星について
・ 惑星の疑似体験
4 本時のまとめをする。
・ 感想を発表する。
〇 「ダジック・アース」で
木星等の惑星を展示し、回
転する等して木星の観察
をさせ、興味・関心を高め 【図17 木星を回転させる
る。
児童】
⑶ 授業の成果
ア 授業実践Ⅰの成果
〔天体の美しさや素晴らしさを感じ取る体験〕
単元に入る時に児童の天体への興味・関心を高める
ために、10月8日の皆既月食の天体現象に注目し、
皆既月食の観察に向けて詳しい情報を科学館から得る
ことができた。その中で国立天文台のホームページの
情報を基に掲示物を作成し、児童に紹介した。皆既月
食の当日は曇り気味で、少ししか見ることができなか
ったが、
【図18】のように児童の中に観察をする児童
が見られた。その現象についてはテレビの報道等も見
【図18
皆既月食の観察記録】
せた。このことから月の形や動きについての動機づけを行うことができ、
“月は日に
- 26 -
よってどのように形が変わるだろうか。また、月はどのように動くだろうか。
”とい
う問いにつながった。
〔月の形や動きを調べる継続的な観察体験の充実〕
科学館から月の位置情報について、“国立天文台の暦
計算室”を紹介していただいたことで、教師が月の位置
情報を把握することが確実にできた。そして、児童の観
測を促す上で役立った。
“どんな月が出ると思う?“、
“ど
この空に出ると思う?”と観察前に自ら考えさせ、前の
観察を思い出させながら、どんな月が出るか考えさせた
上での観察ができた。
月の形や動きを調べる活動は、10月から11月にか
けて行った。教科書には“長い時間、観察すると月は・・・
のように動くことが分かる”とのまとめの記述があるよ
【図19
半月を観察する児童】
うに、月の観察は長い時間が必要である。その観察期間
を長く設けたことで、児童自ら多くの観察データをもつ
ことができた。
観察を促す方法として、教師が三日月や満月が出ると
予測される日に宿題として出したり、自らの家庭学習と
して観察できる人が行ったりする等した。
また、11月14日には、“朝9時ごろに南西の空に
下弦の月が出る”という予測の基に体育の時間前に観測
をするという計画を立て、児童に“どんな月が出るか”
考えさせた上で、運動場での観察を行った。
【図20
児童の家庭学習のノート】
児童は、
【図19】のようにげんこつで角度を測り、
南西の空に出ている月を観察した。科学館からの的確な
情報提供のおかげで、児童の長い期間の観察体験を充実
させることができた。
【図20】は、家庭学習で記録し
た児童のノートである。他の教科の学習と共によく心が
けて記録していることが分かる。
[観察記録を表したカードによる結果の整理・考察]
“月は、日によって形は変わるだろうか。”の問いに
対して調べてきたことを整理し、考察する学習を行った。 【図21
カードを黒板に貼り、方位と時刻、月の形の傾向をみた。
月の観察記録の整理】
【図21】では、午後8時ごろには南の空で半月(上限
の月)をみることができることが分かる。クラスの児童
が自ら調べたデータをもとに考察したことで自ら“月が
日によって形が変わる”という科学的な見方や考え方を
もつことができ、主体的な問題解決による理解につなが
【図22
ったと考える。
【図22】の児童は10月28日の三日月と11月
- 27 -
考えを発表する児童】
27日の三日月を比べ、同じ所に三日月があることから、三日月は月の終わりごろ
に見つけることができることを見付けた。このことから、三日月は月の同じ頃でる
のかなという考えも出て、理解を深める児童が見られた。
〔学習後の家庭学習から〕
児童の中には、月の学習のまとめの後に家庭学習で自ら“月のノート”を作成し、
観察できていなかった朝に見ることができる月齢(25~28の月)を調べ、意欲
的に記録する児童が見られた。
イ 授業実践Ⅱの成果
[月の美しさや面白さを感じ取る学習]
継続的な観察の意欲を高めていくために、
“月の美しさや面白さを感じ取る学習” を行っ
た。
【図23】にあるように科学館にある科学館
の月の展示物と「ダジック・アース」の展示を
組み合わせて見せたことで、立体的な月の映像
を見ながら、宇宙船イーグルがどこに着陸した
【図23イーグル号について学ぶ児童】
か等が分かりやすく学ぶことができた。
また、
「図24」のように「ダジック・アース」
の月の回転機能を使って、月の裏の様子を見る
ことができ、普段見られない月のもようを楽し
む姿があった。
学習の事前に科学館の展示物を見て回ったり
「ダジック・アース」の活用の仕方を学んだこ
とが、授業を組み立てる時に、情報を焦点化す
ることができ、有効であった。
【図24「ダジック・アース」を体験
する児童】
Ⅶ 児童の変容から全体考察
1 学習意識調査の結果・考察
【図25】のように学習
(%)
後に学習意識調査(実施時
期7月、12月)を行った。
7月と12月を比べてみる
と理科学習の興味・関心が
として依然と高いことが分
かる。
(%)
また、月や星を観察した
いという思いが高く、全員
の児童が興味・関心がある
と答え、天体の美しさや素
晴らしさを感じ取る学習等
の効果があった
さらに、月や星の継続し
【図25 学習意識調査9月、12月】
- 28 -
た観察経験も100%と全員が観察を経験でき主体的
な問題解決ができた。
月や星についての家庭学習や学びを生かした観察に
ついての回答も高い意識があることがわかり、児童が
各家庭で意欲的に観察をしたり、学習後も学習を生か
して観察をしていることが分かる。
また、意識調査では、そこには以下のような記述が
あった。
「月や星の学習の観察」について、
「夏の大三角の星 【図26 夏の大三角の
まとめ】
や星座の学習では、
【図26】のように運動場から見た
夏の大三角をまとめるなど“夏の大三角がくすの木を
目印にすることでどこにあるかわかった”
、
「月の観察」
の学習では、
“月の観察ですごくきれいな三日月を観察
できた。”
、“三日月を家のベランダで午後8時ごろ2
回見た。”
、
“三日月はどんどん西へ行っていた。
”
、
“半
月はまだ観察をしていないので、次は半月の観察をし
たい。”、“月の模様がいろんな形に見えて面白かっ
た。”、“お母さんと外に出て満月や半月、三日月等の
月を見ていろいろな月があることがわかった。お母さ
んと観察するのが楽しくなった。”等の記述があった。
【図27】三日月の観察記録
このように、観察しているうちに月の美しさを感じ、家庭で楽しむ姿があった。ま
た、
「観察の仕方」について“ちゃんとげんこつで測って、まわりの家を書くこと
に気を付けた。
”
、
“目印に木や家を書いた。
”、
“方角を間違えないように気を付けた。”
等、月の位置を意識しながら観察ができていた。そして、【図27】のように月の
形を“ねずみがクッキーを食べた形”に喩える児童や“月が太っていく”と連続し
て変化することのおもしろさを感じている児童がおり、月の形や月の動きが変化し
ていくことを見付けるおもしろさを感じていた。
「ダジック・アース」等の展示物の活用については、
“立体的で見やすく、月の裏
側を見たのが面白かった。月の裏にあなが“ぼこっ”とあいていて面白かった。”
、
“「ダジック・アース」を動かしたとき面白かったし、楽しかった。
”、
“月の裏にク
レーターがたくさんあって驚いた。”また、“月はつるつるだと思っていたら、「ダ
ジック・アース」で見るとぼこぼこしていてすごいと思った。
”このように、立体
的な展示に感動したり、月の形の変化について学びを深めたりすることができた。
2 評価テストの結果・考察
【図28】は学習後に行った
評価テストの結果である。結果
を見ると全体的によい得点(平
均点)が取れている。特に、体
験充実を行った月に関わる設問
【図28評価テストの結果】
で高い得点が取れている。星の
様子や明るさについては、星の並び方についての設問で間違えている児童が多く見
- 29 -
られた。このことからは実際の観察と言葉が結び付くことの大切さを感じた。評価
テストの結果を見ても、実感を伴った理解を図ってきたことが、児童の学力につな
がっていたことが分かる。
Ⅷ 研究の成果と課題
1 研究の成果
本研究では、科学館との博学連携を行うことにより、児童が感動を生む体験が授業の
中に積極的に取り入れられ、また、展示の説明に関する活用や展示物の体験を通して、
児童の学びを深めることができた。さらに、連携により得た月や星の適確な位置情報に
より、児童に継続的な観察を促すことができ、このような体験が主体的な問題解決につ
ながっていったと考えられる。一方で、考察の段階においては、博学連携で得た情報を
より効果的に活用することが不十分であったため、この点については今後更なる検討を
重ね、児童にとってより効果的な博学連携となるように改善していきたい。
学習の日常化については、学習したことを基にして家庭学習を行う姿があり、学習の
とらえ直しができた。さらに科学館で学び直しをすると学習が深まっていくと考える。
これらのことから、博学連携による豊富な情報や展示物の活用をどのように指導計画
に取り入れるか焦点化し、工夫したことで児童の実感を伴った理解を図ることができた
と言える。
2 研究の課題
今回、理科の「地球」領域において宮崎科学技術館との博学連携を進めてきた。理科
の「地球」領域以外の領域や他の学年でも進めることが可能である。そこで、本研究を
他の学年、領域に広げていきたい。また、宮崎には他にも博物館がある。理科以外の他
教科においても効果的に博学連携を進めることが大切である。児童の実感を伴った理解
がさらに深めることができるように、これからも児童の実感を伴った理解や活用力を高
める研究を進めていきたい。
引用文献
1)小学校学習指導要領解説 理科編 (文部科学省 2008)
2)平成26年度 地域の課題解決を図る授業研究会資料
学力向上対策(宮崎地区 小学校理科)について(県教育委員会 2014)
3)小学校学習指導要領解説 理科編 (文部科学省 2008)
4)
「博学連携はなぜ広まらないか」
(日高俊一郎、福松東一、隈元修一、里岡亜紀、中山迅 日本理科教育学会2012)
5)
「博学連携と学校連携への期待」
(中山迅 日本理科教育学会 2013)
6)
「情報活用の実践力を育成する理科学習の在り方」
(横山登、宮崎市教育情報研修センター2013)
7)小学校学習指導要領解説 理科編 (文部科学省 平成20年8月)
、 8), 9) 同上書
10)教師のための博物館の効果的利用法(大堀哲、東京堂出版 1997)
11)博物館で学ぶ(ジョージ・H・ハイン、同成社、2010)
12)新時代の博物館学(全国大学博物館学講座協議会西日本部会 2012 芙蓉書房出版)
13)博物館学Ⅱ(大堀哲、竹内有理 学文社 2012)
14)博物館で学ぶ(ジョージ・H・ハイン、同成社、2010)
15)博物館概論(吉田健司 放送大学教育振興会 2011)
16)授業で使える展示物―学校利用ガイドブック (宮崎文化振興協会 2013)
17)わくわく理科4(教科書)
(啓林館 2010年3月検定)
18)
「ダジック・アース」http://www.dagik.net/
京都大学大学院理学研究科の地球科学輻合部可視化グループ(リーダー:齊藤昭則)
19)国立天文台天文情報センター暦計算室
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
- 30 -
平成26年度
宮崎市教職員教育研究論文
キャリア発達を促す「子どもの手による運動会」の有効性
「小学校の部」
宮 崎市立 小戸小学 校
教 諭 長曽我部 博
研究主題
キャリア発達を促す「子どもの手による運動会」の有効性
Ⅰ はじめに
中央教育審議会(2011)は、近年の子どもの発達上の問題として、身体的には成熟傾向であるにもかか
わらず精神的・社会的自立が遅れる傾向等を指摘している。また、子ども・若者の変化として職業人とし
ての基本的な能力の低下や職業意識・職業観の未熟さ等も挙げている。これらの背景には、幼少期からの
様々な体験の機会や異年齢者との交流が乏しくなったことや、豊かで成熟した社会にあって人々の価値観
や生き方が多様化したことなどが考えられる。このような課題に対応するために、キャリア発達を促す教
育(=キャリア教育)の充実が求められている。その中でも、学校から社会への円滑な移行に必要な力の
要素として「基礎的・汎用的能力」を位置付け、この能力を身に付けることがキャリア発達を促す上で重
要であることが示された。
キャリア教育の充実のために各地で様々な取組がなされており、職場体験学習や地域貢献活動などの実
践報告も見られる。その中で、多くの地域で実践されている活動が「運動会」を通した取組である(国立
教育政策研究所、2011;文部科学省、20112))
。学校行事としての運動会のもつ教育的意義については、こ
れまで多岐にわたる報告がなされている。青野(2002)は、幼児期の運動会においては、練習を積んだ達
成感のある内容や集団の中で約束を守ってみんなと活動する内容(協調性)
、我慢する体験(忍耐力)等の
内容が必要であることを報告している。また、簗瀬・市野・永田(1988)は、中学校の運動会は、運動継
続意識を高めることや運動に対する認識を高めることに有効であることを報告している。岡・広瀬(2000)
は、小学校の情緒学級在籍児童と通常の学級在籍児童が相互理解を深める上で、運動会は効果のある行事
であることを報告している。土屋(2007)は、自発的な運動会プロジェクトチームの取組を通して、児童
の自己活動力・自己決定力・実践力が高まったことを報告している。倉本(2005)の報告によると、運動
会は児童の自発性・集団性を育み、心身の成長を助長する教育的行事であるとともに、保護者や地域との
協働を図り教職員の共通理解によって実施される組織的実践であることを、カリキュラムマネジメントの
視点から整理している。つまり、運動会は児童が楽しみな行事であるだけでなく、他者と協力・調整する
場面、練習・準備の場面、自分達の競技順を待つ場面、運動技能を発揮する場面等、多くの学習内容を含
んでいる。
キャリア教育の視点で取り組んだ湯口小学校の実践(2007)では、運動会における自主的活動等を話し
合い、準備や当日の活動を通して「役割や責任を果たすこと」
「めあてに向かって努力することの大事さ」
等を学んでいくことが報告されている。また、徳山小学校の実践(2014)では、
「なりたい自分発見」を中
心テーマとして位置付け、係の仕事、準備、当日の活動を通して「真剣な取組と全力を出し切ったこと」
を成果として報告している。しかし、これら実践報告の多くはその実践過程の説明が多く、運動会におい
て教師が期待する成長や、参加する児童が力を入れて取り組む点、また児童の成長した点等について基礎
的・汎用的能力との関連で具体的に整理されているわけではない。
さて、対象校の運動会は、運動会当日に教師がテントから出ることなく、子どもの手で運動会を運営す
ることが特徴となっている。通称「子どもの手による運動会」
(以下、
『運動会』と記す。
)である。この取
組が始まって平成 26 年度で8回目を迎えた。この取組によって、教師は何らかの手応えを感じ、児童も自
- 31 -
身の成長を感じているようである。しかし、体育主任から提案される資料や対象校(宮崎市立小戸小学校)
の研究紀要(2012)で、
『運動会』の目的やめざす児童の姿、教師のかかわり等については整理しているも
のの、この実践によっての教育的効果については細かく分析されていない。
そこで、本研究の目的は2つある。第1は、
『運動会』において、児童がどのような点に力を入れて取り
組んだのかについて整理することである。第2は『運動会』に対して、教師がどのような点に意義を感じ
て運動会に取り組ませているかについても整理する。それらを通して、
『運動会』の取組が児童のキャリア
発達を促すのか、その有効性について検討したい。
Ⅱ 方 法
1 対象者
本研究の対象者は、宮崎市立小戸小学校に在籍
する第1学年から第6学年児童364名と管理
職を含む教師28名である。対象者の内訳は表1
に示す通りである。
2 調査方法
表1 対象者の内訳
児童(人数)
教師(人数)
学年
男子
女子
男性
女性
1
37
26
2
37
23
3
34
26
10
18
4
27
25
5
32
34
6
32
31
計
199
165
28
調査方法は、児童と教師に対しての質問紙法である。
児童側の調査内容は『運動会』でがんばったことと感想である(資料1)
。教師側の調査内容は『運動
会』の意義、児童の成長した部分、実践に向けての配慮事項についてである(資料2)
。
(1)質問紙の作成法
選択式の調査項目は、
「小学校キャリア教育の手引き」
(文部科学省、2011)に示された基礎的・汎
用的能力の4つの具体的な力「人間関係形成・社会形成能力」
「自己理解・自己管理能力」
「課題対応
能力」
「キャリアプランニング能力」に対応するように設定した。
教師側の質問紙は、前述した4つの具体的な力それぞれに含まれる具体的な要素を参考にして質問
項目を決定した。児童側の質問紙は、教師側の質問項目の意味を反映できるような表現で作成した。
さらに、教師側と児童側の質問番号が対応するようにした。なお、教師側の質問項目にのみ「達成感」
を加え、選択肢とした。
表2は基礎的・汎用的能力の4つの具体的な力と質問項目の関係を示したものである。
(2)回答の方法
児童に対しては、
「該当する」と考えるすべての質問番号に○を付けて回答するよう学級担任が説明
した後、調査した。教師に対しては、
「該当する」と考えるすべての質問番号の( )内に○を付け
ることを説明した。また、意義については、下学年と上学年それぞれに対して答えることを説明し調
査した。
- 32 -
表2 基礎的・汎用的能力の具体的な力と質問項目の関係
具体的な力
人間関係形成・
社会形成能力
自己理解・
自己管理能力
課題対応能力
キャリア
プランニング能力
児童側の質問項目
ア:友達やほかの学年のことを考えながら取
り組んだ
オ:協力できるように声をかけた
ケ:みんながもり上がるように声を出した
ス:負けたり思い通りにならなかったりして
も、結果を受け入れた
イ:上級生の言うことを聞いて取り組んだ
カ:自分勝手をしないように気を付けた
コ:友だちと楽しみながら取り組んだ
セ:これまでの自分よりも力を出し切れた
ウ:責任をもって自分の仕事をした
キ:とにかく一生懸命がんばった
サ:周りの様子を見ながら考えて取り組んだ
ソ:自信をもって係の仕事ができた
エ:練習など計画を立てて実行していった
ク:ルール違反がないか自分たちで決めた
シ:自分から進んで動いた
教師側の質問項目
ア:他者意識
オ:調整力や協力する力
ケ:盛り上げる力(リーダーシップ)
ス:受容する力
イ:約束やルールを守る
カ:忍耐力(自分勝手をしない)
コ:楽しむ力
セ:過去と今の自分を比較する力
ウ:責任感
キ:実行力
サ:状況を把握する力
ソ:自信をもって取り組むこと
エ:計画的にすすめる力
ク:判断力・自己決定力
シ:自分から参加する力
タ:達成感
3 処理の方法
選択肢における得点は次の式で算出した。また、教師側の調査
において「運動会」の意義と児童の成長した部分の相関係数を求
め、2項間の関係をみることとした。
選択人数
得点=
☓100
回答者全員の数
Ⅲ 結 果
1 児童のがんばった点
表3は、児童側への質問「運動会で『がんばった』ことは何ですか(練習のときの思いも)
。
」に対す
る回答を学年ごとに整理し、得点の高い順から上位5項目までをゴシック体で示した。なお表中の数字
は、各学年での得点を( )内は学年での順位を示している。
高学年においては、上位4項目が同じ項目となっていた。
「責任をもって自分の仕事をした」が一番高
く6年が87点、5年が86点となった。次に「自信をもって係の仕事ができた」がそれぞれ83点と
なった。特に、基礎的・汎用的能力のうち「課題対応能力」に力を入れて取り組んでいたことがうかが
われた。
中学年においては、4つの項目が高い成績となった。4年は「負
けたり思い通りにならなかったりしても、結果を受け入れた」が
63点で一番高く、次に「これまでの自分よりも力を出し切れた」
、
「とにかく一生懸命がんばった」がそれぞれ62点となった。3
年は、
「これまでの自分よりも力を出し切れた」が87点で一番
高く、次に「上級生の言うことを聞いて取り組んだ」
、
「自分勝手
をしないように気を付けた」
、
「友だちと楽しみながら取り組んだ」
- 33 -
写真1 応援練習の様子
表3 運動会で頑張ったこと(得点と順位)
社
会
形
成
能
力
自
己
管
理
能
力
人
間
関
係
形
成
自
己
理
解
・
課
題
対
応
能
力
キャリアプラン
ニング
能
力
選択項目
ア 友達やほかの学年のことを考えながら取り組んだ
オ 協力できるように声をかけた
ケ みんながもり上がるように声を出した
ス 負けたり思い通りにならなかったりしても、結果を
受け入れた
平
均
イ 上級生の言うことを聞いて取り組んだ
カ 自分勝手をしないように気を付けた
コ 友だちと楽しみながら取り組んだ
セ これまでの自分よりも力を出し切れた
平
均
ウ 責任をもって自分の仕事をした
キ とにかく一生懸命がんばった
サ 周りの様子を見ながら、考えて取り組んだ
ソ 自信をもって係の仕事ができた
平
均
エ 練習など計画を立てて実行していった
ク ルール違反がないか、自分たちで決めた
シ 自分から進んで動いた
平
均
1年
81
78
76
2年
60
47
67(3)
3年
70
58
78(5)
4年
38
38
38
5年
55
55
52
6年
54
44
54
79
60
78(5)
63(1)
67(4)
65(4)
68.5
84(4) 68(1)
79
67(3)
53
86(2)
87(1) 65(5)
73.6
83(5)
60
75
62
48
71
83(5) 68(1)
68.8
55
54
58
73
86(2)
53
63.2
57.6
85(2) 56(4)
85(2) 56(4)
85(2)
42
87(1) 62(2)
69.8
72
23
77
62(2)
65
48
37
15
49.9
53
23
30
8
63
35
35.3
55.8
44
2
64(5)
51
59
54
62
65(4)
50.1
86(1)
87(1)
68(3)
71(3)
52
48
83(2)
83(2)
72.3
39
38
18
8
61
43
34.5
がそれぞれ85点となった。
低学年では、3つの項目が共通して高い成績となった。2年は「上級生の言うことを聞いて取り組んだ」
、
「自信をもって係の仕事ができた」が68点で一番高く、次に「自分勝手をしないように気を付けた」
、
「み
んなが盛り上がるように声を出した」が65点となった。1年は「これまでの自分よりも力を出し切れた」
が87点で一番高く、次に「友だちと楽しみながら取り組んだ」
、
「自分から進んで動いた」が86点とな
った。低・中学年共に、基礎的・汎用的能力のうち「自己理解・自己管理能力」に力を入れて取り組んで
いたことがうかがわれた。
「これまでの自分よりも力を出し切れた」の項目は、すべての学年において高
い成績となっていた。
表4は、児童側への質問「子どもの手による運動会をやってみて、どんなことを考えましたか。感想で
もいいです。
」に対する回答で、共通した内容の記述を高・中・低学年それぞれに整理し、その出現件数
の多い方から順に4項目を示したものである。児童の感想の抜粋も併せて示した。
どの学年においても「楽しくできた」の項目が多く、全学年で84件記述されていた。高学年において
は、
「達成感があった」が46件で一番多く、
「協力が大事だと思った」が44件、
「伝統を守ってほしい」
が30件の順に多く記述されていた。中学年においては、
「5・6年生みたいにやってみたい・憧れる」
が27件で一番多く、次に「一生懸命がんばった」が19件、「自分で考えてやることが大事」が17件
となった。低学年においては、
「楽しくできた」が37件で一番多く、
「一生懸命頑張った」が24件、
「来
年はもっとよくしたい」が13件、
「5・6年生はすごい」が11件の順に多く記述されていた。
- 34 -
表4 記述された内容の上位4項目(出現件数)
5・6年
達成感があった
件
協力が大事だと思った
伝統を守ってほしい
楽しくできた
44
30
29
46
3・4年
5・6 年生みたいにやってみたい
・憧れる
一生懸命がんばった
楽しくできた
自分で考えてやることが大事
件
27
19
18
17
1・2年
楽しくできた
件
一生懸命がんばった
来年はもっとよくしたい
5・6年生はすごい
24
13
11
37
【5年女子】
【6年女子】
【2年男子】
【6年女子】
【1年男子】
【4年女子】
2 事前の指導
(1)各学年での指導
表5は、
『運動会』に向けた練習の中で各学年の担任や担当者が配慮した事前指導を整理したもので
ある。実際の指導期間は、9月1日から9月26日までの約3週間であった。
全学年とも共通して出てきた指導は、
「号令係の児童を決める」ことで児童が自ら活動できるように
したことや「運動会当日は自分たちの力で動く」ことを何度も話して、自分たちが進んで活動する意
識付けを図っていた。また、児童の力だけで活動できるように運動会当日を想定して、様々な場面の
動きを確認したことが挙げられていた。さらに、低学年では「上学年の指示を守ること」が指導され、
高学年では「責任をもって行動する」ことが指導されていた。
(2)各係での指導
表6は、
『運動会』に向けた練習の中で各係の担当者が配慮した事前指導を整理したものである。実
際の係打ち合わせは、業間時間に2回、6校時に4回設定され、係によっては昼休みに4〜5回程度
の練習を行った。
すべての係において、係の仕事内容と役割分担の確認を行っていた。また、プログラムにそって活
動内容の確認を進めた係が多かった。さらに、
『運動会』の進行や勝敗内容を放送する係においては、
アナウンスの例を事前に作成し児童に持たせることで、児童が自信をもって係の仕事ができるような
支援をとっている係もみられた。体育主任からは、係の担当が誰になっても児童に適切な指導ができ
るよう係運営のマニュアル作成の依頼があり、それに基づいて係の指導や準備ができるようになって
いた。
- 35 -
表5 各学年における事前指導
学年
1年
2年
3年
4年
5年
6年
全校児童
に対し
児童への配慮や指導
・ 合図や号令などの担当者を決め、全体を動かす機会を与えることで、責任をもたせ、行動力
を付けさせるようにした。
・ その時々に何をすればよいかを教える。1年生だと運動会のイメージがなく、経験も少ない
ので何のためにやっているか、どう動けばよいかなどを教えた(徒走後の集合の仕方と退場の
仕方、団技「玉入れ」の一連の動きなど)。
・ 教師は近くにいないことを何度も言い聞かせ、並び方や「いつ、どう」動くのかを何度も練
習させて、自分たちで動けるようにし、少しずつ手を離した。
・ 上学年の指示を守ることを何度も確認した。
・ 困ったときは、団のテントに戻り相談すること(尋ねること)を全体に伝えた。
・ みんなといっしょに動くように話した。
・ 自分勝手をせずに、力を合わせて力いっぱい競技することを練習の度に話した。
・ 一連の動きをスムーズに行えるように練習した。
・ 競技のルールをしっかり理解するように、確認しながら進めた。
・ 5・6年の係の指示を理解して行動することを何度も話した。
・ 自分や周りのことを考えて行動することを練習の度に確認した。
・ 自分たちだけで動けるようにするために、「この時にはこうする」というように指導した。
また、号令係を作った。
・
・
・
・
・
団の一員としての自覚をもたせる。
リーダーの指導のもとで、応援練習を楽しませる。
自主性を日頃から育てた。
みんなといっしょに動くことを確認した。
入場や退場で号令をかける児童を決めた。
・
・
・
・
入退場の仕方を児童自身でできるよう、号令係を決めた。
団技の道具の準備、片付け担当の児童を決めた。
運動会当日に、自信をもって動けるよう繰り返し練習した。
高学年の動きをしっかり見るよう促し、来年やりたい係を見つけることを指示した。
・ それぞれ競技の号令係を決め、その号令に合わせて動けるようにした。
・ 団技は反則がはっきりするように、ルールを考え直した。
・ 役員としてしっかり行動できるように、目標をもたせ、「責任」という部分で繰り返し話を
してきた。
・ 自分の係に責任をもつこと。
・ 大人でも失敗するのだから、子どもの手では失敗が十分あり得る。だから、決して失敗や間
違いを責めてはならないことを確認した。
・
・
・
・
高学年なので、ある程度指導したらあとは自分たちで出来るように任せる部分も多かった。
6年生としてどうあるべきかを考えさせた。
6年生として求められる役割と責任を自覚して行動するように指導した。
組体操や学年リレーなどの入退場の合図をかける役目を決めた。
・ 普段から「応援しているよ」「見ているよ」という声かけを行った。
※ 実際の指導期間は、9月1日から9月26日の約3週間であった。
- 36 -
係 名
採 点
リーダー
用具準備
決勝審判
放 送
新入児
出発準備
出発合図
召 集
表6 各係での事前指導
児童への配慮や指導
・ 採点の仕事内容の確認をする。
・ 着順カードをもれなく児童からもらい、間違いなく得点を計算する。
・ 採点方法の練習をする。
・ 成績発表の練習をする。
・ 分かりやすい成績発表を行うために、原稿を書かせて発表をさせる。
・ 決勝審判との連携を図る。
・ 児童の自主性に任せた。
・ 児童のアイデアを大事にしながら、どうしても必要なときに口を出すようにした。
・ 目立つ立場ではあるが、リーダーは脇役であることを意識させた。
・ 児童の担当する用具と配置について運動会当日に戸惑わないように、しっかり児童自身
でできるように指導した。
・ 用具準備係は運動会全体の進行を左右する重要な役割であることを意識させた。
・ 入退場を含めて全力で取り組むことを意識して取り組ませた。
・ 自分の役割をしっかりやり遂げること(責任感)
・ 仕事を分担し、仕事内容ややり方の指導を行った。
・ 自分の担当はどこか、配当表を作成し明確にした。
・ 着順の判断に迷った時にどうするかの指導を行った(周りと相談することの確認)。
・ 着順を言う児童にセリフ例をもたせ、それを元に練習をさせた。
・ 自分たちで考えて準備すること
・ 分担一覧を配付し、道具類に使いやすいように表示をして配置した。
・ プログラムにそって動きを確認した。
・ アナウンス例を作って暗記させ、あらゆる場面に応用できるように手立てをとった。
・ シフト表を作って、自分で判断して CD や MD の入れ替え、スウィッチを入れるタイミン
グ等を考えさせるようにした。
・ 運動会を盛り上げられるよう、聴きやすい放送に努めさせた。
・ 大体の動きを説明した後、問題点や改善したい点を考えさせ、自分たちでどう動けばよ
いかを話し合わせた。
・ 過去の状況から、当日困りそうな場面を幾つか想定し、その時々の対応を考えさせた。
・ 当日の動きを繰り返し確認し、本番と同じように練習させた。
・ 呼びかけるときの声の大きさを意識させて練習させた。
・ 子どもたちの工夫やアイデアを活かせるようにした。
・ 必要なことをきちんと指導しておく
・ 助け合いながら活動することを伝えた。(5年は6年に聞く。6年は5年に教える。人
手の足りない時は手伝うなど)
・ プログラムに沿った役割分担を確認し、プログラムに分担を書き込んで、自分たちで確
認しながら取り組めるようにした。
・ 実践しながら指導を進めた。
安全確認(周囲2m 以内に人がいないこと)、準備物(スターター:ピストル・耳あて・
マイク、玉詰め者:ピストル・耳あて・紙雷管)
入場の仕方、スターターの位置と玉詰め者の位置、スタート時とゴール時の位置
ピストルを打つタイミング(旗の確認)、走者の確認(3・4コースの走者を見るよう
な体の向き)、セリフと姿勢、フライングの対応、等
・ 役割分担、手順、声のかけ方などをしっかり指導した。
・ 臨機応変に対応できるように、いろいろなパターンについても話をした。
・ みんなに聞こえるような声の大きさが必要なことを確認した。
・ 低学年児童の中に、聞き取れていない児童がいないかどうかの確認をすること
進 行
・ 運動会の運営を陰で支えているという意識をもたせるようにした。
救 護
・ 自分で判断して動くことを確認した。
・ 4〜6年各クラス2名(計12名)
・ 全8回、昼休みに練習を実施した。7月中に鏡(逆)の動きができるように練習した。
・ プログラム「ラジオ体操」での出入りの仕方や体操時の留意点について練習した。
・ 4~6年各クラス1名(計6名)
・ 結団式の運営・進行を行うため、段取りについて確認した。
・ 運動会当日の開会のことば・児童代表のことば・閉会のことばを担当するため、担当者
を決め、出入りの練習や発表原稿のチェックなど、式の流れに沿って練習した。
ラジオ体操
選抜隊
運動会実行
委員会
※ 係の準備は、業間時間に2回、6校時に4回設定され、係によっては昼休みに4〜5回程度実施した。
- 37 -
3 『運動会』に対する教師の意義と児童の成長
(1)運動会当日子どもに任せられる理由
表7は、教師側への質問「
『現時点では不十分』と思うことがあっても運動会当日に手を離すのはな
ぜですか。」の問いに対して回答された40件を、記述内容の近いもので分類するとともに件数の多
い順に示した。また、各分類内容を端的に表現しているキーワードを付して「理由欄」に記入した。
その結果、
「児童の力を信じるから」が15件となり一番多かった。次に、
「失敗しても、それが力
となるから」が9件、
「児童の判断力・決断力をつけるため」が6件、
「達成感を味わわせたいから」
が5件となった。
表7 現時点で不十分であっても手を離す理由
記述された内容
理由
件数
・ ある程度まではできるようになっているので、後は子どもたちを信じる
しかないから。
・ 前日までに指導したことが、今出来るすべてと思うくらいの気持ちで指
導を行うからこそ、本番は子どもを信じ、できない面は教師の責任と思う
ようにしているから。
・ できる。やれると思うから。それまでに繰り返し確認・練習するので、
何かあっても何とかするはずと信じる。
・ 「伝統を自分たちも引き継ぐんだ」という子どもたちの意識と行動力を
信じるから。
・ 完璧に出来るようになるまで手を離さないのであれば、離す機会は訪れ
ない。ある程度まで出来るようになったら、手を離すことによって、実践
の中で、子ども自身が高めていけると考えるから。等
児童の力を信じるから
15
・ 失敗しても、それがよい経験になると思うから
・ 何か失敗やつまずきがあってもそのことから学べることや今後どうすれ
ばよいのか考え、行動することが大切だから。
・ うまくいかないことがあっても当然という思いがあるから。
・ 子どもに任せる。任せた中で、失敗しながら学ぶ場があるのではないか
と思う。「なすことによって学ぶ」と考えるから
・ どうにかなると思うし、失敗した点があったとしても、それが子どもた
ちの次の力につながると思うから。子どもたちの力を信じているというよ
り、出来たほどという感じがある。等
失敗しても、それが力と
なるから
9
・ 伝統となりつつある「子どもの手による運動会」を児童自身が十分理解
している。子どもたちに考えさせて、行動させて、成長を促したいと思っ
ているから。
・ 運動会という特別な雰囲気の中で周囲から見られることで程よい緊張を
もって力を発揮するから。
・ 自分たちで考えることが大切だから。
・ 自主自立を目指しているから。等
児童の判断力・決断力を
つけるため
6
・ 子どもたちに「自分たちだけで出来た」という気持ちを感じてほしい。
・ 子ども自身の達成感を重んじているから。
・ 児童が主体的に取り組むことによって、責任感や達成感を味わわせ、自
己肯定感を高めることができると思うから。等
達成感を味わわせたい
から
5
・ そういう伝統だから
・ 子どもたちが、「自分たちで」という思いをもっている以上、できるだ
け任せるべきだと思うから。
・ 現時点から運動会までの間に、子どもが成長しているかもしれないから。 その他
・ 不十分でもやらせるというコンセンサスができており、それに外れない
ようにするため。
・ 自分たちでできるところまでは育てる。不十分の度合いによる。
- 38 -
5
(2)
『運動会』に対する教師の意義と児童の成長
表8は、教師側への質問「
『子どもの手による運動会』で、①期待や重きを置いている点、②成長を
感じる点はどこですか(複数回答可)
。
」に対する回答を整理したものである。
下学年の児童に対しては、
「忍耐力」が100点で一番高い結果となった。次に「約束やルールを守
る」が88点、さらに、
「自分から参加する力」
(69点)や「楽しむ力」
(65点)がそれに続いて
高い結果となった。特に、基礎的・汎用的能力の4つの具体的な力のうち「自己理解・自己管理能力」
の向上に意義を認めていることがうかがわれた。
上学年の児童に対しては、
「責任感」と「盛り上げる力」が92点で高い結果となった。次に、
「判
断力・自己決定力」と「自信をもって取り組むこと」が81点となった。特に、基礎的・汎用的能力
の4つの具体的な力のうち「課題対応能力」の向上に意義を認めていることがうかがわれた。
表8 『運動会』に対する意義と児童の成長
具体的
な力
社人
会間
形関
成係
能形
力成
下学年に対する
意義(点)
ア 他者意識
35
オ 調整力や協力する力
27
ケ 盛り上げる力(リーダーシップ)
8
ス 受容する力
8
平 均
19.5
質問項目
上学年に対する
意義(点)
54
62
92
58
66.5
成長を感じる点
(点)
35
50
69
12
41.5
自自
己己
管理
理解
能・
力
イ
カ
コ
セ
約束やルールを守る
忍耐力(自分勝手をしない)
楽しむ力
過去と今の自分を比較する力
平 均
88
100
65
12
66.3
46
31
50
42
42.3
38
31
27
12
27.0
課
題
対
応
能
力
ウ
キ
サ
ソ
責任感
実行力
状況を把握する力
自信をもって取り組むこと
平 均
4
12
31
46
23.3
92
73
77
81
80.8
73
50
38
65
56.5
4
15
69
29.3
69
81
54
68.0
15
58
27
33.3
77
62
ンプキ
グラャ
能 リ
力ンア
ニ
エ 計画的にすすめる力
ク 判断力・自己決定力
シ 自分から参加する力
平 均
タ 達成感
38
これらの結果に基づき、
『運動会』に期待する意義とそれを通しての児童の成長の2項間の関係を示
したのが図1である。上学年における2項間の相関は、r=0.751となり統計的に有意な正の相
関が認められた(t=4.255、p<0.01)
。ただし、下学年における2項間の相関は、r=
-0.153となり、相関関係は認められなかった。
- 39 -
r=−0.153
n.s.
r=0.751
p<0.01
図1 教師の「運動会」に対する意義得点と成長得点の相関関係
Ⅳ 考察
本研究では、教師がテントから出ない「子どもの手による運動会」が、キャリア発達を促すのに有効か
どうかについて検討した。
表3に示す通り、高学年児童は「責任感をもって自分の役割を果たそう」と取り組んでいたことがうか
がわれる。この取組の結果、多くの児童が「達成感を得られた」ことを感想で述べていた。
「責任感」は、
課題対応能力の一つであるが、自分の役割をきちんと果たすことが『運動会』の成功につながることを理
解して行動に移していたと考えられる。その態度を支えたのが、各係の担当教師の指導である。運動会当
日は児童にすべて任せることが前提となっているために、それまでに児童だけでしっかりと運営できる力
をつける必要がある。そのために、運動会当日から逆算して、手立てを講じていた(表6)
。役割を果たす
ためには、児童が仕事の内容や手順を分かっておく必要がある。また、細かな配慮事項を練習の中でイメ
ージさせることも必要となる。マニュアルが必要な児童もいれば困った時にどうするかについても配慮し
なければならない。つまり、
『運動会』の準備段階でどれだけしっかり練習できるかが重要であって、事前
の細かな支援があってこそなし得るものであると言える。しかも、その練習は児童の主体的なものでなけ
れば運動会当日に力を発揮するまでに高めることができない。したがって、児童のキャリア発達は教師の
指導・支援とともに児童の自主性や積極性があいまって、高めていくことになるのであろう。
キャリア発達を促すために教師の指導はもちろんであるが、この『運動会』では児童同士の学び合いが
キャリア発達につながっている場面があった。例えば、下学年児童は上学年児童の言うことを聞いて『運
動会』に参加していた。表5において、
「上学年の指示を守ること」を教師から指導は受けている。しかし、
高学年児童から言われたというだけで指示を聞くわけではない。高学年児童が示す姿を見て、その思いが
低学年の気持ちに響いたときに「5・6年生はすごい」と感じたり「5・6年生のようになりたい」と思
ったりするのであろう。そこでようやく、高学年の指示を自然と聞くようになる。しかし、低・中学年児
童が高学年児童を羨望の眼差しで見るようになるためには、高学年児童の動きを意識する必要がある。教
師からの促しがなくても感じ取ることができる児童がいる一方、意識できない児童もいる。そこで4年担
任は、次の年度になった際、現4年児童が役員として仕事を担うことを見越して、高学年児童の動きをし
- 40 -
っかり見ることを促していた。また、自分がやりたい・やれそうだと思える係を意識させていた(表5)
。
このような働きかけが、行事や活動に期待をもたせ、参加意欲を高めることへとつながっていくものと考
える。つまり、キャリア発達を促すためには、教師の指導だけではなく児童同士による学びの場を準備す
ることが重要だと考える。
この『運動会』では、児童が自ら判断し・決定しなければならない場面が非常に多い。決勝審判は、競
技の判定を下さなければならない。出発合図は、周囲の安全を確保しながら出発の白旗を確認してピスト
ルを打たなければならない。用具準備は、プログラムの時間に合わせて場所と準備物を間違わずに設置し
なければならない。競技に参加する1年生も、自分たちで入場して退場しなければならない。決められた
仕事を決められた手順で進められるような状況ばかりではなく、臨機応変に瞬時の判断を下す必要が出て
くる。教師があえてテントから出ないことによって、
『運動会』のあらゆる場面が、そこにいる児童にとっ
て自力解決の場となっている。表7において、
「完璧に出来るようになるまで手を離さないのであれば、離
す機会は訪れない。ある程度まで出来るようになったら、手を離すことによって、実践の中で、子ども自
身が高めていけると考えるから」の記述にあるように、教師がいかに手を離すか、子ども自身の手に委ね
られるかが問われているのかもしれない。これは、子育てにおける「子離れ」と同様、自立を促す上で必
要な設定であろう。
表8と図2の上学年児童に関する結果においては、「運動会に対する意義」と「児童の成長」の2項間
には正の相関が認められた。教師は、上学年児童の「課題対応能力」を高めることを期待して、『運動会』
に取り組ませており、その項目において、児童の成長を評価していた。「盛り上げる力」や「判断力・決
定力」についても同様であった。つまり、教師の考えや期待が教育効果に顕著に現れる結果となり、教師
の期待効果の研究(=ピグマリオン効果)と一致するものであった(Rosenthal, R. & Jacobson, L., 1968)。
また、教師は下学年児童に対して「自己理解・自己管理能力」の向上に重きを置き、上学年児童に対し
て「課題対応能力」や「人間関係形成・社会形成能力」の向上に重きを置いていた。つまり、『運動会』
という行事のもつ意義は多様であり、対象となる児童の発達段階に応じて重視すべき能力を選択しながら
教師は指導にあたっているのである。その働きかけによって、児童の取組も影響を受けるのであろう。表
3に示した児童の自己評価において、上学年児童は「課題対応能力」が、下学年児童は「自己理解・自己
管理能力」が高い結果を示して、教師の意図が児童に影響を与えていることを示唆するものであった。つ
まり、教師が意図をもって児童に働きかけることにより、児童がその意図を汲んで活動する。その結果と
して、児童の成長が図られる。このような循環が生まれることによって、キャリア発達が促されるものと
考えられた。
この『運動会』を通して、高学年児童は「課題対応能力」に、中・低学年児童は「自己理解・自己管理
能力」に力を入れて取り組んでいたことがうかがわれた。また、教師の評価では、
「責任感」や「盛り上げ
る力」
「自信をもって取り組むこと」など「課題対応能力」や「人間関係形成・社会形成能力」の点で成長
していた。以上のことから、この『運動会』は、児童のキャリア発達を促すのに有効な取組であったと言
える。なお、キャリア発達を促す運動会にするためには、児童同士の学び合いの場や児童自身の力だけで
物事を解決していく自立解決の機会を準備すること、
『運動会』に対して教師が意義を認め児童に働きかけ
ることなどが挙げられると考えられた。
- 41 -
Ⅴ おわりに
本研究では、
「子どもの手による運動会」の取組が、キャリア発達を促すのに有効かどうかを検討するた
めに、児童と教師に対し質問紙法で調査を行った。その結果、以下の3点において有効であることが明ら
かとなった。
1 『運動会』において、高学年児童は「課題対応能力」に力を入れ、中・低学年児童は「自己理解・
自己管理能力」に力を入れて取り組んでいた。
2 『運動会』を通して、児童は「責任感」や「盛り上げる力」
「自信をもって取り組むこと」などの点
で成長していたと、教師は評価した。
3 上学年児童における『運動会』の意義について、教師は「課題対応能力」の向上に意義を認め、下
学年児童においては「自己理解・自己管理能力」の向上に意義を認めていた。そして、上学年児童に
おける『運動会』の意義と児童の成長の2項間には統計的に有意な正の相関関係が認められ、教師の
考えや期待が教育効果に顕著に現れていた。
文 献
青野 光子(2002)幼児期の運動会に関する研究.日本体育学会大会号 (53): 469.
中央教育審議会(2011)今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申). 2-27.
花巻市立湯口小学校(2007)学校行事「運動会指導」におけるキャリア教育の展開例.小学校キャリア教
育・実践の手引き1 理論編. 52-54,岩手県立総合教育センター.
倉本 哲男(2005)特別活動におけるカリキュラムマネジメントの研究〜「運動会」を通した「学校改善」・
「学校づくり」の実践事例研究〜. 九州大学教育経営学研究紀要,8: 11-17.
宮崎市立小戸小学校(2012)平成 24 年度研究紀要,45−46.
文部科学省(2011)小学校キャリア教育の手引き〈改訂版>. 13-151), 58-602).
文部科学省国立教育政策研究所生徒指導研究センター(2011)キャリア発達にかかわる諸能力の育成に関
する調査研究報告書. 92-103.
岡 輝彦・広瀬 信雄(2000)情緒障害学級における授業の役割 ―子どもどうしの相互理解を育む―.
山梨大学教育実践学研究, 5: 25-32.
Rosenthal, R. & Jacobson, L. (1968) Pygmalion in the classroom: Teacher Expectation and Pupils'
Intellectual Development., Holt, Rinehart & Winston.
周南市立徳山小学校(2014)仲間と心に残る運動会にしよう〜一人ひとりができることを探そう〜.山口
県小学校キャリア教育実践事例集(山口県教育庁義務教育課 HP)
http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cmsdata/4/c/8/4c88d45ce7b4f660bf8f6ff96f145316.pdf,
(参照日 2014 年 9 月 20 日)
土屋 雅朗(2007)児童の主体性を育てる学校行事の取組:自発的な運動会計画集団=「運動会プロジェ
クトチーム」の取組みを通して.上越大学学校教育総合センター教育実践研究, 17: 199-204.
簗瀬 歩・市野 聖治・永田 靖章(1988)学校体育経営におけるプログラムサービスの有効性に関する
研究 ―総合運動プログラムをめぐる運動者行動の分析―.体育・スポーツ経営学研究, 5(1): 19-29.
- 42 -
資料1 児童側への調査
「子どもの手による運動会」について、思っていることや感じたことを答えてください。
これだと思うものに、いくつでもよいので○をつけましょう。そのほかにもあったら
内に書いてください。
年
組
名前
1 運動会で「がんばった」ことは何ですか(練習のときの思いも)
。
ア
○
イ
○
ウ
○
エ
○
オ
○
カ
○
キ
○
ク
○
ケ
○
コ
○
サ
○
シ
○
ス
○
セ
○
ソ
○
タ
○
友達や ほかの学年の ことを 考えながら 取り組んだ
上級生の 言うことを 聞いて 取り組んだ
責任をもって 自分の 仕事をした
練習など 計画を 立てて 実行していった
協力できるように 声をかけた
自分勝手を しないように 気をつけた
とにかく いっしょうけんめい がんばった
ルールいはんが ないか 自分たちで 決めた
みんなが もり上がるように 声を出した
友だちと 楽しみながら 取り組んだ
周りの 様子を 見ながら 考えて 取り組んだ
自分から 進んで動いた
負けたり思い通りにならなかったりしても、けっかを受け入れた
これまでの 自分よりも 力を 出し切れた
自信をもって 係の仕事が できた
そのた
2「子どもの手による運動会」をやってみて、どんなことを考えましたか。感想でもいいです。
ありがとうございました。
- 43 -
資料2 教師側への調査
担当の学年等について
低学年 ・ 中学年 ・ 高学年 ・ 専科等 ・ 特支
選択肢のある質問項目については、同意するものに対して○をつけてください。また、選択肢以外の
ものがあれば「その他」の
内に記述してください。
1「子どもの手による運動会」では、どのような点に期待や重きを置いていますか
(複数回答可)
。
ア
○
イ
○
ウ
○
エ
○
オ
○
カ
○
キ
○
ク
○
ケ
○
コ
○
サ
○
シ
○
ス
○
セ
○
ソ
○
タ
○
チ
○
①下学年児に対し
ア(
○
イ(
○
ウ(
○
エ(
○
オ(
○
カ(
○
キ(
○
ク(
○
ケ(
○
コ(
○
サ(
○
シ(
○
ス(
○
セ(
○
ソ(
○
タ(
○
他者意識
約束やルールを守る
責任感
計画的にすすめる力
調整力や協力する力
忍耐力(自分勝手をしない)
実行力
判断力・自己決定力
盛り上げる力(リーダーシップ)
楽しむ力
状況を把握する力
自分から参加する力
受容する力
過去と今の自分を比較する力
自信をもって取り組むこと
達成感
その他−→(
①上学年児に対し
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
)
(
)
②成長を感じる点
ア
○
イ
○
ウ
○
エ
○
オ
○
カ
○
キ
○
ク
○
ケ
○
コ
○
サ
○
シ
○
ス
○
セ
○
ソ
○
タ
○
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
【
】
)
2「子どもの手による運動会」にむけてどのような配慮や指導を行いましたか(記述)
。
担任/指導協力者の立場として
(学年や学級の児童に対して)
係担当者の立場として(係の児童に対して)
係名:
(
)係
3「現時点では不十分」と思うことがあっても運動会当日に手を離すのはなぜですか。
ありがとうございました。
- 44 -
平成26年度
宮崎市教職員教育研究論文
「学校・家庭・地域が一体となったキャリア教育の指導の在り方 」
~職場見学を取り入れた学級活動の実践を通して ~
「中学 校の 部」
宮崎市立宮崎東中学校
教 諭
三橋 正洋
Ⅰ
研究主題
「学 校・ 家庭 ・地 域が一 体と なっ たキ ャリア 教育 の指 導の 在り方 」
~職場 見学 を取 り入 れた学 級活 動の 実践 を通し て ~
Ⅱ
主題設定の理由
4年前、10年ぶりに学級担任となった。その時に最も戸惑ったのは、子どもの実態の
変化であった。総体的には真面目で素直であるが、耐性が不足している、周りを見て行動
することができない、互いの意思の疎通をとることが上手でない、心のゆとりがない、個
性を発揮できない等の子どもが増えていた。また学級や学校等での集団生活の意義や学習
の必要性を十分感じることができず、何となく毎日が過ぎ去っている様子も見られた。こ
れは子どもが変わったのではなく、子どもを取り巻く環境が変わったからだと感じた。と
同時に、この環境の変化に対応できる子どもを育てるには、粘り強く、自信をもってたく
ましく未来を切り拓いていくための教育、キャリア教育の推進が急務であると痛感した。
キャリア教育について、中央教育審議会は答申の中で、学校生活と社会生活や職業生活
を結び、関連付け、将来の夢と学業を結びつけること(平成23年「今後の学校における
キ ャ リ ア 教 育・職 業 教 育 の 在 り 方 に つ い て 」)や 、社 会 全 体 で 青 少 年 を「 社 会 の 子 」と し て
育て、親、教職員に次いで、地域の大人が言わば「第三の保護者」として青少年の育成に
積極的に、徹底的にかかわっていくこと(平成19年「次代を担う自立した青少年の育成
に 向 け て 」)の 重 要 性 を 提 言 し て い る 。ま た 、地 域 の 大 人 に つ い て は 、社 会 全 体 で 子 ど も を
育て守るためには、親でも教師でもない第三者と子どもとの新しい関係(ナナメの関係)
を つ く る こ と が 大 切 で あ る( 平 成 1 9 年「 次 代 を 担 う 自 立 し た 青 少 年 の 育 成 に 向 け て 」)と
あり、ナナメの関係の大人とのふれあいは、子どもが憧れをもってこれからの人生を歩ん
でいく中でも、有効な環境づくりであるといえる。
宮崎県教育委員会では「第二次宮崎県教育振興基本計画」の「自立した社会人・職業人
を育む教育の推進」の中で、地域産業界等との連携によるキャリア教育の推進を通して子
どもの夢や希望を育むことを施策として挙げている。この連携により、コミュニケーショ
ン能力などの社会人としての基本的な資質や能力や将来へ向けての意欲等を向上させるこ
とが期待される。
これを受けて、地域の大人を地域産業界ととらえ、その1つの形として企業人講師との
連携を意識して子どもの教育にあたることが、子どもに将来の夢と学業を結び付けてとら
えさせたり、地域の大人とのかかわりの中で新たな気づきをもたせたりすることに有効で
あると考えた。
そこで、今回、宮崎経済同友会の方の協力をいただき、企業人講師と学校、保護者との
関わりを意識した実践を行った。この実践を通して、学校・家庭・地域(または企業)で
子どもを見守り、励まし、導きながら、子どもが心身ともにたくましく、これからの社会
を生き抜く力を身につけることができるようにしたい、という願いから本研究を進めてい
くこととした。
- 45 -
Ⅲ
研究の目標
職場見学の体験学習を核として、企業や家庭との連携を意識した学級活動を行うことに
よって、子どもは課題対応能力やキャリアプランニング能力を身につけたり、学ぶことと
働くことの接点を見出したりすることができるかを検証する。
Ⅳ
研究の仮説
1
企業人講師との連携による体験学習や授業を意図的に設定すれば、子どもは学ぶこと
と働くことの接点を見出し、課題対応能力やキャリアプランニング能力を身につけるこ
とができるであろう。
2
体験学習の保護者コメント、授業参観、懇談など家庭との連携の場を意図的に設定す
れば、子どもは家庭の中で学習したことをさらに深化させ、キャリアプランニング能力
を高めることができるであろう。
3
子どもの自主的な活動を生かす場や手だてを工夫すれば、子どもは自信を深め、課題
対応能力を高めることができるであろう。
Ⅴ
研究を進めるにあたって
1
身につけてほしい能力の企業と学生との意識のずれについて
経 済 産 業 省 の 調 査 を み る と 、今 、社 会 で 求 め ら れ て い る 力 は 、
「基礎学力」
「専門知識」
に 加 え 、「 社 会 人 基 礎 力 ( 前 に 踏 み 出 す 力 、 考 え 抜 く 力 、 チ ー ム で 働 く 力 )」 で あ る と し
ている。しかし、企業が身につけてほしい能力と学生が身につけたい能力には、大きな
意 識 の ず れ が あ る と い う 。〔 表 ; 注 1 〕
身につける能力
学生の認識
粘り強さ、チームワーク力、主体性、コミュ
企業の認識
十分できている
まだまだ足りない
まだまだ足りない
できている(これ
ニケーション力
ビジネスマナー、語学力、業界の専門知識、
PCスキル
からでよい)
実 際 、企 業 の 方 の 話 か ら も 、
「 職 場 に 勤 め た 時 に 必 要 な 力 は 、自 分 の 意 見 を し っ か り 相 手
に 伝 え る 力 、人 の 発 表 を し っ か り 聞 く 力 、挨 拶 を し っ か り で き る 力 で あ る 。こ の こ と は 、
採用試験でも重要視しているし、近年、その力が不足している新入社員も見られるよう
に な っ た 。学 校 で も こ う い う こ と を 教 え て ほ し い 。」と あ る 。こ う し た 企 業 と 学 生( 子 ど
も)とが求めている意識のずれを、学校が中心となって埋めていくことが大切になって
くる。
2
キャリア教育アンケートの結果について
そ こ で 、 ま ず は 実 態 を 把 握 す る た め に 、 私 が 担 当 し た 学 級 ( 1 年 1 組 の 生 徒 29 名 )
の意識調査を実施した。実施に当たっては「中学校キャリア教育の手引き」に書かれて
い る 基 礎 的・汎 用 的 能 力 が 把 握 で き る キ ャ リ ア 教 育 ア ン ケ ー ト を 基 に 、本 実 践 前( 5 月 )
に行った。
- 46 -
アンケート項目
①友達や家の人の意見を聞く時、その人の考えや気持ちを受け止めようとして
いますか。
②相手が理解しやすいように工夫しながら、自分の考えや気持ちを伝えようと
していますか。
③自分から役割や仕事を見つけたり、分担したりしながら、周囲と力を合わせ
社
会
形
成
能
力
人
間
関
係
形
成
・
自
己
管
理
能
力
自
己
理
解
・
て行動しようとしていますか。
④自分の興味や関心、長所や短所などについて、把握しようとしていますか。
⑤気持ちが沈んでいる時やあまりやる気が起きない物事に対する時でも、自分
がすべきことには取り組もうとしていますか。
⑥不得意なことや苦手なことでも、自ら進んで取り組もうとしていますか。
⑦わからないことやもっと知りたいことがある時、自分から進んで資料や情報
を収集したり、だれかに質問したりしていますか。
⑧何か問題が起きた時、次に同じような問題が起こらないようにするために、
何をすればよいか考えていますか。
⑨何かをする時、見通しをもって計画的に進めたり、そのやり方などについて
課
題
対
応
能
力
改善を図ったりしていますか。
⑩学びことや働くことの意義について考えたり、今学校で学んでいることと自
分の将来とのつながりを考えたりしていますか。
⑪自分の将来について具体的な目標を立て、その実現のための方法について考
えていますか。
⑫自分の将来の目標に向かって努力したり、生活や勉強の仕方を工夫したりし
ン
ニ
ン
グ
能
力
キ
ャ
リ
ア
プ
ラ
ていますか。
①
73
アンケート結果
⑫
55
41
⑪
【グラフの見方】
②
③
34
55
31
⑨
55
④
45
48
⑧
と項目⑩~⑫(キャリアプランニン
⑥
グ能力)が特に低いことがわかった。
⑦
3
回答は4・3・2・1の4段階。
この結果、項目⑨(課題対応能力)
⑤
48
いつもしている」
と 回 答 し た 生 徒 の 割 合 (% )。
44
34
⑩
数値は「4
本研究で目指す子どもの姿
1、2の実態を踏まえ、目指す子どもの姿を、県教育研修センター資料を基に2つに
焦点化した。
(1 )
従来の考えや方法にとらわれずに、物事を前に進めていくために必要な力を身につけ
る こ と が で き る ( 課 題 対 応 能 力 )。
- 47 -
(2 )
社会人・職業人として生活していくために生涯にわたって必要となる能力を身に
つ け る こ と が で き る ( キ ャ リ ア プ ラ ン ニ ン グ 能 力 )。
Ⅵ
研究の全体構想
本校の教育目標
気品ある風格と見識を備え、ねばり強く実践し,温かい心情に満ちた生徒の育成
キ ャ リ ア 教 育( 基 礎 的・汎 用 的
能力)
特別活動の目標
望 ま し い 集 団 生 活 を 通 し て 、心 身 の 調 和 の と れ た 発 達 と 個 性 の 伸 長 を 図 り 、集 団 や
社 会 の 一 員 と し て よ り よ い 生 活 や 人 間 関 係 を 築 こ う と す る 自 主 的 、実 践 的 な 態 度 を 育
て る と と も に 、人 間 と し て の 生 き 方 に つ い て の 自 覚 を 深 め 、自 己 を 生 か す 能 力 を 養 う 。
学級活動の目標
学 級 活 動 を 通 し て ,望 ま し い 人 間 関 係 を 形 成 し ,集 団 の 一 員 と し て 学 級 や 学 校 に お
け る よ り よ い 生 活 づ く り に 参 画 し ,諸 問 題 を 解 決 し よ う と す る 自 主 的 ,実 践 的 な 態 度
や健全な生活態度を育てる。
研究主題
学校・家庭・地域が一体となったキャリア教育の指導の在り方
~ 職場見 学を 取り 入 れた学 級活 動の 実践 を通し て ~
研究の目標
職 場 見 学 の 体 験 学 習 を 核 と し て 、企 業 や 家 庭 と の 連 携 を 意 識 し た 学 級 活 動 を 行 う こ
と に よ っ て 、子 ど も は 課 題 対 応 能 力 や キ ャ リ ア プ ラ ン ニ ン グ 能 力 を 身 に つ け た り 学 ぶ
ことと働くことの接点を見出したりすることができるかを検証する。
研究の仮説1
研究の仮説2
研究の仮説3
企業人講師との連携に
よる体験学習や授業を意
図 的 に 設 定 す れ ば 、子 ど も
は学ぶことと働くことの
接 点 を 見 出 し 、課 題 対 応 能
力やキャリアプランニン
グ能力を身につけること
ができるであろう。
体験学習の保護者コメ
ン ト 、授 業 参 観 、懇 談 な ど
家庭との連携の場を意図
的 に 設 定 す れ ば 、子 ど も は
学習したことをさらに深
化 さ せ 、キ ャ リ ア プ ラ ン ニ
ング能力を高めることが
できるであろう。
子どもの自主的な活動
を生かす場や手だてを工
夫 す れ ば 、子 ど も は 自 信 を
深 め 、課 題 対 応 能 力 を 高 め
ることができるであろう。
研究の内容1
研究の内容2
研究の内容3
○職場体験保護者コメント
○授業参観
○企業人講師との学級懇談
○ 職 場 見 学 活 動 計 画・準 備
○職場見学報告会準備
○授業づくりプロジェクト
○連携授業
○体験学習(職場見学)
三者をつなぐツールとしての学級通信
- 48 -
Ⅶ
研究の実際
1
企業人講師(宮崎経済同友会)との連携の実際
年間を通して、2名の同一の講師との連携を行った。人物を固定することで、1年と
いうスパンで連携をとることができ、見通しやゆとりをもった指導・支援ができた。
実施月
7月
授業の主な内容
「学ぶことと働くこと」をテーマにした講話及び質疑
11月
職 場 見 学 報 告 会 及 び 協 議 ( 1 )「 働 く 人 か ら 学 ぼ う 」
11月
協 議 ( 2 )「 こ れ か ら の 自 分 を 高 め る た め に 」
12月
生徒の授業プロジェクト委員による授業
2月
今年度のまとめ「今年1年で学んだこと、成長したこと」
なお職場見学は夏季休業中、6事業所にグループごとに分かれて実施した。
(1 ) 連 携 授 業 ( テ ー マ 「 学 ぶ こ と と 働 く こ と 」)
それぞれの授業前後には、講師と、授業の趣旨や生徒の実態を中心に打合せを行
った。このことで、お互いの思いを共有することができ、生徒の立場に立った授業
づくりができていった。またこの連携授業については保護者にも案内し、自由参観
の形をとったところ、毎回数名の保護者参観があった。
ア
授業後の生徒の主なコメント(7月実施分)
○ 今 日 、 講 師 の 先 生 が 来 ら れ て 、「 な ぜ 学 ぶ の か 、 な ぜ 働 く の か 」 の 話 が あ り
ま し た 。先 生 に 教 え て い た だ い た「 学 ぶ こ と で 幸 せ に な る 」と い う 言 葉 が 一
番 印 象 的 で し た 。今 ま で 勉 強 が 嫌 い だ っ た け ど 、こ の こ と で 少 し 勉 強 に つ い
ての考え方が変わったかなと思いました。これからも頑張ります。
○ 話 の 内 容 が と て も 分 か り や す く て 、特 に 実 際 に 働 く 時 に 大 切 な こ と は 、学 校
で 学 ん で い る ん だ と い う こ と が わ か り ま し た 。こ れ か ら 、そ う い う こ と も 意
識して授業を受けたいと思います。
○ 進 路 学 習 の 勉 強 を し ま し た 。将 来 の 夢 は ま あ 決 ま っ て い ま す が 、今 日 学 習 し
たことを思い出しながら、これからのことを考えたいです。授業を聞いて、
母もよく分かった、と言っていました。
○「 な ぜ 働 く の か 」と い う お 話 を し っ か り 聞 く こ と が で き ま し た 。自 分 の こ と
を 他 人 に 置 き 換 え て 考 え た り 、自 分 が 担 当 し た 仕 事 を よ り よ く し て 次 の 人 に
受 け 継 い だ り す る こ と が 大 切 だ と わ か り ま し た 。今 日 、習 っ た こ と を 忘 れ ず
に、係活動などを中心に、学校生活で活かしていきたいです。
イ
生徒の変容
上のコメントからもわかるように、生徒の
生き生きとした表情や前向きに取り組もうと
する熱意を感じた。これは、ナナメの関係の
大人が生徒にとって大きなインパクトがある
いうことである。この授業を通して、学ぶこ
とと働くこととの距離が縮まり、授業や委員
会活動などに、より積極的にチャレンジしよ
うとする生徒が多く見られるようになった。
- 49 -
授業の様子
(2 ) 体 験 学 習 ( 職 場 見 学 学 習 )
「 体 験 活 動 を 効 果 的 に 行 う た め の ポ イ ン ト 」( 文 部 科 学 省 ) に は こ う 書 か れ て い る 。
◇事前指導・事後指導を工夫し、効果を挙げる
体験活動の[ねらい]が子どもに効果的に定着するよう、体験活動の実施に際し、子どもに
調べる活動を積極的にさせたり、いろいろな準備をさせるということが極めて大切である。こ
れにより、子ども自身が自ら問題意識や活動のめあて、意欲をもって活動に取り組むことがで
きるようになる。
また、体験活動終了後には、活動を終えて感じたこと、気付いたこと、考えたこと等につい
て課題を与え、自分自身で振り返らせ、自分の中で深めた上でまとめさせるような事後指導が
必須である。体験活動実施期間中には様々なことが発生し、いろんな思いを持つので、平時の
学習環境に戻った後に、それらを自身で整理し、体験活動の効果をより自分の中で確固たるも
のにすることで、その後の各教科等の学習に生かすことができる。
(抜粋)
そこで、職場見学の事前・事後指導には、できるだけ子どもが活動できる場を保障
した。今回行った事前・事後指導は次のとおりである。
対象
事業所に対して
保護者に対して
事前
依頼事業所の選定・依
文 書 発 送・個 別 説 明( 三
事後
生徒に対して
事業所希望調査
頼・打 合 せ・文 書 発 送 ・ 者 相 談 時 )・ 承 諾 書 回
グループごとの事前打
事後アンケート依頼
収・事 後 ア ン ケ ー ト 依 頼
合せ・準備
お 礼 状 持 参・事 後 ア ン ケ
事後アンケート回収
報告会打合せ・準備
ート回収
この体験を、自分の生活を振り返り高めるものとするために、活動前に「働く人と
の 違 い を 学 ん で 、こ れ か ら の 自 分( た ち )の 生 活 に 活 か し て い こ う 」を テ ー マ に 掲 げ 、
活動の目的を明らかにした。
6事業所に分かれての職場見学学習の様子
(3 ) 連 携 授 業 ( 職 場 見 学 報 告 会 )
この体験を今後の教育に生かすため、子ども同士の活動の場にゆとりをもたせた。
職場見学報告会準備
3時間
職場見学報告会
2時間
報告会を終えてのまとめ
1時間
学習の整理、発表準備・リハーサル
①各グループでの活動報告・意見交換
②働く人の姿から自分たちの生活を高める
各自のまとめ
- 50 -
先の表のようにこの報告会は、活動報告で終わらないように2時間扱いとした。こ
の報告会にも講師2名を招き、適宜助言をいただいた。またこの体験が、子どもを
中心として学校・家庭・地域(企業)が連携できる絶好の機会となるように、職場
見学後に書いていただいた事業所・保護者のコメントを紹介する場を設けた。本授
業の終末には、これからの自分と学級の目指すべき姿を考え、話し合った結果を教
室 後 方 に 掲 示 し 、そ の 後 の 学 校 生 活 の 中 で 、個 人・学 級 の 目 標 を 振 り 返 る 場 を 設 け 、
意識付けを行っていった。
ア
授業で紹介した職場見学の
《報告会②の授業の流れ》
事業所からのメッセージ
○これからもいろんなこと
に挑戦して自分の枠を広
げてほしい。
○「視野を高く、広く」そ
して「利他の心」を持ち
続けて下さい。
○今回の見学のように普段
とは違う体験をできるだ
けして、いろんな世界を
見て下さい。
○勉強する力(集中力、物
事を解決する力)は今の
うちにつけておこう。5
年 後 、10 年 後 の 自 分 に 跳
ね返ってきますよ。
○今回の経験を一つの参考
にして、自分の将来をイ
メージして下さい。
イ
授業で紹介した保護者から
のメッセージ
○社会のために役立ちたい
と思って仕事をすること
はすばらしいことです。
いろいろな人がいろいろ
な立場で社会のために頑
張ってくれているから、
社会がスムーズに回って
いることを今回知りまし
たね。今回の貴重な体験
をこれからの生活にぜひ
生かしていきましょう。
○職場の人の話や姿で、仕
事への責任感ややりがい
を感じることができたで
しょう。これからも、い
ろんなことに興味をもっ
ていって下さい。
- 51 -
ウ
授業後の生徒の感想
報 告 会 ① の 授 業 で 、講 師 2 名 か ら「 発 表 す る 時 は 原 稿 を 読 ま ず に 、自 分 の 言 葉
で 話 す こ と 」「 発 表 す る 側 は 分 か っ て い て も 聞 く 側 は 初 め て な の で 、 相 手 意 識 で
伝 え る こ と 。」 の 助 言 を い た だ い た 。 こ れ ま で 私 も こ の 話 は し て き て い た が 、 ナ
ナ メ の 関 係 の 人 か ら の 言 葉 は 、生 徒 の 受 け 止 め 方 に 重 み を 感 じ ら れ た 。そ の 後 の
学校生活にも、これを生かしていこうとする様子が見られた。
○この授業の前に講師の先生が言われた「相手に思いを届ける気持ちで発表
する」ことを意識して頑張った。大勢の人の前でとても緊張したけど、最
後まで自分の思いを何とか伝えることができてよかった。
○周りは人だらけでドキドキしたけど、自分の苦手な大きな声で発言するこ
と が で き て 嬉 し か っ た 。い い 経 験 に な っ た し 、少 し 自 信 が つ い た 気 が す る 。
○コミュニケーション力や自信をつける方法など、みんなの意見や講師の先
生のアドバイスで、たくさんの事を学ぶことができた。この経験を将来の
仕事に生かせるようにしたい。
○今日の授業はとても充実していた。自分で大きな声で発表できたし、今後
の目標を決めて、2人の先生からたくさんの事を教えていただいた。今日
みんなで決めた学級の目標「自信を持てるように、何事にもチャレンジし
よう」
「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 を 高 め る た め に 、い ろ ん な 人 と 会 話 を し よ う 」
を意識して、実行していきたいと思います。
2
保護者との連携の実際
入学式直後の学級活動の際に、今年度の学級経営の重点事項の1つとして、キャリア
教育に力を入れることを保護者に説明し、その実践は、学級通信で紹介してきた。その
た め 、保 護 者 に は そ の 趣 旨 や 協 力 を 得 ら れ や す か っ た 。保 護 者 連 携 は 次 の と お り で あ る 。
実施月
連携の形態
7月
授業参観
8月
コメント記入
12月
学級懇談
2月
授業参観
主な関わり
参加人数
講師による講話と質疑応答
5名
職場見学後の家庭での会話とコメント記入
講師を招いてのこれまでのキャリア教育と、
これから保護者として考えてもらいたいこと
今年度の生徒の個人発表
全保護者
12名
17名
(1 ) 学 級 懇 談(「 働 く こ と 」を 考 え る た め の 2 つ の 指 標 に 関 す る 講 話 と 意 見 交 換 :7 月 )
せっかく来校してくださった保護者に、何かプラスになる財産を家庭に持って帰
ってもらえないか~このことがこれまで学担として1つの課題であった。そこでこ
こでは、子どもが取り組んでいるキャリア教育の現状と今後の取組について講師の
講話と情報交換の場をとった。話の内容は生
徒 と さ ほ ど 変 わ ら な い も の で あ っ た が 、「 親
として子どもと同じ学習を共有できて、家庭
でも、学校での学習の流れに乗って会話がで
てよかった」という感想を述べる保護者もい
た。保護者はとても新鮮に前向きにメモをと
ったり、意見交換を行ったりしていた。
学級懇談の様子
- 52 -
《保護者の感想》
○今日のお話を聞いて、改めてなぜ学ぶのか、働くのかを考えさせられ、とても
勉強になりました。何事も一生懸命に努力していけば、道は開けると信じ、こ
れからも子どもをサポートしていきたいです。
○講師の先生の授業のおかげで、合点が行くようになったのか、最近、私の話も
し っ か り 聞 い て く れ る よ う に な り ま し た 。あ り が た い こ と で す 。中 学 生 か ら「 生
き方」に関わる事を考える場があるというのは、本当に幸せだと思います。先
生のお話を自分の力に変えて、たくましく次代を生きてほしいものです。
○今回、大変貴重な話を聞くことができ、とてもよかったです。入学時の三橋先
生の話や今日の講師の先生の話を聞いて、夢をもつことの大切さを改めて感じ
ました。これを機に、家庭でも夢について話をしていこうと思います。
(2 )
授業参観(今年度のまとめ;個人の意見発表;2月)
この1年間の子どもの成長を見ていただくために、お世話になった企業の方と保護
者へ案内し、総勢20名余りの方に来ていただいた。生徒もこの1年でたくましさが
見られるようになり、制限時間にしっかり自分の思いを堂々と発表していた。参観後
の保護者のコメントにもそのことがうかがえる。
○キャリア教育の発表は、子供たちなりに考えを出し合って、しっかりまとめて
いたと思います。社会に出ていくために、これから大変なことがたくさんあっ
て 、夢 も い ろ い ろ と 変 わ っ て い く ん で し ょ う が( 私 も そ う で し た )、何 事 も 目 標
をもっていくことが大切ですね。子どもの成長ぶりを見ることができて、とて
も有意義でした。
○今回のキャリア教育、子供たちの人生に大きな影響を与えるものになったと思
います。ビジョンをもつこと、周囲を見ることなど、私たちにも共通する話題
ですね。大人の入り口に立った子供たちだけでなく、親である私たちにも有意
義な時間でした。すばらしい出会いを本当にありがとうございました。
○ 私 は 正 直 、12、13 才 の 子 供 た ち に キ ャ リ ア 教 育 、職 場 見 学 は ま だ 早 い の で は な
いかと思っていました。しかし先日の参観資料を拝見し、早いうちから自分の
将来について考えるということは、とても大切であることがわかりました。こ
の1年間の学習を通し、子供たちに貴重な体験をさせていただいたこと、心か
ら感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
○この学習で、目標をもつ、失敗を恐れずにチャレンジする、コミュニケーショ
ン力をつけることを教えていただき、進んで勉強している子供にすごく感心す
るとともに、親自身も本当にそうだなと授業を参観しながら思いました。子ど
もたちの心にも、多くのものが残っているのですね。
○ キ ャ リ ア 教 育 の 授 業 は 、将 来 へ の 心 構 え と し て 子 供 た ち に 浸 透 し た よ う で す ね 。
毎日記入している生活の記録に書く文章や、この前学級で獲得した校内の 3 つ
のコンクールの賞など、クラス全体の意識・行動の成長が結果として出ている
と感じました。本当にありがとうございました。
保護者とつながるツールの1つとして、学級通信を毎日発行することに心がけた。
その中でキャリア教育に関する内容として、子どもの活動はもとより子どものコメン
ト 、講 師 や 保 護 者 の コ メ ン ト 、そ し て 私 な り の 考 え を で き る だ け 盛 り 込 む よ う に し た 。
「通信を基にして家庭で学校の話をすることができ、とても助かっています」という
保護者のコメントを耳にすると、学校と家庭とのツーウェイの情報システムを作り上
げることはとても重要だと実感する。子どもと保護者が、子どもの将来について考え
るという同じベクトルが自然とできてきた印象をもった。
- 53 -
3
子どもの自主的な活動の場の保障
年度当初に「この学級を作り上げるのは、ここにいるみんなだ。失敗しても構わない
ので、力を合わせて夢や絆あふれる学級を作っていこう」と告げた。これを類似するこ
とを講師の方が言われたことで、この意欲はさらに高まってきたようだ。
(1 ) 職 場 見 学 の 事 前 学 習
よく行われる職場体験事前学習は、ともすると教師主導になるところが多いかも
しれない。その内容はあいさつや礼儀といった躾に関することが多く、それは誤り
ではないと思うし、この指導を徹底することで、体験中に事業所に迷惑をかけるこ
とも少なくなる。しかし今回は、敢えて細かな指示は行わずに、グループごとで生
徒同士にルールやマナーを考えさせる場を十分とった。そのため、事業所によって
活 動 の 様 子 は ま ち ま ち で 、事 業 所 の 方 か ら ア ド バ イ ス を 仰 ぐ 場 面 も 一 部 に 見 ら れ た 。
しかしこれも失敗を成功に変えるチャンスだと考えた。自分たちで立てた計画を、
実践を通して自分たちで修正していくことこそ、生きた学習につながる。事業所に
はその趣旨を事前に理解していただいていたため、企業側も子どもたちを育てると
いう視点で取り組まれており、ありがたかった。その結果、体験での失敗や達成感
を、報告会でほとんどのグループが発表していており、子どもたちなりに生きた活
動を送ることができたことがうかがえた。
(2 )
授業づくりプロジェクト
12月の連携授業前に子どもたちに提案したのが「次の授業の計画はみんなで立
ててみよう」であった。事前に授業のねらいは子どもたちに示し、具体的な授業の
流れは、7名の生徒のプロジェクト委員と講師との話合いで決めていく方式をとっ
た( 私 は 双 方 の 仲 立 ち と し て 支 援 の 立 場 で 関 わ っ た )。双 方 の 事 前 打 合 せ は 2 回 行 い 、
その話合いの内容を基に、授業づくりをしていった。
当日の授業はプロジェクト委員が進行を務め、これまで学習してきた内容を基に
2つのテーマに分かれての意見交換会を行った。子どもたちは自分たちで作り上げ
ていく授業だという意識が強く、これまで以上に生き生きとした表情で、授業終了
時には達成感を感じる様子があちこちで見られた。また講師からも「すばらしい授
業でしたね」という声をかけていただき、やりとげた自信を感じるものとなった。
この後、学校生活の中でも委員会活動や行事に対して、意欲的に関わろうとする
生徒が増えてきたのも、この授業の影響だと思う。
授業プロジェクト委員との事前打合せ
- 54 -
2つのテーマに分かれての意見交換会
生徒のコメントにも、自信や達成感、今後への意欲が表れている。
○今回の授業は、プロジェクトがつくってくれた“私たち”の授業をしました。
授業を自分たちでつくるというチャレンジをしているからなのか、クラス全員
からそれぞれよい意見が出て、すばらしい授業になったと思います。この体験
を次に生かしたいです。
○今日の授業では、私はリーダーを務めました。初めはとても不安だったけど、
この授業を通じて、とてもいい経験をすることができたし、少し自信もつきま
した。本当に今回、リーダーができて本当によかったと思います。
○今日の6時間目は、1の1にとってすごく大切な授業でした。初めは「自分た
ちで計画するのはとても難しそうだなあ」と思いました。しかし終わった今、
とっても楽しかったです。また授業プロジェクトの人たちにとっては、すごく
よい機会だったと思いました。私たちを引っ張ってくれた委員の人、先生、そ
してお忙しい中来て下さった講師の先生に感謝したいです。
Ⅷ
研究の成果
1
生徒アンケートより
本研究前後の生徒アンケートから、その変容を分析した。
(1 ) 基 礎 的 ・ 汎 用 的 能 力 の 実 態 か ら
グ ラ フ 1 を み る と 、5 月 で 低 か っ た 課 題 対 応 能 力( ⑦ ~ ⑨ )
・キ ャ リ ア プ ラ ン ニ ン
グ能力(⑩~⑫)の全ての項目が上昇していることがわかる。またグラフ2をみる
と、自己理解・自己管理能力(④~⑥)を除くと、バランスの取れた状態になって
いる。
グラフ1
グラフ2
基礎的・汎用的能力の実態の比較
100
80
60
40
20
0
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫
5月調査 2月調査
4 と 回 答 し た 割 合 (% )
(2 ) 将 来 の 進 路 に つ い て の ア ン ケ ー ト よ り
(1 )と 並 行 し て 、「 将 来 の 進 路 は 決 ま っ て い る か 」 の ア ン ケ ー ト を と っ た 。 こ れ を
見ると、将来の進路をより明確にイメ
ージできた生徒が増えていることがわ
か る 。「 収 入 や 安 定 だ け で な く 、 才 能 を
生かすことも考えて決めていきたい」
「 自 分 の や り た い こ と を 明 確 に 、人 の た
め に 働 く な ど を 考 え て 、夢 を 実 現 さ せ た
い 」と い っ た 具 体 的 な 記 述 に な っ て お り 、
学習の成果がうかがえる。
- 55 -
(3 ) キ ャ リ ア 学 習 終 了 時 の 生 徒 の コ メ ン ト よ り
「この1年、キャリア学習を通して大事な事や自分で努力したい事は何か」につ
い て の 生 徒 の コ メ ン ト を 、基 礎 的・汎 用 的 能 力 に 分 類 し て 、生 徒 が 学 ん だ 具 体 的 な
姿 を 整 理 し て み た 。( 2 9 名 対 象 。 複 数 回 答 な の で 、 総 数 と は 合 致 し な い )
ア
人間形成・社会形成能力に関する記述
○ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 を 上 げ る こ と 。( 1 8 名 )
○あいさつをしっかりする。相手の話をしっかり聞く。自分の意見をわかりやす
く 伝 え る こ と 。( 6 名 )
○ チ ー ム ワ ー ク 、 協 調 性 を 意 識 し て 行 動 す る こ と 。( 3 名 )
○ 相 手 の 立 場 に な っ て 考 え る こ と 。( 2 名 )
○ 人 の 役 に 立 て る こ と を 考 え て す る こ と 。( 2 名 )
○ 思 い や り の 気 持 ち を も つ こ と 。( 2 名 )
○視野を広く、そして高くもつこと。
○周りをよく見て行動すること。
イ
自己理解・自己管理能力に関する記述
○ 努 力 を 忘 れ な い こ と 。( 1 0 名 )
○ 何 事 に も チ ャ レ ン ジ す る 気 持 ち を も つ こ と 。( 7 名 )
○ 思 っ た り 考 え た り す る だ け で な く 、 そ れ を 実 行 に 移 す 努 力 を す る こ と 。( 4 名 )
○ あ き ら め な い 気 持 ち を も つ こ と 。( 2 名 )
○ 緊 張 す る こ と が 大 事 だ か ら 、 そ う い う 場 面 に 積 極 的 に か か わ る こ と 。( 2 名 )
○自分がしたくないことでも頑張ってやろうとすること。
○精神的にたくましくなること。
ウ
課題対応能力に関する記述
○ 失 敗 を 恐 れ ず に チ ャ レ ン ジ し 、そ の 中 で 成 功 に つ な が る 経 験 を 積 む こ と 。
(9名)
○自分に今必要なことは何かを考えて、それに向けて見通しをもって具体的な計
画 を 立 て る こ と 。( 3 名 )
○ う ま く い か な い 時 の た め に 発 想 力 を つ け る こ と 。( 3 名 )
○ わ か ら な い 時 に は 自 分 で 調 べ た り 、周 り か ら ア ド バ イ ス を も ら っ た り し な が ら 、
次 へ 進 ん で い く こ と 。( 3 名 )
エ
キャリアプランニング能力に関する記述
○ な り た い 仕 事 に つ く た め に 、 目 標 を 具 体 的 に も ち 努 力 す る こ と ( 7 名 )。
○ 学 ぶ こ と と 働 く こ と を 意 識 し な が ら 、 今 を 頑 張 る こ と 。( 5 名 )
○夢や目標をもって、普段の生活に全力で取り組むと「自分に合った仕事」が見
つかること。今できることを頑張ること。
○自分に合った仕事を見つけるために、学校生活の中で長所を見つけたり探した
りすること。
○もっと学校で学んで、自分を成長させること。
○将来のために、今の勉強を一生懸命すること。
教 室 に 掲 げ た 学 級 の 目 標 が 「 自 信 」「 チ ャ レ ン ジ 」「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 」 で あ
ったため、それに関する記述が多かった。全体的に見ると、どの能力にも万遍なく
記述が見られ、子どもが多様な能力に気づき、それを高めようとして自分なりに努
力する様子がうかがえる。
- 56 -
2
仮説ごとの分析
(1 ) 仮 説 1 に つ い て
○
学ぶことと働くこととの接点への意識の向上
企業人講師の連携授業での生徒の眼差しは明らかに違った。授業が行われた翌日
の生活記録には、ほぼ全員が学んだことや考えたことを細かく記述していた。授業
や宅習への取組も、将来の自分のイメージが具現化されたことで充実し、さらに頑
張ろうとする意欲が見られるようになってきた。生徒の中には「今学校で頑張って
いることは時にはきついこともあるけど、将来の自分をイメージすると頑張れる気
がする。こういう考えをもつことができた2人の先生方に感謝したい」というコメ
ントも見られ、企業人講師(ナナメの関係の大人)との出会いは、子どもの意識を
大きく変え、学びことと働くこととの接点への意識を向上させていったことがわか
る。また、課題解決能力やキャリアプランニング能力の向上にも大きくつながった
といえる。
(2 ) 仮 説 2 に つ い て
○
家庭での対話の増加
保護者のコメントに「この1年間、子どもとともに成長したり、刺激しあったり
できることが多かったです。特にキャリア教育では、私自身も学ぶことが多く、こ
れから子どもとともに子どもの人生に関わっていく力をいただいた気がします」と
いうものがあった。授業や体験学習の場を共有したり、情報を提供したりしたこと
によって、子どもの生き方について家庭で対話をする時が増加したようである。家
庭との意図的な連携が、学校と家庭との懸け橋づくりとなり、キャリアプランニン
グ能力の向上につながったといえる。
(3 ) 仮 説 3 に つ い て
○
課題解決能力の向上
職場見学によって働く人の姿に触れたり、企業人講師による連携授業を受けたり
する中で、行事や委員会活動などに取り組む生徒の姿に、少しずつ自主性や創造性
が前面に出てくるようになってきた。生徒同士で話合い、問題を解決していきなが
ら、自分たちでできる自信が生まれる風土が、学級に広がっていき、次の課題へ向
かう意欲も同時に生まれてくるようになった。
下の文は、授業づくりプロジェクトに活動した生徒のコメントである。
「私は今、将来の夢をかなえるためにキャリア教育で学んだ積極性を高めることを
頑張っています。だから、授業づくりプロジェクトにも立候補しました。うまく
いかないこともあったけど、やってよかったと思います。これからもいろいろな
場でリーダーなどを経験して、将来に役立てようと思います。周りの人にやさし
い人になれるようにも頑張っているので、これからも自分をもっと高めていけれ
ば い い と 思 い ま す 。」
このように、自信を深めるための自主的な場や手立ての工夫により、課題対応能
力を高めることにつながったといえる。
- 57 -
Ⅸ
課題
○
自己理解・自己管理能力の向上
今回の取組で、課題対応及びキャリアプランニング能力の育成はかなりの成果が見ら
れたが、反面、やる気がない時とか苦手なことでも頑張ろうとする精神的なたくましさ
に欠けていた。今後、個別相談や個に応じた支援の手立てを工夫しながら、自己理解・
自己管理能力の向上に努めて行く必要がある。
○
キャリア教育の継続性や広がり
今回は単年度・単学級の取組であったが、中学校3か年、学校全体を通しての取組を
推進していく必要がある。そのために、学校や生徒の実態に応じた年間指導計画等作成
や校内組織の整備が必要である。
○
企業との打合せの場の確保
時間の確保はなかなか大変であったが、企業人と話すことで、企業の組織づくりやコ
ンプライアンス、OJTなど、私自身もいろいろ学ぶことが多かった。日頃から互いに
ラポートを取り合える環境づくりをしていきながら、スムーズな連携をしていけるよう
に今後も取り組んでいきたい。
最後になったが、この学習は親身になって協力していただいた宮崎経済同友会の方々のお
蔭で成立したものである。この場をお借りして、心から御礼申し上げたい。ありがとうござ
いました。
◇参考文献
「中学校学習指導要領解説特別活動編(H20 文部科学省)
「中学校キャリア教育の手引き(H23 文部科学省)
◇引用文献
〔注1〕 H26授業力向上ワークショップ資料(宮崎県教育委員会)
- 58 -
平成26年度
宮崎市教職員教育研究論文
ICT を活用した授業効率化の研究
~
デジタル指導書・デジタル教科書の活用を通して
~
「中学校の部」
宮崎市立大塚中学校
教 諭
黒木 淳平
Ⅰ 研 究 主題
「ICT を活用し た 授業の 効 率化の 研 究 」
∼ デジタル 指導 書・ デジタル 教科 書 の 活 用 を 通 して ∼
Ⅱ 主 題 設定の理由
ああ中学校学習指導要領解説理科編(文部科学省、2008)によると、OECD(経済協力開発
機 構 ) の P I S A 調 査 な ど 各 種 の 調 査 か ら 3 つ の 課 題 が 挙 げら れて い る [ * 1 ] 。 そ の 1 つ と して
「①思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式問題、知識・技能を活用する問題」
が あ る 。 こ れ を 踏 ま え 、 中 央 教 育 審 議 会 に お いて 平 成 2 0 年 1 月 に 出 さ れ た 7 つ の 答 申 [ * 2 ]
にて「③基礎的・基本的な知識・技能の習得」「④思考力・判断力・表現力の育成」「⑥
学 習 意 欲 の 向 上 や 学 習 習 慣 の 確 立 」 な ど が 挙 げら れ た 。 ③ に つ いて は 「 発 達 の 段 階 に 応 じ
て 徹 底 して 習 得 さ せ 」 る こ と 、 ④ に つ いて は 「 観 察 ・ 実 験 、 レ ポ ー ト の 作 成 、 論 述 な ど 知
識・ 技能の活用を 図 る学習 活 動 を 発 達 の 段 階 に 応 じ て 充 実 さ せる 」 こ と が 示 さ れて い る。
あ あ こ れ ら を 受 け、 授 業 に お け る 「 基 礎 的 ・ 基 本 的 な 知 識 ・ 技 能 の 習 得 」 「 思 考 力 ・ 判 断
力 ・ 表 現 力 の 育 成 」 に つ いて、 生 徒 主 体 の 活 動 時 間 を 可 能 な 限 り 確 保 す る こ とを 柱 に 研 究
を 進 め た 。 生 徒 主 体 の 活 動 時 間 を 確 保 す る こ と は 、 問 題 演 習 を 通 して 授 業 内 容 の 定 着 を 図
る た め に 必 要 で あ る 。 ま た 、 学 習 課 題 を 解 決 す る た め に 必 要 な 「 考 える ・ ま と め る ・ 伝 え
る 」 言 語 活 動 [ * 3 ] の 充 実 の た め 、 個 人 思 考 ・ グル ープ 思 考 ・ 集 団 思 考 を 十 分 確 保 す る こ と
で、 思 考 力 ・ 判 断 力 ・ 表 現 力 の 育 成 に つ な が る と 考 え た 。 さ ら に 、 「 学 習 意 欲 の 向 上 や 学
習 習 慣 の 確 立 」 は 上 記 2 つ の 取 り 組 み が 行 わ れ る 中 で、 学 力 の 向 上 ・ 授 業 に お け る 自 己 存
在 感 の 高 ま り ・ 家 庭 学 習 の 工 夫 を 通 して 生 徒 一 人 ひ と り に 醸 成 さ れて い く も の で あ る と 考
えた 。
あ あ 生 徒 主 体 の 活 動 時 間 を 確 保 す る 授 業 を 進 め る に あ た り 、 授 業 づ く り の 簡 略 化 ・ シス テム
化が必要である。その方策として、デジタル指導書(新学社、2014)とデジタル教科書(啓
林館 、2 012 )を授 業 で活用 す る こ と が 有 効 で あ る と 考 え 、本 研 究 の 主 題 を 設 定 し た 。
あ あ 中 学 校 理 科 の 授 業 は そ の 内 容 に よって 2 つ に 大 別 で き る 。 1 つ は 、 目 的 意 識 を 持 っ た 観
察・実験を行い、その結果を整理し考察する学習活動を通して科学的な見方や考え方を養っ
て い く 授 業 で あ る 。 もう 1 つ は 、 科 学 的 な 概 念 を 使 用 して 考 え た り 説 明 し た り す る 学 習 活
動 、 な ら び に 探 究 的 な 学 習 活 動 を 充 実 さ せる こ とを 通 し 、 基 礎 的 ・ 基 本 的 な 知 識 ・ 技 能 の
確 実 な 定 着 を 図 る 授 業 で あ る 。 本 研 究 で は 、 2 つ の タイ プ の 授 業 に 共 通 す る も の と して、
十 分 な 個 人 思 考 ・ グル ープ 思 考 ・ 集 団 思 考 の た め の 時 間 の 確 保 を 目 指 し た 。 特 に 前 者 の 授
業 に お いて は 十 分 な 観 察 ・ 実 験 時 間 を、 後 者 の 授 業 に お いて は 授 業 内 容 定 着 の た め の 問 題
演習 時間の確保を 目 指した 。
Ⅲ 研 究 仮説
- 59 -
あ あ 中 学 校 理 科 の 授 業 に お いて I C T を 活 用 して 授 業 を 効 率 的 に 行 う と と も に 、 個 人 思 考 ・ グ
ル ープ 思 考 ・ 集 団 思 考 な どの 言 語 活 動 や 授 業 内 容 の 定 着 の た め の 問 題 演 習 時 間 を 確 保 で き
る よ う に 授 業 づ く り を 簡 略 化 ・ シス テム 化 す る な どの 工 夫 を 行 え ば 、 生 徒 の 基 礎 的 ・ 基 本
的な知識・技能の定着の機会や課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力の育
成の 機会が増え、 生 徒 の学力 向 上 に つ な が るで あ ろ う 。
Ⅳ 研 究 構想
あ
研究主題
「ICTを活用した授業の効率化の研究」
∼デジタル指導書・デジタル教科書の活用を通して∼
生徒主体の活動時間の確保
生徒アンケート
の実施と分析
「考える・まとめる・伝える」活動
定期テスト等の
結果分析
問題演習時間の確保
論理的な思考を促す
発問や教材の工夫
問題解決的な学習の充実
日々の授業における、デジタル指導書・デジタル教科書の継続的な使用
Ⅳ 研 究 の実際
あ 1 実態
あ あ あ 昨 年 度 よ り 、 生 徒 の 理 科 の 授 業 中 の 様 子 や 定 期 テス ト 等 を 観 察 ・ 分 析 し た 結 果 、 以 下
に示す 5点につ いて 課題が あ る と 思 わ れ る 。
あああ① 生徒 が発 表す る と き や、教 師 の 話 を 聞 く 時 の 態 度 に 個 人 差 が あ る 。
あああ② 自分 の思 いや 考 えを グル ープ や 学 級 全 体 に 伝 える こ と に 慣 れて い な い 。
あああ③ 筋道を立てて考え、自分の言葉で伝えたり説明したりすることが苦手である。
- 60 -
あああ④ 理科 の学 習方 法 が 、授 業 ノー ト を 写 すこ と し か し な い 生 徒 が 多 い 。
あああ⑤ 文章 で書 く問 題 や 応 用 問 題 にな る と 無 回 答 に な る 生 徒 が 多 い 。
あ あ あ こ れ ら の 課 題 に つ いて、 どのよ う な 授 業 を 行 え ば 、 繰 り 返 し 指 導 を 行 う こ と が で き 、
生 徒 た ち に 習 慣 づ け ら れ る か を 考 え た 。 今 回 の 研 究 で は 、 ② ・ ③ に つ いて、 「 考 える ・
ま と め る ・ 伝 える 」 言 語 活 動 と 問 題 解 決 的 な 学 習 、 さ ら に 、 効 率 的 な 授 業 づ く り の 仕 方
を 関 連 付 け て 研 究 を 行 っ た 。 ④ ・ ⑤ に つ いて は 、 効 率 的 な 授 業 の 実 践 を 通 して、 「 ふ り
返る」段階で授業内容定着のための問題演習の時間を確保する。また、机間指導を行い
ながら学習方法の具体的な助言をするとともに、問題の考え方に対する生徒の質問に答
え た 。 つ ま り 、 「 授 業 内 容 を 個 に 返 す 」 過 程 を 必 ず 入 れ る よ う に す る こ と で、 生 徒 の 学
力にどのよ うな影 響 を与える か を 研 究 し た 。
あ あ あ 以 下 の 【 図 1 】 は 、 問 題 解 決 的 な 学 習 と 「 考 える ・ ま と め る ・ 伝 える 」 言 語 活 動 を 関 連
付ける ための構 想 である 。 [*3]
つ
か
む
・
見
通
す
深
め
る
ふ
り
返
る
論理的な
思考❶
発見する
論理的な
思考❷
予想する
論理的な
思考❸
分類する
論理的な
思考❹
比較する
論理的な
思考❺
関連付ける
論理的な
思考❻
まとめる
論理的な
思考❼
自分の考え
まとめる
伝える
まとめる
伝える
自分の考え
ふり返る
【 図1】 伝 え合う 力 を 育て る 問 題 解 決 的 な 学 習 を 図 る 研 究
あああ問題解決的な学習を促すために、教師は【図1】の「論理的な思考❶∼❼」を促す発問
や 教 材 の 工 夫 を 意 図 し な が ら 授 業 を 行 う 必 要 が あ る 。 生 徒 は こ のよ う な 論 理 的 な 思 考 を
行い、まとめ、自分の思いや考えを伝え合う活動を通し、自分の考えをさらに高めたり、
深めた りするこ と ができ る と 考 えら れる 。
あ 2 方法
あああ授業では、「論理的な思考を促す発問や教材の工夫」と「問題解決的な学習の充実」
を 図 る た め 、 「 考 える ・ ま と め る ・ 伝 える 」 言 語 活 動 [ * 3 ] や 「 授 業 内 容 を 個 に 返 す 」 問 題
演習の 「時間の 確 保」を 念 頭 に 授 業 づ く り を 行 っ た。 その 方法 は以 下の 通り であ る。
- 61 -
あああ⑴ 授業 にお ける 、 デ ジタル 指 導書 [* 4] ・ デ ジタル 教 科 書 [* 5 ] の 継 続 的 な 使 用
あああ あア.デ ジタル指 導 書
あああ ああ
株 式会 社新 学 社 ( 以 下 、 新 学 社 ) 発 行 の 「 理 科 ノー ト 」 教 師 用 指 導 書 に 収 録さ れ
ている「板書例」がMicrosoft
P o w e r P o i n t 形 式 で C D - R O M に 収 録 さ れて い る 。
本研究では、さらに豊かな表現が可能なApple
Inc.(以下、Apple)のプレゼン
テー シ ョンソ フ ト「K e yno te 6 .5 」 ( 最 新 版 : 2 0 1 4 年 1 2 月 現 在 ) を 用 いて 再 編 集し
たデー タ を使用 している 。
あああああ
宮 崎 市 内 の 中 学 校 の 各 教 室 に は 、 大 型 の プ ラズマ ディ ス プ レイ モ ニ タ ー が 設 置 さ
れて い る た め 、 こ れ と i P a d
m i n i ( A p p l e ) を H D M I ケ ーブル で 接 続 し 、 さ ら に 、
iPhone(Apple)のBluetooth接続を用い、遠隔操作でプレゼンテーションを操作
し 、 授 業 を 行 って い る 。 【 写 真 1 】 遠 隔 操 作 を 行 う こ と で、 教 師 は 机 間 を 回 り な が
ら 授 業 を 進 め る こ と が 可 能 で あ り 、 レ ー ザ ー ポ イ ンタ や カ ラ ー マ ーカ ー な どの 各 機
能を iP ho n e側 から 操 作する こ と もで き る 。
あああああ
デ ジタル 指 導 書 の デー タ は そ の ま ま 使 用 して も 差 し 支 えな い が 、 自 由 に 改 変 して
使 用 す る こ と が で き る の で、 教 師 一 人 ひ と り の 授 業 ス タイル に 合 わ せ た ス ラ イ ド を
作 成 す る こ と が で き る 。 本 研 究 で は 、 追 加 の 画 像 ・ 動 画 ・ アニメ ー シ ョ ン を 組 み
込んで使 用 してい る 。【図 2】 は 、 そ の 一 例 で あ る 。
【 写真 1】 i Pa d m i n iの接 続 の 様 子
【 図 2】 スラ イ ド デー タ の 一 例
あああ ああ な お、 本研 究 に よ り 作 成 さ れ た 「 K ey note 」 用 の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン デー タは、
M a c O S X 用 ・ i O S デバ イ ス 用 の デー タ の 効 能 を よ り 充 実 さ せる た め に 、 継 続 的 に
研究 に 取り組 み たいと 考 えて い る 。
あああ あイ.デ ジタル教 科 書
あああ ああ 株式 会社 新興 出 版 社 啓 林 館 ( 以 下 、 啓 林 館 ) 発 行 の 教 科 書 「 未 来 へ 広 が る サイエ
ン ス 」 が デ ジタル デー タ で DV D - R O M に 収 録 さ れて い る 。 動 画 、 アニメ ー シ ョ ン、
フ ラ ッ シュフ リ ッ プ な ど、 多 彩 な デ ジタル コ ン テン ツ が 用 意 さ れて お り 、 学 習 内 容
の理 解 を視覚 的 にサポ ー ト す る こ と が で き る 。
あああ ああ
教 科書 の定 め る 生 徒 実 験 に つ いて は 、 そ の 実 験 方 法 が 動 画 で 収 録 さ れて お り 、基
本 的 に は 動 画 を 視 聴 す る だ け で、 生 徒 は 大 ま か な 実 験 の 流 れや 注 意 点 を 把 握 す る
ことができる。今回の検証授業(平成26年度宮崎市指定研究公開授業)では、
実 験 方 法 紹 介 ビデ オ を 自 作 して 対 応 し た 。 ま た 、 デ ジタル 教 科 書 に は 「 試 してみ よ
う 」 な どの 付 随 的 ・ 発 展 的 な 実 験 の 動 画 も 準 備 さ れて い る た め 、 中 学 校 の 設 備 で 行
い に く い 実 験 を 紹 介 す る こ と が で き る 。 こ れ ら の コ ン テン ツ に よ り 、 口 頭 や 実 物
を使用した演示による説明よりも効率の良い授業の展開が可能であり、生徒の科
学的 好 奇心や 授 業内容 の 理 解 を 高 め る も の と な ってい る 。
- 62 -
あ あ あ ⑵ あ 効 率 的 な 授 業 展 開 に よる 、 授 業 内 容 定 着 の た め の 問 題
演 習 の 時 間 と 、 個 人 思 考 ・ グル ープ 思 考 な ど 、 生 徒 主 体
の活動 時間 の 確保
あああああ⑴より、授業づくりを効率的に行うことにより、以下
ア ・ イ の 時 間 を 確 保 す る こ と が 可 能 と な る 。 し た が って
生 徒 に 十 分 な 個 人 思 考 ・ グル ープ 思 考 ・ 集 団 思 考 の た め
の時 間 を確保 す ること が で き る と 考 える 。
あああああまた、本時の授業の流れの見通しを持たせるため、
【 図 3 】 の 授 業 の 流 れ と 経 過 時 刻 を 黒 板 左 側 に 明 記 して
授業を行った。これにより生徒は、生徒主体の活動時間
の セ ルフ マネ ジメ ン ト を が で き る と 考 える 。 生 徒 が 主 体
用語説明
↓
実験
↓
話し合い
↓
WB
↓
各班発表
↓
授業まとめ
↓
片付け
↓
問題演習
∼11:00
∼11:15
∼11:20
∼11:25
∼11:35
∼11:40
∼11:45
∼11:50
的 に 活 動 す る こ と に よ り 、 結 果 と して、 自 分 た ち の 活 動 【図3】授業の流れと経過時
刻(例)
時間を自分たちの手で確保することができる。
あああ あア.授 業内 容定 着 の た め の 問 題演 習 時 間 の 確 保
あああ ああ 「Ⅱ 主 題設 定 の 理 由 」 で述 べ た 理 科 の 授 業 の 2 つ の タイ プ の う ち 、 「 科 学 的な
概 念 を 使 用 して 考 え た り 説 明 し た り す る 学 習 活 動 、 な ら び に 探 究 的 な 学 習 活 動 を
充 実 さ せる こ とを 通 し 、 基 礎 的 ・ 基 本 的 な 知 識 ・ 技 能 の 確 実 な 定 着 を 図 る 授 業 」
の場 合 、「授 業 内容を 個 に 返 す 」 問 題 演 習 時 間 を 設定 す る 。
あああああ
生徒に課す問題は2種類あり、1つは本時の「授業内容に関する問題(新学社・
理 科 ノー ト よ り 出 題 ) 」 、 もう 1 つ は 「 過 去 の 授 業 内 容 の 復 習 問 題 ( 問 題 集 [ * 6 ] よ
り出題)」である。特に問題集から出題する場合、生徒には問題集に直接解答させ
ない。必ず理科ノートに「問題ページ・番号」を書いて解く方法を指導した。【写
真 3 】 さ ら に 、 分 か ら な か っ た 問 題 や 間 違 え た 問 題 に つ いて は 、 問 題 集 に チ ェ ッ ク
し 「 定 着 して い な い 問 題 」 を 把 握 さ せる こ と で、 定 期 テス ト に 向 け た 勉 強 を 効 率 よ
く行えるよう、生徒に毎時間工夫させた。【写真4】また、問題集から課す問題は、
次回の定期テストまでに生徒が一通り取り組めるよう計画的に出題した。授 業 中 の
設定 時 間で終 わ らなか っ た 問 題 は 宿 題 と し 、 次 時 の授 業 の 初 め に 提 出 さ せ た 。
【 写真 3】 答え は ノート に 書 く
あああああ
【 写 真4 】 定 着 してい な い問 題の 把握 [ * 6]
このように、授業中に取り組み方を指導し、生徒の自宅学習にできるだけ負担と
ならないように配慮を行い、生徒の問題演習を見守った。
あああ あイ.生 徒主 体の 活 動 時 間 の 確 保
あああ ああ 「 目的 意識 を 持 っ た 観 察 ・ 実 験 を 行 い 、 そ の 結 果 を 整 理 し 考 察 す る 学 習 活 動を 通
して 科 学 的 な 見 方 や 考 え 方 を 養 って い く 授 業 」 に お いて、 観 察 ・ 実 験 、 グル ープ に
- 63 -
よ る 話 し 合 い な どの 十 分 な 時 間 を 確 保 す る こ と で、 「 考 える ・ ま と め る ・ 伝 える 」
言語 活 動と問 題 解決的 な 学 習 が じっ く り 行 える よ うに 配 慮 し た 。
あああああ
ま ず、 グル ープ 編 成 に つ いて は 、 理 科 室
に お いて は 、 【 図 4 】 のよ う な 配 置 で 4 人
❷男子
❸女子
机
グル ープ を 編 成 し 、 女 子 は 女 子 、 男 子 は 男
子で話し合いを行わないように配慮した。
❶女子
❹男子
また、前側の2人は習熟度が良好である生
⇩
黒板
徒を 配 置した 。
あああああ
実 験 中 は メ ンバ ー 全 員 が 必 ず 1 回 「 役 」
【図4】理科室におけるグルーピング
が 回 って き た り 、 発 表 の 機 会 が あ っ た り す
るように配慮し、理科の授業中における自
己存 在 感を高 め る工夫 を 行 っ た 。
あああああ
実験後の「結果のまとめ」と「実験結果
の 考 察 」 は 主 に グル ープ に よ る 話 し 合 いで
進 め さ せ、 ホ ワ イ ト ボー ド ( 以 下 W B ) に
意 見 を ま と め さ せ な が ら 「 考 える ・ ま と め
る ・ 伝 える 」 言 語 活 動 が 行 える よ う 配 慮 し
た。【写真5】完成後に学級全体に向けて
の発表となるが、作業後に発表者を座席番
【写真5】WBに意見をまとめる
号 (【 図 4 】 ❶ ∼ ❹ ) で 指 定 す る た め 、 生
徒 は 、 グル ープ の 誰 も が 発 表 で き る よ う に
話し 合 いを進 め なけれ ば な ら な い 。
あ あ あ あ あ あ 完 成 し た W B を も と に 各 グル ープ の 代 表
者が前に出て発表を行う。【写真6】その
際 、 W B の 内 容 の 読 み 上 げの み と な ら な い
よ う 、 考 察 の 文 章 を 別 の 言 葉 で 言 い 換 えて
説 明 し た り 、 実 験 デー タ の 誤 差 に つ いて 説
明したりと、生徒自身が発表内容に工夫を
【写真6】WBを使って発表
加 える 指 導 を 行 っ た 。 こ のよ う に して 生 徒
は、様々な考え方や意見を共有し、自分の
❷男子
考 えを さ ら に 高 め た り 、 深 め た り す る こ と
❸女子
がで き ると考 え た。
❶
女子
あ あ あ あ あ あ 最 後 に 、 各 グル ープ の 意 見 を も と に 「 確
か な こ と 」 を 考 え さ せ、 本 時 の ま と め を 生
❹
男子
徒自身の手で作り上げるための話し合いを
⇩
黒板
行 い 、 意 見 の 発 表 後 、 協 力 して 片 付 け、 授
業を 終 える。
ああああああな お 、 教 室 に お け る 話 し 合 い や グル ープ
【図5】教室における話し合い隊形
活動 の 際は【 図 5】のよ う な 形 に 机 を 並 べ て 行 う 。
あ あ あ あ あ あ ア ・ イ よ り 、 問 題 演 習 を 通 して 生 徒 の 学 習 内 容 の 定 着 を 図 る こ と に よ り 、 次 時
以 降 の 授 業 に お いて、 前 時 ま で の 学 習 内 容 を さ ら に 活 か し た 授 業 展 開 が 可 能 に な
る と 考 える 。 特 に 、 W B を 利 用 し た 話 し 合 い 活 動 に お いて、 学 習 し た 理 科 用 語 や 科
- 64 -
学 的 な 概 念 を 用 いて 意 見 を ま と め る こ と は 、 「 考 え る ・ ま と め る ・ 伝 え る 」 言 語
活動 を 効率良 く 行う上 で 大 切 で あ る 。
ああああああこ のよ う な 問 題 演 習 や 問 題 解 決 型 の 学 習 を 通 して、 生 徒 の 基 礎 的 ・ 基 本 的 な 知
識・技能の定着と課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力の育成を
目指 すことが で きると 考 える 。
あああ⑶ 宮崎 市指 定研 究 公 開 ∼ 中 学 校第 2 学 年 ( 理 科 ) ・ 公 開 授 業 ∼
あ あ あ あ あ ⑴ お よ び ⑵ の 研 究 実 践 の 発 表 場 と して、 1 1 月 1 9 日 ( 水 ) 午 後 、 大 塚 小 学 校 の
第 1 理 科 室 に て、 公 開 授 業 を 行 っ た 。 本 研 究 独 自 の カ リ キ ュラム に よ る 授 業 内 容 の
た め 、 発 問 ・ 教 材 ・ デ ジタル 指 導 書 ・ 実 験 器 具 の 工 夫 、 さ ら に 、 公 開 授 業 後 の カ リ
キュラム の変更 を 行った 。
あああああ「実験前の学習→実験器具の準備→実験方法の説明→実験→結果のまとめと考察
の話し合い→WB作成→全体発表→本時のまとめ作成→実験器具の片付け」という
豊 富 な 活 動 内 容 を、 生 徒 主 体 の 活 動 を 活 発 に 行 い 時 間 内 に 終 わ る 必 要 が あ る 。 し た
が って、 研 究 仮 説 の 実 証 に 最 適 な 場 で あ る と 考 えら れ る 。 以 下 に 公 開 当 日 の 指 導 案
を掲 載 する [ *3 ] 。
1 単元 空気中の水の変化 ∼霧はどのようにしてできるのか∼
2 目標
○あ水蒸気を含んだ空気から水滴が現れる身近な現象を進んで見いだそうとする。
(自然事象への関心・意欲・態度)
○あ霧が発生するときの気温や湿度の変化の特徴を見いだし、説明することができる。
(科学的な思考・表現)
○あ温度と飽和水蒸気量の関係をグラフに表すことができ、露点を正しく測定することができる。
(観察・実験の技能)
○あ空気中に水滴が現れる仕組みと露点・湿度とを関連付けて理解することができる。
(知識・理解)
3 指導観 教材観
【学習指導要領より】「第2分野 ⑷天気とその変化」
○あ身近な気象の観察、観測を通して、天気変
化の規則性に気付かせるとともに、気象現象
についてそれが起こる仕組みと規則性につい
ての認識を深めさせる。
○ あ 霧 や 雲 の 発 生 に つ いての 観 察 、 実 験 を 行
い、そのでき方を気圧、気温及び湿度の変化
と関連付けてとらえさせる。
【教材について】
○あ天気の変化は太陽光のエネルギーを起因と
した「大気中の水の変化」と「大気の動き」
によって起こる。本単元は、身近でローカル
な気象である「大気中の水の状態変化」を扱
う。生徒の経験をもとにしたり、既習事項を
活用したりして新たな学習課題の解決を図る
のに適した教材である。
生徒観
【学習内容】
○あ水の自然蒸発や結露の現象については小学
校で学習してきているが、気象については初
めて学習する。天気については、天気予報は
メディアを通して身近なものとして感じてはい
るが、学習する内容として意識している生徒
は少ない。
【「考える・まとめる・伝える」言語活動】
○あ話合い活動において意欲的に取り組むこと
ができる。しかし、新たな学習課題に対して
は、既習事項の理科用語を用いて全体の場で
発表することを苦手とする生徒が多い。
○あ実験結果や他者の考えを比較して考え、より
良い考えを作ることに慣れていない。
○あ既習事項と新たな課題を関連付けて自分の言
葉でまとめることを苦手とする生徒が多い。
指導観
【学習内容】
○あ霧の正体は目に見える微細な水滴であり、水蒸気は目には見えないことをとらえさせる。
○あ温度と飽和水蒸気量の関係をグラフ作成を通して理解させる。
○あ映像を見せたり、実験で測定させたりすることで、露点が季節によって異なることを理解させる。
○あ既習事項である温度と飽和水蒸気量の関係を表すグラフを確認させることで、気温によって空気
中に現れる水滴の量が異なる仕組みを説明できるようにする。
【「考える・まとめる・伝える」言語活動】
- 65 -
◎あ話合い活動ではまずグループ単位とし、全体で話し合う場においては各グループでホワイトボー
ドに書いた考え方を比較し合うことで、答えを導き出せるようにする。
○あ実験や考察の前に既習の理科用語を提示して復習させることで、実験結果の発表や考察がスムー
ズにできるようにする。
相手の立場や考え方を尊重しながら意見を交わし合う中で、自分の考えを整理し、発言の中心的
な部分と付加的な部分に注意し、構成を工夫して表現できる。
4あ指導計画 (7時間)
あ1章:空気中の水の変化
あ・1節:霧はどのようにしてできるのか …4時間
ああ空気中の水蒸気は、どのようにして水滴になるのだろうか (本時 3/4)
あ・2節:雲はどのようにしてできるのか
…3時間
5 本時の目標
○ 気温によって空気中に現れる水滴の量が異なる仕組みを飽和水蒸気量と関連付けて考える
ことができる。
(科学的な思考・表現)
6 学習指導過程
段階
つ
か
む
・
見
通
す
5
分
深
め
る
40
分
指導上の留意点
◎…主題に迫るための手だて
☆…評価の視点( 評価方法 ) 1あビデオと演示実験を見て、コップの表面の違い ○あある夏の日の、氷水の入ったコップの表面(ビデ
を発表する。
オ)と、本時の場合のコップの表面(演示)を示
し、そのちがいを発表させ、身近な現象について学
習することを意識させる。
2あ本時の学習課題を知る。
○あ生徒が気付いた違いを、そのまま本時の課題
とすることにより、興味・関心を持たせる。
あ今の季節のコップの表面の水滴の量よ
り、夏の日の方が多いのはなぜだろうか。
学習活動及び内容
3あ露点について知る。
○あ実験で露点を測定することを通して、学習課題
○あ空気中の水蒸気が冷やされて水滴に変わる
を考えていくことを知らせる。
ときの温度を露点という。
4あ本時の露点を測定する。
○あ実験をスムーズに進めるためにポイントを知らせる。
○あ夏の日の露点測定実験のビデオを見て、実
・あ水滴がコップの表面に付着しはじめるとき
験方法を知る。
の水温を露点とすること。
・ 室温とくみ置きの水の水温を測る。
・あ水滴がつく瞬間を見付けるのは難しいの
・ 水温を下げ、くもりはじめの水温を測る。 で、9班分の測定データの平均をとる。
あ○あ露点測定を行う。
○あ本時の実験での露点が、夏の日の露点測定結果
(ビデオ)と比べるとどうなるか、理由とともに話
○あ夏の日の露点と比べてどうだったか発表する。
し合わうことを伝え、話合いがスムーズに進むよ
あ今の季節の露点は、夏の日の露点より低
うにさせる。
☆あ実験のポイントや注意点を考えながら協力し
いことが分かった。
て実験を行い、今の季節の露点は夏の日の露点
よりも低いことを見出せたか。
観察・発表
5あ課題を解決する。
○あ結果から考察する。
○あ既習事項の理科用語を提示し、グループでの
・あ既習事項を確認する。
話合いで活発な意見交換ができるよう配慮し、
・あ夏の日の、コップの表面の水滴の量が多
温度と飽和水蒸気量の関係を表すグラフと《根
い理由を、温度と飽和水蒸気量の関係を表
拠》をもとに生徒自身で課題の答えが出せるよ
すグラフを使い、《根拠》に基づいてグルー
うにする。
プで話し合う。
《根拠》
・あ夏の日の露点は本時の露点より高い。
・あコップの氷水の温度は、夏の日と本時であ
まり変わりがない(約5℃)。
《既習事項》
・あ水蒸気量…空気中に含まれる水蒸気の量。
・あ露点…空気中の水蒸気が冷やされて水滴
に変わるときの温度。
○あグループごとにホワイトボードにまとめ、黒 ☆あ根拠とともに理由を説明できたか。
ホワイトボード
板に掲示し、発表する。
○あ本時のまとめを生徒自身の言葉で行う。
◎あ各グループの意見を比較し、共通する部分に気付か
せ、生徒たち自身の言葉でまとめができるよう配慮す
る。
【比較する】
- 66 -
・あ夏は露点が高いので、水蒸気量が多い。
・あ露点から氷水の温度までの温度差が大き
いので、水滴がたくさん出てくるため。
ふ
り
返
る
5
分
6あ温度変化により、空気中から水滴が現れる現 ○あ本時で扱ったコップ以外の現象を想起させ、
象を想起し、写真を見る。
写真を見せながら説明する。
○あ梅雨の時期、学校の壁や窓ガラスの内側に
・あ発表時に、現象の例を写真で紹介して想起
水滴がいっぱい付いていた。
できなかった生徒に配慮する。
○あ冬、暖房をしていたら、内側の窓ガラスが
白くくもっていた。
○あ次時の予告と宿題範囲を説明する。
7あ次時の予告・宿題の説明を受ける。
あああ あ⑷ 生 徒ア ンケ ー ト の 実 施 と 分析
あああああ⑴および⑵の達成状況を調査するため、宮崎市指定研究公開授業後1週間以内
に 、 本 校 2 年 生 7 ク ラス の う ち 4 ク ラス ( 1 組 ・ 3 組 ・ 5 組 ・ 7 組 ) に 在 籍 す る 計
140名の生徒に無記名アンケートを実施した。設問の回答は、「1:当てはまる、
2:どちらかといえば当てはまる、3:どちらかといえば当てはまらない、4:当
ては ま らない 」 の選択 式 で あ る 。
あ あ あ あ あ 設 問 内 容 は 、 1 番 ∼ 1 4 番 が 全 国 学 力 調 査 ( 理 科 ) の 生 徒 質 問 用 紙 [*7]よ り 抜 粋 し
たもの。15番∼20番が本研究に関するものの計20問で調査した。さらに、本
研 究 に 関 す る 、 授 業 に つ いての 自 由 記 述 欄 を 設 け た 。 そ の う ち 、 本 研 究 に 関 連 す る
各設 問 の詳細 は 以下【 表 1】 の 通 り で あ る 。
1
理 科の 勉 強は好 き だ 。
3
理 科の 授 業内容 は よく分 か る 。
9
理科の授業で、自分の考えや考察を周りの人に説明したり、発表したりしている。
10 観 察や 実 験を行 う ことは 好 き だ 。
15 理 科の 授 業で、黒板 を 使用 する 授業 は分 かり やす い。
16
理科の授業で、スライドやデジタル教科書などを使用して行われる授業は分かりやすい。
18 グループによる話し合いは好きだ。
19 ホワイトボードを使って行う発表は、分かりやすい。
20 ホワイトボードによる発表の後、授業のまとめを考えることは好きだ。
【表1】生徒アンケートの主な設問内容
ああ⑸ 定 期テスト 等の 結 果 分 析
あ あ あ あ あ 本 研 究 に よ る 成 果 と 課 題 が 判 明 す る よ う 、 本 校 の 定 期 テス ト ( 学 習 評 価 ) と 、 み
やざ き 学力調 査 の2種 類 の テス ト に お け る 結 果 分 析 を 行 っ た 。
あああ あア.み やざ き学 力 調 査
ああああああ本調査(4月実施)は、A問題(基礎的・基本的な「知識」を問う)とB問題
( 活 用 力 を み る ) の 2 種 類 の 出 題 形 式 を と って い る 。 本 研 究 の 方 法 で 述 べ た ⑴ の
「 日 々 の 授 業 に お け る 、 デ ジタル 指 導 書 ・ デ ジタル 教 科 書 の 継 続 的 な 使 用 」 は 昨
年 度 か ら ( 1 年 次 は 8 ク ラス 中 5 ク ラス で ) 行 って い た た め 、 成 果 を 確 認 す る た
- 67 -
めに有効であると考えた。県平均、本校2学年7クラスの平均、2年1組・3組・
5組・ 7組 の 計4ク ラス の 平 均 と の 比 較 ・ 分 析 を 行 っ た 。
あああ あイ.学 習評 価( 定 期 テス ト )
ああああああ第1回(5月実施)・第2回(7月実施)・第3回(11月実施)における、
2 年 1 組 ・ 3 組 ・ 5 組 ・ 7 組 の 計 4 ク ラス の 平 均 得 点 か ら 正 解 率 を 比 較 し た 。 第
1回∼ 第3 回 の出題 内 容は 【 表2 】の 通り であ る。
第1回 《 1年 次》 力 と圧力 ・ 大地 の成 り立 ちと 変化 《2 年次 》 化 学 変 化 ∼ 分 解
第2回 化 学変 化と 原 子・分 子
第3回 動物の生活と生物の変遷
【表2】学習評価出題内容
あ
あ 3 結果
あああ本研 究に おけ る実 践 内 容 「 2 方法 」 の ⑴ ∼ ⑸ で の 結 果 を 以 下 に 示 す。
あああ⑴ 授業 にお ける 、 デ ジタル 指 導書 ・ デ ジタル 教 科 書 の 継 続 的 な 使 用
あああ あア.デ ジタル指 導 書
あああ ああ デ ジタル指 導 書 を 使 用 す る こ と に よ り 、 板 書 時 間 を 短 縮 す る こ と が で き た 。こ の
こ と に よ り 、 生 徒 主 体 の 活 動 時 間 や 授 業 内 容 を 個 に 返 す 問 題 演 習 時 間 を、 平 均 8
分 間 ( 最 長 1 5 分 ) 確 保 す る こ と が で き た 。 ま た 、 2 時 間 分 の 授 業 内 容 を 行 って
も 、 5 分 程 度 の 問 題 演 習 時 間 を 確 保 す る こ と が で き る こ と も 度 々 あ っ た 。 デ ジタ
ル 指 導 書 の 強 み で あ る 教 科 書 に 使 用 さ れて い る 図 や 画 像 の 表 示 、 そ して、 オ リ ジ ナ
ル の アニメ ー シ ョ ン を 使 用 す る こ と で 理 解 しや す く 、 記 憶 に 残 り や す い 授 業 を 行
うこ と ができ た 。
あああ あイ.デ ジタル教 科 書
あああ ああ 教 科書 を使 用 し た 説 明 を 行 う 場 面 で は 、 そ の ペ ー ジ の ど こ の 部 分 の 説 明 が 行わ れ
て い る か が 大 変 わ か り や す い の で、 生 徒 は 集 中 して 該 当 箇 所 に 注 目 して い る こ と が
分 か っ た 。 ま た 、 図 に よって は アニメ ー シ ョ ン が 用 意 さ れて い る 。 どのよ う な 流 れ
で 変 化 す る か を 視 覚 的 に 捉 え さ せ る こ と が で き た 。 ( アニメ ー シ ョ ン の 完 成 形 が
教科 書 の図と な る)
あああ ああ 実 験で 使用 す る 道 具 の 使 用 方 法 や 実 験 の 手 順 を 動 画 で 説 明 す る た め 、 実 験 方法 の
説 明 時 間 が 平 均 2 分 と な っ た 。 実 験 中 の 操 作 ミ ス や 手 順 ミ ス な ど が 起 こ り に くく
な っ た こ と か ら 、 生 徒 を 教 卓 付 近 に 集 めて 実 際 の 道 具 を 使 用 し な が ら 実 験 方 法 の
説明 を 行うよ り もはる か に 効 果 的 で あ る こ と が 分 かっ た 。
あああ ああ 問 題集 など で は 、 生 徒 が 授 業 中 に 行 う 実 験 と は 異 な る 実 験 を も と に 問 題 が 作ら れ
ている場合がある。デジタル教科書には同内容の別法が動画で収録されているため、
そのよう な問 題 にも生 徒 は 対 応 で き た と 考 えら れ る 。
あ あ あ ⑵ あ 効 率 的 な 授 業 展 開 に よる 、 授 業 内 容 定 着 の た め の 問 題 演 習 の 時 間 と 、 個 人 思 考 ・
グループ 思考 な ど 、 生 徒 主 体 の 活動 時間 の確 保
あ あ あ あ あ 生 徒 主 体 の 活 動 が 主 と な る 授 業 に お いて 提 示 し た 【 図 3 】 の 「 授 業 の 流 れ と 経 過
時 刻 」 は 大 変 効 果 的 で あ っ た 。 グル ープ 内 の リ ー ダー の 生 徒 が 時 計 を 見 な が ら メ ン
- 68 -
バーの生徒に集中を促したり、活動を切り上げて次の活動に進める場面が多く見ら
れ た 。 こ れ に よ り 、 生 徒 の 活 動 が 自 発 的 で、 活 動 時 間 の セ ルフ マネ ジメ ン ト の 習 慣
がつ いて きたこ と が分か っ た 。
あああ あア.授 業内 容定 着 の た め の 問 題演 習 時 間 の 確 保
あああ ああ 授 業中 に問 題 演 習 時 間 を 毎 回 確 保 し 、 取 り 組 み 方 を 指 導 す る こ と に よ り 、 家庭 学
習 の 習 慣 が 不 十 分 で あ っ た 生 徒 も 毎 回 忘 れず に 課 題 を 行 え る よ う に な っ た 。 そ の
ため、課題は全員が提出できるようになった。また、理科の課題への取り組み方
を宅 習 ノート で 別の教 科 に 応 用 す る 生 徒 も 見 ら れ るよ う に な っ た 。あ あ あ あ
あああ あイ.生 徒主 体の 活 動 時 間 の 確 保
あああ ああ
観 察・ 実験 、 グル ープ に よ る 話 し 合 い 活 動 の 時 間 を 十 分 に 確 保 し 、 理 科 室 にけ る
グル ー ピ ング な どの 工 夫 よ り 、 生 徒 一 人 ひ と り が 実 験 準 備 ・ 実 験 ・ 話 し 合 い の 内 容
をまとめるWB作成・発表のどれかに必ず携わることができた。また、WB作成に
お いて は 、 グル ープ の メ ンバ ー が 気 づ い た こ と や 考 え た こ とを う ま く 反 映 し た り 、
表 現 し よ う とす る 場 面 も 多 く 見 ら れ た 。 さ ら に 、 W B を 用 いて 全 体 に 発 表 す る た め
に は 、 話 し 合 い 内 容 や 発 表 内 容 を グル ープ 内 で 共 有 す る 必 要 が あ る た め 、 集 中 して
話し 合 い活動 に 参加す る 習 慣 が つ いて き た 。
あああああ
し か し 、 全 体 に 発 表 す る 場 面 に お いて は 、 W B の 内 容 の 読 み 上 げ に 終 始 す る 生 徒
が 学 級 の 半 数 以 上 い た 。 生 徒 自 身 が 「 考 える ・ ま と め る 」 言 語 活 動 に つ いて は 習
慣 化 し 、 そ の 力 が つ いて き た と 考 えら れ る が 、「 伝 える 」 言 語 活 動 に お いて は 課 題
があ る 。
あ あ あ ⑶ 宮 崎 市 指 定 研 究 公 開 ∼ 中 学 校 第 2 学
年( 理 科)・ 公 開授業 ∼
実験器具の使い方や
注意点をテロップで解説
あ あ あ あ あ 本 研 究 の 実 践 の 場 と して 取 り 組 ん だ
公 開 授 業 に お いて は 、 生 徒 た ち は い つ
もとは大きく異なる環境の中でありな
が ら 、「 実 験 前 の 学 習 → 実 験 器 具 の 準
備→実験方法の説明→実験→結果のま
とめと考察の話し合い→WB作成→全
体発表→本時のまとめ作成→実験器具
の片付け」という豊富な活動内容を、
予定した時間よりも2分ほど早く終え
るこ と ができ た 。
あ あ あ あ あ 生 徒 の 感 想 に お いて も 、「 積 極 的 に 活
【写真7】自作実験説明ビデオ
授業の流れと経過時刻➡
動できた」「緊張するどころか、楽し
い授業だった」「いつも通りの授業が
できた」という意見が多く出ていた。
授 業 者 に と って も 非 常 に 満 足 の い く 授
業で あ った。
あああああ授業後の意見交換会では、実験活
動・話し合い・WBをまとめ、全体に発
表 す る 様 子 に つ いて 「 生 徒 は よ く 動 い
【写真8】公開授業の場
- 69 -
て い る 」 「 生 徒 は よ く 訓 練 さ れて い る 」 「 各 グル ープ の 意 見 を も と に 、 さ ら に 良 い
意見を構築させる場面はとても良いと感じた」などの高い評価を得ることができた。
ま た 、 デ ジタル 指 導 書 と 遠 隔 操 作 に 関 す る 質 問 と 、 生 徒 自 身 に よ る 授 業 内 容 の ま と
めに 対 する意 見 が多く 上 が っ た 。
あああ⑷ 生徒 アン ケー ト の 実 施 と 分 析
あああ ああ ⑶の 公開 授業 後 に と っ た ア ンケ ー ト 結 果 を 以 下 に 示 す。
質問1
質問3
質問9
質問10
質問15
質問16
質問18
質問19
質問20
20%
当てはまる
40%
60%
どちらかといえば
当てはまる
80%
どちらかといえば
当てはまらない
100%
当てはまらない
あああ ああ 自由 記述 欄に は
あああ ああ あ○ すごく授業が分かりやすく、家で復習するときもちゃんと記憶に残っています。
あああ ああ あ○ 自分たちの班では考えられなかった考察を知ることができるのでいいと思います。
あああ ああ あ○ 黒板 を使 用 し た 授 業 で は、 そ の 図 の イメ ー ジ が 抜 け ず、 分 か り に く い の で、
あああ ああ ああ スラ イド の 図 の 方 が 分 かり や す いで す。
あああ ああ あ● スラ イド の 文 字 を もう 少 し だ け 大 き く して ほ し いで す。
あああ あと いう 意見 が上 が っ た 。
あああ⑸ 定期 テス ト等 の 結 果 分 析
あああ あア.み やざ き学 力 調 査 ( 平 均 正答 率 )
66.5%
66.5%
62.3%
A問題
41.4%
38.2%
B問題
30.2%
61.4%
60.9%
55.8%
A問題+B問題
10%
20%
30%
4クラス
40%
大塚中第2学年
- 70 -
50%
60%
宮崎県
70%
あ あ あ あ あ あ 本 研 究 に 関 わ る 4 ク ラス と 宮 崎 県 を 比 較 す る と 、 A 問 題 に お いて そ れ ほ どの 違 い
は見ら れな か ったが 、 B問 題 に お いて 顕著 な違 い( + 1 1 .2 % ) が 見 ら れ た 。
あああ あイ.学 習評 価( 定 期 テス ト )
62.7点
第1回学習評価
69.5点
第2回学習評価
70.8点
第3回学習評価
50点
60点
70点
80点
あ あ あ あ あ あ 第 1 回 ∼ 第 3 回 の 学 習 評 価 の 平 均 点 の 変 化 を、 本 研 究 に 関 わ る 4 ク ラス に つ い
て 見 て い く と 、 1 0 0 点 満 点 の う ち 、 7 割 ほ ど 得 点 で き る よ う に な って き た 。 引
き続き 、分 か りやす い 授業 の 実践 に取 り組 んで い き た い 。
Ⅴ 考 察
あ あ あ I C T の 活 用 に よ る 効 率 的 な 授 業 展 開 を 行 う た め に 、 授 業 者 は デ ジタル 指 導 書 の 作 成 ・
確 認 、 デ ジタル 教 科 書 の 確 認 な ど を 事 前 に 行 い 、 ク ラス に 応 じ た 発 問 内 容 ・ グル ープ 活
動時間・問題演習時間を設定することができた。授業中はスライドを順番通りに再生す
ること で、どの ク ラス で も 同 じ ク オ リ ティ の 授 業 を提供することができた。
あああ実験など「目的意識を持った観察・実験を行い、その結果を整理し考察する学習活動
を 通 して 科 学 的 な 見 方 や 考 え 方 を 養 って い く 授 業 」 に お いて は 、「 授 業 の 流 れ と 経 過 時
刻 」 を 提 示 して 生 徒 に 活 動 時 間 の セ ルフ マネ ジメ ン ト を 行 わ せる こ と で、 見 通 し を も た
せなが ら授業を 展 開する こ と が で き た 。
あああ効率的な授業を行うためには、生徒が視覚的に理解できる授業が必要である。ICTの
活 用 の 成 果 に つ いて は ア ンケ ー ト の 質 問 1 6 【 ス ラ イ ド や デ ジタル 教 科 書 を 使 用 す る 授
業がよく分かる】の「当てはまる」と「どちらかといえば当てはまる」の回答の合計(以
下同)が97.9%であったこと、また、質問3【理科の授業内容がよく分かる】が90.
8%であったことから、ICTを活用した授業が授業内容の理解に大変効果的であること
が 明 ら か と な っ た 。 課 題 と して は 、 大 型 の ディ ス プ レイ モ ニ タ を 使 用 して い る が 、 一 画 面
に表示する情報量の精査を行い、教室後方の生徒にも見やすい文字の大きさを考えた授
業づく りや黒板 と の併用 に 工 夫 が 必 要 で あ る 。
あ あ あ 効 率 的 な 授 業 に よ り グル ープ に よ る 話 し 合 い や W B 作 成 、 さ ら に 全 体 に 向 け ての 発 表 な
ど 生 徒 主 体 の 十 分 な 活 動 時 間 を 確 保 す る こ と が で き た 。 そ の 成 果 に つ いて は ア ンケ ー ト
の 質 問 1 8 【 グル ープ に よ る 話 し 合 い は 好 き だ 】 が 8 4 . 8 % 、 質 問 1 9 【 ホ ワイ ト ボー
ド を 使 って 行 う 発 表 は 分 か り や す い 】 が 9 1 . 3 % 、 質 問 2 0 【 ホ ワイ ト ボー ド に よ る 発
表 の 後 、 授 業 の ま と め を 考 える こ と は 好 き だ 】 が 7 4 . 8 % と い う 結 果 に 表 れて い る 。 し
か し な が ら 、 質 問 9 【 自 分 の 考 えを 周 り の 人 に 説 明 し た り 、 発 表 し た り して い る 】 に お
いて は 4 5 . 7 % で あ っ た 。 こ の こ と か ら 、 生 徒 個 人 で 「 考 える ・ ま と め る ・ 伝 える 」 言
- 71 -
語 活 動 に 苦 手 意 識 が あ る が 、 グル ープ や 全 体 で 協 力 して 行 う 言 語 活 動 に は 積 極 的 に 生 徒
た ち は 取 り 組 む こ と が 分 か っ た 。 ま た 、 W B を 使 って ク ラス 全 体 に グル ープ の 考 えを 伝 え
る場面では、WBの内容をそのまま読み上げる場面がしばしば見られた。そのため、生徒
一 人 ひ と り の 発 表 に つ いて さ ら に 研 究 を 続 け、「 伝 える 」 活 動 を 通 して 思 考 力 ・ 判 断 力 ・
表現力 をさらに 育 成して い き た い 。
あ あ あ 授 業 の 終 盤 に 問 題 演 習 時 間 を 確 保 し た こ と や、 課 題 の 取 り 組 み 方 を 机 間 指 導 して 助 言
を 行 っ た こ と で、 生 徒 の 理 科 学 習 習 慣 の 確 立 に 大 き く 役 立 っ た 。 こ の こ と は 、 課 題 ・ 宿
題 を 毎 回 の 授 業 で ほ ぼ 全 員 提 出 で き た こ と か ら もう か が える 。 ま た 、 定 期 テス ト の 結 果
から、生徒一人一人の基礎的・基本的な知識・技能の定着にも一定の効果があったと考
えられる。
あああICTを活用した授業により、生徒の理科学習に対する意欲の向上、基礎的・基本的な
知 識 技 能 の 定 着 に 一 定 の 成 果 を 得 た と 考 えら れ る 。 ま た 、 み や ざ き 学 力 調 査 B 問 題 の 結 果
からみても、生徒の思考力・判断力・表現力の育成につながったと考えられる。さらに、
本 研 究 を 通 し 、 一 人 ひ と り の 生 徒 に 対 応 可 能 な ユ ニ バ ー サル デ ザイ ン 教 育 [ * 8 ] の 可 能 性 が
あるの ではない か と考えら れ る 。
あ あ あ I C T を 活 用 し た 授 業 づ く り の さ ら な る 簡 略 化 ・ シス テム 化 の た め に 、 i O S 版 ス ラ イ ド
デー タの改 良 や「理 科 ノート 」( 新 学社 )の 改訂 版の 提案 など を活 用し たい 。
【参考 ・引 用文 献】
[ *1] 中学 校学 習指 導要 領 解 説 理 科 編 ( 文 部 科 学 省 、 2 0 0 8 )
[ *2] 文部 科学 省­ 中央 教 育 審 議 会 ( 平 成2 0 年 1 月 1 7 日 答 申 )
h t t p : / / w w w. m e x t . g o . j p / b _ m e n u / s h i n g i / c h u k y o / c h u k y o 0 / t o u s h i n / _ _ i c s F i l e s /
af ield fil e /200 9 /05/1 2 /121682 8 _ 1 .p d f
[ *3] 平成 26 年度 宮崎 市 立 大 塚 中 学 校 区 研 究 紀 要
[ *4] 理科 ノー ト 授業 で使 える デ ジタル 指 導 書 ( 新 学 社 )
[ *5] 未来 へひ ろが るサイエ ン ス 指 導 用 デ ジタル 教 科 書 理 科 ( 新 興 出 版 社 ­啓 林 館 )
[ *6] よく わか るワ ーク 教 科 書 の 確 認 中 学 2 年 理 科 啓 林 館 版 ( 吉 野 教 育 図 書 )
[ *7] 平成 24 年度 全国 学 力 調 査 理 科 生 徒 質 問 用 紙 ( 国 立 教 育 政 策 研 究 所 )
http: //www. ni er. g o .j p /12c ho u s a/ 1 2 sh it u m ons hi _ch uu _s e ito .pd f
[ *8] 特別 支援 教育 とユ ニ バ ー サル デ ザイ ン ( 独 立 行 政 法 人 国 立 特 別 支 援 教 育 総 合 研 究 所 )
http: //www. ni se .g o. j p /p o r t a l /u niv er s al/
- 72 -
平成26年度宮崎市教職員教育研究論文入賞者一覧
1 [小学校の部]
○ 一席・・有田 雅代 教諭(東大宮小学校)
小学校における意見文指導の実践的検討
○ 二席・・横山
登 教諭(檍小学校)
実感を伴った理解を図る理科学習の在り方
~第4学年理科学習(地球領域)の「夜空を見上げて」における
宮崎科学技術館との博学連携の取組を通して~
○ 三席・・長曽我部 博
教諭(小戸小学校)
キャリア発達を促す「子どもの手による運動会」の有効性
○ 佳作・・池田亜衣子
教諭(恒久小学校)
自律的に読み深め、読む力を活用する国語科授業の在り方
~文学的文章教材「やまなし」の授業実践を通して~
○ 佳作・・楢畑 秀明 教諭(生目台東小学校)
活用する力の育成を重視した国語科学習指導の工夫
~第2学年「説明的文章」の読解指導を通して~
○ 佳作・・猪股 千穂
教諭(広瀬北小学校)
生活科を核としたキャリア教育の実践
~キャリア教育の視点からの教育活動の見直しを通して~
2 [中学校の部]
○ 二席・・三橋 正洋 教諭(宮崎東中学校)
学校・家庭・地域が一体となったキャリア教育の指導の在り方
~職場見学を取り入れた学級活動の実践を通して~
○ 三席・・黒木 淳平 教諭(大塚中学校)
ICTを活用した授業効率化の研究
~デジタル指導書・デジタル教科書の活用を通して~
○ 佳作・・日置 洋平
教諭(宮崎西中学校)
学級における傍観者に焦点化したいじめ防止授業プログラムの効果
~スクールカウンセラーと連携したプログラム開発を通して~
○ 佳作・・齊藤 隆志
教諭(赤江東中学校)
主体的に避難する力を育む防災教育
~避難の三原則を様々な学習形態から学ぶ学習を通して~
○ 佳作・・堀 美津子
教諭(佐土原中学校)
絆を大切にする学級経営をするために
~自己肯定感を育てる活動を通して~
審査委員
宮崎大学教育文化学部
宮崎大学大学院教育学研究科
教
授
河
原
国
男
教
授
兒
玉
教
授
日
髙
正
博
准教授
アダチ
徹
子
准教授
押
田
貴
久
准教授
木
根
主
税
准教授
助
川
晃
洋
准教授
中
村
佳
文
准教授
楢
原
義
顕
准教授
野
添
修
生
(五十音順)