業務効率化は永遠の課題か

全 法 連 WEB 情 報
業務効率化は永遠の課題か
ジャーナリスト 海部隆太郎
変わる中国市場と新たな課題
日本企業の海外展開を目で確かめ、肌で感じてく
る取材活動を重視している。ここ数年は、日系企業
との関わりが多い中国への取材がほとんど。頻度は
半年に 1 回程度だが、それぐらいの時間軸で定点観
測的に多様な動きをみてくると、頻繁に行くよりも
意外な変化に気が付くものだ。
中国北部の北京と南の上海では考え方が違う。
「本
音と建前」は地域に関係なく使い分けるが、
「名実」
という面では北はメンツで、南は合理主義。北は政
治、南は経済という感じだ。これまで進出してきた
日系企業も、地域差を考慮しながら生産拠点を配置
し、大きな成果を上げてきている。しかし、南北に
関係なく、最近の賃金高騰は日系企業が共通して抱
く悩みとなっている。
安い労働力を求めた中国への生産進出は、そろそ
ろ終焉を迎えるだろう。中国も少子高齢化が始まる。
一人っ子政策で高学歴者が増え、さらに、所得増に
よる豊かさが労働集約的な生産現場での仕事を嫌い
始めている。進出企業は高い賃金を支払うことにな
るが、それならば、付加価値の高い製品を輸出では
なく中国国内で売っていく、というビジネススタイ
ルへと変化してきている。
いわゆる世界の工場から世界の市場へと中国は大
きく姿を変えつつある、というのが取材で得た感触。
こうなると日本で設計開発したものを中国に移管す
るやり方も変わる。中国市場で売る製品は、ローカ
ルスタッフで設計開発する方がベター。工場での人
海戦術による手作業も減らし、日本並みのロボット
導入が検討されている。さらに高コストの日本人は
極力減らす。
日系企業の中国人による中国向け製品開発・製造
が最終形とも思えるが、そこに効率化を求める日本
式が存在し続けられるかが疑問。幅広い分野を担え
る日本式と一定の分野だけの中国式。結局、人を多
46 法人会だより
No.74
く配置しなければならなくなる。
とはいえ、日本人が効率よい働きをするとは必ず
しも言えないのだが。
業務遂行を妨げるメール文化
海外の取材先に同行する日本の企業幹部を見てい
て驚かされた。彼らは朝食時、移動中、ホテルのロ
ビーでも、一日中スマホの画面から目を離さない。
ある大手 IT 企業の部長は、1 日に 200 件以上もメー
ルが来るので、飛行機での移動など通信できない時
間が増えると、メールが蓄積されてしまうという。
常時、未処理メールは 600 件を下回らず、通信が可
能な場所ならばスマホで、ホテルの部屋では睡眠時
間を削ってパソコンでメール処理に追われる。
一昔前に環境資源を考慮し、無駄を省くために行
われたペーパーレス化。ところが今やすべてがメー
ルになって届く。会議資料、打ち合わせ議事録、事
務連絡など。しかも、課長宛てのメールにも部長に
CC がついてくる。何万人も社員のいる大企業の部
長クラスは、どこもこんな感じだという。日本での
通常業務でも、暇があればメールチェック。処理で
きずに、土日は家で一日中メールチェックという人
も少なくないようだ。
これが効率化を求めてきた日本の業務遂行の一
端。ペーパーレスの次はメールレスの世界を作らな
ければいけない。それが実現しても次の課題が出て
くる。効率化を目指す取り組みは際限のない取り組
みに思える。
【筆者紹介】
海部隆太郎(かいべ・りゅうたろう)
法政大学卒。日本工業新聞社、IT 企業の広報部長を
経て 2009 年からジャーナリストとして執筆活動を始
める。企業が取り組むメンタル対策などを精力的に取
材する。著書に「中小企業の IT 革命」など。
全 法 連 WEB 情 報
メンタル不調、小さな変化を見逃さないで
産業カウンセラー 柏木 勇一
不調者はアラームを出している
メーカーの業務企画部門に異動して 1 年。20 代
のTさんが、しきりにトイレに行く姿をみて、課長
はいぶかしげに感じた。そういえば仕事中にウトウ
トすることも多い。ゆうべ飲み過ぎたのかな、ぐら
いに判断しつつ、トイレの回数はやっぱりおかしい
と思った。
話を聞いたら、
「みんなに迷惑をかけたくないの
で、トイレでちょっと眠っています。夜はちゃんと
寝ているのですが」と語った。産業医を通して受診
した専門医の診断は「睡眠不足」
。Tさん自身びっ
くりした診断だった。身体は眠っていても、
脳は眠っ
ていない状態で、日中に睡魔に襲われる現象だった。
医師の指導で、就寝と起床時間を一定にして改善さ
れたが、根っこにあったのは「新しい仕事について
いけないストレス」だった。トイレ通いという形で、
睡眠不足のアラームが発せられたケースといえる。
この変化に気づいて、声をかけた課長の適切な判
断と行動で、Tさんは救われた。声かけがなかった
ら、Tさんは深刻なメンタルヘルス不調になったか
もしれない。
多くの精神科医が、職場のメンタル不調者早期発
見のヒントとして、欠勤、遅刻、ミス、能率ダウン、
笑わなくなった、などの変化を見逃さないように、
と指摘している。これまで何度も叫ばれ続けてきた
が、現実にはこの表のような小さな兆候に気づくこ
とが重要。ここまで細かく提示している書籍もない。
「見つけようと
そして上司にとって大事なことは、
いう努力をしているかどうか」にかかっていること
をぜひ知ってほしい。
そのために上司に求められるのは、
①部下のいつもの様子を知らなければ変化は分か
りようがない
②意図的、定期的に部下と接する努力を惜しまな
い、の 2 点。
部下からは SOS が出ないことが多いので、余計、
上司の観察がカギを握っている。ふだん、この面に
も心がけている上司には、部下も信頼してくれ、業
務推進も絶対にうまくいくはず。メンタルヘルスマ
ネジメントのスキルは、業務全体のマネジメントに
もつながる。部下指導のコツは身近なところにある
ことを押さえてほしい。
何かが少しおかしい、
サインは必ず見つかる
出退勤
休日明けの休み。出勤時間直前の電
話連絡。退社時間の遅延。
身だしなみ
ひげをそらない。寝癖を直さない。
(女性なら)化粧をあまりしない。
ミ ス
単純なミスを繰り返す。
行 動
机の上が片づいていない。書類の散
乱。物品の紛失。声が小さくなる・
大きくなる。口調が強くなる・弱く
なる。電話応対が感情的になる。
【筆者紹介】
トイレに行く回数が多い。日中にウ
体 調
トウトする。昼食後にこっそり市販
(身体面) 薬を飲んでいる。昼食をとらなく
なった。
柏木 勇一(かしわぎ・ゆういち)
1941 年 生 ま れ。 大 学 卒 業 後、
新聞社勤務を経て、現在EAP
企業でカウンセラーとして活動。
厚生労働省認定産業カウンセ
ラー、日本産業カウンセラー協
会認定キャリア・コンサルタン
ト、家族相談士、交流分析士。
法人会だより 47
No.74
全 法 連 WEB 情 報
都道府県別に見た死亡率の差
医療ジャーナリスト 大谷 克弥
長野は日本一の長命県
青森は断トツの短命県
「○○県人は長生きする」といった健康話は興味
深く語られますが、このほど厚労省は都道府県別の
死亡率を発表し、話題になっています。これまでは
国勢調査の行われる 5 年に 1 回、平均寿命で順位を
付けていましたが、
今回は
「2010 年・年齢調整死亡率」
の名目で、各都道府県の人口構成を軸に統計を取り
ました。地域の実態に合ったデータと言えます。
この結果は悪い順番に公表されましたが、一番短
命なのは男性が青森〈人口 10 万人当たりの死亡率
は 662.4〉で、女性もまた青森〈同 304.3〉がトップ
でした。慣れないと分かりにくいかも知れませんが、
数値が高いほど死亡する確率は高く、平均して男性
より長生きする女性の数値は低くなります。
では最後の 47 番目の県、言葉を換えると最も長
命な県はどこかというと、男性が長野〈同 477.3〉
、
女性もまた長野〈248.8〉でした。前回の平均寿命
では、長野は男性こそ第 1 位だったものの、女性は
5 位でしたが、今回は男女そろって長命のトップで
す。通常は男女の順位がばらつくのに、最短命県も
最長命県も一つの県に絞られるという珍しい結果に
なりました。
参考までに、数値は省き、1 位を除くワーストス
リー、ベストスリーを記しますと、男性の 2 位は秋
田、3 位は岩手、女性の 2 位は栃木、3 位は和歌山
です。逆に男性の 46 位は滋賀、45 位は福井、女性
の 46 位は新潟、45 位は島根です。
ひと頃は沖縄が日本一の長命県と言われ、特に女
性の平均寿命は不動の 1 位を占めていましたが、今
回は男性が 21 位、女性は 34 位です。食生活で昔か
らの伝統食が少なくなり、車社会になって歩く習慣
が薄らいできたからでしょうか。
長生きの三本柱は、
食生活と運動、それに脱ストレス
このほか主要な地域の順位を紹介すると、東京の
男性は 31 位、女性は 25 位、北海道の男性は 15 位、
女性は 14 位、大阪の男性は 5 位、女性は 4 位、神
奈川の男性は 42 位、女性は 36 位、千葉の男性は
38 位、女性は 15 位、宮城の男性は 26 位、女性は
48 法人会だより
No.74
33 位、愛知の男性は 28 位、女性は 19 位、福岡の
男性は 17 位、女性は 27 位です。繰り返しますが、
順位は少ないほど短命で、多いほど長命になります。
男女共に最も長生きする人の多い県と認定された
長野は、 海なし県 ですので、昔から蛋白源の補
給に苦労し、川魚やイナゴ、蜂の子などでカバーし
てきました。県民がよく食べるソバの効用を説く研
究者もいますが、 教育県 の別名がある通り、健
康問題に関しても県民のひたむきな学習と努力があ
ることは確かでしょう。
一方の青森県についても諸説はありますが、やは
り寒冷地の保存食として習慣的に塩分の高い食生活
を続けてきた影響が今も残っているという見方が強
いようです。男性では秋田、岩手も似たような状況
にあることから、このほか冬場は運動をする機会が
減ることも関与しているのでは、と見られています。
予防医学的な見地に立つと、長寿の二本柱は食生
活と運動、と言われます。三本柱にすると、これに
脱ストレス、つまりクヨクヨしない、が入るようで
す。今回の県別死亡率の順位を参考に、自身に合っ
た健康法の実践を願っています。
【筆者紹介】
大谷 克弥(おおたに・かつや)
医療ジャーナリスト。東北福祉
大学講師。日本医学ジャーナリス
ト協会会員。読売新聞社出身で、
在職中に長期連載「医療ルネサン
ス」を創設。現在はフリーで、著
作、講演活動などに従事。
ちなみに、岐阜県の男性は第 39 位、女性は第
22 位です。
[参考資料]
「年齢調整死亡率」の順位〈短命な順番〉
〈男〉①青森 ②秋田 ③岩手 ④和歌山 ⑤大阪 ⑥福島 ⑦
高知 ⑧山口 ⑨栃木 ⑩長崎 ⑪鳥取 ⑫愛媛 ⑬茨城 ⑭鹿
児島 ⑮北海道 ⑯佐賀 ⑰福岡 ⑱徳島 ⑲山梨 ⑳群馬
沖縄 新潟 兵庫 埼玉 島根 宮城 宮崎 愛
知 富山 三重 東京 石川 岡山 香川 山形
〈次頁へ続く〉
全 法 連 WEB 情 報
広島 静岡 千葉 岐阜 大分 奈良 神奈川
京都 熊本 福井 滋賀 長野
〈女〉①青森 ②栃木 ③和歌山 ④大阪 ⑤茨城 ⑥岩手 ⑦
埼玉 ⑧群馬 ⑨山口 ⑩秋田 ⑪福島 ⑫兵庫 ⑬鹿児島 ⑭
北海道 ⑮千葉 ⑯鳥取 ⑰静岡 ⑱徳島 ⑲愛知 ⑳三重
長崎 岐阜 高知 香川 東京 愛媛 福岡 宮
崎 山形 佐賀 奈良 山梨 宮城 沖縄 京都
神奈川 石川 滋賀 富山 広島 岡山 熊本
大分 福井 島根 新潟 長野
暮らしのツボ
竜巻報道から見えてきた防災用品
㈱エフシージー総合研究所商品研究室室長 堀 洋一郎
5 月 6 日、
つくば市郊外を襲った竜巻は死者 1 名、
負傷者 37 名、被害家屋 1030 棟の大きな被害(6
月 6 日現在)をもたらしました。竜巻が通過した
周辺の家屋はほとんどの窓ガラスが割れ、屋根を
吹き飛ばされた家や崩れた倉庫など、すさまじい
風が吹き荒れたようです。この日の竜巻は日本の
自然災害は地震だけでないことを、改めて思い起
こさせてくれました。
テレビが映し出す映像からは、部屋の中が割れ
たガラスの破片が床一面に飛び散り、飛んできた
瓦礫が散乱していて、当面の居場所もない状態が
見て取れました。
ガラス飛散防止フィルム
この一連の報道から、竜巻に対する備えとして、
揃えておきたい商品も見えてきました。
まず、最も役に立ちそうなのが「ガラス飛散防
止フィルム」です。
ガラス飛散防止フィルムは、透明の粘着性フィ
ルムで、たとえガラスが割れてもひび割れた状態
のままで保つことができ、大きな破片が飛び散り
ません。
今回のような強力な竜巻では、ガラス飛散防止フィ
ルムを貼っても、窓ガラスが割れることは避けられ
ないでしょうが、破片が部屋中に飛び散ることをか
なり抑えられるので、被災後の居場所の確保に役立
つと思われます。また、飛散防止効果のあるフィル
ムの中には、太陽からの熱を遮断したり、反射した
りすることで、省エネ効果が期待できるものや、曇
りガラスのような目隠し効果のある商品など、防災
以外の機能を持った商品もあり、上手に選べば普段
の生活の中でも役に立ってくれます。ただし、ガラ
スほどきれいな平面ではないので、見る角度によっ
ては、若干凹凸が気になります。また、きれいに貼
るのが結構難しいので、日曜大工に自信のない人は、
専門業者に貼り付けを頼んだ方がよいでしょう。
ほうき、コロコロ
また、竜巻は電線を切断してしまうので、必ず
停電が起きます。普段、掃除を電気掃除機に頼っ
ている家庭では、停電してしまうと掃除がまった
くできなくなります。竜巻が去った後に、ガラス
の破片やゴミを取り除くことができず、やはり居
場所の確保に支障をきたします。
こんな時役に立つのは昔からの「ほうき」です。
ただ、ほうきだけでは細かいガラス片などは掃除
し切れないので、合わせて準備しておきたいのが、
「コロコロ」といわれる粘着シートを巻いた掃除用
具です。ほうきで掃き残したごく小さなガラス片
も、「コロコロ」の粘着シートなら取り除くことが
できます。家全体を清掃するには電気が通るのを
待つ必要がありますが、とりあえずの居場所の確
保には、この 2 つのアイテムが役に立つでしょう。
ただし、床がぬれている場合には掃き残しが増え
たり、粘着剤が効かなくなるので、乾いた場所に
限るか、ある程度、乾いてからから掃除する必要
があります。
家の中に飛び散ったガラス片で居場所がなくな
る事態は、竜巻だけでなく台風や地震などの自然
災害でも起こるので、「ガラス飛散防止フィルム」
「ほうき」「コロコロ」は準備しておいて損はない
商品といえるでしょう。
【筆者紹介】
堀 洋一郎(ほり・よういちろう)
昭和 55 年中央大学理工学部物理学科卒。ソニーマ
グネスケール株式会社を経て、平成 2 年株式会社エフ
シージー総合研究所入社。現在同社商品研究室室長。
法人会だより 49
No.74
全 法 連 WEB 情 報
なぜ「日射病」という病名は消えたのか?
医療ジャーナリスト 大谷 克弥
夏が近づくとよく、
「日射病という病名はなくなっ
たの?」という質問を受けます。確かに新聞や雑誌
を広げても、熱中症という言葉は頻繁に見かけます
が、日射病という文字に出合うことはまずありませ
ん。
年配の方にとって懐かしく記憶にあるのは、真夏
に遊びに出ようとすると、母親から麦わら帽を渡さ
れ、
「日射病には気を付けるのよ」と強く注意された
ことではないでしょうか。日射病と同時に、麦わら
帽子もすっかり見かけなくなりました。
昔の日射病は、まさに日が射す病、つまり強い直
射日光による身体症状のことでした。しかし、エア
コンの普及で窓の開閉をしなくなった現代では、室
内でも似たような身体の異常が起きるようになりま
した。
詳しい経緯は不明ですが、そこで、登場したのが
熱中症です。熱中とは熱に中 ( あた ) る、こと。食に
中る食中毒と同じ意味です。高温や多湿が原因で起
きる脱水など身体症状の総称として、広く使われる
ようになりました。
その熱中症は、職業病として使用されていた時期
もありました。主に、日本のエネルギー源が石炭だっ
た頃の炭鉱労働者が対象でした。高温との闘いが、
当時の大問題でした。
このように熱中症の定義はかなり不明確ではあり
ますが、日本神経救急学会は、熱中症を四つのラン
クに分けて注意を呼びかけました。
まず脱水症状などで脳が一時的に虚血状態になる
「熱失神」
、筋肉にけいれんや硬直を起こす「熱けい
れん」
、発汗、頭痛、吐き気などが強くなる「熱疲労」
、
そして激しい意識障害を起こし、危険な「熱射病」
です。
直射日光より怖い脱水症状
さて本題の「日射病はなくなったのか」について
は、いろいろと見解の差はあるようですが、直射日
光を長時間浴びても起きることが多いとされている
「熱失神」に入っていると見ていいでしょう。明確な
規定がないのは、直射日光そのものよりも、室内で
も起きる脱水症状の害が指摘され、その対処と治療
50 法人会だより
No.74
に重点が置かれるようになったからです。
このうち、熱射病は意識がもうろうとなり、体温
も 40 度以上になって、緊急入院して冷却療法を受け
ないと助からない重篤な症状です。また、熱疲労は
その前兆と見なされていますが、こうした分類は十
分な理解を得られませんでした。そこで同学会は混
乱を避けるため改定に踏み切り、新しい基準を設け
ました。
新基準では症状の度合いにより、Ⅰ度〈軽症〉
、Ⅱ
度〈中等症〉
、Ⅲ度〈重症〉の三つに分けられました。
Ⅰ度には熱失神と熱けいれんが、Ⅱ度には熱疲労が
入り、Ⅲ度が熱射病です。これで日射病という医学
的な言葉は姿を消したことになります。
水分、そして塩分の補給を
猛暑に襲われた 2010 年は、救急搬送された人が約
5 万 4 千人、死者は 1700 人余に上りました。犠牲者
で目立つのは、高齢者と乳幼児です。その多くは炎
天下ではなく、室内での脱水症状から血液の循環が
悪化し、命を落としています。体温の調節ができな
くなったのです。
もう一つの注意点は、熱中症は必ずしも真夏にだ
け発生するのではなく、春や秋にも起きていること
です。認識を変える必要があります。
予防法としては、こまめに水を飲み、大量に汗を
かいた場合は必ず塩分を補給すること。そして急に
言動がおかしくなった人がいれば、Ⅲ度の最重症者
と判断し、一分でも早く救急車を呼びましょう。
【筆者紹介】
大谷 克弥(おおたに・かつや)
医療ジャーナリスト。東北福祉
大学講師。日本医学ジャーナリス
ト協会会員。読売新聞社出身で、
在職中に長期連載「医療ルネサン
ス」を創設。現在はフリーで、著作、
講演活動などに従事。