注射用タンパク質水溶液からの内毒素選択除去のための ポリカチオン固定化高分子粒子の設計と応用 ○坂田 眞砂代,佐々木 満,國武 雅司(熊本大学工学部) 戸所 正美,中山 実(チッソ) 1.はじめに エンドトキシン(リポポリサッカライド: LPS)は自然界に普遍的に存在する発熱有害 物質である。ワクチンや血液製剤などの注射 用タンパク質水溶液から LPS を除去するため 医薬タンパク質(100 μg/ml 100 mg/ml)水溶液中 のエンドトキシン濃度を10 pg/ml 以下に (処理条件:pH 5 9, イオン強度 (μ):0.05 0.8) 抗原 エンドトキシン を吸着する に種々の吸着剤が開発されており、その吸着 すでに橋かけポリ(ε-リジン)球状粒子を開発 し、LPS 吸着剤への応用を試みたが、生体環 境下 (イオン強度μ = 0.17, pH 7.0)で,同粒 子の LPS 吸着能が低下するなどの問題があっ た[2]。 (排斥効果) + の駆動力として静電的相互作用、疎水性効果 などの関与が明らかにされてきた[1]。我々は、 + + タンパク質を 吸着しない + + ポリカチオン固定化 エンドトキシン 集合体 + 高分子吸着剤 + + カチオン基 + + 疎水部 タンパク質 図1. 高分子微粒子を用いたタンパク質水溶液から のエンドトキシン(LPS)の選択吸着 本報告では、セルロース粒子にアミノ基を 有する種々の官能基を化学修飾したアミノ化 セルロース粒子を調製し、得られた粒子の LPS 選択吸着能に及ぼす緩衝液のイオン強度 Diaminoalkanes OH O-CH2-CH-CH2 +NH (CH ) +NH 2 2 n 3 および pH の影響について,バッチ法、及び カラム法で評価した。 Poly(ε-lysine) 2.実験 OH アミノ化セルロース粒子は、細孔径の異な る種々のセルファイン粒子(粒径:46-106 μm,細孔径:Mlim 2x103 1x106,チッソ)を エポキシ活性化したものに、ジアミノヘキサ ン (DAH), ポリ(ε-リジン)(PL),ポリエチ レンイミン(PEI)等のアミノ基を有する官 能基(図2)を化学修飾することにより調製 された。LPS 吸着実験はバッチ法及びカラム 法により行った。吸着処理後の試料中の LPS 濃度はリムルステスト法、タンパク質濃度は UV 法により定量した。 O-CH2-CH-CH2 C=O +NH -CH 2 (CH2)4 NH C=O + NH -CH 3 (CH2)4 NH poly(ethyleneimine) (PEI) + CH2-CH2-NH2-CH2-CH2 HN-CH2-CH2 [ NH-CH2-CH2 ] [ NH2-CH2-CH2 + m + 図2. LPS吸着のための官能基 ] n NH- 3.結果と考察 LPS( 大腸菌 O111:B4)の混合溶液からの LPS の選択吸着を試みた。緩衝液のイオン強度 がμ = 0.05 から 0.2 に上昇すると DAH 固定 化セルロース粒子の LPS 吸着能は著しく低 下した。また、PEI 固定化セルロース粒子は、 0.25 BSA 0.20 0.15 0.5 0.10 LPS 0.05 0.1 0 50 図3. カラム法によるアルブミン溶液からの LPS 選択除去 オン強度域(μ = 0.05 1.0)で、LPS ばかり ルロース粒子は、最も LPS 吸着活性が高か ったが、幅広いイオン強度域(μ = 0.05 0 150 Effluent (mL) 最も LPS 吸着活性が高かったが、幅広いイ でなく BSA も同時に吸着した。PEI 固定化セ 100 Concentration of LPS (EU/mL) と し て 用 い て 、 牛 血 清 ア ル ブ ミ ン (BSA) と 1.0 Concentration of BSA (mg/mL) 種々のアミノ化セルロース粒子を吸着剤 カラムサイズ:1 1.1 cm (I.D.) (1.1 mL) サンプル:150 mL (BSA: 1mg/mL, LPS: 100 EU/mL) 緩衝液:50 mM-PB, pH 7.0 + 0.15 M-NaCl 流速:0.17 mL/min (10 cm/h) 1.0)で、LPS ばかりでなく BSA も同時に吸着 体環境下(μ = 0.17, pH 7.0)で BSA を吸着す ることなく LPS を選択的に吸着除去 (残存 濃度<0.1 EU/mL (<10 pg/mL)) することがで きた。これは吸着剤の官能基である PL のア ミノ基のカチオン性とアルキル鎖の適度な 疎水性の相乗効果によるものであることが 示唆される。 さらに、図2に示すように、PL 固定化 セルロース粒子充填カラムを用いて、LPS を含むリゾチーム水溶液からのリゾチーム 25 10 [EU/mL]-●- において、PL 固定化セルロース粒子は、生 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 5 ET 結果として、図3 に示すようなカラム法 Abs 280nm-○;NaCl[mol/L]- した。 20 15 0 5 10 15 20 Elution volume [mL] 25 0 30 図4. カラム法によるリゾチームと LPS の クロマト分離 カラムサイズ:0.9 10 cm (I.D.) (6.3 mL) サンプル:1 mL (lysozyme: 14 mg/mL, LPS: 100 EU/mL) 緩衝液:1 mM Tris-Hcl, pH 7.3, Gradient 0-1.0 M-NaCl 流速:0.5 mL/min (47 cm/h) と LPS のクロマト分離を試みたところ、 4.参考文献 イオン強度(μ) 0.05, pH 7.3 の条件下で、リ [1] M.Sakata,T.Sueda,H.Ihara,C.Hirayama, Chem. Pham. Bull., 44, 328 (1996). [2] M. Sakata, M. Todokoro, T. Kai, M. Kunitake, C. Hirayama, Chromatographia, 53, 619 (2001). ゾチームのみが溶出し、その後、1 mol/L の 塩化ナトリウム水溶液を同カラムに流すこ とにより LPS のみを溶出することができた。 以上の結果より、ポリ(ε-リジン)固定化 セルロース粒子充填カラムは、注射用タン パク質水溶液からタンパク質を吸着するこ となく、内毒素である LPS を選択的に吸着 除去できるばかりではなく、LPS 分離精製 用カラムとしても大いに期待できることが わかった。 <謝辞>本研究は新エネルギー・産業技術総合 開発機構 (NEDO)の平成 15 年度産業技術研 究助成により実施された。 [問い合せ先] 坂田 眞砂代 熊本大学工学部物質生命化学科 TEL096-342-3674,[email protected]
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